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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第2章 戦争編
66/334

第66話 見えてきた終結と黒く染まる心

グロいシーンがあります。食事中の方等はご注意ください。



「一時休戦だ。お前らにも一体任せる」



 聖剣を油断なく構えたライが早瀬とイサムに話し掛けた。



「あ? 何仕切ってんだコラ。テメェの指図は受け――」

「――お前、マジで殺すぞ早瀬……いい加減にしろ。死ぬつもりでテメェに【紫電一閃】使っても良いんだぞ」

「……チッ、こんなのが勇者かよ」

「イナミ君、僕達は二体――」

「――気安く呼ぶなクソ勇者。お前らなんか信用出来るか、二人で一体を確実に殺せ。他は俺達がやる」

「ご、ゴメン……」



 一触即発の空気ではあるが、ライが一体、早瀬とイサムで一体を相手取るようだ。

 ユウが何を考えているのかを推し量ることが出来なかったライは殺気の方向と先程の台詞からして戦いには加わってくれると見切りをつけ、トモヨ達に指示を出した。



「残り一体は皆に任せる。倒せないと判断したら援護か向かってくるであろうオークの群れを迎撃しててくれ。俺が二体引き受けるから」

「わ、わかったわ……」



 ユウをチラチラと見つつも真剣な表情で頷いたトモヨはアカリやミサキに戦闘体勢をとらせた。

 リュウはユウの殺気に当てられて腰が抜けていたようだが、震えながらも盾を構えている。



 対するオークキング達もユウの殺気に反応し、各々武器を向けている。



「「「「「……………………」」」」」



 暫しの間、動向を探りあう両者。



 やがて、痺れを切らしたように早瀬が突っ込んだ。



「何ビビってんだテメェら! 先手必勝だっ!」



 魔族を貪ったお陰で進化を遂げたとはいえ、まだ生まれたて。

 しかし、一般的なオークキングとは違う誕生の仕方をしているので、強さは未知数だ。



「はっ! 豚風情がこの俺様……は? な、何だこいつ!? 反応しやがっただと!?」



 早瀬が相も変わらず認知が遅れるほどの速度で斬り込んだ盾と棍棒を持ったオークキングも初撃は肩を斬られ、悲鳴を上げていたが、二撃目からは《金剛》の効果を下げ、発動箇所を広げたスキル、《鉄壁》によって弾かれることとなった。



「……防御スキルか。僕達にうってつけだね」



 己の固有スキルとの相性の良さに不敵な笑みを浮かべたイサムは剣を掲げると、早瀬と共に盾持ちオークキングを引き付けて離脱した。

 【唯我独尊】の効果範囲に早瀬以外の味方を入れない為だろう。



「残り三体……」



 仲間が一体、挑発に乗って消えていったというのにも関わらず残った三体はライ達を見つめるのみ。



 残ったのは魔族の斧を構えているオークキングと何処からか拾ってきたらしい杖と槍を持った二体のオークキングだ。

 魔物が拾った武器を自在に扱える、ということはないだろうがライとしても慎重に敵を選ばなければならない。マナミが居ると言っても即死すれば意味はないのだから。



「……斧持ちは俺が殺る」



 少しすると、ユウが魔族の持っていた禍々しい斧を装備しているオークキングを選んだ。

 大振りを予想できる相手と回避型のユウだ。イサムではないが相性は良い。



「じゃあ俺が槍だな」



 ユウが相手を選んだことにより、ライも覚悟を決めた。



 強いというのは確実にわかっている現状ではトモヨ達のような連携して戦うタイプのパーティに近接戦闘は不利だと思ったのだろう。

 実のところ、杖と槍なら杖の方が安全そうだからという理由もある。無理にトモヨ達に強い方を当てたくなかったのだ。



 しかし、そんなライを止める者が居た。



「……いえ、我々が槍持ちを担当します。ライ様は杖持ちをお願いします」



 己が受けてきた数々の拷問並みの惨い仕打ちを受けたユウの身を案じていたアカリである。



「……理由は?」

「貴方が万全とは言い難い状態だから、私が盾として機能するスキルを所持しているから、ですね。ライ様も知っている筈です。私の【金剛堅固】は《鉄壁》の完全上位互換。ステータスで負けていようとスキルと装備の質の差で私に分があります」

