第84話 スタンピード
「え~、今日からDランク以上の方を対象とした合同討伐が行われます。ランクが足りなくても希望したい方、怪我等の理由で辞退したい方等は職員に声を掛けてください。繰り返します。今日からDランク以上の――」
普段なら既に殆ど居なくなっているであろう時間帯の冒険者ギルドで大量の冒険者達がこぞって列を作っていた。
建物内には先程から同じような放送が流れている。マイクのような魔道具があるんだろう。
「……合同討伐?」
聞き慣れない言葉に頭を捻っていると、神の使徒云々の話を聞いたときのことを思い出した。
ちょっとした飲み会も終わり、さあ解散……といったところでリーダーが「あ、今思い出したがそろそろアレが来るんじゃないか?」と言い出したのだ。
続けてリーフ達も「ん? あぁ……確かにもうそろそろだな。準備しとかねぇと……」と、何やら意味深な反応をしていた。
ノアのことで色々考えていた俺が何のことか聞こうと思った時には誰も居なくなっていた。
何となくリーダーに「お前も準備しとけよ。強くても新人は新人だからな! ははは!」と言われて空返事したような気はしていたが……これのことだったらしい。
近くにリーフ達が居たので合同討伐について訊いてみた。
曰く、そのままの意味らしい。
合同とはそのまんま合同。皆で魔物を討伐しましょうと、そういうことだ。
何でもジンメンの異常な強さのせいで盗賊の大発生と同時に縄張りを奪われた魔物達の大掛かりな引っ越しも起こっているらしく、最近は定期的に行っているとのこと。
大体一ヶ月に一度、真東と真西で横に広がるようにして冒険者を配置し、移動してくる魔物を討伐する。
そこまで来れば魔物達も縄張りや群れを形成し始めるから移動してくる魔物ばかりが相手とは限らない。一ヶ月近く放置しておけばその周りで勝手に増えてるだろうし、逆に勝手に食いあって数を限定していることもあるから狙い目らしい。
一応、そういうのを間引く依頼も出しているので数万とか数千とかバカみたいな数は居ないとのことだが、普段よりも遭遇する回数が多いのは確かだ。
前回の盗賊討伐後、エルティーナが一週間程休むと言っていたのだが、理由は恐らくこれに参加するためだろう。
取ってきた魔核か討伐部位の多さで報酬も増えるらしいし、バカみたいに高い飯代で貯金という貯金が殆ど出来ていない今の俺からすれば出ない道理はない。
「ついでに言うと、こういう機会に自分をアピールしたり、普段組まない分協力して稼いだりと新人はやることが多いぞ。ま、お前は当然俺達と一緒だけどな!」
合同討伐ではギルド側が敵の数を把握しきれていないので、パーティもクソもないらしく、どんなランク差があっても一緒に行動することを許されるらしい。
流石に周りに人が居る状態で肉壁や餌にする畜生は居ないだろうとの判断だとか。
だからこそ、それを知っているリーフは先程から「シキが居ればボロ儲け出来るぜ!」と騒いで俺の背中をバンバン叩いてきてるのだが……
「俺は構わんがオマケが付いてくるぞ」
「シキは兎も角、アレはちょっと……」
「あぁ……断りたいくらいのオマケだな」
自意識過剰かもしれないが、エルティーナの方も暴走という懸念はあるにしろ、大幅な戦力とわかっている俺を合同討伐だからと離すことはないだろう。
ここ最近は殆ど一緒に行動しているし、最早ハッ◯ーセット状態である。
「……そうだった。うげぇ……あんな奴と……なあシキ。あの女、何とかして撒けないか?」
喜びから一転、絶望に顔を変化させたリーフが提案してくる。
「無理だな。そもそもあいつ、移動や感知系のスキル持ちだぞ」
「そこはほら、お前のスキルとか超パワーで……」
「残念ながら単純なステータス値が高いだけで俺自身に大したスキルはない。こう言っては何だが冒険者向きのスキル構成でもないんだ」
「…………」
リーフは無言で燃え尽きた。
それほど嫌いらしい。
「ほう……意外だな。《縮地》や《気配感知》はしょうがないにしても《威圧》くらいはあると思っていたぞ」
「ん? あれ、《縮地》って勇者とか剣聖とかの化け物前衛職が持ってるイメージなんだが……」
