第41話 方針
「「成る程。取り敢えずお前がイカれてるってことだけはわかった。……何だと? やんのかコラ!」」
「……仲良いねこの二人」
「性格が似てるしね。まあ、そんなに人と口調が違うってことはあんまりないような気もするけど」
割りと接戦……というより、ほぼ負けていたことが気に食わなかったとの理由でジル様に尻尾ビンタを食らった俺は修行を一旦切り上げ、情報交換と相成った。
屋敷でべらべらと駄弁り、平和な時間を謳歌する。
クソ雑魚のテメぇの為に新しい修行内容を組んでやるからちょっと待ってろ、と世にも恐ろしい銀髪竜人美少女に言われてなければもう少しリラックス出来たんだが。……てか何処行ったんだあの人。
「神様とやらに会ったのは良い。大分特殊な部類で転生出来ると聞いたのも良い。チートや産まれを選べたのもまあ許せる。けど、元は男なのに態々女にしてもらったり、モノホンの世界最強が既に居るのにリアル最強を目指してるわ、リアルハーレムを夢見てるわのアホにイカれてるとか言われたくねぇ」
「この世界に来て即そんな鬼畜みたいな修行始めて即順応して即変な扉を開いて気絶するほど殴られても平気な顔して……その上、人を殺してもその日だけ吐くってくらいで済んでる日本人の偽物みたいな奴にだけは言われたくねぇな?」
「「……あぁん?」」
「「どうどうどうどう! 喧嘩は止めようっ?」」
互いの胸ぐらを掴んでメンチを切り合っていたらリュウ達に止められた。元来、争い事が苦手なんだろう。
にしても驚いた。
何とこのTS野郎、獣人族らしい。
歳は俺達とタメ。前世でもタメ。つまり中身はオッサンな訳だ。
纏めると、元男の女かつ虎系の獣人族かつ最強とハーレムを目指して世界を旅してる中身オッサンの冒険者、である。
これで実際に強いし、ハーレムも二人くらい捕まえてるって言うんだから笑えない。多分、加減されてたしな。
つぅかこんなふざけた奴に負けそうになったのかと落ち込む。
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種族:人族
名前:ユウ・コクドウ
性別:男
年齢:17
レベル:52→68
職業:武闘士・狂戦士
称号:異世界人・召喚に巻き込まれた者・固有スキル所持者・悪の権化・闇魔法の使い手・並行職・勇者の友(極)・戦闘狂・力持ち・俊敏・賢人・詐欺師・変態・変態の極み
HP:1583/1583→2213
MP:1390/1390→1965
攻撃力:3601→5021
防御力:821→1030
魔攻力:1359→1916
魔防力:1358→1914
敏捷:3247→4987
耐性:1235→1841
固有スキル:【抜苦与楽】Lv2
スキル
《言語翻訳》LvEX
《身体強化》Lv5→lv6
《感覚強化》Lv5→lv6
《成長速度up》Lv3→lv5
《鑑定(全)》Lv5→lv6
《闇魔法》lv2
《狂化》lv2→lv4
《負荷軽減》lv7
《詐欺》Lv5→lv6
《演技》Lv5→lv6
《仮面》Lv5→lv6
《人心誘導》Lv4→lv5
《並列思考》lv4→lv5
《高速思考》Lv4→lv5
《記憶補助》Lv3→lv5
《集中》Lv5→lv7
《武の心得》Lv5→lv6
《怪力》Lv4→lv5
《金剛》Lv4→lv6
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自分にだけステータスを開示し、思わず溜め息を吐く。
割りと強い部類の筈なんだけどなぁ……。
後、誰だよ俺を変態だと思ってる奴。お陰で変な称号が付いてんじゃねぇか。
「~っ……ぶぅあっくしょん! ……だあぁ、久しぶりにくしゃみなんか出たな……」
全然オッサンじゃないモノホンの美少女なのにオッサンみたいなくしゃみをしながら帰ってきた人が一人。
「……何かめちゃくちゃオッサンみたあがあぁっ!?」
口に出したからかアリスが尻尾アッパーを食らって天井にめり込んだ。
ハッ、アホめっ。
なんて笑ってたら「お前もだ」としなった尻尾が飛んでくる。
俺は錐揉み回転をしながら壁を突き抜けた。
「ああぁぁっ、屋敷が壊れる屋敷が壊れる!」
「はぁ……毎回直してんの俺らなのに……」
ジル様じゃないだろうな俺のこと変態だと思ってるの。極めてねぇっつぅの。
とか思いながら席に戻り、お茶を啜る。
アリスも「いってぇ……」と頭を擦りながら降りてきて一緒にズズッ。
「「ふぅ……」」
「いやふぅじゃないよ何和んでんの君達?」
「何で建物の天井やら壁やらぶち抜いて平然としてんだこの子達……」
何はともあれ、全員が揃った。
「「……で?」」
「で? じゃないんだが?」
「……本当に仲良いね」
「どんだけ気が合うんだよ」
珍しくジル様にもツッコミを入れられた。気持ちいぃっ!
