第8話 スパルタ教育
長め
衝撃的な自己紹介を終えた俺達は早速訓練場へと足を運んでいた。
学校のグラウンド並みの広さがあるその場所は円形で形成されており、観覧出来るようにか、石材で出来た階段のような席が設けられている。
パッと見、訓練場というよりコロシアムのようだと感じた。
遠くの方では新人らしい騎士達が甲冑姿で走っている。
「……すげぇ臭そう。ガチャガチャ煩いし」
「どうやって洗ってるんだろうな」
「ち、ちょっと二人共っ」
「重そう……」
入り口付近で圧倒されていた俺達の元に青長髪のお姉さんがゆっくりとやってきた。
「はいは~いどうも~、魔術師団長のス・リンスです~。今日から皆さんのパーティにこの世界の常識と魔法、スキルについて教える担当の講師をさせていただきます~」
帽子こそないものの、その服装はまさにRPGに出てくる魔法使い。魔女のような茶色いローブを羽織った妙齢の女性だった。
「「「「よろしくお願いします」」」」
「うんうん、異世界人の方は礼儀正しくて良いですね~。さ、こっちに来てくださ~い」
力の抜ける話し方というか、やけに間延びする口調で話す人だ。
案内された場所……といっても入り口から少し離れた程度だが、訓練生の邪魔にならないくらいの位置にて、その場の草原に座らせられる。
リンスさんの後ろにはふよふよと浮いている黒板、鈍器として使えそうな杖に水晶玉と中々それらしい道具がある。
俺達の前には山積みになった木の板と羽根ペン、インクの入った瓶。
どうやら板書用らしい。
「何あの黒板……すげぇファンタジー……」
「羽根ペンなんて初めて見たね」
「木に書けるのかな」
「もう既に文明の力が恋しい……」
なんて、最初は囁き合っていた俺達だったが、問答無用で常識を叩き込まれた。
雰囲気も口調もふわふわしてるから優しそうな人かと思いきや、意外にもそんなことはなく……団長をするだけあって割りとスパルタな授業だった。
体感で二時間くらい続いただろうか。
この国がある大陸とその地理関係。他の国々が持つ特徴から情勢、イクシアとどういった関係なのか等々、国に対するものから日々の生活に関するあれこれに共通貨幣、物の大まかな相場、共通文字、その他etc……
使っているのは世にも不思議な浮く黒板だというのにやってることはいつもの授業と差程変わらず……とはいえ、スキルというチートがあるからか、はたまた全く知らない世界のことだからか、そこそこ楽しみながら終えることが出来た。
「《言語翻訳》先生、マジで口頭でしか使えないのな」
「英語の他に別の文字を覚えなきゃいけないなんてハードだよなー、俺達」
「でもあれだよね、するする頭に入ってくるからちょっと面白いかも」
「ぜ、全然わからなかった……」
小休憩中、他愛ない話をしている時に知ったが、相模改めリュウは俺達のように脳の処理速度を高めるようなスキルを持っていないらしい。
俺も雷も癒野さんもスキルの構成的に日本で身に付けた技術や癖が具現化してるようだし、そんな中ほぼ何もスキルがないと言われてしまうと何も慰められなかった。
王女には酷い酷い言われてたし、かなり残念なステータスなんだろう。
「知識はお金に変えられない宝ですよ~。ここ数百年は同じ人族同士で争っていますが~、今後他種族との戦争がないとも限りませんし~……? 覚えておいて損はないのです~」
俺達の会話を聞いていたらしいリンスさんが黒板に何かを書きながらチクリと言ってくる。
言い方こそ彼女らしいほんわかしたものであり、こちらを見もせずに言ったものだったが、戦争という聞き慣れない単語が妙に重苦しく響いた。
俺個人としては「やはり戦争の道具として俺達を……?」と思ってしまう。
雷達はキョトンとした顔でお互いを見た後、話題を変える為か、そういえばと質問した。
