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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
292/334

第272話 〝声〟

圧倒的文章力不足ッ!


それと遅れてすいません!(; ・`ω・´)


 総勢三十隻少々……同盟の各国が所持する艦数に匹敵する戦力を率い、戦場のど真ん中に突如現れ足るは『砂漠の海賊団』。


 『海の国』が所持するものと同型の艦で構成され、且つ目印のつもりか、髑髏のマークを各箇所に付けたその群れは先のメサイア艦隊の襲撃をなぞるかのように、似たような軌道で遥か上空から降下してきた。


 行動もまた、同じ。


『私達の艦隊を見ても反応がないってことは……ルゥネさんも坊やも戦闘中よ! 全艦砲撃開始ぃッ! 各々、過去のいざこざは一旦忘れて帝国軍を幇助しなさい!』


 中央にて音頭を取っていた青い特別艦……大型ジェネレーター四基搭載型からの発令を機に一斉射。


 登場とほぼ同時に放たれた砲弾の雨は連合艦隊に鑪を踏ませ、元より後退していた帝国艦隊に撤退の猶予を与えた。


「っ、いつぞやのっ……シキの野郎の仲間だな!? 助かったぜっ!」

「ほらっ、ボク達も退くよっ!」

「おーセシリアちゃーんっ! 久しぶりーっ、あんがとなー!!」


 殿として最後まで残っていたテキオ、ココ、アリスが手を振って感謝を伝え、帝国艦隊が後退速度を上げたその時。


『っ……!? たっ、退避! 退避ぃっ! 帝国艦隊も全速力で退きなさいっ!! アレが爆発するわっ、兎に角逃げっ……伏せてっ!』


 逸早く『視』たらしいセシリアの焦りに満ちた声が戦場に響いた。


 現状で最も艦長歴の長い彼女の采配は見事という他なく、たった一度の砲撃で全陣営の艦隊を空域ごとに分けている。


 それぞれにゾンビ兵も付いているものの、巨大母艦を含めた連合の後方部隊、連合の前方部隊&メサイア軍の主力、帝国という三つに。


 そして、意図しないタイミングでルゥネの【以心伝心】のリンクが復活した。


 (っ、こ、こちらルゥネ! (なに)か不味いですわっ! 何でも良いから情報をっ! 火急速やかにッ!!)


 何やら激しく焦り、激しく恐怖したような、切羽詰まった声。


 (か、閣下!? 現在、全艦は後退中っ!)

 (かの海賊共の助力で被害は軽微であります!)

 (しかしっ……)

 (何やら退けとの指示がっ!)


 質や量は二の次か、最初に全艦長同士の意識……危機感や情報、心境が一瞬で交差した。


 続いて全部隊長、果ては末端の兵に至るまで。


 (うおっ、姫さん!? やべぇよっ、未来予知の姉ちゃんが全力で逃げろって!)

 (『核』だよっ、爆発が来る! ルゥちゃんっ!!)

 (つぅかユウちゃんとメイちゃんは!? セシリアちゃんの言うってアレってまさか……!?)


 彼、彼女、老若男女問わず、帝国側の殆どの人間の脳内で多種多様大量の情報が錯綜。


 セシリアの注意喚起に最も早くその光景を、教科書や写真で見たものを連想していたココの予感もあり、意識を共有した全員の反射的な思考が一致した。


『『『『『こ、後退っ、後退いぃっ!!』』』』』

「おい聞こえたなっ!? 俺達も逃げんぞっ!」

「兵の皆もっ、あの人達のお陰で攻撃は止んだでしょ!? 背中を狙われても良いから退くのっ!」

「うげっ、ま、マジかよっ……お前らも来いッ! 絶対に後ろ見んなよッ!」

「ひにゃあっ!?」

「キャイィンっ……!?」


 生き残った艦の長達とテキオらは敵方の追撃も無視して全力の逃げの手に出た。


 そんな彼等の行動が連合艦隊にどう映るか。


 突然の全速後退。対空砲火は止み、厄介だった航空部隊までもが退き出すという暴挙。


 何らかの重大な問題が発生した、残弾数や兵に限界が来た。


 そのようにしか感じられない。


 既に押されつつある戦場で起死回生の策を打ってきたとも考え辛い。


 当然、好機と捉え……一気に勢い付いて前進を開始した。


 刹那。


 戦場の中心()()が爆ぜた。







 カッッ……!!!







