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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
301/338

第280話 戦士達の生き様

めちゃめちゃ長くなってもうた……(´-ω-`)


 旧イクシア領。


 生存者も亡命者も、魔物すら存在しない死の大地と化した土地。


 アリスらが事を起こす()()()。レナ、ナール王兄妹が国防、連合の合同軍を展開させたのは嘗ての人族栄光の地であった。


 帝国や連合からの技術提供、自国からの発掘により、巡洋艦、弩級含めた総戦艦数は二百。アンダーゴーレムはバーシス四百、シエレン百の計五百。エアクラフト隊一万。聖軍の下級騎士を中心にした地上軍は五万越え。旗艦は帝国との戦争で沈んだサンデイラ。


 対する新世界創造軍(ニュー・オーダー)はスカイアークを中心に五十隻の魔導戦艦。自前の翼、エアクラフト乗り、何処からか持ち出した量産型MFA装備者含め、航空戦力十万。地上に広がる黒い波が如き軍勢は三十万。


 その戦力差は約七倍。


 艦隊やアンダーゴーレムの脅威を知ってはいても、『見える』数は何よりも恐ろしい。


 兵は自然と怖じ気付き、シキらの予想と反して増援としてやってきた各国、各勢力代表もひきつった顔を浮かべていた。


 動揺一つ見せなかったのは『砂漠の国』の兄妹と聖軍所属の上級騎士。


 望遠モニターに映る地平線の彼方でぽつぽつと見え始めた敵を前に、黙って前を見つめている。


 否。


「……来たか」

「皆……お姉ちゃん…………シキ君……私達に力を貸して……!」


 付近に控える兵や騎士は手や肩を震わせるナールを、艦長席の隣で手を組むレナの姿を確認していた。


 二人は勿論、他の為政者や軍関係者も額に汗を滲ませ、視線は忙しなく落ち着きがない。


 そんなお偉方を、シャムザの勇者ヘルトが通信画面越しに茶化す。


『辛気臭い奴等だなー……オイラ、知ってんだぜ、こういう時にビビる奴が真っ先に死ぬってよ』


 赤く染められた専用シエレンは最前線で敵を見据えていて、その周囲ではシャムザ艦隊と全航空戦力が整列しつつあった。


『安心しな姫さん。姉ちゃんとシキんとこの応援が来るんだろ? オイラ達はちょいと足止めするだけさ』


 チャラチャラした口調でも真剣味を帯びた気休め。


 事実、そのような遠方通信は届いていたが、元より追い付けないからと別の作戦を立てた次第である。おおよそまともな方法で来れるとは思えない。


 そして、強行してきたのならまともな戦力も期待出来ない。


 今回の戦闘が名ばかりの国防戦であることは自明だった。


 それに対し、幾分か余裕があるのは上級一桁台の聖騎士二人。


「いざ目にすると壮観だな……」

「…………」


 全身甲冑の中でくぐもった感想を漏らした男とローブで顔まで隠した無口な女。


 自前の『聖』の属性魔法がある、いざとなれば転移魔法で逃走が可能というのが主な理由だろうものの、地平線が埋まり出した光景には腕を組んで唸っている。


「各艦、魔導砲の充填率は如何程か」

「六十パーセントを越えました!」

「そう……では放送の準備を」

「はっ、ただいまっ…………出来ましたっ、いつでもどうぞ!」


 ナールとレナの目配せにその二人と他の為政者が佇まいを整えたところで専用カメラが向けられ、サンデイラの頭上に魔力状のホログラムが放射される。


 各勢力の兵は己が仕えるトップの虚影を地上から、空から、艦を通して見ていた。


『諸君……見ての通り、敵が現れた。祖国の領土を、家族を、友人を飲み込まんとする悪しき敵だ』


 前方を指差したナールの横で、今度はレナが口を開く。


『彼等が通る道には何も残らない。かの大国イクシアはどうなった? 我々が今居るこの地には何があった?』


 王や政治家の口上は見事なもので、総司令を担う兄妹を始めとした演説は見る者の士気を高めていく。


 長年いがみ合ってきた自分達の愚かさ、ゼーアロットの悪行、こうして団結出来た奇跡について。


 そして、今作戦への思いについて。