「他種族っていうと、どういう種族が居るんですか? 勝手なイメージだと獣人にエルフにドワーフに……あ、魔族と……えっと……ハーフリングとか妖精とかですかね?」
「獣人族居ますよ~。他に挙がったのは全部魔族に該当する種族ですね~」
一瞬だけ俺の方を見た雷に癒野さんと合わせてジト目を送りつつ、リンスさんが黒板の隅に描いてくれた簡単な絵に注目する。
何ともファンシーチックで可愛らしい絵だったが、獣人族には動物がそのまま二足歩行になったようなものや人の身体に動物の耳や翼、尻尾が生えた個体も居ることがわかった。
逆に魔族の方は獣人族よりも多種多様な種族が混成していて、魔物の数だけ居ると。因みに、絵は相変わらず可愛かったものの、やたら悪者風に描かれている。強弱はあれ、やはりこの国の人間は魔族を悪、怖い生物だと認識しているようだ。
「ただ……他種族とは基本的に仲が悪くてですね~……国内に居るのは殆ど奴隷だと思います~。人族よりステータスが高かったり、魔法が使えない代わりに妙な〝力〟を使ったり、個体数が少ない代わりに頭が良かったりで危険視されてますしね~」
何でも命令を聞かないと痛みや苦しみを与える首輪があるんだとか。
奴隷の生活や労働環境もかなり過酷で死人も普通に出るらしく、雷は微妙な顔をしていた。
流石に奴隷制度ありきで成り立っている国に文句は言えないが、それでも気分的に嫌なんだろう。
「あ~、勿論魔族は居ませんよ~? 『人類の敵』とか言われてますし~……あーでもエルフとドワーフなら……いや……うーん……やっぱり居ないでしょうね~……比較的私達に近い種族とはいえ、うちの国は上からして信仰心高いですし~」
これには苦笑いしか出来なかった。
俺の事情を知らないリュウは「へー……」なんて気の抜けた反応をしているが。
人族代表の国とか言ってたし、人族至上主義なんだろうなきっと。
げんなりしたところで魔法の授業へと移行した。
習うより慣れろということで、先ずは個々人が持つ適性のある属性とやらを調べる。
「それでは皆さん、順番にこれに触れてくださ~い。持っている属性と向き不向きがわかりますので~」
そう言って出てきたのはずっと後ろにあった水晶玉。
何の変哲もない玉にしか見えない。
リンスさんのローブと相まって寧ろ怪しいくらいだ。
「じゃあ俺から行きます」
「どうぞどうぞ~」
恐る恐るといった様子で雷が触れると、水晶玉は突如虹色に輝き出した。
中でも黄色い光が強いように感じる。
イケメン(笑)が光った時とは違い、優しい光だった。
「綺麗……」
癒野さんは感動していて、リンスさんは「はえ~」と目を丸くしている。
「全属性持ちは勇者なので良いとして……凄いですね~……全ての属性が一定以上の力を示しています~。特に『雷』の属性が強い傾向がありますが~、基本、どの魔法でも他者を圧倒出来る才能ですね~」
流石は勇者。しゅごいらしい。
属性は全部で八つ。通常の人間の場合は一つか二つ。それ以上の属性持ちは珍しいくらいの感覚のようだ。
リンスさんは「どんなに属性があっても素質がなければ~」みたいなことを言っていた。
続いて癒野さん。
「えっと~……『火』に『水』に『風』……『土』……『雷』……『氷』……属性魔法に類する全てですね~……素質は……あー……属性効果の付与くらいならまあってところでしょうか~」
種類は豊富。しかし、質が微妙に悪い。
評価的にはそんな感じのようで、癒野さんはガックリしていた。
戦える職業じゃないし、気にしなくても……とは思ったが、よくよく考えたらファンタジー世界だもんな。そりゃどうせなら使ってみたいわ。
「っしゃっ。次は俺だなっ」
「はい~」
無駄に勇ましく肩と首をパキパキ鳴らしながら触れる。
うっすらと……本当にうっすらとだが、赤と緑色に発光した。
この色は恐らく『火』と『風』。
才能は……?
