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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第3章 冒険者編
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第75話 冒険者登録とちょっとした勉強



「よし! 怪しいのは見た目と装備と出身だけだな。行って良し!」



 ……いや、良くはねぇだろ。



 俺達の服装やら装備やら持ち物やらをチェックし、割高な通行料をぶんどっていった憲兵に深くそう思いながらムクロと共に街に入る。



「まさか壁が開くとは思わなかったな。ゲートみたいになってるとかどういう構造してんだろう……」

「入り口らしき場所で待っていたらいきなりだったもんね。あたしもビックリしちゃった」

「……いつまで人の背中に居るつもりだ?」

「宿と飯屋が見つかるまで」

「……手伝えと?」

「当然だろう。我が所望しているのだぞ?」

「我って……魔王かテメェは」

「ほれ、主の求めるものを用意せんか」

「コラコラ、ぺちぺちするのは止めなさい。お父さん怒りますよ」

「ぱぱ、ごめんちゃい」

「……殺すぞ」

「やだ~……冗談に冗談で返しただけなのにぃ……も~……」

「思った以上に反応がウザかったからな」



 何だろう。この問答が当然のようになってきた。



 とはいえ、約束通りならムクロとはここでお別れなんだが……何が面白いのか爆笑しながらぺちぺちと人の頭を叩いてくる変人と別れて良いものか物凄く悩む。

 別れが惜しいとかじゃなく、こんな奴を野に放って良いのかとかそういう意味で。



「あははははっ、面白~いっ、あはっ、あははzzz……」

「だから寝るなっつぅに!」

「むにゃむにゃ……」

「大丈夫かこいつ……」



 やっぱりダメな気がしてきた。



 つってもこのままムクロと一緒に居ても俺の成長の為の旅には邪魔っていうか……ムクロが強すぎて成長出来るイメージが沸かないし、ムクロからしても……いや、暇なら逆に丁度良いかもしれんが、この際向こうの都合なんかどうでも良い。取り敢えず、宿と飯屋とか言ってたし、さっさと連れてこう。もうそろそろ夕方だし、冒険者登録は明日で良いだろう。



 この数日で全体の6割程が発狂から復活してきた思考で長考を終えた俺は槍を持って辺りを見渡している先程の憲兵に声を掛ける。



「すまないが宿を探していてな。飯と……あっ。……出来れば風呂があるところが良いんだが……」

「む、何ださっきの怪しい奴か。うぅむ……飯と風呂なぁ……まあ、あるにはあるが高いぞ? その女とにゃんにゃんするにしたってもう少しマシな宿もあると思うがなぁ?」



 仮面をしてても首から垂れ下がるムクロの髪から漂ってきた何とも言えない臭いに一瞬だけ素の反応をしてしまった。

 すると、憲兵の方もプライベートっぽい話し方でニヤニヤしながらふざけたことを抜かしてきた。



「目玉と鼻と脳ミソ腐ってんのかあんた。んなことしないから教えてくれ。金は気にしない」

「そ、そこまで言うか……まあ、良い。この先を真っ直ぐ行って、夜街を抜けたら右手側に旗を掲げた立派な宿がある。今みたいな汚い格好で行くと敬遠されるが、金があるんなら大丈夫だ。少し割高になると思うけどな。セキュリティは万全だし、防音対策もされている。つまり、にゃんにゃんし放題――」

「――そうか、助かった」



 知りたいこと以上を下品な情報込みで教えてくるので銅貨二枚を指でピンと弾いて渡すと早々に歩きだした。

 後ろで「んだよ愛想ねぇなって……おおっ、気前は良いな! 毎度!」という声が聞こえたが無視した。



 ――チップ……ちょっとした謝礼に銅貨二枚は少し多いと……成る程。覚えておこう。









「一部屋ずつならこれ以上はまけられないよ。あんたら鏡見たことないのかい? 汚い格好しちゃってまあ……その不気味な仮面といい、うちに泊まれるだけでも感謝してほしいくらいだよ!」

