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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
最終章 異界戦国時代編
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第305話 崩壊と決裂

遅れました! 何かちょっと視点がごちゃごちゃしてるかも&来週はお休みかもです!


 旧聖都テュフォス。


 亡者の反逆(デッドリベリオン)によってイクシア同様壊滅的被害を出したその都は事実、多数の死者と損害を被っているが、違う点もある。


 一つは『核』の使用を未然に防げた点。


 必然的に土地そのものにダメージはない。降り注いだスカイアークの破片、倒壊した建物群を撤去し、再び人が住めるよう復興しさえすれば自ずと生産力を持てるようになるだろう。


 そして、もう一つは壊滅的なだけで千人規模の生存者が居ることである。


 大質量で押し潰された地区、その余波で吹き飛んだ区域は都の中心。聖神教に関する施設は軒並み瓦礫の山と化したものの、外縁部は防衛用の外壁ごと残っている場所があった。


 怪我人や地位の高い者は優先的に救助された為、既に姿はない。


 そこで犇めき合っている大勢の人々は連合国からも『天空の民』からも受け入れを断られた、謂わば貧困層。家族や友人といった人的資源に家も仕事も失った者達。


 最早、取り繕う余裕すらないターイズ連合からすれば体裁的に放っておくことも出来ず、かといって物資支援をしようにも見返りがなく、聖地だからと優遇しようものなら各国に睨まれるというジレンマへの片道切符に等しい。


 誰からも疎まれ、やっかまれ、しかし、何処へ行くにも足もなければ戦力、ツテ、役立つ技術すら持たない聖都民が信仰心を捨て、腐っていくのは時間の問題だった。


 だからだろう。


 それを知ってか同情か、あるいはストレスの捌け口としてか、以前は隠れて開くことしか出来なかった酒場の数々は嘗てないほど繁盛していた。


 元は世界の中心とまで謳われた聖都とて金の概念すら怪しい現状。色街のような側面や酒などの娯楽品が優先的に届けられている事実を内包しているのはある種の暗黙の了解として成立したようだった。


 故に。


 後ろ暗い者は寄り付き、身体を売って生計を立てる者も集まる。それらを食い物にする悪党に野盗の類いも。


 その日、その時、その店でもボロ布を纏った、まるで浮浪者のような達が現実逃避するように水で薄めた安酒を呷っていた。


「おい聞いたかっ、復興に年単位掛かるんだとよっ、バカらしいっ」

「んなもんに金使うなら俺達を助けろってんだ……」

「クソッ、俺達はあの聖都の住人だぞっ」


 飲酒自体、本来あまり褒められたものではないが、そこは人。多くの信者が見て見ぬふりをし、顔を隠して通っていた憩いの場は今では際どい服装の女や少年が闊歩し、声を荒げる客の相手をする場所に成り下がりつつある。


 店員が荒くれ者なら客層も悪い。出てくる料理も酒も品質は最低。それでも人が集まるのは情報の売買や共有に打ってつけだから。

 

 そして、それでも抑えきれないものはある者達にとって乱闘騒ぎは日常茶飯事。それどころか娯楽の一つとして昇華しつつあった。


「何だとこの野郎っ、もう一辺言ってみやがれ!」

「耳が悪いのか? テメェの女かガキを寄越せとーー」

「ーーぶっ殺す!」

「始まった始まった!」

「今度はどいつだ!?」

「おーっ、良いぞーっ!」

「もっとやれー!」


 店側も売り物にさえ被害が出なければ寧ろ客寄せに丁度良いと放置しており、それを肴に飲む者、ギャンブルにする者、参加する者、巻き込まれる者、更にはそこらかしこに見受けられる怪しげな薬物のやり取りをしている者や恥ずかしげもなく行為に耽っている者……その全てが嫌っていた帝国人を彷彿とさせる蛮性を見せている。


「ったくっ、『メサイア』とかって連中は何だってこの都に来やがらねぇっ。俺達に救いはねぇのかっ?」

「次の支援はいつだっけ?」

「昨日の聖騎士様、気前良くて助かったわー。何にもしてないのに恵んでもらっちゃったっ」

「それ、もしかして白髪の人? お偉いさんだったんじゃないの?」

「信心深い人って皆髪白くなるよね、あれ染めてんのかな?」

「勝手にああなるらしいよ」

「げっ、こいつ病気持ちかよ!?」

「しょーがないでしょ、『聖』魔法を使える人は皆どっか行っちゃうんだしさ」

「あの……誰か僕か弟を買ってくれる人居ませんか? 食べ物か水さえ恵んでもらえば何でもします……」

「し、しますっ」

「ひひっ、ここの客は良いねぇっ、金持ってるからスリ甲斐があるっ」

「お、おいお前っ、後ろっ!」

「へっ? 何がぁっ!?」

「金の代わりに槍はどうだい旦那? あ? 挿れることはあっても逆の経験はないかい?」


 嫌でも届く喧騒は例え音だけでもその様子を伝えてくる。


 その中には連合が拾い切れない情報が行き来することもある為、身分を隠して密会を望む者達には隠れ蓑にも情報源にもなり得る。店の隅でフードを被ってボソボソと話していた三人組もそういう者らしかった。


