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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第35話 【等価交換】


 今までの剣士スタイルとは全く別物の新装備。


 当然、慣らしが要る。


 ジル様の戦闘狂欲に付き合わされたこともあって多少は馴染んだけど、一方的に蹂躙された程度じゃあ……ってことで、いつものメンバーを集めた俺は初心者用ダンジョンの最奥まで来ていた。


「そういや、ショウさんの【等価交換】ってショウさんにとって同じ価値のもの位置を入れ替える能力っすよね? 謂わば瞬間交換……みたいな」


 対象の取り替えには両方が視界に入っている必要があり、同価値云々はショウさんの価値観が基準。


 また、特殊な使い方として望んだものの価値と同等の物や所持金、魔力を代償に生成も可能。


 色々と条件はあれ、物体の取り替え能力と物質の創造……まあチートスキルだな。


 とはいえ、本人的には不服らしく何とも複雑そうな顔で頷く。


「それだけだよ。職業が商人ってのも合わせて協力することは出来ても、若い皆と一緒に戦うことが出来ない。あんな……半強制的な契約は単に召喚に巻き込まれただけの俺としても面白くないしね」


 どうやらイクシアの魔王討伐について言っているようだ。


 実情は兎も角、他国どころか異世界の子供を誘拐、拉致して戦争の道具になれ、言うことを聞かないなら……と半ば脅しに近い状態の依頼だったし、一人の大人として認められるものじゃないんだろう。ま、俺なんか理不尽に殺されかけたしな。


 で、素質と能力的に、十歳近く年下の俺やリュウが前面に出て……魔物の群れに突っ込んでいるのに対して自分は後ろから槍で突くくらいしか出来てないことを気にしている、と。


 前者は簡単に引き受けた勇者達が悪い。後者も適材適所で済む話だが、感情の部分で受け付けないと見た。


「せめて戦闘向きの能力なら良かったんだけどねー」


 そう言って苦笑いする人生の先輩である元リーマンの横を駆け抜け、視界の先から現れた数匹のゴブリンを爪で裂く。


 盾よりも柔いそれらは血飛沫と共に幾つかの肉片と化すと、空中でダンジョンに吸収されて消えた。


「……これだよ。俺には今の魔物達すら感知出来ない。君達にとっちゃ随分と情けない大人だろうね」


 俺の新装備とその活躍っぷりを見てからずっとこの調子だ。正直、ちょっとウザい。


 三十にもなってない若造も若造とたまに自虐して見せるくらいだし、余程これまでの異世界生活が気に食わないらしい。


「要するにショウさんは役に立ちたい訳だ。……リュウ?」

「えっ、ここで僕に振るのっ? ……あーはいはいわかったよ、わかったから睨まないで怖いから」


 …………


 睨んだつもりはないんだが。


「道端で目が合った子供には泣かれるし、大人には先ず目を逸らされるし……本当、こんな目つきに生んだ親を恨むぜ……」

「えっと……じゃあ提案なんですけど、人と人を入れ替えるっての戦闘で使えません?」


 内心で号泣しながらリュウの案に賛同する。


「ん、良いなそれ。例えば防御力の低い俺が攻撃を受けそうになった瞬間に《金剛》を発動させたリュウと場所を入れ替えて凌ぐとか、結構応用が利きそうなイメージ」

「俺が同じ価値に感じる必要があるから……まあ君達二人は仲の良い友人だと思ってるから出来なくもないだろうけど、戦闘中に急に位置が入れ替わるんだよ? 危なくない?」


 思わぬ反論を食らった。


 俺達の頭で思い付くくらいのことは考えてたっぽいな。

 

 実際、命が掛かってる殺し合いの最中に急に視界や場所が変わるのは怖いどころの話じゃない。


「何回かメイドさん達で試してみたんだけど、お互いの向きや視界、その時の姿勢も入れ替わるんだよね。余計使い辛いと思う」


 つまり、互いに互いが向いていた方を向いてしまうし、目を閉じてたらその状態も付属。その上で片方が剣を構えてたりしたら盾を持ってても同じポーズになると。


 確かに乱発は出来なさそうだけど、使い方とタイミング次第な気もする。


「どうする? 練習するか? お前をぶん投げてサッと入れ替えれば俺が超速度で敵に突っ込めたりとか俺が囲まれた時に取り替えてお前を囮にするとか戦術は広がるぞ」

「あっはっはっ、面白い冗談だね。……最近、僕の扱い雑過ぎない? この前も僕を足場にしたよね」


 冗談混じりの発言にジト目で返してくるリュウ。慣れたもので背後からグギャグギャ言いながら近付いてきたゴブリンの棍棒を見もせずに盾で受け止めて押し返し、壁に叩き付けたところをショウさんが突き殺す。


