第85話 乱戦
し、執筆時間が取れない……(白目)
「伏せろッ!」
「っ!?」
俺が出した咄嗟の声に声を上げる間もなく反応し、伏せた少年剣士レドの後ろから迫っていたゴブリンの顔面に投げつけた短剣が突き刺さり、動きが止まる。
力無く倒れた次の瞬間にはコボルトが唸りを上げて噛みついてきたので左腕の籠手を盾にして長剣を顎に突き刺した。
「シキさん、あざっす!」
「深追いするな! 殺すんじゃなく無力化か戦意喪失を目的に立ち回れ!」
「はいっす!」
偶々近くに居たのがレドだったので、レドのフォローをしつつ、突如現れた大量の魔物を対処している俺だったが、チラリと周りを確認すればどこも似たような光景が広がっていた。
リーフパーティは襲い掛かる魔物をアクアが短剣を使ったヒット&アウェイ戦法で足を止めさせ、フレアが『火』の属性魔法で作った炎弾で周りを牽制し、リーフが大剣を一振りごとに魔物を薙ぎ倒して……と次々と屠っており、リーダーパーティはエルティーナと共にレドを除いた新人組を守りつつ、確実に敵の数を減らしている。
「クソ、どうなってやがるっ」
「ええい、次から次へと!」
「……キリがないっ」
続々と現れる魔物達の死骸は既に百を越えた。
リーフ達の攻撃寄りの働きで相当な数が減っている筈だが、一向に減る気配がない。
「貴様ら黙って身体を動かせ! 気を抜いたらやられるぞ!」
「だあぁっ、しつっけぇ! 何なんだよこいつら!」
「リーダー! 二~三匹そっちに行ったぞ!」
「おうよ!」
エルティーナ含めたリーダーパーティは守りを重きを置いた堅実な動きで魔物を足止め、戦闘不能にしている。
エルティーナとプルが盾になって敵を食い止め、ルークが弓と短剣を使って魔物の足をダメにする。漏らした敵はリーダーが二刀流の剣技でもって翻弄、切り刻まれて動けなくなり、後ろから来た魔物達に踏み潰されて死ぬ。武闘家のエイルと回復術師のアルは遠距離攻撃の手段がない為にそこら辺で拾った石を投げつけてルークの援護だ。
――即席にしちゃ上等! けど、俺の方にも援護……つか、レドだけで良いから預かってほしい!
新人ということもあり、レドの持っている剣は俺も召喚当初に愛用していた銅の剣であり、防具も革系のものばかりで心許ない。
俺みたいなバカ力があれば頑丈さだけが取り柄の銅の剣でも役に立つが、まだ動き方も知らない子供にそんな力がある筈もなく、必死に振り回してはいるものの、全く当たらないか、当たっても致命傷どころか大した傷にもならない。
それを俺が周りの魔物を長剣で牽制しながら短剣を投げて援護している訳だが……短剣の数にも限りがあるし、無駄が多すぎる。
本人は真面目にやってるつもりなんだろう。しかし、役に立たないんじゃ邪魔なだけだ。そもそもやたらめったらに振り回すから俺の方が近付けないし、危なくてしょうがない。
「レド! それじゃ鈍器だ! 落ち着いて相手を見ろ! 剣ってのは振り回すだけじゃなく突いたり、斬ったりも出来る! よく考えて動け!」
「は、はいっす!」
レドの後ろから現れた数匹のゴブリンを相手に長剣を横に薙ぐことでまとめて首を飛ばす。
間髪入れずに上から牙の生えた鳥魔物が爪を向けて攻撃してきたので、レドの足を払うことで転ばせて避けさせ、体勢を整えた瞬間に背中を晒した鳥魔物を縦に両断した。続けて横からオーガが体当たりを仕掛けてきたのは背中の大剣を力任せに投げつけて牽制&攻撃。
一息つく間もなく、後ろから二匹のコボルトが飛び掛かってきたので腰の長剣をもう一本抜いて両の切っ先を向け、自殺させる。
一方、運良く大剣が腹に刺さり、オーガの動きが止まったところを急いで立ち上がったレドが「うおおおお!」と声を上げて突撃していき、あえなく弱ったオーガに殴られてエルティーナ達の方へ吹っ飛んでいったので串刺しになっているコボルトに蹴りを入れることで長剣を抜き、投擲してオーガの胴体に当てる。