「あ、あの者達はっ……何て破廉恥なっ……!」

「全員を救えれば良かったんだけど……」

「うわぁ、あっちの半裸の人なんてシスターで……そこでストリップショーみたいなことしてるのはまさか聖騎士? 位が低いのかな……ていうか何なのこの変な色の照明。何だか外国のイケナイお店に入っちゃった気分……」


 絶望から成る荒んだ心が言い様のない怒りを呼び、貧困から成る余裕の無さが道徳という名のタガを外させ、先程まで隣に居た者の死が明日は我が身だと恐怖を植え付ける。


 その三人にはそれらが感じられない。恐らくは外の人間なのだろう。


 死人からの追い剥ぎや崩れた建物からの窃盗、殺人すら派遣された連合兵に見つからなければ許される旧聖都。


 魔帝の掲げた〝異界戦国時代〟の皺寄せだろうか。外界から来たらしい者達は嘆くように話していた。


「繁栄以外になかった我等が美しき聖都がこんな……こんなっ……」

「……今や色んな理由で故郷を追われた人達の場所になってるなんてな」

「ユウ君が見たら掃き溜めって笑いそう」


 人が内に秘めるどす黒いものが少しずつ漏れ出て包み込んだような暗い気運と雰囲気は当然人が増えるごとに勢いを増す。


 何処から流れてくるのか、眉唾物の噂も。


()()、奴等が出たらしい」

「……例の二人組か。どの辺りだ?」

「北とこの辺だっけかな」

「紫炎纏いし黒き鬼神と雷光纏いし白き天神……」

「それぞれが単騎で連合軍と魔帝軍の両方の艦隊を沈めて回ってんだ、組んでるんじゃねぇ。大方、両陣営の懐刀ってとこだろうさ」


 それは裏の人間らしい者達が語る、人知れず小規模艦隊を壊滅させる二人の人間について。


「なにっ? それじゃ上の奴等、軍部と他に分かれたのかよっ」

「何やってんだこんな時にっ」

「しっ、声が大きいっ……あくまで伝聞だ。こんな話、軍じゃ出来ないだろう?」

「発足時の無理やり感が今になってって感じだな……」

「聖騎士連中も銃やらMMMが出てくれば今までの偉そうな態度は何処へやら、これじゃその内、軍人によるクーデターも起きるんじゃないか?」

「……それ、強ち否定出来ないかもしれんぞ。俺んとこ、上官もそのまた上官も最近はずっとピリピリしてるからな……あの感じ、戦争前と似てやがる」


 それは鬱憤の溜まった連合兵が語る真実について。


「教祖様がご無事という話は本当なのか……?」

「『メサイア』が匿ってるとか」

「うーむ喜ばしいことだが、こんな惨状ではな……」

「この前もどこかの街が独立宣言したとお聞きしました」

「村は殆ど賊になってるんでしょ?」

「独立ってあれか、金を貯め込んでた道楽貴族が私兵を募って建国したっていう」

「……どこも似たような話ばかり……主よ、我々は一体どうすれば……!」


 それはこんな時でも信徒であり続けられる者達が語る風説について。


 三人のフード付きは途端に口を噤み、互いをジッと見つめ合った。


「「「…………」」」


 スキルを使わなければ取捨選択して集められないそれらの情報は少なくともその内の二人が初耳なものが多かったらしい。


「今の話はーー」

「ーー知らないね」

「マナっ……いや、それより軍は精鋭化するってっ!」


 ガタッと立ち上がる者と素知らぬ素振りで顔を逸らす者、声量を上げる者とで分かれた。


「っ、す、すまないっ……」


 範囲は付近に限られたものの、注目を浴びてしまった為、一人が代表して頭を下げると、周囲の客の視線も消える。


 フードの中に白い髪と白い瞳を僅かに覗かせた青年は溜め息と共に口を開いた。


「はぁ……ノア、今は抑えてくれ。神様は……何も解決してくれはしない。人が起こした過ちは人が正さなくてはいけないんだ」


 その仰々しい物の考え方が気に入らなかったのか、睨むように顔を向き直した若い女も「ふん……」と鼻で笑って返す。


「そういうナルシズム、私は嫌い。きっとロベリアが居たら同じことを言うと思う」


 それに噛み付くのは最初の青年と同じく白い容姿をしているらしい女。


「……先程から誰それならどうなどと、『再生者』としての自分はないのですかっ?」


 声のトーンこそ控えめだが、強い心情が乗ったセリフでもあった。


 さながら秘密の会合。


 再度集まった視線を気にするように改めて姿勢と態度を正した彼等はその周囲同様にコソコソと話し始める。


「じゃあ……それぞれ一つずつ情報を交換していこう。他の二人が知っているものなら別のものを出す感じで」

