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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
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第276話 幻想

思想的な話をし出すと長くなるマン。いや、長文駄文癖は元からですな(´・ω・`; )


「そういや……衛星兵器があるとか聞いたな」


 隣じゃなく態々俺の膝上に座ってきたフェイと俺の左腕を奪うように引っ張って喧嘩しているルゥネを見て思い出した。


「ち、ちょっとっ」


 ロベリアに睨まれたらしく、肘で突かれる中、「で?」と催促する。


『……使えますが、どれほど『核』を持っているかわからない相手です。戦略級のレーザーでは毒を撒き散らすだけでは?』

「は? そうじゃなくてゾンビを散らすんだよ。マナミら『メサイア』軍が介入してきた時みたいに魔障壁が作動すれば拡散して警護兵を蹴散らせるだろ」


 ていうか自動で出るバリアなんだから艦の装甲には当たらないんじゃ?


 何で直撃が前提なんだろうと思ったところで、フェイの方が教えてくれる。


「うんにゃ、無理だよ。収束率とか向きとかの調整には魔力を使うけど、発射するエネルギーは基本的に太陽光を利用したものだからね。それにあそこには――」

『――その口とお尻の軽さは癇に触ります。戦場ではなく、この場で死にたいのですか?』


 何やら触れてはならない逆鱗があるのか、ロベリアのまるで笑ってない声に、フェイは「おっと、くわばらくわばら……」と口を噤んでしまった。


「レーザー……ソー◯・レイ、か」

「良い案だと思うけどねー。だって要は人工衛星でしょ? 衛星軌道上からの攻撃なら対処のしようがないよ」

「それならライ君の翼や聖騎士の人達に頼らなくても雑兵の処理は出来そうだね」


 リュウ、メイ、マナミがそう繋げてくれたものの、決定打には今一つ欠けているようにも思える。


「この翼って言ったら……お前のあの技なら倒せるんじゃないか? ほら、紫色で離れなくて消えない炎の」


 俺の角と同じで実際に生えている背中のそれに注目されたライは名案を思い付いたとばかりに言ってきた。


「ありゃあ元となる怒りが必要だ。お前だってそうだろ。魔法スキルの使用には強い感情が要る。奴の目的はどうあれ、復讐心は多少なりとも理解出来るし、あの世界を前提に置けば人が多すぎたって良いことはないんだ。奴に対する絶対的な怒りがないと使えん」


 その説明が気に食わなかったんだろう。


「理解……あの世界って地球のことか? ミサキやイサム君には使えたくせにっ、どういう意味だよ!」


 と、しつこくもまた噛み付いてきやがった。


「吠えるな。何回繰り返すんだこの下り。大体、あいつらは感情的でいけ好かないんだよ。その点、世界はもう少し痛みを知るべきだと言っていたゼーアロットの方がまだ理性的に感じるって話だ」

