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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第2章 戦争編
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第58話 『あの人』


 勇者ほどではないにしろ好成績を叩き出したこと、ジル直々には無理でも間接的に師事をお願いしたい国の事情、一部の騎士達の懇願等々。


 それらに加え……


『前線で剣振ってりゃいいのはオレ様みてぇなのだけだ。テメェは戦争時の指揮ってのを知った方が良いだろうな。上に立てば見えねぇもんも見えてくるだろうさ』


 という、お師匠様の鶴の一声が後押しとなり、部下を持つ羽目になってしまった。


「回復役背負って走り回るだけの奴に手下なんか要るか?」

「……名目上は必要なんじゃない? ユウ君の場合は特にさ」


 死屍累々。まるでくたばってるかのように地に伏している大量の騎士達を前に疑問を呟くと、マナミが「はいこれ」と水を渡しながら返してくる。


「いや戦争に強制参加させといて今更だろそんなの。大体、何が手合わせ願おう、だ。相変わらず暇な連中だな」

「何、だとっ……? き、貴様なんぞに我々の……何がわかるっ……!?」

「ふっ、手厳しい……」

「……ですなぁ」


 俺の吐いた毒に反応出来るのはたったの三人。この前の鬱憤晴らし……じゃなくて無双相手……でもなくて、決闘の時の最初のトリオだ。


 剣士アルゴ、槍士ウイング、魔法士オルレアン。


 他は呻いてるか、おねんねの最中。当の三人だって息も絶え絶えで横たわりながら言ってきている。


 最低でも二百人は預けられてる筈なんだが、質が悪いのか、やり過ぎたのか……


「魔法士の爺さんが最年長なんだよな? 仮にも騎士が軟弱じゃないか?」

「ぐおっ!? 貴様、殺されたいのか!? どけ! どかぬかっ!」


 会話は出来そうだったので、あーだこーだ騒いでる金髪野郎の頭を椅子代わりに使いながら訊いてみた。


「ほっほっ、言いなさる……大規模な戦争なき今の世に常日頃備える貴族などおりますまい?」


 意訳すると、『こいつらお坊ちゃんの集まりだし、多少はね?』。


 舐めてんのかと。


 じゃあやっぱり俺ら召喚したのは何だったん? と。


「生まれなんかどうでもいい。騎士は騎士だろ。国家戦力の一員だろ。レベルやステータスだけ高くて実際は打たれ弱いなんてハリボテも良いところだ。動きを見るに鍛えられてるのはわかるし、俺ら異世界人と比べるのが酷なのも理解できるんだがな。今の感じじゃマナミら非戦闘職とどっこいだぞ、総合的に」

「ぐぬぬっ……」

「耳が痛い」

「ふぅ……特に、貴殿の元に集まったのは新兵や問題のある者ばかり。形も質も整え終えた駒を更に鍛えるより、未熟な駒を使えるようにしたいというのが上の判断でしょうな」


 俺のケツの下で歯軋りしてる奴は性格に難があり、槍士は若いから鋭いんだけどそれだけ。身体を起こして腰を叩いてる爺さんはそもそも老兵。他は論外。


 総じて、圧倒的に実戦不足。型に嵌めただけでは対人でも通じない。


「だからってこんなガキに押し付けるか普通。体のいい厄介払いにしか思えないんだが……」

「まあまあ」


 他人事のように苦笑いしてるマナミも本当なら体力を付けるべきだ。ダンジョンと戦争とじゃ疲労の度合いが違う筈。近くに手頃な魔物の生息地があれば放り込んでサバイバルさせたものを……


