第76話 いざこざ
「悪いが人違いだ。他を当たってくれ」
「嘘つくんじゃねぇ! 不気味な仮面野郎なんてテメェしか居ねぇんだよ!」
「……誰に言われたんだ。第一、仮面をしてるんだから鼻どころか口も見えんだろう」
「屁理屈は良い! ベラベラと無駄に話してセーラに迷惑掛けてたらしいじゃねぇか! 新人のくせに良い度胸だな、ああ!?」
因みに胸ぐらを掴まれ、グラグラ揺らされながらの会話である。
俺を片手で持ち上げる目の前の金髪モヒカン大男は周りのひそひそ話から察するに名をバッカスというらしく、粗暴だが実力は確かなCランク冒険者として名を轟かせているんだとか。
冒険者のランクはその人物の強さと信頼で決められる。
当然ながら誰しも初めはFからだが、最初から強くて人格がしっかりしていれば自ずと上がっていく。
イメージとしてはFからEまでが初心者、Dが駆け出し、Cがベテランの一歩手前、Bがベテラン、Aが信頼も強さも頷けるB、Sが化け物だ。Sに関しては信頼とか人格は捨て置かれるらしく、ジル様が冒険者になれば問答無用でSになるとケイヴロックのギルドマスターが言っていた。
また、重要なのが強さだ。
FからDまでは一般人に毛が生えた程度なので当然弱い。Cの時点で一般人とは比べ物にならないが正規の兵、俗に言う憲兵や国軍の兵士、騎士には圧倒的に劣る。Bで正規の兵に近付くか並ぶと言った感じで、Aで漸く兵を越えるようなイメージだ。
好き勝手出来、誰でもなれる冒険者とは違い、向こうは最初から信頼やコネ、真面目な性格を持っているとか生まれや育ちの時点でふるいに掛けられているからな。主、国軍で言えば国を守る為の兵なのだからしっかりとした衣食住と厳格な訓練を与えられるのも当然。
何と言うか冒険者とはスタート地点が違うのだ。自分の生活を全て命の危険で買っている冒険者は生活に精一杯でレベルを上げる程度でしか強くなれないが、兵は必要な知識や技術を手に入れることが出来る。
様々な苦労や九死に一生を経て徐々に学んでいく冒険者は言わばガタガタの整備されてない道路であり、兵はきちんと舗装された歩きやすい道。冒険者は歩き辛く険しいが、兵は最初から強くなりやすい安定した道だと言える。
そして、その正規の兵……否、それよりも強い騎士と戦ったことがあり、少しだけだが鍛えたこともある俺が判断するに……目の前のバッカスという男はBに近い。まあ、多分知識や人格の問題でCなのか、Bになれる手柄を得てないとかそんな理由でCランクなんだろう。
とはいえ、俺は傭兵崩れの新人冒険者。実力はB程度を想定している。ここで事を荒立たせるのは良くないし、下手にボコって俺TUEEEしても宜しくない。
なので、俺が取るべき行動は……
「ああ、すまない。後ろに並んでいた奴等が言ったのか? 随分待たせたからな。察しの通り、今日登録したばかりの新人でな。色々と必要事項を聞いていたんだ。あんたの女とは思わず申し訳ない」
素直に非を認めて謝る、だな。
「舐めてんのかテメェッ!」
……何でやねん。
「あ、あの~……すいません、シキさんが揉め事に巻き込まれてると聞いたんですが……」
と、ここで噂のセーラさんの登場だ。
大方、不気味な仮面の男がバッカスに絡まれてるとか誰かが話しているのを聞いたんだろう。
「おうセーラ! 今、テメェの手を煩わせたクソ野郎をぶちのめすところだぜ! 終わり次第、飲みにでも――」
「――やっぱりバッカスさんですか……もうっ、だ・か・らぁ! バッカスさんは終わりでも私はこの後も遅くまで仕事なんです! 毎度毎度何回言わせるんですか!」
「そんなん放っておいて――」
「――良いんですか? 遅くまで依頼を達成しようと頑張っている冒険者の方がギルドに帰ってきたら受付が居なくてお金が貰えなかった。そんなことがあっても良いんですか? 責任はとれるんですか? もし自分がその立場なら笑って許せるんですね? なら構いませんよ?」
「うぐっ、いつも仕事仕事って……テメェ、俺の女っつぅ自覚あんのか!?」
「ある訳ないでしょう!? 付き合いもしていない男性に何を馬鹿なことを……バッカスさん、貴方まさかっ……また私を俺の女だとか言って言い触らしてるんじゃないでしょうね!? 貴方みたいな人が定期的に現れるから未だに彼氏も出来ないんですよ私!? どう責任とってくれるんですかっ!」
