第56話 VSグレン
今日は腕試しをするらしい。
相手はこれまでライ達の面倒を見ていた教官のグレンさん。
正しくはイクシア国防騎士軍団長にして王族の近衛騎士。
つまり、この国の『最強』。
以前のは跳ねっ返り共の教育兼様子見で、今回のは口振り的に細かい配置箇所を決める為の最終確認と見た。
マナミとイケメン(笑)の能力や士気の高さ、そもそもの物量差と問題は山積み。
そして、グレンさんは平民上がりの実力者。見るだけじゃなくて肌感覚で決めたいんだろう。
まあ審判としてジル様とボコボコにしてやった金短髪クレーマー騎士(名前忘れた)が居るのはちょいと複雑だが……お互いに有利なジャッジをしない為だと言われてしまえばな。してどうすんねんそんなこと、とは思うけども。
「成績次第で護衛か部下を付けさせてもらう。その辺の線引きもせんと、陣も組めん」
追加の説明で後衛組も強制参加だと悟ったようで、あからさまに顔を歪めている。
「ルールはどちらかが一撃入れるか、何らかの方法で俺の戦意を喪失させるか。後者は例えば俺が対応出来ないほどの属性魔法を展開させるとかだな。そこまで出来るのであれば問答無用で最前線に出てもらうが」
更に上乗せされた当然の内容には何処からかデカい溜め息が漏れ聞こえた。
「はぁ……こんな国に愛国心も何もないのだけれど……」
同意を求めるようなトモヨの独り言は無視。挙手して質問しているライの方を見やる。
「順番は?」
「それは何でも構わん。が、回復役のユノ以外の観戦は勘弁してくれ。生の戦力を知りたい」
当たり前の話、相手の戦法をよく見て対策を立ててから戦うのとぶっつけ本番で戦うのじゃかなりの差が出てしまう。
それを嫌っての発言のようだった。
その上でーー
「あ、いや、すまん。今の無しで最初にコクドーを指名させてもらう。お前の場合、他の者との時間すら惜しい」
ーー俺をご指名。
口振りは思い出したかのようだったものの、俺と目が合った瞬間にこれだ。
まるで、『そうだった……こいつが居た……』と言わんばかりの顔。
少なくとも、真っ先に終えておきたい対象くらいには評価されているらしい。
「おっと勘違いするなよ? 彼を優遇してるんじゃない。最も強いと思ってるわけでもない。ただ戦場において何をするかわからない奴というのは特に厄介なんだ。お前らも魔物によっては苦戦しただろう?」
何やら口を開きかけていたイケメン(笑)達に被せるようにしての釈明が入る。
魔物と同類扱いとはこれ如何に。
ジル様が吹き出しながら、「クハッ、ゴブリンか? いやキモいからオークか? でも煮ても焼いても食えなさそうだし、やっぱゴブリンだな! よぉゴブ助!」とか言ってきたのが少しウザい。
子供かって。確かにあいつら弱いなりに知恵絞るらしいけども。
「じゃあ次はこいつですかね?」
「は? ちょっ、貴方何言って……」
こうなったら道連れだと親指を向けて返す。
「小賢しさなら俺とそう変わらないっすよ。てか知力と才能で言えば圧倒的に上ですし」
「このっ、余計なこと言わないでくれるっ?」
殺気が漏れるドスの効いた声も恨めしそうな睨みも何のその。
「あのな。この際、こんな事態でも駄々っ子をするその精神性が気に食わんってんだよ。どうせどうやったって手練れ相手に手を抜けば即バレるだろうが」
そう言い切ると、他の皆も似たような思いだったのか、擁護や反論はなかった。
「じゃあその次にイナミ君、僕、シュンで良いかな?」
「お、俺は構わないけど……」
「何なら最後でも良いぜ? 相性的にやる意味がねぇ。足手まといの雑魚も要らねぇしな」