「マナミ……命拾いしたな」

「急に何!? その慈愛に満ちた目ぇ止めて!?」

「ぐうぅっ……貴様はいつまで私を愚弄するつもりだっ、退けぃ!」


 目を見開いてのツッコミと怒りMAXのスタンドアップに仕方なく立ち上がって周りを見渡しながら考える。


 使えるようにするだけなら簡単だ。


 どいつもこいつも実に騎士らしい真っ直ぐな……型通りの動きを矯正してやれば良い。グレンほどじゃなくても一定の実力者未満では(かえ)って読みやすいからな。


 とはいえ、俺が知るジル様流の修行はあくまで俺用で、こいつらと俺とじゃ求められているものが違う。


 後からグレンさん辺りに文句言われそうだけど、実戦的な心構えさえ教えてやれば、という気もする。


 改めて相手してみればポンコツ集団っつっても基礎は固めてあるようだし、ステータスも中の中。


 鍛えようによってはいつぞやの帝国の二人組や地竜も相手取れるだろう。


 無論、犠牲は前提だが。


「となれば目潰し、鼻潰し、肉壁、挑発、毒……」

「……急に(こす)いこと挙げ出すじゃん。絶対、騎士が覚えちゃ良くないもの教えようとしてるじゃん」


 ジト目で言ってくるマナミに、「殺し合いに汚いもクソもあるか。しかも大抵の相手は魔物。何かを競う公式試合じゃないんだ。勝てば良いんだよ勝てば」とうんざりしたような手振りをしながら返し、俺は先ず師直伝の鬼教官として、「いつまで寝てんだクソ雑魚共がぁっ!」と地面にクレーターを形成。悲鳴と共に吹っ飛ぶ連中に喝を入れるのだった。










 その夜。


 ついでにマナミを巻き込み、『生きる為なら何でもしてくる』奴の恐ろしさを教えてやっての就寝時のこと。


 俺は再び邪神と相見えていた。


「やあ」


 何か知らないイケメン野郎とセットで。


「あー……どちら様で?」


 前回の時同様、場所は紫色の花畑がある古ぼけた教会。


 場違いにも優雅なテーブルに優雅な椅子、優雅に紅茶か何かを飲みながら手を上げてきたフォーマルウェアの男を胡乱げに見て言う。


 ふむ……膝に幼女邪神を乗せてる辺り、別の神か何かだろうか?


 なんて思ったのも束の間、あっさり答えてくれた。


「あはっ……んー、君風に言わせれば裏ボス? 黒幕かな? この子と一緒にちょこ~っと召喚の儀に干渉させてもらったよ」


 邪神が最後に言ってた『あの人』らしい。


「神では……」

「ないね」


 そうおどけて見せた男の歳は俺より少し上……二十半ばくらい。


 パッと見の印象は好青年。中性的な顔つきで男にも女にも見え、常に微笑している感じが柔和なイメージを出している。


 他は……そうだな。黒と金の貴族服を着てるのと、ライともエナさんとも似た茶色の髪を背中まで伸ばして一本に束ねてる……くらい?


 如何せん、纏ってる空気が()()で、言葉通りの上位者にはとても見えない。


「ん……クロウは今も昔も……そしてこれからも……ずっと人間」


 よく見たら足長っ……とか地味に衝撃を受けてたら謎のフォローまで入ってきた。


 魔王じゃないだろうなこの人。


「残念っ、そのお付きなんだなー」


 またまたあっさり正体が判明した。


「……アンタ、ジル様が言ってた『付き人』か?」


 当然のように心を読まれたことも気にせず、こちら流の口調で訊いてみれば「あったりー」と両手にVサインで認める。


「あはっ……僕の名前はクロウ。クロウ・グァドブ・アケディア。よろしくね」


 人の良さそうな瞳が一転して見透かすようなものになり、伸ばされた手にビクリと肩が震えた。


 それと同時にとあるセリフが脳裏を過る。


『魔国に行くんならよく覚えとけ。奴の行動理念は一に魔王、二に魔王、三に魔王だ。自分が貶されようがバカにされようがキレはしねぇ。が、魔王に対して少しでも気に入らない態度をとれば、拷問に次ぐ拷問を延々と繰り返された後、『生まれてきてすいませんでした』と公衆の面前で土下座させられて、笑いながら死ぬことを強制してくる』

『オレが行った時は全身の皮膚を剥がされて剥製になった死体が見世物にされてた』


 怖すぎて覚えてた。


 世界で最も強いとされるジル様にそこまで恐れられる異常な奴。


 それが目の前に居るらしい。


「……ユウ・コクドウだ。よろしく」


 そんな大層な人間様が俺如きに何の用が?


