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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第2章 戦争編
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第53話 異世界人無双


「これよりっ! 互いに戦士を三人ずつ選び、互いに戦力がなくなるまでぶつけるイクシア流決闘を行う!」

「「「「「うおおおおおおおっ!!」」」」」


 心なしか投げやりな感じのグレンさんが叫び、歓声が上がる。


「しかしっ、皆も知っての通り、今回は特殊も特殊っ! 召喚者組は全員が単独である!」


 とどのつまり、一対三で戦い続けて最終的に立ってるのが多い方が勝ち。


 欠損級の傷も癒してしまう【起死回生】がないと成立すらしないアホみたいな茶番だ。


 そのマナミとあくまで所持品扱いの奴隷、戦意のない人間、後衛や非戦闘職の人間は最初からリタイヤ。


 結果。


 戦うのは俺、ライ、ミサキさん、イケメン(笑)、早瀬、の五人。


 両サイドの数の差はざっと二百倍である。


 ルールは武器、魔法、魔道具の使用ありで、互いに防具以外の部位は狙わない。もし首や頭、その他急所に当たりそうになったら寸止めというザルなもの。


「ジル様見てないかな。雑魚しかいないっつっても折角の対人戦だし、指摘とか欲しいんだけど」

「戦争前なのにマリー達は何やってんだってならないのか……?」

「ならないからこんなことになったんでしょ? まあユウ達が煽ったってのもありそうだけど……」

「はぁ……」

「そんな怠そうな顔すんなってイサムよぉ! 良いじゃねぇかっ、喧嘩だぜ喧嘩! 楽しい楽しい弱いものイジメだぜ!?」


 俺達はそれぞれ好き勝手言いながらも総じて余裕綽々。


「この戦い……決して負けられぬ……!」

「子供がっ、今に見ていろ!」

「後になって泣くなよっ!」

「おらおらやっちまえー!」

「この貴族共っ、同じ騎士として恥ずかしくないのか!?」

「悪いな勇者様達っ、遠慮なくぶちのめしてやってくれーっ!」


 向こうは追加で野次馬に来た連中も含め、割りともうぐだぐだで、正直殆ど聞き取れないくらい醜い罵倒と非難が混在している。


 女王とかお偉いさん方は遠くの方で高みの見物中。


 ……『闇魔法の使い手』は刺激しないのが一番だ、みたいなこと言ってたのは何だったんだろうか。


 遠い目をすること十と数分。


 舞台が整ったと声が掛かったので、五人それぞれに散って担当の二百人ずつ改め先鋒の三人組と向き合う。


「はっ……よりによってこの三人とはな。オールラウンダーの私に中距離が得意なウイング、魔法特化のオルレアン。哀れなものだな、『闇魔法の使い手』よ」


 記念すべき最初の噛ませワンちゃんセットは典型的な貴族騎士って感じの金短髪男と緑色の長髪を揺らしながら槍をこちらに向ける細身の男、こちらの世界では初老と言える年のロッド持ち。


 えぇ……? 何で全部説明したんだこいつ……


 と、俺が何とも言えない視線を向けているのにも拘わらず、べらべらべらべらと語り続けている傲慢そうな態度の男は当然、仲間からも微妙な目で見られていた。


 名前はアルゴ何ちゃらふんにゃらほんにゃらさんと言うらしい。長い上に無駄な口上がくっついててよく聞こえなかった。


 この遅めの反抗期組の中で一番偉い血筋なんだとか。いや、だから何だよというツッコミは無しで。俺は耐えた。後ろの二人は一応は向こう側のくせに肩を竦めたり、首を振って鬱陶しがっている。


「総員っ、準備は良いなっ!? 始めぇっ!!」


 掛け声と同時、カアアァンッ……! と、何処からか鐘を叩いたような音が響き、騎士達が動き出す。


 反対に俺は手甲を構え、スキルで思考を急加速&増殖。


 認知範囲、反射神経に判断能力、ほぼ全ての力が急上昇し、世界が一気に遅くなる。 


「フンッ、所詮は素人っ! 反応すら出来ないか!」


 初手は傲った笑みのまま剣を振り下ろしてくるアル何とかさんの横を素通りし、槍士が放つ援護の連続突き目掛けて突き進んだ。


「うおっ、こ、こいつっ……!?」

「貴様ぁっ、逃げるなっ!」


 向こうも素早く後ろへ下がって薙いできたり、後ろからはア何とか何とかさんが追撃してくるが、何というか……二人とも騎士らしい素直な軌道を描いてくれるから読みやすいし、避けやすい。