「なっ……!?  何処がだっ、考えて人を殺す方が悪いだろ!」

「はぁ……良い悪いなんて誰が言ったよ。お前は鳥か犬どっちだ? じゃあ動物みてぇに、それこそ今のお前みたいにキャンキャン吠えるのが人間ってか?」

「このっ……人をおちょくって、下に見てっ……お前のそういう態度が戦争を呼ぶんだろっ!」


 ハッ、どっちが上なんだか。大体、物事に善悪を持ち出したら個々人の思想の押し付け合いになるだろうが。


「まあまあ落ち着いてライ君っ」

「旦那様、殺りましょっ? ねっ? 手ぇ滑らせちゃいましょっ?」


 怒れるバカと抑えるマナミを尻目に、俺は拳銃を取り出したルゥネにチョップを決め、「殺らん殺らん、今は共倒れになる。後、手は滑らん」と止めに入った。


 が、見ればノアはまた抜剣してるし、メイも両手をそちらに向けている。何なら他の面々までもが自身の獲物に触れている。


「どーでも良いけど、核爆弾って衝撃与えて大丈夫なん? ユウちゃんの十八番で近付けば撃ってこねぇにしても戦闘になれば揺れたりするじゃん」

「……隊長、空気読んでほしいにゃ。それと最初に信管を作動させなければ何ちゃら反応が起きにゃいから大丈夫って言ってたにゃ……」


 今一、話に付いていけてないっぽいアリスと頭を抱える獣戦士団の生き残り達以外は何とも険悪なムードだった。


 とはいえ、良い機会でもある。


 この状況は利用させてもらおう。


「さっきから黙りしてるそこの女王はどう思ってんだ? こうなった以上、連合にもメサイアにも勝ちの目はないぞ」


 暗にゼーアロットと新世界創造軍(ニュー・オーダー)を下せば俺達のリードは決定的だと告げつつ、真意と行動理念を探る。


『ここで私に振りますか』

「こんな世界だ。バカや狂人より、お前みたいに裏であれこれ考える奴の方が余程怖いんでな」


 ライ、ノア、マナミの望みや主張は既に知っている。


 未だ不透明なのはロベリアだけ。


 この女が持つ理想が俺のものと少し被っているくらいしか知らないのでは信用もし辛い。


「言ってみろ。天と地を支配して何とする。連合に協力する本当の目的は何だ? 神を気取る自称統治者様?」


 ロベリアの腹の中は味方でも気になるところだったのか、ライ達も黙ってそちらに顔を向け、逆に一身に注目を浴びて押し殺したような笑みを溢した件のお人形はあっけらかんとした口調で返した。


『ふっ、気取る……? 違いますね、神そのものですよ私は」

「貴様ぁッ!!」

「の、ノアっ、ダメだっ!」


 狂信者の前でよくもまあと思った直後、案の定ぶちギレたノアがライによって取り押さえられる。


 椅子はひっくり返り、ドタバタと激しく暴れる二人のやり取りなど何のその。ロベリアはそのまま語り出した。


『私は見てきました。人の愚かさ、醜態……その歴史を。人が人を迫害し、殺し、奪い、やり返し、同じことを繰り返す人類の(さが)を』


 それは俺達の目線とは別角度からのメス。


『過去数千から数万年において世界の滅びと再生が繰り返されていることを、貴方達は知っていますか? 知らないでしょう、フェイや他の民ですら……遥か悠久の時を生きてきた私も一万年以上前のことはわかりません。少なくとも今の時代に魔王と呼ばれている女性やかの『付き人』しか知り得ない、太古の時代の話です』


 ステータスやスキルといった力を持つ〝新人類〟と『天空の民』やシャムザで知った古代人のようにそれらを持たない〝旧人類〟が交互に生まれていること。


 その滅びには必ず神の介入があったこと。


 人々は争いで滅亡し、少し経てばまた似たような生物が生まれ、そこから人類に進化し、また争い出すこと。


 特にこれといった感情を感じさせない声で淡々と、そして次々に真実が告げられていく。


 信仰を糧にする存在と聖神教、何かと狂っているこの世界の密接さは周知の事実とはいえ、その詳細な内容にさしものライやノアまで言葉を失っているようだった。


『正直、滑稽ですよ。あそこまで醜くなれる生き物も、いつまでも虚構を信じて何かと無益な戦争を起こそうとする……そこの野蛮人のような人間も』


 ですが、とノアを差した指に他のものを足し、その手で自分の胸を叩いたロベリアは言う。


『我々は違います。私は絶対なる魔導機械と同化しました。我がバシレーヤ公国の人間だって人類という種を超越しています。永らく平和と協調に生き、地上の人間が下らない争いに明け暮れる中、確かに繁栄してきたことがその証拠でしょう』


 古代の技術……オーバーテクノロジーを発展させ続け、今では僅か一年二年足らずで艦を大量生産出来る上、マテリアルボディの創造とアストラルボディの摘出保存技術を得た今では生死すら無いものへと変えている種族。


 いざ面と向かってそう言われてみれば、その傲慢気質な自信も頷けなくはない。


『どうです? 全知全能であり、実績があり、死ぬことも老いることもない。信仰というエネルギーも必要としない……真の意味での〝新人類〟である我々ならば永遠にこの星を管理することが出来ます。神そのものでしょう?』


 まあ……一理ある。


 味方すら見下すのは学習しない生物という色眼鏡で見ているからだと納得もした。


 そしてやはり、俺と似ているとも思う。


 正しい統治に正しい管理。いつまでも一つになりきれない人類には絶対的に必要な政治だ。例えそれが独善的で多種多様な悪性を含んでいるとしても、ひたすら争いに明け暮れるくらいなら……と。


