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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第4話 神への反逆者


 少しして祈りを終えたマリー王女がけろっとした顔で、「では他の方のステータスを確認させてください」と近寄ってくる。


 その急なスンッも止めてほしい。普通に怖い。


「何とっ、武闘家と武闘士の並行職とは……先が楽しみです。後のお二人も魔法戦士に治癒師とかなり珍しい職業ですし、何より固有スキルが素晴らしいです」

「「「え、え~とその……ありがとう、ございます……?」」」


 イケメン君の取り巻き三人も急な変貌っぷりに困惑している。


 聞き慣れない並行職という単語は恐らく職業が二つある人のことを指すのだろう。


 反応を見る限り、少々珍しい程度の存在らしく、どちらかと言えば固有スキルに関心が向いているらしい。


 王女の後ろに待機していた神官みたいな人達が紙切れに何やら書き込んでいる。


 執筆速度的に全部記録するようだ。


 プライバシーとかないんかな。


「貴方は……おお! 固有スキル【電光石火】! 少し前に【電光石火】持ちの冒険者が亡くなったと聞いていたのでそろそろだと思っていましたよ」

「……はぁ?」

「おや、商人ですか。【等価交換】……? 知らない固有スキルですね……あ、商人の部分、ちゃんと記録お願いしますね」

「…………」

「お次は……こ、これは……何て酷い……職業はない上にステータスはオール三十……? 子供でももう少しありますよ? それに【鶏鳴狗盗】って……え、え~と……その……が、頑張って……ください、ね?」

「……姫様が辛辣で笑えない件」


 早瀬、サラリーマン、オタク、と流れるように見ていくマリー王女と記録係。


 前者二人は単純に反応に困ってるし、オタクに至っては「普通、陰キャが実はってパターンでしょがいっ」とセルフツッコミしてる。


 ちょっと笑った。


 しかし、ここであまり笑えない事態が発生。


 オタクのステータスを横から盗み見たイケメン君と取り巻きの一人が騒ぎ出したのだ。


「うわぁ……ひ、酷いね……? 僕のなんて一番、低い数値でも100は行ってるよ? これがどれくらいの数値なのかわからないけど……努力が足りないんじゃないかな。大体、君はいつもいつも……」

「ぷっ、あははは! な、何よこれ……! 受ける! これでどう戦うっていうのよ! 超ウケるんですけど! あははははっ!」


 イケメン君はくどくどと説教を始め、取り巻きの女は腹を抱え、手を叩いて爆笑している。


 逆にオタクはというと、こちらは慣れている様子で「すーっ……」、「いやー……はい……う、ウケるよねー、うん……」と流していた。


 ありゃ性格に難ありだわ。


 近寄りたくないタイプですわ。


 雷達と若干引きながら二人を見ている内、とうとう癒野さんの番ということでマリー王女が近付いてくる。


「あら、また並行職です……ねっ!? さ、再生者!? す、凄いっ……! 『真の勇者』様がお二人も居るだけでなく、再生者までっ……」


 しゅごいらしい。よくわからん。


 とはいえ、記録係達や貴族達の中には勇者よりも価値があると感じている人も居るのか、さっきよりも歓声が上がっていた。


「え、え~と……?」

「再生者とは固有スキル【起死回生】を持っていなければ出ない職業なのです。記録によればおよそ五百年振りの誕生ですっ。これは大変素晴らしいことですよっ!」


 ズイッと寄ってくるマリー王女の表情はキラッキラしていた。


 寄られた方は「は、はぁ……」とドン引きである。


 遅れて王族らしからぬ行動を自覚したのか、「あっ……し、失礼しました」と続ける。


「兎に角、再生者に関してはまた後日ゆっくりと説明させます。貴女と『真の勇者』様方が居れば魔王に勝ったも同然です。それだけ貴女の力は強大で素晴らしい力なんです」


 まさに力説だった。


「こ、怖かった……」


 そうして、怯える癒野さんの肩を雷が叩いて安心させようとしている横を通り、マリー王女は「さて、最後は貴方ですね。ステータスを見せてください」と笑顔で告げてくる。


 いざ目の前まで来るとわかる。


 成る程と納得する美貌の持ち主だ。


 コスプレ感の強い黄色いドレスと幼さを残した顔立ちが目立つが、王族らしい堂々とした立ち振舞いが却ってあどけなさを芸能人のような輝きへと昇華させている。


 俺は幾つかの懸念事項について内心溜め息を吐くと、素直に王女様に自分のステータスを見せた。


「あら、貴方も並行職ですか。今回は並行職の方が多いですね」


 はい、今回『は』いただきました。

 

 やっぱり信用出来ませんと。


「え~と……職業は武闘士に……狂戦士? 珍しい職業の組み合わせですね。特記事項に防御力についての記述を……」


 穴を開けたいのか疑問に思うほどじっくりと人のステータスを見ていたマリー王女は背後の記録係に何かを言おうとして固まった。


「っ……ぇ……? は? えっ……こ、これって……?」


 わなわなと震え、俺を見上げ、もう一度ステータスを見て、「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げて仰け反る。


