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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
最終章 異界戦国時代編
331/345

第302話 無意味な対話

それぞれの決意表明で丸一話……話が進まぬ……(´・ω・`; )


『何てことをっ……何てことをしてくれたんだっ、ユウッ!!』


 ヴォルケニスブリッジ内。


 天井からぶら下がる巨大スクリーンに映し出された映像の中から怒声が響き渡る。


 白い髪は未だに違和感が拭えないものの。


 殺気が漏れ伝わんばかりの怒りを露にしている輩の顔は人生の半分以上を一緒に過ごしてきた()親友そのものだ。


「あ? 何ってなぁ何だ? ハッキリ言えハッキリ。そういう態度が自分(テメェ)の配下を付け上がらせるんじゃあねぇのか? 報告だともう動き出してるって話だぜ。違うかい? 聖女なんだか聖騎士なんだかの真っ白女さんよ」


 負けずと言い返せば初耳だったのか、ライはバッとその勇者らしからぬ形相を隣に居たノアへと向け、対照的にノアは顔を背ける。


 仮にも正式な夫婦がこれだ。


「どう隠したって金や物資の動きは隠れきれねぇんだよマヌケ。パレードしてお助けマンやって女娶ってりゃ良い? 何でもこなせる『最強』の職業であり、世界を救うと予言された勇者様が? ハッ、馬鹿馬鹿しい」

『黙れ! 論点を逸らすなっ! 今はそんなこーー』

「ーー違ぇ馬鹿。アホかお前。義務教育の敗北だなこりゃ。今言ったろ。そういう後手後手に回る軟弱さが人を腐らせるってんだ顔だけの低能野郎」


 俺達が何をしているかと言えば……


 一応は正式な会談通信。


 決して俺の口の悪さを披露するような場ではない。


 現に向こうは崩壊しかかっている連合の長足るライ(仮)とその女共(ノア含め)、『天空の民』の女王ロベリア、他にも比較的発言力のある連合の官僚達。ヴォルケニス側にはルゥネを始めとした魔帝軍の各トップが勢揃いしている。


 話を聞いてるのか聞いてないのか、でっかい欠伸中のアリスや獣戦士団の副隊長、先日無理やり俺の妾にしたレヴィ、それと画面越しにリヴェインら魔族の代表といった面々の姿もだ。


 まあ……シャムザ王のナールや『海の国』のちょびが居ないのはお察しだが。


「解決に力を注ぐのはいつも事が起きてから。それも皆に意見を聞いて結束してから。最も気にするのは一時凌ぎの策。抜本的にゃどうこうしない。そのくせ何かあれば文句ばかり、責任逃ればかりで自分じゃ何もしやしねぇ。随分とご立派なんだな、勇者様。えぇおい?」


 お里が知れるととことん見下してやると、他の奴等も騒ぎ出す。


『でえぇいっ、黙って聞いていればっ!』

『閣下、今すぐにでも攻め込むべきです!』

『民の暴動など後でどうとでもなりましょうぞ!?』

『ら、ライっ……私は……』

『悪化()()()治安、秩序の回復を理由に侵略し、領土を拡大……古代技術と知識を広め、新たな統治者を置いて支配下に……貴方の行為は尽く私のやろうとしたことに沿っています。それも亡命者の知恵ですか?』


 わちゃわちゃ、わちゃわちゃ。


 軍関係者やどっかの王族の女、名も知れん商人ギルドのトップ、ノア、ロベリアが一斉に口を開いたので音が割れて半分も聞き取れない。


『皆は静かにしててくれ! これは俺とユウの話だっ……!』


 唯一、手で制止しようと必死なライの声だけは明瞭で、燃料を追加してやる。


「ほうっ……仮にも国と国……勢力と勢力の話し合いのテーブルをあくまで個人的な会談だとっ? これはこれはっ……ならば是非とも昔話に花を咲かせようではないか。学生の頃さっ、お前喧嘩ばっかだったよなっ? 今じゃ聖人だ、勇者だなんだと祭り上げられてるけど、キレると真っ先に手ぇ出す危険人物だったのになっ? お、そういやマナミとはヤったのかっ? どうだったっ? 意外と胸あんだろアイツっ、イクシアで一緒に訓練した時思ってたんだよっ、なぁっ!?」


