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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第2章 戦争編
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第50話 遭遇


「帰還命令?」


 突然の穏やかじゃない単語に少々驚く。


 話があると呼び出され、ライ達の泊まっている宿屋に来てみればこれだ。


「そう、さっきイクシアの城の人が来てね……『急いで帰国してほしい』って。ユウ君のところにはまだ?」


 まあ、来たっちゃあ来た。


 内容は命令ではなく、「戦争が始まるので手を貸してもらえると助かる」という一歩引いたものだったが。


「俺達の方は日時も決められててな……ご丁寧に馬車まで用意されてる」


 微妙な顔でいたことが返答になったのか、続けて情報を付け足され、「うへぇ」と声が出る。


「召喚者のレベルが全員70後半になって直ぐに……起こす側じゃないようなニュアンスだったけど、まあ戦力が欲しいんだろうな」

「……俺達のような素人を欲しがってるってことは国が危ういと思う事態だ。王都には何万人もの人間が住んでる。例え強制でも俺は俺の意思で行くつもりだ」


 見ず知らずの人まで助けたいとか相変わらず勇者してるなぁ……と、ちょっと遠い目になった。


 後ろのマナミ達も真剣な顔で頷いている。……若干一名、トモヨだけは嫌そうにしているが。


 シンプルに言えば俺は嫌だ。


 まだ強くなったって気がしない。


 他人の為に死ぬのなんて真っ平だ。


 ライやマナミみたいな綺麗な人間とは違って、俺は他人を僻むような人間。根本からして考え方が違う。


 が、だからこそ……とも思う。


 自分には出来ないことを、思えないことを当然だとばかりにしやがるこいつが眩しくて仕方がない。ましてや幼馴染みとしてずっと一緒に育ってれば尚更……


「お前が行くってんなら俺も行くぜ。リュウ達は……本人の意思に任せよう。命が懸かってる」


 そんな、俺の答えが余程予想外だったらしい。


 ライ達は一斉に目を丸くし、キョトンとした間抜け面を見せた。


「おいおい……揃いも揃って俺を何だと思ってんだよその顔。言ってなかったか? 俺が強さを求めるのはお前とマナミの隣に立つ為……胸を張って仲間だと言いたいからだ。今はまだ弱いからアレだけど、いずれ勇者パーティとしてやってくんだ。手伝うよ」


 半ば呆れながらの発言だったが、遅れて気付いた。


 俺今めちゃくちゃ恥ずかしいことを言った気がする。


「お、お前……そんな風に思ってたのかっ?」

「……まあな」

「ふふんっ、ほらね言ったでしょっ? ユウ君なら必ず来てくれるって!」


 気恥ずかしさから頭をガシガシ掻いて言うと、何故かマナミがドヤ顔でうんうん頷いた。


 マジでこいつらの中の俺はどういう立ち位置なんだ?


「意外ね。もっとクールな……クールぶってるだけの情けない男だと思ってたわ」

「フンッ、同感。大体、それなら何であの時っ……もっと別の可能性だってあったのに!」

「ふ、二人とも語気が強いですぅ……」


 毒を吐いてくる眼鏡女は兎も角、ミサキさんは未だに地竜事件のことを気にしているようで今更ネチネチと責めてくる。


 しつこい奴だ。


「噛み付くな鬱陶しい。言っとくが、あんたらと仲良しごっこするつもりは毛頭ない。さっさと元彼のとこに戻ってお守りでもしてもらいな」

「「は? 誰が元彼よ!」」

「ちょちょちょっ、ユウっ? ユウさんや? 二人も落ち着いてっ?」

「もう……何でそういう言い方するかなぁ……」


 一触即発の空気は生まれたものの、方針は固まった。


 さて……ジル様はどう説得すべきか。


 俺は行きよりも重くなった腰を上げると、キーキー喚く女共を無視して宿屋を後にした。













 二日後。


 リュウとショウさんの意向を聞いた俺は件のジル様と一緒に馬車移動を開始。イクシアを目指してサスペンションという概念のない振動に悩まされていた。


 何か魔物相手は気分が乗らないとかで反対してたジル様はというと、「おやぁ? 愛弟子が死ぬのがそんなに嫌ですか? しょうがないなぁー? なら一緒に来てくださいよー、ね? お、師、匠、様?」とニヤニヤしながら尻尾をツンツンしたらついてきた。