 まるで化け物でも見るかのような目だった。


 記録係達も「ひ、姫様っ、どうされました!?」、「何かあったのですか!?」と混乱している。


 先程とはまた違う異様な反応。


 武器も抵抗の手段も持たない俺にはどうすることも出来ず、他の人間も時が止まったように黙ることしか出来なかった。


 それまでの喧騒は一気に消え、神殿内に静寂が訪れる。


 そんな中、唯一マリー王女だけが呟いている「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……!」という声が木霊していた。


 次の瞬間、王女はバッと顔を上げると叫んだ。


「へ、兵士達よ! この者を捕らえなさい! 『神への反逆者』です!」


 対する俺は「へ……?」としか言えず。


 見れば言われた兵士達も困っているようだった。


 お互いの顔を確認し、首を傾げ、「ほ、本当ですかっ?」と聞き返すだけで何もしてこない。


 勇者を召喚する魔法で勇者とは真逆のような称号持ちが現れたとなれば、それはこの連中にとって酷く驚くべきことなんだろう。


「か、『神への反逆者』だって? 何かの間違いではないのか?」

「どういうことだっ……神聖な召喚の儀で『神への反逆者』が出るなど……!」

「『神への反逆者』にしてはやけに大人しくないか? 奴等は人を見れば襲い掛かってくると聞くぞ。それこそ魔物のように」


 周囲は一斉にざわつき始めた。


 貴族達も兵士達も、果てはイケメン君達ですらヒソヒソとこちらを見て話している。


 王女も必死に「本当です! は、早くっ……早くこの者を捕らえるのです!」と訴えているが、やはり余程のイレギュラーだったのか、兵士達も困惑するばかりで動けずに居た。


 収拾がつかない。


 そいつはそう思ったのだろう。


「静まれぇぃッ!!」


 思わずビクつくほどの声量。


 何事かと声の方を見ると、貴族達の先頭に居た老人が前に出てきていた。


 モサモサの白髪頭。だけど、河童ハゲ。白もじゃの髭とローブみたいな服がその位を示しているようで、その顔と目は威厳に満ちている。


 何処か怖いじいさんだった。


「兵士達よ……先ずはこの者を捕らえるのだ。例えどのようなことがあろうと兵士風情が気高い王族の命令を無視するなど許されんっ、わかったら早くせんか!」


 不思議と耳に入ってくる声。


 まるで一人だけマイクをしているように煩く、また、ハキハキとしている。


 その声にハッとした様子の兵士の何人かがこちらに近付いて来た。


「失礼ですが……抵抗せずにゆっくりと両手を出してもらえますか?」

「えっ、あっ、はい」


 言われて思わず両手を出すとガチャン、と直ぐに手錠のようなものを付けられる。


 途端に、全身を何かに押さえ付けられるような感覚が襲ってきた。


「うおっ、な、何だこれ……!?」


 締め付けられるような、何かを禁じられたような……何とも変な感覚。


 直後、横の兵士二人に剣を突き付けられ、再びビクッとする。


「ち、ちょっと! 俺の大事な友達に何するんですか!」


 雷が怒って駆け寄ってくるが、俺は自分に向けられた鋭利な刃物に釘付けで声も出せない。

 

