表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
90/334

第87話 黒斧と絶剣

遅れました(汗)

急いで書いたので誤字脱字矛盾があるかもです。確認したら修正します。



 ムクロが空に灯した青白い太陽を背に俺は飛んでいた。いや、正確に言えば跳んでいた。



 魔力回復薬をがぶ飲みしながら魔粒子ジェットを使った大ジャンプと落下速度を殺した着地を繰り返し、一先ず安全だと判断出来る場所を探していたのだ。



「むにゃむにゃ……う~ん……怖いよぅ……」



 背中には絶賛爆睡中のムクロも居る。

 余程、あの『何か』が恐ろしかったらしく、夢の中でも震えている。……それと同時に俺の首を万力のような力で締め付けてくる。



「ぐっ、えっ……こいつっ……」



 不気味過ぎるのとルークやプルの顔がちらついて攻撃する気になれなかった俺が全速力で逃げ出してから三十分程は経つ。『何か』は既に見えなくなったが、普通のジンメンの姿がチラホラと見える点から未だにジンメンの生息範囲からは抜けてないことがわかる。



 が、こっちも死活問題だ。このままムクロに首を絞められれば死んでしまう。



 そう判断した俺は一端地面に降りると近くのジンメンに注意を向けながらも本気でムクロの細腕を掴んで何とか引き剥がし、再び跳躍を開始する。



「ったく。一々、人を殺しかけやがって……この細い腕のどこにこんな力があるってんだ」



 臭いは兎も角、背中に感じる魅惑的な柔らかさも握っている腕も女性特有のもので、耐性もなければ経験もない俺からするととてもクラクラしてくる。

 身体は女であっても振る舞いは女じゃないから襲ったりってのはないだろうが……



 とはいえ、ムクロが居てくれたからこそ今の俺があると言っても過言ではない。

 ムクロが居なきゃ俺は死んでたし、盗賊の時も矢を受けていた筈だ。『何か』を相手にしている時のように自分の方が強いだろうに恐怖に負けて逃げ出す羽目になっていたとしてもあまり文句は言えない。



 全ては俺の弱さが招いたこと。



 ――少し動いた程度で方向感覚が狂い、突如現れたジンメンに対処出来ず、敢えなく……いや、逆にあれで良かったのかもしれない。俺が北の方に行かなければジンメンの殺人胞子に気付けなかった。あいつらは俺の忠告を聞かなかった。だから……



 ……だから、何だろうか?



 ジンメンの生態が全くわからない以上、あの『何か』のこともわからない。

 何故ルークやプルの顔があったのか、何故『何か』……いや、人面型のジンメンの目撃情報が報告になかったか、何故人面型があの場に現れたのか……




 ――何もわからないのに何が良かったとか悪かったとかはねぇよな。人面型の全身に出ていた人の顔が何なのかは知らないが、十中八九あいつらは……ルークとプルは死んだ。ジンメンに食われて取り込まれた、実はあの殺人胞子で死ぬとジンメンになる……憶測だけなら幾らでも浮かんでくる。今はただ安全圏に辿り着ければそれで良い。



 と、そこまで考えてから気付く。



 俺は罪悪感を感じていた? あの二人は自分の選択で死んだ。他の奴等も死んだかもしれない。リーフ達だって……



 ――俺は何を思って、何を感じたんだ……?



 そもそも俺は何がしたかった? 冒険者じゃないのは確かだ。最早消えかけてる日本に居た頃の、学生の頃の憧れから確かに多少はやってみたかったが少し違う。

 俺は……一人で旅をしてみたかったんじゃなかったか? そうだ……異世界で折角自由になれたんだ。ならジル様のように自由に生きたいってそう思っていた筈……何で俺は……



 我が身ながら自分の思考ややりたいことがわからず、チラリとムクロに目を向ける。



「えへっ……えへへ…………わ――らい……? ――母……さま……お父――……大――……す」



 夢の内容が変わったらしく、先程とは打って変わって愛しそうに、優しく抱き着いてくるムクロ。

 まるで親や人生のパートナーにするような優しい抱擁。自分ではない誰かを想っているとわかっていても何故かとても心地よく感じる。



 ――こいつに関してもそう……俺は何でこいつにだけ甘いんだ? 多分、他の奴なら最初の時点で見捨てた。誰がどう死のうが俺には関係ない……目の前だろうと俺に害が及ばなければどうだって良い。俺はそういう人間だ。『闇魔法の使い手』としての素質云々関係なく、俺は俺さえ良ければそれで良い人種……の筈、なのに。



