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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
83/334

第80話 盗賊&傭兵崩れVS偽傭兵崩れ

グロいシーンがあるので食事中の方等はご注意ください。



「バカめ! 一人でノコノ――ギャッ!」

「なっ、今何しやがばぁっ!?」



 罠と言っても盗賊が死角から襲い掛かってくるだけで落とし穴や矢が飛んでくるようなトラップもなく、順調に進んでいく。

 道中出会った奴等は入り口で盗賊達が持っていた鍬やら鎌やらを壊れる威力で振り抜いて惨殺した。



 気配を消せる弓兵のこともあり、慎重に進んでいたがどうやら盗賊達を口減らし的に襲わせているらしく、半ば辺りまで進むと出会った瞬間から命乞いをする奴等が増えてきた。

 何でも盗賊達のボスは傭兵崩れでめちゃくちゃ強いから逆らえないんだと。かといってボスのお陰で盗賊団として生活出来ているからこんな自殺強要に文句も言えないと。



 知ったこっちゃないから取り敢えず全員ぶっ殺したが。

 死にたくないならもう少しまともな職に就けば良いものを。まあ、ならざるを得なかった奴も居るんだろうが、「最近襲った村の女達はどうした?」と聞いた瞬間、ニヤニヤしながら「あんたもあいつらで遊ぶかい?」とか「一番抵抗してた女も最初は泣いてたくせにボス達が持ってた薬だか何だかで……へへっ」と中々引いてしまう返答があった。



 ボス()と言った時点で傭兵崩れの集団が烏合の衆であった盗賊達をまとめ上げ、盗賊団として率いているということはわかったし、拐われた村人の生存、無事に殆ど希望が持てなくなったという情報を得られたのは良いことだ。

 それらを聞いた後、問答無用で首や胴体を跳ねた。幸い、盗賊達はバカみたいな数居るらしく、常に襲い掛かってくる状態なのでかなり入り組んだ構造らしいこの洞窟でも道案内には困らない。



 まあ、要は盗賊達が出てくる道を道しるべに進んできた、ということである。



「そろそろ体力の限界なんじゃないか仮面さんよぉ?」

「ひ、ひひひっ、無駄飯食らいを殺してくれて……あ、アリガトゴザマスっ!!」



 暖簾のように布を天井から垂らし、先が見えないようになっている最奥っぽいところから恐らく傭兵崩れであろう男の二人組が現れた。

 一人はニヤニヤと汚い黄色の歯を剥き出しにしてショートソードを肩にトントンと当てており、もう一人は涎は垂らしながら二本の短剣でジャグリングしている。



 笑っている奴は兎も角、涎野郎に関しては目が血走っており、おおよそまともな人間だとは思えない様子だ。

 大方、薬物か何かでもやっているんだろう。



「あぁ、雑魚の相手に飽きてきたところだ。限界と言えばまあ限界だな」

「けひっ、ひひ! なら死ネぃ!」



 涎野郎は会話も出来ないらしく、適当な言葉を返した瞬間、凄まじい踏み込みで《縮地》ばりに肉薄してきた。



 ――《縮地》と同系統の移動スキル。なら対処は……



「っと。……そうだった、切り札に頼らずに殺るって決めてたんだった」



 当然のように魔粒子ジェットを噴射しようとして何とか留まり、左の短剣による突きを体を横にすることで躱す。

 続けて俺の腹目掛けて突き出してきた右の短剣を《金剛》を纏った手で掴み、涎野郎ごと近くの壁に投げつけた。



 殺すつもりで投げたからか涎野郎は短い断末魔を上げながら洞窟の壁にめり込むと動かなくなった。



「直ぐ手札を切ろうとするのは悪い癖だな……早めに治さないと」

「て、テメェっ、ボス並みの馬鹿ぢか――ら゛ぁっ!?」



 人が投げられるのは見たことがあっても壁に叩きつけられて圧死するのを見たことはなく、さぞ驚いていたであろう残った一人に腰から抜いた短剣を投げつけ、喉元を貫通。そのまま力無く座り込んだ。