「……それでそっちが良いのなら賛成かな」

「賛成します」


 そんな前置きの後に。


「先ず最初は俺が。ユウ……魔帝シキは奪った領土から全ての奴隷を受け入れている。奴隷にした民衆じゃなく、元から奴隷だった人達だね」

「それくらいは知ってるよ」

「その噂が広まったことで反発が起き、ほぼ全ての国に悪影響が出ています。あの者が余計な希望を抱かせるから……」


 各々、感情を出しこそすれ、もう食って掛かることはなかった。


「ふむ……それならその元奴隷を鍛えた特殊部隊や混血種部隊については?」


 と、更に踏み込み。


「そういや機甲軍について何か知らないか? 何でもアンダーゴーレムと魔導戦車? を組み込んだ歩く砲台の軍隊が魔帝軍で使われてるらしいんだが……」

「何だそりゃ、MMMを安易小型化生産したものか?」


 隣の席で話していた『天空の民』達の話題も拾う。


 もう空島に縛られるのは嫌だと各国に散ったせいか、珍しさもない。


「今の話、帝国の領土からローラー作戦だって。試験的に使ってるんじゃないかな。これがこっちの諜報部が集めた勢力図。ノアちゃんが持ってるのと交換で見せてあげる」

「っ……考えることは同じですか」


 内容が内容なこともあり、時間はあっという間に過ぎていく。


 朝日の光が店内に入ってきたことでハッとした三人は最後の話題へと移った。


「マナミ……今からでも手を組まないか? 連合とメサイア、俺達が一つになれば……」

「まだそんなこと……呆れるねライ君。私達、もう数年でアラサーだよ?」

「……定義的には25じゃなくて27からじゃ?」

「どっちでも良いっ。そうやって何でもかんでもつつける無神経っぷりが今の世界を呼び込んだんでしょうがっ」


 客が減ったからか、各自の名前や浮き出る立場も出している。


「軍事力を高めつつ平定していく魔帝軍に対し、連合の足並みはついに崩れました。今や頼みは『天空の民』の女王ロベリアのみ……」

「だから? 元凶は長年の差別意識や宗教観……アカリちゃんは人族だったのに拷問のごっこ遊びに使われてたんだよ。戦争は終わらない。暴れてる人達も断罪するしかない。ユウ君がいつか言った通りでしょっ、綺麗事じゃ世界は変わらないって……」

「それなら……君はどうするつもりなんだ? 助けるだけでは現状維持にもならない。根本的に解決しないと……」


 その会話が大きな亀裂になったらしい。


「は……? それってユウ君を殺すってこと……?」


 一人……否、マナミが唖然としながら、声を奮わせながら言い、ライは毅然とした態度で返した。


「あいつの言う理屈はケダモノや魔物のソレで……俺達は人だ。俺達だけでも……俺だけでもあいつを否定してやらなきゃ人々に希望は与えられない」


 結論としては嘗てと同じ。


 だからこそ、マナミは耳を疑うように首をカクンと曲げた。


「はぁ……?」

「わかるだろ、これ以上戦火を広げるわけにはいかない。ミサキやマリー、聖神教、立場を抜きにしても親友として、事の発端者として、俺は……」

「秩序を取り戻す。この一点だけを見ればロベリアも我々も一致しています。貴女もそうなのでは?」


 二人の詰まるところを聞き、交渉は決裂。


 最早、聞く価値もないとさっさと歩き出す。


「ま、マナミっ」

「まだわからないのっ? ユウ君もライ君もお互いがお互いの大切なものを軽視してるのに小を切るしかないって考えだからっ!」


 ライ達が無理に追おうとしないのは良心から、立場から。


 仮に力付くで押さえ付けたところで彼女は手を貸さないと知っているから。


「根本的に見てるものが違うならどうしてお互いの見えてないところを補えるって思えないのっ……人と人っ……それこそ今の私達が手を取り合えば何年、何十年、何百年後だって共生の道が生まれてくるかもしれないのにっ……!」


 店の外から僅かに届いた言葉に対しても、否定的なことしか言えないようだった。


「だからって……それはあいつの凶行を許していい理由にはならないだろ……ゼーアロットの絶望に則って自らの悪意を撒いてっ……他種族も人族も大多数が世界の意思によって憎み合わされてる無実の人達なんだぞ……」

「……主の導きに関係無く、人死にが増えすぎました。これでは古代人の二の舞でしょうに」


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