第65話 おしゃべり男との情報戦
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以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
「ねえねえ聞いているの、聞いていないならこっちから話すけどいいよね」
カルトラは一人でペラペラと話しはじめた。
私は彼の言葉から情報を得るために、暖炉の熱が邪魔に感じるくらいに頭をフル稼働させた。
「昔ね、君の家にお菓子を届けに行った時あったじゃん? あの時に偶然見ちゃったんだよね、魔法の本。それでさ、ピンと来たわけよ。とんでもなく賢いステラちゃんなら確かに魔法が使えてもおかしくないなーと」
いや、これは嘘だ。
私はあの本を目視できない場所に隠していた。つまり、見たというより探したんだ。探すのであればそれに至る理由があるはずだが、それはわからない。
「いやまあ流石にびっくりしたよ、まさか高等魔術の本なんて。あれ買ったの? 高かったでしょう?」
あの本を見て高等魔術だとわかるということは、そのあたりの知識は持っているということだ。要するに、適当な誤魔化しは効かない。
「えー無視かい? いつもは楽しくおしゃべりするのに」
黙ってないで話せ、ということか。仕方がないので、素性がバレない範囲で最低限の応答だけすることにした。
「いいえ。買っていませんわ」
「うん、コミュニケーションは大事」
カルトラは嫌な顔で笑った。
――――――――
「――てなわけで、夜な夜な部屋を眺めていたりしたら、気づいたわけだ。たまにカーテンが濡れたり切れたり燃えたりしていると」
「え本当?」
「そこは食いつくんだ。僕の犯罪チックな話は無視するのに?」
ちょっと待て、何、えっ、本当に? カーテン燃えてる? え、本当に?
いや、確かにカーペットを燃やしたことはあったけど。
「あと、それでいうと随分前にカーペットも燃やしてたよね」
……あったけど!
さすがの私も慌てふためく。思わず落としたコップを拾い上げ、オレンジジュースを継ぎ足しして一気飲みする。
「だいじょぶそ?」
「ええ、まったくですわ」
「うーんと、どっちだ?」
カルトラの精神攻撃に耐えるべく、今の情報を一度整理することにした。
カーテン、カーペットを燃やしたことがバレている、すなわち、そのような魔法を使ったことは知られている。ただ、これは問題ではないだろう。なぜなら、この魔法は簡単で、初級魔法程度ならこ本を真似するだけで十分再現が可能だからである。すなわち、私を原石と断言する材料にはならない。
私はカルトラの言葉に嫌味でも返そうかと思ったが、先ほどと同様に沈黙する方がいいと判断し、黙って話を続けさせることにした。
――――――――
「――と、そうは言ってもだ。所詮六級相当の魔法を使えたところで、僕もとやかくいうつもりはない。しかし、ある日を境に僕は君を無視できなくなった」
黙っていると、カルトラがさらに色々と話してくれた。ありがたい限りである。
「ある日、街にドラゴンが現れた。僕は急いでドラゴンを追っていたわけなんだけど」
「……」
「おお、その質問はいいね」
「なにもいっておりませんわよ」
思わず突っ込んでしまった。ちょっと悔しい。
「ドラゴンを追って、さて僕は何ができるのでしょうか。答えは簡単、なーんにもできない。成熟したドラゴンは勇者級、魔法で言えば零級魔法でも鎮圧できるか怪しいだろうね。ただの一執事の僕にはなんにもできない。要はただの野次馬さ」
「ただの一執事?」
「もちろん、ただの執事だ」
ただの執事はドラゴンを追わないのだが、それについて議論をしていては埒が開かない。ひとまず、これについて話すのは控えておきまして。
「それじゃ、野次馬だった僕の話でも聞いてくれ」
カルトラはそう言い、続いて、了解もなくペラペラと話し始めた。私としては都合が良かったので、これも黙って聞くことにした。
「――それで、その時に不自然な霧ができたのさ。その時僕は確信したね。これはステラちゃんに違いない、と」
「……」
その後の話の中で理解できた点は二つ。
まず、私が魔法を使えることはもうバレてはいるが、完璧にバレたわけではない。むしろこの男はいくつか勘違いをしている。
次に、彼は盗聴魔術は使えない。広場にいたのは確かだけれど、きっと遠くにいて、アルカの声が聞こえていなかったからこそ、勘違いをしているのだ。
それと、ドラゴンに殴ったり、しまいには乗ったりしたことがバレていないのは不幸中の幸いだ。
まあ、それはともかくとして。
とりあえず、依然として問題なのが一つ。
こいつは一体何者だ?
どうも口が達者らしく、たくさん話しているのに、その中にほとんど情報がない。まるで、私が言葉から色々推測しているのを知っているかのようで。
「それで結局ドラ――ま、この辺でいっか。話す話題も尽きたし」
すると突然、カルトラは急に話を中断し、私に一歩近づいてきた。そして、次の言葉を聞いて私は戦慄した。
「ステラちゃん、黙って人の言葉を聞くのは偉いと思うよ。自分は話さず、されど相手に話させる、まあ、悪くはない」
「!?」
「言葉は情報だ、ならば話させるのがいい。ただし言葉が情報である以上、自分が話すのはリスクだ。ならば黙りつつ話させるのが一番いい。そうだね、リスクマネジメントもちゃんとできている。その点は賞賛に値するよ」
やはり私の思惑はバレていたのだ。その上でこいつは話していたってことは、今までの会話はすべて思惑の上……?
油断していた。驕っていた。
ここはそもそも相手のフィールドだったのだ。立地から何から何まで。
カルトラは続けた。私に審判を下すかのように。
「でも、この程度なら、やはり見逃すわけにはいかない」
「それってどういうことかしら?」
「魔法が使える異端児がいたことを上司に報告するよ。この社会のバグには正しい対処をしなくてはいけないからね」
「……そう」
その言葉を聞いて。いや、聞かされて。
私は静かに席を立った。口元で魔法を唱えつつ。
結局のところ、わからなかった。この男が本当は何を考えているのか。この男は何に所属している、どういう存在なのか。
しかし、今の自分の立ち位置、彼の思惑の一端はわかった。ならば私がすべきことは一つ。幸い舞台はできていることだ、するなら今だろう。
うん、ヤルなら、今。
「どうしたんだい急に立っ――」
「『氷柱の連流』。さて、今後のお話、でしたわよね?」
この男は、生かしておいたらやばい。
私はいくつもの鋭い氷柱を浮かせて、四方八方から男の首筋に押し当てた。
命を握られた男は、されど勝ち取ったかのようにヘラヘラと笑った。
「困るなあステラちゃん、いくらなんでも物騒すぎない?」
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