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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
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第275話 無敵の軍隊


 四つ巴の泥沼戦争は拍子抜けするくらいあっさりと終結した。


 あの後、いつ呼び寄せたのやらドラゴンゾンビの背に乗って飛んでいったゼーアロットは別動隊のゾンビ兵に占拠、鹵獲させていた連合の巨大母艦(銀苺)を土産に撤退。


 その代わりとばかりにまた更に別の増援艦隊が遥か上空から核弾頭を落としてきたのには手を焼かされたが、姐さん達の助力もあって被害は少なかった。


 問題はいつも通り戦後処理。


 常に付き纏う被害の把握や怪我人の収容、兵への給金、戦死者遺族への対応やら何やらエトセトラエトセトラ。


 特に今回は終結の理由が理由。


 一先ずはそれぞれのトップが終戦声明を出したことで連合とメサイアの残存艦隊の矛を納めさせ、束の間の休息時間が出来た……ように思われた。


 退いていくニュー・オーダーを見届けた後の迅速な対応だった為か、それともあまりに被害が出過ぎた為か、俺達のような上の人間から末端に至るまでが再び争い出すことなく全軍の怪我人や機体の収容、事態の収拾に追われ、それらが落ち着くまでに実に一週間以上を要した。


 前者はマナミのお陰で半日も掛からなかったが、放射能に犯された人間、物資、地域は数えるのも煩わしいほど。しかも俺の【抜苦与楽】じゃないと除染出来ないとあらば必要な時間は膨大で、二次被害的に治療に当たっていた俺からも放射性反応が出たくらいだった。


 最も対応に困ったのは血気盛んな兵達。


 暴動が起きないようフラストレーションを発散させるにも街も都もない空では酒くらいしか手が打てない。


 今の今まで戦争してた奴等と食糧やら寝る場所やらを分け合うのが複雑なのはわかる。が、まさかルゥネとライ、ロベリア、マナミらが寝れない勢いで抑え込み続けないといけないとは思わなんだ。


