第3話 不調
数分後、イケメン君が光った。
うん? とか思うかもしれないが、マジで光った。
俺も固まった。
何か魔王のこと聞いて感情が昂ったらしい。
人って昂ると光るん? という疑問はさておき、プンプンしてる内に体内の魔力が反応したとかなんとかマリー王女は言っていた。
イケメン君の全身から発せられた金色の光は俺達の居る空間を神々しく照らしており、非常に眩しかった。
それがまた何とも名状し難い、気色の悪い光で……俺は何故かその光を浴びた直後から吐き気と悪寒に襲われていた。
我慢出来ないほどじゃないが、兎に角不愉快極まりない。
質問を続けようとして思わず口を押さえて膝をついてしまうくらい気分が悪い。
「っ……」
とうとう頭痛までし始めた。
ズキンッと一際強いのが走ってからじわじわ広がり、挙げ句には身体の方にまで痛みやら不快感やらが流れていく。
震えが止まらない。
何かに対しておぞましいと感じたのは初めてだった。
雷達はそんな俺に気付かず光り続けるイケメン君を見ていて、マリー王女達は歓声を上げている。
「こ、これは……? この光……僕の身体から出ているような……?」
「素晴らしいっ……これが《光魔法》っ……魔を払う究極の力……! 何という輝きでしょうっ……主よっ……神よっ……感謝致しますっ……!」
何か重要そうなことを言っているのはわかるが、まるで頭に入ってこない。
ただ、《光魔法》、魔を払う、という言葉は聞こえた。
寒い。
痛い。
気持ちが悪い。
頭の中はそれだけで埋まり、まともな思考すら出来やしない。
今時インフルエンザでもこんな不調はないぞと内心毒を吐きながら何とか立ち上がる。
恐らくだが、ステータスにあった《闇魔法》が原因だろう。
ほぼ確実に勇者である奴と真逆の力を持っているらしい俺。
ゲームとかで言う属性的なものなら良いが……
と、そこまで懸念したところで光が収まり始め、付随するように不調が消え始めた。
漸くイケメン君の昂った感情が落ち着いてきたようだ。
「はっ……はーっ……はーっ…………ふーっ……!」
いつの間にか息まで上がっていた。
ぜぇぜぇと肩で息をしつつ、クリアになった思考が戻ってくるのを待つ。
余程顔色が悪かったんだろう。
癒野さんが何の気なしに俺の顔を見た次の瞬間、サッと顔色を変えて近付いてきた。
「だ、大丈夫黒堂君っ? 真っ青だよっ?」
「あぁ、何とか……」
「……変な感じがする光だったな」
一緒に寄ってきたライも顔を歪ませていた。
俺とは違い、苦痛だったという訳ではなさそうだが、眉をハの字にして何か考え込むように俯いている。
「変って?」
落ち着かないのか、腕を擦っている雷に対し、癒野さんが首を傾げる。
「引っ張られる、ような……?」
共鳴という言葉が脳裏を過った。
酷く嫌な予感がした。
ライに肩を支えてもらい、癒野さんにはハンカチで大量の冷や汗を拭われる。
周囲は誰も気付いておらず、それほどイケメン君の出した光は重要視されるものであることが窺える。召喚者の方は単純に驚いていて余裕がなかったんだろう。
少ししてイケメン君の光が完全に消え失せ、俺の不調もピタリと息を潜める。
二人に感謝を伝え、平静を装うように体勢を戻す。
「申し訳ありません、私、つい興奮してしまいましたわ。……一先ず答えは保留で構いません。今日の今日で結論を出していただくのも急ですしね」
魔王討伐に関する返答のことを言っているらしい。
恥ずかしそうに口元を隠したマリー王女は軽く咳払いして場を改めると話題を変えた。
「では……これから皆さんのステータスを確認させていただきます。ステータスオープンと唱えてください」
思わずズッコケ掛ける。
結局それが目的かよ。
聞けば念じると自分にだけ見える形で出て、唱えると他の人にも見えるように出るという。
召喚というの名の誘拐で戦力を補強しようとするような集団がYES以外の答えを認める筈ないだろうに……と、つい疑うような目を向けようとして抑える。
「おおっ! やった! 僕が勇者だ!」
「えっ、勇ったら勇者なの!? 良いな~……。え~と私は……何々? あらっ、私も中々強そうで良いじゃない!」
「ふーん……魔法戦士ねぇ……」
「うぅ、私に務まるとは思えないステータスで怖いですぅ……」
「何だぁこれ? オタク共がやってたゲームみてぇだな」
ステータス画面を見た召喚者達は揃って一喜一憂していた。
イケメン君はやはり勇者で、取り巻きもそこそこ優秀ということで貴族や兵士達に褒められており、早瀬は早瀬でステータスの半透明な板をツンツンしようとして触れられずに「ほーん」と頷いている。
その横では若いサラリーマンが口をあんぐり開けて硬直。オタクは他の人間のステータスと自分のをチラチラ見比べて、「えぇ……これでどうしろと……?」と小声で驚いており、こちらの人間に失笑されている。
綺麗に優秀組とそうでもない組で分かれたようだ。
「えっと……これって……」
「はい? あぁ、拝見致しま……ああっ!?」
雷のステータスを見たマリー王女がすっとんきょうな声を上げて驚いた。やはり勇者だったらしい。
「真の勇者様がお二人もっ……!? な、何ということでしょうっ、神は我々を見放した訳ではなかった! あぁ……全ては主の御心のままに……!」
「「「「おおおぉっ!」」」」
再び号泣しながら手を組み、跪き、祈るように天を仰ぐ彼女に続く形で貴族達が次々と同じポーズをとっていく。
それは異様な光景だった。
俺達の知る大人達からは遠く掛け離れた、理解の外にある行動。
流石に護衛の兵士や騎士達は跪きこそしなかったが、やはり同じように泣き、祈っている。
中には石で出来た床に頭を打ち付けて流血し、それでも尚「ありがとうございますありがとうございますありがとうございます!」と言い続けている人まで居る。
不気味だった。
これにはイケメン君達ですら引いていて、言葉を失っていた。
この反応……マジで人間の存亡が懸かってるのか、はたまた全員が狂信者の類いか。
俺達は早速、異世界らしい歓迎に圧倒されていた。




