第60話 魔族
急いで書いたので所々おかしいかもです。
「……驚いたな。どうやって恐慌状態に陥った兵達を落ち着かせようかと焦っていたらあれだ。グレン、お前はあの『闇魔法の使い手』が先導者としての才があるのを知っていたのか?」
「……いや、知らなかった。コクドー……あいつはどこまで……」
「皆さ~ん! さっきから意気込みとか叫んでますけど、それはどうでも良いんで早く持ち場に付いてくださ~い! シャリオさん! グレンさんも! 何、呑気に喋ってるんですか~!? 本来ならコクドーさんの行ってくれたあの鼓舞は私達の役目なんですよ~!? 一端の軍人、ひいては率いるべきリーダーである私達が兵と同じように鼓舞されてどうするんですかもう~っ!」
北門の壁内で急遽、対応策を考えていたグレン達は街中で行われたユウの演説を聞き、イクシア軍の一兵達のように鼓舞されていた。
グレンも国の予想よりは早いだろうと考えていただけで、移動から二週間も掛からないとは思っていなかった為、残りの二人や兵達同様、かなり取り乱していたのだが、ユウのお陰で兵達は落ち着いたし、自分達も感想を言える程度には平静を取り戻せたのだ。
と言っても、兵達に至ってはリンスの言う通り、無駄に意気込みを叫んだり、雄叫びを上げたりと、士気が最高潮に上がっているので、今度はそれを落ち着かせるのに大変なのだが。
グレンの攻撃開始の指示により、それも一時は収まったが自軍の攻撃でボロボロになったオーク達の姿を見ると再び叫び始めるので、キリがない。
やがて、第一から第四まで準備していた魔法攻撃部隊が交代で次々に魔法を放つことで、効率良くオーク達を屠っていき、殆どの者の魔力が尽きかけた頃。
「騎兵隊、前へっ!! 弓兵は矢がなくなるまで敵軍の後方へ攻撃し、妨害しろ!」
「後ろから歩兵も続けぇっ! 召喚者達は各自の持ち場にて助太刀するように! 兵に当てられて前に出るなよっ!?」
「「「「「おおおおおおぉぉっ!!」」」」」
イクシア軍側の突撃が始まった。
幾らオーク達がイクシア軍の兵一人一人よりもステータスが高く、士気があったとしても所詮は飢餓感に耐えられず、ただ前へ出てきた者達ばかり。
攻撃がなかった為、勝ったと思い込んでいたタイミングでの魔法攻撃の嵐だ。短時間で冷静になれる筈がない。
そこへ騎兵が槍を持って突っ込み、縦に伸びていたオーク軍を包囲していく。
歩兵が追い付いた頃には完全にイクシア軍が優勢になっていた。
それはひとえに、ユウの活躍があったからである。
確かにイクシア軍の行った魔法攻撃は脅威ではあったが、二万ものオークが真っ直ぐ向かってきているのだ。そう簡単には止まらない。
それを元々承知していたユウはジルと共に時間稼ぎを始めたのだ。
再び《竜化》したジルに捕まり、オーク軍のど真ん中に降り立ったユウが暴れまわることで完全に勢いを殺したのである。
たったの一撃で仲間を数匹、肉片状にするユウとそれを守るように降りてきたジルという化け物にただでさえ下がっていたオーク達の士気は一気に下がった。
その間にイクシア軍の兵達が縦に伸びている部分のオーク軍達を包囲することに成功したのだが……ここで異変が起き始めた。
ユウ達のような化け物が居ると知らないオーク達は前へ出てくると倒れている仲間の屍達を一心不乱に食し、挙げ句の果てには恐怖で固まる仲間を襲い、殺し始めたのである。
最早、乱戦と化していたのでそれに気付いたのは一部の騎兵のみ。
それらも仲間を食ったことにより、力を取り戻したオーク達に馬ごと引きずりこまれ、生きたまま食われてしまったので異変が伝えられることはなかった。
イクシア軍の歩兵達により、元々前へ出てきていたオーク軍の一部は包囲して有利に立つことに成功したが、後方のオーク軍に近い歩兵達は異変に気付いた騎兵のようにオークの波に飲まれ、食われていった。
一方、その頃。
そんなことに気付く筈もないユウは大暴れしていた。
◇ ◇ ◇
「おっしゃああああっ!!」
「いやあああぁぁっ!?」