 圧死した仲間を見て戦慄していながらも腹を狙って投げた俺の短剣に反応してショートソードで弾いていたし、結果としては同じ末路なものの、やはり普通の盗賊とは違うようだ。



「さてと……鬼が出るか蛇が出るか……はっ、どのみち今の俺じゃ殺せるけどな」



 旅をするに当たって決めたことがある。

 端的に言えば魔粒子ジェットの禁止だ。



 魔粒子ジェットは俺やライのように異世界人しか使えない技術であり、擬似的にミサキさんの【縦横無尽】に近い動きが出来るようになる。

 【縦横無尽】とは違って疲労感はあるし、本人の総魔力量によって使える威力や使用回数に違いもある代わりに【縦横無尽】よりも自由に動ける。その上、速度も段違いだ。



 異世界人しか使えないのは恐らく粒子という概念がないからだと思われるが逆に言えば使えればそいつは異端ということ。

 必然的に人前では使えないし、そもそも切り札に近いそれを乱用していればいつまで経っても成長出来ない。



 使うのは精々、魔物や魔族のような強いとわかっている存在に限定される。

 人族や獣人族程度ならステータスで大幅なアドバンテージがあるからな。並大抵の奴等なら魔粒子ジェット禁止という制限があっても勝てるというのもある。



 実際、かなり前だがジル様から言われていたことだ。

 曰く「頼る手札があるってのは良いことだが頼りきりでは自分の視野を狭めるし、強いとは言えねぇ。お前の場合、既に頼るのが癖になってんだよ」とのこと。続けて「ま、オレ様が頼らざるを得ない相手ばかりさせるのも一因だがな。クハハッ」と笑っていたが。