「そうでもない。盗賊、軽戦士のように敏捷値が高い職業で高レベルなら持ってたりする。後、剣士でも人によっては持ってる」
「マジか」
「と言ってもお前の強さなら問題ないように思えるがな。何か問題でもあるのか?」
……割りと大問題な気がする。
今のところ出会ってる《縮地》持ちがライやジル様みたいな、対応できない速度じゃないからまだ何とかなってるけど、毎回冷や汗は出てるからな。ただでさえ魔粒子ジェット禁止なのに瞬きした瞬間に敵が目の前に来てるとかめちゃくちゃビビるぞ。
「う~ん……まあ、多分大丈夫だろ。多分な」
「……俺達からすれば多分でも《縮地》に対応出来る時点で化け物だと言っておこう」
「いや、その多分ってのが嫌なんだ。命に直結する部分だし、確実にしておきたい」
「戦闘向きのスキル無しで《縮地》攻略されたら上がったりな人多そう」
等と話していると。
離れた位置で何やら話していたリーダーと呼ばれていた男の六人組パーティが近付いてきた。
手を上げて来てるから用事でもあるんだろう。
まあこのタイミングで用事って言えば……
「なあリーダー。リーフ達は兎も角、こんな不気味な奴連れてくの? 信用できねーぜ?」
当然、合同討伐での協力要請だろう。
リーダーと新人三人組以外は反対のようだが。
「しつけぇなぁ。大丈夫さ。第一、俺ら全員で掛かっても敵わねぇ奴に見えるのかよ?」
「いや、見えねぇけど……でもさ」
「言うなルーク。リーダーが大丈夫って言ったんだから大丈夫だろ」
「はぁ……プルはそういうとこだよなー。バカっつぅか楽観的っつぅか……」
「うむ。人生、広い視野で見ないとな」
台詞も容姿も子供っぽい赤髪の小柄男がルーク、バカにされてることに気付いてないという確かにバカっぽいのがリーフ並みの図体をしたプルと言うらしい。
新人三人組はルークの反応に「えっ、目の前で反対すんの!?」みたいな顔をしている。
「……今更なんだがリーダーって呼ばれてるあいつの名前は何だ? 全く聞かないな」
反応したら面倒そうなので無視してフレアに小声で聞く。
「知らなかったのか? リーダーってのは名前だ。役職も確かにリーダーだが、それ以前にそういう名前なんだ」
「……マジか」
《縮地》持ちが案外居ること並みに驚いた。
紛らわしいにも程があんだろ。
「悪いな、ちょいと反対意見もあるがそういうことだ。今回は俺達と組まねぇか?」
組むことに問題はないが仲間同士で不和を招くのはな。まあ組むと言っても移動の時だけ一緒ってだけで討伐時には互いのパーティに離れるそうだし、判断はリーフ達に任せるか。
アクア達も同じ結論に至ったようで同時にリーフを見る。
リーフはリーフで俺達と目が合うとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「良いぜ? ただし、一つ条件がある」
「条件? ただの協力に?」
捕捉しておくと合同討伐で組む場合は大規模パーティになるということで、予めギルド側に誰が居て、誰達と組むのかを伝えておく必要がある。
何故なら合同討伐の場合、敵の数が多すぎる為に誰がどの魔物を何体討伐し、幾つの魔核、あるいは討伐部位を持ってきたかを全て計測して報酬を出すという訳にはいかないからだ。
集計も面倒だし、冒険者同士でやれ「誰が何体倒した」だの、やれ「俺は討伐部位をいっぱい持ってきたから金を出せ」だの、喧嘩になることが目に見える。
実際、今でも稀に普段は大した実績もないくせに合同討伐の時に限ってやたらと討伐部位を多く持ってくる奴も居るらしい。そういう明らかな不正が見落とされる可能性が高いのが合同討伐だ。
そいつが持ってきた=倒してきたとは限らないが、そいつが倒した証拠がない代わりにそれを証明する証拠がギルド側にないから泣く泣く他のパーティメンバーに聞いて報酬を出すこともあるとのこと。
魔物が十匹、二十匹も同時に襲い掛かってくれば当然乱戦になる。乱戦なら多少怪しい動きをしても相当強い奴じゃないと気付かないだろう。
よって、組んだ全員が持ってきた討伐部位で報酬額を決め、それを山分けするような形になる。