「……わかった。死ぬなよ」

「はい」



 ライは肉体的な疲労やダメージはないが魔力は底を尽いているし、ユウを救えなかったことによる自分への失望、ユウからの敵対発言により、精神的にはかなり摩耗している。

 その上で相手との適性まで言われてしまえば引かざるを得なかった。



「アカリ、どいつが相手でも良いけど貴女が惹き付けて私が攻撃、それを遵守して。貴女は防御か回避だけよ。攻撃は無し。わかった?」

「……承知しました」

「これは絶対の命令よ。黒堂君もそう言う筈だから……」

「……はい」



 魔族化してしまい、ライどころか自分達にすら殺気を向けてきたユウの態度に一瞬だがアカリが酷く狼狽したのを見逃さなかったトモヨはアカリが無理をしてでもユウの役に立とうとする可能性を考え、あえてユウの名前を出して命令することでアカリから若干漏れていた「死んでも倒す」といった覚悟に水を差した。

 ユウが敵か味方かの判別が付かない今ではそれが無難だという判断を下したトモヨだったが、「主様の為……主様の命令……」とぶつぶつ呟きながら剣を鞘ごとマジックバックに仕舞ってくれたので、ほっと息をついた。



「……ミサキは撹乱、シズカはサポートよろしくね。オーク達が来たらそっちに回って」

「わ、わかったわ!」

「ふえぇ……一体何がどうなって……」

「シズカ。わかったのか、わからないのかどっち?」

「ひうっ……了解ですぅ……」



 いつの間にかシズカを起こしていたトモヨは二人に指示を出し、槍持ちのオークキングを対峙した。






 ◇ ◇ ◇




 死にかけていたグレンを早々に復活させたマナミはグレンやジルと共に仲間達とオークキング達との戦いを見つめていた。

 グレンは自分が足手まといになると考え、ジルはユウの好きなようにやらせようと当初の予定であるマナミの護衛に回ってくれたので安心……とまではいかないが他の戦いを見る余裕があったのだ。



 早瀬とイサムは双方自慢の固有スキルに頼ってはいるが概ね善戦をしており、ライもレベルが上がり、聖剣も手にした今では魔法無しでも危なげなくオークキングを圧倒しているので、そちらに関しては心配していなかったが問題はやはりユウとトモヨ達だ。



 ユウの場合、何の魔物の種かはわからないが魔族になったからか、人間の時よりも攻撃した反動によるダメージは少ないらしいものの、攻撃する度に顔が一瞬硬直する点からやはり痛みは感じているようなのだ。

 右腕の装備が無いせいで、左腕だけで戦っているというのも余計に不安を掻き立てる。



 ジルからすればユウの思考から「……? 身体が……重い?」と疑問の文字が浮かんでいるのも気になる。やはり人族とは身体の構造や体重、体質等が変わっているのだろう。

 傍目から見ると、身長や体格は変わっていないが……排泄の必要がない魔族になっている時点で中身が全く違う。ユウはその違いを感じとっているのだ。



 とはいえ、相手は歴戦の戦士であった魔族ではなく、オークキング。

 例え武器兼防具が片手分しか無かろうと、慣れていない魔族の身体であろうと、一度も反撃を食らうことなく片腕だけで着々とダメージを与えていた。



 対してトモヨ達は最も危ない状況だ。

 アカリが防御スキルを全開にして盾に徹しているというのに、簡単に吹き飛ばされており、トモヨの攻撃も当然のように避けられている。



 リュウも《金剛》や、この数ヶ月で手に入れたその他の防御スキルを併用したり、『無』属性魔法で身体を『強化』してタンクを担ってはいるが……正直、アカリよりも厳しい状態だ。