 まあ、当然ではあるが結論としては俺の正体を隠す為にも成長する為にも魔粒子ジェットは使わない方が良いということだ。

 先程はつい使いそうになってしまったがこれからは気を付けないとな。幾ら目撃者は全員殺すつもりでいたとしても。



 等と長考しながら喉に大穴を開けて痙攣している傭兵崩れを掴み、盾代わりにしながら布を潜る。

 即座にグサグサと矢が傭兵崩れに刺さる感触があり、「うおおぉぉっ!!」という雄叫びと共に残った盗賊達がボロい剣を振り回してきた。



 ――突っ込んできたってことは矢の残数が少ないか、限りのある遠距離攻撃手段を渋ったか……三つ目に盗賊達の数を減らしたいってのも追加だな。



 即座に傭兵崩れの服から足に持ち替え、武器代わりに振り回して牽制、怯んだところへ傭兵崩れを投げつけてボーリングのように盗賊を吹き飛ばす。

 軽装とはいえ鎧を着けていた傭兵崩れと違い、普通の布服を着ていた盗賊の五~六人ほどが先程の涎野郎と同じく圧死した。



「うわああっ!? こいつ、人をっ!」

「何人やられた!?」

「うぷっ……おえぇっ……」



 あまりの出来事に慌てふためく者、冷静に被害を見極めようとする者、スプラッタな光景に吐いてしまう者……様々な反応をする奴等が居た。

 大半は固まるか恐慌状態に陥っているが中には黙ってこちらを観察する奴等も居る。比較的冷静な奴等は傭兵崩れと見て良いだろう。



 壁の一部が大量の血と肉片でまみれたからか、攻撃が止んだのでぐるりと辺りを見渡す。

 汚い男達は兎も角、チラリと村人らしき女達が見えたからだ。



 裸で地面に倒れ、虚空を見つめているのが数人。大半は顔を布で覆われただけの姿で近くに転がっており、残った若い少女達は暗い目でブツブツと何か呟いている。

 一番奥では何処から奪ってきたのか、デカい椅子に座り、金髪の女を一人抱いている若い男が居た。



「……お前がボスか?」

「はっ、何だと思ったら仮面か! 魔物かと思ったぜ!」

「質問に答えろ」

「……はっ、偉そうに何様のつもりだテメェ?」



 どうやら鼻で笑うのが癖らしい。

 青い短髪をガシガシと乱暴に掻きながら質問に質問を返してくる。



「冒険者様だ。さっさと投降しろ」

「ぶっ! っははははは!! おいお前ら聞いたかよ! 冒険者様だとよおっ! ぶっはっははははっ!」



 何がおかしいのか、傭兵崩れらしい奴等も釣られて笑いだす。他の盗賊達は首を傾げながら俺とボスを交互に見やるだけだ。



「何がおかしい」

「はっ、戦う相手を選べる冒険者様とは違い、俺達は常に生きるか死ぬかの世界を生きてきている。ステータスレベルは確かに冒険者の方が高いだろう。人系種族よりも魔物の方が経験値が高いからな。だがスキルレベルはどうだ? 自分よりも弱いから、自分でも殺せるから、自分なら相性が良いからと相手を選んで戦うテメェらよりも次はどこの戦争か、いつ死ぬか、いつ仲間が居なくなっているか……何もわからねぇ状態で必死に生きてきた俺達傭兵の技術がテメェらのような甘ちゃんに負けると思うか? あん? どうだ仮面野郎」



 早い話が単純な戦闘技術に決定的な差があると言っているのか。ついでに言えば普段俺が重要視してる覚悟とかもそうだろうな。

 長々と話してくれたところを見るに相当拗らせている。余程冒険者への僻み、軽蔑の念が強いと見える。



「どうだかな。お前らはステータスよりも技術や覚悟、根性とかの方が生きる上で重要だってんだろ? なら試してみるか? 俺は人と比べてステータスが異常でな。ちょいと試してみたかったんだ」

「はっ、野盗程度で勝ち誇って……痛々しい奴だな!」

「入り口の二人は傭兵じゃなかったのか? あまりにも弱すぎて盗賊かと思ったが」

「野郎っ……! やっちまえ!」



 軽蔑の対象に弱いと言われればそりゃあ怒るよな当然。



 ボスの命令の前に数人はこちらに向けて走り出しており、その後を追うように残りの傭兵崩れが来ていた。

 ボスの命令は絶対なのか、普通の盗賊達もだ。パッと見、腰引けてるけど。



 初手の槍突きは首を捻って躱し、二手三手と剣や斧が降ってきたので槍使いの懐に入り込んで全攻撃を無力化or牽制。槍使い以外が躊躇した瞬間に腰の短剣で槍使いの首を一突きし、体を持ち上げて盾にする。



「ひぎゅっ!? かひゅっ……!」



 案の定、息が残っていたので痙攣する槍使いを前にして体のデカい斧使いに突っ込む。



「野郎何しやがっ!? ぐっ……おおおっ!?」



 槍使いに長剣を突き刺しながら突っ込んだお陰で長剣に気付かなかった斧使いが俺を受け止めようとし、もろに長剣が突き刺さった。

 大体、腹のど真ん中を貫通し、一瞬硬直したのでそのまま突っ込み、近くの壁に斧使いの背中から飛び出た長剣を深々と刺す。



「……これで二人。図体がでけぇってのは難儀だなぁ?」

「ぐっ、で、でんめぇ!!」



 槍使いは死んだが斧使いの方はあくまで腹に突き刺さっているだけだからか即死はしなかったようで元気に吠えている。



「よ、よくもやりやがぁっ!? あっあぁっ!? い゛っっ…………」



 直後、後ろから剣を振り下ろしてきた奴は腰に差してある長剣の鞘を上から押すことで腰の留め具に鞘の中間を当て、テコの原理で上がってきた鞘の先で顎を直撃。固まった脳天を()()()から取り出した短剣で突き刺した。