「……では二人部屋で頼む。それと風呂と飯も。飯は……あ~……十人前で」

「あいよ。風呂と飯は追加で……って十人前!? ……精をつけるにしたってつけすぎじゃないかい? あんまり部屋を汚さないでおくれよ?」

「あんたが想像していることは一切ないから安心しろ。こいつがめちゃくちゃ大食らいなんだ」

「こんな可愛らしい娘っこがそんなに食える訳ないだろう。恥ずかしがらんでも良いよ。逆に気味が悪い。さっさと出ていっておくれ」

「……すまない」



 そんなこんなで部屋につき、明らかに一人用じゃないベッドにムクロを降ろそうとして近くのソファにぶん投げる。

 「ふぎゃっ……痛い……」という寝言が聞こえてくるが汚い上に臭い自分が悪いとばかりに素知らぬ顔でマジックバックと武器を下ろし、防具を外していく。



「……初日から頭が痛いな。この街の奴等は下世話な話しか出来ないのか? めちゃくちゃ高いし……どこがちょっとだよあの憲兵……」



 一人部屋で金貨1枚、風呂と飯付きで金貨2枚、二人なら金貨3枚と銀貨50枚とか……日本なら一泊十万だぞ? 風呂と飯追加で二十万……ぼったくりも良いところだ。

 太った女主人の嫌味ったらしい口調に苛々どころか脱力するくらいの高さだ。ムクロから大金貨を貰ってなかったらかなり悩んでただろう。



「はぁ……漸く借りれた部屋もベッドは一つしかないし……無駄な気を使いやがってクソっ……」



 もう駄目だ。何も考える気になれん。一徹してるし、死にかけたし、冒険者や憲兵、女主人とのやり取りで疲れたし、さっさと風呂入って飯食って寝たい。



 そう考えた俺は装備を完全に外すと部屋にあるという個室の風呂場に向かい、マーライオンみたいな石像に嵌めてある魔石……魔物から必ず取れる魔核という部位を加工したものに触れて魔力を流す。

 すると、丁度良い温度のお湯が出てきたので「良し……」と小声で呟きながら服を脱いでいく。



 完全に脱ぎ終わり、風呂場の入り口にある脱衣場に乱暴に脱ぎ捨てておく。ついでに仮面もだ。

 理由は間違ってもムクロが入ってきたりしてこないように、である。音で気付きそうなものだがムクロだからな。流石に風呂の音がして服まで落ちてたら気付くだろう。



 そう考え、マジックバックから出しておいた、ショウさんから貰った固形石鹸を近くに置いて体を洗っていく。



「ふ~っ……風呂に入るのなんて何ヵ月振り……ってほどでもないか。戦争前は城に居たし……」



 体を洗いながら十人くらいは余裕で入れそうな広々とした浴槽にお湯が張るのを待つこと数十分。

 やはり疲れていたのか、うとうとしていた俺は背後から近付いてくる影に気付くのが遅れてしまった。



 風呂椅子を蹴飛ばしたような音でビクリとして後ろを振り向く。

 そこには「痛ぁっ……」と足を押さえるムクロが居た。……全裸で。



「うぉいっ!? テメっ、何してっ」



 一人なので当然、タオルなんか持ってきてなかった俺も全裸だ。



「いや~……私もお風呂に入りたくてつい……」

「わかった、直ぐ出るから出てけ!」

「やだ」

「何でだ!? わ、わかった。俺が出てく。後ろ向いてろ」



 ――な、何なんだよこの女っ。恥じらいという言葉を知らないのか!?



