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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
294/334

第274話 圧倒と幕切れ

たまに何度も読み返さないと文の意味がわからない時があるんですけど、これは果たして鬱なのか疲れてるのか……。

脳が死んでるせいで上手く文が構成出来てるか、誤字があるかどうかもわからない上、探す余力もないのに何故か書きたい欲はあるという……(´・ω・`; )


「フハハハハハハッ! 欲しっ、求めっ、祈りたまえっ! さすればぁっ……!!」


 俺の刀剣は腕で弾かれ、ライの聖剣は素手で受け止められる。


「くっ……熱が伝わる前にっ……」


 以前やられたことで警戒しているらしい。千切れそうな反動の中、魔粒子を放出して堪え忍び、何度も振り下ろすが、その度に一瞬だけ触れて弾くという神業的……俺からすれば赤子に対するような防御で対処されてしまう。


「聖神教をっ……人々を裏切ったお前がその教えを口にするのかッ!」


 ライの方も掴まれたのならと聖剣を離し、両手を奴に向けて属性魔法を放つが、至近距離からの攻撃すら『最強』足るステータスのせいで傷一つ付きやしない。


「っ、そうでしたっ……聖剣は認められた者しか持てないんでしたねぇ……!」


 俺達の猛攻よりも特殊な性質のある聖剣の方を面倒臭そうに放り投げている。


 次いで、「フンッ!」と気合いの咆哮一つ。


 全身から出した膨大な魔力を衝撃波のように飛ばし、追加で発生していたライの属性魔法を消滅させた。


「おいおいっ……」

「だがっ、ここまで近付けばっ……!」


 義眼に映っていた多種多様多色の魔力の塊が、全方位に一斉に顕現したにも拘わらず、奴の魔力によって一瞬で流され、消えていく。


 その光景と攻防に驚く俺を他所にライは一歩踏み出して肉薄。電気状になった右拳をゼーアロット目掛けて振り抜いた。


「ハッ……脳を直接焼けば流石の私様でも死ぬとお思いで?」


 物理最強はやはり伊達じゃないらしい。


 残像が生まれるほどの首反らしで容易く躱され、思い切り空を切らされた。


「当てられると……良いっ、ですねぇっ!」


 言いながら放った膝蹴りが無防備なライの腹に突き刺さり、頑丈な筈のMFAが砕け散る。


「ぐっ!?」


 血反吐を吐いて吹き飛ぶ寸前、今度はそれよりも速い回し蹴りがライを撥ね飛ばした。


「がぁっ!?」


 瞬きほどの短い時間で遠くの壁まで飛んでいく間に、当然俺も動いている。


 が、背後から迫った俺の横薙ぎを見向きもせずに肘鉄で防ぎ、追撃の二連義足蹴りも雑にドアでも押すかのように足裏で受け止めやがった。


 こっちはブレードを出して放ったってのに。


 剣戟みたいな音と共に軽く。


「硬っ……い、なァッ!」


 それならと向けた義手から小型魔導砲を発射しても、何事も無かったかのように高濃度の魔力の奔流の中から顔を出す始末。


「そうでしょうともっ!」

「ま、魔力を纏っただけでっ……!? でえぇいっ……!」


 強い。


 その事実を改めて受け止めながら逆噴射を掛け、技術もへったくれもないただの拳の振り下ろしから逃れる。


 否、そのままMFAに点火し、加速。ゼーアロットの周囲を飛び回り、刀剣と義足、時には義手の爪を使って各方面から攻め続ける。


「むぅ……それ、便利そう、です、ねぇっ」


 最早、防ごうという意思すらなかった。


 赤熱化している刀剣だけは指先やデコピンでちょんちょんと相手をしているが、他は何をしてもびくともしない。


「余裕だなっ、えぇっ!?」

「当然っ! 先の爆発でどれほどの力を得たと思っているのですっ!?」


 既に攻略法は潰えた。


 今の俺に出せる最大火力も効かないんだ、俺なんぞ小煩い羽虫程度にしか思えないんだろう。


 ゼーアロットは嬉々として自身の強さの秘密を暴露し出した。