 また、槍という武器の性質上、近付いてしまえば恐れるものはなく、挟み撃ちの状態なので獲物を振り回し辛い。


「くっ!」

「でええぃっ、邪魔だ! ウイングっ、下がれっ!」


 そんでもって、向こうは貴族特有の関係やら何やらで余計なデバフ付き。


「はははっ、一番弱い奴が大将かよ!」

「こっ、このっ……! この私を愚弄するっ!? 万死に値するぞっ!」


 精神的に揺さぶりを掛けつつ、腕力に物を言わせて槍に殴っていく。


「ぬおおぉっ!? お、オルレアンっ、支援はまだか!」

「詠唱はもう終わっていますぞ! 早く離れてくだされっ、これでは撃てぬ!」


 先に最弱さんを片付けても良かったんだが、(やっこ)さんは片手剣に軽盾という標準的な装備。


 後ろから槍の刺突や属性魔法を飛ばしてくる二人が居る以上、折角盾にも足枷にも使える雑魚を狙うのは得策じゃない。


 かといって魔法使いを狙うのも躊躇われる。何の属性持ちかわからないし、詠唱が必要とはいえ、どんな魔法が飛んでくるかもわからない。


 ならば近付きさえすれば何も出来ない槍持ちと超近距離で戦っていれば後衛を牽制出来るし、クソ雑魚騎士もある程度は邪魔出来る。


「アルゴっ! 何をしているっ、真面目にやってくれ!」

「わかっているっ! き、貴様汚いぞ! 正々堂々と戦え!」

「ははっ、三対一が正々堂々たぁ面白い騎士共だなぁっ!?」


 魔法使いはおろおろするだけ。槍士は防御一辺倒。無能貴族は「お、おのれぇ……!」とわなわな震えたと思えば顔を真っ赤にして猪突猛進するのみ。


「千人が五人の若造相手にムキになる! こいつぁすげぇっ、何て美しく筋の通った騎士道精神かっ!」

「き、さ、まぁっ……!! 殺すッ!」


 仲間に気を取られ、軽い煽りも真に受け……


 そんな生温い攻撃を俺が食らう訳がない。


「ハッ」


 拳に伝わる感触とブツンと何かが切れたらしい咆哮から頃合いだと鼻で笑い、地面を蹴る。


 (爪は出さず……爆発させるイメージ……でっ!)


 技というほど仰々しいものでもないが、槍の取っ手部分を殴り付けたと同時、手甲に循環させていた『風』の魔力量を調整することで全方位に向けて突風を生み出し、衝撃を強化。


「ぬっ、獲物っ……ぐあっ!?」


 最後のパンチがトドメとなって砕けた槍、吹き飛ばされて浮いた身体に気を取られた瞬間、槍士は追加で貰った風圧によって錐揉み回転しながら弾かれていく。


 並びに。


 俺は俺で拳から発生したエネルギーに身を任せ、ズザザッ……と体勢そのままに後退。


「何っ!?」


 ちょいと不恰好なのも気にせず、頭を下げ、明らかに首を狙ってきていた剣をダッキングで躱すと、再度足に力を込めて前に踏み出す。


 そうして視界に広がるは獲物を振り切って無防備になっているチンピラとそのマヌケ面。


「痛いからって……泣くなよ?」


 呆然としている奴に最大限の笑みを向けてやりながら蹴りを叩き込む快感と言ったら。


「ガハァッ!?」


 ま、防具は付けてるから問題ないだろ。槍同様に砕け散った上に後ろで野次馬してた連中の一部を薙ぎ倒してどっか行ったけど。


「あ、アルゴ殿!?」


 なんて。


 最後は味方二人の離脱に驚いて攻撃を忘れた魔法使い。


 そも、魔粒子ジェットの急加速に付いていけるのはジル様かアリス、ライくらい。


 当然、這うように迫った俺に反応出来る筈もなく。


 ついでに言えばガゼルパンチばりに足のバネを使って放った腹パンも簡単に突き刺さる。


「なっ、ぐおぅっ!?」


 一応、さっきよか加減はした。


 が、防具は胸当てまで割れた上に跳ねられたみたいに飛びはせずともその場で昏倒。


「っ……っ……が、ぁっ……」


 腹を押さえたままビクビク痙攣し、血走りながらも白目を剥き、口からは激しく吐血していた。


「ふむ……雑魚相手に魔力の無駄遣いだとか言われそうだな。反省反省っ……さ、次!」


 残心しつつ、小さく自省しながら指をくいっと立ててお代わりを要求するものの、誰も来ない。


 何だよと思って周りを見てみればライ達も俺ほど派手じゃないにしろ、瞬殺で騎士共を黙らせたようだった。


 タイミングはほぼ同時。


 全員が三人を沈め、何故か謝る奴もいれば空手家らしく礼をしたと思えば「……こんなもん?」と首を傾げたり、「だから嫌なんだ……弱いんだからさ…」とナチュラルに煽ったり、果ては「ざっこ! クソ雑魚じゃねぇか! これでお国守りますってか! ひゃはははははっ!」と笑い散らかしてる奴までいる。


