第45話 鬼畜の修行再び
「うわっ!? 大きいくせに結構俊敏っ……あっぶなっ!?」
「くっ……! 強いです!」
「ちょっ、嘘でしょ!? ここまで強いなんて聞いてない! 殺す気!?」
「ひっ……ゆ、ユウ君、あれ大丈夫なの? 流石のライ君達でも相手が悪いんじゃ……」
後日。
ライ、アカリ、トモヨさん、マナミ、俺を入れた五人はジル様の監督の元、上級者用のダンジョンに潜っていた。
「……他は兎も角、ライはレベル30代でギリギリまで俺を追い詰めたんだから多分大丈夫だろ」
「た、多分って……」
職業的に向いてないマナミはこうして俺とくっちゃべってるが、オーガと戦ったことのないライ達は割りと必死な顔で三匹の群れと対峙している。
「ユウ! 聞いてるのかっ!? 黙って見てないで助けてくれよ! レベリングするんだろ!?」
「主様、私では決め手に欠けるのですが……」
「黒堂君!? 私、こんなの聞いてないわよ!」
「「煩ぇなぁ……」」
「「いや師弟揃って鬼畜かっ!」」
ライとトモヨさんのツッコミが木霊し、ついでにオーガの咆哮も木霊する。
ちょうど一対一なんだから何とか出来るだろうに。
パッと見た感じ、ライ達は一発でも当たったら大怪我、当たりどころが悪ければ死ぬだろうことを連想させるオーガの豪腕に恐怖してて……比較的冷静に対処しているアカリは一度盾でそれを受けてからは倒せないと判断したのか、ヒット&アウェイでチマチマ攻撃している。
……誰の為の稽古だと思ってるんだこいつらは。
先日の喧嘩の結果は引き分け。
レベル、環境、装備と差はあれ、最強の職業を持つライと組み合わせが珍しいだけで普通に居る程度の俺が引き分けた。
客観的に見れば向こうの負けなんだろう。思想でも覚悟でも。だからか、ライにはイクシアの方から俺に従うよう命令が下っていた。
そのお供……まあ多分ついでに強くなれれば良いかなぁくらいの感覚で付いてきたのがトモヨさんだ。ミサキさんらは魔物との相性が悪いからパス。
「ま、先ずは雑魚で慣らすとかさ!」
「そうよ! いきなりはキツいに決まってるでしょ!?」
「知るかボケ。その言い訳は目の前の魔物共に伝えな。きっと『そうだよね、僕達が強くて君達が弱いんだもんね。強くなるまで待ってて上げるよっ!』ってな感じで受け入れてくれるだろうさ」
「「ぐぎいぃっ、その声真似ムカつく (な) (わね)っ!」」
……あ、何かデシャブ。
ジル様はいつもこの光景を見てたのか。
立場が入れ替わると面白いな! ははっ!
「くっ、何笑ってんだよ! 『纏雷』! ぜぇあっ!」
「……シィッ!」
ぐちぐち言いながらも勇者は勇者。ライはオーガを痺れさせて隙を作り、首を一閃。トモヨさんはその横で『風』の属性魔法らしき何かと《縮地》らしきスキルを併用して超加速。そのスピードと勢いを乗せて自前のレイピアをオーガの脳天に突き刺して事無きを得た。
「むむむ……」
問題はやはりアカリか。
どんなに職業に恵まれていても、異世界人と違って無詠唱での魔法行使が出来ない。その上、攻撃力よりも防御力が高いので今一歩決定打に欠ける。
職業はライ以上、装備もそれなり……イケそうなもんだけどな。成長力も段違いであることを踏まえればその辺は現地人との違いかもしれない。
仕方ない。
俺は渋い顔で頷くとアカリが相手をしていたオーガに『風』の斬撃……爪斬撃を飛ばして霧散させた。
うっすらとだが、今後の方針は見えた。出直そう。
「全員、装備を変更する。一度地上に戻るぞ」
「は? 早くないか?」
「確かに苦戦はしたけど、まだ一回だけしかっ……」
折角、重い装備を付けてやってきたのにたった一戦しかさせてもらえないのは納得がいかないのか、抗議の声が上がる。
「煩い黙れ雑魚共」
「「酷い……」」