 かといって、こんな時にゼーアロットらを追跡せず、その辺の国に助力を乞うのも許されない。


 除染中、聖騎士の連中が俺に斬り掛かってきたり、『天空の民』の奴等が発砲してきたりと問題はそれなりに起きた。


 女兵に対する暴行や下克上を狙った襲撃事件を含め、その他色々と。


 こちらは見せしめとして首謀者連中を処刑して見せ、首やら臓物やらを掲げて抑えたが……ライ達はどうしたのか、一度事が起きてからは直ぐに鎮火した。


 とまあ、そうした俺達の奔走もあってか、戦争が再勃発することもなく、また新世界創造軍(ニュー・オーダー)が動くこともなく二週間の時が過ぎる。


「連合、メサイア、私達の三勢力で臨時同盟? いや無理無理カタツムリでしょ」

「ボクらですら複雑だしねー」

「俺達の気持ちは置いとくにしても、本国の連中は事実を知らないだろ。どう説得すんだ?」

「けっ、獣王は今回もパスだってよ。先回りして封書が届いたって部下の皆が言ってた。アホだよな……ホント、マージでアホ。」


 幸いにも死ぬことなく汚染や再起不能だけで済んだメイや帝国メンバー、アリスは俺とマナミの手によって完全復活。


 アカツキの爆発で死にかけこそすれ、豊富なスキル群のお陰で辛うじて生き延びていたリュウも同じようなことを言っていた。


「百歩譲って僕達の四ヶ国同盟は良いけどさ、果たして向こうがこっちを受け入れてくれるかな。表向きは兎も角として、宗教上の理由から戦争を止めなかった人達だよ?」


 スカーレットのことは本人なりに受け止めたらしい。覇気は全く感じられなかったが。


「そうは言うがな……」

「ゼーアロットは人類共通の敵……かの天空要塞まで強奪された以上、誰が何と言おうと我々が動かざるを得ませんわ」


 俺とルゥネはそう説き伏せるしかなく。


 そしてそれは他の勢力も同じ。


「これは世界と人類の存亡が掛かった事態だ。艦隊の八割が失われた今、俺達に残された手段は種族や国の垣根を越えての協力。どうか……皆の命を俺達に託してほしい」


 戦争と暴動以降、意気消沈といった言葉が相応しかった連合の残党共を、ライはそのように纏めた。


 ヴォルケニスの甲板から演説したのは親交アピール。


 しかし、少し離れた空域に整列させた連合艦隊に対するその演説内容には笑ってしまった。


『り、理屈はわかりますがっ……奴等は薄汚い亜人集団ですぞ……!? 到底納得しかねる!』

『魔帝とやらも信用なりませんな! いたずらに戦火を広げる帝国女帝の男だ!』

『死者も怪我人も元はと言えば帝国が奇襲してきたから増えたのではっ!?』

『勇者殿っ、奴等の数が減った今こそ勝機! 我々で皆の仇をっ!』


 当然、兵達の不平不満は爆発。マイクや通信を使い、態々俺達を煽ってくるんだから救えない。


 どれだけ戦争がしたいんだあいつらは。そして、「お? お? 殺る? 殺っちゃう? おぉん?」みたいな反応し始めたルゥネ達(帝国人)を抑えるこちらの身にもなってほしい。


 しかも、ライの奴も改めてミサキ達の死とノアの半殺し状態を知った時は激昂して俺を責めてきたからな。想定してなかったらしい兵達の反応にもテンパるのもイカれてるが、同じ口でよくもまあとあの神経の図太さには感心すら覚える。


「なし崩しで祭り上げられて、大事な人も失って、傷付けられて……怒りたい気持ちはわかるけど、ライ君は連合で一番偉い立場なんだよ? また戦争がしたいの? 今?」


 結局、口ごもってたところをそんなごもっともな指摘でハッとし、強く「そのような考え方はいけない」と糾弾、説得してその場を収めたが、俺としてはその横槍を入れたマナミもマナミだな。


 何せ、「共通の敵が現れたから急に仲良くしろなんて言われて複雑かもしれません。それでも……私達は今、同じ場所で寝て同じご飯を食べてます。今こそ世界は一つになるべきだと思いませんか?」等と聞こえ良く問い掛けてメサイアの連中を黙らせたくらいだ。


 一度はマナミの優しさ(笑)と甘さに流されて俺達の戦争に介入したとて、現実を見れば暴動だって起きる。


 実際、メサイア兵は連合や帝国の兵よりも敵意剥き出しで最後まで武装を解かなかった。


 聖神教という本来正義側である連合が戦力をほぼ壊滅させて漸く戦争する気を失くす人間達の集まりで、こんな状況になっても差別意識を隠そうとせず、マナミと共に行動していた俺に何度も襲撃を仕掛けるような、どうしようもさを持ち合わせていると知ったんだからな。


 とはいえ。


 そのような、今にも崩壊しそうな協力関係でも国家の代表やカルト組織のボスとしては仮にしろ、略式にしろ、正式な協定を結ばないわけにもいかない訳で。


 心にトラウマを刻まれて戦えなくなった兵を伝令代わりに各本国へ幾つかの艦を戻らせる中、俺達代表者は幾度となく会談する羽目になる。


「正義だの大義だの下らないことに興味はない。俺は俺が求めるものの為に……ムクロの為に戦乱の元を断ち、世界の平定をしたいだけだ」

「戦争は文明の母! ゼーアロットを下したらまた戦いましょう!?」


 それが俺とルゥネの主張。


「核なんてものを軽々しく使う者を許す訳にはいかない。お前達みたいに誤った力を行使する連中もだ」

「そも卑劣にも漁夫の利を得ようと襲撃してきた下賎な輩が居なければこんなことにならなかった筈です!」

『治世を担う者としては此度の協力だけでも絶対的なものにしていただきたいですね』


 というのがライ、ノア、ロベリアの主張。


「何で後のことが問題なのっ、少しでも早くゼーアロットの凶行を止めなきゃいけないって時に! あの人の目的は神への攻撃になる人類の虐殺! 今協力しないとまた核が使われるんだよ!?」


