第66話 不自然な自然の正体は
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以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
「困るなあステラちゃん、いくらなんでも物騒すぎない?」
「私の本気加減がわかっていないのかしら?」
冷静に、かつ冷酷に血脈を狙う。一瞬で彼の命を刈り取れるように。
そしてまた冷静に考える。
やっぱり不自然だと。
「っちょっっと待ってステラちゃん、脅しにしては流石に一点を狙いすぎというか、流石に大動脈はまずいっていうか」
不自然さ、というか、不自然なほどに自然な展開。あまりにもよくできた展開なのだ。
たった今、ようやく焦り出したのを見た、すなわち彼の想定を上回ったのだと考えると、逆に言えばここまでは彼の想定通りなのではないだろうか。
冷静になれ。言葉だけに翻弄されるな。真実は常に裏側にあるのだ。
もう一度、ちゃんと見るんだ。
私は数秒間かけてゆっくりとあたりを見渡した。それからこれまでの行動を見返した。
「ねえ、ステラちゃん、ねえってば、これ流石にやばいって、冗談じゃ済まないって」
「冗談で済ませたいので少し考える時間をくださいませ」
「うんまあいいけど……」
やはり不自然な彼の言動。
表向きの行動は、私を異端児としてどこかに売ろうとするクソ野郎だが、それにしては丁寧なのだ。やけに説明的というか、台本のようだというか。
本当のゲス野郎はこんなことしない。私が魔法を使えることを知っているのだとすれば、とりあえず私を拘束して魔法すら使えない状態に持ち込んでから話を始めるに決まっている。
用意する時間がなかった? いいや、用意は周到なのだ、それはあり得ない。ならば少なくともそうしない理由があるはずだ。
それは一体何か。
カルトラの言葉を一つ一つ思い出す。いや、言葉だけじゃなく仕草も。カルトラは私の行動を見抜いていた。その上で話に乗っていた。それはどうしてかを考える。
ただの暇つぶしだったのか? 楽しそうに話していたからそのようにも見えなくもない。暇つぶしがてら楽しくお話してから、飽きて私を異端児としてどこかに売ろうとするゲス野郎という点で筋は通る。
いいや違う。そう見えたということは、きっとそれは違うのだ。
そう、それこそが、この男の正体。
ならば一体なんのために話を続けていた? 考えられる答えは一つ。私の行動を観察するためだ。この状況下における私の行動を見ていたのだ。試されていたのだ。
観察して、鑑定して、それから彼はこう言った。「見逃すわけにはいかない。上司に報告だ」と。つまり、私を見限った、と。
「うーん、やっぱり殺すしかないんですわよねぇ」
「それは困るというかなんというか……そもそもここで殺すのは流石にまずいんじゃない」
「あっ、それについては問題ありませんわ。私、大動脈から出る血の量くらいでしたら全部氷にして操れますので。まあ問題は死体の遺棄場所ですわね。どこがいいと思いまして?」
「やっぱりステラちゃん何気にやばいよね。主に発想が」
「というわけでもうしばらく黙ってくださいませ」
実はもっとも不思議に思ったのは、「私を見限った」とわざわざ言葉にしたことだ。見限った瞬間に私を捕えればいいじゃないか。むしろ、そのために誰もいないこの場所をわざわざ作ったんじゃないのか?
あの瞬間に私を捕らえなかったことを考えると、カルトラの思惑は別にあるのだ。つまり、見限ったのは本当だとしても、それが全部ではない。少なくともあの発言には、何か別の意味があったということになる。
別の意味とは何なのか。それは私の行動と彼の言動を考えると自ずと導かれる。
「ようやく理解しましたわ」
なるほど、この過程が正しいのだとしたら私は彼の予想通り動いてしまったわけだ。正しくいえば、予想通り動くことができたわけだ。
そりゃ思った通りにステラが動いてくれたんだから、カルトラだって思わずニヤリと笑うに違いない。たった今、ちょっとヤバそうな顔をしているのを見るに、ここまでは想定していなかったのだろうけどね。
「そっか、理解したのならありがたい。それじゃあ首の氷塊を離してくれると助かるんだけど」
「その前に私から一言、あなたに質問していいかしら?」
「それって質問? それとも尋も――「質問ですわ」――尋問だなこりゃ」
私は次にカルトラに尋ねるための言葉を考える。まるで緩くなったかのような雰囲気だが、この言葉はおそらくかなり重要で、だからしっかり練らないといけない。
私の考えを話すか? いや、想像による補完が多い話をしてもボロを出すだけだ。脅迫するか? おっと、そういえばすでにやってるなぁ……
これはそうだしあれはこう――
長考の結果、私が出した答え、というより質問はとてもシンプルなものだった。
「私は合格かしら」
そう、これが欲しかったんだろう? 私は男の目をじっと見て、目で訴えた。
それから少しの沈黙が走った。
少しして、カルトラは何かを納得させたのだろう。
彼は言った。
「うん、合格」
その声は、いつも通りの優しい声だった。
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