「くそっ、同時に三人も! お前ら! 陣形をとれ!」

「「「おうっ!!」」」



 続けて盾持ち剣士が一人、片手剣士の三人が接近。

 剣士達が俺を囲もうと散り始めたので腰の短剣を全て投擲し、牽制する。



 殆ど外したか、弾かれたが一本だけ足に刺さって転んだ奴が居たので大剣を投げつけて殺した。

 刀身は勿論だが、金属の塊の重量+俺の腕力が乗った物なら何処に当たろうと陥没する。頭に当たれば即死は免れない。



「……は、はっ! こいつ、てんで素人だぜ! 武器をホイホイと投げつけて! 腰の長剣と短剣一本で丸腰になるじゃねぇか! おい! お前らも固まってねぇで戦え! お前らもだ!」

「わ、わかっただ!」

「へ、へへっ……武器の使い方も知らねぇのか、やっぱバカだ!」

「扱えねぇくせにいっぱい持ってた時点でアホだべ!」

「油断するな! 武器が無くなってきたってことは身軽になってきてるってことだ! 剣の重さはお前らでもわかるだろ!?」

「うっ、そ、そうか! やっぱりこいつ、化け物だ!」



 十秒もしない内に何人もの傭兵崩れが殺されたことに動揺しながらもボスは盗賊達と恐らく弓兵達に号令を掛ける。

 盗賊達はビビりながらもヘラヘラと俺を笑い、ボスの注意で顔を青ざめさせた。アホみたいに大量の剣を所持していたにも関わらず、自分達よりも力が強く、動きが早かったことに今更ながらに気付いたんだろう。



 全戦力投入の合図を聞いてか、盾持ちが、



「俺が盾になる! お前ら! 同時に殺れぃっ!!」



 と盾を前にして突っ込んできた。

 その後ろからは盗賊達、横からは囲もうとしていた剣士の二人が向かってきている。



 ――さて、久しぶりの対人戦闘……調子は良好。女達はこっちを認識出来ているかも怪しいし、目撃者はどうせ死人だ……そろそろ実験といくか。



 俺は残った長剣を剣士の一人に向けて水平に投げると、先程見せつけるように魔法鞘に戻した短剣……ではなく、ショーテルを抜き、盾持ちを斬りつけた。

 本来なら刀身と盾が当たって止まってしまうが湾曲した刀身が盾をすり抜け、ショーテルの先端が盾持ちの肩に直撃。半ばまで食い込んだ。



「があああっ!? な、何だっ!?」



 ショーテルってのは本来、盾を湾曲した部分で盾を躱し、切っ先で相手を斬りつける武器だ。

 俺のは剣もすり抜けるように湾曲部分をかなり狭め、三日月のような反り方をしているが当然盾持ちにも対応出来る。



「ひっ!? な、何だよこいつの剣! 曲がって……! それにっ、さっき短剣を戻したあの小せぇ鞘から何だってこんなバカデカい剣が出てくるんだ!?」

「ぐっ! ……お、お前ら! 今だ! 俺がやられている内っ、に゛いいぃぃぃっ!?!?」

「おっと悪い。隙だらけだったもんだからつい……」



 周りは初めて見る武器に驚き、盾持ちは格好良く「今の内に!」をやってくれたが、盾に込めている力が弱まっていたので無理やり押し斬り、肩から腹まで刀身が埋まっていった。



「ひっ、く、来るなっ! 来ないでぇ゛っ!?」

「ふっ、はははっ! 真打ち登場ってなあぁっ!!」



 ズルリと地面に倒れ込んだのでショーテルを抜き、先程投げた長剣が当たって足を押さえていた剣士に向かって走り、叩き斬る。

 剣士は泣きそうな顔で剣を盾にしていたが湾曲した部分が再び相手の獲物をすり抜け、切っ先が今度は首を捉える。次の瞬間にはボールか何かのようにそこから上が飛んでいった。



「ぷっ……くくくっ……!」

「ひぎゃあっ!?」

「何なんだこのけ、ん゛っ!?」

「や、止めてけろ! おらもうこうざっ!?」

「降参! 降参だ! だから殺さな゛がぁっ!?」



 つい漏れてしまった笑いを抑えながら他の剣士や剣を持った盗賊を斬り殺していく。

 ショーテルの対処法が思い付かなかった剣士は一合目で死に、受けるのではなく躱せば良いと理解した奴は二合目で死んでいった。



 ――強いっ……! 強いなぁ! ショーテルってのはぁ! くっははは!