腕を振り抜き、無防備になったところをどこからか現れ、《縮地》を思わせる速度で突撃してきた鋭い爪を持った猫のような魔物の攻撃を身体を捻ることで躱しつつ、もう片方の手で最後の短剣を抜いて腹を撫でる。
自らの突撃で腹を裂いていった猫には見向きもせずに勢いそのままに空中で一回転し、体勢を整えてオーガの元へ肉薄。近くに居たゴブリンの顔面に飛び蹴りをすることで首をへし折り、重力に引かれて落ちながらも残った長剣をオーガの脳天に定めることで止めを刺す。
地面に倒れ込んだ瞬間、コボルトが今度は足に飛び掛かってきたので剣から手を離して地面に置き、無理やり身体を起き上がらせて再び空中で一回転。オーガの死体から抜いた長剣と持っていた短剣を後ろから来ていた二匹のオークの首に突き刺しつつ、コボルトの頭を踏み砕いた。
「ふーっ……漸く一息っ……」
次々と殺される仲間だか競争相手だかの姿に恐れを成したのか、襲い掛かってくる魔物が少なくなってきたので投げつけた武器達を回収しつつ、小休憩に入る。
といっても先程までの呼吸もまともに出来ない動きから全力疾走をしながら斬りつけるという単純な動きに変えただけだが息をつける間がある分、まだマシだ。
見ればリーフ達は兎も角、リーダー達は一塊になりすぎて互いの身体が邪魔になっているようだった。
「はっ、はっ……ふーっ……仕方、ねぇ……なっ!?」
しかし、加勢しようと一歩踏み出したところで足の力が抜け、カクンと倒れてしまった。
――何っ……!? 体力はまだ全然残って………………この、白い……粉……胞子!? いつからッ!?
突然の身体の不調に焦った瞬間、視界の端に白い胞子が舞っているのが見えた。
――ジンメン……の殺人胞子っ、イコール近くに居る! しくった……! こっちは北か!? 動き過ぎて方向間違えた!
出し惜しみしている場合ではないと魔粒子ジェットを背中から噴出して空中で舞っている胞子から離れる。
そして、【抜苦与楽】で吸ってしまった胞子を『抜』きつつ、声を張り上げた。
「ジンメンが近くに居るぞ! 気を付けろ!!」
俺が離れた位置で木にもたれ掛かりながら叫んだことに気付いたリーフ達は「マジかっ! なら俺達ぁ逃げる! 死ぬなよシキっ!」と一目散に逃げ出した。
俺の実力をほんの少しでも知っているが故の逃走だ。知り合いとなり、友人となり、仲間になりつつある奴等が死ぬのを見るのは忍びない。とはいえ、今の一瞬で俺の言葉の意味を理解し、信じ、撤退という決断を下したリーフは流石ベテラン冒険者。
問題はエルティーナとリーダーパーティだった。
エルティーナは兎も角、リーダー達は俺と知り合って日が浅く、信頼という信頼は殆ど皆無に等しい。その為、素直に信じたのは回復術師のアルに治療されていたレドだけで他は動こうとしていなかったのだ。
リーダーはリーダーで「何か証拠はあるのか!?」と疑っているし、ルークとプルは「んなこと言って! 俺達が倒した魔物を横取りするつもりだろ!」、「傭兵は金に汚いからな」と下らないことに拘っているし、新人組も血塗れでまだ立つことも出来ずにいるレドの「シキさんが来たっつってんだから来たんだよ! 逃げようぜ! 死ぬぞ!」という説得を信じようとしていなかった。
エルティーナに至っては、
「ふっ……ならば魔物は勝手に死に、一対一でジンメンと戦えるということ! ここは私が正義の鉄槌を下してやる!」
と、訳のわからないことを宣っている。
――だああっもうっ! 誰が一匹っつったよあんのバカっ! リーダーだって、なら何でさっきの俺の《直感》の忠告の時は信じたんだ!? 他は話にもならねぇし!
