第78話 強制パーティと正義厨
「おめでとうございます! シキさんは今日からDランクとなります! 寡黙で真面目なところが認められたようです! 採取依頼も最初は雑草も少し入っていたのを態々専門家にどういう違いがあるのかとかそういう質問をしていたのも評価ポイントになったらしいです! 良かったですね!」
採取や簡単な討伐依頼以外にも建物を崩す工事を手伝ったり、街中での酒樽の配達等、力仕事中心にFランク依頼を受けること一ヶ月。
何故かEをすっ飛ばしてDランクになった。
大体はセーラが笑顔で説明してくれたが、真面目に見せようと姿勢だけはちゃんとしていたのが良かったらしい。
まあ、言っちゃ悪いが冒険者って社会不適合者だもんな。それと比べれば……納得の早さかな~という気もする。敬語が使えないのは良いんだけど、何かあると直ぐ暴力で解決しようとするし、女を見たらセクハラするのが当然だし、苛々すると速攻で何かに当たるし……
リーフ達のようにまともな部類が居るのも確かだが、町の人からすれば変わらんしなぁ……
この一ヶ月の成果を認めてもらったこと、この一ヶ月で見てきた冒険者の素行に内心うんうん頷いていると、再びセーラに話しかけられた。
「Dランクになったので私達が査定した冒険者の方と組んでもらい、一~二ヶ月程依頼をこなして頂ければ晴れてCランクになれます。何かパーティメンバーに希望はありますか?」
……うん?
「査定? 組む? き、強制で知らない奴と組ませるのか?」
「う~ん……言い方は悪いですけど……はい、強制ですね」
「……その理由は?」
「Dランクともなると、駆け出し冒険者の扱いになります。駆け出しの時って、下手に知識とか経験を身に付けちゃってるから油断しやすいと言いますか……具体的に言うとDランク冒険者の方の死亡率が一番高いんです。なので、ソロパーティ。つまり、シキさんのように一人で行動している方限定で最低でも一人の方と組んでもらうという規則が出来上がったのです。その為、誰か一人は一緒に行動してもらわないと……」
マジかよ。いや、言わんとしていることも理屈もわかるんだけども。「何ガン飛ばしてんだ、ああん?」を地でしてくる奴等だぞ? 絶対問題起きるだろそれ。
「…………」
「な、何ですかその目は。ヤバい目付きが疑心に満ちたものになってるんですけど」
「当たり前だろ。冒険者だぞ。傭兵だって顔も名前も知らない奴に背中を預けろだなんて言われたら暴動が起きる。この一ヶ月で冒険者というものをある程度は理解したつもりだ。問題がない奴が一切居ないんだぞ」
適度に嘘を散りばめながら抗議する。
俺然り、バッカス然り、リーフ然り、フレア然り、アクア……は常識人っぽいけど、普通に乱闘に参加してるからやっぱ異常だし。
言ってしまえば俺やリーフ達も冒険者の中ではまともなだけで一般人から見れば常に武器を持ち歩き、直ぐ乱闘騒ぎを起こす冒険者というのはそれだけで信頼がない。てかそもそもリーフ達も殴りあいの喧嘩は結構な頻度でしてるしな。内容は人の好物を貶したとか下らないことだけど。
逆に言えばその程度のことで殴りあいに発展するくらい冒険者という生き物は荒っぽく、人と協力することを知らないのだ。
「き、規則は規則ですので……」
「いや、しかしだな……」
段々、セーラが涙目になってきた。
セーラからすれば自分に言われても状態だろうが俺からしても冒険者相手にまともな人付き合いが出来るとは思えん。今のところ御三家アトリビュートの三人と冒険者初日に絡まれてた俺を見ていたリーダーと呼ばれていた奴とそのパーティの新人っぽい三人程度だぞ、関わりがあるの。しかも後者に関しては挨拶するくらいだし。
「うぅっ、真面目なシキさんとは思えぬ反撃です。やはり冒険者の方は誰かと組むの苦手なんですかね……?」
「まあそうだな。互いに違いがあれば何かと喧嘩になったりするだろう。同じランクでも装備や戦い方に違いはあるし、強さだって違う。それを俺達のようなつま弾き者が――」
「――貴様っ! さっきから見ていればあれは嫌だこれは嫌だと子供か! 冒険者ならばギルドの意向に背くな、痴れ者がっ!」
何とか頼めないかと懇願していると、後ろからいきなり罵倒された。
――痴れ者って……面倒そうな相手だな……
と思いながら振り返れば、そこに居たのは赤髪の女騎士だった。