だから余程のことがなければ慣れている冒険者は新人なんか入れようとしないし、新人は新人であまり活躍しなくても日々稼ぐはした金よりは確実に儲かるからアピールに躍起になる訳だ。
「ああ。実はもう一人俺達以外に組んでる奴が居てな? そいつは相当な手練れをなんだが、俺達は四人くらいじゃないと多すぎて邪魔になる気がするんだ。だからそっちでそいつを見てほしい。見たところ数も多いし、多少増えても変わらんねぇだろ?」
……成る程、そういう魂胆か。
というかそこまでしてエルティーナと離れたいのか。いや、まあ気持ちはわかるんだけどさ。
「はは~? わかったぜ、リーフてめぇ……その手練れってエルティーナだろ。そこの新人がエルティーナと組まされてるのは既に周知の事実だ。あんなのと組むのは死んでもゴメンだな。悪いがこの話はなかったことに――」
「――おいおい、男に二言か? 組もうって言ってきておいてそれはねぇだろ?」
「いやいや……まだ決まってなかっただろ? そっちが条件出したから断ったんだぜ?」
「はっ、少しでも条件が悪いと即座に逃げ出すのか。ベテランらしく逃げ足だけは立派だな」
「ふっ……自分が嫌だからと人に押し付ける奴が何を言う。この調子で厄介な魔物を押し付けられちゃ堪んねぇぜ」
流石エルティーナ。慣れてきた俺も「そこまで……?」と思うくらい嫌われている。
しかし、そこはエルティーナクオリティ。
気付いたらまた当然のようにリーフ達の後ろに居る。
何やら熱くなっている二人は気付いていないが、他の奴からは恐ろしい形相も今にも抜刀しそうな手の動きも丸見えだ。
ルークとプルは既に逃げ出したし、アクアとフレアも逃げた。
ついでに俺もしれっと逃げている。
残っているのはリーダーのパーティの新人三人組だけである。
可哀想に、ベテラン二人の口喧嘩っぽいやりとりにビビってエルティーナに気付いていないらしい。
「ならこっちからも条件だ。アホ騎士様をパーティから抜くんだったら協力してやる」
「何が協力だ。それが無理だからテメェらであの行き遅れを面倒見ろってんだろうが」
「「何だテメェやんの――」」
「――余程、死にたいようだな貴様ら……!!」
凍てつくような声が響き、流石の二人&新人三人組も気付いたようだった。
二人はぎぎぎ……と錆び付いた金属のような音が聞こえてきそうな動きで振り返り、一瞬固まった後、一目散に逃げ出した。
が、次の瞬間には二人揃ってエルティーナに首を鷲掴みにされている。
……リーダー白目剥いて泡も吹いてるけど大丈夫か? リーフも真っ青だし。……あぁ、あれ首絞められてるのか。やっぱステータス高いんだなあの女。
等と思っていると、エルティーナの射殺すような目がギョロギョロと辺りを見渡し、近くの柱から覗いていた俺を捉え――る前に隠れた。
「シキ、貴様……まさかこんな奴等と組むなんて言わないよな?」
……バッチリ見つかっていたらしい。
この後、めちゃくちゃ怒られた。
色々あったものの、結局エルティーナ共々協力することになった俺達は全員で真東に移動していた。
馬車を使うと移動は楽になるがこちらの面子を確認出来ない盗賊達が襲ってくる可能性を加味して徒歩である。
流石に武装した明らかに冒険者姿の十一人組を襲おうとは思わないだろう。
「へ~っ! じゃあシキさんはもうちょっとでCなんすか! 俺達よりも後に登録したのに……う、羨ましいっす!」
「まあな」
「良いな~……アタイも早くCになりたい……」
「ぼ、僕達には、ま、まだ早いとお、思うよ?」
斥候であるアクアとルークが真面目に索敵しているにも関わらず、リーダーグループの新人三人組――っす口調の少年剣士レド、ゴツい体格の武闘家少女エイル、オドオドしてるショタ回復術師アル――はペラペラと話しまくっている。
相手が新人ということもあってか、リーダーもリーフも「俺にもこんな時があったなぁ」みたいな顔でスルーしているが少し注意した方が良いんじゃないか? まあ、受け答えしちゃってる俺も悪いけど。
