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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第2章 戦争編
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第51話 盗賊


 颯爽と駆け付け、あっという間に暴れまわる盗賊達をボッコボ……大人しくさせたイケメン(笑)&ライの勇者コンビは後続の俺達が到着した頃には村長の家だという民家を囲んでいた。


 どうやら盗賊の頭が村人を人質に立て籠っているらしい。


「この気配……」

「……イナミ君」


 勇者二人が真剣な顔で頷き、獲物を握り直す。


 大物、というよりは何か覚えがあるような反応。


 その感想は果たして……


 正しかった。


「くっ! やっぱりあんた達かい! あんの馬鹿共っ、敵襲に気付いたら事前に知らせろとあれほど……!」


 なんて声が村長宅から聞こえてくる。


 口調、声音、トーン。


 随分と記憶に新しい奴の声だ。


「忌々しいっ……あんな命令受けなきゃ良かったよっ……!」


 家のドアが蹴飛ばされ、中の様子……人質とおぼしき村人数人が座り込んでいる様子がチラリと見えた。


 それらを隠すように姿を現した盗賊の頭はいつぞやか俺と楽しい楽しい殺し合いを繰り広げた大剣女。


「ハッ、国の犬から盗賊風情に……随分と笑える人生だなぁおい」


 留置所だかどっかで尋問を受けているとは聞いていたが、逃亡してたとは思わなんだ。


「っ!? あ、アンタかいっ……装備といい、纏ってる雰囲気といい……あの時とはまるで違うね。調子はどうだいっ、小僧!」


 つい出てしまった独り言に奴はビクッと肩を震わせ、こちらに振り向いてそう言った。


 傍目から見ても汗の量が凄い。


 額、顔、腕と見える肌全部がびしょびしょだ。


 歴戦っぽいし、見ただけである程度力量がわかるんだろう。


 ほぼ互角の状態から自分はみっともなく賊堕ち、嘗ての敵はパワーアップして再会なんて誰でも最悪の巡り合わせだ。


「まあ上々ってとこだな。それより、俺よかそこの二人の方が強い。用心した方が……」


 と、言った側から勇者二人は《縮地》。


 大剣女はろくに動くことも出来ず、背後&正面からの一撃をコンマ数秒の時間差で食らい、更には悲鳴を上げる間もなくその場に昏倒した。


「うへぇ、痛そー……」

「……何故殺さないのですか?」


 リュウが目を覆いながら、気絶していた下っ端共を殺して回っていたアカリは返り血を払いながら言い、まあまあと手で制する。


 が、アカリの確実な行動と疑問が正義マン達的にいただけなかったらしい。


「ユウっ……!」

「お前っ、その子に人殺しをさせたのかっ!?」


 味方の筈の勇者コンビが今度は俺目掛けて突撃。元気よく喚いてきた。


「忙しない奴等だな、情緒不安定かお前ら」


 両手を上げて返すと、ライは無言で顔を歪め、イケメン(笑)は気にせず続ける。


「な、なんてことをっ……!」

「命じてはいない。仮にも奴隷が勝手にしたことだ。そうするのがこっちの『普通』なんだろうさ。……なあ?」

「はい。手間も物資も時間も食うものは排除すべきです。賞金が掛けられている者なら首を持ち帰ります」


 当のアカリが()が責められたことで前に出てきたからか、あまりにもあっけらかんと言ったからか、流石の二人もたじろいでいる。

 

「……強制したわけじゃないんだな?」

「誓って」

「だとしてもっ!」


 ヒートアップするイケメン(笑)をよそに、こういうことには早瀬をしてもこちら側なのか、完全に空気と化して俺達を見ていた。

 