厳密に言うと、騎士の格好をした女冒険者、だな。セミロングくらいの長さの明るい赤髪をポニーテールにして、甲冑を外した鎧姿というか軽装の鎧を赤い上着とスカートの上に着ている感じだ。
一応、顔見知り……という程でもないか。
時折、喧嘩している冒険者の両方をぶちのめして説教しているところを見かけることがあり、「何を見ている! 見世物ではないぞ!」と毎回キレられるってだけの関係だ。
そういうのを見ているからこそわかるが、彼女は何というか……典型的な正義厨という奴でこうして人の会話に首を突っ込んで引っ掻き回していく傍迷惑な存在なのである。
――また面倒なのに絡まれたな……これ以上拗れないように撤収するか。
仮面のお陰で盛大にひきつりまくる顔を隠せていることに安堵しながら直ぐ様退散しようと、セーラに声を掛けた。
「……長引かせて悪かったなセーラ。じゃ、俺はこれで」
これ以上の面倒はゴメンだと言わんばかりに逃げようとした俺が悪かったのか、俺には正義正義と下らんことを宣う奴等を引き寄せるフェロモンでも出ているのか……いや、純粋にタイミングが悪かったんだろう。
「む? 大柄で仮面を付け、全身に大小問わず大量の剣を携帯している男……貴様、噂の新人だな? 評判は良いと聞いているが今の態度を見るに大方、独り歩きした話なんだろう。周りの目は誤魔化せても私の目は誤魔化せん。冒険者という立場である以上は冒険者ギルドの――」
先日、後ろで未だに説教をしている面倒そうな女騎士さんが「ま、また解散したんですか!? う~ん……エルティーナさんは実力には何の問題ないんですけどね~……とても真面目ですし……」と困った顔の受付嬢に言われているのを見た。
近くでヒソヒソと話していた冒険者の話曰く、実力は確かなものの、万年Dランクの真面目バカであり、規則だなんだと細かい指摘や説教が多すぎて今まで組まされたほぼ全員の冒険者は脱落。頭に来て襲い掛かれば返り討ちにされる為、彼女と組まされた冒険者は必ず辞めていくか他の町に移動するらしい。
そんな彼女が同じく真面目で仕事をちゃんとこなす態度に免じてEを飛ばしてやると優遇された俺の後ろ……もっと言うと、彼女の扱いに非常に困っているギルドの人間の前に立っていれば当然……
「そうだ! エルティーナさんと組むのはどうですかシキさん! 彼女の実力は確かですし、性格も真面目なシキさんとなら合う筈です! これは究極的な組み合わせですよ!」
目をキラッキラさせながらくっ付けようとしてくる訳で。
「残念だセーラ。あんたとは一ヶ月近い付き合いになるから俺の性格もわかってきたかと思っていたんだが……俺の見当違いだったようだな。俺は今日限りで冒険者を辞める。じゃあな」
この女は今、目の前で喧嘩をしかねない言動をしていた男女が目に入らなかったのか?
バッカスのことと言い、ギルドマスターと言い、この冒険者ギルドにはろくな人材が居ないらしい。
「えっ? ちょっちょちょちょ! シキさん!? ちょっ、待ってっ、冗談! 冗談ですって! や、やだな~もうシキさんったらぁっ、女の冗談は笑って許すものですよぉ?」
と言っていたのは昨日の話。
その後、女騎士に謝罪して許してもらい、いつも泊まっている宿に帰ってふて寝した。
現在はこう。
「えっと……そのぉ……誠に、誠にっ、本当に誠にっ……大っ変恐縮なのですが! 他の職員やギルドマスターと協議した結果ぁ……その~……エルティーナさんと……く、組む……ことに……なりました……」
涙目で亜麻色の髪と肩をぷるっぷる震わせ、可愛らしい小顔をそれはもう申し訳なさそうに歪めながら言ってきた。
「……今、俺に湧いた衝動が何かわかるかセーラ」
「ひううぅっ! ぎるどますたぁ……私、遺書を書いてきますので早退しますぅ……」
「女が一人で帰るのは何かと危険だろう? 俺が送ろう」
「ひいいいぃっ! マスターっ、マスター助けてっ、私黄泉の世界に送られちゃいますぅっ」
「はっはっは。何を言っているんだセーラ。ギルドマスターはさっき仕事で出ていっただろう? 二人で見送ったじゃないか」
「ぞ、ぞうでじたぁ……! み、皆っ、皆ぁっ助けてっ、同僚のよしみでっ、同郷のよしみでっ、助げでぐだざいいぃぃっ……!」
「ふっ、面白い冗談だな。なあ、職員の皆さん?」