 俺が世界の王を目指しているように、この女は神という名の王座を狙っている訳だ。


 なればこそ、認められないな。


「はっ、何を大袈裟な……大体、古の時代から生きてきたんなら〝旧人類〟だろ。知ることがそんなに偉いのか?」


 シーンと静まり返る中、俺は鼻で笑ってそう言った。


『また矮小な概念で語ってくれる……知っているからこそ出来ることがあると言っているのです』


 実績と統計の重要さを、こいつは理解している。


 口を開けば夢物語しか垂れ流さないライ達とは全く別の考え方だ。


 少なくとも、ロベリアの理想には他者を納得させられるだけの客観的な力があった。


 だが、それと同時に酔っているようにも感じられる。


 自分達のような限られた人間しか知らない真実を知る私……と、自分と理想に酔っているような、そんな印象があった。


「無知が罪とほざくか。じゃあ何でそれを広めない。何故、今になって動き出した。やり方によっちゃ聖神教より上手く人類を導けた筈だ」


 そう……こいつは日本で核反対、軍備増強反対と騒いでた奴等と同じだ。


 こんなことがあったんだよ、悲しいね、嫌だねと過去に酔って見当違いのことをほざいてた奴等と同類だ。


 教育に悪いと何でもかんでも隠す大人達と変わらない。


「知っているのなら悦に入ってないで話せ。情報の取捨選択は兎も角、主観で必要なことを隠すな。その結果が何も知らない人間で埋め尽くされた今なんじゃないのか?」


 この女は見てきたと言った。


 そして今度は知ってるからこそと言った。


 つまりは俺のような意見もそれなりに考慮しての行動。


 にも関わらずの独占は矛盾だろう。


「お前が空で女王をやってる時、地上では繰り返し戦争が起き、その滅びと再生が起きてたんだろう? そうして、ただ見ていただけで自分の世界に閉じ籠っていたお前が神を詐称? クハッ、寝言は寝てから言ってほしいもんだな」


 知りたいのは兵器や事象、結果じゃない。プロセスだ。そこに行き着いた理由……人々に悲惨な出来事を経験させるに至った世界情勢や世論、当時の物の考え方だ。


 酷いことが起きたってのはわかる。


 それが悲しいことで、二度と引き起こしてはいけないものだというのも勿論わかる。


 だけど、物事はそう単純じゃない。


 核で言えば作られ、使われた経緯がある。


 当時の日本があくまで徹底抗戦を決め込んでいたことにも理由がある。


 最終的な某国の判断もそう。


 この世界で言えば人類が戦争を繰り返した理由だ。


 俺達がこうも争い続けなければならない元凶であり、失われた過去の歴史だ。


 それらを抜きにして後回し後回しで、知るのは大人になってから、自由意思で、こうして訊かなきゃ教えないなんて馬鹿馬鹿しい。


「人の無知を笑う前に教えたらどうなんだ? 愚かだと見下す前に止める努力はしたのか? それとも繁栄する余裕しかなかったってか?」

『争いたがっていたから好きにさせた。それだけのことですよ』


 俺達の白熱具合にタイミングを見失ったのか、ライ達もルゥネ達も黙ってるばかりで止めやしない。


 そのせいという訳でもないが、肩を竦めて笑ったロベリアに虫酸が走り、さっきのライ達同様、思わず立ち上がってまで糾弾してしまった。


「だったらっ……最初の質問に戻るな。そうやって高みの見物を決めておきながら今になって動き出した理由だ。事実、地上の人間は一部の長寿種を除いて過去を忘れていた。まともな遺跡だって残っちゃいない。魔族が持つ知識だって殆ど伝承ばかりで眉唾物……知らない以上、何度だって繰り返すだろうさ」


 ここで言う遺跡とは古代史の遺跡のようなもののこと。


 現存している大半が軍事基地や整備工場、シェルターばかりというのもおかしな話なように思えるが、逆説的にはそれだけの技術があったことの裏付けでもあり、反対に古代史について語る遺跡が少ないことに対する納得の材料も含んでいる。


