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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
最終章 異界戦国時代編
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第311話 冷たい現実

遅れたくせにまーた長くなってもうた……(´・ω・`; )


「……以上のことが国境付近で起きた惨劇の全てである。報告では村人は全員死亡。子も女も老人も残忍なまでに斬り殺されたという。似た事例は大陸中に広がっている。それらが私の責任でないと断ずることは出来ない……否、寧ろ大半は私が殺したと言っても過言ではなかろう。戦乱の世を謳ったのは私なのだから。しかしッ!」


 魔都の中心、広場にて。


 元々リヴェインら要人が使っていたという演説用の壇上で、俺はいつの日かを再現するように声を張り上げていた。


「何処かの狂人が弱肉強食論を掲げたからとっ、軍人が民間人を襲撃して良い理由になるかっ!?」


 恐怖の奴隷(テラースレイヴ)隊への鼓舞同様、政治的アピールは必要不可欠。


 魔族は揃いも揃って魔王(ムクロ)信者だ。トカゲ達の調査だと全体の六割は俺に賛同しているらしいが……実際のところはどうだかな。


 俺の視界内に入ってる都民はそいつらの中でも関心がある連中。見回す限り、顔つきと視線から敵意や悪意、憤怒の感情が嫌でも伝わってくる。


「魔族と獣人族を大陸の隅に追いやった元凶っ、聖神教徒こそターイズ連合の中核である! 身勝手な正義と教えとやらを盾に人狩りを楽しんでいた狂信者共が我等を喰い尽くさんと牙を研いでいる今っ、民は飢え苦しみっ、賊に堕ちるより他ない状況下にあるっ!」 


 警備兵が目を光らせているというのに、だ。


 それほどまでにムクロを追いやった俺を憎んでいるということ。


 それ即ち、ムクロへの忠誠心や親愛の証。


 説得材料は現実を見聞きさせるしかない。


「治安の悪化から各地に派遣された軍人の多くはその悪意に飲まれ、同類となって我が領土にまで足を伸ばし出した! 私に出来たのはこの都への避難勧告程度っ、魔都防衛に集中せねば多くを守れないからだ! その結果が村での惨劇なのだ! ではこの差は何かっ!?」


 それは有能な人間の頭数だ、と俺は語った。


 『絶対法』もなければ嘗ての聖神教のような優位性もない。信仰も薄れた。肝心の連合の戦力はライ一人に一点集中。聖女ノア、『天空の民』の女王ロベリア、その他王族も奮闘しているようだが、やはり手が足りない。


 そも全員、目指しているものが違うから瓦解を始め、ロベリアらに頼りきり、逆にロベリアらはその重さに沈みつつある。


 それ故、末端の軍人だって飢えてくるし、信仰心や慈愛の心(笑)よりも目先の感情、欲望を優先する奴等が出てくる。


「だから私を支持しろと言うのではないっ! これを聞いている者の中には被害者家族も居るだろう……親兄弟に子っ、親戚っ、祖父母から友人知人っ、良き隣人っ、商人や兵士達っ! どれだけの人間が犠牲になった!?」


 ルゥネが居れば一方的な流布や反対意見の聞き入れも出来よう。


 帝国の技術、その王の能力……謂わばアイツは俺のロベリアだ。


 が、何処かのクソッタレ共のように頼ってばかりでは結局同じ道を行くことになってしまう。


 『付き人』の不在が『絶対法』の崩壊に直結しているように、誰か一人の穴が致命的なのは明確な欠点。少しくらいは払拭しなくてはな。


「私が知る限りではエルフやドワーフといった例外以外、人族の領土で魔族を見かけたことはない。それの意味するところは説明せずともわかるな? 先日、我々と同盟関係を結んだ獣人族に至っては大半の国で奴隷扱いを受けている。不快、不気味、鬱陶しい、気持ちが悪い……これらは眼球や耳、鼻、尾に鱗を戯れに切除された理由だという」