 マナミは机をバンバン叩いてまで感情的に主張してきた。


 一致団結にはまあ程遠い現状。


 ルゥネの【以心伝心】は向こうが使用を拒否するしで溜め息が出てしまう。


「おい……誰かそこの白騎士を摘まみ出せ。こんなんでも戦力だからと癒すのはこの際許すが、無駄に相手を罵る奴となんか会話になるわけないだろ」

「魔族と話すつもりはありません。貴方達はただ我々の管理下にあれば良いっ!」


 何かとこれだ。


 その上、ノアは抜剣して俺に向けてくる始末。


 公の会談とは言い難い場と言っても限度というものがある。


「人を人と思えないからそうやって簡単に事を掻き回せる。何がしたいんだお前は」

「人を詐称する魔物が目の前に居れば斬りたくなるのが正しい人の在り方です」


 ……疲れる女だ。


 こいつらの教義的にはこうして言葉を交わすのも不味いのかね。


「あのなぁ、そもそもの話をするならお前らが俺達の和平交渉に応じていれば戦争も起きてなかったんだぞ」


 苛立ちを前面に押し出し、トントンと円卓を義手の指先で突いていると、テーブルそのものが大きく揺れ始めたので止める。


「和平? 交渉? そのように図に乗る方が悪いと何故思えないのです。我々が人族こそ至高などと低俗な考えを持っているとでも? 勘違いも甚だしい。我々が特段優れているのではなく貴方のような魔族や汚らわしい獣人が劣っているとまだわかりませんか」


 ここで流石のライも良くないと思ったのか、今にも暴れ出しそうなノアを後ろから羽交い締めにして制止に入った。


「ノア、落ち着いてくれっ、君は何でそう喧嘩腰なんだっ……それにユ……シキもっ……お前も言い方ってものがあるだろ。そういう宗教なんだ、少しは歩み寄ってくれ」


 言葉を失った。


 えぇ……? 差別飛び越えて剣向けられてる側が妥協しろって何だよ……


 まさかの発言に怒り、呆れ、脱力を超えて硬直した俺とは対称的に、他の連中の方が大きい反応を示した。


「ぶふぅっ!? ごほっ、ごほっ……し、失礼しましたわ」

『フフフフッ……あら、これは失敬』

「……ライ君、貴方って人はどこまでっ……はあ……」


 ルゥネは優雅に飲んでいた紅茶を噴き出して咳き込み、人形形態のロベリアは失笑、マナミは頭痛でも覚えたようにこめかみを押さえて項垂れている。


「……これだけは言っておく。二度と俺を人()()()時の名で呼ぶな。前も言ったが、魔王扱いも不愉快だ」


 俺は続けて言った。


「それと、何度同じことを言わせりゃ気が済む? その宗教がなければ種族間のいざこざは起きなかったし、お前が居なきゃ俺はここに座ってねぇ。どちらが先ってんならお前らが100悪いんだ認めろハゲ共」

「……誰もハゲてないよユウ君」

「このっ……物を知らない愚か者が――」


 マナミの指摘はスルーし、ノアが何か言おうとしてるのも被せるように事実を述べる。


「――大体。聖神教という組織がどういう目的で作られたかはゼーアロットが証明した筈だ。お前らも俺達も神を詐称する上位生命体に踊らされているに過ぎないんだぞ」


 核の使用……ゼーアロット風に言い換えるなら神への攻撃以来、俺達のステータス画面は誰もが等しく訳のわからない文字の羅列に変わってしまった。


 恐らくはあの〝声〟の影響。


 敵味方関係なく吐いて苦しんだあの謎現象が現状を招いた。


 名前も年齢も職業も、数値欄もスキルも……全てが文字化けしていて読めやしない今の現状を。


「良いか全身白尽くめ女。何も聖神教そのものを否定してるんじゃない。教えも信仰もどうでも良いし、誰が何を信じるかなんてのも心底どうでも良い。その価値観で人を害するなってんだよ。俺が幽霊やUFOを信じてると何かあんのか? ねぇだろ。信仰という形で魔力やら何やらを神に送るのも好きにすりゃあ良い。問題はそのマッチポンプの為に差別意識が生まれ、種族浄化やら戦争やらが起きてる事実だ」


 一気に捲し立てたのは良いものの、戦争という単語を聞いたライ達は無言でルゥネの方に顔を向けた。


「どうしましょう旦那様! 流石の私もちょっと気まずいですわ!」

「……安心しろ、俺も言ってて思った」


 少し考えてから小声で付け足す。


 例えもよく考えたらライとマナミにしか通じないしな。


『「「「…………」」」』

ルゥネ(こいつ)のことは一旦忘れてくれ。この女も大概バカなんだ」

「仮にも皇族の扱いが雑ぅ! なのに否定出来ないのが辛ぁい!」


 親指で指しながら言ったら一斉にツッコミが入った。


「いやこの流れでそれは無理あるだろ……」

「…………」

『ふふっ、いつの世も人が集まれば物事は複雑になるのですよ』

「……というかこの人は何でそんなに戦争したがってるの?」


 視界はないのにライとノアのジト目がわかる。ロベリアの微笑が目に浮かぶ。マナミの呆れ顔が見える。


「…………まあ、その……なんだ。ステータスを含めたシステムは狂ってても何故か身体能力やスキルはそのままだし、今はどっちが悪いとかじゃなくてゼーアロットを打倒してだな……」

