勧誘と、条件と、面倒な奴ら
生徒会室には四人の生徒が集まっている。
三年生、高宮生徒会長。
一年生、金城さんと弥支路さん。
そして二年生の坂本雄治こと俺……因みに大好物はプリン。それを奪い取ろうとするヤツは絶対に許さない。それが例え血の繋がった姉だとしてもだ。
……話を戻そう。
金城さんと此処で会うのは初めてだけど、後の二人は生徒会役員だから、この部屋での顔見知りになる。
「あっ……ふふっ」
目が合うとお嬢様は嬉しそうに手を振ってくれる。彼女とは殆ど面識が無いと言うのにやっぱり不快感は全く感じない。ほんとになんだこのお嬢様?
「………元気?」
「元気ですわ。そしてお久しぶり雄治様っ!今日も凛々しいですわっ!」
「元気そうで良かった……でも凛々しいとか言わないで……まぁ全部ほんとの事だけどさ」
「そうでございますわ!!」
「……う、うん」
(はい、突っ込まれませんでしたっ!)
そして四人は各々席に座る。
俺の隣には金城さん、正面に生徒会長、斜め向かいに弥支路さんが座ることになった。
ただ学年こそバラバラだが、男子生徒が俺一人という恐ろしい状況下に置かれている。
生徒会長に悪気は全く無いんだろうけど、今の俺にとってこの空間は非常に恐ろしいモノだ。
特に弥支路さんが危ない。
なんせ彼女は優秀な人だから、弥支路さんが本気を出せば俺なんて簡単に潰されてしまうのだろう。敵にすると厄介だ。これまで通り適度な距離感を持って接しよう。
──雄治がこう思う様に、弥支路はこれまで彼に対し、最低限の会話しかして来なかった。
もちろん雄治が苦手という事ではなく、高宮との話を邪魔しない為だったり、雄治が先輩だから気を遣っていたというのが主な理由だったが、その絶妙な距離感で接していたのが仇となった。
しかも彼女は普段から類稀な秀才っぷりを発揮しているので、それも雄治の疑心の念を深くしている。
「……?坂本先輩?どうしました?」
「………いや………別に……」
「そ、そうですか……」
(──なんかいつもと違うような……?)
弥支路は違和感に首を傾げる。
ただ、そこまで気にする事はなかった。まさか警戒されてるとは夢にも思ってないのだ。
なのでこれまで通りお茶を雄治の前に置いた……雄治が美味しいと飲んでくれるいつものお茶を。
「坂本先輩、今日も呼び出してすいません」
「いえ……ありがとう……ございます……」
「敬語は良いですって」
弥支路に対して敬語なのはいつも通りで、そこは前と変わらない坂本雄治の姿だ。そして賢く空気の読める彼女は程よい距離感に戻る。
(まさか金城さんまでたらし込むなんて……坂本先輩も隅に置けませんね)
内心は弥支路も雄治を気にはしている。
ただ、高宮が彼に抱く【彼女自身も無自覚な気持ち】を察しているので、尚更、この距離感を保つ。親しい人とライバル関係になりたくないからだ。
(とは言っても……)
弥支路はそんな高宮へ目を向けて呆れ顔をする。
高宮も雄治と距離がある。互いに触れられる程の距離にはなかなか近付こうとしない。
ただその奥手さが今の雄治には良かった。お陰で彼も生徒会長を警戒しなくて済むのだから。
「…………」
雄治は目の前に置かれたお茶をずっと見詰めていた。
場が少し沈黙気味になったので高宮はコホンと可愛いらしく咳払いをし、徐に話を始めた。
「えぇ~と……実はちょっと後輩くんに頼みがあって……」
「何ですか?」
雄治がお茶をジッと見詰めながらそう尋ねると、高宮は笑顔で説明を開始した。
「実はね、地域の小学生との交流会を行うんだけどね?良かったら後輩くんに手伝って貰いたいなぁ~……って、思うんだけど。ちょっと私と弥支路ちゃんだけだとキツくて」
「……………小学生との交流会?というより他の役員の方々はどうしたのです?」
高宮と弥支路の二人だけと言う言葉に疑問を抱き、雄治はそれについて訪ねる。
生徒会役員はもっと多い筈なのだ。
「生徒会メンバーは幼稚園、小学生、中学生、の3組に分かれてるの。だからそれぞれで協力してくれる生徒を集めるようにって、先生に言われて」
「…………そうですか。カスみたいな先生ですね」
「口悪過ぎだよ?……まぁそれは良いとしてぇ──後輩くん手伝ってくれないかなぁ~、と思ってね?」
「…………手伝い?」
「うん……どうかな?」
「…………」
雄治は無言で考え始める。
ただそれは交流会を手伝おうか悩んでる訳ではない。最悪なことを想像していたのだ。
──もしかして、こうやって雑用を押し付ける為に、普段から親切に接していたかと。
雄治は生徒会長の人柄を知っている。彼女がそんなことする筈がないと解っていてもつい疑ってしまうのだ。
「あっ、もちろん強制じゃないからね!嫌なら断っても良いからねっ!」
「……良いんですか?」
「うん!もちろんだよっ!私が後輩くんに声を掛けたのは、君が一番信頼出来ると思ったからなんだよ?他の男子とかだと相手が年下だからつい乱暴になったり、イキがったりする子も居ると思うけど、後輩くんならそんな事しないでしょ?」
「……あ、ありがとうございます」
……冷静になれ坂本雄治。
今のが生徒会長の本心で間違いない。この言動も俺を乗せる為のおべっかとかでは決してない。そこまで疑う必要はないんだ。
生徒会長は人見知りの根暗だけど、人を欺く様な事はしない筈。だから信じよう。
もし怪しく思ったらその時は逃げ出せば良いんだしな。大丈夫、生徒会長は良い人だ……いつも俺の事を助けてくれて………
……
……あれ?