「はぁ? 何でアンタ達が音頭取るわけ? 偉そうに!」
「うーん……わ、私達は……ねぇ……?」
「「「「っ、っ!」」」」
何か勝手に決めて揉め出した連中とそもそも非戦闘職とで分かれ、わちゃわちゃし出した様子は醜かったので割愛。
報告以上に、こうも仲が悪いんじゃ戦争中はバラバラにされるだろうな。
「生暖かい目で見るな、油を注いだのはお前だろう」
「おや、火を付けたのは誰でしたっけ?」
そんな軽い会話を最後にグレンさんは「全員その辺にしておけ。特段考えてなかった俺が悪かった。順は追って決める」と締め、ライ達を訓練場から追い出した。
『あいつら本当に勇者か……?』みたいな目でその後ろ姿を見てる審判二人をよそに軽く動いて身体を解し、手甲を構える。
反対に向こうは身の丈に近い大きさの西洋大剣。
約二メートルの巨体に約二メートルの金属の塊が合わさっただけでかなりの威圧感があった。
「へぇ、標準装備か」
「……壊さんでくれよ? お前の獲物ほどではないにしろ大事な相棒なんだ」
少し意外に思ったのも束の間、「そろそろ準備は良いか雑魚共」と声が掛かる。
ジル様からすれば同じ有象無象らしい。鱗の生えた長い耳に小指を突っ込み、どうでも良さげなトーンで言われた。
「っ……り、両者よろしいですね? では……始めっ!」
やる気のない相方にギョッとしつつも金髪騎士が手を下ろす……
寸前。
俺は地面を蹴り、魔粒子ジェットでの加速も合わせ、全速力で突っ込んでいた。
「しゃあッ!」
「うおっ!?」
開始と同時の不意打ちの右ストレート。
タイミング、威力、スピード全て良し。
そう思える一撃はしかし、面食らいながらだったが、大剣で防がれた。
ガキイィンッ! という金属同士がぶつかる小気味の良い音と共にザザッと地面を抉る音が響き、目の前の相手が滑るように下がる。
「くっ! 成る程……!」
咄嗟の防御ということもあり、視界は刀身で塞がれている。
「近付いちまえばってなぁ!」
グレンさんは謂わば鈍足パワータイプ。
対する俺は手数で戦うスピードタイプ。
リーチもあって、俺の得意な超接近戦には弱い。
「汚いぞ貴様っ!」
「外野はっ……黙ってろっ!」
騎士道精神でも求めていたのか、公平な筈の審判からの叱責に怒鳴り返し、背中から放出していた魔粒子を一点集中させて再加速。
身体を完全に浮かせた為、足音も消えた。
そうすれば当然……
「防がれるっ、よな!」
背後に回っての爪攻撃は置かれたように現れた刀身によって容易く弾かれた。
寧ろ、「やるっ……! が、ここまでは定石だなっ!」と笑われてしまった。
今度は俺が笑う番だと、衝突の刹那に放った『火』と『風』の熱風について言及しようとした次の瞬間だった。
「残念っ、本命はっ……うおぅっ!?」
更なる推進力の放射で反動を打ち消し終わった直後、何にも当ててない筈の爪の先端にぶん殴られたような強い衝撃が発生し、吹き飛ばされてしまった。
「はははっ、どうっ……うがぁっつぅっ!?」
遅れてやってきた空気に悶絶したお陰で追撃は免れた。
その間に体勢を整え、さっきのグレンさんみたいに地面を滑って立ち上がる。
来たのは左手。
先程、二撃目を叩き込んだ爪の刀身。
手を振って痺れを取り、理解する。
「成る程、衝撃を時間差で与えるスキルか」
「うぅっ……ったく、冷静な奴め。目が潰れたかと思ったぞっ」
現地人との戦闘はこれで何回目かな。
互角の相手とやり合うのは何回目かな。
次はどう攻めよう、次はどう攻めてくる?