「おい、いつまで無駄話をしている。先輩に仕事を任せるとは良いご身分だな? それとシキ。貴様もわかっているなら付き合うな」
斥候職の二人が居るのに気を抜かず、辺りを見渡していたエルティーナが注意してくる。
新人三人組は先生に怒られた学生か何かのように不貞腐れ、口々に「すいませーん」、「はーい」と答えた。
――ダメだな、こいつら何で注意されたのかわかってない。仕方ない、フォローしてやるか……
「そう言うなエルティーナ。こいつらはまだ若いし、新人だ。大目に見てやれ」
「ふん、甘ったれたことを。先輩が居るから大丈夫、先輩が守ってくれるから自分達は喋っていても良い等と……我々だって人間だ。対処できない敵が現れれば貴様らを置いて逃げることもある。どんな時も最低限の注意は払うべきなのだ」
わかりやすいエルティーナの性格上、必ず乗ってくると思った。
そして予想通り注意の根底にあるのはエルティーナなりの心配と好意らしい。
「確かにそこは悪いところだな。注意し過ぎるのも問題だが気を抜きすぎるのはもっと不味い。一瞬の隙が命取りになることもあるからな。現にリーフやリーダーだって二~三言交わすことはあっても談笑はしてないだろ? 適度に力を抜き、適度に気を張る。それを無意識レベルで行えなきゃ生きていけない。……傭兵時代の受け取りだがな」
「……貴様、私を出しにっ」
「まあな」
思いっきり適当に話したがこれでエルティーナが嫌がらせで注意したのではないということがわかった筈だ。
確かに注意されれば嫌な気持ちにはなる。しかし、それはそいつのことを案じてのことが殆どだ。注意さえしてくれなくなればそれはもう見捨てられたも同然。怒られる内が華ってやつだな。
「……ふんっ、とことん傭兵らしくねぇな」
「うぅむ……傭兵と言うと冒険者を見下してるイメージがあったぞ。案外そんなことないんだな」
ルークとプルは普段の俺らしからぬ配慮に思うところがあったようだ。
一方、リーフ達三人とリーダーは無言で苦笑している。多分だが俺がフォローしなければ自分達でエルティーナの援護をするつもりだったんだろう。余裕ぶっこいてる新人を見捨てるほど悪い奴等じゃない。
しかしというか何というか……俺やエルティーナの言ったことを素直に受け取ったのはレドだけで残りの二人には伝わらなかったようだった。
「な、成る程っす! すんませんした! 申し訳ねぇっすがやり方教えほしいっす!」
キラキラした目で人それぞれの感覚を教えろと中々難しいことを言ってくるレドと「アタイ達よりも後に登録したくせに……」、「ま、まだ新人なのに、む、無茶言わないでほしい」と相変わらず不貞腐れている二人。
幼馴染みらしいし、職業的にも本来ならバランスの良いパーティなんだろうが……年上の後輩という微妙な立ち位置の俺から言われたのが気に食わなかったか。でしゃばったかな。
「良い。それが人生の先輩の仕事」
アクアが小声で教えてくれた。
俺の気持ちを何となく察したらしい。
そんなことがありながらも一日と半日の時間を掛けて、ギルドに任された位置に移動していった。
町から続く平原を抜け、鬱蒼と生い茂る森に入った頃。
「この辺、か……?」
「……地図だと合ってるな、多分」
「確か近くに村があった筈……なんだがおかしいな。ここら辺って森だったっけ?」
リーフとリーダーが地図を相手ににらめっこをし、ルークが辺りを見渡して首を傾げている。
――確かに……この前、近くを通ったときはチラホラ林がある程度で後は平原だったような……? 盗賊や魔物が隠れてる可能性を考えて、横切っただけからあんまり覚えてないけど……でもこんだけ自然豊かなら印象には残る筈だよな。
見ればエルティーナやアクア達も不思議そうな顔でキョロキョロしている。
ポカンとしているのは新人三人組だけだ。こっち方面に来たことがないから以前の様子を知らないんだろう。
「……考えても仕方ない。取り敢えず村を探そう。ルークの言う通り、近くに村が幾つかあった筈。大体の方角は覚えてるから付いてきてくれ」
リーダーがそう言うので黙って続く俺達。
しかし、行けども行けどもあるのは木々ばかり。
