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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第5話 闇魔法


「小僧、姫様が許して下さったことを感謝するが良い。次はないと思え」


 何故か同じことを二度言われた。


 たった今、嫌味ったらしく感謝したろうが……!


 思わず睨みつつ、「感謝していますとも」と返す。


「フンッ」


 鼻で笑われてしまった。


 何でやねん。


 そうこうしている内に俺の手錠を外され、妙な束縛感も霧散する。


 が、俺目掛けて飛んできている人の悪意だけは収まらない。


 特に貴族達からのそれが強いように感じた。


 雷達もわかっているのか、「大丈夫か?」、「酷い人達だね」と心配そうに話し掛けてくる。


「では皆さん! 召喚の後でお疲れでしょう!」


 場を改めるように、マリー王女は手をパンッと叩いて見せ、注目を集めた。


「皆さんの為に部屋と使用人を用意しました! 半刻程で夕食の準備が出来る筈です! それまで、どうぞごゆるりとお休みください!」


 ここまで来れば用はないらしい。


 貴族達は嫌悪感に満ちた目で俺を見ながら何処かへ歩いていき、入れ替わるようにしてメイド服を着た人が出てくる。


 貴族達もそうだったが、髪色カラフルで目がチカチカする。


 赤に青、金に緑、紫、茶色、黒……


 髪型はポニーテールがデフォらしく、染めてる様子はない。


 あれが自然な色なんだろうとは思うものの、何とも慣れない光景だった。


「勇者様方。どうぞこちらに。お部屋にご案内させていただきます」


 ザッ、ザッ……と一糸乱れぬ見事な動きで前に出てきたポニテメイドはそう言って他の召喚者達を連れて出ていった。


 俺や雷達の元には来ず、続々と神殿から人が減っていく。


「ユー……コクドーと言いましたか? 『闇魔法の使い手』さん、貴方だけは残ってください。話があります」


 召喚直後とは打って変わって冷たい目、冷たい声でそう言われ、雷達と共に待つ。


「……俺達も良いですよね?」

「この人に手を出そうなんて考えないでください」


 二人の発言に、王女は眉一つ動かすことなく頷き、「良いでしょう。どの道、お二人にも関係のある話です」と言った。


 そうして残ったのは俺達三人と王女、護衛であろう騎士達のみ。


 人が居ればそれほど意識することもなかったが、閑散とした神殿内は殆どが大理石のような石造りであり、広く、何処か暗かった。


 それらしい雰囲気と物珍しさから雷達と顔を見合わせ、肩を竦めていると王女が重苦しく口を開いた。


「話というのは貴方のステータスにあった『闇魔法の使い手』という称号と《闇魔法》についてです」

「でしょうね」


 俺の生意気な返しにピクリと反応した護衛達。それを制するように王女が手を上げて矛を納めさせるという茶番はあれど。


「どこからお話ししましょうか……そうですね、人族の誰もが知ってる伝承を聞いてもらいましょうか」


 そう言って話し始めたのは童話の類いのもの。


 話し口や口振りからしてこんなことがあったらしいよ、気を付けようね、といった戒め。


 その中で早速出てきた『闇魔法の使い手』……元はそれほど有名でもなかったようだ。


 存在が珍しく、また、使い方も曖昧。王女曰く、未だに研究が進んでいないとの補足があった。


 そんな《闇魔法》が何故恐れられるようになったか。


「その男は特に武芸に秀でる者ではなかったと言います。それが……」


 家族を殺された、恋人を奪われた、その辺りは諸説があるみたいだが、兎に角、『闇魔法の使い手』を怒らせた者が居た。


 その者らは尽く男の報復に遭い、惨殺された。


 数でもステータスでも圧倒していた筈なのに、たった一人の男に大量の人間が敗れた。


 と、概要としてはそんな感じだった。


 早い話、説明の出来ない、未知の力を発揮する者……それが『闇魔法の使い手』らしい。


 数はわかるが、ステータスの数値がどれほどのものなのか、その差がどれくらい大きく、どのように作用するのかを知らない俺達としてはピンと来ない。


 そんな、危険だからという理由で殺すつもりだったのか。


 俺達の視線がそう言っていたんだろう。


 王女は「げに恐ろしきはここからです」と続けた。


「かの魔法は所有者自身を……人族という種族から魔族にしてしまうおぞましい特性があるのです」


 魔族。


 口にした瞬間、王女は身震いしていた。


 宗教的な感覚も俺達には理解出来ない。


 しかし、王女やこの国の人間が魔王や魔族、魔物といった存在を酷く恐れていること……汚らわしいもの、蔑視する対象と捉えているのは先程向けられた無作為な悪意が証明している。