アカリは元々文句を言うような性格じゃないし、マナミは戦力外。問題児の二人を黙らせてしまえば話は早い。
俺とジル様はさっさと拠点に向けて歩を進めた。
「うぅむ……」
ライには「鎧脱げやボケ。後この際、盾なんか捨てやがれ」と重そうな防具を外させることで、速度upを図らせることにした。ついでに予備の装備として短剣とかショートソードを買いに行かせた。
あんな狭い洞窟内でよくもまあ盾を持ちながら長剣を振り回せるもんだ。適材適所って概念はないのか? アホかっつぅの。
トモヨさんは逆に「もう少し防具追加で。後、重りもつけよう」と全体的に重くすることで、攻撃に重みを持たせる。これも買いに行かせた。
無論、二人ともダッシュで。
二人は散々文句を言っていたが、テーブルの上にだらしなく両足を乗せてたジル様に殺気を当てられて嫌々出ていった。
こういう時のジル様は最高だ。可愛いし、癒しにもなる。尻尾のせいでパンツも見えてるし。……まあ痛みとストレスにもなるけど。
「主様。私はどう致しましょう?」
「いってぇ……今それを悩んでんだよ」
アカリの質問に再び唸る。
ジル様は俺の心の声を聞いて尻尾ビンタを食らわせると、自室に行ってしまった。
ライ達の愚痴も見てたから苛々してたんだろう。
「んー……自分のことならわかるんだがなー……」
何せ自分のことだ。どんな時に何が不足していて、普段どんなものがあると楽かを考えれば自ずと答えは出る。
実際、俺の方も追加で特殊な装備を特注している。
しかし、アカリのようなタイプとなると話が変わってくる。
壁役……俺とは真逆の戦闘スタイルだ。
避けタンクくらいはしたりもするが、やはり動き方が違う。行動が違えば視点も注意点も変わる。どうしたって師事が出来ない。
「一先ずは……今の装備のままタンクとしての感覚を確実にする、か……? ん、そういや属性魔法を戦闘中に使ったことは?」
「ありません」
「じゃあ詠唱しながらの戦闘に慣れつつ……あれだよな、確かこっちの人間は無詠唱が出来ない代わりに溜めるっつぅか中断みたいなことが出来るよな? それを戦闘中にすることは出来るか?」
「……恐らく。情報収集中に何度かそのような話を聞きました」
決まりだな。
無表情なりに顎に手をやってるのはアピールだろうか?
こればっかりは難しいとかやれる人間が限られるとかの話じゃないから努力してほしい。何なら主人としての権限で強制することだって出来る。『努力しろ』という曖昧な命令が出来るか否かは兎も角として、それくらいのことが出来ないと俺達の土台にすら上がれないんだから。
他は……追々ってとこか。
多分だけど、ライ達はパーティメンバーが多いせいで苦戦が少ないんだと思う。普段は騎士らの援助があるからな……飯やトイレだってどう処理してるやら。
だからマナミという最強のヒーラーの存在を頼りにギリギリまで追い込む。巨蟲大森林の時の経験からして一ヶ月くらいはこもることになりそうだな。
そこまですれば色んなことが見えてくる筈だ。
俺が付いてるから死ぬこともないし、大抵のことは何とかなる。余計な考えや甘え、羞恥心は削ぎ落とす。
「フッ……」
「……主様、顔と目付きが怖いです」
「どうしろってんだよ……」
ジル様みたいな顔でもしてたのか、恐れられてしまった。
そんなやり取りを挟みつつ。
こうして、『ぼくの考えたさいきょーのしゅぎょー』が始まった。
「おいっ、【明鏡止水】使っとけっつったろ何ビビってんだハゲ!」
「ハゲてないよ! ハゲそうだけども!」
「そのストレスもゼロに出来るんだ、さっさと使えよハゲ!」
「だからハゲてないっての!」
素質だけならライは俺を越える。故にあまり助言はせず、あくまで最低限の注意だけに留める。
何が怖いのか知らんが、固有スキルはスキル頭痛が来ないのが利点なんだから常時使っていれば良いものを……