 ()()は正しく太陽の誕生。


 毒を撒き散らす災厄。


 ギリギリで爆発の範囲外に居た者は全てをかき消す轟音に耳を奪われた。


 脅威を正しく理解していなかった末端兵は陣営問わず全てを飲み込む光に眼球を焼かれた。


 瞬時に発生した全てを焼く火は周囲周辺付近の一切合切を消し飛ばした。


 遅れてやってきた凄絶な衝撃波は遠く離れた兵やアンダーゴーレムは勿論、艦をも吹き飛ばし、ぶつけ合い、有無すら言わせずに無惨なまでな死を量産した。


 地獄の業火。


 天変地異。


 神の雷。


 言葉では言い表せないその惨劇は連合艦隊やその航空部隊が集中する空域で起きた。


「うおおおおぉっ!!?」

「き、たあああぁっ!?」

「うわっ、ちょっ、これヤバッ……!?」

「「うぎゃああああああっ!?」」


 テキオらのように初動の早かった者はあまりの威力に散らされた。


 抵抗するしない、耐える耐えない以前に有無すら言えず各方面に。


 直撃に等しかった連合、メサイア、ゾンビ兵は爆発の中に消えた。


 遅れて、光と爆発の終息と共に出来上がっていった超巨大キノコ雲が戦場に咲き誇る。


 地上の森林や山々は火の海と化し、焦土と化し、戦闘空域では爆発の余波で誘爆していく艦や黒ずんだ何かに変貌して落ちゆく末端兵で溢れていた。


 この世の地獄を再現したかのような惨状だった。


 テキオらが逆噴射やスキルで体勢を整えた頃には一帯を染めるかのように黒い雨が降り始める。


「うわああああっ!!」

「ひぎゃあぁっ!?」

「何だ今のっ!? この世の終わりか!?」

「目がっ……前が見えねぇっ、死んだのか俺はっ……!」

「なっ……何で何も聞こえっ……!? 誰かっ……耳をやられたっ、助けておくれよぉっ!」


 エアクラフトに乗っていた帝国兵はその過半数が行方不明になっているが、その事に気を回す余裕もなく。


「お、おいおいっ……これっ……放射能を含んでるってやつじゃっ……っ、お前らっ! 生きてる奴は居るかっ!? 無事な奴は負傷者を連れて艦に戻れ! 戦争なんてやってる場合じゃねぇ!」


 髪や肌、服に装備の色が変わっていく。


 その事実にサーッと顔を青ざめさせたテキオは「生き残ったのは素直に俺達の言うこと聞いた奴等だけかよっ……クソっ!」と無事だった味方艦隊を指差し、未だ錯乱中の帝国兵を退かせる。


「あっ……あっ……あぁっ……目がっ……耳がっ、は、羽根の感覚がっ……! 嘘でしょっ……こ、こんなっ……こんなのがっ……!?」


 ココは身の半分が猛禽類故に直撃はしなくとも余波だけで再起不能に。五感と翼をやられて墜ちていた。


 運良く近くに飛ばされていたアリスがそれを拾う。


「っとナイスキャッチ俺! 大丈夫かココちゃん! つ、つーかマジでやべぇっ、俺も鼓膜がっ……この感じだと純粋な人族以外は全滅か……?」


 お姫様抱っこのまま空を蹴って高度を維持しつつ、仲間の状態を確認。


「ぎにゃああああああっ!? 目がっ、耳が痛いにゃあああっ!!」

「…………」


 比較的付近に居た者は墜ちながらも悶絶し、気絶しているだけと知って安心したものの、他……最低でも五人以上の姿が見えなかった。


 苦楽を共にしてきた部下にして仲間である獣戦士団の壊滅。


 アリスはギリッと歯を食いしばり、一瞬俯いた後、切り替えたように動き出す。


「っ……ココちゃん悪ぃっ、痛いかもだけど勘弁なっ!」


 手が塞がっていては……と、ココの鳥脚を鷲掴みにし、宙ぶらりんにして持ち上げると、〝気〟を使って加速。生き残った、五感のいずれかをやられてパニックになっている者、気絶している者の首根っこを足首や腕、胸に引っ掻けるようにして回収していく。