「我が能力は殺した相手のステータス値とスキルをランダムに奪うもの! ゾンビ兵を生み出す為に小国も幾つか飲み込みましたっ! 以前とは違いますよっ、以前とはぁっ!」


 【弱肉強食】……何処までもチートな力だ。


「だからって指ぃ咥えてる訳にもいかないんだよッ!」


 嘗て地球で入手した強酸の類いもこちらがぶっかけるモーションに入った時点で別の地点まで瞬間移動……恐らくは普通の飛び退きで逃げられる。


 あまりに激しい挙動は容器が持たない為、直ぐ様マジックバッグマントの中に戻し、再び刀剣で追い回す他なかった。


「くっ……間接的でも殺すことが発動条件か! やはり貴方はこの世に居てはならないっ!」


 回復魔法で復活を遂げたらしいライが今度は上から降ってきてそう言った。


 手には拾った聖剣を構えているが……


 振る前に距離を詰められ、手首を掴まれ、俺の前に投げ飛ばされてきた。


「ぐっ、あっ!?」

「っ、このバカっ!」


 眼球なら……と突こうとしていた俺は咄嗟に刀身から魔粒子を出すことで向きを変え、甘んじてクソッタレ勇者との抱擁を受け入れることになる。


「ぐはぁっ!?」

「ぐうぅっ……邪魔ばっかしやがって……!」


 二人仲良く身体を浮かせ、壁まで飛ばされるところを逆噴射で堪えた次の瞬間。


「お遊びもそろそろにしましょうかね」


 ()()()ゾッとするような声が聞こえた。


「「っ!?」」


 物理法則はどうなっているのか、奴はいつの間にか俺達の背後で正拳突きの構えに入っていた。


「貴方様方さえ消してしまえば世界は我が手にッ……!」


 俺に出来たのはMFAの性能に物を言わせてライを吹き飛ばすことだけ。


「っ!? シ……ユウっ!?」


 ライもそれなりの重量で回避は間に合わなかった。


「がっ……ごっ、がっ……!!?」


 悪態を吐く間もなく伸びてきたゼーアロットの大きい腕が俺の胴体ど真ん中をブチ抜き、MFAの装甲を貫いていく。


 皮膚も肉も骨も内臓も、手遅れレベルの穴が空いたのがわかった。


 肺どころか心臓も潰されたかもしれない。


「うっ、ぐっ……ごぼっ……!」


 久方ぶりの、痛みすら感じない致命傷。


「フッ……っ、お、お……や……?」


 ゼーアロットは俺から腕を抜こうとして()()に気付いたようだった。


「う、腕がっ……っ!? まさかっ……!?」


 呻き声くらいしか出せないから心の中で種明かししてやる。


 《闇魔法》で……〝粘纏〟で固定した。


 腹に空いた穴、傷口を埋めるようにたっぷりと出した『闇』だ。


 例え俺が死んでも外れないし、消えない。


 こうまでしないと近付くことも儘ならないんでな。


 そして……


 この距離なら……!


「ごぽっ……ぉっ……ぁっ……あっ……アアァッ……!!」


 どうしても力の抜ける身体に渇を入れ、何とか左手の刀剣を持ち上げた俺は文字通り命を賭けた一撃を奴の顔面に叩き込んだ。


「っ……火傷するから嫌なんですよねぇこれ……」


 受け入れ難い現実に意識が遠退く。


 寸前のところで、空いていた手に止められた。


 ジューッ……と、皮膚が焼ける音と煙が奴の手のひらから漏れる。


「っ……っ……!」


 押すも引くも出来ない。


「身を呈して私様に届き得る勇者様を守り、窮地を戦法に組み込む……その胆力は認めましょう」


 少しずつ脱力していく腕が刀剣を手放し、だらんとし始めた。


 魔力を送ろうにも、霧散していくばかりで義手も義足も動かない。


「貴方様はよく戦いましたよ、えぇ」


 熱され、赤くなっているであろう刀身がさも熱そうに手を振られ、虚しく床に落ちる。


 そのままトドメを刺すべく振りかぶる腕を義眼越しに見ながら、思考が絶望一色に染まった。


 この俺が軽傷を与えて終わりって……


 後悔にも似た生への執着心が過った。


 こんなところで死ぬ訳には……


 激情染みた怒りと闘志が今更ながらに湧いた。

 

 ムクロにも皆にも顔向けが出来ないじゃないか……!