自分の雄叫び、そして、マナミの悲鳴と共に地面に着地した俺は即座に『風』の斬撃を辺りに飛ばし、近くに居たオーク達を殺した。
「ぐううぅっ!」
着地した際、俺自身は《金剛》スキルで衝撃を受け流したのでダメージはなかったが俺の背中に縛り付けられているマナミは当然、その衝撃を受ける。
俺の背中にマナミの全体重+50メートル程上から落ちてきた時の衝撃が来た。マナミはそれを己の体で受けているんだ。おおよそ女性とは思えない声が漏れても不思議はない。まあ、ダメージがあっても【起死回生】で治せるから我慢してほしい。
一先ず辺りのオークを殺して牽制し、背中のマナミを下ろす。
やがてジル様が降りてきたので、ジル様の側に寄らせた。
「……さて。オレは手出ししねぇ。お前に言われた通り、お前が気付いていなさそうな攻撃からお前を守ることと、この女を守ってやる程度だ。精々、気張れよ?」
「はい! 背中は任せました! それとマナミのこと、頼みます!」
「おう」
俺が暴れている最中、後ろから攻撃されても嫌なのでその対処とマナミの守りをジル様に頼んだ。
マナミの守りは当然だが、俺の守りに関しては始めての乱戦ということもあり、後ろや死角からの攻撃に気付けても目の前の敵への対応に手一杯になり、直撃する可能性があったからだ。
しかし、幾らオーク軍の数が尋常じゃないと言ってもこっちにはマナミとジル様が居る。対して向こうは回復役も無し、回復薬のようなアイテムもない。特別な武器もない。
ならば……完全に俺の独壇場だ。
「こういう時は魔物相手だろうと名乗れと師匠に習ったんで名乗らせてもらう。……黒堂優改め、ユウ=コクドウ! イクシアという国の為ではなく、理不尽に虐げられる国民の為でもなく! 我が成長の為! 推して参るッ!」
そう名乗りを上げた俺は次々に斬撃を飛ばし、爪を振るい、蹴りを入れ、肉を斬り、骨を折って、殺していく。
魔粒子ジェットは避けきれないと判断した攻撃がきた時だけ使用することにしているので、魔力消費による疲労を気にする必要もない。
魔粒子ジェットでの突っ込みがない分、いつもよりはスピードに欠けるが代わりに持続力がある。
普段なら短期決戦が殆どだから使いっぱなし、出しっぱなしということも多いが本来、魔粒子ジェットはかなり消耗する技術。
魔力を出すだけでも力が抜けていくのに、自分の体の力だけでは絶対に不可能な動きすら実現可能にする技術だ。幾ら鍛えていても疲労はする。
それを抑える為に緊急時以外は使わないことにしたのだ。
最初は緊張していたのか、動きが固かったが段々、滑らかになってきた。
――良し! この調子なら魔粒子ジェットがなくてもイケる!
そう思った直後だった。
奴が現れたのは。
今まで何処に隠れていたのか、何処に隠していたのかと思うほどの派手で大きい真っ赤な身体。圧倒的な強者の気配と溢れんばかりの闘志。
――っ!? 身体中にビリビリ来るこの感じ……! 間違いねぇ……魔族だ!
さながらニュ○タイプのように敵の存在を感知した俺は目の前のオーク達の上半身と下半身を別れさせると、マナミを守ってくれていたジル様の方まで後退した。
ジル様も迫り来るオークの群れに対処しつつも魔族の方を見ている。マナミだけは手をこちらに向けて【起死回生】をいつでも発動出来るようにと集中しているのか、気付いてなさそうな感じだった。
何故最前線に、どうやって? 等、様々な疑問が浮かんだがそれよりも強く感じたのは二つの奇妙な感覚。
「俺に似た気配……いや、魔力か? それに……何だ……? この感じ……胸騒ぎがする……」
胸が落ち着かないというよりは全身が落ち着かない……身体中の毛という毛が全て逆立ったような変な感じがする。
――これは……魔族の何かに俺の身体が反応してる……?
お陰で敵の方向どころか居場所までハッキリとわかるが嫌な感覚だ。
飛ばしてくる重圧のようなプレッシャーもそうだが、それよりもその嫌な感覚が強すぎてとても息苦しい。
一刻も早く解放されたい、離れたい……!