 たった一撃掠るだけで大怪我を負う状況なのだ。ただの学生だったリュウからすれば、死ぬかもしれないという感覚だけでも足がすくみ、身体が固くなる。

 その為、吹き飛ばされても《縮地》で直ぐに復帰するアカリと違い、マナミに復活させられた後も暫しの間、その恐怖と痛みに震えてしまっていた。



 ミサキに関してはそもそもが対人用に特化したステータスなので武装しているとはいえ、拳や蹴りが主体の攻撃では全くダメージにならないらしく、決死の表情で連続の蹴りを当てているのにも関わらず、オークキングは鬱陶しそうに目を細めるだけだ。

 一応、たまに反撃が返ってくるので撹乱出来ているのが唯一の救いだろう。



 シズカの方も職業が回復術師ということもあり、投石等のちょっとした妨害や人が吹っ飛ぶ程度の弱い『風』の属性魔法、【多情多感】による注意の促し、アカリに出来た擦り傷を治す程度のことしか出来ていない。

 本来なら回復のみに専念する筈の後衛が援護してくれるだけでも有り難いのだが、如何せんステータスに違いがありすぎる。例え異世界人特典で成長力があると言ってもミサキとシズカは未だにレベル50にも到達していないのだ。寧ろ勝てる筈もない相手に持ちこたえているだけ健闘している。



 そして、ただでさえその有り様なのに時折後ろからオークキングが呼び寄せたオークが襲い掛かってくるのだから尚更な状況だ。



 やはり、幾らマナミという最強の回復役が居るにしても彼らだけでは荷が重いのだろう。



 しかし、それから幾分か過ぎた頃、攻略の糸口が見えない苦し気な形勢は一気に変わった。



「砂漠の国シャムザの第二王女、レナ=リーファ=シャムザ! 人類の敵から親愛なる隣国イクシアを防衛する為に推参した! 微力ながら助太刀させてもらうぞ、イクシアの民よ! 巻き添いになりたくなければ早々に道を開けろッ! はぁっ!」



 という凛とした声が戦場に木霊した。

 それと同時にライが連れてきた砂漠の姫が武装した馬を巧みに操りながら同じく騎兵と化した部下を引き連れ、オークキングに呼び寄せられたオークの群れに突っ込んだ。



 姫はユウの斬撃のように『風』の魔力によって刺突を幾重にも飛ばし、あるいは優雅さを感じさせる巧みな動きで斬りつけ……と、細剣型の魔剣を小枝のように振り回し、死体の山を築いていく。

 それに続く部下達は褐色の屈強な身体に見合わず、強力な『風』の属性魔法でもって援護に徹している。一トンを越えるオークの巨体をいとも簡単に吹っ飛ばしている辺り、その優秀さが窺える。

 


 それと同時に名乗りを上げる者が居た。



「聖騎士ノアと聖軍、聖都テュフォスからの援軍としてここに見参。世界の救世主である二人の勇者様の為、人族代表を謳うイクシアの為……我々は醜くも愚かな人類の敵、即ち神敵に対し、神の裁きを与えます。全軍、前へ」



 砂漠の姫とは対照的に、囁くような口上ではあったが一千に匹敵する聖軍の聖騎士全員がノアの動きに合わせて、ザッザッ! と、剣を振り上げ、かと思えば前に向け、一子乱れぬ動きで歩を進めるその光景は圧巻の一言に尽きる。

 一様に白銀に輝くフルプレートメイル装備なのも一種の芸術なのかと思わせる統率された美しさがあった。



 しかし、気品すら感じさせる彼らの化けの皮は直ぐに剥がれた。



 先陣を切っていたノアにオークが一匹近付いた途端、ノアが無造作に、しかし、凄まじい速度で剣を振って斬り殺し、白銀のプレートや月白のドレス、感情を感じさせない美しい顔をオークの鮮血でもって赤く染めたのだ。

