第282話 一敗塗地
またまた遅れました!
内容が内容だけに書いては消して書いては消して、付け足しては消して前後させては取り止めてを繰り返してました。で、結局諦めてキリの良いとこで切るっていう。
なんで短めです( ´,_ゝ`)
サンデイラ艦内。
格納庫に通ずる踊り場。
『風』の魔剣と拳銃両手に、レナは戦っていた。
壁を背に四方の内一つを潰し、残り三方を囲う疲れも〝死〟も知らない不死の軍勢の前には力敵わず、一人、また一人と護衛の兵が倒れていく。
頼りにしていた聖騎士達は真っ先に狙われて散っており、付近で事切れているか、血肉を求める亡者に群がられている。
「ぎゃあああああっ!?」
「止めろっ、止めてくれえぇっ!!」
「ウギイイィィッ!」
「はぁっ! ふっ……ふふふっ……戦争は数、よねっ……シキ君っ!」
「そこっ! ひ、姫様っ、肝が冷えますっ、お下がりください! あまり前に出ないでっ!」
中々に凄惨な悲鳴と光景を横目に飛び掛かってきた屍鬼を斬り払い、兵の銃火器でトドメを刺させる。
「隊長っ……!」
「何だと!? れ、レナ様っ、弾薬がもうっ!」
「た、弾が切れたら剣……! 剣が折れたらっ、魔法……! 救援は絶対に来る! ここが踏ん張りどころよっ、気張りなさいっ!」
額から垂れる汗と血が目に入って鬱陶しい。
ズキズキと痛む頭部は兎も角、一部が噛まれて抉れ、骨が見えている左腕の激痛に意識が朦朧とする。
「っ……」
こちらがふらついた瞬間を好機と見てか、ワッと寄ってきたゾンビ兵二体を跳ねて躱し、その頭部を目掛けて獲物を突き刺し、撃ち抜く。
が、弾丸は狙いを逸れて耳を削るだけに留めてしまった。
腕の傷は何処かの神経も持っていったらしい。空中に居るところに伸ばしてきた手とその元を部下が処理してくれた為に何事も起きずに済んだものの、冷や汗は止まらない。
「た、助かったわっ!」
「い、いえっ、それよりもう下がってください!」
「姫様っ、その状態ではっ……」
「口より手を動かすっ! とはいえ、ジリ貧なのは確かだけどっ……! さぁてっ、どうしたものかしらねっ……」
既に口調を気にする余裕もなかった。
先の爆発の影響で敵数も減ったとはいえ、味方の被害も甚大。
一番の打撃は回復薬と魔力回復薬を吐きながら摂取し、【責任転嫁】の効果でサポートに徹していたナールの脱落だろう。
この世の終わりを思わせるような衝撃と振動、艦の傾きに足を取られた王兄は背にしていた壁に頭を強く打ち付ける寸前、部下が身を呈して間に入り、気絶。その部下は絶命してしまったが、ナール本人は大量流血しながらも床に転がって呻いている。
他、防御力の低い後衛職の殆どが死亡、あるいは重傷を負っており、生き残りは魔力切れ+魔力回復薬の使用限界で動けずにいた。
爆発によって空いた巨大な穴からは外を飛んでいた者や装甲に張り付いていた者が入ってきている。当然、魔物型のアンデッドもだ。
増える一方の敵、減る一方の味方。
前線は崩れつつあった。
艦の限界も近いのか、付近で起きる爆発に敵ごと飲まれる兵も増えている。
(それに……普段は頼もしい装甲もこう硬いんじゃ牢獄に閉じ込められたもの。エアクラフトを自爆させても凹むかどうかってくらいだし……)
手持ちの武装では包囲網はおろか、装甲に穴を開けて脱出することも不可能。
仮に出来たとて、それだけ威力が高いのでは負傷は免れない。
「兄上はまだ目ぇ回してるの!?」
「はいっ、先程から声掛けや軽く叩いたりはしてるのですがっ……」
「こんな状況で無礼もへったくれもないわ! 往復ビンタで起こしなさい! それか無駄に生殖能力だけ高いって噂のタマぁ潰してでも起こすっ!」
「は、はい只今っ!」
少々下品だが……と思いつつの発言はあの男なら、あの人なら、という自信が源。
(シキ君っ、お姉ちゃんっ……!)