生徒会長に助けて貰った記憶が無いんだが?
そう言えば学校にゲームとか持ち込んでるし、この人ちょっとヤバいんじゃないのか?
ただまぁ、それとは関係なく──
「で、どうかな?」
「あ、普通に嫌です」
「えええぇえッッ!!!???」
「あ、うるさ」
信じる信じない以前の話……普通に嫌だった。
もう女性が苦手とか一切関係なく、学校のボランティア活動の為に時間を潰すのが勿体なかった。これが裏表なしの本音だ。
第一、何が悲しくて小学生の相手なんかしなくちゃダメなんだよ。女子小学生とかも居るんだろうし、行っても怖い思いをするだけだからな?
「ど、どうして?や、やっちゃおうよ?ね?」
「おっとぉ?強制はなしですよ?」
「ぐぐっ……!」
高宮はまるで力が抜けたかのように、椅子の上へとへタレ込んだ。何処から来る自信だったのか、雄治が断るとは考えてもなかったらしい。
「それに生徒会長は勘違いしてますよ?」
「勘違い?」
「はい。小学生相手に乱暴な事はしませんが、イキがりはすると思いますよ?」
「確かに……言われてみれば、ちょっとそんな所があるかも……?」
「……そんな事ないと思うけど?」
「後輩くんが自分で言ったんだよ?」
「いやそんな事ないって言葉が欲しかっただけですけど?」
「そんな事ないって言ったら来てくれる?」
「うわしつこい」
(そろそろ……割って入らないとダメですわね)
二人の話が悪化の一方を辿りそうだった為、黙って様子を見ていた金城可憐が見かねて動き出す。
「……生徒会長。そういう事でしたら仕方ありませんわね。嫌がる雄治様に無理強いは出来ませんもの」
話し合いが始まってから無言だった金城可憐が、ここで口を開いた。
生徒会長と雄治の会話を邪魔したくなかった……というのは所詮は単なる建前で、彼女は雄治の横顔に見惚れてしまい黙ってたムッツリに過ぎない。
想い人を間近で閲覧できる喜びを彼女は堪能していただけなのである。割と変態チックだ。
「生徒会長が雄治様をお呼びになると耳にした時は嬉しかったのですが、一番大事なのは雄治様の気持ちですもの。それに強制はしないと言っておきながら、それはあんまりでしてよ」
「う、うん……確かにそうだよね」
雄治と一緒に行事を行い、互いの親交を深めようと画作していたらしく、高宮椎奈はしゅんと項垂れた。
「今更な話だけど、もしかして金城さんもボランティア?」
「あ、はいっ!地域の子供達に何か手助けができればと思いまして……!」
「そうか。優しいんだなやっぱり」
こういう所なのかも知れんな、この子を受け入れられるのは。
「……はぅ……ありがどうございばす……いへへ」
「う、うん」
笑い方若干キモいけど。
俺が引いてると生徒会長が謝罪の言葉を口にする。さっき執拗に勧誘を行ったことに対してらしい。
「……ごめんね、後輩くん」
別に気にしてないけど……?
でもアレだな、折角だしちょっとからかおう。
「いやごめんじゃ済まないですよ。一生恨みます」
「………ご、ごめんなさいぃ~……!!」
おっ!効いてる効いてる!
「あとイキがるって冗談で言ったのに、それに対して『ちょっとそんな所があるかも』って言った事も恨みます。いやそれは結構マジで」
「え……ちょっと流石にみみっちくない?」
「………いまみみっちいと言った事も一生──」
「も、もう分かったからっ!何なのっ!もう!」
「冗談ですよ。金城さんの他に手伝ってくれる方はいらっしゃいますか?」
この質問には弥支路が答える。
雄治は無意識に体を強張らせた。
「今のところは金城さんだけですね」
「そう……ですか…」
「はい……?」
態度の変化に気付く弥支路……しかし、話の腰を折ってしまうからと何も言わなかった。
そんな歳下生徒会員を他所に、雄治は顎に手を当てて少し考え始める。
(折角誘ってくれたのに、断ってそれで終わるんじゃ申し訳ない。少しアドバイスでも送るとするか)
「二年に石田って奴が居るんだけど、彼なんてどう?人格的にも問題ないと思うけど……?」
「石田さんには私からお声掛けしました。でも『坂本雄治が参加するなら僕も参加する』と仰ってまして……」
「なんでよ?」
何なのアイツ?俺が行く事でなんの得があるんだよ?