 鼻で笑い、かと思えば寄り添ってやり、録画、録音()の会話を続ける。


 俺の印象は最悪で良い。元より悪の権化として道化を演じる必要がある。


 だが、奴は? 連合軍は? 為政者よろしく正義の味方様には余計な(しがらみ)が付き物だ。下手なことは言えない。


『お前はっ……そうやって人の荒んだ心を煽動し、戦争の時代を作ったっ! 何が目的だッ!』


 言い返せないから声を張り上げ、向こうの連中が一番気になっている点を突いてくる。


『俺達は協力し合えたじゃないかっ、仲間だったじゃないかっ! 一時的にでも手を組める相手を何故陥れようとするっ!?』


 詰めは甘いから意味ないけどな。


「ふむ……ゼーアロット討伐の最終局面で艦を下げた聖神教徒様は流石言うことが違う。強制的に組み込まれ、下っ端として参加したにも拘わらず特攻をしかけ、多大な貢献をもたらした小国の方々にその信心深さを分けてやったらどうなのだ?」


 口調を変えこそすれ、艦長席で偉そうにふんぞり返って足を組み、左拳で頬を支えながらの返答。


 態度は兎も角、『神の為なら命を捧げられるんじゃなかったの?』、『実際に犠牲にしたのは?』、『お前らは何してたん?』という嫌味は突き刺さる。


 顔を歪ませたライが何かを言おうとしたので被せるように声量を上げる。


『そ、それはーー』

「ーー今でさえっ。……今でさえ、そんな優秀な軍人を輩出した国々や支えとなる小国国家が苦しい税を吐き出してる中、肝心の連合軍は戦争準備に明け暮れていると聞く。いやはや感服してしまうな」


 画面内で、『ノア、本当なのかっ?』、『私は止めましたっ』、『止められないことが問題だと彼の男は語っているのでは?』と内輪揉めしてるのは無視だ。


「世界の平和を願っておきながら、戦争を望む我々を謗っておきながら、やることは大多数の民を虐げての軍備増強か……おや? これでは我々と変わらないな? 我々は最低限の統治措置はしているが……そうかっ、ならば我々の(いくさ)は神が認めた聖戦か! そうかそうかっ、やはり我等の掲げる終末論は正しかったっ! となると……そんな我等、魔帝軍を否定するということは神への冒涜ではないのかね?」


 煽りに煽ったが故、激昂を越え、まるで信号機のように顔色を変えていく連合の連中と俺に周りはドン引き。


「うわぁ……ボク、こんなに引いたの初めてかも」

「ユウ兄ユウ兄っ、やり過ぎだよっ」

「めっちゃ楽しそうで草だわユウちゃん」

「滅びの戦争待った無しにゃ……」

「これが魔帝……私のっ……んっ……お、王様……はぁ……はぁ……!」

『あー……婿殿? そろそろ……』

『断っておきますが、魔帝閣下? 私達、旧魔王軍は反対の立場であることをお忘れなく。魔族の総意は貴方個人の身勝手な野望に非ず……ただ平和に生を全うしたいだけなのです』


 大半が青ざめてるのに途中変なのが居たのとトモヨの保守声明も努めて無視。


 ……レヴィはマジでどのタイミングで変な扉開きやがったんだ? 何か日に日に俺を見る目に興奮が混じってく気がするんだけど。


「ふぐっ……し、失礼しました、わっ……ふふっ……」


 つい漏れた内心の声に、隣に控えていたルゥネが堪え切れず吹き出してしまったので本題に入る。


「まあ……そんな俗事などどうでも良い。……で? 態々人を寄越し、時間を取らせ、通信用のアーティファクトを用意させ、このような場を設けさせたのは下らん戯れ言を吐く為か?」


 正直、会った奴から順にぶん殴るって決めたやべぇ奴に何言っても無駄だと思う。


 俺に至っては殺戮や粛清、浄化と言えるレベルのことをしようとしている訳だし。


 とはいえ、対話を望む人間を無下にするのは違う。


 本能ではなく理性……知性を持った上で自分達の理屈を掲げて戦っているという大義は貫く必要がある。


 あくまで俺達は前魔王ムクロの融和政策を蹴り、今の今まで続く戦争の根源となった差別意識そのものに怒っている立場。


「元を辿れば……人が人を嘲り嗤い、上下の差を付け始めたのが元凶である。ここまで拗れてしまったのなら一度全てを破壊し、改めて新たな統治を敷くのが定石だろう。私に近い思想を持つロベリア殿ならわかってもらえると思うのだがな」


