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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
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第94話 女盗賊と子供達 前編

遅れました……

長くなったので二つに分けたのと、鬱、グロ注意です。



 気絶していたセーラを起こして詳細を聞いた俺はエルティーナにアクアを加えた三人で再びコーザ達の村に赴くことにした。



 別に奴等がどうなろうと知ったことじゃないし、エルティーナのように決着をつけたいって訳でもない。



 ただ……ムクロは南に行きたがっていたからな。

 あの村は町の南に位置する。もしムクロが途中で村に立ち寄ったり、近くを通って襲われたりしたらと思うと……



「……何だろう、この感じ……あいつに悲しい思いをしてほしくないなんて……ジル様じゃあるまいし……」



 ムクロと何かがあった日以来、妙にムクロがちらつく。

 今まで、ジル様の姿がちらつくことはあってもあいつのことを考えるなんてなかったのに……



 ――……って、俺、今無意識に好きな人と比べてた……? これじゃあまるでっ……



 まるでムクロのことまで好いてしまったようだ。



 そう思ってしまった俺は爆走する馬車の中で荷物に軽く頭を打ち付ける。



「? どうかした?」



 確かに気になる相手ではあるけど……そういう気になる、じゃない……筈。



「……シキ?」



 そうだ……ジル様にはあんなことやこんなことをしたいし、一生隣に居たいって思うけどムクロには……ん?



 …………。



 ……俺、ジル様にそんな邪なことしたかったのか。

 冷静に……いや、冷静とは言えないけど、真面目に考えて今気付いた。



 控え目に言っても最低だな俺……いや、でも普段がさつなのが本人なりの強がりってところも本当は凄く優しくて乙女チックな一面を持ってるところも魅力的でその上めちゃくちゃ強くてビビるくらい可愛くて格好良くて……それら全部が悲しい過去によって作られたのが可哀想で、向こうの方が強いのに守りたくなるような気持ちがどんどん…………



 ――……あぁ、俺、本当にジル様のこと好きなんだな。



 ジル様のことを思い出している内に拙いながらも思いが止まらなくなり……心の底からそれを自覚してしまった。



 こうなるのが嫌だったから今まで思い出さないようにしていたのに。



「……あれ? 俺、何でそんなこと……あ、ムクロのせいか。クソっ……胸の奥がムズムズする……!」

「……大丈夫?」

「うおっ、ビックリしたっ」



 ジル様だけでなく、ムクロのことを考えると何故か心臓の動きが激しくなるので余計に混乱し、悶えていたところをアクアに心配されてしまった。

 どうやら先程から声を掛けていたようだが全く気付かなかった。



「何かあった?」

「……いや、何でもない」

「そう」



 現在、俺達はエルティーナが個人的に所有しているという馬車を使って南下中だ。

 御者はエルティーナ。流石貴族と呆れれば良いのか、そんな技術も持っているのかと感心すれば良いのか悩むところである。



 ついでに言えば急いているのか、些かスピードが早いところも悩みどころだ。時折聞こえる悲鳴みたいな音や何かにぶつかったような謎の衝撃は……まさか魔物を轢き殺してるんじゃないだろうな?



「そういや、俺達に付いてきて良かったのか? 一日か二日とはいえ、町から離れるし、胸糞も悪くなる結果になるのも目に見えている。付き合うこともなかったろうに」



 言外にしかも相方が相方だしな……と言いつつ、問う。



「構わない。リーフ達ほど嫌悪してないし、二日で出来ることは少ない。それに、盗賊討伐は強さに関係なく儲かる」

「……そうか」



 見ているとわかるが、アクアはリーフ達と同じくエルティーナや貴族を嫌ってはいるものの、どちらかと言うと嫌いというよりは敬遠しているような印象を受ける。



 以前、それが気になって訊いてみたのだが……アクアは貧民街の出らしい。

 だからあまりに育つ環境が違い過ぎてウザいとか偉そうとかの前に先ず羨望の念を抱いてしまうのだそうだ。



 そんな自分が嫌で意図的に避けている……とか何とか。

 そりゃまあ、元々は男娼までやっていたらしいからな。生きるために仕方なくしているところをリーフに拾われて冒険者になったって聞いたし。



 本人はその日、偶々誘ったのがリーフで良かったって言ってたけど、リーフはリーフで「一発幾らとか言われた時はぶん殴ろうかと思ったぜ」と言っていて、不謹慎だが笑ってしまった。考えさせられる話ではあったがな。



 平和な日本で育った俺からすれば身体を売らなければ生きられなかったというアクアの気持ちなんかわからない。

 可哀想だとも思うし、可哀想だと思うこと自体が失礼だとも思う。

 


「……何?」

「いや、別に」



 形容し難い感情で見ていたからか、少し不思議がられてしまった。

 顔なら《仮面》と《演技》スキルで誤魔化せるんだが、目だとどうもわかりやすいらしいな。



 ……まあ兎に角、アクアはリーフ達程、貴族を毛嫌いしていないということだ。戦闘時でも最低限の連携くらいは取れるだろう。

 


「歩いて半日と少しの距離でこの速さなら……そろそろだな」

「少し気持ち悪い……」

「確かに……幾らなんでも飛ばしすぎだ」


 

