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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
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第94話 女盗賊と子供達 後編

個人的に過去一の鬱とグロ注意。



 数時間後。

 廃墟と化した村で立っていたのは無傷の俺とアクア、手傷を負ってはいるが深手ではないエルティーナ。そして、盗賊の頭目と成り果てたらしいリーン、その手下らしき子供達と村の人間ではないおっさん連中だった。



 俺達は顔を歪めながらも斬り捨てていたがエルティーナは子供を斬ることに抵抗があったらしく、恐らく排泄物か何かを塗ったのであろう汚れたナイフを腹部に突き立てられていた。

 ステータス差で切っ先程度しか皮膚に刺さらなかったようだが、子供ながら流石盗賊と言ったところだろう。まあ奴さんはただ単に生きるのに必死で、エルティーナはその気迫と抵抗に気圧されたってだけのような気もするがな。



「へへっ、ジジイとババアは全滅しやがったぜ、リーン」

「…………」

「うぅっ、おじいちゃん……! おばあちゃぁんっ!」

「酷い……僕達、何も悪いことしてないのに……だよね、リーン姉ちゃん……」



 子供達は比較的マシな見た目をしているがリーンとおっさん連中は遠目から見てもわかるくらい汚い。リーンに至っては元傭兵団のボスに抱かれていた時に比べても髪は痛んでるし、見える範囲だけでも生傷が多くなっている。

 返り血か排泄物かその以外の何かか……服自体、かなり変色していることから衛生状態も良くないだろう。



 正直、人はここまで気色悪くなれるのかと思ってしまうほど気味が悪い。飢えた肉食動物のようにギラついた目もそれに拍車を掛けている。



「はんっ、老いぼれ共を殺した程度でイイ気になっちゃって……あのクソ野郎の言った通り、冒険者ってのは随分頭が弱いようだね」



 口減らしか、俺達の消耗を狙って特攻させたくせによく言う。

 自分達は後ろで見てるだけで援護すらしなかったというのに。



「……リーン、で合ってるな? コーザはどうした」



 とはいえ、ボロボロの髪を弄りながらの安い挑発は無視して確認する。

 元は許嫁らしいからな。殺したりはしてないと思う。が、コーザは傭兵にやられた傷が原因の後遺症で満足に動けなくなっていた筈だ。どうしても「もしや……」という想像はしてしまう。



「…………。はっ、あんな死に損ない知らないね。今頃どっかで死んでるんじゃない?」



 見間違いじゃなければ……今、こいつは一瞬だけ嫌なものを思い出したかのような反応をした。



「殺したのか」

「……………………」



 普段なら断定するが、この沈黙は肯定と捉えるには少し焦燥な気がした。

 リーンの顔にはありありと「違う」と書いてあったからだ。



 しかし、肩で息をしていたエルティーナはそう思わなかったらしい。

 


「リーン殿! 貴殿は……貴様はコーザ殿を殺したのかっ! ……許さんッ! 彼は貴様を助けようと重傷を負ったというのに……!」



 と、静かに問い質していた俺と違って大声で威圧するかのように叫び、刺激した。



 ……いや、お前はお前で特攻しにいくコーザを強く止めなかっただろ。



 若者達の、命を投げ出した特攻の事情を他の村人に聞いていると思われるリーンと俺の内心は多分、一致した。



「どの口がっ……ちっ、あんた達、やっちまいな。多少強いみたいだけど、野郎一人に女が二人。……大量じゃないか。倒せば私以外の相手が二人も増えるよ」



 お陰でリーンの様子が変わってしまった。

 戦闘態勢、というよりは俺達……いや、俺を殺すつもりになったってとこだな。



 アクアを女だと勘違いしているのは良いとして、相手と言ったな。



 ――こいつ、仲間に自分を抱かせることで言うことを聞かせてるのか……道理で汚い訳だ。



「気持ち悪いな……お前。そんなことで言うこと聞いてるお前らも……」



 思わず鳥肌が立ってしまった腕を擦りながらの言葉。

 元々煽るつもりではあったが、エルティーナの発言で火がついていたところに油を注いだことになったらしく、完全に爆発してしまった。



「なん、だって……!? あんたにッ! お前達に何がわかるッ! こっちだってあいつらに襲われたせいで生きる場所もっ、家もっ、食糧も失くなったんだ! 手段を選んでる場合じゃないんだよっ! 私はね、絶対に生きるの……贅沢は言わない……ただ生きてっ、幸せだったあの頃みたいに戻るんだっ! 絶対にッ!」