しつこいようだが俺の胸ぐらを掴んで足を浮かせ、ガックンガックン揺らしながらの会話である。
お相手のバッカスさんが妄想駄々漏らしの勘違い野郎でめちゃくちゃ恥ずかしい奴なんだと判明しても俺を持ち上げたままという事実に変わりはない。
てかセーラもまず俺を離せとか言うべきだろ。別に苦しくはないし、いつも装備してる二~三本の剣は置いてるけど、単純に俺の体重で服が伸びる。もしくは破れる。
「それに! いつまでシキさんを掴んでるんですか! 離してください! 滅多に見ない真面目な方なんですよ!? このまま精進すれば直ぐCランクに……あっ」
何だその「あっ」って。まるでバッカスがCになったばかりみたいな……
「何ぃ? こいつがCランクだと? 笑わせんじゃねぇ! 俺がCになるまでどれくらい掛かったと思ってんだ!」
あ、マジだったのか。……え、俺に聞いてる? ……めっちゃ睨んできてるな。もしかしなくても俺ですね、はい。
「えっと……数年?」
「ぶっ殺されてぇのかテメェッ!」
「シキさん、バッカスさんは一年掛けて漸くなれたんです……」
「…………いや、確かに一年でなれたんなら馬鹿にしたみたいに聞こえただろうが、一年程度で今の言い方は大袈裟過ぎないか? 誘導されたように感じるぞ」
何か物凄く苦労してきたみたいな感じで言うから頑張ってきたのかなって思ったのに。
一年じゃ俺がこの世界に来てからの期間とほぼ被るじゃねぇか。まあ、少しだけ向こうが先輩だけど。
「決闘だッ! お前を完膚なきまでに叩き潰してやる! なぁに安心しろ、殺しはしねぇ。ただ冒険者なら負って当然の傷をつけてやるだけだからな……がっはっはっはっ!」
「おぅ……なしてこうなるだよ………………今のめちゃくちゃぽかったな。人生で初めて使ったのに」
何気無く出た自分の言葉にちょっとした感動。それとちょっとした後悔。
「テ、メェ……ッ!! 田舎育ちの俺を馬鹿にしてんのか!? もう良いっ、我慢出来ねぇ! セーラ! 訓練場借りるぞ!」
「あ、しまった。墓穴掘っちまった」
「あうぅっ……ど、どうすれば……」
「普通にギルドマスターに報告だろ」
「はっ、そうでした! 待っててくださいシキさん! 直ぐに呼んできますので!」
テンパってあたふたしてたセーラに報告を促し、俺は訓練場とやらに引きずられていった。
「どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ……? お前は殺して欲しいのか? そうだよな……? 本が武器とか……冒険者舐めるのも大概にしやがれッ!」
「いや、武器置いて本読んでた俺をあんたがいきなり連れてきたから手持ちが本しかないだけで、決して本が武器とは――」
「――ぶっ殺すッ!」
冒険者が怖すぎる件について。
まるで会話にならない。どうしろと言うのか。
「おおっ、バッカスがまた新人を潰そうとしてるぞ!」
「何でも傭兵崩れらしいな。こりゃあ見物だ」
「対人に長けた傭兵っつっても色々居るからな~……おうお前ら、色々勉強になるから見とけよ。どうすればバッカスに絡まれないか、人と戦う時はどう立ち回るのが良いか、よく見て学べ!」
「「「は、はいっ! リーダーさん!」」」
「ははっ、お前は相変わらず何でも勉強にするなリーダー」
「人間、何事も経験さ。それに……元傭兵の力というのがどの程度の強さなのか知りたいしな」
「顔に傷があるから隠してんだろ? 顔に直撃するくらいなら大して強くないように思えるがな」
「いや、お前の聞いた話通りなら逆に言えばジンメンの攻撃を顔に直撃して生き延びたんだぞ。吸い込むと昏倒、即死する胞子でやられたんじゃなく、物理攻撃で、だ」
「……成る程、そりゃあ確かに見物だ」
何か見世物にされてるし。
これまた男三人の冒険者と三人の若手冒険者。ベテランっぽい三人は面白そうって理由で、若手三人はリーダーらしい男に言われて見るような感じだ。まるで止める気がない。冒険者マジ怖い。
会話的に設定ミスったな。変に実力があるとか思われてやがる……まあ、命からがら生き延びたってのを信じてくれてるからまだマシか。一応、事実だし。
……って、ちょっと待てよ? 昏倒? 即死? 今、そう言ったよな?