「うっわ……やっばぁ……固有スキルなきゃ再起不能だった……ゴメンね、アリス。助かったよ」

「ああんっ!? 何か言ったか!? 黙ってろっ、舌噛むぜ! そんでもって……うぉいコラお前らぁっ! 重いんだよっ、さっさと正気に戻りやがれ!」


 『核』は想定以上の威力だった。


 転生者らその事実に打ちのめされながらも撤退指示を出し続ける。


 現地人である帝国兵は悲惨も悲惨。恐慌状態で話もまともに出来ないか、他の陣営同様に黒炭となっている。


 こんな状況では憎き帝国も何もないと重く捉えたのだろう。


 そこに三隻ほどの巡洋艦と例の特艦が寄ってきた。


『アリス! 帝国の人達もっ、皆無事っ!? 私達の艦に飛び乗って! 早く!』

「せ、セシリアさん……!? ほらアリスっ、行くよ! ボクらは投げて良いから!」


 目も耳も翼も失ったとはいえ、ココは自身の能力【応急措置】で一時的に不死状態になることが可能。片目片耳分程度の五感も補える。


 鳥脚の首を乱雑に掴まれ、蝙蝠のようになっていた彼女は有難い申し出に歓喜し、「うおっ、何だこいつら!? 敵か!?」などと驚いてるアリスをズタボロの翼で叩いた。


「もうっ、このアホ! この状況で撃ち落とされてないんだから味方だよ!」

「えっ!? 何て!? 聞こえねぇよ!」

「なら唇の動きでわかるでしょ!」

「母親のっ……何だってっ!? 母ちゃんが何だよ!」


 潰れた目をこれでもかとひそめ、「言ってないわッ! コントか!」と二度目の翼打ち。腕が翼になっているせいでテキオのように指を差せないことが裏目に出てしまったらしい。


「ご・う・りゅ・う! 合流だってば!」

「はぁ!? 腹減った!? 今っ!?」

「違ああぁううっ!! 気ぃ使って母音の少ない日本語で話してるのに何で間違えるの!? おたんこなすっ、アホっ、アホ猫ぉっ!」

「えぇ……? こ、コウノトリ……?」

『言い合いなんてしてないで早くっ! 回収用にエアクラフト隊とシエレンの部隊を出したわっ、帝国兵も素直に来るっ!』


 何はともあれ、無事な者は次々と収容され、撤退していく。


 同様に後退を始めた連合艦隊の中を、キノコ雲の中を、帝国艦隊の中を一直線に突き進む黄金の機体の存在はその混乱や喧騒が覆い隠し、一部の者しか気付かなかった。






 ◇ ◇ ◇


「ゼーアロットおおぉっ!」


 袈裟斬り、斬り上げ、突きに蹴り、属性魔法、固有スキル。

 

 ライが放つそれらはその全てが神速にして超威力。


 シキをしても捌ききれないであろう勇者らしい猛攻は果たして……素手で軽く弾かれ、怒気の乗った咆哮はせせら笑いで返されていた。


「ほほっ、変わりませんねぇ貴方様もっ」


 血で染まった修道服を筋肉の鎧で圧迫し、動く度に何処かしらが破けてなくなっていくのも気にせず、白髪の大男はニヤニヤと薄気味の悪い笑みを浮かべたまま拳で、指で、手刀でライの攻撃を往なしている。


 その様子はまるで赤子と大人。


 《縮地》や【紫電一閃】で消え、死角から斬り掛かっても視線を向けすらしない、蚊でも払うかのような手つきに吹き飛ばされる。


 反撃の隙は与えまいと属性魔法で攻めても同様。


「お前っ……だけっ、はああぁっ!!」

 

 義憤と同時に放たれた全属性の球、矢、槍、壁が目まぐるしくゼーアロットを囲い、襲い、凄まじい爆発を起こすが、直撃の前に無手の腕で弾かれており、ダメージは皆無。修道服だけが虚しいまでに焼けて消える程度。


 そうして出来た魔法製の煙を鬱陶しそうに払えば後方のルゥネからヘッドショットを決められる。


「聖神教『最強』の名は伊達じゃないですわねっ!」

「ぬおっ!? で、出来れば元を付けていただきたいものですっ」


 痛そうに、ではなくビックリしたように仰け反ったゼーアロットの背中を、今度はリーフが放った対艦ミサイルが押す。


「俺達が居ることっ、忘れんなよな!」


 スラスター装備ごと上半身の服が消し飛び、筋骨隆々の肉体が露になった。


「っ……」


 流石に苛立ったのか、視線を背後に向けた瞬間、爆発した筈のミサイルが突如現れ、残っていた余熱で再度炸裂する。


 さながらそれは逆再生。


 爆破と同時にミサイルが復活し、再び爆発。そこから巻き戻されたように現れ……と同じ現象が二度、三度と続いたところで床を蹴ってその場から離れ、自身に杖を向けているマナミを睨んだ。


