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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第44話 亀裂


 ライの白い瞳と黄金の輝きは少しして収まった。


 熱した鉄が急激に冷めたように、俺が正気を取り戻したように。


「まだ……()るのか?」


 先程の疑問はさておき、当然の質問を投げ掛ける。


 相反する力に引っ張られ、中断してしまったが、俺達はまだ本心を語り合ってない。


「はぁ……はぁ……あ、ぁ……ご、ゴメン皆、もう大丈夫だから……」


 僅かに息を荒げ、ゆっくりと立ち上がったライが獲物を拾いに行き、マナミ達にそう説明する。


 その青白い顔色や目の光から疲労具合が見て取れたのか、「も、もう止めようよっ、変だったよ今っ……二人の力のこと、もっと調べる必要があるんじゃないのっ?」とツッコまれたのも首を振って返し、俺の前に戻ってきた。


「行くぞユウ。今度こそ本気で……間違っているお前を……正す!」


 歩き出し、走り出し、ライは剣を振り上げた。


「……そうかよ。なら俺は自分を正しいと信じて疑わないお前を……壊す!」


 俺の方も同じように動き、手甲を振るった。


 ガキイィンッ!


 獲物と獲物がぶつかり、反動でザザッと後退。しかし、魔粒子で背中を押して斬り、殴り合う。


「っ、っ! も、もうっ、十分強いだろ! 何でこれ以上強さを求めるっ!? そんなに戦うのが楽しいのか!」

「ハッ、笑わせんな! 力は幾らあったって良いっ! 力こそ最速で我を通す手段だろうがっ!」


 互いの身体から放出される魔力が、まるで残像のように俺達の跡を追っていた。


 ライは俺のラッシュを剣で全て弾くと、《縮地》と《空歩》のコンボで背後に回り、攻防を入れ換える。


 素早く踏み込んでの振り下ろし、からの斬り上げ、袈裟斬り、突き。


 イクシアで習ったらしい王国剣術だ。


 その動きはかなり洗練されていて、綺麗なもの。


 故に読みやすい。


 ジル様から教授してもらった野生の剣……ケダモノのような戦闘スタイルの俺からすればどんなに技術やステータスで負けていても先が読める。


 俺は手甲で防ぎ、一歩下がって躱し、続く刃をくるりと反転して避け、拳を胸に叩き込んで静止させると、その流れで突き出すような後ろ蹴りを繰り出した。


「ぐぎっ!?」


 顎に直撃し掛けたそれを盾のない腕でガードしたライは慣性で吹き飛び、しかし、金色の魔粒子を逆噴射させて制動を掛け、着地。《縮地》を使ってあっという間に接近してくる。


「う、ぐぅっ……こ、ここまで強いんならっ……他にやり方があったんじゃないのかっ!?」

「馬鹿かよ! これはダンジョンで得た力だっ、最初から持ってたものじゃねぇっ!」


 ガキィンッ、ガキィンッ! とつんざくような音を響かせながら、俺達はちゃんばらに見せ掛けた本気の喧嘩を続ける。


 火花が散り、反動で仰け反り、それでも尚食らい付く。


 大振りの横薙ぎを跳び跳ねて躱し、回転回し蹴り。


 ライはそれを首を捻って避け、返す刃でもう一撃。


 今度は両手の手甲で防御し、吹っ飛ばされることで敢えて距離をとろうとしたが、《縮地》持ちにそれは悪手だということを思い知らされた。


 まだ空中に居る俺を追撃するようにぴったり付いて離れないライに手を翳し、『火』と『風』の属性魔法の合わせ技……ただの熱風を食らわせて怯ませ、何とか着地出来た。


「まだっ……!」

「ちぃっ、往生際の悪いっ……!」


 諦めの悪い勇者は再度駆け出しながら『火』と『水』、『風』の弾丸を創造。それぞれ別々の角度と速度で飛ばしてきた。


 対する俺は爪を射出して刀身に魔力を通し、全てを叩き斬る。


 そこにライが到着したので、俺の方も横に走って再び獲物をぶつけ合った。


 経験差だろう。


 俺はライの獲物の刃が欠け始めたことに気付いていた。


 いつの間にか出来ていた小さなヒビも広がり出している。


 反対にライは俺ばかり注視していて俺の攻撃が剣を狙うものばかりになっていることにも意識が向いていない。


「やろうともしないで決め付けるなっ!」

「やらなくたってわかるだろうがっ!」

「「このっ……わからず屋がああぁっ!」」


 ガッ……キイィィンッ! 