「たった一回斬りかかった程度で終わるわきゃねぇだろうがあああっ!!」



 基本的には縦の振り下ろしでしかショーテルの本領は発揮出来ないが、俺の腕力を持ってすれば横凪ぎでも斬れないことはない。

 寧ろ両手を使えば余裕で発揮出来る。



 さっきから何故か、奴等は一合躱した程度で安堵するのだ。

 良かった、生きてる……! と心の底から。



 ――そこを躱し辛い横凪ぎでかっ斬るっ! 最高の快感だ……ッ! はははははっ!



「お、落ち着け! 奴の武器は剣か盾持ちに特化してる! 槍と弓、他長物持ちで押しきれ! 俺もやる!」

「ひいいいっ!? お、おらもう盗賊なんて止めるだ!」

「俺も! 盗賊なんかしないで真っ当に傭兵やってりゃ良かったんだ!」

「に、逃げろ! 殺されるっ!」

「「「うわああああっ!!」」」



 仲が良かったかどうかは知らんが何日も苦楽を共にした奴等の首や胴体が飛びまくり、地面にゴロゴロ転がってくる光景は盗賊だけでなく、傭兵でも恐怖を覚えるらしく、こぞって逃げ出そうと俺が先程入ってきた出入り口に向かって走り始めた。

 抱いていた女を放り投げ、剣を持ってこちらに向かってくるボスに従おうとしているのは傭兵崩れであろう大剣使いと短剣使い、それと弓を持った奴の姿が見えない点から弓兵のみだ。



 ――戦意喪失してないのはボス含め、三人は確定。弓兵は……多くても五人くらいか。



 等と考えながらステータスに物言わせた全力疾走で出入り口に辿り着き、塞ぐようにしてショーテルを構えた。



「ひいいいっ!? 逃げ道がっ!」

「お、お願いだ! 助けてけろ! おら、やりたくてこんなことしてる訳じゃ……!」

「な、何でもする! だから命だけは! 頼むっ!」



 好き勝手に宣う盗賊や傭兵崩れを前にショーテルに付いた血を振り落とし、肩にトントンと当て、さもイラついているかのように質問する。



「……別にそこの女達がどうなろうと知ったこっちゃねぇがな? 入り口で返り討ちにされた村人達もだ。特に奴等に関しては死にたがって死んでいったようにしか見えなかったから尚更な。……だが、一つ聞く。お前らはそうやって助けを求めた村人や女を一人でも助けたか?」

「うっ……」

「そ、それは……」

「目の前で憎いであろうお前らが惨殺されているのに喜びもしなければ怖がりもしねぇ。泣いたり、喚いたり……何の反応もしなくなるまで遊んでおいて自分達の番になったら助けてくれだ? そいつぁちょいと勝手が過ぎるんじゃあないか?」



 憎いと言っても奴等だって人だ。

 人が目の前で死んでいっているのにただ目を開けて倒れているだけ何てのは普通じゃない。服が破かれ、はだけたり、一糸も纏っていない胸が上下している点から生きているのは確実なのに。

 


 だが、血が顔に掛かろうが死体が体にのし掛かってこようが何の反応も示さないんじゃそれはもう生きてるとは言えないだろう。



「どうなんだ? そもそもだ。お前ら程度でも盗賊に堕ちればどうなるかぐらいわかるよな? ……自分達(テメェら)は入り口で死んでいった村人達と同じだ! 死にたくて盗賊に成り下がったんだろうが! 死にたくて俺に武器を向けたんだろうがっ!! 何を今更後悔してやがる!」

「「「ひいぃっ!」」」



 より恐怖を煽るつもりでイラついているように見せかけたり、怒鳴ったりしたんだが……俺もやはり人の子らしい。

 少し冷静に自分を見つめてみれば質問していたのにいきなり激昂しているし、心臓は激しく動いている。目の前の奴等を殺したくてしょうがなく、気付いたら壁に蹴りを入れていた。