 激しく動揺しながら顔を戻し、ムクロの方を見ないようにする。



 うっ、ヤバいっ……さっき見えたムクロの体が……



「別に出なくて良いぞシキ。見ても構わん。寧ろ見ろ。洗うのに苦労するだろう」

「誰が見るかボケっ……て……洗う? はい?」

「洗え」

「……お前の体を?」

「洗え」

「…………」



 思わず振り返り、素早く前を向いた。



 こいつは何を言っているんだろうか? 俺に体を洗え? そう言ったかこいつ。……頭沸いてるな、間違いない。



 俺は魅惑的なお願いに首をブンブン振りながら風呂場から出ようと立ち上がり、ムクロの方を見ないように歩き始めた。



「お~……冒険者……じゃないな。傭兵? にしては細身だが中々鍛えて……おおぉう………………うわぁ……」

「……何で普通に見てらっしゃるんですか?」

「……つい?」

「……配慮が足りなかったな。すまん、出るから。石鹸は俺のを使って良い。何か別料金になるみたいで俺、持ってたから断ったんだ」



 まさか普通に俺の方を向いているとは思わなかった。視界には入ってないから実際のところはわからないが、反応からして確実にこっちを見てるだろう。

 先程のムクロの体に反応して立つどころか元気に走り回りそうなくらいのジョ◯orク◯ラを隠しながら早口かつ足早に出こうし……



「くっ、何で俺がこんな羞恥プレうぇいっ!?」



 ムクロに手をぐいっと引っ張られた。



「何しやがっ――」

「――シキ、お前……」



 まじまじと俺の顔を見るムクロは見たことがないくらい真剣な表情をしていた。

 ジーっと俺を見つめながら、懇願するようにぎゅっと手を握られる。



「……普通の男と違って、何だかんだ嫌がるのはわかっていた。しかし、こうでもしないとお前は話を聞かないだろう?」

「……話によるな」



 結局、何か話があるらしいムクロを洗うことになった。

 と言っても髪だけだが。ついでにタオルもしてもらったので、後ろからでも見える谷間やうなじ、艶かしい体のラインを意識しないよう注意すれば……



「心なしか鼻息が荒いぞ」

「おうそうかすまん……ってそんな訳あるか! そこまでは興奮してねぇよ!」

「そうか? それにしては随分……」

「そういう意味深な反応とこっちを見ようとするの止めろ」

「全く……お前が私の臭いを気にしているようだったから文句が言えないよう洗わせてやろうと思ったのに……」

「気付いてたんなら自分で洗えよ。てか流石に無防備とかそういうんじゃ収まらんだろ。襲われたいのか」

「たくはないが……洗われるのも見られるのも当然だからな、私は。後、家畜や虫程度に見られて羞恥を覚えるほど変態ではない」

「殴りてぇこいつ……」



 人を何だと思っているのか。



 そう考えながらムクロの頭と髪を石鹸で洗っていく。

 女性の髪を洗うなんて初めてだからわからないが、髪自体も洗うんだよな? 確か。女子高生の日常系アニメで「てもてー」とか言いながら洗ってたの見たことあるし。……実際はどうなんだろう?



 そんなことを無理やり思いだし、必死に理性と戦っていると真面目な声色で話し掛けられた。



「やっぱり、な……」

「ん?」

「魔族……だったんだな、お前」

「…………」



 完全に忘れていた。



 ――そうだっ、仮面外したら……俺、角丸出しの……。



 思わず手を止めた俺に手で続けろと催促しながらムクロは続ける。



「気配と身体能力で人ではないんじゃないかと思っていた。……けど。そうか……人族が優しいんじゃなくて……魔族だから……いや、お前だから……優しかったんだな……なら人族は…………」



 染々と……本当に染々と呟くムクロに俺は何も言えなかった。



 俺が魔族だったことに対する恐怖や拒絶は一切なく、代わりにあったのは「そうか……」という深い納得と諦念だった。



「あ……のっ……隠して……悪かった、ムクロ……俺は……確かに魔族だけど、俺は決して敵対してない奴等には――」

「――わかってる。お前がどのような人物像か、この数日で理解出来ているつもりだ。私はお前が魔族だろうと構わん。口外もしない」

「……助かる」

「気にするな。誰にでも隠し事の一つや二つくらいある。今回は風呂ならチャンスだと思って無理に入った私が悪いんだ。すまなかったな」

「…………」



 そんな会話を最後に俺は上がり、就寝した。













 朝起きると、隣で寝ていた筈のムクロの姿はなかった。

 女主人に訊いてみると、朝早くに出ていったらしい。金も払ってくれたようだ。



 あいつ……これでお別れのつもりか? 昨日のは何だったんだ。俺が魔族だと周りに言わないだけで有難いが……たった数日の付き合いとはいえ、真面目な顔であんな……



 ちっ、ムクロのくせにモヤモヤさせやがって……と朝からモヤモヤしていると、道端で倒れている人が見えた。



 赤黒い髪と先日見た白い肌を思わせる美肌、高そうな黒いドレスに一度見たからか最早裸に見えてくるモデル体型。力なく投げ出された体、真っ黒の隈……etc。



 ムクロだった。



「むにゃむにゃ……う~ん………………お腹空いた……」



 ……………………。



 ――こいつ……昨日あんな意味深なこと言ってたくせに何普通に………………あぁ、もう良いや。ムクロだし。うん……俺は何も見なかった。……良し。冒険者ギルド行こう。



 俺は何も見なかったことにして目的地に向かった。













 さて。何か朝から脱力するような、コケそうになるようなものを見た気がするが冒険者ギルドに着き、現在は受付の前の列に並んでいる。



 ケイヴロックという、ダンジョンの街で見たようにギルド内は案外綺麗な内装をしており、受付から離れたところに酒屋みたいなスペースがあること以外は特に目立つものはない。まあ、強いて言うなら天井が日本ならありえないレベルで高いが、城とかもそうだったし、デフォルトだろう。



 着いたのは良いが……問題は登録だな。仮面してるから絡まれるような気もするし、敬遠されて絡まれないような気もする。出来れば異世界テンプレである先輩冒険者とのいさこざは避けたい。