「あー……んなことよか被害の状況確認とか村人の治療とかの方が先決じゃないか?」


 という至極真っ当な意見も、「マナミさんがいるだろ!」と却下される。


 ライが頑張って消化しようと必死な横で、この残念野郎はどうしても俺を断罪する流れに持っていきたいようだった。


「見てたろ、俺は何もしてない」

「ただの女の子が自らの意思で人を殺したと?」

「……前提としてそのただの女の子とやらは奴隷で、こっちの人間で、こっちにはこっちの常識があるんだが?」

「だから殺させたわけだ」


 んー……


 話が通じん。


 ハッキリ言えばクソうぜぇ。


 どうしたもんか。


 内心、「お猿さんかな? うきっ? うききっ?」とバカにしかけた直後。


「動くな! さもなくばっ……!」


 とまあ、何とも()()()セリフに遮られる。


「はぁ……今度は何だよ……」


 呆れながら声の方を見ればあらビックリ。


「ご、こめん、皆……」


 頼みのマナミさんが盗賊数人と杖を持った男に捉えられているではありませんか。


 前者は兎も角、後者はアレだ。大剣女の相方だ。戦ってないから印象薄いけど、相変わらず線は細いし、神経質そうな顔してやがる。


「かーっ……」

「マナミ!」

「お前はっ……!?」


 そりゃそうだ。片方が逃げてるなら……とは確かに思う。


 が。


 いやいやいや、と。


 待て待て待て、と。


 にしたってだろ、どんだけザルなんだこの国は……。


 心底脱力した。


 心底呆れた。


 酷く痛むこめかみを押さえ、大袈裟にぐるりと目を回すが、俺の渾身のボケにツッコミはない。


「偉そうなこと言って肝心の『再生者』を放置か。いやまあ俺達も同じだけどよ。とんだ勇者様も居たもんだな、なぁおい?」

「「…………」」


 俺の嫌味も何のその。


 イメージは……あれだな。


 最大戦力の二人は想定外の事態に驚き固まっている!


「動揺=効きますよって反応だろバカがっ……リュウ、アカリ、気にせずGOだ」

「んっ」

「承知!」


 他パーティはさておき、号令と同時に動き出す仲間の二人には感動すら覚える。


 他のアホ共とは段違いだ。


「「は!?」」


 雑魚共と始まる交戦と驚く勇者達を横目に、俺も地面を蹴って肉薄。爪を射出して斬り掛かった。


「き、貴様っ、見捨てるつもりかっ!? 仲間をっ!」


 予め詠唱していたらしい『風』の刃を弾き、跳び跳ねて後退する男を同じく跳び跳ねて追う。


「はははっ、お前らの状況で殺せるわきゃねぇだろマヌケっ!」


 失態からの捕縛、逃亡からの返り咲きという奴等のルートを辿ればそれくらいバカでもわかる。……いや、わからんバカもいたが。


「元より狙いは勇者! なら『再生者』だって欲しいよなっ!? 有能だからなぁっ!」


 腐っても人間で、兵士。


 行動も思考回路もダンジョンの魔物と違って、少しはマシな動きをするせいで追い付けない。


「でええぃっ……!」


 それこそ忌々しそうに顔を歪めた男は『風』の属性魔法を地面にぶつけることで自分とマナミを吹き飛ばし、同時に砂埃を起こして俺の追撃を振り切った。


「うぐぅっ……!?」


 急な駆動にマナミが苦しそうに呻く。


 その様子は僅かな胸の痛みを呼んだものの、「ははっ、やるなぁっ!?」と抑えて、再度駆ける。


 詠唱は聞こえず、威力は最小。


 導き出される答えは……


「魔道具! 冒険者がよく使うあれだなっ、即席使い捨ての安物っ!」


 対人戦特有の先読みと先読みの戦いに心踊る中、それでも冷静に思考を巡らせた結果、目眩ましや逃走用に愛用されるというそれを思い出した。


 成長途中の俺達に捕まるような奴が手際良く加減しながら自分を飛ばせなんてしない。それが出来る手練れなら俺達は前の時点で負けていた筈だ。


「ご名答っ……しかしっ!」

「しかしっ、な、んっ……だぁっ!?」


 あっちへズドン、こっちへズドン。


 大分弱めとはいえ、衝撃波で自分を吹っ飛ばす無理な回避を後衛の魔法使いが耐えられるわけがなく。


 何やら隠しているらしい手を出させないようしつこく追従して反撃を封じる。


「はぁ……はぁっ……くっ……!」


 マナミは自前の固有スキルで自己治癒出来る。


 対してこの男はダメージが蓄積するばかり。


 当然――


「――遅くなってきたぞっ、ほらほらっ、何かあんだろっ!? しかしっ、何だよぉっ!」

「ぐぅっ、貴、様ぁっ……!?」


 血反吐を吐きながら逃げるだけの男と比べ、俺はただ追い詰めるだけ。


 俺としては楽しいという感情が勝つ。


 そして、そうこうしている内に。


 一歩、また一歩と追うごとに距離が縮まり始める。


「はははっ、そっ……こぉっ……!!」


 さあトドメ、と奴が来るであろう位置を予測して先にそちらに移動した瞬間。


「止めろっ!」

「こいつは僕がっ!」


 と、目の前にはライが、向こうにはイケメン(笑)が出現。思わぬ邪魔につんのめる。


 文句を言うよりも奴を蹴り飛ばされる方が早かった。


「はぐわぁっ!?」

「きゃあっ!?」


 連れられているマナミごと地面に叩き付けられていたが、一応は気を遣ったようで目立った外傷はない。


 思いっきり顔面に直撃を受けて脳を揺らされまくった割りには男の方も気絶だけで済んだらしい。予想以上のステータスの働きに少し驚く。


「ユウっ、こっちはっ……!」

「これで最後です!」


 リュウ達の方も終わった。


 ならば……


 俺は爪の刀身に魔力を流すと、ライ達が制止してくるのも無視して計六つの斬撃を飛ばし、意識のない男女二人を幾つかの肉片に分けた。


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