 大戦争があったのだ。


 おおよそ俺達の戦争が可愛く思えるような……ゼーアロットが持ち出した核みたいな絶対兵器が玩具のように使われる血みどろの争いが。


 ムクロが戦争を嫌い、争いを憎むようになった理由、全てを忘れてしまうような悲劇が。


 そんな俺の推測通りのことをロベリアは告げた。


『世界全土を巻き込む地獄です……土地が死に、病が流行り……挙げ句に人をも食糧にしていた暗黒の時代です』


 食人と聞いて思い出すのはその古代史の遺跡にあった壁画のこと。


 あれは全て本当にあった出来事だったと知り、身震いにも似た感情を覚える。


『そして……かの男が狂うキッカケになった負の歴史です。知って何になるというのです。知らない方が幸せなことだってあるでしょう?』


 ゼーアロットのことを言っているらしい。


 奴のことも知っていて……奴の狂気の元を知っていてこいつは……!


「……知らないから、忘れるから繰り返すと言った。教えられる立場にありながら敢えて教えず、楽しげに争う人間達を観察する……これの何処が神なんだ?」

『知ったからこそ次は上手くやる、この技術を応用してやると思うのが人です。キリがないと思いませんか』


 今度は地球の原子力発電やその他の技術のことが脳裏を過る。


 今では便利に使われている電子レンジや誰もが知る某パズルゲームは戦争の産物だという。


 多少違う技術が使われていようと、始まりは全て戦争。人を殺す為に考えられたものから流用されている。


「お前はどうなんだ? 知っているからこそ出来ることがあると表舞台に出てきたお前はその理屈の体現者だろ。お前ら古代人がMMMと呼称する魔導人型機械だって戦争の道具以外の何物でもないんだからな」

『話になりませんね……この世は管理する側と管理される側に分かれていると言っているのです』


 またそれか。


 と、つい思考が横に逸れる。


 神、統治者、管理者を気取り、自分は特別だと思い込む。


 イクシアの前王含め特権階級に居る人間はどうにも似た傾向があるな。


 血筋や生まれはどうあれ、元を辿れば全ては力だ。金に権力、純粋な腕力、頭の良さ、知識量で決まってきた。この女だって技術力と絶機とやらの圧倒的な力で国を纏めているくせに、他者から説かれる弱肉強食の理屈はわかろうとしない。


「実績があるというのなら古くから世界を治めていれば良かった筈だ」


 ちらりと思ったことはさておき、尚も理由を尋ねる。


 『絶対法』もそうだが、完璧な社会なんてのはあり得ない。存在も維持も不可能だ。


 必ず穴はあるし、綻びもする。


 だから、平和な国に生まれ育とうとゲイルやフェイのように闘争心を胸に秘めた人間だって出てくる。


『人の苦労も知らずによくもそこまで好き勝手に言えるっ……想像力のない人は嫌いです。今なら変えられる、今回は止められる……そう思って何が悪いのですっ?』


 結局は野心。


 誰であろうと、人が人である以上はそこに行き着く運命と見た。


 矛盾……いや、皮肉だな。


 この女は自分で人の愚かさを証明している。


 それを心の何処かでわかっているから怒りで声が震える。


 ここに来て漸く苛立ちの感情を引き出せた。


 ともすれば底に根差している芯も見えてくる。


「無理だな。王という立場や国という基盤を得ておきながら変えたいと願ったその時に動かず、自分が動きやすい時を待つ浅い人間に世界が変えられるものか」


 ハッキリ告げてやった直後に返ってきた何の気も感じない返答は思わぬものだった。


『変えられますよ。下等な人類と一緒にしないでほしいですね』


 ……はぁ?


 下等?


 こいつ今、下等と言ったか?


 知れば欲を出すのが人間だと言ったその口で、今なら変えられると思っただの矛盾に満ちた言動をしておきながら?