『我々は断じて犠牲などではない!』

『礎になろうなどと思わないでほしいっ』

『本丸に任せようという後ろ向きなこともだ!』

『いっそ我々が彼奴等を蹴散らしてくれようではないかっ!』


 恐怖はやがて高揚へ、高揚はやがて勇気へ。


 誰かが賛同の声を上げれば付近の者に伝播する。


 誰かが感極まって叫べばやはり付近の者から徐々に広がり、同じ思いを抱く。


『祖国の為にっ!』

「「「祖国の為にっ!!」」」


 ナールが拳を突き上げて叫び、国を持つ者が追随する。


『家族の為にっ!』

「「「家族の為にっ!!」」」


 続いたレナのセリフに、家族ある者が倣う。


『友人の為にっ!』

『隣の戦友の為にっ!』

『世界の為にっ!』

『『『『『我等が敵を滅ぼさんッ!』』』』』


 嘗て敵とも味方とも言い難い関係だった〝王〟達が口を揃え、指を揃え、再び敵を指し示した次の瞬間、全艦隊から魔導砲が発射された。


 超高濃度に圧縮された魔力エネルギー波は瞬く間に飛んでいき、敵方の魔障壁に衝突。弾かれこそすれ、それが散って辺りを爆ぜさせる。


「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」


 天高く舞い上がる爆発と土煙に大気が震えるほどの歓声が降って湧いた。


 黒く染まりつつあった地平線も疎らになっており、望遠モニターで拡大された映像には数万規模のゾンビ兵が吹き飛んでいる様子が見て取れる。


『我々は今っ、一つになった! これは防衛戦などではないっ!』

『殲滅戦であるっ! 掃討戦であるっ! 各部隊は現時点を以て行動開始っ! 恐れるべきは味方からの誤射のみっ、亡者と味方を見間違うなっ!? 口が聞けて腐ってなければ同胞だっ、わかったら前に進めぃっ!!』


 何処かシキを思わせる前進命令にナールが思わずといった顔でレナを見つめたところでホログラムは消え……


『『『『『てええええぇっ!!』』』』』

「「「「「おおおおおおおぉぉっ!!」」」」」


 各艦からの艦砲射撃と全軍の突撃が始まった。


 


 







 ◇ ◇ ◇


「酷い有り様だねぇ……」


 可変式MMMシヴァト飛行形態のコックピット内。


 フェイは顔をしかめながら眼下……全点周囲モニターに映し出される外の様子を見下ろしていた。


 見渡す限りの屍、屍、屍。


 墜ちた魔導戦艦はどちら側のものかも区別出来ず、地上はクレーターまみれ。所によって火の手や氷の山、隆起した土の塊があるのが現代らしい。


 しかして地上軍はほぼ沈黙。有視界の約八割が地を這いずり回る亡者の群れに覆い尽くされていて、稀に属性魔法らしき迎撃音と爆発が響くのみ。それも何らかの魔法現象を視認した次の瞬間には黒い波に飲まれて消える。


 反対に艦隊の方は両軍健在。合同艦隊は百隻ほどが後退しながら艦砲射撃と魔導砲を使った対空砲火で抵抗しているものの、どの艦も敵方の航空戦力に群がられていて艦影は見えず、明らかに劣勢な航空戦力は戦闘に手一杯。唯一、スカイアークはその中をさもありなんと突き進んでいた。


「うへぇ、一応まだ耐えてるみたいだけど……こりゃあ時間の問題ってもんだよ」


 フェイを先頭にヴァルキリー隊、連合のフルーゲル隊(五十四機)、『砂漠の海賊団』の新型旗艦『オルオルカ』一隻が戦場に到着した時には既にこの状況だった。


 ここまで圧倒的では、勝ち負け以前に生き残りを探すことも難しい。


『れ、レナぁっ! 外部推進器切り離しっ、エンジン全開っ! 機銃班!』

「チッ……こっちは戦うに戦えないってぇのにさ」


 何やら焦った様子でシャムザ艦隊に近付いていくオルオルカもその後ろで隊列を組んでいるフルーゲルも各装甲やエンジン、関節部を損傷しており、満足な戦闘は不可能。


 それは偏に爆発する棺桶(バーストコフィン)タイプの推進器で突貫してきたが故。


 強力な内熱機関二基付き、シキの全魔力が乗せられた魔力充電池(マナコンデンサー)を多数搭載、特殊な可変機構に特殊装甲、その上に特殊コーティングと最大限に古代と現代の技術を盛り込まれたシヴァトだけが無傷。