「一斉に顔を反らさないでくださいぃっ! いやっ、このままじゃ私殺されますっ、ついでに冥土の土産だとか言われてあんなことやそんなことをっ……いやーっ! 初めては好きな人が良いのーっ!」
俺を何だと思っているのだろうか。
盛大に鼻水垂らしながら号泣して、他の職員には気まずい顔で見捨てられ、頼みの上司はさっき俺と出ていくのを見たと来た。
気持ちはわからんでもないが……
「そんなに不気味か、俺の仮面」
「仮面だけじゃなく目付きも問題」
休日らしく、昼間からギルドに居たアクアに後ろからツッコミを入れられてしまった。
そのまた後ろからはリーフとフレアが何だなんだと近付いてくるのが見える。
「目付きは生まれつきだ。仕方ないだろう」
「それにしても怖すぎる」
「……どうしろと」
「おっ、何だ何だ? シキの目付きだけで人を殺せそうって話か? わかるぜ、俺も初めて見た時は――」
「――しばくぞリーフ」
「せめて最後まで言わせろよ!」
「で、実際、どうしたんだ? セーラが机を盛大に汚しているようだが……」
「あぁ、やっぱりフレアだけはまともだな。実は俺、先日Dランクになってエルティ――」
「――OKわかった皆まで言うな」
「何故通じる……」
皆まで言われたくないDランク冒険者のエルティーナ。
それだけでどれだけ彼女が問題児なのかが窺える。
「だが相変わらずだな、このギルドは。稀に出てくる期待の新人や同じ問題児とあいつを組ませて、態々やる気を阻害するなんてよ」
「……いつものことなのか?」
「残念ながら」
「逆に言えばギルドからの信頼が厚いとも言えるんだが……まあ……」
「体の良い生け贄だな」
四人からのジト目&嫌味な会話に「いや~っ、聞きたくないですー!」と耳を塞いでいやいや首を振っているセーラに暗に「ふざけんなよこの野郎」とネチネチ苛めること数分。
気付いたら後ろに件の女騎士ことエルティーナが青筋を浮かべて立っていた。
「そういうとこだよな、うちのギルドの悪いところはよ。つぅか大体、あの女が――」
「――お嬢様なんだろ。如何にもお貴族様という感じで気に食わん」
気配で何となく気付き、チラリと後ろを見て口をつぐんだ俺に対し、リーフ達は現在進行形でボロクソに叩いている。
セーラやギルドを、というのもあるが矛先は当然エルティーナに対するものもある。
そんな風に愚痴や悪口を溢すリーフとフレア、それをぶつけられている涙目のセーラを生暖かい目で見守っていたアクアに手で後ろを指差して教えてやった。
「っ!? ……り、リーフ、フレア、それくらいに……」
不思議そうな表情で俺の体を避け、後ろを見たアクアが珍しく「あ、やべっ」みたいな顔をして止めようとするが……
「あん? 何だよ、アクアだって言ってたじゃねぇか。世間知らずとか良いとこのお嬢様だ……っ!? とか……よ……」
「冒険者としての立ち振舞いがわかってないのはどちらだ、とも言っていたっ……な……」
結果は変わらず。
寧ろ、強めに止めなかったせいで巻き込まれた上に火に油を注ぐ情報を吐いた瞬間に二人がエルティーナに気付くという悲惨な結果になった。
後少し強めに止めておけば……後少し早く言っておけば道連れにされなくて済んだものを……
次の瞬間には顔を真っ赤にして激怒しているエルティーナの怒号がギルド内に響き渡った。
……後、何故か俺も怒られた。
三十分後。
青筋を浮かべたまま怒鳴り散らしていたエルティーナにセーラが申し訳なさそうに「シキさんと組んでいただくことになりました……」と告げ、長い長い説教は終わりを告げた。
しかし、リーフ達は勿論、俺も下らない説教で無駄な時間を過ごしたことによって疲れきっており、心身ともに疲労していた時にそれだ。
当然、エルティーナの矛先は俺に向き、「何でこんな奴と!」とキレ始めた。
リーフ達が揃ってこちらに親指を立て、そろりそろりと逃げていくのが見える。
あいつら後でぶん殴ってやる。何で俺まで……
そこからまた三十分後、セーラだけでなく、他の職員も混ざって説得を行い、漸くエルティーナも認めた。
――一時間も無駄になった……依頼受けたかったのに…………ん? リーフの奴、こっち見て爆笑してやがる。何がおかし……あんの野郎……! 酒持ってやがる! 「えっ、何、エルティーナがギルドにキレてるこの時間何してれば良いの? 帰って良い?」と固まっていた俺を肴にして飲んでやがったな!?