 言外に、『いや俺のこと責めるのは良いけど、隣の女王様は? 人のこと言えなくね?』と返してやると、ライではなく、その本人が肩を竦めて言ってくる。


『考え方はわかりますが、貴方や前魔王は所詮人の子。どれだけ崇高な理想を掲げた強者だろうと人の身である以上、いずれ綻びが生まれます。我々のような上位生命体に管理されて初めて人は己が欲を捨てられるのです』


 以前と重なる部分があるからか、ムクロのことも含めての内容だが……


『亜人は人ではないから亜人と呼ばれていることを知らないようですね。我等が主の祝福、魔法を使えぬ獣人に魔物と変わらぬ容姿の魔族……飢餓の時代に人を喰って見せた残虐性……我々の教えは真に正しい。現に魔帝シキ……貴方は今こうして戦争を引き起こしているではないですか』

『宗教とは……人の意思、心だ。それを瞬間的に変えることは出来ない。人は何かに縋らなければ生けていけないのだから。ゆっくりと変えていくべきところをお前はっ……この世界の大部分は人族の土地なんだぞっ』

『戦争屋の言うことなぞ!』

『その為にどれだけの人間が犠牲になると思っているっ!』


 管理しきれてない最たる人間達が口々に続いてくるので説得力は皆無だ。


 先ずノアは論外。キッカケはお前らだろっつってんのに始めたのはそっちだなんて話にならん。


 ライの理屈は聞こえが良いだけ。そのゆっくりで虐げられるのはこれまで通り他種族の人間。土地云々も強奪されただけで元は違ったと他種族の歴史書には書かれている。


 他も同様だな。聞く価値もない。


「……取り敢えず、文句があるのは一致でよろしいかな? では代替案を要求する。今すぐにだ」


 わーわーと煩かった奴等はたったそれだけの言葉で口を閉ざした。


「紹介が遅れたな、こちらの女性は我が伴侶の一人。獣人族の次期長レヴィだ」


 急に呼ばれたことでビクッと肩を震わせ、目を見開いていたレヴィだったが、王族というだけあって即座に動揺を隠し、片膝を折って頭を下げる、獣人族独特の挨拶をして見せる。


「知っての通り、私は魔族の安寧と帝国の繁栄を願っている。彼女はそこに自分達を入れて欲しいと〝力〟と覚悟を示した。ならばそれに応えるのが魔帝と名乗った者の義務だと思わんかね?」


 予め説明すると言っていただけあって近くに寄ってきてくれたので肩を抱き、他の奴を巻き込んで言ってやった。


「彼女ら獣人族とこの通信に参加しているリヴェイン卿ら純粋種の魔族、女帝ルゥネら帝国人……その全てを害さず、納得させ、笑顔にしてくれる案があるのだろう? それでいて世界中の人間が平和に、幸せに、何の痛みもなく暮らせるようになる画期的な方法があるのだろう? 私としても他に平和的な解決策があるというのなら是非ご教授願いたいところだ」