 これ見よがしに欠損レベルの大怪我を負っている奴隷達を呼び、俺の後ろに立たせると、大きなどよめきが走った。


 戦場や現実を知らぬ者にはさぞ衝撃的だろう。


 子供も居れば赤ん坊も居る。


 女であれば乳房や尻が欠けた者も。


 老人も含め、悲惨なのだと完全なダルマだ。


 回復魔法や回復薬を以てしても治せなかった者達……


 何なら顔のパーツを全部溶かされた奴までいる。


 自分達が感情的でいるからこそ、生々しい傷痕や死んだ目、顔は効く。


 如何に正確な歴史が伝わっていようと、見るのと聞くのでは雲泥の差。


 それを証明するように、連れていた子供、恋人、家族の視界を隠している奴を結構な割合で見かけた。


 向こうも俺の視線に気が付き、顔を逸らそうとしていた。


「目を背けるなッ!!」


 奴隷達の前で拳を震わせ、血を滲ませ垂らし、ギリッ……と歯軋りをしていたレヴィの代わりに俺が吠える。


 怒気と殺気、《威圧》を全方位に向けた弊害で、体感八割以上の連中が腰を抜かしていたが、『圧』をそのままに続けた。


「これが現実だっ! これが奴等のやり口だっ! この冷酷さが我々に向けられているのだっ! 他人事じゃないんだっ、攻められればお前達の誰か……あるいは全員が似たような目に遭う。良いか? 脅しでもなければ警告でもない。私……()というイレギュラーの有無も関係ない。客観的かつ普遍的、殆どの人族の心に根差した真実だ」


 地球の文化で言うと、今はアジア人が最もカーストが低くて、差別されるんだっけか。


 向こうでも唾を吐き掛けられるだとか差別用語のオンパレード、中指を立てられる、理不尽に怒鳴られる、襲われるだとか色々あるが……


 文字通り、世界が違う。


 奴隷制度がある上でここまでされる……どうだろう、俺が知らないだけで歴史上、あるいは今も存在している可能性は大いにある。人類史は果てしなく長く、人間とはそれだけ業の深い生き物なのだから。


「無論、全ての人族が悪人ではなかろう。食うにも困れば気持ちはわかる。そして、嘗ての同志国シャムザでは対等の存在として、頼れる仲間として助け合っている獣人達が居た。同胞のアリスもそうだ。腕っぷし一つで冒険者として成り上がり、地位を確立していた。〝力〟を認めさせれば『例外』はある」


 そう、例外は。


「俺が紛うことなき悪人であるように、軍人が敵国からすれば人殺し集団であるように、冒険者が魔物からすれば仲間殺しであるように、平和を望む諸君らの中に復讐の機会を狙っている者が居るように……全ては物の見方と〝力〟が関係している。訳のわからん理屈で人をこうも痛めつける聖神教徒も向こうの価値観では受け入れられる、それはそれは素晴らしい文化なのだ」


 だからこそ、と改めて心の仮面を被り、強く言う。


「そういう一部の人間を本当の意味で一部にする。()が他国に攻め込み、侵略を続ける理由はそこにあるっ」


 地球の例だって一部だ。全員じゃない。心に余裕がない奴や荒んでる奴、肌の色、年齢、親の資産しか誇れるもののない人間……それらか他の何かで勘違いし、態々他人に突っ掛かろうとする人間がいつだって他者を傷付ける。


「重ねて言わせてもらう。敢えて好け、称賛しろ、手を取れと言うのではない。告白しよう。正直、私はオークが苦手だ。生きたまま喰われた経験があってな。ハーピーはラミアが怖かろう? エルフとドワーフは犬猿の仲だろう?」