 刹那。


 ――その意気ですわっ、それでこそ私の旦那様ッ!


 と、何処からともなくルゥネの声が響いた。


 幻聴かと自分を疑うよりも前に、二つの声と音が格納庫を木霊する。


「本当に……よくやったよ、お前は……!」


 俺相手に両手を使ったゼーアロットの背後。


 俺の巨大な義手によって隠れていたライの声。


 遅れて……


『ライ……まああぁっ!?』


 遠くから途切れ途切れに、ロベリアの声。


「っ!? 気配をっ……!?」


 何はともあれ……


 どうにか俺に意識を向けさせることが出来た。


 ゼーアロットは今の今まで忘れていたライに驚き、しかし、反応するよりも先に両手を添えられた。


 心臓のある胴体に何度感電させても効かなかったからと、人体最大の弱点である脳がある頭部に。


「これでっ……終わり――」


 勝った。


 そう思って《闇魔法》を解き、奴の腕からずるりと抜け落ちた直後。


『――逃がさないってんだよッ!』


 思わぬ激震がヴォルケニスを襲い、ゼーアロットの体勢を崩させた。


「ぬおっ!?」

「なっ!?」


 如何な『最強』のステータスを持っていても、直に足場が揺らされればすっ転びもする。


 宙に浮いていて何の影響も受けなかったライの雷撃はゼーアロットの髪を焦がしながらその先の壁に飛んでいってしまった。


「くっ……!!」


 ギリッ……と俺に聞こえるほど強く歯軋りしつつ、ライは代わりにサマーソルトキックを決めて地面に着地。俺を抱き抱えて《縮地》で離れる。


『ライ様っ、ライ様ご無事ですかっ!?』

『チッ、絶機だからって……っ、た、大将っ!? その怪我っ……嘘でしょ大丈夫かいっ!?』


 後退中、いつの間にか空いていた格納庫端の壁の穴からロベリアとフェイの両機がそれぞれの魔力の色を放ちながら現れたのが見えた。


 どうやらあの二人が突撃してきたことが原因らしい。


「ロベリアっ!? 何でここにっ……いや、それより何てことをしてくれたんだっ! ユウが折角作ってくれたチャンスだったのに!」


 【明鏡止水】を解いてまで怒髪天を衝いていたライの主張に内心、強く強く同意していたが、別の現象を見て直ぐにそんな思いも吹き飛ぶ。


 ライもまた全身の傷とMFAの装甲が修復され始めたことに気が付いたようだった。


「お、遅れてごめんね、二人ともっ……! 今『治』したよ!」


 見ればマナミが立ち上がってこちらに手を向けている。


 『最強』の回復役が戻ってきた。


 俺の腹に空いたデカい穴も傷口から再生した細胞や血肉、骨に内臓で埋められ、塞がっていく。


 息が出来るようになり、吐き気を催すような痛みが戻り、その痛みもやがて消えた。


「離せっ、気色悪いっ!」

「っ、こいつっ……減らず口をっ……!」


 いつまでもくっつき、やけに嬉しそうにしているライを突き飛ばすと同時、左手をゼーアロットの足元に落ちている刀剣に向け、〝粘纏〟の糸を飛ばす。


 立ち上がりながら状況把握に努めていたゼーアロットはさせないとばかりに手を伸ばしてきた。


「っ、つ、次から次へとっ……忌々――」

「――させませんわッ!」


 ドパァン……! という発砲音そのものに弾かれたように、ゼーアロットの手が止まり、俺は無事刀剣を回収することが出来た。


「ルゥネ! 良かったっ、支障はないようだな!」


 声の方向にはマナミよりもしっかりとした足取りで走り出しているルゥネの姿がある。


「そのようですっ! まあ死ぬかと思いましたけどね!」


 俺とライはMFAをフル稼動させ、ぬるりとした空中飛行を実現させると、マナミの元に集結した。


「旦那様っ!」


 後ろ手に発砲しながら抱き付いてきたルゥネをキャッチし、新たな魔力充電池(マナコンデンサー)を義手のアタッチメントに装着させる俺と怒涛の稲妻を放ちながらマナミと合流したライはやはり同時に叫んだ。