祈る先は神ではない。
故に、生き残った数少ない聖職者が「神よ……」、「主よ!」と祈るのを剣先から『風』を巻き起こし、荒れ狂う竜巻として放出することで黙らせる。
「祈ってないで援護っ! 聖軍の騎士だって戦ってるのにっ、何をしてるの!」
「こ、こんな時だからこそ祈るのです!」
「主の試練を愚弄するかっ、一国の王女ごときが無粋なことを申すでないわ!」
これだから、と喉まで出かけた言葉を飲み込み、剣を振ってゾンビの群れを吹き飛ばしていく。
魔力が凄まじい勢いで持っていかれ、殊更に意識を失いそうになるが、唇を噛み切り、その痛みと血の温かさで何とか保つ。
「宗教ってのは心にゆとりを得る為のものでしょうがっ! 無闇に命を投げ出し、目の前で人が死んでいくのを見もしないで『お願い神様助けてっ』て祈るのがアンタ達の信じる神の教えっ!?」
喉奥に伝っていく血は枯れていた喉が潤わせ、叫ぶ気力を生んだ。
「この不信心者が――」
「――こんな時だからこそ!? こんな時でも手や杖を使わないと祈れないちっぽけな信心なんて捨てなさい! それともあたし達の神は今この十数人を自ら助けてくれる『人』なの!?」
祖国を、大切な家族や友人を、命を『人』に救われた者にとって、神は人非ず。
「いつまでもどこまでも頼ってばかりでっ……どっちが不信心者よっ! 道は教わるものじゃない! 自分で! 自分の意思と力でっ、切り拓くものでしょッ!!」
死力を振り絞った咆哮は悲しいかな、シャムザ兵の士気を最高潮に引き上げるものしかならず……
「おおおおおおっ!」
「そうだっ! やってやる!」
「姫様万歳っ! シャムザ万歳っ!」
「皆の者っ、シキ殿とセシリア殿を思い出せぇっ!」
そう続いた兵の横を、どうやって侵入したのか、サイのような魔物が突進。
その場で跪いて天を見上げていた聖職者達を断末魔すら上げさせずに沈黙させてしまった。
「っ……バカっ……!」
「れ、レナ様っ!」
「うおおっ!?」
衝撃で押し出されたレナと兵らは飛んできた血飛沫と油、臓物に濡れながらも前に出る。
「全兵前進っ! こうなったらそこの穴から飛び降りるしか道はないわ! 直進っ、直進ーっ!」
「おおおっ、行くぞ皆ぁ!」
「せめてレナ様とナール様だけでも……!」
「弾も魔力も残りなんぞ気にするな! レナ様に続けえぇっ!」
剣を振り、槍を突き立て、属性魔法で焼き、圧し、押して突き進む集団は果たして同じ……否、それ以上の集団の肉壁によって阻まれた。
「くっ……! このっ、邪魔っ!」
とうとう力が入らなくなり、ぶらぶらし始めた左腕と目の前の障害を天秤に掛け、レナは瞬時に決断し、動いた。
「ぐうぅっ……あああっ!? そこを退っ……けええぇっ!」
嘗てのシキ然り。
自らの腕を脇から斬り飛ばすと、軽くなった身体を更に前のめりに突撃。先方で立ち塞がったオーガに魔剣を突き刺し、最後の旋風竜巻を放った。
「「「グギャアアアアッ!?」」」
残存する全ての魔力を乗せた一撃はオーガを粉微塵に吹き飛ばしただけに留まらず、背後の群れを巻き込んで退かせる。
「ひ、姫様っ!?」
「腕がっ……!」
「そんなの良いっ……からっ! 行ってっ!」
魔力も血も気力も尽き、思わず倒れる。
セシリアら救援部隊が到着したのはその時だった。
「レナぁっ!」
愛する姉の声と銃声、あれから久しく聞いてない『砂漠の海賊団』の怒号。
心嬉しくもあり、心強くもあるそれらは活力を生み、レナの身体を立ち上がらせる。
(お姉ちゃん……!? 助けにっ……来てくれたっ!)