 まさに無双。


 俺達が息を切らすまでもなく、正規の軍人が片手間にこれだ。


「「「「「…………」」」」」


 流石にこの様は想定外だったのか、さっきまで威勢の良かった後ろの連中は味方してくれていたらしい反対派も含めて硬直。


 偉そうに見下ろしていた女王と貴族共も顔をひきつらせているのがわかった。


 ひゅーっ……と通る風の音だけが辺りに木霊する。


「あー……おほんっ。こ、これで召喚者達の力は示せーー」

「ーーまさか喧嘩売っといて相手が自分より強かったら取り消しなんて言わないよな?」


 面目を気にしたっぽいグレンさんが何やら声を張り上げるのを敢えて被せるように『風』の属性魔法で拡声。焚き付ける。


「まさかまさか……勝手に喚んで勝手に訓練させて勝手に人が死ぬ環境に放り込んで勝手に殺し合いさせて勝手に文句言ってきたのに?」


 グレンさんも軍のトップでありながらも俺達の境遇に心を痛めていたらしい。


「うっ……」


 とだけ言って目を逸らしたので、続けてやる。


「まさかまさかまさか……え? 民を守るべき軍人が雁首揃えて約千人? 戦争前にやることが偉そうに『お前ら戦力になんのかよ』ってイチャモン? それを『あ、ホントに強いなら良いか』って?」


 茫然自失の騎士達とお偉方。


 『もう止めてっ、皆のライフはもうゼロよっ!』みたいな目で見てくるグレンさん。


「お、おいユウ……少し空気を読んでだな……」

「まさかまさかまさかまさか? 何様のつもりか、面白そうだって見物しといて自国の戦力が負けそうだと『やっぱ止めましょう?』なんて言わないよな? な?」


 止めようとしてくるライを無視し、念を押すように訊いてやると、マリー女王含め、殆どが青い顔を背けた。


 騎士達は怒るでも何か言うでもなく、バツの悪そうにしていた。


 グレンさんはもう涙目だった。


「うわぁ……これで戦争しよってか。程度が知れるな。あ、怒るなよ? 俺、『闇魔法の使い手』ぞ? 弱いからこうやって虐められちゃうもんね? 国潰すよ? それでなくてもジル様に言い付けちゃうよ? おぉん?」


 独壇場というか何というか……


 不敬罪が適用されないとはいえ、こうまでハッキリ言われては国の威信に関わる。


 後は……それこそ後の祭りとやらだ。


 人数やルールなんてもう関係ないとばかりの泥沼になった上で俺達は誰一人抜けることなく完封して見せた。


 三十分もしない内に死屍累々の光景が広がり、女王は過呼吸を起こして運ばれ、貴族は深刻そうな顔で「せ、戦力は十分そう……ですな」と褒めてきて、グレンさんは壁際で胃を押さえていた。


 余談だが、召喚者組の反応は様々。


「何で煽るんだよ……」

「まあユウ君が怒る気持ちもわかるよ」

「いや寧ろ正しい対応でしょ。アタシだってムカついてるわよ」

「だからって普通はここまでしないわ」

「で、ですぅ……」

「……これだから底辺は」

「何言ってんだイサム。まだ足りねぇだろ。今回ばかりはあのクソ野郎に同意だぜ俺ぁ」


 ライパーティとイケメン(笑)達は各々自由に俺の行動を受け止め。


「流石主様っ!」

「普通の人に出来ないことを平然とやってのけるっ!」

「……リュウ、泣いてる? はは、下手したら暗殺とか差し向けられそうだもんね……あれ、何だか視界が霞むや……」


 アカリは目をキラッキラッさせ、リュウ、ショウさんは苦笑いしていた。


 尚、城の屋根から見てたらしいジル様には「子供相手にムキになる大人って見てて恥ずかしいよな」と呆れた目で言われた。


 ホントそれですよ、ええ。


 でも何すかねその目。俺達は子供側ちゃいますのん? え? 違う? そんなけったいな……


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