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母と娘



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~優香視点~


土曜日の夜。優香はリビングのソファーに座って母親の帰りを待ち続けた。

待つ理由はもちろん例の件である。雄治が楊花に話していた、母がホテルの中から出て来たという話。

場合によっては、父と母との間で最悪な結末も考えられる為、杏奈の帰りを待つ優香の心情には辛いものがあった。



「…………」



もう直ぐ0時を過ぎようかという時刻。

遅い時間まで頑張って働いてくれている母親に、こんな話をするのは如何なものかと優香は悩んだが、明日は仕事が休みなので話すべきタイミングだと考えた。

また、こんな遅くにしたのは弟に話を聞かれたく無いからだ。



「ちょうど父さんも出張だし……気まずいけど、母さんと二人っきりで話すには今しかないかねぇ?……はぁ~聞きづら」



0時を過ぎ、そこから待つ事更に30分……とうとう母親が帰って来た。杏奈は足音を立てないよう静かに歩きながらリビングを訪れた。そして、ソファーに座っていた優香を見て驚き声を上げる。



「……わ!……ど、どうしたの優香……?電気が点いてたからおかしいと思ったけど……眠れなかったの?」



ここ最近急に仕事が忙しくなり、杏奈は帰りが遅くなる事が多くなった。

そのお陰でだいぶ今の生活に慣れたらしく、夜遅くまで働いても彼女に疲労感は見られなかった。


もしヘトヘトになって帰って来るようなら、また別の機会を考えていた優香だが、これなら大丈夫だろうと……深呼吸をして聞く覚悟を決める。



「……実は母さんを待ってたんだよね」


「……こんな遅くに?」


「うん」


「……そう。大事な話なのね?」


優香はコクリと頷いた。

娘が起きている姿を見て嬉しそうだった杏奈も、それを見て真剣な表情に変わる。



「実は雄治の事なんだけど」


「……!?雄治に何かあったの!?」


真夜中で辺りはシーンと静まり返ってるが、雄治を心配した杏奈は少し荒げた声を上げる。流石に雄治の部屋に届く程のトーンでは無かったが、優香は唇に人差し指を立てて杏奈を黙らせる。

母親は静かになったのを見て優香は本題に入った。



「……三年前さ……雄治とそういうホテルの前で会ったって話……本当なの?」


「……………そう……その話ね」


思い掛けない話に、一瞬困惑の表情を浮かべるも、杏奈は直ぐに穏やかな表情を浮かべ出した。

何故、この話を聞かされて安心し切った顔をしてるのか……優香にはまるで理解出来なかった。



「………え?なんで嬉しそうなの?」


「雄治が……やっと話してくれたのね……」


「え……じゃあ認めるってこと……?」


「……そうよ。私はホテルから出て来るところを雄治に観られてしまったの」


じゃあなんで安心した顔してんのよ……?

意味わかんない。フツーはさ……嫌な顔する所じゃないの?意味分かんねーし……雄治と口裏を合わせて隠してたんじゃなかったの……?



「雄治が打ち明けたんじゃない。それにどうやって知ったかは教えない……まぁいろいろあって知った感じ」


此処に居ない後輩を巻き込みたくなかった優香は例の件を伏せて話した。

すると、杏奈は悲しそうな表情に変わる。次第に目を瞑り唇まで噛み締め出した。



「そう……雄治……言ったんじゃなかったのね……」


「雄治が言わなかったらどうだっての?ちょっと意味分かんねーし……雄治に口止めでもされてたの?」


「……………」


「……ま、まじ……な、なんで……?」


無言を肯定だと捉える。

そうして捉えた上で尚、母親の言っている事が理解出来なかった。反応を見るにいま聞かされたのは全部ほんとの話だろう。

弟を疑っては無かったが、心のどこかで雄治の見間違え、もしくは何かの勘違いを期待していた。

しかし、その期待は見事に打ち砕かれる……それどころか弟がその事実を口止めしていた。その二つの衝撃が優香の内に怒りの焔を灯した。



「訳わかんねーよっ!何……?なんでそんなヤバイ話を二人で黙殺してたのっ!?私や父さんに黙ってた雄治も雄治だけどっ!第一ッ!なんで浮気してんだよっ!」


冷静さを欠く優香。

しかし、それでも何とか激昂する感情を抑え、怒鳴り声にならない程度には声を押し殺した。


一番最悪なのは母親……でも、それを隠そうとした弟に対して、ほんのちょっぴりだけ憤りを覚えた。相手が例え雄治でも、姉として怒らないとダメな事がある……それくらいは流石の優香も解っていた。


杏奈は、怒りながらソファーに座る優香に近付き……側でしゃがみ込んで娘の手を握った。



「は、離せっ!今はそういうの……やめ……」


「雄治は何も悪くないのっ!──あの子は必死だったのよ……!あの時まだ中学生だった雄治が一生懸命考えて、それで家族を守る為に思い付いたのが秘密にする事だったのよ……!」


「………母さん」


杏奈は娘の手を強く握ったまま大粒の涙を流し、必死に訴える。


「あの嘘を突き通さなければ、多分、あの子は自分を保てなかったのよ……!私が、私が不注意だったから、あの子を追い詰めてしまったのよ……!」


「………あ、そう、か」


やばっ……雄治の事をいつも最優先に考えていたのに、こんな時に限って大事なことを失念していた。

三年前の話って言ってたよね……だったら雄治まだ中学二年生になったばっかりじゃん。そんな子がまともな判断を下せる訳がないじゃん……なんでちょっと雄治に対して怒ってたの私……マジでくそだっ。


母さんの言う通り、中学生の雄治にまともな判断が出来る訳ない。

中学生が必死に考えて、それで思い付いたのが誰にも言わないこと……家族がバラバラにならない為に、あの出来事を無かった事にするのが、雄治が思いついた限界の解決方法だったんだ。


(想像もつかねーよ……母親が知らない男とホテルから出て来るのを目撃した時の気持ちなんて……本当に雄治はショックだった筈……母さんにベッタリだったから)



「それに……神に誓って私は浮気なんてしてないわ……本当よ」


「ホテルから出て来たのに?……因みに確認なんだけど……そういうホテルだよね?」


「………そうよ」


「ないわそれ……そんな所から出て来て、それで浮気はしてないって?誰が信じるのよその話をっ!まだガキだった雄治を追い詰めやがってっ!」


杏奈は責められても決して目を逸らさなかった。

そして優香の怒りを受け止めた後、自らの胸に手を当てながら話し始める。


「………あの日、何があったのか……話すわ。あの子は殆ど信じてくれなかったけど……聞いてくれる?」


「…………」


優香は黙って頷いた。ここは反抗して突き放すと、もう母との縁が終わる場面だと優香は確信する。


聞くのが怖かったが、知らなければダメなんだと自分に言い聞かせて母の言葉に耳を傾けるのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ほんとに浮気してなくて当時の言い訳通りに警察連れて行こうとしてただけだったのなら雄治に3年も重い秘密抱えさせて苦しめ続けるようなことになるほうがおかしくないか? 当時の雄治が信じてくれ…
[一言] ヤッたけど心は置いてきてない的な話なら最悪だけど、どうなることやら ただの誤解で解決できる話なら、後輩に引き続き女性不信が解消するきっかけになるかな
[一言]  無実の証明すら悪魔の証明になってしまう。  一時の油断がその後一生を縛る。  今回は「そういうホテル」から出て来るという限りなく黒に近い状況証拠があるから、いくらこの母親が無実だったとして…
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