「くっ……非常に、非っ常にっ、納得いかないが……まあ、ギルドが決めたことだ、仕方がない。お前と組んでやる。精々、私の足を引っ張らないよう気張ることだな。ふっ、どうせ貴様もこれまでの奴等と同じように――」
リーフに向けて殺意の念をこれでもかと送りながら睨み付けていると、上から目線でそう言ってきた……否、言い続けているエルティーナ。
いつも家名がどうとか家柄がどうとか言ってるし、貴族なんだろうなぁと思っていたらこの反応である。
未だに何か言ってるし、面倒なことこの上ない相手と組まされてしまった。
「――大体、貴様ら平民の冒険者は――」
「――あ~わかったわかった。俺らが屑でゴミでクソの役にも立たないクソ以下の存在だってのはよぉくわかった」
「……いや、何もそこまでは言ってないんだが」
「良い良い良い良い。お貴族様であらせられるエルティーナ嬢には大変無礼を働くだろうがCランクになるまでの付き合いだ。程々にやっていきましょうや」
「……馬鹿にしてないか?」
「してないしてない」
「……本当だろうな?」
「本当本当」
「なぁセーラ、こいつは斬り殺されたいんだと思うんだがどう思う?」
「え、ここで私に振ります?」
けど、馬鹿っぽいな。案外、楽かもしれん。ウザい言動に目を瞑れば。
「……ふん、まあ良い。ではシキとか言ったな。これから依頼を受けるぞ」
「は? もう直ぐで昼時だぞ? 何を今更……」
普通の依頼を受けるのは基本的に早朝だ。他の冒険者達も居るし、魔物の大発生でもしてない限り、美味い依頼は有限だ。そもそも、その日の稼ぎで生きている者も多い。だから冒険者ギルドが開く時間帯にはかなり混雑する。
そういうこともあり、まともな依頼は殆ど残らない。今のような時間帯に残っているのはつまり……
「セーラ、盗賊討伐の依頼は出てるか? 報酬や敵の数、アジト等が不明でも構わん」
「う、う~ん……あるにはありますけど……本当に何もかも不明ですよ?」
めちゃくちゃ面倒かつギルドの方が安全か危険かも判断しかねている依頼ということだ。
大抵の人はギルドに依頼を発行してもらうにしても報酬は出来るだけ下げたいもの。中には渋りに渋ってギルド側を困らせる依頼主も居る。
今回の場合は何もかもが不明ということから成功報酬も決まっておらず、敵の数、アジト、武器、容姿と本当に全てがわかっていないという傍迷惑な依頼らしい。
討伐を頼みに来てるのに敵の数も知らない上に容姿すらわからないと来た。
そりゃあギルドもそんな不明瞭な依頼を適当な冒険者に任せる訳にはいかないだろう。例えAランクを行かせたとしても、もし盗賊が百人、二百人規模で居れば負ける可能性もある。……まあ、そんなに居たら絶対に飢えるからそこまで神経質になることもないが。
「構わん。力無き民の代わりに力有る我々冒険者が進んでそういう輩を退治せねばならんのだ。報酬等どうでも良い。大事なのは民に危険が及ばないことだ」
「……だそうですが、シキさんとしてはどうですか?」
「おい、やべぇこと言ってんぞこいつ、どうすんだよ」と目で言ってくるセーラに「誰がそのやべぇ奴と組めっつったんだ? あぁん?」と睨み付けながら、
「絶対に断る。報酬が幾らかもわからないのに依頼を受ける馬鹿がどこに居る。報酬にはそれに見合った危険があるんだ。そこが不明でどうやって受けるか判断するんだ」
と、返す。
しかし、そこはギルドの問題児であるエルティーナクオリティ。当然相方の方は、
「お前の意見など聞いてない。あるのなら受ける。場所はどこだ? 南の方か?」
この通り、無視である。
こういうことがあるから喧嘩になるんだよ。三人ならまだわからなくもないが二人だぞ? リーダーとか決めなくても良いものを、互いに自分の方が強いって思ってりゃ絶対こうなるだろ。
俺で言えば冒険者としてあるまじき騎士道精神の持ち主がパートナーだぞ。勝手にリーダーぶってるし。
「え~っとぉ……え、エルティーナさん、出来ればパーティメンバーとよく話し合ってから決めた方が……」
「パーティメンバー? 冒険者を始めて一ヶ月かそこらの新人と冒険者業数年に渡る私が? よしてくれ、こんな見るからに戦闘の素人と同等などと」
セーラが気を遣って俺の意見も聞けと言ってくれたが相変わらず何の効果もない。