 何故かはわからないがムクロを見ていると守らないといけないような気持ちになる。向こうの方が圧倒的強者なのに。……この感じはジル様以来だ。あの人は壊れていた。元はただのお姫様だったのに悲劇に見舞われ、挙げ句には俺と同じ狂気に取り憑かれて……それがとても可哀想に感じて、俺は……



 ムクロも過去の何らかの出来事で壊れたんだろう。

 出なければ自分の名前を忘れるなんてことは絶対にないし、何日もその辺で寝るような奴にはならない。



 俺は初めてムクロと出会った時からムクロにだけは優しくしなければいけない気がしていた。

 例え……何があっても。

 


 ……待てよ、何があっても……?



 ――……あぁ、そうだ。この感じは……《直感》。……こいつは俺の人生に何らかの影響を与える。初対面の時点でそう直感したのか……? なら……何故最初は見捨てようとしたんだ? 《直感》の感覚がわかるようになった今ならこいつが……ムクロが俺に与える影響はとてつもなく強大で恐ろしいものだと告げているのがわかる。



 ある意味当然かもしれない。

 ムクロは魔族だ。それもかなり高位の。



 なら俺がこのままムクロと一緒に居れば自然と俺も魔族側に取り込まれるのも容易に想像がつく。今は貴族ではないと言っていたが、もしムクロが魔族の貴族なら魔国に貢献しなければいけない筈だからな。

 そして、俺は魔王を殺しに来るライと……



 ……………………。



 駄目だ、思考が纏まらない。

 次から次へと色んな疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。



 魔力を使って回復してを繰り返してるからか、あっちの世界なら着地した瞬間にぺしゃんこになるであろう距離と高さで跳び続けているからか、人面型の顔に見知った者があって精神的にキツかったのか……あるいはそれらを含めた全ての疲労で脳が参ってるのか。



 どうも《直感》の使い方を間違えているような気がしてならない。



 何かが違う。



 他ならない《直感》が告げている。

 しかし、何が違うのかはわからない。そもそも《直感》自体、殆ど謎に近い力なのだ。わかる筈もない。



「クソッ……〝敵〟も方向もわからなければ自分のことまでわからないなんて……苛々する……」



 まるでゴールがないとわかっている迷路に閉じ込められたような気分だ。

 延々とグルグルグルグル無駄なことを繰り返して……



「うにゅ……何怒ってるんだぁ……?」



 言い様のない漠然とした苛立ちを覚えているとムクロが起き出した。

 どうやら起こしてしまったらしい。



「起こしたか、悪いな」

「いや……夜明けだ……これでも吸血鬼だから……ふぁ~あっ……な。嫌でも起きる」



 そう言うや否や、地平線の彼方から光が差し込んできた。

 ムクロの言う通り、夜明けだ。



「……そういや、お前吸血鬼なのに日光浴びて大丈夫なのか?」

「今更何を言ってるんだ……? んぅ~っ、私は真祖だからな~……吸血鬼化した奴と違って日光を浴びても問題ないんだ。ちょいとヒリヒリするような気も……んっ、するがなぁ……」



 思い切り伸びをしながら答えるムクロ。

 確かに今更だったな。



「……なら質問ついでにちょっとした疑問良いか?」

「良いぞ、どうせ暇だし」



 昨日の時点で北に向かってしまっていたことはわかっていたので、人面型やジンメンと遭遇した平原と森を迂回するようにして南に向かっていることもあり、ムクロではないがかなり暇なのである。