「どんどん撃ってリーフさん! それなら爆発した側から直せるっ!」


 【起死回生】と爆発物を合わせた無限攻撃。


「小賢しいっ……!」


 そう吐き捨て、一歩出れば上から赤髪の幼女が《狂化》の赤黒いオーラと共に降ってくる。 


「よいっ……しょーっ!!」

 

 常人ならガードした瞬間、盾ごと粉砕される斧の一撃は掌底打ちで。


「ふぎゃっ!?」


 真横から飛んできたアンダーゴーレムの弾丸はただのジャブで叩き落として見せた。


『うっそんっ!?』


 それぞれから反撃ダメージによる悲鳴や驚きの声が上がる中、ゼーアロットは尚もマナミとルゥネの元へ進もうとし……再びライによって阻まれた。


「行かせるかっ!」

「むぅ……思いの外しぶといですねぇ」


 ザンッ! と空気を裂いて振られる聖剣を指で挟んで引き寄せ、正拳突きを返す。


「ふっ……」


 仕留めた。


「くっ!?」


 殺られた。


 両者の心境が目で語られた直後、ライの全身は装備ごと稲妻と化し、ゼーアロットの拳を包み込んだ。


「お゛っ゛……や゛っ……?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で目を見開いたのと同時、それでも衝撃は消せないらしくライは一瞬で格納庫の隅まで吹っ飛んでいき、イサムの絶叫が響いた。


「どうやら……決着が付いたようですね。仮にも元勇者をああも容易くあしらって……流石は『黒夜叉』……いえ、魔帝といったところでしょうか」


 やがて届き始めたシキ達の会話を横目に、ゼーアロットの愉快そうに歪められた瞳が細められ、ルゥネを射貫く。


「ではっ!! そろそろこちらも次の手を打つとしましょう!」


 対するルゥネはその意図こそ見抜けなかったものの、腰元のポケットに手を伸ばしたその仕草に()()()()()()という悪寒を覚えたらしい。


 一瞬の間もなく、反射的に固有スキルを発動。


 ゼーアロットとは対称的に、その紫色の瞳を大きく開かせた。


「旦那様ッ!」


 叫びながら床に倒れ込み、衝撃に備えつつ、思考をシキに届ける。


「っ!? 全員伏せろぉッ!!」


 イサムの最期を見届け、合流すべく歩き出していたシキもまた反射的にその場に伏せた。


 瞬間。


 ヴォルケニス全体を、縦揺れとも横揺れとも判断が出来ない劇的なまでな揺れが襲った。


「な、んっ!?」

「きゃああっ!?」

「おっ、あっ、っとぉ……!?」

「わぁ!?」


 立っていられないほどの振動にライは跪き、マナミとリーフ、スカーレットは思い切り尻餅を突く。


『こ、これっ、爆発っ……!? まさかっ……』


 専用剣を床に突き立てたアカツキからはリュウの震えた声が漏れ、格納庫隅では各勢力の残党が持っていた銃火器が暴発。弾丸や爆発、死体が舞った。


 やがて梶が利かなくなったのか、船体が斜めに。


 リュウ以外の全員……それこそゼーアロットも含めて一様に()()()いく。


「おほっ、ふひっ、くふっ……! ンフフフフフッ! フハハハハハハハッ!!!」


 落下の最中、思わず出てしまった、あるいは耐えきれなかったような失笑から周囲の者を引かせる高笑いを漏らす大男。


 誰もが問題無用で落ちる中、多種多様な喧騒が響く中、外から何かが次々と連鎖爆発しているような音が聞こえてくる中。


「素晴らしいっ、素晴らしいですよぉっ! あの距離からここまでっ……しかもこの風圧っ! ふふふっ、外ではさぞ心踊る光景が広がっていることでしょうねぇっ、はははははははっ!」