「他にも方法はあったろうに! それではあの傭兵団と何ら変わりないではないか!」

「あんな奴等と一緒にするなっ!」



 冷たい現実と悲しい過去を思い出したのか、涙ながらの決意には流石に同情の念を抱く。

 ついでに、隣でガソリンをボンボンぶん投げてるエルティーナには呆れの念を。



 だが、それでも。



 エルティーナじゃないが自分がやられたからと他人に同じことをするのでは永久にその負の連鎖は終わらない。そんなことをしていい理由にもならないだろう。

 本人達の気持ちはわからないから別に我慢しろとか他に方法があった筈だなんて言葉も使わない。ただ……



「女を売って、殺して、奪って、他人の生き血を啜って、犯罪者になるまで生き足掻いて……それで、お前は本当に幸せになれるのか?」



 そう、思ってしまった。



 例え幸せになれたとしても元は至って普通の村人なのだ。俺のように狂っているなら未だしも、行ってきた数々の非道を忘れられる奴には見えない。気にしないことも出来ないだろう。



「っ……うっ、煩い煩い煩いっ!! もういいっ、お前達! 何、言われたまま黙ってんだ馬鹿共がっ! さっさと男を殺して、女は犯しなさい! 冒険者ならどこかに食糧を隠してる筈だよ! 三人分なら当分の蓄えになる!」



 説得する訳ではなかったが、結果的に俺の言葉はエルティーナの同じガソリンだったようだ。



 両耳を塞いで地団駄を踏んだリーンは仲間のおっさん連中をけしかけてきた。

 揃いも揃って「好き勝手言いやがって!」、「冒険者だか何だか知らねーけど何を偉そうに!」、「どうせこの数には勝てねぇんだ! 早く死ねやああっ!」と躍起になっている。



 ――……はっ、ダメだな。文句ばっか一丁前のくせに、この馬鹿女騎士と何も変わらねぇ……頭のネジ、またどっかに落っことしたらしいな。



「ねえシキ。さっきから僕にも刺さってるんだけど」

「……すまん」



 そんなつもりはなかったのだが、生きる為に、食う為に身体を売ってきたアクアはそれを覚える前はスリや物乞いで生活していた。規模に違いこそあれど、やってること自体は変わらないせいか、知らぬ間に飛び火していたらしい。 