「メガネー! そっちも動きが遅いぞ!」
「うるっさいわね!? こんだけ重い装備してればそんっ……きゃあっ!?」
「――余所見してるからだぞメガネ! そんだけ黄色い声が出せりゃあ何とかなる! マナミに頼らず戦え! 前みたいに逃げんなよ!?」
「かはっ……はっ、はっ……はひゅっ……!? お、折れた……折れた折れた折れた! 絶対に折れたわこれ複雑骨折ものよこれ!? だ、誰のせいだと……!」
「言い訳してる暇があるんならさっさと戦えよメガネー!」
「このっ……メガネメガネ煩いのよ! 本体はこっち!」
何処ぞのスポーツ少女らしく口調の荒いトモヨさん改めトモヨも、そもそもが考え過ぎるくせがある。勿論、性格もあるだろうが、一番の要因は役割分担が出来るパーティに長らく居たから。
だから簡単な野次に気を取られもするし、片腕が完璧にへし折られた程度で戦意喪失する。
ま、腐っても異世界人。一度体勢さえ整えればステータスの高さでどうとでもなるが。
「そっちの二人は相手をよく見る! 視線の動き、筋肉の動き、足さばき、隈無く観察して動くんだ! ……おいマナミっ、目を瞑るなと言ったろ!? 死にたいのか!」
「承っ……知!」
「ひいぃんっ、そんなこと言ったって……! ゴメン、アカリちゃ~ん!」
アカリは俺達よりも人生経験が濃い為か、こっちの人間としての土台は十分。ビビって動けなくなったマナミを庇う余裕すらある。
この二人の場合、観察力と度胸が武器になる。他もあれば良いが、一番はそこだ。
戦闘特有の恐怖や痛み、緊張感の中、優先順位を付けて行動出来るようになるにはひたすら恐怖に抗うこと。
慣れと言っても良い。ただ慣れて、恐怖を克服し、常に平常心を保つ。
極論、誰にでも必要っちゃあ必要。
しかし、ライは能力でカバー出来る。してないけど。
トモヨは俺と同じように裏であれこれ考えるタチのくせにのろま湯に居たせいで鈍重。
結果的に残りの二人がそんな二人を何とか御せるようにならないといけない訳だ。
戦闘以外でもなってない点は多い。
「も、もう虫は嫌だぁっ!?」
「いやああああっ!? 何の幼虫よそれぇっ!?」
「もうご飯はいらないからゆっくり寝させてぇ!」
「シャラアアァップ! 嫌じゃねぇ食え! お前らはパンが無ければお菓子を食うのか!?」
余程のことがなければダンジョンから出ることすら許さなかったので、必然的に飯は非常食、寝るときはその辺で野営となる。
ダンジョンでの野営に安息という概念はない。見張りは全員に交代でやらせた。
幸い、人数は多かったので見張りはキツくなかったようだが、飯が問題だったらしい。
最初は皆、自分の非常食を各々マジックバックに詰めていた。それも尽き、どうしようかと俺を見た時のあいつらの顔と言ったら……
「しょうがないよね? もう無くなっちゃったもんね、一回街に戻るしかないよね?」みたいな困ったような嬉しいような顔が、俺が無言で出した虫の死骸を見て一気に絶望に染まるんだもの。高笑いして口に押し付けてやった。
いつぞやかジル様が俺にやったように殺気も使った。
他にも文句を言われるようなことがあればその都度、脅し……いや、調教……いやいや、教育したお陰で大分、殺気の強弱の加減がわかってきた気がする。
流石に批判と暴言の嵐……ついでに悲鳴で魔物も寄ってきたが、ライは何か言う度に殴って気絶させ、トモヨには「あ、要らない? 凄いな、飲まず食わずで生きられるのか……ホントに人間?」とニコニコしながら言うことで黙らせ、泣いていたマナミには「虫も食えないようじゃこの先生きていけないぞ」と励ました。
「いや、虫を食べることと先のことに何の関係がっ!?」
というツッコミはスルー。
アカリは……普通に食ってた。
奴隷の時に食ってた飯よりマシとのこと。