 うんざりするくらいわかった。


 相容れない。


 ミサキやあのずっこけゾンビ共とはまた別の意味で、こいつは嫌いだ。


 人を見下すからじゃあない。


 こいつは自分を人と認めてない。


 この女は醜い人間と同列に居る自分……自分の人間らしさを嫌悪してやがる。


 管理がどうとか言って自分を神聖視するのは自分を特別な存在として扱うことで人とは違うと思い込みたいからだ。 


 目を見れば見えてきた心根以外に枝葉も栄養分、種も知れよう。が、まあ無いものを嘆いたところで仕方がない。


 俺は俺の考え方を通す。通させる。


「永らくお空の上に居たせいで酸素が足りなくなったんじゃないか? お前は人間だ。何を勘違いしている」

『人間? 私が? 馬鹿を仰いな、私は絶対なる――』


 同じことを繰り返して言おうとした内容を、意見を、考えを否定するように重ねて吐き捨てる。


「――ロボットだかゴーレムだか元人間だかなんざ訊いてねぇ。興味もない。お前が自分(テメェ)をどう思ってようが、自己顕示欲と承認欲求にまみれた人だ。その自覚があるから自分は偉いと下らないことを嘯れる」

『っ……事実と言いました……私はこの世界の神にならなくてはならないのですよ……! その資格もっ、思想もっ、実績もあるっ……誰もが望む理想的な社会の為にっ!』


 普段は作られた人形のように可愛げのない声だというに、今回ばかりは怒気に満ち震えていた。


 余程認めたくなく……余程我慢ならない認識らしい。


「機械は自力で考えない。そうやって怒るのは感情があるからだ。人に理想を語れるのは理性と知性があるからだ。その理想と根底に根差すものが矛盾しているのも実にそれらしい。その上で言やぁ……神に成り代わろうと衝動的に動く時点でお前は俺達と同じ人間だってんだよ」


 そう突き放したのを皮切りに、ロベリアはバンッと机を叩いて言った。


『っ、貴方っ、本当に嫌いですっ! 人は人じゃない()()にっ……神のような生物学的上位種に支配されなければ生存も繁栄も出来ず、自ら滅ぶ愚かな脆弱種だということを理解していながらどうしてっ……!? 私は神と違って見返りも求めないのに何故抗おうとするのですっ!』


 純度100%の生の感情、心情そのものが出てきた。


 今までの言動もそうだが、その反応こそ人だということも見えてなさそうだ。


「ふ、二人とも話が逸れてるっ、今は対ゼーアロットの為に少し落ち着いてだなっ」

『邪魔をしないでくださいライ様。私は貴方ではなく、この男と話しているのです』


 ノアから離れ、制止しようとしてきたライを止めてまで俺に意見したいらしい。


 だからこそ改めて理解させられる。


 こいつとはやはり、根本的なところでわかり合えないと。


「老いもせず、滅びもしない点ならムクロ……魔王も同じだ。だが、お前には心底から人を思いやれる心がない。そこの甘ったれたライやマナミ(アホ共)と違って優しさと暖かさがない。人は人でも冷酷な人間だ。俺と同じだ、少し現実的過ぎる。人の可能性を信じず、自分の人間性すら信じられない人間がどうして他者を支配出来ると言い切れる?」


 俺は俺みたいに人殺しで戦闘狂で大切な人すら平気で傷付けられる人間は世界の支配者に相応しくないと思っていて、この女はその逆……そういった冷たさを持った者こそが世界の支配者に相応しいと思っている。


 理屈はわかるが、仲良くなんて不可能だ。完全に理解し合えることもない。真逆の考え方なんだから。


『優しさ? 暖かさ? それを貴方が語りますかっ……詰まるところ、それらは甘さに他なりません。その甘さこそ希望や夢といった幻想であり、人を腐らせる元なのですっ』

「違うな、その甘さと温かみこそ人を繋ぐ鍵だ。だから勇者や魔王にはいつだって人が付いてくる。それは人の幸せを心から喜び、人の不幸を心から悲しめる人間にしか出来ないことだ」


 じゃなきゃ人々はライやマナミのような人間に救いを求めない。軍も組織も生まれない。


 じゃなきゃ人々はムクロに傾倒しない。俺も魔国の奴等もムクロの人を慈しむ真の優しさを知っているから動いている。


『では、貴方には支持者が居ないと?』

「居るさ。俺達みたいに、何かしら良くない感情を持った人間がな。俺の部下を見ろ、俺の女を見ろ、俺を見ろ。そして自分を見つめてみろ。暴力を持ち出す人間にはいつだって暴力を良しとする人間しか付かない」