「急に弱気になる旦那様が最っ高に可愛い件! ああぁ愛しい可愛い好きです大好きです愛してますぅ! ん~っ、ちゅっ、ちゅっ!」


 突如ルゥネに抱き締められ、再生して二つに戻った小振りな胸に顔を埋めさせられ、キスの雨を降らされた俺はあまりの地獄空間に押し黙った。


「あー……えー……っと……?」

「ライ、この二人斬っても良いですか?」

『見せしめにと自らの部下を容易く粛清出来る夫婦はやはり違いますね』

「絶対に止めてノアちゃん。剣も納めて納めて」


 そうして場が和み(?)、ルゥネが俺を玩具にし出して十分も経たない頃。


「か、会談中失礼します! 新世界創造軍(ニュー・オーダー)に関する新たな情報が入りました!」


 と、伝令兵が部屋の中に割って入ってきた。


 場所はヴォルケニスの作戦会議室。


 兵も帝国の者だが、役目はキッチリするタイプなのか、何故かイチャついてる俺達やライ達に対して何らかのモーションを起こすこともなく得た内容を告げ始めた。


「付近の小国が一つ滅んだとのこと! ブリッジも先日の光を確認致しました! 『砂漠の海賊団』の船長殿、我が方のアイ殿によると、奪われた天空要塞スカイアークは各所に大量の核を搭載っ、奪還はおろか墜とすのも難しい状態だそうです!」