流石に面倒見切れないと判断した俺は言うことを聞かない身体を無理やり動かしながらそこから離れ……
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
という聞き覚えのある奇声を最後に意識を失った。
◇ ◇ ◇
シキが口を抑えながら身体を引き摺るようにして逃げていったのを見たリーダー一行は未だ魔物達に襲われていた。
「んの野郎、黙って逃げやがったぞ! やっぱり俺達の手柄を横取りするつもりだったんだ!」
「うぅむ。傭兵は傭兵か……」
ルークとプルは周囲の魔物達のまるで「邪魔をするな」と言わんばかりの決死の攻防に一切気付かず、口は悪くなりながらも冷静に対処していた。
「いや、決め付けるのは良くない。もしかしたら本当にジンメンが来ている可能性もある」
リーダーも新人三人組を守りながら上手く立ち回っている。
「なら何でこいつらは死なねーんだよ! 報告だと魔物も死ぬって聞いたぜ!?」
「それどころか胞子なんて見えやしない。リーダー、あいつの見間違えだと思うぞ」
なまじ強いが故に魔物達の必死さが伝わらなかった。
相手はゴブリンやコボルト、その他雑魚魔物ばかり。強くてもオークやオーガ程度しか居ないのだ。Bランクに位置する彼等ならば普段は無視するレベルの敵ばかり。何故挙って襲い掛かってきたのか等、考える必要もないと思っていた。
唯一、別の結論に至っていたのはエルティーナだった。
「違うな。シキの周りだけ胞子が舞っていたんだろう。奴は突撃したがるレド少年を守る為、雑魚魔物が……いや、ジンメンから逃げてきた魔物共が現れた北に少しずつ移動していた。当然、ジンメンも生息範囲だった北から来ている!」
どこか悲痛な雄叫びを上げて走ってきていたゴブリンとその上位種を斬り捨てながら叫ぶエルティーナ。
そう。幸か不幸か、エルティーナ達の居る場所からは胞子が見えていなかったのだ。
リーダー一行からすればシキが一人で勝手に北の方へと移動していき、勝手に喚き散らし、勝手に逃げ出したも同然だった。
シキとしては南に移動しているつもりがアクロバティックに動き過ぎて方向感覚が狂ってしまい、意図せず北の方に移動してしまっていただけなのだが、胞子やジンメンらしき強者の気配を感知出来ないのではリーダー達も信じようがない。
リーフ達三人はシキの言葉を即座に信じ、南の方に走っていったのも一緒に手柄を横取りしようとそれらしく見せたようにしか見えなかった。
「し、シキさんは嘘を言うような人じゃないっす! 俺を助けてくれたっす! だから、だからっ!」
「落ち着きなよレドっ、あいつは傭兵だよ!? 何でそんなに」
「れ、レドっ、動かないでっ、き、傷が開くよぉ……」
「むうううっ!」
頭から血を流しながら撤退しようと提案するレドを抑えるようにして黙らせるエイルとアル。
こちらもやはりシキの言葉が信じられず、唯一一人だけ信じてしまった仲間を哀れむような目でレドを見ている。
「ふっ、即死と言うから慎重に事を進めていたが……シキの様子を見るに少量なら問題ないようだな!」
現地人からすればシキの異常なまでに高いステータス値を知らないが故の言葉だった。
数秒後、好き勝手に宣っていた彼等はシキの言葉やリーフ達の判断を信じなかったことを、そして、恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出さなかったことを激しく後悔することになる。
――…………ゴ……ァ……ッ!