 それに続くように白銀の体を返り血で血みどろにしていく聖軍。確かに動きそのものはイクシア軍よりも洗練されており、連携もとれていたが後ろから羽交い締めにされて動けなくなった仲間ごとオークを串刺しにしたり、事切れた仲間をオークに与え、貪っているその瞬間を狙ったりと、あまり褒められた戦い方ではなかった。



 とはいえ、颯爽と駆け抜け、風を操り舞うように戦う金の姫騎士と赤い液体と物言わぬ肉塊を作りながらゆっくり歩を進める銀の聖騎士。

 それに続く両軍の存在はジルやクロウの戦い、ユウの魔族化、オークキングやその他上位種の誕生により、士気が下がりかけていたイクシア軍を大いに鼓舞した。



 勢いを取り戻したイクシア軍、クロウの計らいによって大した疲労もなく移動してきたシャムザ、テュフォスの三軍は各々オークを確実に仕留めていき、二人の女騎士が上位種を瞬殺していく。



 お陰でオークによる襲撃が減った分、トモヨ達の負担が減り、徐々に槍持ちのオークキングを押し始めた。



 やはり慣れない武器だったらしく、オークキングは槍を突くか振り回すだけの単純な攻撃しかしてこなかったが、正規の軍が使用する確かな武器なのでオークキングの膂力に耐えてしまい、ブオンブオンッ! と、掠っただけでも死、あるいは大怪我は免れない凄まじい速度と威力を叩き出していた。

 死を何度も連想させるそんな敵と対峙し、時には直撃すらしていたアカリはマナミの助けもあって既にオークキングの槍を完封しつつあったのだ。



 ユウが騎士達と決闘をした時の槍を扱う騎士への対処法を見ていたアカリはどんな豪腕でも近付きさえすれば槍そのものの有用性を殺せるということを知っていた。

 最初はあまりのステータス差に近付けず、至る部位から血を流していたアカリだったが、少しずつオークキングのスピードに慣れ、動きの癖を見抜いた途端に簡単に近付くことが出来るようになり、攻撃は出来ない代わりに存分にオークキングに隙を作らせていた。



 魔法やレイピアで攻撃するトモヨとしても段々攻撃が当たらなくなり、躍起になってアカリを追いかけ回してばかりの相手はとてもやりやすかった。



 気付いた時にはシズカに回復魔法を目の前で目眩ましのように暴発させられ、それに驚いた瞬間にリュウが『無』属性魔法で『強化』した身体による体当たりを食らい、体勢が崩れた。

 そして、今まで攻撃を一切してこなかったリュウに気をとられた一瞬の内に目の前に居たアカリを見失い、周りを見渡し始めた瞬間、ミサキが顎を的確に蹴り抜いて真上を向かせられ……《縮地》と『風』の属性魔法で急加速して突っ込んできたトモヨに無防備な顎から脳天を貫かれた。









 他の四名に関しては既に対峙していたオークキングを全滅させており、各々周りの様子を窺っていた。



 ユウもオークキングから奪った魔族の斧をまじまじと確認しながらもチラチラと視線を向けてはいたので、やはり援軍が気になるようだ。

 尤も、厳密に言うとユウは援軍というよりは二人の女騎士を見ていたのだが、ジル以外でユウの思考がわかる者は居なかった。


 