 しかも向こうは女でこっちは男だからな。比べるのも悪いけど、プライドやら恥やらを同性相手に捨ててたんなら、俺の言葉は尚更ダメージだったのかもしれない。



「でもま……お前と違って、こいつには未来がない。底辺から……ゼロから冒険者に成り上がって毎日を生きているお前とは違うだろ?」

「……まあ、ねっ!」



 少し前に俺達三人に仲間の半分以上が殺られたってことを忘れたらしいおっさん共を相手にそれぞれ武器を構え、迎え撃つ俺とアクア。



 見ればエルティーナも返り血も気にせずに斬り捨てている。



 ――問題は……あいつらだな。



「うぅ……リーン姉ちゃん、お腹空いたよぉ……」

「僕もう嫌だ……何も……したくない……!」

「今度はあの人達を殺せば良いの? わかった……俺、皆の為に頑張るから……」

「みんな、がんばれーっ! ぼうけんしゃなんて死んじゃえー!」



 雄叫びを上げながら鍬や草刈り用の鎌を振り回してくるおっさんの二人の胴体を別れさせながらチラリとリーンに抱き付いている子供達を見やる。



 どの子もやはり中学生にすらなってないくらいだろう。

 物心がついて直ぐなのか、死んだような目で俺達の死を望み、石を投げ付けてくる子供まで居る。



「……良い経験になるんだろうが、今回みたいな仕事はもうゴメンだな」

「同じく」



 年端も行かぬ子供達を殺す、なんて日本では死刑レベルのものだろう。

 アクアからすれば過去の自分を見ているようで嫌な気分になるだろう。



 だが、子供でも賊は賊。

 生かして捕らえたところで見せしめとして殺されるだけだ。ならば俺達が即座に終わらせてやった方がまだ辛くない……と思う。



「死っ、ねぎゃっ!?」

「こ、こいつ……らぁっ!?」



 何故か鍬を振りかざして跳ねてきた奴の腹をその勢いを利用するようにして斬り上げ、それに怯んだ一人を縦に真っ二つにする。



 ビチャビチャッ! と返り血と臓物が周囲に散乱し、それらの一部と酷い悪臭が俺を包む。



 ――……スイッチが入りやがらねぇ。今までは直ぐに入っちまって暴走してた分、気持ちは楽だったのに……素の状態でこれはキツい、な……



 今はまだ襲ってこないだけでリーンがいつ子供達を突っ込ませてくるかわからない。



 下手に戦闘狂として暴れるよりは正気のまま戦った方が冷静だし、経験にもなる。

 そう思ってはいたが、何故か視界に入る子供達を見ると悲しむムクロの姿が浮かび上がり、どうしても暴れる気にはならなかった。気持ちが昂ることもなければ我を忘れるほどのあの破壊、殺人衝動もない。



 あるのはキツい、早く終わらせたいという焦りにも似た嫌な気分だけだ。



「く、クソっ、野郎だけじゃねぇ! 女共も強いぞ! どうなってやがる!?」

「俺達だってレベルは高い筈なのに……何だってこんなに差があるんだ!」



 戦い方も素人、武器も農具、定期的に性欲を発散させてもらう代わりに言うことを聞くというアホっぶり……そして、その見た目。

 どう見ても元農民の盗賊だ。レベルが高いってのは他の農民と比べればってことだろう。



 数人、あるいは十数人の人間を殺したところで普段から人間よりも強い魔物を殺している俺達に敵う筈がないというのに。

 その常識もないと来れば尚更、こいつらは烏合の衆。ただの雑魚だ。



 アクアが疾走しながら数人の盗賊の首を斬りつけていき、エルティーナは長剣で農具ごと斬り捨てる。

 俺は斬り、殴り、蹴って……全て一撃で殺す。



 力量がわかるように敢えて頭を鷲掴みにし、握り潰したりもした。



 それによって恐怖で腰を抜かす者や逃げ出す者が続出。

 当然、見逃す筈もなく、隙だらけの首や背中を斬りつけていく。



 結果、二十人程残っていた盗賊達はみるみる内に減っていった。



「……クソ、気持ち悪いな」

「あんなことするから……」

「貴様、今回はやけに大人しいじゃないか。漸く己を抑えられるようになったのか」

「あぁ、正気で殺しあいなんてするものじゃないということを痛感しているところだ」

「……それで殺気を向けられるこちらの気にもなってほしいのだが?」



 俺は兎も角、そう言うエルティーナ自身も俺からするとかなり大人しく感じる。

 町と東ではやたらと暴言を吐いたり、人の親切を棒に振ったりと考え無しだったってことを考えると……聖騎士ノアは北から来ているということだろうか。南から来ていれば今もイカれた言動をしているだろうし、東から来ていたならやはり、今もおかしい筈だ。