考えれば考えるほどに気分が高揚していく。
「ふっ、ははっ……オラ、ワクワクしてきたぞってか……!」
「ハッ、奇遇だなっ、俺もだっ!」
お互いにニヤリと笑みを浮かべながら歩いて距離を詰め……獲物を振るう。
俺は振り上げ、向こうは袈裟斬り。
素のステータスがそも同程度なんだろう、俺達は同時に後退し、もう一撃、もう一撃とちゃんばら染みた剣戟を繰り返し始めた。
「ジル様ともライとも違うスタイルっ……他の騎士と同じ剣筋っ……!」
「その若さでっ……こうも付いてこれるかっ……!」
互いの力量に見切りを付けたのも恐らく同時。
「ならばっ……!」
グレンさんはフェイントと搦め手を混ぜてきた。
剣、目、足の動きに纏う空気、変わり続ける重心。
全ては看破出来ずとも、拳や蹴り、熱風を足すことで相殺する。
更には殺気を乗せ、緩急を入れ、動き回る。
「ほうっ、まるで獣人だな……!」
「おいおいっ、さっきから褒めてんのか貶してのっ……かっ!」
体重と推進力を合わせた回し蹴りはバックステップで躱され、返ってきた刃は敢えて手甲で防ぐ。
狙いは一秒ほどの時間差で飛んでくる衝撃波。
体勢を変え、魔力を循環させ、腕が持ってかれるのに逆らわず加速。
「何っ!?」
驚愕の声、眼前をブォンッと過ぎた大剣には目もくれず、勢いそのままに空中で一回転。ゼロ距離爪斬撃を放った。
真下から突き上げるような角度。防ぎやすい位置。
「くっ、これが噂のっ……!」
思った通り、獲物で受けてくれた。
これまで実直に、じりじりと俺を押していたグレンさんが初めて身体を浮かせた。
足が伸び、胴ががら空きになった。
「これでーー」
終わりだと右の手甲、そこから飛び出している刀身を突き出したと同時。
「ーーやらせんっ! 穿てっ、グランドスピアー!」
突如、地面が隆起した。
見れば何の変哲もなかった筈の地面が『土』の魔力を帯びている。
「うはっ、いつの間にっ!? やるなぁっ!」
自然と口角が上がった。
詠唱は聞こえなかった。
恐らく準備運動中に終えてたんだろう。
どっちが卑怯だってんだ。
「抜かせっ、これでも軍団長だぞ!」
下からは瞬く間に円錐形の槍となって襲い掛かる属性魔法。
上からは避けると仮定して降ってくる巨大な剣。
出来るのは必要最低限の動きだけ……。
ーー身を捩って回避……いや、ダメだな、完全に直撃コースだ。全ては避けきれない。となれば……
「ぐっ……!?」
俺は三本の内、一本だけ脇腹を掠めながら躱すと、魔粒子で体勢を調整して再回転。刀身に沿うようにして空振らせた。
「逃すか!」
咆哮と同時、轟音と共に振り下ろされた刃が跳ねるように上がり、目を見開く。
ーー急激な軌道の変化……この返し、尋常じゃない。手首が折れかねない。また別のスキルか。
頭の中の冷静な部分が二度目の分析を終え、背骨が折るつもりで身体を反らして避けきったタイミング。
何故か耳が余計な音を拾った。
「えっ、い、一本じゃないの!?」
「よく見ろ、直撃じゃねぇ」
「流石、軍団長! お見事っ、押してます!」
外野連中の言う通りだ。
今ので胸当てが外れた。
ちらり、と俺が下に意識を移したのが伝わり、グレンさんまでもが足元に視線を向けた。
「即席飛び道具ぅ!」
落ちていた鉄板を拾い上げるように蹴り飛ばし、牽制。
「うおっ!?」
などと驚きながらも首をひねって避けるまでは想定内。
向こうもまだ予測が間に合っていた。
が。
「か、ら、のっ……燕返し返しぃっ!」
姿勢制御と重力への反抗で使っていた魔粒子を、今度は右足の踵から噴射させてのムーンサルトは予想外だったようだ。
マリオネットさながら下半身から浮き上がった蹴りはまたスウェーバックで躱されたものの、急遽発生位置の反転した魔粒子のエネルギーは俺の足首からグキリッ……と嫌な音を響かせたのを代償に歴戦の戦士をして見たことのないであろう空中二連蹴りを披露した。
「なっ、ぐがっ!?」
激痛オブ激痛に目眩を覚えたのは一瞬。踵落としに近い軌道を描いた小さめの蹴りは見事グレンさんの頬に直撃し……
「っしゃごぉっ!?」
大剣の刀身の裏……死角からカウンター気味に放たれていた左の拳が俺の腹に突き刺さったところで、「そ、そこまで!」、「引き分けだな」とのジャッジが下され、腕試しとやらは終了するのだった。