 少しすると、二人の女騎士はライの姿に気付き、近付いてきた。



「これは勇者殿、無事だったか! ……先程までの邪悪な気配が消えているのはもしや……? どうやらめぐるましい戦果を上げられたようですな」

「イクシアは守れた、ということですね。勇者ライ」

「あ、あぁ……けど……」



 殺気や〝闇〟の気配自体は消え失せてしまった為、ユウの存在に気付くのに遅れた二人は陰りを帯びたライの表情で、近くに魔族が居ることを感知した。



「失礼だが……彼は例のご友人か?」



 砂漠の姫――レナは右のこめかみから黒い角が生えているユウに懐疑的な視線を送るだけで済んだが、ノアは違った。



「っ……!? ………勇者ライ。不味いです、彼の者はとても危険だと『直感』しました。幾ら友人だとて容赦は出来ません。……殺します」



 ユウを視界に納めた途端に氷のような無表情を崩し、少し焦ったような顔で剣を抜き、恐ろしいことを宣ったのだ。



「の、ノア殿? 流石にそれは早急ではないか?」

「……は? な、何言ってるんだノア!? 止めろ! ユウは俺のっ――」

「――最早、貴方の都合で生かして良い命ではないというのは理解出来るでしょう。早急に消す必要があるのですっ」



 斧を見つつ、ノアの様子を窺っていたユウは斧から手を離して地面に落とすと、流れるような動きで()()()()()()()()()()()()斬撃を飛ばした。



 敵対するつもりも殺すつもりもないのに明らかな殺生を目的とした不自然過ぎる動きと攻撃にノアを始め、ノアの前に立ちはだかっていたレナとライは反応が遅れてしまった。



 次の瞬間には剣を持っていたノアの右腕が三つに別れた状態で宙を舞っていた。



「っ!? くあああっ!?」

「ノア殿!?」

「ノアっ!? ゆ、ユウ! 何するんだ! 彼女は――」

「――敵だ。そいつが俺を殺すべきだと直感したように俺も一目見た瞬間にわかった。そいつは今ここで死ぬべきだ」

「は……? な、に……言って……」

「黙って殺させろ。そいつは危険だ」

「くううぅ……」



 奇襲に近かった初撃とは違い、今度は明確な敵意と殺意を持ってツカツカと歩んでくるユウにライは懇願した。

 後ろではノアが先の無くなった肩を押さえ、苦悶の表情を浮かべている。



「た、頼むっ、ノアの態度が気に食わなかったんだよなっ? 謝るから! 謝らせるから! だからっ、殺すのだけは止めてくれ! 俺達は敵じゃないんだ!」

「くっ……い、いえ……敵です、勇者ライ」

「あぁ、敵だ。()()()()わかる。こいつは生きていちゃいけない……」

「……貴方も《直感》持ちですか。ならば尚のこと死を与えなければなりませんね」

「何言ってんだ二人共!? 落ち着いてくれ! 俺達は本当に敵じゃないんだ!」

「ど、どうしたと言うのだノア殿っ、貴殿らしくないぞ! 友人殿もっ、一度落ち着け! 矛を納めろ!」

「「邪魔するな(しないでください)ッ!」」



 様子のおかしい二人に焦るライとレナ。

 やがて、二人の瞳が片や真っ白、片や真っ赤に輝いていることに気付いた。



「め、目の色が……」

「何が起こってるんだ……れ、レナ! 頼むっ、ノアを止めてくれ! 俺はユウを!」

「し、承知した!」



 肩先からブシュッ、ブシュッと血が吹き出ているのにも関わらずノアは短剣を腰から抜き、ユウはライが抱き付いてまで止めようとしているのにライが居ないかのような動きで押し続ける。



 マナミ達が異変に気付き、全員で協力して二人を遠ざけると幾分かマシになったようだった。



 二人の瞳からは謎の輝きが消えており、力も抜けた。

 しかし、二人は黙って見つめあっており、依然敵意は丸出しの状態だ。



 いつまで経っても攻撃しようとしているので、最早抑えきれないと判断したレナは当て身をし、ノアを気絶させた。



「ユウ! 落ち着いてくれ! お前、正気なんだろ!? 頼むからっ……信じさせてくれよ……!」



 一方、ユウの方はライの心からの言葉に再び動きを止めた。



「………………」



 泣きながら懇願するライを悲しそうな表情で見つめるユウに他の者もユウが正気――人族の頃の人格そのままであり、先程は助けてくれなかったことに怒って殺気を向けられたのだと認識した。

 例え、ノアという少女と共にお互いを危険だと感知しあって殺しあおうとしたとしても……ユウはユウだと、そう感じたのだ。



 そんな中、ジルがゆっくりと近付いてきて、ユウと視線を交わした。



「「…………」」



 ユウが何を考えているのか、ジルにしかわからなかったが、ジルがふっと笑うと、ユウも表情を緩め――



 ――ゴツンっ!