つまりステータスの耐性値が低い奴があの胞子を吸うと気絶か即死する……? うわぁ……何て言うか……うっわぁ……九死に一生……レベル上げてて良かった……
「ふん! テメェなんざ素手で一捻りしてくれる! おらっ、本を構えろ!」
乱暴に投げられたので何とも言えない恐怖を振り切り、不自然に思われない程度の動きで着地する。
本を構えろとかいうパワーワードもそうだが、戦闘中に本を構えるとはこれ如何に。
本型の魔道具とかあるのかな。
そうこう思っている内に背中の大剣は抜かず、宣言通りに素手で襲い掛かってきたバッカスの猛攻を無言で避けていく。
初手は大降りの右ストレート。振りが大きく、力任せ過ぎて軌道が丸わかりなので首を捻って躱そうとし……見られていることを思い出して後ろへ下がる。
当然、追いかけてきて次の攻撃、これまた大降りの蹴りを放ってきたのでそれも後ろへ下がって回避。
と、一般人相手なら卒倒ものの連打を後ろへ下がり続けて躱していく。
「はっ、逃げてばかりで何もしやしねぇ! そんなテメェがCランクなんざ百年早ぇんだよ! おらっ、さっさと死ねぇっ!」
少しして後ろから壁が迫ってきたので、頃合いを見計らって大降りの右拳に軽く手を当てて軌道をずらし、壁にめり込ませる。
「があああっ! ってぇなっテメェ!」
激昂して左のローキックを放ってきたので、お望み通り本を両手で構えてガードする。
結果、内容の割にそこそこ分厚かった本が表紙ごとひしゃげてあらぬ方向へスパーキング。ついでに壁に手がめり込んだオッサンが出来上がった。
見立て通り、一般人とは比べられないくらい強い。
が、それだけ。騎士相手に余裕で無双出来る俺が実力、技術、共に騎士に劣る奴に負ける訳がない。
とはいえ、俺は顔も出自も実力も隠している。「目立ちたくないんだけど……」とか言いながら倒して目立つことも出来ない。
だからこそ壁と本を態々攻撃させて破壊したんだが……ギルマスはまだか? ……あ、何かそれっぽいオッサン居るな。セーラが隣でこっちを指差しながらじたばた焦ってる。当の本人は観察するような目で見てるけど。……どうしたもんかな。
「お、何だなんだ? 騒がしいと思ったらまたバッカスの新人潰しか? っと……マジか」
「……昨日の奴」
「あいつっ、どの面下げてっ!」
「よせ、止めろフレアっ。無駄な口出しはするなと言ったろ!」
「くっ、だがリーフっ、あいつは……」
「良いから黙ってろっ」
壁から力任せに右腕を抜き取り、再び殴りかかってきたバッカスを横目に昨日の冒険者トリオが視界に入った。
それだけじゃない。後ろからも続々と野次馬根性に溢れた冒険者達が出てきやがる。
――……チッ、仕方ない。そろそろやられるか……
俺は少しずつ躱しきれなくなってきたようにバッカスの攻撃を掠らせていき、頃合いだと思ったタイミングで大砲らしい右ストレートを腕でガード、同時に地面を蹴っ飛ばして大袈裟に吹っ飛んだ。
右ストレートによる衝撃は死んだが後ろ跳ねの威力が高過ぎたらしく、壁に背中を強かに打ち付ける。
「がはっ……!?」
自分でやったとはいえ、それなりに痛いし、肺から空気が出ていったが丁度良い。
俺はついでに舌と唇を少し噛み、あたかもかなりのダメージがあったかのように血を流した。
仮面で口元は見えないからあたかも吐血したかのように見えるという演出だ。普通に苦しいから噎せているし、自然な形でダメージを演出出来た筈。