稀に魔物も見かけるがおかしなことに既に致命傷を受けていたり、全身が傷だらけの個体が殆どだった。
「おかしい……もう着いていて良い頃なんだ。寧ろ通り過ぎてるくらい進んでるぞ。魔物も何だって手負いばかり……」
どうにもおかしいと訝しむリーダーだが、通り過ぎているということはありえない。
斥候職であるアクアとルークは《気配感知》を持っている。職業は不明だがエルティーナもだ。
その三人が探るようにして正面、左右斜めと前三方向に集中してくれているのだ。レベル差による精度に違いがあったとしても進行方向さえ合っていれば見つからない方がおかしい。
ルークやプルが何も言わないところを見るに方角を間違っているという線はない。
聞いてみれば五年以上も危険な冒険者業を続けているベテランだ。どんな方向音痴でも何度も経験すれば覚えるし、そもそも三人の冒険者が揃って方向音痴なのに食っていけるとは思えない。
――ジンメンの生息範囲が俺の予想を越えた速度で広がって飲まれた……? いや、でも森は関係ない筈……イコールでジンメンと森に関係は……。……あの殺人胞子が森に関係する可能性はあるか。胞子ってのは詰まるところ種だったよな確か……詳しいことは知らないけど、飛ばして増えるって感じか? タンポポみたいな……
日本で学生をやってた頃、面倒で殆ど勉強してなかったのは失敗だったかもしれない。
思わぬところで学力不足が足を引っ張った。いや、胞子について習うのかは知らんけど。
まあ後悔しても遅い。
先ずは村を見つけて情報収集を……
と、考えた瞬間だった。
――ッ!! 何か来るっ……!?
何故わかったのか、何が来るのかはわからなかった。
ただ大量の何かがこちらに向かってくるという事実だけを理解させられた。
――この感じ……《直感》か!
「各自、戦闘体勢! 何か来るぞ!」
強制的に淡々とした事実だけを理解させられるという慣れない感覚に困惑しながらも声を出して全員に伝える。
「っ!」
「っ、わかった! アクアは急いで戻ってこい! フレアはシキの言う通り、敵に備えろ!」
俺の言葉に即座に反応したのはリーダーとリーフ。
リーダーは反射的に剣を抜いて構え、リーフは前方の離れた位置に居たアクアと近くで固まっていたフレアに指示を出した。
「……あ? 何言ってんだテメー、俺らは何も感知してねーぞ?」
「あー……リーダー? 俺はどうすりゃ良い?」
アクアと同じく前に居たルークからは疑いの声、プルからは指示を求める声が聞こえ、隣からは新人組の「敵っすか!?」、「……何かって何よ。意味わかんない」、「急に訳わからないこと叫ばないでよぉ……」と各々反応が返ってくる。
が、既にそんなことは眼中になかった。
俺の忠告に最も早く反応していたエルティーナが剣を抜き、振り向くようにしてある方向に構えたからだ。
――《気配感知》で何か察知した!? なら……!
俺も森の中で振り回し辛い大剣ではなく、長剣を抜いて構え、エルティーナが向いた北に注意を向けた。
暫しの間、沈黙が訪れる。
リーダーのパーティメンバー達もいきなり剣を抜いた俺達の様子に悪ふざけではないと思ったのか、各々武器を構えた。
数秒後。
「………………んだよさっきから。何も反応は――」
と、ルークがイラついたように振り向いた瞬間。
「――不味いっ! 気を付けろ! 凄い数だ!」
エルティーナが焦ったような表情で《縮地》を使い、戻ってきた。
それを追うかのように大量の魔物達の鳴き声や雄叫びが辺りを包み出す。
ルークも感知したようで黙ってこちらに戻ってきた。
「……何だ、この数」
「アクア、数はわかるか?」
「……わからないっ。兎に角いっぱいっ」
小声で話し合うリーフ達をよそに……ゴブリン、コボルト、オーク、オーガ、その他etc……確認できないほどの数の魔物達が大量に、そして、一挙に。
押し寄せてきたのが見えた。
俺達は互いのパーティを背にし――
――魔物の群れに飲まれた。
来週からめちゃくちゃ忙しくなるので当分の間、更新日時が不安定になります。
出来るだけいつも通り投稿出来るよう努力しますが、もしかしたら更新できないこともあるかもです。