「ゴミですね~」
リンスさん、意外と毒舌だった。
自分が魔法に長けてるからか、ほんわか笑顔にほんわか雰囲気で無駄に俺のハートを砕いてきやがる。
「これじゃ火種作ったり、そよ風を生み出すくらいしか出来ません~……戦闘ではクソの役にも立たないです~」
「うぐっ……め、めっちゃ刺すじゃないっすか」
「まあ勇者パーティですしね~」
素質を仮に五段階で言えば、雷はほぼ全てが四~五、癒野さんが二、俺は一くらいの認識らしい。
ショックで膝から崩れ落ちる中、親友らもそれぞれ反応を返してくる。
「ぶふっ」
「可哀想……」
噴き出す奴と憐れむような目で見てくる奴。
「おいコラ何笑とんねん勇者コラ。笑いごっちゃねぇだろ。後、癒野さん? 同情は止めて? 何で追い打ちすんの?」
俺のライフが削られる音が聞こえた気がした。
どうでも良いけど、《光魔法》と《闇魔法》は別枠なんだな。
スキルだからか?
「じ、じゃあ最後……行きます……!」
現実逃避に下らないことを考えている俺の横で、リュウが手を伸ばす。
「あれ……? な、何ですかね……この色……」
水晶玉は無色のまま光った。
何の色でもない。
これは……
「『無』属性……珍しいですね~……一万人に一人くらいの希少さです~……」
さしものリンスさんも雷の時並みに驚いていた。
九つ目の属性。『無』と呼ばれるように、一般的には属性扱いされていないらしい。
その希少さ故に研究が進んでおらず、わかっていることと言えば『無』属性に適性がある=他の属性に適性が無いこと、他の属性と比べて色々と劣っていること等。
リンスさんは少し濁していたが、所謂無能の魔法と揶揄されているようだ。
「とほほ……ステータス、職業、固有スキルに次いで魔法まで……酷い……」
あまりの運の無さに俺の横に崩れ落ちてくるリュウ。
「◯ラ撃ってみたかったな……」
「メ○言うな。撃てないのは俺もだ畜生。適性はあるのに……」
俺達は互いの境遇を嘆くように体育座りで残りの授業を聞いた。
リンスさんも雷も癒野さんも何と声を掛ければ良いのかわからなかったのか、触れられることはなかった。
笑ってくれるのはまだ優しさなんだと知った。
そうして午後。
身体を鍛える訓練をするらしく、俺達は昼食をささっと終えると、談笑しながら講師を待っていた。
「こっちの人間は長い詠唱が必要なのに異世界人は要らないとかそれだけでチートだよな。まあ俺の場合、これといった魔法使えないんだけど」
「重要なのはイメージ、ね……まあ僕の場合、使い方もわからないからイメージも何もないんだけど……」
「二人共暗いよ。てか優は良いだろ別に。前衛なんだから」
「私もバ○系の呪文使ってみたかったなー」
リュウともそれなりに打ち解け、それなりに仲良く待つこと数分。
講師を呼びに行っていたリンスさんが鎧は着てるのに兜は付けてないという変なおっさんを連れてきた。
他にも、全身甲冑の騎士やローブを着た魔法使い風の人が合わせて三十人ほどが後ろに居る。
変な、とは言っても部下であろうその三十人の統率のとれた動き、鎧の装飾が一回りも二回りも豪華なことから偉い人であることがわかる。
何より目を引くのはその巨体だ。
二メートル以上ありそうな身長に広い肩幅。鎧越しでも筋肉がこれでもかと詰まっていることが窺える圧。
目力も異様に強く、目が合うだけで睨まれたかのように錯覚する。
何と言うか……凄味のある人だった。
「お前並みに怖いな」
「黒堂君くらい目つきが凄いね。別の意味で」
「……親戚?」
三人が小声で言ってくる。
「バカにしてんのかお前ら。あそこまでじゃないだろ」
「「「ないない、何ならお前(君)の方が怖いよ。目つきが」」」
ハモってまで言われた。
酷い奴等である。