 それに、だ。

 登録の仕方はリュウ達から聞いたから知っているが悩ましいのは俺の出自や反応、受付嬢との問答だ。



 冒険者登録する場合、就職とかでもそうなんだろうが、自分は何処から来て、何が出来て、何処が役に立つかとかそんな感じの簡単な質問がくる。

 この世界で言えばスキルがあるからそこまで問題じゃないんだろうが、生憎俺は色んな種類の剣や最強の爪を持っていても武術スキルは持っていない。スキル持ちかそうでないかなんて鑑定スキルでもなければ早々にわからないとはいえ、強い奴なら見抜かれる可能性は高い。だから持ってない武術スキルをアピールするのは無しだ。



 幾ら異世界人補正やレベルで強かろうと聞かれるのは出自と技術。

 出自の方は嘘発見器とか心を読むような魔道具を使われたりせず、ただ聞かれるだけだから適当に誤魔化せるがスキルは悩ましい。自らのスキルを明かすことにもなるし、かといって明かせるスキルは正直少ない。



 明かしても問題ないのは演技系スキルや《集中》、先日手に入れた《痛覚耐性》、《直感》に限られるし、明かしたところでそれらが冒険者活動に役に立つかと言ったら否だ。

 演技出来ますよ、めちゃくちゃ集中力高いんすよ、痛みに強いっすよ、何か色々察知出来ますよとか言えないし、俺が言われたら間違いなく残念な人だと決めつける。



 ついでに言えば問答もそうだな。

 まず、受付に行けば質問と同時に名前とか得意な武器とかを書く紙を渡される。質問はまあ演技系スキルがあるからどうにでもなりそうなもんだが、紙の方は考えて行動しないと少々不味い。



 常識的に考えて、ある程度冒険者や常識を知っていて文字も書けるってのは割りと普通にヤバいのである。

 平民で書ける文字って言ったら自分の名前程度だろうし、「冒険者について説明致します」とか言われて「あ、知ってるんで結構です」とか返せば色々と面倒なのが目に浮かぶ。



 そんなことを考えている内に俺の番になったので、歩を進める。



 ――取り敢えず一番注意するのは……あれ? 俺、また何かやっちゃいました? パターンだ。フィクションと違って俺の場合、存在がバレたら普通に詰む。慎重に慎重に……



「冒険者ギルドへようこそ! 本日はどぅっ……ど、どういった用件お越し頂いたのでしょうか?」



 第一声で噛まれた。

 俺の仮面に気付いて驚いたんだろう。可愛らしい顔を盛大にひきつらせている。



「冒険者登録をしたいんだが、頼めるか?」

「は、はい、登録ですね? 登録料として銅貨五枚が必要なのですが宜しいですか?」

「銅貨五枚だな……これで良いか?」

「はい、確かに。それでは簡単な質問に答えていただきつつ、この紙に書ける範囲で良いので名前と職業か得意武器、アピールポイントをそれぞれ書いてください」

「わかった」



 こうして、亜麻色の髪の可愛い系の受付嬢……セーラと他愛ない世間話を挟みつつ、登録を行った。

 俺が冒険者をやるに辺り、決めた設定はこうだ。



 まず名前はシキ。戦争孤児として生を受け、傭兵をやっていたが少し前にジンメンに所属していた傭兵団を全滅させられ、顔に大きな傷をつけられながらも命からがら何とか生き延びた。その後、生活資金が尽きてきたので再び傭兵をやろうと思ったが、一定金額を受けて死ににいく傭兵よりも一攫千金を夢見て死んでいく方がマシかと思い、冒険者になりにきた。

 職業は戦士系としか言えないが、剣なら多少扱える。戦いに関するスキルを少しと《集中》、《直感》を持っている為、冷静に戦えるのがアピールポイントである。



 とまあ、そんな感じのことを伝えた。

 ジル様やエナさんから聞いた話を基に、それらを大して珍しくもない設定にしたお陰で怪しまれることもなく登録することが出来た。



「生活資金が危ういとのことでしたが、今日は依頼を受けますか?」



 第一関門はクリアした、次は……と考えていると、セーラから有難い申し出があった。

 正直、依頼は受けてみたかったんだが、受付は結構並んでるし、依頼が書かれた紙を張ってある掲示板から剥がして受注する形式だから面倒だと思っていたからな。この場で受けることが出来る依頼なんて簡単なものしかないだろうが問題はないだろう。何事も経験だ。