 パイロット特性に合わせてチューニングしているヴァルキリー隊の機体もガタが来ているようで異音が聞こえるだの装甲板が落ちただのと報告が上がっていた。


「ま、良いさね。負け戦を楽しんでこその戦人っ……! そうだろっ、大将!」


 この戦場に知人は居ない。愛し愛される男の『大切』が居るとは聞いているが、高揚感が勝る。


 フェイは操縦桿を握り直すと、声を張り上げた。


『オルオルカの艦長……いや、船長だったかいっ? あんたはそっちの目的を果たしな! 露払いしてやる! ヴァルキリー隊とフルーゲル隊は散開っ、何で纏まってるんだい!? 良い的だろっ!』


 叫びながらエンジンに再点火。急加速を掛けて味方艦を追い……否、抜き去ってサンデイラの元に先行する。


『あっ、隊長っ!?』

『早いですって!』

『むぅ……ここで散開って言われても……』

『取り敢えず近くの艦に取り付いてる奴等をどうにかしないとっ』


 部下の文句を背面装甲に、ガチャンガチャンと音を立てて変形。五秒と掛からずに終えた後、肩部に備え付けられていた武器を取り出す。


 ロベリアの機体から拝借してきた銃型悪魔の兵器(デビルウェポン)


 前々回の戦争で改良を加えられたそれには背面スラスター横のマナコンデンサーからの直接供給が可能なコードが付属している。機体の腰部装甲にある隙間から伸ばした管を三つ掴んで銃に連結させると、眼前で蠢く大量のゾンビ兵に向け……吼えた。


「見逃したってことは出来るだけ戦力を減らしてこいって……こったろっ!」


 瞬間、巨大な銃口が火を吹く。


 機体が示す魔力残量パラメーターは凄まじい勢いで減っていき、モニター画面が明滅する。


 それと同時に、敵性反応である死人も消滅していく。


「ぎゃあああああっ!?」

「なんっ……ぐあああっ!?」

「ギシャアアアッ!!」


 超高熱を帯びた魔力エネルギー波は人も獣人も魔物も関係無く、掠めただけで瞬く間に灰化させていた。


「あはははははははっ! この威力っ、何て超兵器だいっ!? ちょいと扱い辛いけどっ……ははははっ! 慣れちまえばっ!」


 あまりの反動に機体が後退するのをジェット噴射で堪え忍び、銃を振り回す。


 墜落は目前でも、艦内では抵抗が続いているらしい。何の障害にもなり得ない塵芥を滅しながら突き進むビームはやがてサンデイラの魔障壁に衝突。幾重もの小型消滅波となって辺りへ散り、敵方の航空戦力へと降り注いだ。


 そこに、追ってきたヴァルキリー隊も続く。


『フォーメーションW(ダブル)Δ(デルタ)っ! お互いの背中を守りつつ……散開っ!』

『『了解っ!!』』

『りょうか………いや近くで見ると凄ぉっ!?』

『私達も行くよっ!』

『んっ、ターゲット……ロック……!』


 機体と機体を合わせたそれぞれが別方向に飛び去りながらマシンガンや連合製の散弾バズーカを発砲する。


 離れた二機同士は三角形を描くように位置を合わせ、互いの死角を、互いの射角を補って助け合う。


 高速移動とポジションの維持、そんな中での照準合わせを全て並行して行うその技量と空間把握能力は見事という他ないほどにゾンビ兵を蹴散らしていた。


 自分という長年の隊長が抜けているにも拘わらずのその連携は変わらず銃口を各方向に向けて殲滅しているフェイに嫉妬や寂しさのような感情を抱かせる。


「ハッ、やるじゃないかっ……!」


 そしてそれは、フェイらの遥か後方でやっとこさといった様子でいる連合のフルーゲル隊も同じ。


『ええいっ、何て奴等だっ、あの裏切り女共はっ!』

『奴等の隊長の移動速度っ……通常の三倍の数値ですよ! どんなエンジンと魔力量してるんです!? その上、ロベリア様の兵器まで同時使用するなんてっ……』

『他の連中もこちらの出力を軽々越えてっ……! 同じ機体だろ!』

『騒ぐなっ! 作戦行動中だぞ! 我々は艦のっ……あるいは要人の救出にだけ集中すれば良いっ!』


 流石に超人染みた操縦技術を披露するわけではないが、味方機と一定の距離を保って整列し、淡々と対ゾンビ用の『聖』属性付与弾を散弾状にばら蒔いて敵を減らす軍人らしい堅実な動きはフェイ達のような突出した人間には出来ない訓練の賜物。