 その衝撃で壁の一部が崩れ、地面も少し揺れる。

 盗賊達は武器を落としたり、液体を漏らしながら後退りした。



 ――俺は……怒ってる……のか? コーザ達は見捨てたくせに? ……いや、だとしても関係ない。俺はただ盗賊を実験ついでに殺し、冒険者を続けるだけだ。



「あの世で懺悔しろ。どうせ死ぬんだ。それが今俺に殺されるか、将来他の冒険者や兵士に殺されるかの違いってだけだ」

「う、うわあああっ!」

「死にたくない! 死にたくない!」

「クソ! どうすれば良かったんだああっ!」



 俺に完全に恐怖した奴等は揃って武器を振り回し、こちらに向かってきた。

 が、よく見れば腰は入っていないわ、足は震えてるわ、武器はあらぬ方向に向いているわで思考が停止して取り敢えず向かってきたというのが丸わかりだった。



「……お前ら、よぉく狙えよ」



 チラリと耳に入ったボスらしき声を覚えつつ、ショーテルを返し、反りが外側に来るように持つ。



 ――これで普通の剣よりも早く相手に当たるし、鉈のように扱うことも出来る……つくづく良い武器だな、ショーテルってのはよぉ……!



 そう考えた瞬間、口角が上がっていくのがわかった。



「フーッ……! フーッ……!」



 同時に全身が沸騰し、息が荒くなっていく。



 ――ダメだ、この感じ……抑えられないっ……!



「ふはっ、ふはははははははっ! 弱いもの虐めってのは楽しいなああぁっ!? ええ!? おいぃっ! ふっはははははははっ!!」

「な、何だ……何なんだよっ、いきなり笑い始めて……何が面白いってんだ……」

「狂ってやがる……ぼ、ボスと同じだ! 生きるか死ぬかの瀬戸際を楽しむ戦闘狂なんだよっ、こいつ!」

「で、でもこいつは自分が死ぬなんて思ってねぇだろ!? だって……人をっ、俺達を殺すのを楽しんでる!」

「お喋りの時間は終わりだあっ! さっさとお寝んねしろやああああっ! あはははははっ!」



 俺の怒り……ではなく、狂気と狂喜に満ちた笑いと戦闘狂としての雄叫びに縮み上がる盗賊達に向かって走り出した俺は逆刃に持ったショーテルを叩きつけ、武器ごと叩き斬る。

 


「な、何で俺なんだ!? た、助けっギャアッ!?」

「ひいいいっ!? な、ん゛っ!?」



 それなりに手入れをしていたであろう長剣を盾にした剣士を脳天から真っ二つに斬り裂き、手首を返して無理やり刀身を持ち上げ、下から突き上げるようにして近くで震えていた盗賊の首を跳ね飛ばす。

 側に居た盗賊は揃って悲鳴を上げながら逃げ出したので再び疾走する。



「うわああああっ! ば、化け物だあっ!」

「ぼ、ボスっ、た、助けてけろ! おらまだ死にたギャッ!?」



 ステータス差がありすぎるせいで余裕で追い付いたので練習がてらショーテルで一人を突き刺す。

 が、当たりやすい胴体を狙ったつもりが狙いがズレ、後頭部に刺さってしまった。



 形状が全く違うせいで重心や大きさに違和感しかない。普通の長剣と違ってどうにも扱いが難しい剣だな。



「流石にこの形状じゃ刺突は厳しいか。ま、結果オーライだな。死んだし」

「うわああああっ! た、助けっ、助けてっ……! 助け、ひぎゃあっ!? い、痛い痛い! 死にたくねぇ! 死にたくねぇよおっ!」



 ショーテルの切っ先で後頭部から脳や脳汁を吹き出しながら頭を二つに分けた盗賊の隣に居た、俺と同い年くらいのチビが腰を抜かし、大小漏らしながら少しずつ後退りしていたので空いていた左手で顔面を鷲掴みにして持ち上げる。