思わず、そう思ってしまうほどの感覚だった。
対する魔族は俺と同じように俺の存在をハッキリと察知しているらしく、堂々とこちらへ向かってくる様子だ。
周りのオーク達も自分達のリーダーに気付くと、自分達の体で作った壁を開き、道を譲る。
俺とジル様は油断なく武器を構えて魔族を見据え、マナミを守るように前に出た。
オーク種の魔族は上裸で筋骨隆々な真っ赤な身体を惜しみ無く出しており、下は何らかの魔物の毛皮らしい何かを巻いてあるだけで文明を感じさせる服は着ていない。
時折見え隠れする背中のデカい斧と言い、まさに蛮族という言葉が似合う見た目だ。
やがて、お互いの声が届くほどの距離になると魔族は止まり、口を開いた。
「ほう? ……お前のような弱者に我輩が敗れるのか。意外だな……よお弟。兄と出会った気分はどうだ?」
何かブツブツ言っているようだったが後半しか聞き取れなかった。
しかし、聞き取れた言葉の方は意味が理解出来ない。
……弟? 兄と出会った?
何だこいつ……何を言っている……?
「魂で感じるだろう? 我輩の存在を」
た、魂? 本当に何を言ってんだ? さっきから意味がわからん。
「どうした。〝格〟の違う存在を相手にするのは初めてか?」
「……さっきから言っている意味がよくわからないな。何を言っている?」
「……フッ、兄弟も血迷った未来を見たものだな。何もわからぬ赤子相手にこの我輩が敗ける等と……」
相変わらずブツブツ言ってて聞こえないが……鼻で笑われたのはわかった。
「まさか話し合いに来たのか? ……豚風情が? ハッ、笑わせてくれるな」
「何、ただの挨拶だ。我輩を殺すと予言された弟の顔を見ておこうと思ってな」
イラッと来たので少し煽ってみたが反応は薄かった。
寧ろ、気になる情報が返ってくる。
「……予言? まさか……いや、予言もそうだが弟ってのもそうだ。さっきから何を言ってやがる」
弟というのは完全に謎だが、予言と聞くと脳裏に浮かび上がるのはクロウさんの姿だ。
あの人は未来が見えているような口振りだったからな。……やっぱり魔王の付き人だったか。
「弟は弟だ、文字通りな。我輩は元々、人間だった。現段階では人間であるお前……つまり弟の顔が見たかったのだ」
……は? 人間……だった?
――……まさかこいつ、『闇魔法の使い手』の成れの果てか……っ!?
「先輩だったか……人間だった割には豚か猪にしか見えないがな」
……だからか。さっきから身体中が警報を鳴らしているような……この嫌な感じ。
こいつと俺が同じ『闇魔法の使い手』だからお互いの身体に反応している……?
「当然だろう。我輩は豚系獣人と人族から生まれた……忌み嫌われる存在、〝混血種〟だからな」
〝混血種〟……つまり、他種族同士のハーフ。確か、こいつの言った通り、忌み嫌われる存在だったか?
他種族同士のハーフはどちらかの影響を受けやすく、体は獣人でも恋愛対象は人族だったり、体は人族でも獣人が好むようなものを進んで身に付けたり、食ったりと、そりゃあ蔑まれるだろうなと思ってしまうような感覚が特徴。
獣人の体なのに〝気〟が使えなかったり、人族の体なのに魔力が使えなかったりするから、生まれついての奇形児とも言われていた筈だ。
稀に〝気〟も魔力も持たない完全な『無能』が生まれたりするから〝混血種〟っていうのは滅多に居ない。100%居ない訳じゃないが……そもそも他種族とは国と国で分かれているから少なくなるのは当然。
――こいつが……そんな迫害されるハードモード人生待った無しの存在?