 真東が飲まれていたのなら町ももう安全とは言い切れないしな。



 何人かの知り合いが脳裏に浮かぶものの、直ぐに消えた。

 俺は余程同情でもしない限りは冷徹な人間……じゃないな、魔族らしい。



「俺の故郷では吸血鬼はニンニクが苦手だとか銀が苦手だとか聞くんだが本当なのか? 棺で寝てるってのも聞いたことあるんだが」



 故郷ってか世界かな。まあ、そもそもその辺の話は国によって違うらしいけど。



「そのニンニクってのは何なのか知らんが銀が苦手というのは初耳だな。私の城では銀製のもので溢れてた気がするぞ。スプーンとかフォークとか」

「ほう……あ、後は十字架が嫌い、棺で寝てる、心臓に杭を打たれると死ぬってのも聞いたことあるな」

「確かに十字架は嫌だな、昔からの聖神教の行いを知ってると何となく。棺で寝るってのも初耳だ。全身痛くなるだろうし、そもそも息出来んだろ。最後のは……そんなもん打たれて死なない奴居るのか?」

「ははっ、確かに」

 


 聖神教の奴等は魔族や獣人族を物凄く嫌う。そういう奴を生きたまま捕らえた場合、何故か十字架に架けて嬉々として焼き殺したがるらしい。それを思い出すから確かに嫌な感じはするし、言われてみればそういう種族ってだけで殆ど人に近いから呼吸も必要だ。心臓に杭打たれたら誰だって死ぬし。

 異世界だし、もう少し不死身そうなイメージだったんだがなぁ。



「まあ、何千、何万もの生き物の血を吸った奴なら無事かもな。案外、何百とかでも無事かも。吸血鬼ってのは生き血を吸えば吸うほど強くなるらしいからな。だからこそ吸ってみたいんだが。……んぁ~」

「へ~、変わった生態……っておいバカ噛もうとするなっ。それ以上強くなってどうするっ」

「あむあむあむ……」

「あ、甘噛みも止めろっ、くすぐったい!」



 寝ぼけてるのか、はむはむと甘噛みして舌をレロレロと動かすムクロに抗議している内に首にガブッと結構な激痛が走った。



「いっ!? ……あ、あの~、ムクロさん?」

「んっ……! んっ、んぢゅううぅぅぅっ!」

「うぉおいおいおいおいおいっ!? めっちゃ吸ってるっ! 吸力が凄い!」

「んくっ、んくっ……ぷはぁっ……初めて飲んだが美味いなっ!」

「……童貞だからとか言うんじゃないだろうな」



 フィクションだと童貞や処女の血は特別視されるのは何故なんだろうか。

 何が元ネタなのかは知らんが、それでからかわれていては敵わん。



「そんなもん気にするのは聖神教ぐらいだ。我々吸血鬼は基本的に雑食だぞ。……レロレロ」

「人の生き血を吸うのは雑食の内に入るのか……? うぉいっ、舐めるなっ」

「や()

「……今、結構血ぃ出たよな? 割りと大怪我な気がするんだけど」

きにふるふぁ(気にするな)