「フェイ! 複雑だろうが、そいつたぁ一時休戦だっ! 来いっ!」

「ロベリアも手を貸してくれ! この男を放っておけば世界はっ……!」

 

 言われた二人もルゥネの弾丸を鬱陶しそうに手を払って弾くゼーアロットを見て僅かに逡巡する。


『うぇっ? いやでも大将、今大怪我してっ……はぁっ!? 素手でっ……何なのさそいつは!』

『っ、その者がっ……で、ですがライ様っ、そこな黒き鬼は貴方様の伴侶を二人も殺したのですよ!?』


 戦力が分散すれば勝ちの目は失くなる。


 ルゥネもそう考えたのか、【以心伝心】のリンクがゼーアロット以外の全員を繋ぎ、それぞれの心情を晒け出させた。


 ――あの機械女っ、このクソ忙しい時に余計なことを……!

 ――な、んっ……!? ミサキとマリアがユウに!?

 ――そう……あの二人がっ……でもねライ君っ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ!?

 ――何が何やらっ……訳がわからないさねっ、も少しわかりやすく!

 ――我が艦隊も消滅したというのにこの状況っ……! この場の者達の命でも贖えるかどうかっ……!


 俺達の記憶と意識、情報と心が交差する。


 その上で、ルゥネの声が一際強く俺達を纏め上げた。


「前を見なさいなッ! ここで協力出来なければ我々も世界も終わりますわよっ!!」


 そうして、ずびしと指差された先は無論、ゼーアロット。


「今は()を倒すことだけに集中っ!」


 敵。


 そう、敵だ。


 俺達魔帝同盟軍にとっても、ライとロベリアら連合にとっても、マナミらメサイア軍にとっても。


 世界共通の。


「ふーっ……ようやっと……戻って、きやがったぜ……」

「うええぇ、まだちょっと気持ち悪いよぉっ……!」

『うわ何これステータス画面がバグって……?  いや、そうじゃないね……ルゥネさんの言う通り……』


 リーフやスカーレット、リュウも復活した。


 対するゼーアロットはというと。


「…………」


 無言だった。


 全員が互いへの感情を捨て、一斉に獲物を自分に向けてきたことに対して何の反応も見せない。


 殺気も闘気も、感情すら。


 だが……考えることは何となくわかる。


 恐らく面倒だとか外はどうなってるかだとか、そういう類いのこと。


 その証拠に、奴は少しの間俺達を見渡した後、壁際まで移動し、新たな穴を空けた。


 ズガアアァンッ……! と、本来超硬度を誇る装甲を拳一つで簡単に破壊して見せ、艦がまた激しく揺れる。


 俺達も無言のまま意識を共有し、ゆっくりと歩き出す。


 ――チャンスだ。奴は空を飛べない。どうにかして外に追い出せば俺とユウで……!

 ――馬鹿かお前は。理想は打倒だが、俺達じゃ奴には敵わん。


 魔銃を構えたロベリアを手で制したライの提案を被せるように却下する。


 飛行している戦艦内で地上戦というのも変な話だが、地に足が付いた状態では相手にならない。


 それは俺とライが証明した通り。


 とはいえ。


 だからといって空中戦が最善の手とも限らない。


 ――なっ……じゃあどうしろって言うの……!?


 マナミが憤ってこちらに顔を向けてきた。


 睨んでるらしい。


 ――あの男が自分の服の中に手を伸ばした途端にドカンだったのです。発射か起爆……どちらか用のリモコンか何かを隠し持っている筈ですわ。


 俺の代わりにルゥネが答え、マナミだけでなくライや他の奴等もハッとする。


 どのみち倒せないのならという苦肉の策ではあるが、二度目三度目の核爆発を起こさせない為にはその何かの破壊ないし強奪が優先。


 方針は固まった。


 しかし、それに異を唱える奴が一人。


「へっへーんっ! スーちゃん難しい話はよくわかんないもんねー!」


 幼さ故に、身勝手にもスカーレットが単身飛び出してしまった。


「あのクソガキっ……! リュウっ、止めさせろっ、死ぬぞ!」

『だ、ダメだよ!』


 この状況に血が騒ぐのか、はたまた既に《狂化》していたのか、抑え役のリュウの静止すら聞かず、赤白の斧を片手に真っ直ぐ突っ込んだ幼女は続けて何かを言う前に……獲物を振り下ろす前に上半身を消失させた。