 代わりに鼻っ面が御陀仏だ。鼻って真正面からぶん殴られると潰れて埋もれるんだな。鏡見て腰抜けたわ。


 つぅかまともな説得を聞いてくれないんだから煽るだろ、プライド高い人だし。……後で国の方に慰謝料を請求しておこう。


「アリスも来れば良かったのにね」

「彼女さんを待たせてるって言ってたし、冒険者だからって態々他国の戦争に出る義務もない。実際にキナ臭いんだから逃げるでしょ」


 リュウ達の会話を聞きながら内心で賛同する。


 宗教的に受け入れられてない獣人族ということ前提もある。妥当な判断だろう。


 当分は南下して別の国を目指すと言っていた。


「フロンティア、か」

「だね。イクシアと『砂漠の国』シャムザの境目にある……あれ、向こうの領だっけ?」

「あー……確か」


 もし会いたくなったらその街に来いとのこと。


 とことん偉そうな奴である。


 ま、あんなんでもこの世界で出来た唯一の友人だ。戦争が終わったら顔見せくらいはしてやりたい。

 

「クハッ、あいつら中々強くなってんな。テメェよか強いんじゃねぇか?」


 何か護衛は任せろとかで勇んで出ていたイケメン(笑)、早瀬コンビの動きは事実予想外のもので、俺達の会話が途切れたところでジル様が意地悪そうに笑ってきた。


「だからってこれから戦争しようってのに勇者自ら戦線に立つのはどうなんです?」

「Q&Aになってねぇぞ。どう思ってんだってんだよザコ」


 どうと言われても。


「勝てないでしょうね。正面から戦えば」


 俺は後に続いた罵倒を無視して返した。


 何せ現れる魔物の尽くをガチの瞬殺で片付けている。


 勇者特有の属性魔法もヤバいが、早瀬が異次元レベルだ。もしまた喧嘩になったら多分フルボッコにされる。


「言外でも条件次第なら勝てるって言い切るところがユウっぽいよね」

「……というかあれだけ派手に仲違いしてた召喚者を一斉に移動させる国もどうなのよ。金を惜しんだとか?」


 その上で騎士達の仕事を勇者達が奪ってんだから変な話だ。


 冷静かつ客観的な見極めと耳に届いた尤もな意見に瞑目した次の瞬間だった。


 何処からか、大勢の人間の悲鳴が聞こえた。


「んっ、何か聞こえたね今っ」

「方向は……」

「この先、真っ直ぐだな」


 異世界生活もそれなりに長い。


 俺達はほぼ同時にスイッチを戦闘モードに切り替えると、獲物に手を伸ばして話し合った。


「《気配感知》……ダメだね、届かない」

「確か村があったような?」


 平均からして人数は百以下。中には怒号や鼓舞するような叫び声も混じっていたように思う。


「……教えてくれても良いんじゃないっすか?」

「知るかよ」


 うんざりした顔を隠しもせずに言ったジル様はそのまま荷台に寝っ転がってしまった。


 ……パンツ見えそう。


「何見てんだ、このムッツリ野郎」

「へぶぅっ!? いってぇな……ったく……見せてんのはそっちだろ、蜥蜴女が」


 首の骨が折れんばかりの尻尾ビンタに目ん玉が飛び出るくらい吹き飛ばされ、外の地面に叩き付けられる。


「聞こえてんぞー?」

「………………考えられるのは盗賊。勇者様達は……ってそりゃそうだよな」


 ゆらゆらと伸びてきて揺らめく竜の尾に冷や汗をだらだら流し、努めて無視。どう動くべきか様子見しているうちに、「何かあったのかもしれないっ、急いで向かおう!」、「今の僕達なら敵なんか居ない! 行くぞ皆っ!」なんて、ハモるみたいに同じ反応で飛び出すライとイケメン(笑)が視界の端を過った。


「猪かあいつらは」


 仕方ない。


 毒づきながら立ち上がり、困ったように、あるいはドン引きするように顔を見合わせている騎士達にちょっと待っててくれと声を掛ける。


「あー……真面目な顔止めて?」

「怖い怖い流血してるのに平然としないで高校生でしょ君」


 ……あ、ホントだ。鼻血。衝撃で鼻やったなこれ。


「いや雑っ、雑っ!」

「ごしごし拭いて止まる量それっ!?」

「煩いな……対人戦闘の訓練だ。リュウも来い。ショウさんは待機、良いっすね?」


 完全にあいつら任せだと後から何を言われるかわかったもんじゃない。


 俺は嫌がるぽっちゃり野郎の首根っこを掴むと、颯爽と走り出した。


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