「豚系の獣人の血が混ざっていたからか、周りの人間より鼻は利いたし、腕力もあった。代わりに今ほどではないが、おおよそ人間とは思えない醜い顔をしていたがな」
「…………」
今のような完全なオーク姿ではなかったが、オークのような面とオークのような特徴を兼ね備えた人族だったと。
……人種や肌の色の違い程度で大喧嘩して戦争まで起こしたりする俺達の世界じゃなくても迫害されるだろうな。
「そして、我輩は『闇魔法の使い手』。この称号と準ずるスキルを持っていた。今思うと身体の大部分は獣人でも魔力があるということは人族寄りだったのだろう」
「……迫害された恨みで暴走したのか?」
俺自身がそうだと確信しているのもあるし、謎に満ちているクロウさんも言っていたように《闇魔法》が暴走して魔族になるトリガー的なきっかけは感情の爆発だ。
どう生きていようが迫害される人生ならば暴走するのも当然と言える。
その暴走は何らかの強いストレスにより引き起こされ、身体が人族から魔族へと変質する。とはいえ、大半はゴブリンのような低級魔物種の魔族になるらしいが……目の前の先輩は豚系獣人の血があったからオークになったのか……?
……まあ、どうでも良いか。俺はただ敵を殺す。それだけだ。敵の都合や過去なんざ知ったこっちゃねぇ。
「そんなところだ。……さて、我輩としたことが思い出話が長くなってしまったな。そろそろ始めるとするか……」
「そうだな。ちょうど無駄話に飽きてきたところだ……」
一先ず、ある程度の情報は聞き取れた。
もう話すことはない。
「来い、弟ッ! 軟弱な人族の限界をその身体に刻み込んでやる!」
そんな台詞と共に強かったプレッシャーが更に強化され、俺の身体に強くのし掛かる。
圧倒的な力の差を既に見せつけられた俺は冷や汗を流しながらも強がるように笑い、答えた。
「あぁ、行くぜ先輩。醜いオーク人生を終わらせてやるよ!」
◇ ◇ ◇
「フッ!」
「ムゥンッ!」
ユウとゲイルの拳がぶつかり、激しい打撃音が響く。
「っ……チッ! マナミ!」
「わ、わかった!」
たったの一撃。
それだけでユウはわかった。
今の自分では勝てないと。
初手、ユウの渾身の右ストレートとゲイルのジャブのような軽い突き。
それがぶつかっただけでユウの身体は後ろへ吹っ飛ばされ、右腕があらぬ方向へと曲がってしまった。《金剛》スキルで衝撃を受け流しているのに、だ。
思った以上の相手に内心焦りながらも体を回転させて地面に着地し、焦りを表に出さないよう気を付けながらマナミに回復を促した。
ジルがマナミを守ってくれているので、マナミも周りのオークを気にせず【起死回生】を使える。
数秒もしない内にユウの右腕は元に戻った。
「……ほう? 再生者か。珍しい……ハッ! つまり、弟の心が折れるまで戦えるということ! 最高だな弟ォッ!」」
この程度か……と若干落胆したような面持ちだったゲイルに再び闘志が灯る。
「折れる前にぶっ殺すッ!」
「よくぞ言った!」
吠えたユウが魔粒子ジェットで肉薄し、手甲から爪を出して斬りつけた。
分厚い手甲に見せかけている武器を奇襲のような形で使ったのにも関わらず、ゲイルはわかっていたかのように背中の斧を取り出し、受け止める。
――ガキイィンッ!
と、つんざくような金属音が木霊し、ユウの身体からは嫌な音が鳴る。
グレンの時もそうだったが、攻撃力が高すぎるせいで受け止められただけで返ってきた衝撃に耐えられず、ダメージを受けるのだ。
一撃で何となく理解し、二撃目でそれを看破したゲイルは笑う。
「グフフ……グハッ、グハハハハッ! 初めて会った弟が狂戦士とはつくづく笑わせる!」
「俺からすれば……笑い事じゃっ、ねぇよ!」
大振りすると受け止められたダメージで隙が出来ると踏んだユウは手数を増やし、流れるような斬撃を繰り返すがゲイルは気にせず斧で受け止める。
様々な角度、威力、速度を試してみるが禍々しい色合いと装飾の斧に当たり、こちらがダメージを受けるだけだ。マナミが即座に治してくれるものの、これでは埒が明かない。
「笑えるとも! 何故なら我輩も狂戦士だったからなァッ!」
「ま、マジ、かよ……っ!?」