 俺の発言を機に訪れた沈黙は耳が痛くなるほど静かで、誰かが咳き込むことも喉を鳴らすことすらない。


 そりゃそうだ。


 こいつらは『何の見返りもないし、迫害はするけど世界の主権返して?』とほざくアホ共なんだからな。


 愚かにもライただ一人を除いて。


『詭弁だ。そんなものがあるわけないだろう。連合の総意や一部の者の逸りはさておき、俺はこの世界の人々を救う為にここに居る』


 至極当然な返答を、俺は笑った。


「ほう、つまり小を殺して大を生かすと。お前らは昔から小なんだから黙って殺されろと。その大小を決めたのは我々人間様なんだぞ、と?」

『そうは言ってないっ! だが、事実としてこの世界の人口は半数以上が人族だ』

「殆ど死滅したか、これからするだろう? 種族割合は半々だと思うが……」

『させない為に諍いや侵略を止め、協力し合おうと言っている!』


 何と言うか……ホント、揃いも揃って政治に向いてないんだろうな、連合側の連中は。


 つぅかアレだ。先達のやらかしがデカ過ぎるせいで何言っても『いやいやいや』ってなるアレ。


「今は世界の危機だから過去のことは水に流せ。今は世界の危機だから協力しろ。今は世界の危機だから何もしてあげられないけど助けろ……か」

『何でそうなる!? 人命が懸かってるんだぞ!? その穿った物の見方で一体どれだけのーー』


 事実として云々言ってんなら、事実として人を亜人などと定義し、迫害の歴史を作り上げたのは誰だって話だ。


 相手の立場に立って考えられない人間に人をどうこう出来る器があるとでも言うつもりかコイツは。


「ーーさて、レヴィ。君に問おう。どう思った?」

「え゛っ」


 連合を代表する勇者を完全スルーして振られたレヴィは素で王族らしからぬ声を出して驚き、固まった。


「それでも、と言える精神は立派だろう。そう言い続けられる清廉さは美しいだろう。だが、()()()()()『未来を犠牲にして今を生きよう』と言っている彼等と『今を犠牲にして未来を生きよう』と言っている()……どちらが正しいと思う?」

「えっ……あっ……え、う、ウチっ? です、かっ……?」


 まさに狼狽といった様子で視線を右往左往させ、ビクビクしながら指先をツンツンツン。


 先程まで荒くなっていた息と熱い視線は何処へやら。


 どうやら襲撃事件で見せた気概は一過性のものらしい。


 感情が昂ってないと緊張や不慣れさが出てしまうタイプだと見た。


『ユウっ、何をっ!』

「今回の一件で獣人族は彼等の言う理屈で大事な国を踏みにじられ、大切な同胞を無惨に殺された。何を隠そう我々にだ。謂わば過去の歴史を繰り返されたわけだ」

「ぁっ……あうっ……」


 言いながら震える背中を撫で、頭や顎に触れて落ち着かせる。


 ゼーアロットが出した犠牲は人族だけに留まっている。滅亡したのも二次被害、三次被害が出たのも人族の国のみ。鎖国をしていた魔族は本国自体には何ら悪影響はなかった。獣人族もマスドライバーとやらを持ってなければ似たようなものだった筈だ。


 とどのつまり、余裕が残っている国は魔族と獣人族だけ。


 正直に言えば帝国だって攻めた領地の経営に手一杯というのが実情。


 ルゥネ達はこの機に世界の征服を成し遂げたい。


 魔族や獣人族は戦力の下がっている連合を今叩かなければやがて侵略される立場。


 俺はどうせ痛い目に遭うなら長期的にではなく、短期的に世界の膿を取り除きたい。


 各々の目的と思想を思えば自然とその答えは出てくる。


「口ではああだこうだ言ってるが……要は泣きつきたいんだとよ、こいつら。昔はパンも家も土地も人権も()()()()けど、今は色々あって腹減ったし、家も失くなっちゃったからまた頂戴? ってな」


 他種族から奪い続けてきたものを自分達よりも強い者に奪われたからって今更尻尾を振るのは醜い以外の感想が出てこない。


「で、も……ウチらの国、自給するくらいしか……」

「だろ? それも散々追い立てといて、悪かったの一言もなく、だ。そのうち、人手不足が~とか言い出して治安維持に使われるようになる。そして、いずれは差別意識そのものへの対応は出来ないから『使ってやってるんだ』って態度で接してくる。目に見えてこないか、そんな光景が」

『おいっ、言い方っ! 今は大きい火が消えたばかりで完全な火消しになってないっ……酷い怪我を負っている人が居るって話を何でそう歪曲する!』


 ライの怒りや後ろのガヤガヤよりも、俺の言っていることの方が現実的だってぇのは誰でもわかる。


「奴が言った火事に例えれば……どうせもう崩れ掛けてるとこはいっそ見捨てて別を救いたいのが俺だ。何せ獣人族のように火傷の痕が残ってる連中が居る。まだ確実に間に合う奴等が居る。わかるだろう?」