 めちゃめちゃ噛み砕いて言えば『一々喧嘩することなくね』ってこと。


 そいつが何かやらかしたとかなら話は変わるけど放っとけよ、みたいな。


「だが、その心根は果たして殺すほどか? 他者を切り刻み、焼き、嬲って弄ぶほどか? 道端で目が合ったら殴りに行くか? ヤれそうだからと襲う理由になるか?」


 答えは否。頷く奴はその時点で異端だ。多分、そいつがもう同種、同じ種族の中で変わってる奴だ。


 ま、それだって例外はあるだろうが、こっちも一部だろう。差別されたから仕返ししてるだけという反骨精神も見方によっては忌避される。


 先に剣を抜いたくせして、戦争は何も生まないだとか負の連鎖を断ち切ろうなどと言ってくるバカが今じゃ連合のトップで、それと戦う俺を否定する奴等も居るくらいだ。


「我々は獣でもなければ魔物でもない。崇高な人間と自称するのも違う」


 しーんと静まり返った大衆を相手に、大袈裟に見渡して疑問を投げ掛けた。


「だが、向こうはどうだ?」


 イカれた言動は遥か昔の歴史から明らか。


 その産物も見せ、経緯と原因も聞かせた。


 今度はそれに対する反論を打ち砕くターン。


「話し合えばどうにかなる? 武器を持つから刺激する? 敵国扱いをする考え方が野蛮? 態々、攻める必要はない? ……少しでもそう思えるのなら是非ともこの憐れな獣人共や国境の村で惨殺された住人達の亡骸に同じことを言ってくれたまえ」


 答えは沈黙ってな。


 誰一人、声一つ上げやしない。


 老若男女、種族問わず、見渡す限りの人々は口を噤み、顔を歪めていた。


 そりゃそうだろうな。


 彼等に一体どんな罪があったか、と訊いたようなもんだ。


「前王……我等が敬愛する魔王の和解交渉は既に蹴られた。何もしていない獣人族はこの様。国を守る為の策や物の考え方にケチを付けられるくらい暇な奴は戦場に招待して差し上げよう。放っておいて肥えさせれば攻められるのはこっちだ。仕事は幾らでもある」


 次いで、戦争の原因のそのまた原因にも触れる。


「所詮は対岸の火事と日和見して現状維持を望み、ゆっくりとした腐敗を受け入れたのは諸君だろう? 罪があるとすれば歩みを止めた全ての人類種の怠慢だ。その為の『絶対法』……その為の侵略、その為の戦争と理解してくれ」


 謂わば独立運動。


 以前なら建国戦争に近かったが、誰もが国を興し、滅んでいく混沌とした今なら。


「私のような腫瘍を、癌を取り除き、種族全体とそれを後押しする者の地位を向上させる為にはこの戦国時代を駆け抜けなければならないのだ」


 恒久和平を真に望める者、子供のように無垢な者、永くを生きた者、機械のように無慈悲な者こそ……。


 そう思ってしまうのは理想が過ぎるだろうか。


 少しセンチな気分になりながら、覚悟を伝え切る。


「私、魔帝が率いる軍隊が大陸の統一を成し遂げた暁には魔王閣下が『世界の王』の座に付く。組織は解体され、リヴェイン卿ら旧魔王軍へと再編する予定だ。このような事態に世界を、民の皆を巻き込んでしまった咎は受けよう。煮るなり焼くなり、好きにするが良い」


 ケレン爺が言っていた通りだ。


 誰かがやらなきゃ……手を汚さなきゃいけなかった。


 だから。


 再度、決意を固めた直後、勇猛果敢にも兵士の一人が挙手しながら意見してくる。


「し、しかし陛下っ! 『絶対法』は強き者が手に掛けられるほどの人口の少なさを要する! 陛下はそこまで人族の数を減らすおつもりか!?」


 装備からして旧魔王軍。


 緊張か恐れか、汗びっしょりの青年ケンタウロスに、俺は心の底から感謝した。


 よく言ってくれた、と。


 故に、「当然だ」と毅然とした態度で、短く返す。


 続けて、最後の仕上げとばかりに両手を広げ、想像を促した。


「ハッキリ言おう。諸君らの平和ボケは元を辿れば前王、他国の王族、貴族、議員に首相、聖神教徒の特権者……所謂、時の支配者達が長らく停滞を続けていたことに起因している。上がバカだと下までバカになる典型例だ。腐ったミカンと言っても良いかもしれないな」