可哀想だったのでアカリにだけは隠れて普通の食料を渡した。
そうこうしてる内にインプが出たりもした。
俺を含めた全員が初遭遇。最初は俺が相手するかと思った次の瞬間、精神攻撃が効かない筈のライが何かを喚きながら俺を襲って来やがったので、「【明鏡止水】使っとけっつったろうがこのダボがぁッ!」と超高速往復ビンタをして正気に戻す。
インプは結局俺が殺したが、ライの錯乱状態が中々解除されなかったのでビンタを継続。正確にはビンタで触れる瞬間に【抜苦与楽】で幻を見せる何らかの物質orスキルを『抜』いた。
当然、そんな瞬間的なもので100%直ぐに解ける筈もない。「大丈夫か~?」等と声を掛けながら何度も気絶させ、その度にビンタで起こし、再び気絶させを繰り返した。
途中、明らかに正気を取り戻したなって時も「おいっ、大丈夫か!?」、「虫が嫌とか正気か!?」、「マナミを守りたいのに戦うのも殺すのも嫌!? 魔王をぶっ殺すんじゃないのか!?」とビンタを続け、それが終わる頃にはすっかり従順に……じゃなかった。素直に【明鏡止水】を使うようになってくれた。
他の連中も同様、返り血に染まった俺と地面でビックンビックンしてるライを見てからは何があってもライを盾にするように。
「ちょっ、皆!? 幾ら無効化出来るからって酷くない!?」
「黙って報いを受けなさい」
「何の!?」
「が、頑張ってっ、ライ君!」
「だから何を!? 効かないから頑張るとかじゃないんだけど!?」
「っ……」
「無言のサムズアップは止めて!? ユウの悪いとこ移ってるよ!?」
煩かったので背中に蹴りを叩き込んでインプに抱き付かせておく。
「びぎいいぃぃっ!?」
「ひぎいいぃぃっ!?」
「そっくりだなお前ら」
「止めろよ殺す気かっ!」
「お? 怒るってことは【明鏡止水】使ってないな? ビンタか? ビンタか? んー?」
「クソがあああああっ!!」
何て口の悪い奴だ。それでも勇者か?
ともあれ、段々と苦戦することは無くなっていった。
トラウマを植え付けられたのか、インプが出る度に「うわああああっ!」と奇声を上げながら斬り殺すようになった奴は一人居たが、まあ問題はない。
「あそこまで怖がるなんて余程怖い幻を見せられたんだな……可哀想に」
そう呟いたら、全員から「いやお前お前お前っ、お前だよっ、お前のせいだよ!」みたいな視線を頂いた。
多分、一ヶ月は1層に居たかな?
やっぱ慣れって大事だよな。そこまで経ってくると、もう皆何も言わなくなってたし。死んでるのに蠢いてる虫の死骸を出した時は流石にビクンってして、今にも泣きそうな目で見てきたけど。
ケイヴ系魔物が跋扈する2層には二週間も居なかった。
オーガやインプよりもケイヴ系魔物の方が魔法耐性が低かったらしく、魔法が使えるライとトモヨさんはこの層において常に無双状態。俺並みに倒すのが早かったからな。
マナミとアカリも、新たに作らせてた俺の爪よろしく魔剣と化したショートソードと短剣を装備していたこともあり、こちらも補佐すればトドメは容易だったので、そのまま通過。
シャドウ系魔物と野生の転生アホ男女が出てくる3層で活動していたのはもっと少なかった。
一週間もしない内に「あれ? 今の俺達なら協力すればユウに勝てるんじゃね?」と気付いたライ達が徒党を組んで反乱を起こし、あえなくご用となった俺を縛り上げて強制的に帰還となったくらいだ。
そうして縛られたまま屋敷に放り投げられ、ジル様に爆笑されながら説明を求められて今に至る。
「で、どう思いますジル様。あいつら、俺への感謝が足りないと思いません? 誰のお陰で全員レベル50を越えられたと思ってるんすかね」
「オレが言えるのはお前、人に鬼畜とか白い悪魔とか言う資格はねぇんじゃねぇかってくらいだな」
何かと世知辛い世界である。いや、慣れたけどな。