「お前達が俺の担当の勇者とその一行だな! 俺はイクシア王国騎士団団長のグレンっ! 平民だから姓名はないっ、よろしくな!」
おっさん改めグレンさんは開口一番、ニカッと歯を見せてほど豪快に笑ってみせた。
対照的にリンスさんが可哀想な人を見るような目で俺達を見ていることに気付き、何事かと顔を見合わせる。
各々、自己紹介した直後にその理由を知った。
思い知らされた。
「さあ! お前らッ! 先ずは三分以内に腹筋を百回! それを三セットだ! 何ぃっ? 女にキツすぎる? 休憩はないのか? 自分はステータスが低いだと? んなもん知るかッ! 後衛だろうと何だろうと先ずは体を鍛えろ! 体が出来上がってない以上勇者だろうが戦闘なんざ出来ん! 三分以内に出来なければ連帯責任だ! やり直しだぞ!」
「やり直し三回目で漸く終わったな? 随分、軟弱な奴等だっ……次は腕立て二百回! 七分以内に二セットずつ! 何ぃ? 休憩が欲しいだとぉ? まだ始まったばかりだろう!? 何が腹筋が痛いだ! 何度もやり直しているからそうなるんだろっ! どうしても痛むというなら、リンス殿に言え! 後ろのこいつらも回復魔法が使えるからな! 魔力回復薬もある! 回復の心配は要らん! これも期限内に出来なければ全員、やり直しだぞっ、心して掛かれぃっ!」
「よーし! 今度は二回やり直すだけで済んだかっ、まずまずだな! 次ぃっ! 背筋とスクワットを三百回! 二十分で全て終わらせろ! 何ぃ? いい加減にしてくれだぁ? 男なら気合いで何とかしろ! それが年端のいかぬガキであろうとな! 気合いがあれば大抵のことは出来るんだよっ! 女も同じだ! 女は度胸っていうだろうっ、似たようなもんだ! 死ぬ気でやれば出来ないことはない! どの道、回復魔法で痛みはもうないだろう!?」
それは訓練という名の地獄がだった。
し、死ぬ! 死んじゃう! だ、誰か……誰か助けてくれぇ!
俺、優遇されるんじゃないの!? こんなんじゃ暴走しちゃうよ《闇魔法》! ストレスを与えるのがアウトなんじゃないのか!? 癒野さんなんか白目剥いてるし、リュウは泡噴いてるぞ、大丈夫かあれ!?
「何だお前らもうバテたのか!? 魔王を倒すんじゃないのかっ、えぇッ!? おい、勇者! それで良いのか!? お前の気持ちはそんな程度なのか!? それくらいじゃそこで気絶してるお嬢ちゃんすら守れないぞ!? そして、お前! そこのデカい奴を見習え! さっきから他の奴の足を引っ張ってばかりじゃないか! 何回やり直させるんだお前は! あぁ!? 職業だとか太っているだとか運動は苦手だとかそんなのは関係ないだろうっ! おいおい男が泣くなっ! 気合いだ気合いっ! さあ、今度はこの訓練場を十周っ! 体力がなければ攻撃どころか逃げることすら出来ないからな! 少しでも休もうとすれば死なない程度に魔法で狙い撃ちするぞっ、気を付けろ!」
何を気を付けろというのか。
雷と俺は返事をする余裕もなく、癒野さんとリュウは回復魔法だかなんだかで強制的に回復させられ、尻を蹴られている。
「「ひいぃんっ」」
二人共号泣だった。
何なら鼻水まで垂らして酷い顔をしている。
雷と俺は武士の情けで見なかったことにした。
というか見る余裕がなかった。
すげぇな回復魔法。見た目はただの光る玉なのに当たった瞬間、気絶してた癒野さんがビクンッして起きたぞ。リュウは反応もなく倒れてたけど。
「よぉし、走り終わったな!? 五分の休憩をくれてやる! 何ぃ? 少ないだとぉっ!? まだやり足りないのかっ! そうかそうかっ、なら休憩はなしだ! さっさと立て! さっきやった内容をもう一……いや、二セットだッ!」