ビクリ、と魔物達とリーダーが動きを止めた。
「……おいっ、今、何か聞こえなかったかっ?」
「あん? 何だよリーダー。あんたまでビビったのか?」
「リーダーらしくないぞ」
「しっ! 黙れっ、静かにしろ!」
「「…………」」
リーダーがそう叫んだ直後、魔物達が突如攻撃を止めて駆け出した。
自分と魔物達の行動に肩を竦めている二人にリーダーは青筋を浮かべながらも耳を澄ませ……やがて、リーダーは確かに聞いた。
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
という、明らかに知っているものではない奇々怪々な音を。
「ヤバいっ! 何か来る! ジンメンかもしれんぞ逃げろ!」
同時に木の上からバタバタと鳥型の魔物達が落ちてくるのを目撃したリーダーの背筋にとてつもなく冷たいものが走った。
それどころか変な汗がダラダラと流れ、自然と息を飲んでしまう。
次の瞬間には白い粉が舞っているのが見えた。
目を凝らせば確かに見える。
それは既に目と鼻の先まで来ていた。
上から降ってくる魔物の死骸も先程から聞こえる奇声も何もかもが直ぐ傍まで。
リーダーの顔からサーッと血の気が引き、一瞬で青白く変化した。
「ヤバいっ!! ヤバいヤバいヤバいヤバい! お前ら急いで逃げろ! 武器も防具も全部捨て――」
――ドサッ。
咄嗟にレドを担ぎ、新人二人を抱き抱えたリーダーの耳は何かが倒れる音を捉えた。
振り返ってみれば……長い間、苦楽を共にしてきた仲間、プルだった。
微妙にジンメンが出している胞子の範囲内に居たプルはリーダーの言葉に反応する前に倒れた。
泡を吹き、激しく身体を痙攣させてもがき苦しみ……やがて動かなくなる。
「ちっ、ちくしょおおおっ!!」
既に走り出していたリーダーはもう振り向かなかった。
「お前ら息止めてろ! 死ぬぞ!」
人生最大級の危機に心臓が痛いほど跳ね上がりつつも身体は冷静に駆けていた。
一年か二年もすれば大抵が死ぬ冒険者の中で四年以上も苦楽を共にしてきた仲間が目の前で死んでも身体は生存本能の赴くままに走り出していたのだ。
そして、それはルークも同じだった。
たった今、隣に居た仲間の様子がおかしくなった瞬間、「何かヤバい」という漠然とした予感に思わず《縮地》を使って距離をとっていた。
「お、おいっ、プル……? 冗談止せよ……何、倒れた振りなんか……」
リーダーが自分の元へ追い付き、「ルーク! 諦めろ! 奴はもうっ……!」と耳元で絞り出していく。
リーダーは自分達の命の為に仲間を見捨てるという選択をとったのだ。
「う、嘘だ……こんなの……さ、さっきまで普通に喋ってたじゃねーか! なあおいプルっ! 死んだ振りなんかすんじゃねーよ!」
リーダーと同じくプルと付き合いが長かったルークは人が、仲間が五秒もしない内に生き絶えた現実を受け入れられなかった。
自分が何故《縮地》で距離をとったのかを忘れ、ヨロヨロと前に歩きだし……身体が痺れだした。
「がああっ!? こひゅっ、こひゅ……っ!」
次の瞬間には仲間の死を忘れるほどの苦痛が襲ってきたので再び《縮地》で距離をとる。
「がはっ!? ひゅっ……! かひゅっ!?」
しかし、遅かった。
ジンメンの殺人胞子を吸ってしまったルークは呼吸が出来なくなっていたのだ。
辛うじて動くことは出来るものの、未だかつて体験したことのない痛みと痺れにどうしても遅くなる。そして、それを補うかのように呼吸困難が襲ってくる。
「い、いやああああああっ!?」
「うっ……あっ、あぁ……プルさんが……プルさんが……!」
ルークの脳内を埋め尽くしていた死の絶望を掻き消すかのようにエイルとアルの悲鳴が響き渡った。
リーダーは二人を運ぶために腹を抱えた為、嫌でも後ろの状態が見えてしまったのだろう。
そんな二人にすがるように、あるいは助けを求めるようにルークは走り出す。
息が出来ないだとか苦しいだとかそういうことよりも〝死にたくない〟。その一心で走り、再び《縮地》でリーダーの元へ接近し……力尽きた。
「がはっ! がはああっ! リっ、リぃダっ! たひゅ、たひゅけっ……」