 と、早瀬に小突かれた。



「黒堂テメー……普通に喋れる癖にイカれた振りしてんじゃねーよこのタコっ。この不気味な女の腕を斬り飛ばしたことと言い、俺様達に殺気を向けたことと言い……ま、今回は特別に許してやる。はっ、俺様達の寛大さに感謝しろよ? 魔族になっても言葉が通じるようだから許してやったんだからな」



 態々、ジルの反応が遅れるほどの効果を誇る【電光石火】を使ってまで近付いてきて、後ろから小突いた。

 否……最早、パンチに等しかった。



 思いっきり振りかぶっていたのだから。



 魔族になり、ステータスが変貌していたユウからすればそう感じただけで。



 しかし、ただの小突きだったとしてもその行動と発言だけは許せなかった。



 少しずつ明るくなり始めていたユウの心は――



 ――再び黒く染まった。



「死ね」



 ユウはそんな短い言葉と共に軽くコツンっと拳を早瀬の胸に当てた。



 殺気は一切無く、先程のノアの腕を斬り飛ばした斬撃のように本当にただ拳を向けただけのような動きだったが故に早瀬は反応が遅れ、当たってしまった。



 一瞬、何が起こったのかわからなかったが早瀬が小突かれたという事実よりも返ってきた言葉にカッとなった瞬間、



 ――ボッ!!



 という音と共に紫の炎が全身を包んだ。



「っ!? ギャアアアアアッ!? 火っ!? 火いいいぃっ!? 熱いっ!? 熱い熱い熱い熱い熱い熱いいいぃっ!」



 咄嗟に地面に倒れ、ぐるぐると回転して土をつけるものの、何故か紫の炎は早瀬の体から離れず、勢いを増すばかりだった。



「イギャアアアアアアアアアアアッ!? 助けっ、助けてくれえええっ! 熱い熱い熱いっ! 水! 水うううぅっ! 誰かああっ!?」



 防具や付けていたアクセサリーの類いも全て燃えている。



 ライ達だけでなく、ジルも何が起こったのかわからなかった。

 唯一わかるのはユウの思考が完全に殺す気のそれだということくらいだ。



 イサムも先程から続く光景に呆気をとられていたが、親友の苦しむ声にハッとすると、急いで早瀬の元に向かうと『水』の属性魔法を使った。



「し、シュンっ!? 大丈夫か! うぉ、『ウォーターボール』!」



 水の球が早瀬に当たり、ジュッ! という独特の音が鳴る。

 一瞬の内に紫の炎は消えるのだが……早瀬が「助かった……」と安堵した瞬間、再び燃え上がった。



「ギャアアアアアッ!? 何で!? 何でえええええっ!? 熱い熱い熱い熱い熱い熱いぃっ!」

「は!? 何で!? 火は消えたのに! ……お、お前! 早くこれを消せっ! ぶっ殺すぞ! 早くしろっ!」



 イサムは焦燥に満ちた顔でユウに手を向けた。



 銃代わりに魔法を撃つぞという意思表示だろう。



「………………」

「この屑、どこまでっ! 殺すッ!」



 再び何の反応も示さなくなったユウに激昂したイサムは魔法を撃とうとしたが、早瀬にやったようにユウがコツンと拳をイサムの突き出した手に当てれば……



 ――ボッ!!



 燃え上がった。



「へ……? ぁっ!? い、いぎゃああああッ!? ああ熱いっ!? あっつ、熱いっ……熱い熱い熱い熱いいいぃっ! 誰かっ! 誰か助けて! 誰かああっ!?」



 あっという間に紫色に輝き、転げ回る火だるまが二体出来上がった。



 ライ達はいきなり起きた出来事を脳が受け付けなかったのか、固まったままだったが、やがて火を消そうと躍起になり始めた。



 ユウはそれを赤く暗い瞳で見つめていた。


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