てか俺がこの話を断ったら戦力激減じゃねーか……どうしようかな?
「生徒会長じゃなくて弥支路さんが声掛けたの?」
「実は生徒会長って、坂本先輩以外の男性に話し掛けるのが怖いらしいんですよ」
「ちょっ!余計なこと言わなくていーのっ!!」
男性不信かな?
でも俺だけ大丈夫とかもしかして舐められてる?これまでの呼び出しも算段とかが有った訳じゃなくて、純粋に俺は舐められてたのか?
姉ちゃんの弟だからって馬鹿にすんなよな。
あ、姉ちゃんの話題で思い出した……
「ウチの姉ちゃんとかどうですか?無表情を維持しつつ子供に暴力振るいそうな見た目ですけど、小さい子の面倒見が凄く良いですよ」
「うん。知ってるっ!」
俺に聞かなくても分かってたらしく、ほんとに嬉しそうに生徒会長は頷いた。
姉ちゃんの事が苦手だと思ってたけど、姉ちゃんの隠れた良さに気付くなんて……意外とやるじゃないか。
因みに今の知ってるは『無表情を維持しつつ子供に暴力を振いそうな見た目』に対しても同意したと捉えて良いのか先輩よ?俺口軽いから言っちゃうぞ?
「だから真っ先に誘ったんだけど……『弟が参加するなら参加する』の一点張りで……」
「姉ちゃんまでそうなの?」
「うん!愛されてるね!」
「…………いや、う〜ん」
ドイツもコイツも何なんだっ!
自分で言うのも何だけど最近病んでるし、俺が居てもそこまで面白くないと思うが……?
いやしかし、絶対に行くつもりなんて無かったのに心が傾きかけてる。俺が断ると欠席者が増えてヤバそうだもんなんか……生徒会を困らせるのは不本意だ。
「ち・な・み・にっ!!」
「……まだなんかあんの?」
「私も後輩くんが参加するなら参加しますっ!」
「だったら辞めてしまえ」
「あ、言い過ぎ」
阿保の生徒会長は一旦放って置いて……みんな俺に何を求めてるの?
俺が居ても別段、毒にも薬にもならないと思うんだけどな?てかそこまでムードメーカーでもないし。
ただ参加すれば姉ちゃんも石田も来るのか……
………
………それなら参加しても良いかな?
あの二人が居れば心細くはならないだろう。
それに、あえて女子中学生が屯する死地へ飛び込む事で女性に対する不信を克服できるかも知れない。
「………なんか俺が行くと参加者が増えそうですね。じゃあ今回だけ参加しますよ」
「やったっ!!」
「やりましたわっ!!」
「ありがとうございます!坂本先輩っ!」
三人とも大いに喜んでくれた。詳しい話はまた後日という事で話し合いは終結する。その後は少しだけ生徒会長の話に付き合った。
──そして、解散した後の俺は一人で廊下を歩きながら、先までの事を思い返す。
「そういや、女性相手なのに普通に話せたな。結構良くなって来たのかも知れない」
この調子なら症状が良くなるのも時間の問題だな。
そしたら楊花ともきっと話せるようになる……そして、そうなったら真っ先に謝ろう。
「でも今は会う事を想像するだけで怖いんだよな」
「何が怖いんですの?雄治様?」
「いや、気にしないで──つーか着いて来たの?」
「はいっ!一緒に帰りましょうっ!」
「まぁ良いけど」
俺はお嬢様と距離を開けつつ一緒に帰る事にした。
やはり彼女との間に会話はなく、偶に聞こえてくる彼女の鼻歌がヤケに耳にこびり付いて離れなかった。
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~弥支路視点~
「あれ?」
雄治と可憐が去った後、弥支路は四人分のコップの片付けを行っていた。しかし、雄治のコップを片付けようとしてある事に気が付いた。
「坂本先輩、お茶一口も飲んでないです。どうしたのでしょうか?」
「え?でもずっとコップ見てたよね?」
席から立ち上がり、高宮もコップの中身を確認する。
「ほんとだ……」
やはり減ってなかった。
飲んだ形跡が何処にも見当たらない。まるで最初から飲む気が無かったような……そんな違和感すら感じられる残りっぷりだ。
「体調が悪かったんだよ、きっと」
「そうですね……いつも必ず飲み干してくれるんですからね」
「だよだよっ!それより弥支路ちゃんっ!石田くんに連絡をお願い!私は坂本ちゃんに後輩くんが来る事になったって伝えるからっ!!」
「はい、分かりましたっ!」
二人は何事も無かったように行動を開始した。
今日から投稿を開始します。
プライベートでとんでもないハプニングに見舞わせたので、気になる方は活動報告を読んでい頂けると嬉しいです。
そんな間に、なんとブックマークが7000を突破しましたっ!!感謝です!!
総合ポイントも30000に到達しそうなので、それを目標にしたいと思います。
これからも宜しくお願いします!!