ユウが後ろへ下がりながら『風』の斬撃を飛ばすと、ゲイルは今まで通り斧で受け止め、かき消した。
その隙に刀身部分が無駄に大きく、攻撃力だけに特化したかのようなバランスの悪い斧に隠れるようにして再び接近し、爪を突き立てたのだが、今度は斧の持ち手で防がれてしまった。
返ってきた衝撃によるダメージだけでなく、器用に持ち手で防御された事実と持ち手すらジルの素材で作られた爪で傷一つ付かない事実。
更にはゲイルの高い攻撃力の根源に驚いて固まってしまったユウの腹にゲイルの膝蹴りが突き刺さり、誰が見ても致命傷だとわかる量の血反吐を吐きながら後方へ飛んでいく。
「ぐはあぁッ!?」
「……チッ」
「そんな……ユウ君!?」
やがて足が地面に当たり、何回転もしながらジル達の目の前に到達し、腹がひしゃげたように潰れているその姿を見て、ジルは舌打ちをし、マナミは悲鳴を上げる。
内臓の殆どが潰れているとわかる悲惨な姿だが、回転している内に地面に何度も叩きつけられた頭の方は血が流れているものの、比較的無事なところを見るに、《金剛》を使ったのだろう。
直ぐ様、身体が元通りになり、立ち上がるユウだが腹を押さえており、足が震えているようだった。
「く、クソ……痛……ぇっ……テメェコラ先輩よぉ……《狂化》も使わずに俺を即死させられるのにさっさと殺さねぇで遊ぶとか……鬼かよ……!」
トラウマとまではいかないが死にかけた恐怖がユウを襲い、動けなくなってしまったらしい。
「先程、お前が言ったように我輩は豚だ。どう見たところでオーガではないぞ? グハハハハッ!」
今まで苦戦はしても勝てない相手は師匠以外に居なかった自分に現れた過去最強の敵。
そんな最強の敵が相手とはいえ……戦いにすらなっておらず、良いように遊ばれているだけ。
それらの事実に怒りが沸々とこみ上げ、恐怖を上回った。
「フーッ……フーッ……はあぁぁ……フハッ、フハハハハッ! そうだな! 豚だよな! そんな豚に俺が遊ばれるかッ! 良いなぁっ! 強いなァッ! ……マナミ! 回復頼んだぞっ! 死ぬ気で殺るッ!!」
ライ達の到着なんか待っていられないとばかりに《狂化》を全身に発動させたユウは魔力を使いきるような勢いで魔粒子を噴射、急加速して迫る。
「ぅおおおおおおおっ!!」
そして、地竜騒ぎの時に起こした崖崩しの一撃よりも更に強力となった拳を繰り出した。
ゲイルは「青いな!」と笑いながら片手で斧を構え、もう片方の手で刀身を支えることで防御の構えをとった。
右腕だけでなく、付随する部位の感覚が消えるほどの衝撃とオーク達ですら耳を押さえるような凄まじい音が鳴り、ユウの右腕は高すぎる攻撃力に耐えきれずに潰れるだけでなく、捻じ切れて吹っ飛んでいく。
対してゲイルは……「ムウゥゥンッ!!」と苦悶の表情を浮かべながら十メートルと少し後ろへ下がるだけだった。
「……っ。中々の威力だな。腕が痺れてしまった。変わった魔力の使い方といい、そこまでボロボロになるほどの攻撃力と覚悟といい、実に面白いぞ弟。グハッ、グハハハハッ!」
マナミが【起死回生】を使いっぱなしにしてくれていたお陰か十秒程度でユウの全身を襲った衝撃による大ダメージと右腕は完治したが、ユウのHPが半分以下になるほどの決死の一撃ですらゲイルを傷付けることは出来ない。
それがわかる光景を見てしまった召喚者達やイクシア軍は各々、武器を振り上げるオークの目の前であっても動きを止めてしまった。
勇者をも越える『闇魔法の使い手』が遊ばれているのだ。
無理もない。ユウが地竜に引き続き、二度目となる『撤退』、『逃走』を視野に入れるほどなのだから。
しかし、ここで思わぬ助っ人が登場した。
その助っ人はジルですら反応が遅れるほどの神速のダッシュで、ゲイルの元へ到達すると獲物を抜き、ゲイルの首をかっ切った。
「へっ……へへっ……お、俺様を忘れてねぇかクソ共!? イサム達のようなチート勇者じゃなくても! 俺様のような最強の固有スキルがあれば……か、勝てるんだよッ!」
声を震わせながらもゲイルに致命傷を与えたのは……戦争が始まる直前に姿を眩ましていた【電光石火】の固有スキル所持者、早瀬だった。