「…………」
人の心を読んで鳥肌が立ったのか、無言で背筋を震わせるジル様は取り敢えずスルーし、アリスに対人戦闘の何たるかを訊く。
「あん? んなもん師匠に訊けよ。目の前に居んだろ」
「肉体言語しか知らない新人類か人類じゃない何かにkwskなんて出来るか。見ただけで大抵の剣技や足技を模倣出来る天才だぞ。ぶち殺されるわ」
「まあ確かに。何で何となくわかんねぇんだとは思う」
「……な?」
口の悪い三人であーだこーだ言い合った結果、何故かアリスとジル様の二人がかりでボコボコにされることになった。
対人戦闘について聞きたかっただけなのに何で毎日の稽古にこの変態TS野郎が入るん? 俺、ボロ雑巾から千切れるまで絞られたボロ雑巾に昇格するだけじゃん。ただでさえジル様一人に粉砕骨折レベルの大怪我負わされてるのに……え、本当に何で?
目と心だけで必死に抗議したが、尻尾ビンタで黙らされた。
「ひんっ……」
「いや泣くなよ気持ち悪ぃ」
「気持ち悪いなぁ、泣くほどのことかよ」
「泣いちゃったよ……こんな大男の号泣は気持ち悪いね」
「可哀想に泣いてるじゃん……あと、確かに気持ち悪い」
「……お前ら血も涙もないわけ?」
あまりの理不尽さに鼻をすすっていると、アリスからもう一つ提案があった。
それはライ達のこと。
真面目な内容だったので改めて座り直し、耳を傾ける。
「人殺し程度で腑抜ける奴なんざ勇者だとしてもすぐ死ぬぞ。友達なら諭してやれよ」
いつになく……と言っても会って半日程度だが、真剣な顔つきだった。
二十年近くこの世界で生きてきた同郷故のアドバイスだ。
流石に重い。
「イクスに来て半年とちょっとしか経ってないし……ってのは言い訳だよな」
「たったそれだけの期間で人を殺しておいて平然としているお前も異常だが、その勇者も勇者だってんだよ。この世界の命は軽い。盗賊なんかやってたらそんな風に使われても文句は言えねぇ。罪にもならなかったろ?」
地竜騒動時の盗賊をエサにしたことを言ってるんだろう。
まあ……俺はジル様から色々聞いてたしな。常識とか暗黙の了解とかその辺もエナさんに教わっている。咄嗟だったとて、問題ないことを知っていたからこその行動と言える。
事実、国のお偉いさんや騎士、憲兵の事情聴取でも特に責められることもなかった。
「一応、夢に見るくらいにはダメージあったんだがな……」
「俺が初めて人殺した時なんかは毎日吐いてたし、毎日泣いたぞ。一ヶ月くらいは苦しんだ。周りには軟弱だなって笑われたもんだよ」
親にまで。
そこまで聞いて漸く納得した。
慰めるのでもなく、気に病むことを責める親、か。
「親も親だぜ? 当時は八歳とかそんな頃だし、貴族だからってんで俺や妹に面倒臭ぇことを押し付けようとすんだから。そりゃ家出くらいするっての」
アリスは貴族としての責務やら勉強やらが嫌で国を飛び出したらしい。
その際に色々と問題を起こして指名手配されてる、と。
獣人族と人族の国は非常に仲が悪い。その為、人族の国に居れば捕まることはないと踏んだようだ。
一応、ケモ耳を隠す魔道具みたいなアイテムを使ったり、尻尾を腹に巻くくらいの擬装はしてるっぽいけど。
聞けば聞くほど普通の貴族の親だ。
普通の親が十歳にも満たない時期の子供に人殺しをさせ、あまつさえ責めてきた。