 人族よりも寿命が長い種族にはそれがわかる筈。


「何をしてもどうせ変わらないからと諦念に身を委ねる者……血税を糧に富を我が物とし、栄え、争いと差別を生み、育む者……」


 人が持つ悪性、生温い湯に浸かっているが故に冷めきっていく意識は非常に緩慢で、それを言ってもわからない奴にはわからない。


「世界はっ、小さな一進一退を繰り返すばかりで何も変わらなかったっ! 否っ、訂正しようっ、人族だけが無駄に肥え続けた! 何故かっ!?」


 これに関しては完全な否定だ。


 俺の突然の咆哮に応えるようにして敵意が復活し出したのも無視して叫ぶ。 


「優しくも怠惰な王を支持し、脳死で付き従った人間が居たからだ! 声を上げずっ、逆らわずっ、被害を恐れて抵抗運動の一つもして見せなかった臆病者共のせいだっ!」


 俺が抜いたのはこの場の全員に突き刺さる刃。


「そんなだからっ、狂信者共の増長を招くっ! ゼーアロットという異常者の台頭を許すことになるっ! 私のような異端者を吐き出すことになるっ!!」


 無差別に心を斬りつける魔剣。


「人の歩みとは叡知の共有であり、継承である! 今ある当たり前の知識や技術は過去、それらを築き上げた先人達の努力と命あってのもの! 素晴らしい成果だっ、賛美されるべき偉業だっ!」


 変則的に軌道を変え、あらぬ方向からも攻撃する。


「しかしっ、更なる進歩の道を模索せずっ、本来過去の過ちを再び犯さない為の歴史書すら偽造しっ、争いの種にするっ……そうやって、いつまでも下らない戦争を続けようというのだから、いっそ滅べばいいと思うのは仕方なかろうっ!?」


 当事者は誰で、今までみたいに放っておけば誰が困る?


「猿の時代からやり直そうではないかっ! 余計な禍根も柵もないっ、文字通りの平定だっ! 全てを抹消しっ、生み出したまっさらな世界っ……争う余裕すらないほど疲れきった世界をっ……人類の歴史をっ……一から修正し、やり直すッ!!」


 こんな馬鹿げたことを抜かす奴が何でこんな馬鹿げた地位に居て、ここまで言われなきゃならない? 誰がこんな奴を認めた?


 俺が示唆するところの一片までの理解は及ばずとも、そんな風な想いは……火は焚き付けられたように思う。


 大陸制覇、統一を成せば国という垣根は消え、種族間の距離は否が応にも縮まる。奴隷としてしか見てなかった者を隣人として受け入れさせれば軋轢や衝突はあれ、戦争はもう懲り懲りだと同化していく。


 しつこいようだが、勝っても負けても『今までとは違う』と『反撃もしてくれば侵略もしてくる対等の種族』だと認識させられる。


 つまりは戦争すること自体に意味がある。


 そうわかってもらえれば良いわけだ。


「クハッ、クハハハハッ……クハハハハハハハッ! 殺せるものなら殺したまえっ! さすれば貴様が魔帝だっ! 魔族と獣人族の行く末を握る新たな王の誕生だっ! なぁにっ、心配せずともこの憐れな元奴隷共は『例外』さ! 俺が言ったのも全部嘘っぱち! 妄想の類い! 誰もここまでされんっ、安心して食っちゃ寝しているがいいさっ! 馬鹿正直にそうと思えるのならっ、責任は取らんとなぁっ!?」