「おいおい逃げんじゃねぇよ……どうせ死ぬんだから最期まで足掻いてほしいもんだ。俺を楽しませるつもりでよぉ……! ふはっ、ふはははははははっ!!」

「があっ!? ま、まさかっ!? や、やだっ、殺さないで! 誰か、助けっギィヤアアアアアアッ!!」



 空中でバタバタと暴れ、俺に蹴りを入れたり、剣で俺の手甲を攻撃したりと抵抗していたチビの頭をトマトか何かのように握り潰した。

 断末魔と血飛沫が舞い、辺りに恐怖と真っ赤な液体が降り注ぐ。



「あっ……ぁ……あぁっ……あ……悪魔……悪魔だ……!」

「人を何だと思っていやがる! まるでっ……」

「おうおうおうおう……何だぁテメェら……? 数時間前までそこで転がってる死体や女共で遊んどいて人について説教垂れるたぁ良い根性してるじゃねぇか? なぁ大将?」



 握り潰したチビを持ったまま生き残った数人の盗賊は完全に戦意喪失し、座り込んだ。

 その上、人を悪魔だと罵り始める始末。



 全く面白い連中だ。



 ボスはボスで俺の質問に肩をビクリと震わせると両手を上げ、「こ、降参するっ……お前が強いのはよぉくわかった……冒険者の方が俺達より強いのも認めるっ」等と命乞いを始めている。



「何か勘違いしてるぜ大将。俺ぁ別に傭兵のが強いだとか冒険者のが強いだとかそんなことはテメェらの命くらいどうでも良いんだ……俺はただ溜まりに溜まった鬱憤を依頼達成とこの剣の実験がてら晴らしたいだけなんだよ。テメェも戦闘狂なんだろ? さっきから部下共が言ってんぞ。さっさと本性現せよ……!」



 一般人の言う戦闘狂はあくまで戦いそのものを楽しむだけのものだろう。

 それだけでも普通の奴等からすれば十分恐怖の対象だ。恐らくボスもその程度。俺の返答にゴクリと大きく息を飲んでビビってる点からもそれはわかる。



 戦いとなると腹の底からの笑いとか本音を抑えられなくなる俺やジル様とは次元が違う。

 所詮、競争が好きなだけのおままごと。俺が初めて対人戦闘をした時……あの大剣女と戦った時と同じ。ただ命のやり取りに興奮して暴れているだけだ。



「0と1ってのは大きい違いだ。全く違う。比べるのも烏滸がましい。けど、1と100ってのも大分違うと思わねぇか? なぁ大将?」

「うっ……や、やれっ、お前ら! 蜂の巣にしろ!!」



 完全に俺のペースに飲まれ、一歩下がったボスはそれを認めたくないかのように上げていた手を下ろした。

 それと同時に何処からともなく矢が幾重にも飛んでくる。



「くっ……ははっ……貴女が何故そう笑うか……わかってきましたよ……ジル様……!」



 俺は少しでもジル様の気持ちや気分がわかったことが堪らなく嬉しかった。

 その嬉しいという感情が目の前の消えかけている現実を余計に塗り替え、見えなくさせた。



 後ろから「無事かっ、平民!」というエルティーナの声が迫ってきているにも関わらず、魔物の仮面を「息苦しい」というたったそれだけの理由で弄り、角度によっては鼻が見えるくらいに己の口元を晒してしまったのだ。



 冷静さを欠いている。



 正体がバレる可能性がある。



 そうなったら死ぬかもしれない。



 色んなことを思った。

 しかし、抑えられなかった。



「くはっ、くははははっ! 楽しいっ! 楽しいなああぁっ!」



 いつだったか危険だと判断した闘争本能を。



 俺は犬歯を剥き出しにして笑いながら、向かってくる矢とその後ろから来る傭兵崩れの生き残り達と対峙した。



楽しみたくないのに楽しんでしまう狂人のなりかけのようなものをイメージしてるんですがどうも難しいですね……

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