ガクガクと震える膝に渇を入れ、視界いっぱいにあった床から前を見据える。
「皆っ、聞こえたっ!? 助けが――」
――来た。
そう言い終わる前に、絶望の光景に打ちのめされた。
「ぎゃああああっ!?」
「足っ、足がぁっ!」
「うわあああっ、止めろ止めろっ、止めっ……がひっ!?」
「レナ、様っ……どうかご無事、でっ……」
示し合わせたかのように、こちらの特攻を待っていたかのように、全方位から群がってくるゾンビ兵。
味方すら踏み潰し、押し潰して押し寄せる〝死〟の群れに兵の殆どが生きたまま喰われていた。
頭部を、肩を、背中を、腹を、腕を、脚を、指先を。
それまでの比ではない量の血と悲鳴が舞い、視界を埋め尽くす。
気付けば自分の元にも大量の魔物が飛び込んできている。
左肩が噛まれて失くなった。
右の手のひらが指数本を残して喰われた。
続いて二の腕が、腰が、太腿が、脛が、耳が、おぞましい音を立てて貪られていく。
「シ……キく……おね…………ち……!」
そんなレナに出来たのは最期の足掻き。
力尽きる寸前、兵達が生きた壁として守っていたナールの元に《縮地》で滑り込み、その襟首を掴むとまともに見えなくなった視界の先……黒で染まる中、唯一自分とよく似た金の髪を目印に腕を思い切り振るった。
(お姉ちゃん……シキ君によろしく……シャムザとそこで寝てるデブ兄……た、のっ…………)
思考はそこで止まり、そちらに向けてにこりと笑顔を向ける。
「いやっ! レナっ、レナあぁっ!!」
「え、へへ……最期くらい、笑って…………でも、あぁ……やだ、な……死にたく…………シキ、君に……会、い――」
――鈍く血に濡れた音が全身に響いた。
目と顎を噛み砕かれたらしい。
視界は真っ赤に染まり、音が発せなくなってしまった。
〝死〟を目前にしたからか、痛みや絶望よりも最後まで言い切ることが出来なかった無念だけが浮かぶ。
「いやあああああああああっ!!?!? レナがっ、レナがああああぁっ!!?」
セシリアの声が遠くの方で聞こえた。
自分を求めてくれる絶叫が嬉しくて、悲しくて。
けれど、何も出来ないのが悔しい。
「うおおぉっ!? な、ナイスキャッチ俺っ!」
「船長っ……ナール王は何とかっ……!」
「すげぇっ、生きてるぜ!」
「引き時だよっ、姉御っ!」
バキバキバリボリと全身の肉と骨が失くなっていく中、うっすらと届いた報告に心から安堵する。
自分の頑張りは無駄じゃなかったと。
「ヘルトっ……レナっ……うううぅっ……ああああああっ!! こんなの違うっ……私が『視』た未来じゃない! 何でっ、何でよっ! 何でいつもこうなるの!? 私の〝力〟は何の、為……にっ……! うわあああああああっ……!!!」
遠ざかっていく泣き声がどうしようもなく悲しく思えて釣られそうになるが、泣く目玉ももう無い。
そして、何も感じなくなり……闇と無音の世界が訪れる。
レナの意識はそこで完全に途絶えた。