 暴動が起きそうだったからと机を壇上ごと派手に叩き割って見せたのが仕事をしたかな。


 それまでの静けさは何処へやら。


 最後の最後を高笑いしてぶち壊し、華々しく締め括った俺はそれはそれは激しいブーイング、物の投げ込み、属性魔法の嵐に見舞われ……


 その尽くを軽く往なし、とばっちりを受けそうだった元奴隷の連中やレヴィらを義手で守ってやりながらその場を後にした。









「で、パーティー?」

「らしいね」

「あれだけ好き勝手やって?」

「文句は無しじゃね?」

「この料理なんて《鑑定》で毒物反応あるけど……」

「「「それくらい黙って食え (ですぞ)」」」


 メイ、アリス、ジョン達と、仮にも王様に対して何たる態度か。


 都を上げての親睦会と言うが、お祭り騒ぎがしたいだけだろうとジト目を返す。


「死刑だなっ、よしっ、死刑!」

「うん、ユー君がね」

「おお……怖や怖や、反抗者は一族郎党殺されちゃうー」 


 もう既にわちゃわちゃガヤガヤと喧騒に満ちた宴会場。


 両膝に乗ってきたエナさんとレヴィに頬をツンツン、ぐりぐりされて睨まれる。


「大将っ、見てたよ! 相変わらず頭のネジがぶっ飛んでんねぇ!」

「おっ、フェイ、帰ってたのか。よーしよしよしよしよしよしよしよしよしっ」


 ムクロに申し訳ないからだろう。場所は城ではなく、魔都一と名高い食事処だった。


 戦場から戻ってきていたお気に入りの熱い抱擁と熱烈なキスを甘んじて受け入れ、頬が緩む辺り、俺も酔ってるらしい。


「にしてもユウちゃん、意外とウケてたな!」

「にゃはははっ、ですにゃあ! 流石にヒヤヒヤしたけど、杞憂だったにゃ! いやぁっ、良かったにゃ良かったにゃ!」


 顔の赤いアリスといつになく上機嫌な副長のミーシャも同様。


 その理由は……


「おーい王様魔帝様よぉっ、口先だけじゃねぇってとこまた見せてくんねぇかいっ?」

「へへっ、こんろは飲み勝負で……ヒック……一気飲みの勝負でさぁ!」

「何!? ただ酒でクソ王と喧嘩だぁっ!? 誰か酒ぇ強い奴連れてこぉい!」

「偉そうにっ、お前が行け!」

「そーだそーだっ!」

「この無礼もんがっ、『絶対法』の裁きを受けんぞー! がはははっ!」


 先程から陽気に話し掛けてくる周囲の客……都民達。


 と言っても荒くれや兵士、傭兵が主で、場所取り時の揉め事と昼間から何度か来てる襲撃の仕返しで来る奴来る奴をボッコボコのボロ雑巾にして外に投げ捨ててるのが面白いようで、恐れたり、怒ったりすることなく接してきている。