 何もかも初めての体験過ぎて、その上緊張も相まって口の中とカラカラだ。


「勇者様っ、貴方様のご友人だとしても、彼には死んでもらうしかないのです!」


 俺を守るように両手を広げている雷にそう告げるのはマリー王女。


 しれっと捕縛から死刑に昇格すな、と何処か冷静な部分が囁いた気がした。


「そ、そんなご無体な……」

「優っ、ふざけてる場合かっ。お前も何か言えよっ」

「そうだよっ、こんなの可笑しいよっ」


 親友達の優しさが染みる。泣きそうだ。


 つぅかふざけてねぇよ。見ろこれ、包丁より凄ぇの向けられてんだぞ俺。


「彼は『神への反逆者』なのですよ!? 危険ですっ! そもそも召喚の儀式で神への反逆者を喚んでしまうなど……!」

「っ……知るかっ! 大体、その『神への反逆者』って何なんですか!? そんなよくわからない理由で友達が酷い目に遭うところを黙って見てろって言うんですか!」


 リアル王族相手に面と向かって怒鳴る雷。


 この時ばかりは普段憎いイケメン顔が光って見えた。


「ふざけないでください! 優はっ……こいつは俺の大切な友達なんですっ!!」


 言い切られてしまった。


 それどころか、「で、でも!」と反論しようとする王女を遮り、「でももクソもありません!」と被せる始末。


 あまりの剣幕に先程王女に加勢したじいさんまでもがたじろぎ、言葉に詰まっている。


「俺の友達にこんなことをするなら俺は協力しません! 俺も一緒に殺してください!」

「わ、私も同意見です! さあどうぞっ!」

「なっ、貴女まで……っ」


 癒野さんまで俺を庇って前に出てくれた。


 目頭がどんどん熱くなってくる思いだった。


 二人がここまで言ってくれるのなら。


 俺は俺なりに勇気を振り絞ると、口を開いた。


「あの……理由くらい教えてくれても良いんじゃありません? 勝手に喚んどいて、欲しかったのと違うから殺すってのはちょいと……あんまりでしょ」


 じいさんの声は不気味なくらい通っていた。


 恐らく、何らかのスキル。


 ならばこちらも……と、《詐欺》、《演技》、《仮面》スキルを総動員して対抗する。


 イケメン君達や他の奴等が驚いているのがわかった。


 命の危機だというのに一切喚かず、それなりに落ち着いて話せている辺り、自分でも感心してしまう。


「魔王を殺さない限り、俺達はもう家族にも会えないんですよね? 世界が違えば法も常識も人種も違う。日々の何気ない行動だって違うかもしれません。そんな別世界に人を誘拐してやることは殺人ですか?」


 少なくとも相手はこちらの命を握っている状況。


 下手に怒らせれば殺される可能性は大。


 最悪だ。


 本当に最悪な日だ。


 自分が何をしているのか、どれほどの愚行か自覚はあるのに止まらない。


 息を吸う僅かな時間を経て。


 〝ふざけるなよ〟


 自分のものとは到底思えない冷たい声が出た。


 俺の中のどす黒い感情が揺さぶられたような、静かなのに響く声だった。


「……?」


 ふと、自分の身体から黒いモヤのような光がほんの少しだけ漏れているように感じ、自分を見下ろす。


 何ともなかった。


 気のせいかと周囲に目を向ければ王女どころか貴族、召喚者、雷達までもが驚き、怯えるようにこちらを見ていた。


「ひっ!? あっ……え……くっ……! こ、高貴な血筋であるこの私に向かって何て口をっ……レベル1の弱者がっ……!」


 殺気にも似た俺の怒りをぶつけられたマリー王女は一瞬ビビった後、小声でぶつぶつと何やら言っている。


「げ、下賤な()()の分際で……! これだから他種族の者は嫌いなのですっ……」


 はて。


 魔族と聞こえた。


 他は兎も角、魔族? どういう意味だ?


 この期に及んで侮辱してくるのは放っておくして、言っている意味がわからない。


 つい目を細め、聞き返そうとして先程のじいさんが割って入ってきた。


「姫様、この者の無礼な戯れ言は兎も角……勇者様方もこの通り、譲れない様子。このヤツァク、ここは退くべきと愚考致しますぞ」


 そう言いながら、本人も納得のいかないような顔をしていた。


 王女に次いで嫌悪と軽蔑、憎悪のような負の感情を感じる。


 他、貴族や兵士、騎士達までもが少しずつ敵意を向けてきている。


 自慢の姫様に無礼を働かれて腹を立てたのか。


 遅れて俺の存在を鬱陶しく感じ始めたのか。


 真意はわからない。


 しかし、この場に居るこちらの人間の殆どが俺を否定するような目で見ていたのは事実だった。


 こうまで悪意をぶつけられたのはこれまた初めての経験だ。


 さっきみたいな宗教絡みで俺を疎ましく思っているのは確実……


 嫌な予感は的中した。


 《闇魔法》。


 どうやら俺の運は地の底レベルらしい。


 何処までも続く異様な雰囲気に軽く当てられそうになりつつ、毅然と睨み返す。


 ここで折れたらライ達の頑張りも無駄になってしまう。


 今は勢いに任せるしかない。


 幸い、ヤツァクとかいう爺も退いてくれた。


 このままこちらの怒りが伝わるまで耐えるんだ。


「「「「「…………」」」」」


 暫くの間、誰もが口を閉ざしていた。


 必死に虚勢を張る俺と冷ややかな視線で見下すように見てくる王女による睨み合い。


 そして、そんな俺達を見守る雷達。


 やがて。


 様々な感情を表していた王女の瞳の中に恐怖以外の何かが生まれたのがわかった。


 まあ良い。


 そう言っているような目。


 根負けしてくれたらしい。


「……はぁ。それもそうですね……ここは一つ、我々が大人になるとしましょう。貴方は()()()心に感謝するように」


 態々強調しやがって……


 何て奴だ。


 腸が煮え繰り返るような思いに思わず歯軋りで応えてしまった。


 得心がいってないのはこっちも同じだっ……! お前は俺と同じ状況になったことがあるのかよっ。


 人生で初めて女を殴りたいと思った瞬間だった。


 だが、今までの苦労や雷達のことを思えば耐える他ない。


 突如訪れた絶体絶命の危機を何とか脱することに成功した俺はこめかみをピクピクと痙攣させながら、「恐悦至極にございます、王女様」とにこやかに笑って見せた。


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