「気にするわっ!」



 吸血鬼化とかしないよな俺……等と考えながらムクロの頭を痛む首から離し、傷を撫でる。



「ぷはっ……ふん、安心しろ。吸血鬼にするなら他にも色々スキル使ったり、儀式したりする」

「儀式……? てかちょくちょく心読むの止めろや」

「お前がわかりやすいのが悪い。……まあ、儀式と言っても魅了して忠誠を誓わせるだけだが」

「……お前、前科あるの忘れてないだろうな?」

「何のことやら」

「テメェ……」



 そこまで話したところで日の出から完全に太陽が姿を現したので暫しの間、無言になる。

 しかし、それはそれで気まずかったのか、今度はムクロの方から質問してきた。



「……そう言えばなんだが」

「ん?」

「お前のその話し方は私を真似てるのか?」



 聞かれて思い返すと確かに普段のムクロっぽい口調で話していたことに気付いた。



「……真似ていたつもりはなかったんだがな。距離を置きたいと思っている内に自然と被っていたらしい」

「ふっ、青いな」

「何がだよ」



 と、イチャイチャから日本だったら事件になるほどの流血沙汰、次に下らない問答へと移った直後。

 地上でとろとろと歩いていたジンメン達が凄まじい速度で動き出したのが見えた。



 どいつもこいつも俺達を認識しているかのようにこちらを追い掛けてきているようだ。



「……日光に反応するのか。あいつらは」

「常に必要な風と逃げる為の足にそれを為す体力……厄介だな」



 二人で観察するものの、それくらいしかわからない。



「擬似太陽は……っと、もう消したのか」

「消耗激しいし、本物出たから良いだろ」

「まあな」



 青白かったとはいえ、炎で構成されてたから作ったついでに落としてほしかったんだが。

 まあ俺が何とかするって言ったし、ちょっとした実験と気になることの確認も兼ねて……あの武器達を試してみるか。



「降りるぞムクロ。面倒だから殲滅する」

「別に構わんが……魔力は持つのか?」

「腹ん中がぽちゃぽちゃ言ってるけど、大丈夫だ」

「大丈夫じゃないだろそれ」



 等と話しつつ、地面に着地する。

 例の奇声を上げながら全方位から走ってくるジンメンの位置と方向を確認した俺はマジックバッグからオーク魔族のゲイルが持っていた禍々しい黒斧を取り出した。



 ゲイルを殺した後、俺が興味深げに黒斧を見ていたのを覚えていたらしいクロウさんが戦争後に拾い、マジックバッグに入れてくれていたのだ。



「よい……しょっと」



 奴は片手で軽々と持っていたが俺は両手じゃないと扱い辛い。全身の剣もマジックバッグに収納しないと邪魔になって振り回すことも儘ならなそうだったので、ついでとばかりに魔法鞘以外の武器は全て収納した。



 練習がてら少しだけ振り回してみる。まるでムクロに見せびらかすように。

 この黒斧への反応でムクロの正体に一歩近付くというのもあるが、ゲイルは例え魔族で『無』属性魔法の使い手だったとしても現地人にしては強すぎた。これを使っていればその秘密を少しでも知ることが出来る筈だ。



「お? お前が斧を使うなんて珍し……おいシキっ。その斧、どこで手に入れたっ?」



 予想通り、食い付いてきた。

 これでムクロは魔国でも上層部の存在だということが確定した。本人は元貴族なだけで現在は違うくらいのことを言っていたが今の反応でそれも少し怪しくなったな。



「さて、どこだったかな」

「しらばっくれるなっ」



 怒っているような素振りはなく、純粋にどこで手に入れたのかを知りたいと言った感じなので事実を言っても問題はなさそうだ。



「……少し前に会った豚野郎から奪った。知り合いだったらすまんな」

「そいつは……今どこに?」

「今頃は地獄だろうな」

「そうか……奴は死んだのか」

「ああ。俺が殺した」

「…………」



 俺が、と余計なことを言っても特に言及はなかった。怒りもしないということはゲイルを一方的に知っているだけか知り合いというだけで仲が良かった訳ではないということだ。

 見ればジンメンが来るまでもう少し時間はある。……踏み込んでみるか。



「奴とは……ゲイルとはどういう関係だったんだ?」

「何、私が一方的に嫌っていただけだ。争いを好み、各地で戦争を引き起こしては戦果がどうとかどいつが強かった等と下らないことを……」



 確かに殺しあいを楽しんでいたようにも見えたが……どちらかというと死に場所を探していたような感じもした。

 ジル様や俺のように戦いの中でしか生を実感出来ず、楽しむことが出来ない奴も居る。何だかんだ奴も苦しんでいたんだろう。



「そう、か……アレが死んだのなら……奴等が騒ぎ出しそうなものだが……」


 