 ……まあ、そもそも普段から考える頭がなさそうな思考回路はしてるからその時の気分という可能性も否めないが。



「さて、と……」

「これで」

「最後だ!」

「「「ぎゃああああっ!」」」



 逃げようとしていた三人の盗賊をそれぞれ殺し、残心をする俺達。



 残っているのは子供達とリーンのみ。



「出来れば殺したくはないが……これも仕事だ。楽にしてやるから首を差し出すが良い」



 ……やっぱり気分なのかな。



 相変わらず何食わぬ顔で「諦めてさっさと死ねよ」と言い放つエルティーナに何とも言えない視線を送ってしまった。

 見ればアクアも呆れている。……というか引いてる。



「…………はっ、ははは……や、やるじゃない……私の男達をほぼ無傷で……」



 リーンも他の盗賊達のようにここまで圧倒的な差があるとは思っていなかったらしく、化け物を見るような目でこちらを見てくる。



 ――今の言い方……一応、部下とか手下っていうよりは仲間っつぅ意識だった、のか? にしては方法からして間違ってるような気がするが……まあ、流石にそれだけで言うことを聞かせていた訳じゃないってことか。多分、一対一ならリーンの方が失う物がない分、強かった……そして、それだけじゃ結束と信頼、払える代償がないと思ったから女の武器を使ったってとこだろうな。それで抱かれている内に情でも沸いたってか? はっ……気持ち悪いな。



「でもっ……それでもっ! 行くよ皆! 男が女子供に弱いってのは知ってるね!? あの男を狙うんだよ!」



 冷や汗をだらだら流しているリーンを冷静に分析していると、ついに子供達に突っ込むよう命令した。

 どこまでいってもやはり『普通』の村人だったリーンの普通の、それこそ年相応の話し方で自分も一緒に行くようなニュアンスを匂わせてはいるが、あの目……



 ――こいつ……子供も捨て石にするつもりなのか。



「わ、わかったよリーン姉!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……お腹空いたの……だから……だから!」

「この人殺し! 化け物! おじちゃん達の仇ーっ!」



 そう言って小さい短剣やナイフ、石を武器に走ってくる子供達。



 先程殺した盗賊と違って何もわかっていない分、目はまだギラついてない。

 純粋に生きる為だけに俺達を殺しに来ている。



 ――……あぁ、ムクロが居なくて本当に良かった。あいつが見たら……やっぱ悲しむもんな。こんな子供が……とかお前にそんなことしてほしくないとか言って……



「くっ……や、止めるんだ君達! 君達はまだ子供なんだ、もしかしたら許してもらえるかもしれない! 止めっ、止めろ! 来るな! 頼むっ……殺したくないんだ! だから……だからっ! っ……ほらっ、剣は捨てた! 私はお前達を斬らない! だからお前達も捨ててくれ! 頼む……! 私に……殺させないでくれッ!」



 一人なら兎も角、大勢が同時に襲ってくるのは精神的に厳しかったのか、エルティーナが剣を捨ててまで説得に回った。



 ――マジもんの馬鹿だな。こいつ……お前一人が捨てたところで……今、こいつらを助けたところで何になるってんだよ。



「殺したくないから殺してくれってか? ……ハッ、変わった自殺だな」



 そんなアホの前に立ち、子供達の意識を俺に向かせる。



「なっ……貴様っ! 止めろ! その子達は――」

「――盗賊だ! 盗賊……なんだ……俺達はここでこいつらを殺す……その為に来たんだろうが」



 エルティーナの悲痛な叫びが聞こえないように声を張り上げ、自分の心に発破を掛けた。



「皆! あいつだよ! あいつを狙うんだ! 皆一緒なら大丈夫だよ! 絶対やれる!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「泣くなよ! 僕達がやらなきゃ、リーン姉ちゃんが言ったんだから!」