随分、自分の腕や経験に自信があるようだ。
恐らくだが戦闘の素人云々は俺が大量の剣を持ち歩いているからだろう。
普通なら予備を持ってくにしても一本か二本だし、短、長、大の全ての剣を所持する奴なんか滅多にというか絶対に居ない。
理由はメリットに対し、デメリットの方が多いからだ。
多種多様な敵を相手に出来る代わりに動きを阻害し、遅くなる。その上、スキルの関係もある。例えば短剣なら《短剣術》、長剣なら《剣術》、大剣なら《大剣術》のスキルがなければ大抵の人は扱えない。
職業によっては勇者や聖騎士、剣聖のように殆どの武器や剣を扱えるようになるものもあるが、そんな職業なら冒険者よりも聖神教に入った方が贅沢出来る。
全ての国、全ての町、全ての村に手を出して教会を建てさせ、回復魔法の素質を持つものを勧誘or強制連行して我が物とし、育てた回復魔法の使い手がそれらの場所で回復魔法を商売にして割高な治療費を巻き取る。
そんな大金が全国何処からでも常に入ってくるシステムが確立されており、その金から独自の国や軍隊まで設立させている聖神教の庇護下に入れば冒険者をするよりも安全な仕事ばかりだろうし、死ぬほど疲れることをする訳でもない。何より、衣食住が確立される。
だから冒険者に回ってくるのはよっぽどの変人か鼻つまみ者、世間を知らない馬鹿、職業のパっとしない奴等だ。
その辺の事情もあってエルティーナは扱えないであろう大量の剣を持ち歩いている俺を素人と揶揄したのだ。
俺としてはめちゃくちゃ無駄なものを持ってようが素のステータスが高いから動きはそんなに変わらないし、狂戦士は得意武器を選ばない。
その上、俺は《武の心得》という全ての武器や戦闘に関する技術を勝手に体が覚えてくれる便利スキルもあるから特に問題ないんだが……正直、「こいつ、数年もやってて未だにDなのかよ。バッカス以下じゃねぇか……」という衝撃が抜けきれなくて反論出来なかった。
「……あ~……質問なんだがな? パーティってのは力で全てが決まるのか? 強ければリーダーなのか?」
「ふっ、言われっぱなしで腹が立ったか。……一概にそうとは言わん。だが経験を鑑みればどちらがリーダーかくらいわかるだろう」
「別にリーダーが俺じゃないから不満と言っている訳じゃない。同じパーティなのに話し合いもせず、勝手に方針を決められては困ると言っているんだ」
「話し合いならした。盗賊依頼があるのなら行く、とな」
「……身勝手な決定事項を淡々と言うことが話し合いだと? 笑わせるな女騎士。良い歳して人とまともに話すことも出来ないのか」
「あまりキャンキャン吠えるな平民。私は貴様のような下賎な存在と違い、生きる意味と目的があるのだ。私が行くと決めたら行く。貴様は必死こいて付いてくれば良い。それだけでCランクに上がれるのだ。寧ろ感謝して欲しいくらいなんだがな」
「……話にならないな。セーラ、相方は変えられないのか?」
「すいません……ギルドマスターが最終決定権を持っているので……」
はぁ? あのギルマス、嫌がらせでこんな奴と組ませたんじゃないだろうな。
「ふん、まだ噛みつくか。いい加減、組織の意向に口出しするのは止めたらどうだ? 見るに絶えないぞ、その醜い様は」
――こいつっ……自分は三十分も文句言ってたくせに俺を馬鹿にする為に己の記憶すらねじ曲げるか……!
「…………~~っ、はぁ……もう良い。わかった。行きゃあ良いんだろ、行きゃあ」
「そういじけるな。大の大人がみっともない」
「……セーラ、依頼場所は南の村なんだな?」
「えっ? あ、はい、ジンメンから逃げてきた人達が盗賊に身をやつしたようでして……被害はその中でもジンメンによる被害を知らない村ばかりです。女性は全員連れ去られ、他は……だったので何処かに拠点がある筈です。……ご武運を。シキさん」
「偶々通りかかった村人か商人が被害に気付いたのか……わかった。最寄りの村でも移動に半日掛かったな……ならちょうど良い。今から出よう」
「偉そうにするな。リーダーは私だぞ」
「…………」
その後、準備に小一時間掛けると、流石に不憫だな……とでも言いたげな顔のリーフ達を締め上げ、盗賊被害に遭った村に向かったのだった。