 (……ま、アタイらとはタイプが違うからね)


 言い訳にも似た感想を内心で呟いたところで、味方からの誤射を受けて黒煙を出し始めたオルオルカがサンデイラに横付けする。


『坊やのっ……フェイさん! ありがとうっ、護衛もお願い出来るかしらっ!?』

『わぁってるっ、こっちは良いから早く妹だか何だかを助けに行きなっ! ……おいっ、そこの小隊! 組み付け! 突入用の道を作るんだよ!』


 こちらの拡声された会話とシヴァトの頭部を向けての呼び出しに、近くを飛んでいたフルーゲル数機がギリギリまで艦に近付き、群がるゾンビ兵を銃や槍、手で叩き落とす。


『でえぃっ、人使いの荒い女だ!』

『うわああああっ!? き、キリがねぇっ!』

『こっちだって取り付かれたら終わりなんだぞっ!?』

『知ったことかいっ! そういう任務だろ!』


 甘ったれた泣き言に言い返しながら、「これだから……」と思ってしまった。


 魔銃に元々貯められていたエネルギーを使いきり、機体の魔力残量も半分を切った。


 以降は自動小銃か近接用のヒートソードが主武装となる。


 機体そのものは依然動く。シキの全魔力で起動した機体だ。マナコンデンサーも大量に積んでいる。これ以上の浪費さえしなければ体力ある限り戦える。


 だからこそ。


『ギエエエエエェェッ!!』

「情けないねっ……そんなだからっ、女王や復讐者なんかに使われるッ!」


 寄ってきたグリフォンゾンビの顔面を魔銃の柄で殴り付け、離れた瞬間を反対のマニピュレーターで掴んだ銃で射撃。そこへ新たな刺客が降ってくる。


「もうっ……もう止めてくれぇ!?」

「し、死にたくないよぉっ……!」

「グギャギャッ!」

「ギイイイィィッ!」

「グガアアアアアッ!!」


 元は何処かの国の兵士らしいエアクラフト乗りと奴隷と思われる首輪付きの鳥系獣人、何か飛べる仲間から飛び下りてきたゴブリンゾンビにコボルトゾンビ、オーガゾンビ。


「聞いていた通りっ……頭部がある奴にゃ生前の意識があるみたいだね……あぁ気色悪いっ……!」


 自動で拡大された彼等の顔は恐怖や怒りといった感情に飲まれていた。


 憐れみの目でそれらを見返し、横のレバーを引けば各部から放たれた逆噴射が機体を反らす。


『恨むなら〝力〟のなかった自分を恨むんだね』


 向こうはこちらが既に手首を返し、銃を向けていることに気付いたらしい。


 全ての顔が一色に染まるのが見えた刹那、指に引っかけた引き金を引く。


「「「「「ぎぃゃあああああっ!?」」」」」


 ズガガガガガガッ! と機体が振動し、散り散りになった肉片と変色した血と油が降ってくる。


 (そうさっ……国でも軍でも他人でもないっ……恨むべきは自分の弱さだよ!)


 魔銃を元の位置に戻し、両手でマシンガンを構え、辺りに発砲する。


 スラスターとバーニアを手動で調整しつつ、全方位への攻撃。


 たったそれだけで黒い霧は晴れ、若干のゆとりが生まれた。


 ステータスはなく、魔力も極少量しか持ち合わせていない〝旧人類〟の自分が、これを成しているという自信と満足感がフェイを昂らせる。


 (軟弱な男共は面白くないし、あーだこーだとまどろっこしい女王も大っ嫌い! やっぱ人は強くっ、分かりやすくないとさぁっ!)