「あ、あのっ……狂魔帝様っ、これ良かったら……!」

「私もっ、頑張って編みました!」

「戦争は嫌だけど……そのっ、勝ってくださいねっ」


 たまにパッと現れては早口で捲し立て、ミサンガや防寒具みたいな小物を手渡してきたと思ったらキャーキャー言いながら消えていく女達もか。


 つーか誰が狂魔帝だ。自分からは名乗ってないぞ。失礼だろ面と向かってイカれ野郎なんて。


「モテモテだね……ユウ兄……?」


 エナさん達を押し退け、無理やり密着してきたフェイといちゃついてたら耳元で血涙を流さんばかりに顔を歪めたメイが居た。


「……怖ぇよ」


 久方ぶりにヒュッてなった。


「「「…………」」」

「ポッ、じゃねぇよ」


 俺の反応から触って確かめてきた三人のエロ娘をチョップで黙らせる。


「あいたっ。いやでも大事なことだよ?」

「ウチもリヴェイン卿に『貴殿には複雑だろうが、血縁は居た方が何かと良い。婿殿と獣人族の要職持ちか息災らに娘を紹介しよう』って言われちゃった」

「いつ死ぬかわからないんだし、本能の赴くままに種を撒くのも良いんじゃないかい? 上質な畑は幾らでもあるんだしさ」


 全然、黙らなかった。


 尚、そのリヴェインとケレン爺、トモヨの四天王組は城内でムクロの護衛、書類片付けの任に付いている。


 旧魔王軍と魔帝軍は戦力以外、政治的に分けなきゃいけないからな。


 あくまで前者はムクロと国の為の軍隊であり、後者の俺達は暴走した過激派組織。負ける気はなくとも、体裁は整えないと締まるところも締まらない。


「そうですよ、魔帝閣下?」

「あたしらとしても強い牡の子孫は欲しいしねぇ」

「大丈夫! 世継ぎ問題は起こさせないからさ!」


 脇のでっかい水路や天井、専用の足場からと人魚やらアラクネやらハーピーやらが尾をピシャピシャ跳ねさせながら、吊るした糸から降りてきながら、バサバサ羽ばたきながら言ってくる。


 他にもオークにオーガ、ラミア、ゴブリンとコボルト種まで居やがる。


 全員が知らん顔だ。体つき、顔つきからして軍人じゃない。


「うわっ、モンスターハウスだっ」

「「「「あ゛ぁ゛?」」」」


 ジョークを言ったら一瞬で般若が増殖した。


 恐れというものを知らないらしい。


 ……知ってたら俺んとこに来ないか。


「では私達はどうでしょう?」

「ちょっぴりちっちゃいけど……満足させられるよ?」

「同じく!」


 今度はエルフとドワーフ、後はハーフリング……か?


 アピールしてくるだけあって美人揃いに美少女揃いなんだろうけど、美的感覚というか人間の基準で見てるから異形種よりもこっちの方が好きだな。


 ただし、さっきからしれっと混ざってる野郎共とロリ、テメェらはダメだ。大体、子供云々って話だろうが。


「俺の好みは強い奴でね。精神的、あるいは肉体的に尊敬が出来る女じゃないと食指が動かん」

「おいおい何だ何だっ? 新しい王様はインポ野郎のくせに選り好みするクズ野郎かよ!」


 アリスが乗ってきてくれたので、「はい死刑! 確保っ、確保ーっ!」とおちゃらけると、店内がドッと盛り上がった。


 一見やべぇ王様が意外と庶民的で、他種族を本当に対等の相手として扱っているというのはそれだけで好む奴もいるんだろう。


 一応、前々から表明している、俺……つまり魔帝に関する悪口なら『絶対法』の処罰の対象にならない、という強調でもある。


 『例外』とかじゃなくて、そもそもそういうルールだから気にするな、的な。そりゃまあやり過ぎたら舐められてるってことだから処すんだが。


「ういぃ……あれ? そういやシズカちゃんは?」

「ぶひっ? 地上は煩いからと上空のディルフィンで待機してますぞ?」

「マジか……んだよ、狙ってたのに」

「下手に、『うっひょおっ、リアルロリ巨乳です口調病み系美少女最高っ!』なんて思おうものならゴミを見るような目を向けられるんですぞ。ゾクゾクしたんですぞ、ぶひぃ……」