 魔国の連中は今尚腰が引けていて、『海の国』もシャムザも出来れば力による話し合いは避けたい。


 が、俺を持ち上げ、俺に付いてくるルゥネやフェイ、帝国に軍の人間は純粋な力こそが最もシンプルでわかりやすく、絶対的だと信じている。メイだって理想は話し合いでも、現実的に考えて俺を慕ってくれている。


 話していてわかった。


 この女……ロベリアは人類を見下しこそすれ他種族に偏見を持ってない。


 全種族を人間だと断定し、その上でその全員を見下しているから、ある意味では平等と言える。


『政治のやり方や民、ものの見方によります』

「俺もお前も絶対王政派だろ」


 考え方によっては似ているからこそ相容れないのかもしれない。


『当然でしょう。投票で選ばれた王など、選んだ人間達の代弁者に過ぎないのですから』


 民主主義を否定してる訳じゃない。


 ただ……それは善良な市民や善良な政治家の住む国であることが前提になる。


 だから結局は後ろ暗いことも少しずつ増えていくし、問題はなあなあになる。多少の差はあれ、皆が皆近しい影響力を持っているから互いを牽制し合って険悪になり、最後は自分に投票してくれる人間に沿った政治をし始める。そして何より、事が起きた際の動きが酷く鈍い。


『愚鈍な大衆には導く者が必要なのですっ……誰もに平等でわかりやすい、〝力〟という指標はそれ自体が権力になるっ。例えそれが独裁という形になったとしても昨日を省みず、今日しか見ず、明日を考えようとしない人類にはっ……! 話していてわかりました。貴方もまた、人の愚かさを理解している。その若さで……とは言いません。相応の苦労があったのでしょう』


 俺がこいつを多少なりとも理解したように、こいつも俺という人間を理解したらしい。


 先程より大分トーンの下がった声で言いながら顔を向けられたライとマナミは無言で顔を逸らしており、その様子と理論が面白くて再び鼻で笑う。


「ハッ……自分にはその力があり、永久に道を違えず、人々を導き続けられる。だから従えと?」

『ライ様達の理想を否定する貴方こそ理想的過ぎるのです。悠久の時を生き続ける業を持って生まれたのに、人々を導く立場まで与えられたら……疲れてしまいます』


 続いた悲哀の声に、恐らく遥か昔ムクロと交流があったのだろうと察せられた。


 その指摘は正しく正論というやつで、だからこそ俺も口を噤む。


 俺は俺でこの女を否定した口で、人を責められないほど同じくらい野心に満ちた身で同じ力による支配を目論み、地盤を固めた後は全てムクロに押し付けようとしているんだから。


『貴方の言う優しさと暖かさを持った魔王が……彼女がそれを望んだのですか?』


 表には出さなかったものの、内心でハッとした。


 仲間や女にまで言われたことを、まさか敵のボスにまで……。


 胸の奥に何かがチクリと刺さったのがわかった。


 覚悟無き人間に重荷を背負わせるなんて最悪中の最悪だ。


 ただでさえ可愛い盛りの子供と引き離し、戦争だからと父親である自分も子に会おうとしない畜生ぶりなのに。


 多分、普通なら立場がどうでも戦争になってしまったからこそ会いに行くし、大切にするんだろう。それが家族だ。


 だけど……俺は動いてしまった。自らの意思で動き出したのにここで足を止めたら今まで死んでいった連中はどうなる? 撫子も本当なら今頃ライの子供でも身籠っていて、幸せそうに笑っていたかもしれないのに。


「人が今持つ悪癖を捨てられない限り、争いは終わらない。…………止められなかった。これ以上、俺は……仲間の皆や民に傷付いてほしくなくて、ムクロの悲しむ顔も見たくない。ただそれだけで……他種族は迫害、排斥されたから静かに暮らしてたのに……全てお前達が出した欲で起きた戦争だろ、何でこれがわからないんだ」


 当てられたのか、俺の方も悲痛な思いで心の内を吐露すると、部屋の中は痛いほどの沈黙が訪れた。


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