 シキや帝国の掲げる弱肉強食論はフェイを始め、ヴァルキリー隊の女達の指針。


 〝力〟のない種族だからこそ〝力〟に憧れ、〝力〟に屈服し、心酔する。


「と、突撃っ、突撃ぃっ! レナとナール王を最優先で救出っ、良いわね!?」

「「「おうっ!!」」」


 オルオルカの甲板から続々と降下し、サンデイラに乗り移っていく『砂漠の海賊団』の船長と船員達を横目に、片方は発砲を続けながら弾切れの銃を傾け、胸部装甲から発射させた弾倉を入れて迎撃行動を継続する。


「ひいいぃぃっ、た、助けてくれぇっ!」

「身体が勝手に動くんだっ、わざとじゃない!」

「どこかに子供が居るのよっ、助けてっ!」


 奇声を上げるだけならいざ知らず、下手に『生きて』いる死人の命乞いが何とも神経に障り、何故か自然と笑いが漏れた。


『ははははははっ! 死んだ奴が言うことぉっ!』


 油断して取り付かれた数体を肘と膝で押し潰し、囲いわれつつあった状況を急加速で脱出。付近のドラゴンゾンビを足場に一方向からの攻撃を封じながら尚も近付いてくる雑魚を腐った血肉へと変える。


「な、何でだよっ!? 俺達は理不尽に殺されてっ、使われてるだけなのっ……びぎゃぁっ!?」


 何やら泣き喚きながら突撃してきた、生前は赤子連れだったのか、溶けて一体化している二人(?)を見もせずに蹴り飛ばし、同時に機体は足場の方に振り向き、流れるように撃ち落としたフェイは続けて真横から寄ってきた群れを撃滅して叫んだ。


『あははははははっ、アタイだってそうさ! 同じだよっ! 受け入れな! 〝力〟有る者に従うっ! それが自然の摂理だっ、はははっ、なぁにっ、気に入らなけりゃぶっ殺しゃあ良いっ! 文句だけ一丁前で何を被害者ぶってぇっ!』


 シキに幾度となく負け、直に身体に教え叩き込まれたそれは矜持でも釈明でもなく、一つの真実。


 例え出逢いは敵同士で、無理やりで、わからせられただけだとしても、フェイと部下達には何の未練も後悔もない。


 彼女らが普段からマテリアルボディを使わず、生身で訓練に明け暮れていたのもそこに起因する。


『死んだら死ねっ! 奪われたら泣いてろっ! それが弱者に出来ることだ! 真の強者ってのは立ち向かう奴なんだよっ! 弱くてもっ、負けるとわかっててもっ……自分(テメェ)の意思を曲げないっ! 戦士の志を持つ人間こそッ!』


 この戦場にはそんな人間を求めてやってきた。


 憧れ慕うシキが認めた戦士達。


 特に悪友だと教えてくれた勇者を一目見たかった。


 現代の〝力〟で通用しないのならと古代の〝力〟に頼り、大成しているという砂漠の勇者。


 今はまだ見つけられてないが、何処かに必ず居る筈だと目を光らせつつ……


 下手をすれば死ぬかもしれないという恐怖に身を震わせる。


 頭部カメラに突っ込んできて至近距離で映し出されるゾンビの面の何と恐ろしい光景か。


 だが。


『あはっ……!』


 それが良い。


『あああぁっ、漏れそうっ! そんなに怖い顔でアタイをどうしようってぇ!? 泣きそうだよもうっ!』


 乱雑に殴り付けて引き剥がし、ワッと湧いてモニターを埋め尽くす群れに肩が竦み、股下を冷たく感じる。


 ヒュッと変な声まで漏れた。


 なのに。


『ああ怖いっ! 死ぬ! 殺されるっ! でもっ……』


 生きている。


 〝死〟を身近に感じれば感じるほど、〝生〟という真逆のものが感じられて堪らない


『ひゃははははははっ!! 生きてるって感じいいぃっ!?』


 腕だけそのままに変形し、戦闘機型の飛行形態で縦横無尽に飛び回って撃つ、撃つ、撃つ。


 当然、そんな中途半端な変形が完璧な飛行を実現させるわけもなく、接近を許してしまう。


 ガンッ……!