 人が潰れたとも空気が破裂したとも取れる何とも不愉快な音。


 俺の義眼は幼女の上半身があった場所にゼーアロットが拳を突き出している光景を捉えている。


 外の様子を窺っていたかの大男がやはり見もせずにパンチを繰り出し、スカーレットの腹から上が全て爆ぜた。


 事実としてはそれだけ。


『えっ……?』


 他が息を飲んで驚く中、アカツキから呆けたような声が漏れる。


 遅れて残っていた下半身が力無く崩れ落ちる様は同じ死に方をした早瀬を彷彿とさせた。


「馬鹿野郎っ、犬死にだぞ……!」


 思わずそう吐き捨てる。


 あれだけ個性的でウザったらしいガキが呆気なく死んだ。


 嘗てシャムザで俺と良い勝負をし、気付けば敵から仲間になっていた……撫子の形見とも言える子供が。


「ふむ……威力が高過ぎましたか。想像以上に立て直せてませんねぇ……」


 顔に付いたらしい返り血を拭い、何事もなかったように呟くゼーアロット。


 その現実と態度がリュウに火を付けた。


『あっ……あっ……ああぁっ……!』


 コックピット内で顔や髪でも引っ張ってるような、絞り出したような弱々しい声の後、リュウらしからぬ怒気と殺意が【以心伝心】を通じて伝わってくる。


「っ、止めろ! お前まで殺られ――」

『――うわあああああああっ!!!』

 

 止めようとした俺はリュウの絶叫と、アカツキの背面スラスターから轟ッ! と噴出した濃密な魔力で黙らせられ、機体の方は押し出されるようにして突撃する。


『よくもっ、よくもおおぉっ!!』


 体当たりと相違ない特攻は同じ、興味すら無さげな拳で返され……


 その上、何らかのスキルを使われたのか、マニピュレーターから腕部を伝った粉砕エネルギーはあっという間に頭部ユニットや胸部装甲まで走り、スカーレットの最期をなぞるように機体の上半身を破壊し尽くした。


 それどころか魔導エンジンにまで到達したらしく、盛大に爆発。


「「「リュウ (君)っ!」」」


 俺達がその爆風に飛ばされそうになっても、ゼーアロットはそよ風扱いで平然としていた。


 やがて収まり、黒煙が辺りを包み込む。


 バラバラになったアカツキの残骸だけが擬似視界に映った。


 ライの感知系スキルを持ってしてもリュウの存在を感じられなかったようで、驚愕と絶望、疑心といったぐちゃぐちゃの感情が俺、ライ、マナミを染め上げる。


 たった数秒で二人も殺られた。


 仮にも強者の部類に入る二人がいとも簡単に。


「救済は間近なのです。それでも……彼女らのように今を望みますか?」


 硬直している俺達の元にゼーアロットの冷淡な声が届く。


 そして、格納庫全体に『圧』が放たれ、埋め尽くされた。


 物理的な重圧すら感じさせる殺気。


 動けない。


 動いたら死ぬ。


 殺される。


 ルゥネを通して繋がっているからこそ、全員の意識が同じものになる。


 息しているかもわからないほど飲まれた俺達は時が止まったように誰も何も言わず、動けなかった。


「何やら策を練っていたようですが、無駄な足掻きというものです」


 ジル様とも『付き人』とも違う圧倒的な力の前に、行動しようという気力すら湧かない。


 それは魔導機械であるロベリアも、ましてや威勢が良いだけで貧弱な種族のフェイも同じこと。


 勝てない。


 心底からそう思い知らされてしまった。


「まあ……目的は達することは出来ました。その褒美として時間を差し上げましょう」


 その声音には僅かだが、疲れのようなものが感じられた。


 先程同様、俺達を面倒に思う気持ちと知れた外の様子から安堵というか若干の嬉しさも。


「そのように怯え縮こまるのも良いでしょう。より強大な存在に助けを求めるも良し。逆に自分達で私様を止められると思うならそれも良し。世界は……もう少し痛みを知るべきです」


 そんな不可思議な文言を最後に、ゼーアロットは自らが空けた大きな穴から飛び降り、姿を消した。


 追手を拒むように幾つかの核弾頭を足止めに使って。


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