ルークが最期に見たのはこちらに見向きもせず、走り続けるリーダーの姿と――
――自分が接近し、肺に残っていた最後の空気で助けを求めた直後から苦しみだし……泡を吹き始めたエイルとアルの姿だった。
◇ ◇ ◇
そんな惨劇から南の方へ必死に駆け抜ける三人の姿があった。
リーフ達、『御三家アトリビュート』だ。
「……リーフっ、良かった、のかっ?」
職業が魔法使いであることもあり、最低限の体力しかつけていなかったフレアが息を切らしながら訊く。
この場合で言う良かったとはシキの言ったことを鵜呑みにしたこと、それが紛れもない事実だと信じながらもシキやリーダー一行を置いて逃げ出したことだろう。
「良いんだよ。いつも言ってるだろ? 命あっての物種ってな。色々と謎なシキが言ったことだし、奴等だってプロだ。リーダーかエルティーナくらいは無事に切り抜けるだろうよ」
無論、シキが嘘をついたとはアクアもフレアも思っていない。
まだ出会って少しだが、彼はただ自分の領域に入られるのが嫌なだけで他は普通の人間とそう変わらないことを知っているからだ。
なので、フレアの言葉の大半はリーダー一行を置いてさっさと逃げてきてしまったことを指していた。
リーフはくらいはと言った。
即ちリーダー、あるいはエルティーナ以外は死ぬだろうということ。
リーフもそう判断しておいて逃走したことに罪悪感がなかった訳ではない。彼等には何かと足を引っ張る新人も居たし、根底の話からしてリーダーやエルティーナとは普段組むことがなく、双方の相性も決して良いとは言えないのだ。
リーダー、ルーク、プルの三人だけならば一つの可能性として共闘することもあっただろう。しかし、現実は違う。そんな不安定なパーティメンバーを連れている状態で理不尽な強さを誇るジンメンが居ると新たな仲間として誘っていたシキが宣言したのだ。
ならばそれは事実であり、周囲の生き物を即死させる力を持った敵相手に新人三人組とエルティーナが居る状態で戦うという選択肢は万に一つもなかった。
冒険者や傭兵というのは常に命の危険が伴う生業だ。新人に良い顔をしようとして死んだ者も居れば身の丈に合わない依頼を受けて人知れず消える者も居る。
当然、新人に足を引っ張られて死んだ者もだ。
リーフはそんな彼等を何度も目にしたことがあった。
今、ここで自分が選択を間違えれば自分だけでなく、アクアやフレアも死ぬ。そうなるくらいなら……
旧知の仲であるリーダー達を見殺しにする。
それ故の判断であり、返答だった。
「…………」
「さっきからどうしたんだアクア。何か気になることでもあるのか?」
「……いや、ジンメンの脅威や類を見ないほど化け物染みた能力の話は聞いたことあるけど、本物は見たことなかったなって思って」
リーフ達はCランク冒険者であり、パーティだ。
実力はシキ曰く全員A程度……つまり、国の兵士を越え、騎士に届くか届かないかといったところ。
しかし、リーフの信条であり、パーティ内での決まり事である『何より自分の命が最優先』という方針のもと、意図的に強制依頼の少ないCに位置している。
よって、ジンメンの偵察や斥候として行ってくれないかとは言われていたものの、全てリーフが断っていたが為に実物は全く知らなかったのだ。
「シキの言葉を疑う訳じゃない……けど、あの場で話に聞くほどの気配は感じなかった」
「「…………」」
《気配感知》においてはかなりの才を誇るアクアが断言したのだ。
リーフ達が無言で目を合わせるのも無理はなかった。
「……よ、よくっ、あの場で、言わなかったなっ」
「リーフが判断に迷うかと思って」
「助かった。多分、お前のその判断のお陰で俺達は生き残る……」
走りながらも深刻そうな顔でそう言ったリーフに二人は不思議そうな顔で問う。
「絶対そうだっていう確信はねぇし、俺の予想通りならジンメンはマジで化け物だ。けど、魔物の範疇は越えてねぇ」
「と、言うと?」
「植物系の魔物ってのは大概、数や増殖能力が異常なんだ。わかりやすいのは……トレントだな。何回か戦ったこともあるから覚えてるよな?」
因みにだが、シキもトレントと遭遇したことがあったりする。