 資源は有限。無ければ奪おうとするのが人間だ。


 目の前で溺れ沈んでいくいじめっ子と近くで溺れそうになっているいじめられっ子、どちらを助け()()か。


 人の命は平等だとか道徳の話じゃない。


 目先の感情を優先すれば仮に条件が逆でもいじめられっ子の方を助けようとするのが大半なんじゃなかろうか。


 トロッコ問題に感情を挟めば救えるものも救えなくなる。


 だから。


 最初からその選択肢を奪ってやろうというのだ。


 レヴィに言った救いたいなんて言葉は事実、詭弁に過ぎない。


 地を這う全てを火で包み、食うにも困る時代を数年続ければ国家は崩壊し、土地は荒れ果てる。


 そうなれば人の心からは余裕が失われ、種族全体の憎しみと差別意識は自動的に、重ねて言えば平等に分配される。


 種ではなく、人として認識し。


 人ではなく、敵として憎むようになる。


 やがて疲弊すればいずれは敵から中立、味方へと変わっていく。


 奪い奪われ、殺し殺されの苦悶を経験した人間が死ぬまでそれに準ずるだろうか。


 答えは否だ。人は疲れれば手を止める。全員がその状態にまで陥ればその手を取り合う。


「全体数である母数……人族が減れば他種族に余裕が生まれると思わないか?」


 獣人族達の〝気〟が通用しないのはあくまで軍隊。古代の遺物(アーティファクト)を扱う人間に対してだけ。


 今現在の破綻した世界で、果たしてどれだけの勢力がその威光を維持できる?


『ユウっ、お前っ……! 洗脳は止せっ! レヴィさん堪えてくれっ、今は手を取り合わなきゃ生きていけない時代なんだ! ゼーアロットとっ……目の前の男がそうさせたんだ! わかるだろう!?』


 同じ共感や同意を求める声でも、前提が違えば取る手も選ぶ。


 何故なら今はまだ疲弊が足りてないからだ。


 まだまだ人を恨める余力が残っているからだ。


「っ……~~っ……!」

「黙ってろクソッタレ勇者。これはこの子にしか出せない答えだ。そしてその名はお前達が奪い捨てたものだ」


 庇うように言っていると、長らく考え込んでいたレヴィは静かに返した。

 

「ウチらが手を貸せば……同胞達は解放してくれるのか?」

 

 俺と同様の、肯定など到底出来ない言の葉を。


『も、勿論だ! 約束するっ! 俺が責任を取って奴隷を解放し、制度を変えてーー』

「ーー今っ……いま……さ、らっ……?」


 ロベリア以外の者が顔をしかめる中、必死にライが机上の空論を並べ立てる中。


 獣人族の次期女王は震える手で俺の手を掴んだ。


 鋭い牙を剥き出しにして、怒りを露にした。


「貴様ら人族はいつもいつもっ……! 自分達に都合の良い理屈をこね繰り回してきた俗物共の何処を信じろとほざくかッ! 口先だけなら何とでも言えるっ、恥を知れっ!」


 目に涙を浮かべているレヴィには悪いが……思わずニヤけてしまった。


 こんな時だからとすり寄り、こんな時でも人を変えられていない奴が責任とは笑わせる。


『なっ……け、けど、実際に困ってる人達が居てっ……君達は大して困ってないだろうっ?』

「クハッ、お前バカかっ? 今出来ねぇ奴が後なら出来ると言って信じられるか? 金がないから貸してくれ、頼む一生のお願いだって懇願してきた生粋のいじめっ子を心の底から信じられるのか? 教えだからと訳のわからない理由で人としての権利すら奪ってきた連中を?」


 ムリムリカタツムリの諦メロンってな。


 せめて後ろで物凄い形相してるノア達をどうにかしてから言ってくるのが筋だろ。


 口をパクパクさせたライをよそに、レヴィは覚悟を決めたように続けた。


「王様っ、ウチ決めた! ウチら獣人が今後恨み続けるのは憎き聖神教徒と加担を続ける連合の人間っ……王様のことも嫌いだけど……それ以上にこんな奴等許せないっ……! 皆はウチが説得するよ!」


 崩した口調こそ至って普通の少女。


 その正体はこの世界で最も忌み嫌われ、蔑まれ、人の道具として生きてきた種族の王族。


 そして更に……


 にこやかに、晴れやかに告げた内容はある意味での宣戦布告。


 リヴェイン達魔国本土やシャムザ、『海の国』がどんなに嫌がろうと、戦力は整った。


 これで大手を振って獣人族の戦士達を使えるようになり、更なる進撃が望める。


「……聞いたな? わかったならこの会談は終わりだ。我々は内輪揉めで忙しい連合とは違い、実のある仕事で忙しいんでな」

『はっ? ちょっ、待っ……話はこれだけじゃーー』


 それだけ言ってオペレーターに通信を切らせると、俺はブツンと真っ暗になったモニターの前ででっかい溜め息を吐いた。


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