 示し合わせたように、急に向けられたそれらはとても冷たく、ゾッとするような目だった。


「数やステータスを覆し、言葉も通じず、ただ暴れ回るだけの獣に変える希少なスキル……伝承の男も、息絶える頃には人の原型を留めていない姿だったとは有名な話です」


 細かく聞けば、その男は頭から黒い角を生やし、身体の色はどす黒く変色。身長は伸び、体格は筋骨隆々なものへと変わり、悪魔のような形相をしていたという。


 最後には怒らせた者以外の者まで襲うようになり、討伐隊が結成された頃には国一つが滅んだ。


 元はただの村人が。


 この王女にはその点が最も恐ろしいらしい。


 国を治める側としては当然かと納得出来るような……いやでも過敏過ぎやしないか? とも思う。


 大体、さっき割りと怒ってたぞ俺。


 幾ら想定外のことで動揺してたとはいえ、せめて何も言わずに暗殺してくれよとツッコミを入れたくなった。


「……因みにそんな風になってしまうのはやはり強い怒り等の激しい感情が原因なんですか?」

「わかりません。ただ、恐らくそうだろう……としか」


 ライの質問への返答で漸く合点がいった。


 原因不明となると対策のしようがない。


 元々他種族を忌避する宗教観で生きる中、その他種族になってしまう上に常識外れの力を持ち、その被害は伝わっている話が事実なら国一つが滅ぶほど。


 その対策まで立てられないとなれば……納得は出来ずとも理解は出来る。


 主観を押し付けないでほしいが、史実を出されるとそういう感覚なんだなと伝わる。


 雷達も最初はムッとしていたのに、今は重病を患った人でも見るような目で俺を見ながら静かに耳を傾けているくらいだ。


 王女も王女で、いざ説明すれば俺達の気持ちもわかってきたのか、一個人ではなく王族の一人として自己の感情を殺し、そして、俺を『闇魔法の使い手』という枠で括らず、一人の人間として見てくれた。


 しかし、当然それで終わる訳もなく……「非常に申し上げ辛いのですが、最後にもう一つ。《闇魔法》が忌避される理由があります」と、駄目押しがあった。 


「対極に位置するスキルとして《光魔法》があります。先程、イサム様が使われた光が該当します。あの光……力は我々にとって強く神聖視されるものなのです。人によっては神の祝福と呼ぶほどまでに。その真逆、正反対の力となりますと……」


 魔族云々以前に《闇魔法》は邪教にも等しい力だと。


 だから恐れ、忌むのだと言われた。


 俺にはどうしようもない理由で殺されかけたけど、向こうは向こうでどうしようもない理由があった訳だ。


 俺達はもう何度目になるか、目を合わせ、一斉に溜め息を吐いた。

 

「では俺だけ追放されるような感じになるんですかね」


 少し砕けた口調だったが、こちらから怒りの感情が消えているのを察したらしい王女は申し訳なさそうに「いえ……」と否定した。


「排除が出来ないのなら出来るだけ管理下に居てもらいたい……というのが本音です。その代わり、私の権限で勇者様方と同等かそれ以上の厚遇を約束しましょう」


 それもまた納得こそ出来ないものの、気持ちはわかってしまう妥協案だった。


「申し訳ありません。正直な話、勇者召喚で『闇魔法の使い手』が召喚された、なんて聞いたこともない事態なので、一度上に話を通さないと……」


 謝りこそすれ、さっきの睨み合い以来、最後まで俺と目を合わせようとはしなかった。


 雷達の手前、頭を下げたようにも思えるし、実際に申し訳なく思ってはいるが、やはり宗教的にそうせざるを得ないようにも感じる。


 雷達も気付いてなさそうだ。


 根深い闇だな。


 溜め息混じりにそう思った。


「今後の方針が決まり次第お伝えします。また、こちらも箝口令は敷きますが、他言の方は出来るだけ控えてもらえると助かります。もし他国や信心深い者の耳に入れば我々も相応の動きをしなくてはいけませんので」


 だ、そう。


「日本人って宗教出されると弱いよなー……」

「いや、だとしても殺されかけたんだぞ。お前はもっと怒って良いよ」

「まあまあ……最後はわかってもらえたし……ね?」


 頭を下げて見送る王女と護衛の騎士達を背に、俺達は口々に話しながら神殿を後にした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] > 無駄に具体的な解説、全部覚えんの? >一言で終わることを態々、長々と説明する必要はなかったように思う。この人、あんまり人に説明することに慣れてないな? これ作者さん的には自虐ネタ…
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