 出来ればゲイルとの上下関係が知れれば良かったんだがムクロはブツブツと呟きながら考え込んでしまった。

 アレ等と言ってはいるが嫌っているのなら頷けなくもないし、そもそもゲイルがどのような立ち位置だったのかは謎だ。クロウさんは奴を助けようとはしなかった。けど、オーク達のように完全な駒扱いしてた訳でもなさそうだったしな。今のところはゲイルとムクロの立場は対等か、ムクロの方が少し上くらいの認識で間違いはなさそうだ。



 知れば知るほど謎の女だな……と苦笑いしながら黒斧を構える。

 ジンメンはもう殆ど目の前まで迫っているし、鑑定してみた感じ、この斧と俺は相性が良い。案外、ゲイルがバカみたいに強かったのは俺と同じタイプの職業だったからかもしれない。



「んじゃまあ……殺るかっ!」



 俺は十メートルほど先で奇声を上げていたジンメンに向かって走り出し、両手で持った黒斧を力任せに振り切った。



「――ゴゥエゴエッゴッ!?」

「っ! ……か~っ、相変わらず使い、辛ぇっ!」



 両刃となっており、刃部分が殆どを占めるこの黒斧は振り回すだけなら確かに強い。柄はかなり長いし、刃は特別な金属で出来ているのか、やたら重いから遠心力が付くだけでも相当な破壊力を生むだろう。

 しかし、使い難さは剣や槍等とは比べ物にならない。



 俺が使ったことのある武器の中で最も使いやすいのは腕を振るだけで良い爪だが、逆に最も使い辛いと感じたのが両手斧だ。

 特にこの黒斧に関してはゲイルが振り回していた時も思ったが攻撃に特化し過ぎている。



 今のステータスなら片手でも振り回せなくもない。が、それをすれば俺まで振り回される。

 武器ってのは大抵慣れなきゃ武器の方に振り回されて十分な力が発揮出来るどころか下手したら弱体化する代物だ。

 


 得意武器を選ばない狂戦士が魔法を多少使えるようになっただけの職業である狂魔戦士の俺は斧自体に適性がない訳ではないのだが、如何せん俺の強みは圧倒的攻撃力とそれを生かすスピード。

 両手斧はその圧倒的攻撃力に集中し過ぎてスピードが死ぬ恐れがあるのだ。逆に剣ならば何本も持てるし、振れるし、何よりいざとなったら投擲することも出来るから多少スピードが落ちても問題ない。だからこそ、普段俺は剣を使っている訳で。



 ――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!



「うるっせぇっ!」



 とはいえ。

 相手は足は早くても物理的攻撃の速度は並み程度のジンメンだ。遅れはとらない。



 人面型と違って普通の奇声にしか聞こえないジンメンを横一閃に真っ二つにした俺は黒斧の勢いを殺さず、そのままぐるぐると回転して近くのジンメンを殺していく。



 首に該当するであろう部分の蔦だか木だかを伸ばし、上から噛み付いてくる奴には黒斧を少し持ち上げることで角度を斜めにして対応。

 直後に何匹かのジンメンが正面から首を伸ばしてきたが、無理やり黒斧を持ち上げ、それに引っ張られた俺の身体が空中で一回転するような形で噛みつきを躱す。



 瞬時にジャンプして縦に振り切り、同時に全ての首を切り落とす。

 が、勢い余って地面に突き刺さってしまったので、隙を作らないようにそのまま身体を任せて再び一回転。地面に足が着いたらその勢いを使って黒斧を持ち上げて目の前で大口を開けて噛みついてきたジンメンに噛ませた。



「ゴゥエッ!?」

「ありゃ、自滅狙ったんだけど、なっ!」



 上手く刃部分を噛ませて勝手に斬れてくれるのを期待したのだが、柄を回す力が強すぎたらしく、完全に一回転してしまい、結果として刃部分をちょうど真横に噛みつかせてしまった。