 今まで無心に進行方向を向いているな、と思っていたら酔っていたらしい。

 生憎、やたらと揺れる船に乗るか全力で回転でもしない限り酔わないタイプである俺は口を抑えているアクアに苦笑しながら村の方を見据えた。
















 村のずっと手前で馬車を止め、徒歩で向かってきた俺達だったが村に入っても即座に襲われることはなかった。



 まあ村というよりは……



「最早、廃墟だな」

「……酷い臭い」

「元々ボロボロになっていたとはいえ、これは……」



 かつてあった木造の建物や以前エルティーナが作らせた木の柵、バリケードは見るも無惨に朽ち果てている。

 崩れた廃屋や焼け跡のようなもの、そして、アクアが気にした臭い……余程のことがあったと見える。



 ――これは……かなりキツいな。何かが腐ったみたいな……チッ、人か。



 俺は無言で布を取り出すと仮面の下の口元をマスク代わりに覆った。

 仮面がある分、アクア達よりかはマシなんだろうが我慢出来るものじゃない。



 近くに倒れていた人()()()ものから目を反らし、努めて状況の把握に徹する。



 建物の殆どは崩れているか、木炭のように黒ずんでいるかで一見、人の気配はないが……



「アクア、どうだ?」

「……居る。背後の草陰に一人、右の……二軒目の廃屋の中と外に二人、それと正面の木の上に一人。低レベルだけど、木の上に潜んでるのは気配を消すスキルを持ってる」



 何を思ったのか、エルティーナが「誰か! 生きている者は居ないか!」と声を掛け始めたから俺達が来ているのはわかっている筈だ。

 


 何故出てこないのか、考えられるのは二つ。



 体力が尽きており、動けない。

 盗賊であり、俺達の隙を狙っている。



 まあこういう時は……攻撃してみればわかる。



「っ!」



 そう考えた俺は無言で安物の短剣を取り出すと背後に向けて投げた。



 当てるつもりはないが軽く殺気も織り混ぜたので向こうの行動次第で決まる。



 と思った直後、ガサガサっと草むらの中で何かが動くような音とヒュッという何かが飛来してくるような音が聞こえてきた。



「っ!? シキ!」



 アクアの焦ったような顔を横目に飛んできた矢を振り向き様、手甲で弾く。



「ビンゴ。……つくづく盗賊と縁があるな、俺」

「流石っ……」



 俺が納得の声を上げるより先にアクアは《縮地》で飛び出していた。

 見ればエルティーナの方も廃屋に潜んでいた二人を捕縛している。馬鹿正直に声を上げていたのは「襲ってくれ」という合図だったようだ。



 さて、《直感》以外に察知系のスキルを持っておらず、見せられる遠距離攻撃手段を持ち合わせていない俺がとれる選択肢は少ない。



 しかし、今の行動で普通の盗賊と知能も経験も技術も大して変わらないことがわかった。

 既に後手に回ってしまった以上、演技ということもない。ならば余裕で対処できる相手だということだ。



 アクアは木の上から矢を射ってきた奴と、エルティーナは廃屋の二人と交戦、捕縛している。順当に考えれば俺は背後の奴を狙うのが筋だろう。



 ――これまでに見てきた《縮地》の動きを模倣……こう、だな。



 戦闘中の技能や経験はスキルになりやすいっぽいので、強くそれを意識しつつ、足で地面を押し出すようにして突撃した俺はそのまま長剣を抜刀。勢いに身を任せ、近くの木や草むらごと潜んでいるであろう盗賊を叩き斬った。



「いっ!? ~っ……ギャアアアアアアッ!?」



 運悪く、もしくは運良く太刀筋から外れていたらしく、俺の剣が斬ったのは周囲の遮蔽物と盗賊の腕だった。

 遅れて聞こえてきたのは喉が潰れるのではないかと思うほど大きく……()()声。



 違和感を感じて宙を舞っている腕を見てみれば、やはり子供のそれだった。



 内心、少しだけ動揺しつつもボトッ、と地面に落ちたと同時に魔法で作り出した風を叩きつけて草を飛ばす。

 


「いっあああぁぁぁぁ……っ!!」



 次第に盗賊の全貌が明らかになった。



 声にならない悲鳴を上げて倒れていたのは少年だ。

 それも十前後。つまり……小学生くらいの子だった。



「っ……これは流石に来る……なっ!」



 大人でも腕を斬り落とされれば正気ではいられない。子供なら尚更だ。生かしておいてもろくな情報も持ってないだろう。

 そう判断した俺は追い討ちを掛けるように疑似《縮地》を使って肉薄。これ以上苦しむことがないようにその首を飛ばした。



 アクア達の方に戻りながらも思わず首のない少年の身体を何度も確認する。



 ――肌も服も汚いし、短剣も持ってる。手のひらには剣を振る者特有の豆だってある……間違いない、盗賊だ。だから、問題は……



「うっ……」



 まだ遊びたい盛りの筈の小さな子供を斬った。



 その事実が既に狂っている筈の俺の思考を止めた。

 恐らく今襲われたら素人相手でも一太刀くらいは受けてしまうと思うくらいには精神的なダメージだった。



 雑念を振り払うように頭を軽く振りながらエルティーナが捕縛した二人とアクアの相手を見る。



「クソっ……貧乏くじ引いたのは俺だけかよ……」



 アクア達の相手は大人だった。

 とは言っても老人が一人に若者……それも俺と近い歳の奴が一人。そして、若い女が一人。



 皆、血走っていて俺達が誰なのかすら把握できていない様子だ。



 一方、こちらは若者と女に見覚えがあった。

 確か……コーザ達の特攻に付いていかなかった奴だ。壊れていたとはいえ、女達が戻っても覇気のない顔をしていたから覚えてる。女の方は比較的元気だったからそっちもだ。



「見知った顔の奴にガキ相手か……こりゃ俺以外なら折れてたな……」



 二度と……とまではいかないが、もう会うことはないであろう他の異世界人を指した俺の小さい呟きは後ろから挙って押し寄せてくる盗賊達の雄叫びによってかき消された。





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