特徴は普通の木と見分けがつかないほどの擬態能力と鞭のように伸び、しなり、尚且つめちゃくちゃ硬いという意味のわからない枝であり、斬撃さえ飛ばせば一撃で仕留められるものの、共に行動しているエルティーナにはあまり力を見せられない為に毎回苦戦する相手である。
「普段は普通の木のくせにこっちを認識したら根っこを足みてぇにウニョウニョ動かして走り回るゴブリン並みに気色の悪い魔物」と称されていたりもする。
そして、どや顔で説明してくるエルティーナを心底から「うぜぇ」と思って記憶の片隅に残る程度に追いやったとある生態がトレントの最大の特徴だった。
「奴等には基本的に王が居る。いや……王っていうよりは核とか本体って言い方が正しいか。トレントで言えばエルダートレント。一体のエルダートレントが増殖し、数を増やしたのがトレントだ。謂わば分身とも言えるな。他の魔物と違って奴等は一体だけでどんどん増える。その分身体が自我を持ち、成長、年を食ったのがエルダートレントなんだが……今はどうでも良い。アクア、トレントの気配はどうだった?」
「……どう?」
「強そうとか弱そうとか何でも良い」
「………………薄い?」
そう、分身体であるが故にトレント相手では《気配感知》はまともに機能しないのだ。
擬態能力だけでなく、気配を絶つようなスキルを持っている可能性もあるが、リーフに《気配感知》スキルの技能を買われて冒険者になったという経緯を持つアクアが疑問に思うに気配の薄いトレントは非常に厄介な相手だった。
そして、その特徴はこれまた基本的に――
「――他の植物系魔物も大抵同じか似たような性質を持っている」
話を聞いていたアクアとフレアの息が一瞬止まった。
瞬間、草むらから襲い掛かってきたゴブリンの頸動脈を斬って捨てたアクアが同じく大剣で近くに居たホブゴブリンを叩き斬っていたリーフにその話をした真意を問う。
「つまり……ジンメ――」
「――かはっ、ごほっごほっ……はぁ……はぁ……す、すまないっ」
「……ジンメンも同じだと?」
「恐らく、な……」
驚愕で息が止まったところを、しれっと現れたゴブリンを片手間に処理しておきながら平然と話を続けたアクアとリーフに更に驚いて息が詰まったフレアに若干のジト目が集まりつつも話は続く。
「本当に確信はないぞ。ただ、植物系魔物の特徴としてそういうのがあるってだけだ」
「でも斥候の報告じゃそんなこと言って……」
「奴等の本来の生息範囲である北周辺の奴等が本体でこっちの方に増殖してきた可能性もある。どの道、今俺らが推理したところで意味はねぇ」
「……確かに」
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……!」
あくまで可能性として示唆しただけだと話を終わらせたリーフだったが、息切れを起こしているフレアに「お前な、もうちょっと体力付けろよ……」と脱力した声を掛けた瞬間、大剣を前に突き出した。
オークらしき魔物が背中を晒して走っていたからだ。
「ぐっ、おおおおっ!」
デカい図体に無理やり大剣を貫通させ、そのまま近くに木に突き刺したリーフは頬に飛んだ返り血を拭いながら言った。
「……そろそろお仲間が多くなってきたな」
「今の僕達と同じ境遇の魔物達……」
「はぁ……はぁ……やっぱっ……多い、なっ……はぁ……」
一名、明らかに体力不足で体調不良を起こしている者も居たが五体満足で生きている魔物との遭遇が増えてきたのだ。
それはつまり、近くに居たであろうジンメンから逃げてきた魔物達の縄張りに入ったということを指す。
「今思えばさっきからちょくちょく居た手負いの魔物共はジンメンから逃げてきた群れに置いてかれたか、先に突っ走って他の魔物に殺されかけた奴等だったんだろうな」
ジンメンによる理不尽な死の恐怖の代わりに多種多様の魔物達が跋扈するという全く安心できない危険地帯に突入したリーフ達。
それでもジンメンを相手にするよりは生きる希望が見えてきたと各々武器を構え……
「取り敢えず、いつも通りだお前ら。生きるぞっ!」
「んっ」
「はぁ……はぁ……お、おうっ!」
己の生存を賭けたサバイバルの中に身を投じていった。