 少しだけ反省しつつ、蹴りを入れて後ろの奴等に返し、背後から迫ってきていた群れに再び回転で答える。



 ――目ぇ回さないようにとやらされたジル様の修行ってか拷問が効いたな。延々と回されて吐きまくってを繰り返して……目が回らない体質になって良かった。それに……



 やはり魔剣だったらしい黒斧の効果は、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 恐怖心が薄くなる代わりに常時攻撃力1.5倍。また、反動によるダメージを半減させる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 というもの。



 俺の弱点である、攻撃力の高さ故の反動ダメージというのは割りと戦いを左右する。

 それを恐怖心が薄くなるという代償だけで抑えられるなら寧ろただの強化だ。



 恐怖心が薄くなることで想像できるデメリットは例えばギリギリで敵の攻撃を回避した時に本当にギリギリの状態で躱せていて奇跡レベルの回避でも全く気付かないことや反動ダメージは少なくなってるからと攻撃ばかり意識して防御や回避に向く意識がなくなること等が挙げられるだろう。



 現に、俺は今何度かジンメンの噛みつきを躱したが何も思わなかった。

 腕や脚、頭を噛みつかれたら人溜まりもないであろう威力のそれをだ。



 牙のような鋭いトゲが生えているのを見るに、指や腕を噛まれたら失くなることは確実。

 そんな攻撃が目の前まで迫ろうが何も感じないというのは中々恐ろしいものがあるように思える。



 ――ついでに言えば俺やゲイルのような戦闘狂だとスイッチが入りやすい、だな。



 再度、回転していると身体を右に左にと激しく揺らしているジンメンが居たのが見えたので近くのジンメンの脳天っぽい部分に黒斧を投げつけて回転の力を緩め、即座に黒斧を回収したのち、距離を詰める。



 ――ま、生憎俺は雑魚魔物でも人を殺められる力は必ず有してるって点から対魔物戦闘だとあんまり余裕が生まれなくてスイッチが入りにくい。こちらに関しては人相手に使わなければ大したデメリットではないな。



 等と考えながら近付くが必死こいて身体を振っている奴はこちらには見向きもしない。

 よく見れば噛みつく為の口や牙のようなトゲもない。通常のジンメンとは言い難い見た目をしている。



「……? 変わった個体だな」



 通常のジンメンは木の蔓や蔦を集めて出来たような緑や黄色の木が幾つもある根っこを足のように動かしており、普通の木であれば枝が生えているであろう部分から口だけがある顔みたいな出っ張りが出ている。

 マリ○で言えば、花や草のないパッ○ンが触手みたいな根っこで走り回っているような感じだ。



 しかし、身体を振るこいつは口も牙もなければ、奇声も上げないし、攻撃もしてこない。

 全身には巨大な草や葉っぱが生えていて、身体を振ると同時にそれらを団扇のように振っている。

 


 その形状と生態から「もしや」と警戒し、風を強めながら接近したが……ビンゴだ。

 風を飛ばしているから見え辛いだけで注視すればわかる。



 ――こいつの背後にあの殺人胞子が粉雪のように舞っている……!



「お前ら……通常の噛みつき個体と胞子を振り撒く個体、あの人面型の特殊個体とそれぞれ役割があるのか! ははははっ、面白い生態だな!」



 殺人胞子は吸わなければ問題ないと冒険者ギルドも言っていたがこいつの……散布型の情報はなかった。



 ――出来ればもう少し見極めたい。が、今のところわかったのは役割別に個体の容姿が分かれていることぐらいだ。人面型のこともあるし、深追いは危険。安全を考えれば触れずに殺すのが一番……!