逆に言えばそれほどまで常識的なこと、ということ。
あの襲撃が政治的なものなんじゃないか、ライ達に最低限の覚悟を持ってもらう為だったんじゃないか、なんて思ってはいたが、思いの外現実味を帯びてきた。
「ま、あ……あいつを諭すのは賛成だ。才能に胡座をかいて、ろくに鍛えてもない。お前さんが一緒に説教してくれんなら良い薬になるだろうさ」
僅かに考え込んだ後、そう結論付ける。
「俺も同郷の同年代がその若さで死んだとなりゃあ後味が悪いからな。しゃあねぇから手伝ってやんよ」
何だかんだ善人ではあるんだろう。地竜討伐にも一役買ったと聞いた。
そうして新たに出来た友人と親睦を深めつつ、その日は「おい何寝ようとしてんだコラ」と人の姿をしたナニカに肩を掴まれ、全身血まみれの青アザだらけで泡吹いて気絶するまでしごかれて終わった。
翌日。
ショウさんは用事があるとかで抜けたが、リュウとアリスを連れてライ達の元にやってきた。
場所はこの街一番の高級宿屋。
人通りも少ないし、立地も十分。三階建てと珍しい建物で、庭まで綺麗に整備されている。
「うへぇ……高そう……」
「稼いでる側の俺でもこんなとこ泊まらねぇぞ」
「ま、まあまあ。イクシアから手当てみたいのが出てるんでしょきっと」
物価や紙幣の価値を知っているので青い顔でそこを通り、受付へ。
事前にアポを取っていたからか、ライの部屋に案内された。
「「「広っ」」」
俺達の屋敷並みの間取りだった。
本当にただの高級宿屋かと聞きたくなるくらい無駄に広い。ベッドもまさかのキングサイズ。
奥のソファーみたいな長椅子にはマナミとトモヨさん達が座っており、使用人のように部屋の隅で待機しているアカリの姿もある。
「あー……ひ、久しぶり。それと……いらっしゃい?」
出迎えは当然ライ。しかし、地竜の件で口論にまで発展したせいで互いにギクシャクしてしまう。
「……邪魔する」
「お、お邪魔しまーす」
「っすー」
陽キャっぽいアリスまで気まずそうに入り、軽く自己紹介。
「こちら、冒険者の先輩兼転生者の同郷の……」
「アリスだ。アンタが勇者様だろ? たっはー、随分な色男じゃーん? そっちの姉ちゃん達もよろしく! 外ではアレンって呼んでくれなー」
「あ、う、うん……よろしく」
アリスが皆と握手している途中、何となく壁の方を見たところ、マナミのものらしき下着や服が干してあってギョッとしてしまった。
ついライ達と薄ピンク色の下着を二度見し、ライ達もライ達で俺の反応を見て「え? うん? 何かあった?」とそちらの方に顔を向け、硬直する。
こ、こいつら……俺が死ぬ思いして特訓してんのにそんな仲に発展してたのかよ……!
そんな戦慄が走った。
ライ達は途端に赤面して俯いた。マナミに至っては顔を隠して座り込んでいる
「は? は? は? え……処す? 処す? リア充は処そう? 僕、この二人、許せない」
「お、落ち着けリュウ。後、何で後半片言?」
「へー可愛いパンツ穿くじゃん。あれ? ブラは?」
遅れてリュウ、アリスが続いたことでマナミは「うわあああぁんっ、見ないでぇっ!」と洗濯物に飛び付く。
これにはトモヨさん達も気付いてなかったらしくドン引きの表情。アカリは無表情なのに何処か生暖かい目をするという器用な顔で見ている。
何とも締まらないこのやり取りこそ、俺達の対話の始まりだった。