「出来れば受けたい。何があるんだ?」

「常時発行している依頼でFランクのシキさんが受けられるのはゴブリンやコボルト、一角ウサギ退治等の討伐依頼や薬草とかの採取依頼ですね。どちらもジンメンが出る方角とは真逆なので比較的安全なものですよ」

「そう、か……」



 セーラの話を聞く限り、俺を追い詰めたジンメン達は決まったエリアしか現れないらしい。

 それが今のところなのか、そういう生態なのかはわからないが、取り敢えず俺やムクロが来た方向がドンピシャで奴等のテリトリーだったんだと。



 まあ、危険が全くない訳じゃないが目撃情報等がないなら受けるべきだろう。

 冒険者のランクはテンプレらしく、FからSまである。初心者であるFに出来ることは少ないし、手に入る金も雀の涙だろうがないよりはマシだ。最低限、飯代くらいは欲しい。



「討伐依頼の方はどうやって討伐したことを証明するんだ? どこかの部位を切り取ってくるとか?」

「正解です。ゴブリンなら耳、コボルトなら親指、一角ウサギなら角と色々決まっていますが低レベルの魔物は魔核でも問題ありません。魔物に関する図鑑や討伐部位が書かれた本はギルド内ならば貸し出し出来るので読むことをオススメ致します」

「そうか……ということは薬草の方も似たようなものがあるんだな?」

「はい! 是非読んでください! 初心者の方は雑草を抜いてきて自慢気に渡してくるので特にお願いします!」

「……ふむ。なら今日は依頼は止めにして勉強することにしよう。早速、それらを借りたいんだが何処にあるんだ?」



 出来れば受けたかったがちょっとした毒を含みながら笑顔でそう言われれば仕方ない。最低限の知識は必要だし、幸い数日程度なら飢えない。必要経費と言える。



「……さっきから思ってましたけど、意外と素直なんですね。シキさんは」



 キョトンとした顔で少し驚かれた。

 間違いなく魔物の仮面で人物像が独り歩きしてるな。



「普通なら読まないし、聞きもしない……か?」

「言い方は良くないですが……そうですね。そういった方の方が多いです」

「賭けるのは自分の命だからな。出来れば無駄なことは避けたい。それに、情報というのは宝だ。存外どうでも良いことが役に立つこともある。今回は知らなければ自分の為にならないことだが」

「それは……傭兵時代の教訓ですか?」

「まあな」



 俺からすればというか、日本人なら大抵の人は魔物の蔓延る場所に行ってまでこれだと思って薬草持ってきたら実は雑草で金も手に入らりませんでしたとか無駄以外の何でもないと感じるだろう。

 義務教育を受けられる環境じゃない奴等からすれば違うのかもしれないが、受けた身かつ安全な日本で育った身としては自分の命が懸かってるのに面倒とかそんな理由で手抜きして死にたくないのだ。



「おお、良いですね……傭兵さん。傭兵も冒険者も同じような人ばかりだと思ってました。真面目な方はギルドとしても助かりますのでこれからもよろしくお願いしたいです。……ではこちらになります! 貸し出し料として銅貨一枚を頂戴しますっ。本来なら一冊で一枚ですが、シキさんは堅実に頑張ってくれそうなので特別ですよ!」

「投資か……有難いが過度な期待は困る。俺は最低限生きられれば良いからな」

「そ、そうなんですか? 変わってますねシキさんは……ま、まあお酒や女の人以外にも人生は良いことに溢れてますからね! はい、確かにっ。原則、これらを外への持ち出すのはご法度となっておりますので、あちらのテーブル席で読むことをオススメします! お酒やお料理も頼めますよ!」

「あいわかった」



 やけに金取るんだな冒険者ギルド。真面目な一面を見せての、「見た目と違って良い奴ですよ」アピールしたらめっちゃ営業してくるし。受付嬢の給与に担当した冒険者の依頼達成率やギルドへの貢献ポイントか何かでも関係してくるんだろうか?



「それでは貴方の冒険に幸あらんことを!」

 


 いや、冒険しないし。

 挨拶らしき、セーラの言葉に手をヒラヒラさせながら酒屋の方へ向かい、相場を調べる為にも水を一杯頼む。



 日本と違って安全な水を手に入れるのは労力が掛かるらしく、やはり金は掛かった。

 ぬるいし、美味いとは言えないがまあ勉強代だ。



 こうして俺は冒険者としての一日目を勉強に当て……



「おい、テメェかッ!! 俺のセーラに鼻の下伸ばしてた変態ってのは!」



 見事に絡まれた。真面目に勉強して「そろそろで読み終わるなぁ」とか考えていた夕方頃に。



にゃんにゃん(死語)

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