「ええいっ、何をこの世の終わりみたいな顔をしているんだお前ら! 勇者! お前が出来なくてどうする、少なくともお前はやれ! 絶対だぞ! おい、そこの嬢ちゃん! 言ってるそばから気絶するな! 何度気絶するんだ! さっきから泣いてばかりのお前も! 泣き言を言うなっ、それでもお前男か!? そこのデカい奴っ! お前は筋が良いなっ、気概もあるし、根性もあるっ! 中々見所のあるじゃないか! よし、特別にこれをくれてやる! 約五十キロのくさりかたびらだ! これを着けてやれば筋トレと走り込みは他の奴の半分で良い! さあ、着るんだ!」
俺は気絶した。
「ハッ……!?」
ほんの僅かな安息の後、身体を回復魔法の光が包んでいることに気が付く。
妙に温かく、それでいて筋肉痛のような痛みを訴えていた部位の熱が治まっていく。
これが回復魔法か。
これが癒野さん達の受けた仕打ちか。
一瞬、目の前が真っ暗になった。
「お前っ、誉めた側からこれかっ!? 増やすか!? 増やされたいか!?」
「い、いいえっ、やります! やらせていただきますぅっ!」
我ながらなんて情けない声だとは思ったが、泣きそうになりながらも何とかその後の訓練に準じた。
夕暮れ直前。
日は沈みかけ、辺りはすっかりオレンジ色の夕陽で照らされている。
俺達は汗と涙と鼻水と涎と土汚れにまみれた状態で転がっていた。
「うん? もうこんな時間か。初日だからと飛ばしすぎたな。よしっ、今日はしまいだ! 解散っ!」
がっはっはと笑いながら歩いていくグレンさんと「うわぁ……」みたいな目で見てくるリンスさん達に何かを言う気力すらなかった。
「はぁ……はぁ……はぁ……きっ……つぅ……!」
唯一肩で息をするだけで済んでいる雷は俺と同じ重りを着せられており、汚れるのも気にせずに大の字になっている。
俺もヤ○チャみたいなポーズで倒れているが、寝転がっていても重い防具を鬱陶しく思いこそすれ、疲れ過ぎててそれを脱ぐことも出来ない。
『風』の属性魔法であろう、見えない風の玉が直撃した背中の部分が凹んでいて食い込んで痛い。
『水』の属性魔法で作られた水の玉で全身びちょびちょだし、地面がぬかるんで汚い。
が、ダメ。
指一本すら動かせない。
回復魔法も効果が見込める回数限界のようなものがあるらしく、今日の訓練は全員が限界に達したお陰で終わったようなもの。
後半、完全に力尽きていた癒野さんとリュウは雷、俺の物言わぬ肉……もとい、重りとして活躍していた。
それまでの二人は運動が苦手ということもあって、何度も何度もやり直しを食らい、逃げようとすれば回復魔法込みで属性魔法をぶつけられ、心が折れ……途中に泣いて立ち止まった、あるいは座り込んだことがあった。
はいやり直しと嬉々として言われ、何とか走ってると言って良いような状態の俺と雷も流石に気力を奪われてぶっ倒れる。
すると、二人は迷惑になったと号泣しながら謝罪し、号泣しながら走り出す。
グレンさんは「何だっ、まだやれるじゃないか! 演技か!? お遊戯会か!?」と手拍子で煽りながら言ってた。
「「「「…………」」」」
ただただ時間が過ぎていく中、それぞれのメイド達が迎えに来てくれ、例のレベル差、ステータス差から全員ひょいっと持ち上げられる。
「うっ」
「い、痛いっ……痛いっすエナさ……んぎゃっ……」
「あうぅ」
「いっそ……ほ、殺して……」
三者三様ならぬ四者四様に苦笑いされながら運ばれ、食堂の椅子に座らせられた。
勿論、机に突っ伏し、椅子に倒れ、魂が抜けたようにボーッとする俺達。
この歳になって初めて人に飯を食わせてもらった。
気を遣ってくれたのか、シチューのような汁物メインで助かった。
まあエナさんには小声で「しごかれたね~……はい、あーんっ……あ、な、た?」なんて笑われたが。
屈辱だった。
心の中で泣いた。
異世界ハード過ぎんだろ……