 と、心の中で続けながら手を握る。


 長らく獲物を持ってないような、マメの一つもない柔らかい手だった。


「用か。うん、忠告かな? 君の人生で大きな転換期がもうすぐ来る。手引きしてる僕が言うのもなんだけど、心を強く持ってほしいな」


 タイミング的に今回の戦争だろう。


 魔族が絡んでいるとも聞いた。


 この人も一枚噛んでて、こうして会いにも来るんだから身震いしてしまう。


「敵のアドバイスをはいそうですかと受け取るのもな」


 頑張って強がったところで意味があるわけもない。


 今この場で俺を殺さず、滅ぼせるだけの〝力〟がありながらイクシアに攻めて来ないんだ。何も読めん。お手上げだな。


「あはっ……目的が気になるみたいだね?」

「……はふぅ」


 頭を撫でられた幼女邪神が満足そうに背中を預け、甘えているのを尻目に、「そりゃ当然」とだけ頷き返す。


「どうしようかな、あんまり話して未来が変わってもアレだし……僕が望むものの為に仕方なく君や他の人の人生をぶっ壊さなきゃいけない、とだけ言っておこうか」


 態度、口振り、眼前の光景。


 敵でありながら決して勝てない相手。


 そんな奴が言う人生の崩壊とは……。


「君も薄々わかってるんじゃない? 魔法のお陰で科学技術の停滞を招いているこの世界はとても歪で、全てが神々や一部の特権階級の人間が願い通りに出来ている。召喚された二人の勇者、『再生者』の子……僕らはそれに抗う一歩として君を招いた。随分探したよ、いつの時代でも何処にも居ないんだもの」


 何だ? この男は何を言っている? 歪? 時代?


 本格的に理解が及ばず、疑いの視線を向ける。


「買い被ってもらっちゃ困る。その物言いも気に入らないな。まるでクロウさん……いずれ俺がライ達を裏切ってアンタに付くみたいに言うじゃないか」

「あはっ……それはどうだろうね?」

「ねー」


 この際、しらばっくれるのもそれに同調して首を傾げてる幼女邪神もどうでもいい。


 不愉快だ。


 以前もそうだった。


 邪神は俺の人間性を嘲笑うかのように丸裸にしやがった。


 多少は当て嵌まる部分があるのは認めるとしても、自分達の物差しで一方的に決めつけられるのは面白くない。


 俺は俺で、ライとマナミは親友だ。


 リュウ達だって友達。ジル様は大切な人だ。エナさんも何だかんだ優しくしてくれる良い人だ。


「俺は俺が嫌な思いをしたくないが為にあらゆるものを切り捨ててきた。だからと言って皆の隣で胸を張って立っていたいという欲がないんじゃない。少なくとも、人の人生を壊しに来ただなんてことをのたまう敵に振る尻尾は持ち合わせてない」


 誰が、強く否定するような気持ちで言い切ると、クロウさんはまた「あはっ」と笑って返した。


「そうかい。それは……自由じゃないね」


 強い人間からすればそう見えるんだろう。


 ジル様にも教えてもらったことがある。


「世界の広さを知らないからーー」

「ーー下らない(しがらみ)も人の目も気になる?」


 被せられた。


 会ったことがあるのは聞いていたが……


「うん、僕が最初にそう教えたんだよ。で、竜人の皇女ちゃんも長く生きて同じように感じたから君に伝えた。良いかい? 安っぽく言ってしまえば君の人生は君のものなんだ。君がどうしたいかで良くも悪くもなる。僕もそう。結果的に僕がハッピーエンドだと思えるならそれで良い」


 人生においてやりたいこと、やるべきことの探求。


 この世界における強いということの意味。


 遠回しに『精々、足掻いて見せろ』と言われた気がした。


 確かに……今の俺に具体的な目標はない。


 魔王討伐も興味なければ、日本に帰りたいという欲も正直消えつつある。


 現状維持。満足してしまっている。


「ま、今のところ話せるのはこれくらいかな」


 唐突に告げられ、会話は終了した。


「っ……勝手な……」

「おや? 君だってある程度の〝力〟を証明したから利用され、好きに振る舞ってるんじゃないのかい?」


 見ていたかのように訊いてくる内容にドキリとする。騎士達とのやり取りについて言っているらしい。


 邪神との関係性、未来予知に千里眼的能力、人間でありながら長命種を思わせる落ち着き。


 本当に忠告の為だけに会いに来たっぽいな。


「君の手元にある()()宝石。それを持っていれば邪神ちゃんを通して間接的に僕と話せる。死にそうになったら頼ると良いよ。代わりに何を要求するかはその時々だけどね」


 ある種のチケット的な役割として保管しておけということだろう。


「んじゃ、次は戦場で会おうか。優君」

「ばいばい」


 暗転していく視界の中、二人は最後までにこやかに手を振っていた。


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