「良いだろ別に」

「いや良いけどさっ、人権忘れないでっ? 確実にジルさんの影響受けてるよっ?」

「び、ビックリした……よく話しながら対処出来るね君達……」


 余裕はあっても命の駆け引きをしていたことに違いはないので、緊張や不安も当然ある。


 その証拠に少し開けた場所に出ると、二人は「休憩休憩っ」、「やっと休める……」と各々自由に座り出した。


 へーへー見張りは俺ですかそうですかと溜め息を吐いて壁にもたれ掛かる。


「物体の生成の方はどんな感じです? 飲料水とか食べ物とか」


 流石に食糧の創造はチートが過ぎるか? なんて思いつつのふとした質問だったが、その返答に俺はあんぐりと口を開けることになった。


「ん? 両方とも使えるよ? 水どころかお湯も出せるし、ジュースも出せるし、風呂に入りたいと思えば浴槽ごとポンッって感じ。食べ物の方も俺が食べたことのある料理なら熱々ホッカホカのが出せたよ。まあ最初は地面に落っこちたけど」


 はい?


 は……い?


 何て?


 俺とリュウはそれを聞いて硬直し、ギギギ……壊れた機械のように首を動かして互いを見つめた。


「……それが本領の能力じゃね?」

「間違いないね……」


 オマケ程度だと思っていた。


 聞けばその代償も微々たるものらしい。


 ちょいと念じるだけで地球で見聞きした物体の創造が可能と。


 やば過ぎるだろ【等価交換】……やべぇ。マナミの【起死回生】並みだぞ……。


 つぅか何で当の本人がわかってないんだよ。こっちの食糧問題をたった一人で、しかも最悪金目のものじゃなくても魔力だけで解決出来る能力だってのに。


「あー……当事者だし、言っとく……?」

「いや、う~ん……いやっ……ん、ん~……?」


 リュウと二人で「え? 何? 何の話?」と本当に何もわかってなさそうなアホ面してる仲間に悩み、打ち明けることにした。


「えっと……この世界の水は基本的に飲めないっすよね? こんな文明の遅れた世界じゃ日本と違ってちゃんとした衛生管理なんてしてないし」

「ってことはですよ? ショウさんが生成する物体は別世界や別の場所から交換してきたものじゃなくてショウさんが能力で無から創造したものになる訳で……」

「ふむふむ……無から有の創造って考えるとカッコいいよね、それだけだけど」


 ……ダメだ、まだわかってない。


 本当に大人かと疑ってしまう純粋っぷりだ。


「回りくどいかもっすけど、じゃあ言い方を変えるっすよ? マナミが何で国から手厚く扱われてるかはわかりますよね?」

「え? う、うん……あの子の【起死回生】はレベル次第で触れずに不死の軍団を生み出したり、食糧危機を解決出来るようになる最強の支、援……能力で……あっ」


 そこまで言って漸く気付いたようだった。


 【等価交換】の能力ではマナミと違って不死の軍団を作ることは出来ないし、対価は必要。


 しかし、逆に言えば対価さえ払えば食糧も物資も何でも補えるということ。


 これが殺し合いやら国同士のいざこざの絶えないこの世界でどんな意味を持つか。


 いや、一人の人間の能力としてどれほどの価値があるか。


 その事実に気が付いたショウさんの顔はみるみるうちに青くなっていき、静かに訊いてくる。


「こ、これがイクシアに知られたら……?」

「確実に自由とは程遠い人生になるでしょうね」

「マナミもそうだけど、他の国や組織からも狙われるようにもなるよね」


 今より城に拘束され、今より存在を隠蔽され、何より今より暗殺や誘拐、奴隷化の危険が増す。


 それこそ確実に。


「そうとわかれば最低限の強さの確保の他に足場の形成、手を出し辛い環境を作ったりする必要がある、か……」

「か、バレないように隠居するとか? 商会を立ち上げて各国に支援するのも良いかも。……まあ死の商人みたいになるかもだけど、失うよりかはお互いで奪い合ったり、利用し合ったりしてる方が利益になるしさ」


 座っているのに倒れ込んだショウさんを尻目に軽くリュウと思案しながら忠告する。


「【等価交換】の真の能力の秘匿……これは絶対っすよ」

「公表するにしてもユウが言うように身の安全を確保してからです」

「お、おーけーおーけー……理解、出来たよ……」


 ガクガクぶるぶると震える姿はチワワのようだが、まるで可愛くない。


 その様子に肩を竦めた俺はそんな深刻な空気を霧散させるように提案した。


「ま、そんなことより。……なあショウさん? 俺達、こっちの飯には飽き飽きしてるんだ。俺は米が食いたいよ米。味噌汁とか和食系を……さ」


 やってることは催促。


 しかし、腹が膨れれば頭も働く。


 それも日本の食事と考えれば余計に何とかしようという気力も湧いてくる。


 リュウも同様に思ったのだろう。


「ハンバーグ! カレーライス! ラーメンにチャーハンにオムライス! 牛丼! ピザも食べたいし、コ○ラも飲みたい! マッ○にしようよ○ック!」


 目をキラキラさせてそう叫んだ。


 ショウさんは放心した後、呆れたように笑って承諾。


 目の前の問題はさておき。


 俺達は久しぶりに日本人の口に合うよう調整された日本食にありつけることが出来た。


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