出来れば腕にも打撲傷程度は欲しかったが、バッカスが殴ったのは俺の左腕……手甲だ。痛いのは寧ろ向こう。こっちの腕に何ら痛みはない。
バッカスもプライドが高いからこんなことになってる訳だし、誰かに言うことはあるまい。
「ああっ! シキさん! 大丈夫ですか!? ば、バッカスさん! もう止めてください! これ以上は処罰の対象に……い、いえっ、シキさんの怪我の具合によっては既に処罰の対象です! 冒険者としての資格を剥奪されたいんですか!?」
「っ……!! こいつっ……よくもっ……! あぁ!? 何だと!? クソっ、これからが良いところだってのにっ……覚えてろよ仮面野郎!」
動こうとしないギルドマスターに業を煮やしたらしいセーラが飛び込んできて俺を庇ってくれた。
お陰で好き勝手吐きながらバッカスは退散した。
さて、問題はこの後だな。
――どれくらい誤魔化せた?
最初の六人組の内、ベテランっぽい二人は「何だよ、やっぱり大したことねぇな!」、「ジンメンから逃げ切れたのはまぐれか……」と興味無さげに話しており、俺と同じ新人っぽい三人組は青い顔をしているがリーダーらしき男は周りの様子を探っていた俺と目が合った。
男はニヤリと謎の笑みを一瞬だけ浮かべ、「行くぞお前ら!」と仲間を連れて退散していった。
――何で誰も助けないんだみたいな非難の目を意識して見てたが……ありゃあバレてるな。演技系スキルも万能じゃない、か……ギルマスや昨日のトリオはっと……こっちも怪しまれてるな。
特にトリオは俺の殺気をもろに受けたこともあって、意図がわかっているらしいリーフ以外の二人は混乱している様子だ。
他の野次馬冒険者達は「逃げるだけで終わりかよ、つまんねぇな」、「傭兵ってのは対人ばっかだからレベルが低いんだよな~……経験値の多い魔物ばっか相手にしてる俺達とは文字通りレベルが違うんだよレベルが」と好き勝手言いながら消えていった。
――ギルマスと六人組のリーダー、リーフの三人は誤魔化せなかったか……まあ、良い。他は大丈夫だろう。後は馬鹿かピエロでも演じればギルマスくらいは何とかなる筈だ。
「っつ……」
痛いのは寧ろ血が垂れるくらいに噛んだ舌と唇だが、それを隠して腕と内臓にダメージを負ったかのように腕を抑えてふらふらしながら立ち上がる。
――ちっ、背中も痛い……もう少し演技も上手くならないと顔や実力を隠すんじゃやってけないな……
「シキさん! お、お怪我は……う、腕ですねっ、わかりました。直ぐに回復魔法を使いますので!」
「……あんた、回復魔法が使えるのか?」
回復魔法が使えるってことは『聖』属性の適性があるということ。
普通なら聖神教という……まあ、この世界の主流とされる宗教の信者に連れてかれる筈だが、中には隠して医者のようなことをやっている奴も居ると聞く。セーラもその口だろう。
「止めろセーラ。傭兵ならそれくらいの傷は当たり前だ。だろ、仮面さんよ」
ギルドマスターらしい禿面のオッサンがセーラの肩を掴んで止める。
リーフ達三人組と俺しか居ないとはいえ……あまり見せるものじゃないと判断したか。
「……確かに当たり前だが、それとこれとは別の問題ではないか? 見たところ、このギルドの責任者だな。この責任、どうとってくれるんだ?」
「ふむ……責任とは?」
「自分の組織の末端が入ったばっかりの新人を潰そうと喧嘩吹っ掛けて傷を負わせたことに対してだ」
「……確かに我々にも多少の責任はあるだろうが、勝手にお前達がいざこざを起こし、勝手に暴れ、勝手に怪我をしたんだ。何故、我々が全ての責任を負う必要がある。寧ろ壁をぶち抜かれ、貸し出し用の本まで破壊された我々の方が被害者なんだが?」