「でも……でもっ、プアードはあいつに殺されたんだよ!? チャドだってやられた!」

「ならおじちゃん達だけじゃない! 皆の仇だ! 倒さなきゃ!」



 仲良くお喋りしながら俺に対する殺意を募らせる子供達。



 一人は先程からリーンの言うことを信じて止まない様子で。

 一人は壊れたカセットテープのように謝り続け。

 一人は他の奴だけでなく、自分を励ますように覚悟を決め。

 一人は俺が最初に殺したガキとエルティーナが殺したガキを思い出して怯え。

 一人は本当に俺が悪い奴なんだと思い込んで。



「行くよ皆っ!」

「「「「「「うわあああああああっ!」」」」」」



 各々……少年も少女も幼児も幼女も、年齢性別関係無く、十人ほどの小さい子供達がそれぞれの正義と理由でもって、飛び掛かってきた。

 怒っている子もいれば泣いている子もいたし、目を瞑っている子だっていた。



 最後の最期、俺が全員まとめて横凪ぎに首や胴体を跳ねた瞬間、



「……ありがっ、どっ!? ぅ……」

「ごめんなさ、い゛ッ! ……ぱ、ぱ…………ま……ま……」



 感謝と謝罪、後悔のような言葉を遺した子もいた。



 どしゃっ! ボトボトっ……



 という生々しい音に背を向けて走り出していたリーンが振り返った。



 そして、元は自分の村の知り合いであり、近所の可愛い子供達だったモノを見て目を大きく見開くと立ち止まり、呆然とする。



「あ、っ……あぁ……ぁ、ああっ……!」



 子供達の死を目の当たりにしたリーンは今の今まで逃げようとしていたくせに大粒の涙を流し始め、その場に崩れ落ちた。



「ルド……アン……ピティ……パトリック……アブルっ……ハピィ…………うぅぅっ、皆……皆ぁっ……! ゴメン、ゴメンねっ……私が……私のっ、せいで……!」



 恐らく子供達に懺悔しているのだろう。

 瞳から少しずつ光が失われ、やがて虚ろな目をするようになるとブツブツと何かを呟きながらリーンはひたすら地面に額を打ち付けて謝っている。



 しかし、それも十秒程度で止まった。



 リーンの中で悲しみやら後悔よりも理不尽に対する怒りが勝ったんだろう。

 やがて、絶望と憎悪に満ちた、能面のようでいて鬼のような形相で喚き始めた。



「何で……何で……何で何で何で何でっ! 何で私が! 私達がこんな目に合わなきゃいけないのよっ……!! 私達が何をしたっていうの!? もうやだ! 皆を返してよ! お父さんもお母さんも、コーザもお義父さんも皆も……皆、死んじゃった…………返して……返してよッ! この人殺しッ!!」



 ……。



 …………。



 ……………………。



「コーザは……コーザはどう……したんだ……?」



 震える声を無理やり絞り出したような俺の問いにリーンは己の最期を悟ったらしい。



 狂ったように頭を地面に打ち付け、血が止まらなくなると今度は頭や首、顔を掻きむしり、顔中を血だらけにして泣いていたリーンは驚くほどスッと泣き止むと、静かに答えた。



「私が……皆に、抱いてって……私のこと好きにして良いから言うことを聞いてって……子供達()を守ってって言ったら物凄く反対して……怒って……泣いてくれて…………皆に、殺されちゃった……」



 さぞ悲しかっただろう。



 さぞ悔しかっただろう。



 さぞ虚しかっただろう。



 さぞ許せなかっただろう。



 さぞ死にたくなっただろう。



 コーザのあまりに報われない最期に俺だけでなく、アクアもエルティーナまでもが何も言えなかった。



「私が……私が殺したのっ…………私が皆で生きようって言ったから……コーザは二人で逃げようって言ってくれたのに……子供達()が可哀想で……でも私はその皆を殺させて………あ、あぁ……ぁ………もう、嫌……」



 〝殺して〟



 リーンは確かにそう言った。



 元は子供達の為に賊に堕ち、娼婦紛いのことまでしていたのに気付いた時には自分を第一に考えるようになっており、皮肉にも守るべき子供達は自分で死なせた。

 その事実は既に〝壊れて〟いたリーンの心を粉々に打ち砕いたらしい。



 俺は無言でリーンの願いを聞き届けると、そのまま仰向けに寝転がったリーンの胸に剣を突き立てた。



「ごふっ……助、けて……もらった……い、命っ、なの……に……無駄に、しちゃっゴホッ……て……ごめん、なさい…………あ、ありが、とう……冒険者の、お兄……さん…………」

「「「……………………」」」



 こうしてコーザ達の村の一件は何とも後味と胸糞が悪い結末を迎え、俺達はそれぞれ複雑な感情を胸に帰還したのであった。




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