 そう考えた俺は後ろから口を開けて迫っていたジンメンを跳躍して躱し、落下時の勢いを乗せて黒斧をジンメンごと散布型に叩き込んだ。



「……ッ!? ……ッ!! …………」



 通常型は両断されれば直ぐに動かなくなるのに対し、散布型はビクビクと痙攣した後に動かなくなった。



「首を失った人間みたいな反応だな」



 見下すように通常型ジンメンの死骸が乗っかっている散布型の最期を見届けた後、ふと周りを確認してみれば辺りに居た通常型ジンメンが半分ほど挙ってこちらに向かってきている。

 残りは数秒硬直し、逃げ出しているようだ。



「散布型はリーダー的役割を持っている……? にしては半分くらいは向かってきた……」



 向かってくる奴等は一様にあの奇声を上げている。

 何度も何度も、絞り出すように。



 ――はっ、怒ってるのか、植物のくせに。……ならば、という訳ではないが武器を変えさせてもらおうか。



 通常型と散布型を半ばまで引き裂き、刺さったままの黒斧を放置した俺は魔法鞘からジル様の刀剣を抜刀した。



 深紅の刀身が昇っていく朝日に照らされ、紅い煌めきを強くする。

 熱を発している訳ではないのに握っている手がカッと熱くなるような気すらする。



「確か……適性があれば炎を纏う、だったな。ジル様は『無』属性……ああ、そういう意味での適性か」



 いつだったかジル様に聞いたことを思い出し、『火』の属性魔力を刀剣に注いでみれば――



 ――瞬時に刀身が赤熱化し、熱を放ち始めた。



「「「「「ゴゥッ!?」」」」」



 刀身が放つ熱気はジンメンにとって嫌なものなのか、同時に奇声を中断させ、固まった。

 その隙に魔力を強めると、今度は刀身の先から真っ赤な……それこそ紅蓮のように猛火が剣を形取り始める。



「………………くはっ、○イトセ○バー……いや、ビー○サーベ○か? 手は熱くないけど、この熱さは何とかならないもんかねぇ……?」



 ――俺にはただでさえ過剰な装備があるというのに今度はジル様の世界に七振りしかないとかいう刀剣と来たもんだ。



 あまりの熱さ、そして……剣から伝わってくる力強さに冷や汗を流しながらも苦笑する。



 剣先に生えた炎の剣が二メートルを越えた頃だろうか。

 《直感》で頃合いだと理解させられた俺は刀剣を横凪ぎに振るった。



 炎の剣が刃となり、まるで俺の爪斬撃のように飛来する。



 威力も速度も何もかも俺の攻撃を越えている炎の刃は一瞬で固まっていたジンメン達を両断し……発火させた。



 見れば切断面から勢いよく火柱が上がっている。



 飛ばした炎の刃はそれだけでは飽き足らず、逃げ出していたジンメンにまで到達。再び両断し、燃やした。



 直後。



 ――ズガアアアアンッ!!



 と、近くで凄まじい轟音が鳴り響いた。



「うわぁっ!? び、ビックリしたぁっ……何だよもう~……」



 離れた位置からムクロの驚いた声が聞こえてくる。

 それを無視して、どうやら爆発したらしい散布型の死骸とその背後に目を向ける。



 散布型の死骸から半径五メートル程度とその後ろは残った火の粉がちらほらと見え、吹っ飛んでいった黒斧が近くの草で燃えていた炎の中で妖しく光っている。



 ――散布型とその近くが燃えたってことは……胞子か。粉塵爆発……? 聞いたことくらいはあるけど……あれって確か密室じゃないといけなかったような……第一、あんなに燃えるのか? ……いや、ジンメンか胞子自体に発火性があるって方が妥当か。



 取り敢えず、ジンメンは当初の予定通り、殲滅した。

 これで進める。



「…………」



 俺は無言でジル様の剣を見つめていた。



 魔力の供給を止めたからか、一気に熱を失った刀身が鈍く光っている。



 ――ダメだな、やっぱり俺には過ぎた武器だ。黒斧は兎も角、こいつは強すぎる。俺の力じゃないのに、まるで俺が強くなったような錯覚までした。こいつに慣れるのは危険だ。当分はお蔵入りだな……



「クハッ……全く。何てものをくれやがる」



 魔法鞘に剣を納めていると、「さっきのはお前か! ビックリしただろ!?」といつもの調子を取り戻したらしいムクロがこっちに向かってきていたので、手ですまんと謝りつつ……小さくぼやいた俺だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