「うひぃっ……!?」


 何かが突撃してきたような音がコックピット内に響き、思わず悲鳴を上げる。


 続けて、抉じ開けようとガンガン頭突きして脳髄と頭蓋骨を撒き散らしている子供のゾンビ兵を頭部ツインアイが視認。モニターにその様子が映され、一瞬の迷いののち、銃口で払い除けるように吹き飛ばした。


『ひっ、ひひひっ! そうだよっ、これがっ……これこそアタイの求めてたもんだ! 自由っ!! 世界ってこんなに楽しいんだっ!? 生きるも死ぬもアタイ次第でっ、全部綺麗っ! 気に入らないものは全部壊しちまえばっ……! ああ大将っ、大好きだよ! 愛してるっ! こんなイカれた女を好いてくれてっ……ありがとうねぇっ!』


 墜落を始めたシャムザの艦の背後に近付き、エンジンを撃ち抜いて盛大な花火を上げる。


 瞬間、腕を収納。バーニアの噴射で体勢を整えて上昇すると、二基の特殊内熱機関が生み出す自慢の推進力はとてつもないGをプレゼントしてくれた代わりに遅れて発生した大規模の衝撃と爆発から機体を遠ざけ、付近の群れを一掃した。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! うっ……ぐっ、ごふっ……おうおう……こいつぁ、どっかの内臓が潰れた……かな?」


 血反吐というには大きすぎる塊が口から溢れ、近くのマジックバッグにしまっていた回復薬を取り出して休憩する。


 『天空の民』にはない技術と神の恩恵とやらで作られた、〝旧人類〟にとって不可思議どころではない代物はフェイから生の証である痛みを取り除き、その解放感からつい一息を吐く。


『ふっ……ふふふふっ……はははははっ……! こうじゃなきゃっ……!』


 笑みを漏らしながら口元の血を拭い、再び操縦桿を握ったフェイにあるのは生きる理由と楽しみ。


 相手と同じく対等に、互いの命を賭けて奪い合う。


 でなければ公平(フェア)じゃない。


 だから〝死〟をなかったことにしてしまうマテリアルボディを否定する。


 例外は寿命を引き伸ばす点のみ。


 戦場で死ぬのなら寧ろ本望。


 簡単に死ぬ。


 それでこそ人間。


 そして、どうせ生きるのなら好きに生きて好きに死にたい。


 そのような信念と覚悟が根底にあるフェイと、そのフェイを慕う部下達にはロベリアが許せない。


 その結果が今。


 シキという一人の男は〝生〟の実感をくれた。


 気に入った、とたったそれだけのエゴで殺さず生かし、生き恥を晒させ、俺のモノになれと宣った。


 強引に命と身を奪われた。


 この世で最もシンプルな〝力〟で。


『人としてどうとかルールがどうとか女だから男だからどうとかっ……自分にはもっと別の道がとかっ! こんな筈じゃなかったとかっ! 皆、ごちゃごちゃごちゃごちゃ煩いんだよぉっ!!』


 再び叫びながら爆発し出した他の艦に取り付き、次々墜として全てを吹き飛ばす。


『気に入らないんなら〝力〟を示しなッ! 主観じゃなく客観的事実でぶん殴れっ! 口先だけの奴にっ……価値はないってんだっ!』


 気付けばオルオルカの現状や味方の存在すら忘れて暴れていたフェイは天高く駆けて漸くその存在を認めた。


『おいおいおい何だぁあの黒銀はっ!? 姫さん救出の陽動にしちゃあ出鱈目な奴だな!』


 赤い……紅のシエレン。


 今はリュウが駆る『アカツキ』と同じ色に染められた蟲のような機体を。


 面識はなかったが、わかった。


 ステータスをフルに利用した急加減速全開で駆動し、近接戦用の振動長剣だけで開けた空間を生み出し続ける技量。


『ま、まあ良いやっ……! そこのっ! 多分アレだろっ、シキの女だろ!? 聞いてるぞっ、特別強い女ゴーレム乗りが居るって! 暫くこの辺頼めるか!? オイラっ、サンデイラに大切な人が居んだよ何人も! さっきも姉ちゃん達突入してたしっ!』


 砂漠の国の勇者にして、現代『最強』のパイロット。


『お? あ? そっか? アンタが? ヘルトって野郎だねっ!? ははははっ、やぁっと見つけたよ! 後で面ぁ見せなっ! アタイはアンタの生き様を見に来たんだ!』


 フェイは高笑いしながら無双し、叫び。


 対する砂漠の勇者ヘルトは『は? いや何の為に!? つぅかこの状況で!? あ、あの野郎っ、まともな仲間はいないのか!?』とすっとんきょうな声を上げた。


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