 民とのコミュニケーションも一段落した頃。


 アリスとジョンの下世話な話をBGMにパッパパッパと提供される酒や料理に辟易とする。


「悪意を感じるラインナップだ……」


 何故か俺の前に置かれるのはひたすらゲテモノ系だった。


 精が付くからとか言って虫料理も多めだ。


「たんぱく質のつもりかこれ。後さっきも言ったけど、ちょくちょく毒入れられてんぞ」

「良いから良いから」

「一気っ、一気っ」

「うへぇ、この飲み物紫色だけど大丈夫かい? ドロッとしてるし、刺激臭するけど……」


 ドン引きしてるのはフェイだけで、エナさんは俺の子供の手を振らせて、レヴィは意地悪そうな顔しながら手拍子で煽ってきている。


 周囲の連中の奇異と窺うような視線もウザい。


「いやまあ食うけどさ……半分殺しに来てるだろこれ」


 見た感じ、即効性はないし、全部が全部盛られたものじゃない。多分、種族によって毒になるものが自己責任って形で出されてるんだと思う。


「ええいっ、ままよっ」


 南無三、と【抜苦与楽】をフル活用して口に運ぶ。


「うぐぅっ……!?」


 衝撃を受けた。


 ジル様と食った虫魔物の塩ゆで、塩焼きに比べれば何と美味いことか。


「……なぁ、ユウちゃんは何で泣きながら食ってんだ? 俺とレヴィちゃん持ちだろこの馬鹿騒ぎ」

「戦争に役立つほどじゃないけど……ってお金しかなかったしねウチら」

「シキ様も出資してるらしいにゃ。またちょっと潤ってきてた個人的な財布がすっからかんとも言ってたにゃ」


 違わい。


 懐かしさと舌のピリピリが致死性のものだってわかってうるっときたんじゃい。


 というか試し行為もここまで殺意が高いと複雑だ。


 いや、殺したきゃ殺せとは言ったけども。


 皆が皆、毒殺を試みれば誰が殺したかなんてわからないけども。


 飲み食いしてる最中に殺すのは色んな意味で不味いからって無差別が過ぎる。


 取り敢えず、明らかにヤバそうなのだけ俺が取って、腹壊すくらいのは放置。ついでにフェイ達にあまりよろしくないのも全部食ってやった。


「く、ぐるじぃ……死ぬ……」


 はち切れそう的な意味で口を押さえて呻く。


 仮面越しにはどう映るかな。


「うぅ……トカゲ、居たら逃げてく奴の尾行……それと関係者全員の首持ってこい……さっきの広場に晒してや……うっぷ……」


 気前良く、懐に残ってた最後の金貨(ルゥネにもらったお小遣い)を後ろ手に渡して行かせた。


「……ボス、吐かねぇでくだせぇよ?」

「お、すげっ、こんな楽勝な仕事に良いんですかいっ?」

「流っ石魔帝っ、お金あるぅっ」

「殺しも遊びも出来て大金までもらえるなんて最高だなおいっ」


 ……今、四人居たな。一人だけ贔屓するつもりだったのに。あいつも優秀だし。良いなら良いけど。


 と、まあ。


 史上類を見ない反聖神教組織の頭領がそれなりに楽しく過ごしていれば悪いこともやってくるわけで。


「ほ、報告っ、報告ぅっ! 合流予定だった第三艦隊が連合の主力艦隊とおぼしき集団と接触し、壊滅。生存者はヴァルキリー隊のパイロット二人のみ、重傷とのこと! 方角をして帝都への進軍と思われたし、です! 至急、艦へお戻りください!」


 突如として飛び込んできた伝令に、一瞬で酔いが覚めた。


「何だって!?」


 同艦隊から先行して帰ってきたフェイが今にも泣きそうな目で俺を見てくる。


 責めてるんじゃないとわかっていても、また犠牲が出てしまったという事実は変わらない。


「っ……」


 密偵はルゥネの能力で処分済み……となれば運か?


 帝都の守りは全体の⅓かそれ以下の戦力。


 ケツに火が点いた状態で何の情報も得られないなら先ず()を取るだろうと思っていたが、足場を狙ってきやがった。


 『天空の民』の観測技術だって艦の内部や城内までは見れない筈で、覗き見対策はしていたというのに……。


 内心の疑問と焦りがぶつかり合って広がる。


 が。


 拳をグッと握って気持ちを押し殺した俺は口元を隠すように仮面の形を変え、立ち上がって言った。


「チッ……何かありゃ直ぐこれだ。行くぞお前ら。戦争の時間だ」


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