 一際、大きな音が鳴り響いた。


 刃がボロボロになり、挙げ句に根元からポッキリと折れてしまった獲物に、ライは目を見開いて驚き、「だとしても!」と腕を振り上げて俺に向ける。


 勇者らしい莫大な魔力を糧に瞬時に現れたのは太陽のような極大の火球。


「っ、自爆覚悟かっ!」

「こうでもしないとお前は倒せないっ! 漸く理解したっ!」


 ならばと俺の方も一歩踏み出す。

 

 爆発させられるというなら……それより早く、それより鋭く差し込む!


 俺は強く地面を踏み締めると、万力のような力を込めて腕を伸ばした。


「はあああぁっ!」

「爆ぜろぉっ!」


 俺の拳は見事爆炎の中を突き抜け、ライの鎧を粉砕した。


 その衝撃で口からは赤い液体の塊を吐き出したのを最後に凄まじい爆発に見舞われ、視界が暗転する。


 熱くて痛い。


 顔中のパーツが痛い。


 鼻と喉が焼けるようで、手の感覚が無い。 


「かはっ、あがぁっ!?」


 どうやら吹き飛ばされていたらしい。


 俺はピンポン球のように何度もバウンドして転がり、最後に頭を強く打って止まった。


 霞む視界の中、どうにか辺りを見渡せば訓練場の地面が大きく抉れているのが見える。


 吹っ飛ばされた俺の身体で出来た跡。


 そう理解するのに十秒ほどの時間が掛かった。

 

 痛くない箇所がない身体を見下ろすと、焼き爛れ、炭化すらしている部位が幾つか見受けられた。


 爆発が直撃した右手の指なんか全部失くなってやがる。


 はは……痛い訳だ。


 手甲の方は黒ずんでるだけで済んでるってのに……


 そんな風に妙に冷静に納得出来るくらいには脳が揺れていて何も出来ない。


 あいつ俺を殺す気か、といった抗議の声すら出やしない。


 やがてマナミとアカリ、遅れてリュウとアリスがやってきた。


「ゆ、ユウ君っ! 酷い怪我っ……今治すからねっ!?」

「主様ぁっ!」

「うわぁ……」

「……随分、派手にやったなー。気は済んだか?」


 瞬く間に傷が塞がり、指が生え、一緒に焼け消えていた服までもが元の形状に戻る。


 【起死回生】。


 相変わらず馬鹿げたチート能力だ。


「ふぅ……」


 一息吐いて立ち上がろうとした俺の頬をマナミのビンタが襲った。


 バチィンッ!


 と、それなりに鍛えられたステータスによる暴力が再び俺を吹っ飛ばし、地面をゴロゴロと転がさせる。


 「は?」とか「え?」とか言う暇もなかった。


「ばかっ! ばかばかばかっ! 死んじゃうところだったでしょっ!? 何でそんなになるまで喧嘩するのっ!」


 涙ながらに俺を怒鳴り付けたマナミはサッと走り出すと、今度は遠くの方で似たような状態になっているライを治し、何故かそっちには飛び蹴りを食らわせていた。


「ライ君っ! ユウ君を殺す気っ!? 盗賊は殺せないのにユウ君は殺せるのっ!? 今のは私にもおかしく見えたよっ!!」


 親友のとんでもない罵声に俺は固まる他なく、せめてもの反応としてアリスに「お前、止めてくれるんじゃなかったのかよ」と小声で言う。


「……あそこまでバチバチの殺し合いするとは誰も思わねぇだろ」


 さもありなん。当然の返答だった。心なしかアリスの顔もピクピクと引きつっていて、本気で俺達に引いているのがわかる。


 こうなるんだったらジル様でも連れてくるんだった。


 ……いや、ジル様のことで怒っちまったんだから寧ろ逆効果か。


 けど、ここまで拗れたからこそ改めて実感した。


「ダメだな……俺達、わかり合えない……」


 俺の小さな呟きを聞いたリュウとアリスは何とも言えない顔で目を合わせている。


 マナミはライの頑なな態度に少しの疑問を抱いたようだったが、俺とライはとことん合わないことが証明された。


 きっと日本という平和な国に居たなら最高にマッチしていたんだ。


 この世界に来て、この世界に順応して……変わっちまった。


 その事実は俺を打ちのめすには十分な威力があった。


 それを裏付けるように、全快したライは尚も納得いかなそうな顔で俺の方を見ている。


 俺達の絆に亀裂が入ったような……


 そんな気がした。


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