「「「『なっ……!?』」」」


 その場の全員が絶句する中、俺とルゥネはつい笑ってしまった。


「クハッ……そう来たかっ……!」

「これでは迂闊に手を出すのもっ……考えましたわねぇっ!」


 空飛ぶクソデカ戦艦というだけでも厄介なのに詳細な数も掴めないほどの核爆弾を詰め込まれたとなりゃあ……ぶっちゃけお手上げだ。


 超遠距離砲撃で撃ち落とそうが、近付いて墜とそうが……あるいは乗り込んで奪取を試みようが、何かの拍子に一つでも起爆させてしまえば誘爆しての全滅コース。


 爆弾一つにどれほどの放射能があって、どれだけの被害が出るかわからないことを踏まえれば手を出すどころかちょっかいだって掛けたくない事態と言える。


 それらが一度に爆発して核汚染が広まればこの星そのものが人の住めない死の星になる可能性だってあるのだから。


 ジル様でも『付き人』でも、ましてやムクロでもどうにも出来ない。


 その上、奴の野望は知っての通り。


 こいつは……マジで人類滅亡の危機だ。


「っ……な、何てことだっ……!」

「……ロベリア、スカイアークの機能を停止させるようなものはないのですか?」

『あったとして何になります。下手に刺激を与えるだけでも危険でしょう』

「む、無理だよっ……あんな巨大な船を傷一つ付けずにコントロールを奪うなんて……!」


 口を閉ざしたライ達を尻目に、俺は下がろうとしていた兵を呼び止めた。


スカイアーク(銀苺)の進行方向とこちらとの距離はわかるか?」


 虐殺や抹殺という目的を思えばこそ目指している場所は予測出来る。


 恐らく……


「聖都テュフォス。そう……とても追い付けませんか。はてさてどうしたものかっ、考えものですねぇ旦那様っ?」


 ライ達の手前、言い辛そうにしていたからか、ルゥネがにこやかに答えてくれた為、兵は礼と一緒に義手でしっしっと追いやった。


 バタン……と扉が閉まると同時、部屋の中には再び重苦しい空気が漂い出す。


「いや……追い付けたところで、俺達には奴に対抗出来る術がない……」

「よ、よりによって何でテュフォスがっ……」

『これだから地上の人間と関わりたくないのです。少しは自分の頭で考えなさいな。帝国より近く、帝国ほどではないにしろ人が居るからでしょう?』

「……道中にも幾つか国はあるよ。ゾンビ兵を補充したいんじゃないかな」


 斯く言う俺達も戦闘空域から離れ、奴等を追っているが、如何せん数が違う。総魔力量が違う。航行速度に違いが出るのは当然と言えば当然。


 しかし、まさかここまで行動が早いとは思ってなかった。


「補充と……奴自身の食糧確保を含めると猶予はどんなもんだ?」

『仮にフルスロットルで移動すれば一週間です。アレはそれが可能なエンジンと特殊な変換機構を搭載しています』

「フェイ達は幾つかのジェネレーターを破壊したと言ってましたし、修理後の行動だとしても【死者蘇生】は触れる必要がありますわ。暫定で最低二週間以上と考えても問題ないのでは?」


 放射能を対処法は謎だが、ゾンビ兵に死体を運ばせたところで能力の特性上、戦力の補充にはどうしたって時間が掛かる筈。


 それらの点を踏まえて女王と女帝は話し合いを続ける。


『追ってきたから諦めたのかと思っていたらあの者らは……因みにどの箇所か伺っても?』

「イメージとしてはこんな感じですわ」


 どうやら【以心伝心】で情報やその時の状況を共有したらしい。


 ロベリアは若干の沈黙ののち、成る程と頷いて『流石は元エース部隊、狙いが正確……マテリアルボディを使ってない生身の者の割合は一割から二割……一部は生かされた上で脅迫されているとしてこの破壊状況なら……』などとぶつぶつ呟くと、少し安堵したような声色で猶予期間を口にした。


『三週間……我々が立て直しに掛かった二週間では恐らく完全な修復は不可能です。その上で道中全ての国を滅亡させ、戦力を取り込むつもりなのだとしたらどんなに速くてもそれくらい掛かるかと』


 早いんだか、遅いんだか。


「……いや待て、早いな。それもビビるくらいに」


 一瞬首を傾げ掛けて直ぐに思い直す。


 イクシアや既に滅亡した国を含めれば大陸の六~七割の国が滅ぶことになる。


 俺達が与えた損害で生まれた時間を抜きにしたって、それだけの数の人間の死滅に一ヶ月掛からないと考えれば早過ぎるくらいだ。


『「「…………」」』


 あまりの事態に何処か他人事のようにすら感じてしまい、俺達は静かに頭を抱えた。


「元より奇襲じゃないととても攻められない物量差だってぇのに……こっちは全軍が消耗して、向こうは増える一方っておいおい……」

「艦隊も邪魔、航空戦力も邪魔……本格的に手がありませんわ。ゾンビ兵には飛べない個体も多いでしょうし……」

『やはり数がネックですね。どこから攻めてもこちらの所在は露呈してしまいます。そこに核を撃たれでもしてしまえば……』

「地上への被害を最小限にする為には上空からの突撃しかないけど……向こうもそれは警戒するよね。上昇を掛ける時点で魔力反応を追われるだろうし……」


 兵や艦の量は歴然で東西南北陸海空、全てにおいて鉄壁の布陣。


「まさに無敵……か」


 定石通りなら下か上からが基本だが、軍を展開する前に阻まれ、バレるんじゃそれ以前の話になる。


 レーダーを殺したところでその行動自体が俺達の存在を告げているようなもんだしな。


「追い付けたところで、どうにか奴と対峙出来たところで……どうやって倒すかも問題だろ」

「奴のステータスは未知数。既存の攻撃法では何をしても無駄でしょう」

「……ライ君忘れたの? 私達は一回勝ってるんだよ? どんなに強い相手でも人間なら殺す方法は幾らでもあるよ」


 ライとノアのズレた認識はマナミが訂正してくれた。


 とはいえ……


 スカーレットの最期とアカツキの呆気ない爆散は記憶に新しい。


 どちらも俺達ですら苦戦する戦力でありながらあの様だ。


「それでも、あの時とは状況も奴の強さも違う。強ちそこのバカ共が間違ってるとも言えんぞ」


 皆も似たようなことを思ったんだろう。俺のフォローを最後に、場は完全に沈黙。


 僅かの休憩を挟んだ俺達はどうせ攻略法を考えるのならとリュウやフェイ、アリス達を呼び、再会談と相成った。


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