「それをやったのがさっきの男だと言っているんだ」
「くどい。その男といきなり喧嘩を始めたお前にも責任があると言っている」
こいつ、あくまで自分達は一切関係なく、悪くもないと主張するか。それどころかこっちが悪者扱い……理はあるから下手に反論出来ない。相手がセーラをどうのこうのでいちゃもん付けてきたと言ったところで「それが何だ?」と返されて終わりだろう。
かといって、ここでキレて目をつけられても困る。馬鹿が相手ならこちらも馬鹿の振りをして誤魔化したんだがな……仕方ない、殴られ損だが諦めるしかないか。
「わかった。代わりに質問に答えろ。このギルドでは先程のように問答無用で襲い掛かっても何のお咎めもないんだな?」
「程度によるな。お前がもし大怪我を負っていれば問題だが、冒険者ならその程度で大騒ぎするほどのことではない」
「成る程……ではもう一つ。先程のような場合でも正当防衛は認められるのか?」
「何を馬鹿なことを。幾ら元傭兵でも実力はBに位置するバッカス相手に勝てるとでも?」
「質問に質問で返すな。俺の話でもない。ただ正当防衛は認められるかと聞いている」
擁護する訳ではないんだろうが、やはり入ったばかりの新人が大口を叩くのは気分が宜しくないんだろうな。
若干、眉がピクリと反応していた。
「……それも程度による。あの程度のことで根を持って襲い返すなんてことをしたらそれこそ憲兵に突き出すがな」
……ダメだな、こっちも会話にならん。同じ答えしか返ってこない上に一々突っ掛かりやがって……ムカつく野郎だ。
「し、シキさん……あのっ……」
「良い。気にするな。それより、あの壁と本の弁償はした方が良いか? ギルドマスターの言う通り、確かに俺にも責任があるからな。払えと言うのなら払うが」
「い、いえいえっ、シキさんは無理やり連れてこられて怪我を負わされただけですから弁償だなんてっ……寧ろこちらの方が大した対応も出来ず、申し訳無く……」
後半の対応云々は小声で言ってきた。セーラも快く思えるような対応ではなかったんだろう。
「良いと言って――」
「――よおっ、昨日の仮面兄ちゃんじゃねぇか! そういや、礼はするとか言ってたよな? どうだ? これから一杯っ。当然、あんた持ちだが!」
俺の言葉に被せるようにして、昨日の冒険者、リーフが無駄に高いテンションで絡んできた。
態々、俺の首に手を回して逃げ辛くしてまでだ。
俺はさも今気付いたかのように、
「……あんたか。確かに昨日は助かった。一杯くらいなら奢ろう」
と、無難な反応を返す。
「おっ、そうかそうか! んじゃあ、嫌なことを忘れる為にも飲もうぜ! おうフレアにアクア! お前らも行くよな!」
「「…………」」
声を掛けられた二人は少しの間、思案するような顔をし、アクアの方が先に答えを出してきた。
「……奢りなら」
「なっ、アクア……お前っ」
「フレア。昨日も言った。リーフがリーダー」
「……ちっ、わかった。俺も行こう」
正気かとでも言いたげなフレアも渋々来るようだ。
「悪いがセーラ。用事が出来た。話は明日に頼む。明日こそ依頼を受けたいんでな」
「わ、わかりました。えっと……その……本当に申し訳ありませんでしたっ」
「あんたが責任感じることはないさ」
空気と化したギルマスを無視し、俺はリーフ達と冒険者ギルドから出た。勿論、無事だった本を元の位置に戻し、装備やマジックバックを拾って。