 ゼーアロット唯一人だけが空中で両手を広げ、足を広げ、歓喜の声を上げていた。


 今にも小躍りしそうな声色と状況に、ライ達の顔にも「ま、まさか……?」という気色が浮かぶ。


 それでも、敵を前にいつまでも無防備ではいられない。


「っ……皆っ、上手く着地するんだ!」


 【明鏡止水】で冷静さを取り戻したライの機転により、『風』の烈風が吹き荒れ、付近に居た全員が各方面に散った。


「うきゅっ、わっ……かはぁっ!?」

「ぐおっ……お、お嬢っ……!」

「んがっ!? こ、今度は何ぃっ!?」


 落ちながら更に真横に吹き飛ばされたマナミらは受け身すら取れずに壁に叩き付けられ、反対にステータスが高すぎて飛ばされなかったゼーアロットは顔面から真っ逆さまに落ちた。


「ふごぅっ!? ふっ……ふふっ、くふふふっ……痛いっ、です、ねぇっ……ンフフフフッ……!」


 床と化した壁を頭部で突き破り、壁の中で尚も笑い続けており、シキは無言でMFAを起動させ、力無く落下していたルゥネを抱いて浮遊している。


 そうして少しずつ揺れが収まっていき、航行が安定し始めた頃。


 一際焦燥感に満ちた、いっそ悲鳴とすら思える絶叫が辺りに木霊した。


「る、ルゥネっ!? どうしっ……マナミッ!!」


 シキの腕、並びに……ルゥネの身体が彼女の顔中のパーツから溢れ出る血で赤く染まっていた。


 それどころか血涙の止まらない目を見開いたまま全身を痙攣させている。


 出血量やその様子は見えずとも、背骨を折れんばかりに反らせ、口元からごぽごぽと血の泡を噴いていれば嫌でも状況は伝わる。


「おいっ、ルゥネっ! しっかりしろっ、どうしたっ!?」

「うっ……くっ……い、今っ……治すっ……よっ……!」


 異世界人に比べれば弱いリーフやスカーレットが潰れた腕や脚に声にならない悲鳴を上げる横で、同じく血反吐を吐きながら立ち上がったマナミが先程のゼーアロットのように両手を広げる。


 次の瞬間、二人はおろか、マナミの怪我も離れた位置で自身のMFAの故障に気が付いて渋い顔をしていたライも、格納庫内にあったもの、格納庫そのものの状態が全て元通りになった。


「ふ、んっ……!」


 ゼーアロットがズボッと音を立てて顔を抜いた箇所も瞬く間に塞がり、ルゥネの痙攣も次第に治まっていく。


「ルゥネっ、ルゥネっ! 返事をしろったら!」


 腕から義手に移し、手甲で軽くその頬を叩いてはガクンガクンと妻の首を揺らす。


 しかし、肝心の本人に意識はない。


 光の失われた瞳は虚空を見つめ、だらんと脱力しきった身体はまるで死人のように船を漕いでいる。


 マナミ達に周囲を気にする余裕はなく、完全回復と完全修復を終えたライとシキだけがルゥネの容態に首を傾げていた。


「落ち着けシキっ、彼女は死んでない! 気絶してるだけだ!」

「煩い黙ってろっ! こんな状況で落ち着いていられるか!」


 何があった?


 何故一人だけ?


 何が違う?


 奴の攻撃ではない、筈……


 そのような思考から二人は怒鳴り合い、ゼーアロットは何故か頭上を見上げて静かに呟く。


「さてさて……第二陣はどのタイミングにしましょうか……? 何万もの信仰と魂の消滅です。何かしら反応はありそうなものですが……」


 関係ないとでも言わんばかりのセリフ。


 シキは瞬間的に頭が沸騰し……怒りが一周して逆に冷静さを取り戻した。


 ライは無感情で状況証拠を見つめていき、答えを導き出した。


 核爆発。


 大量の兵の死。


 反応というワード。


 それ即ち……


「「神に対する……攻、撃……?」」


 単語として正しいかは兎も角、二人は同じ結論に至り、それを聞いたゼーアロットは「わかりますか!」と手を叩いて喜んだ。


「ええっ、ええっ! 攻撃ですとも! これだけの大戦争ですっ、神を詐称するナニカ共からすれば信仰という名のエネルギーを得る絶好のチャンス! そこからの消・失っ! 美味しくいただいていたものがいきなり失くなれば驚きますよねぇ!? 苛立ちますよねぇ!?」


 これまた何故か嬉々として語り出した内容から、シキ達の脳裏にもう一つの推測が過ったものの、それは続いた驚愕によって上書きされる。


「転生者の存在からそのナニカ共が人の魂をどうこうするということは知れていますっ! エネルギーの供給源を絶った上で何千、何万、十数万の人間の魂が一気に押し寄せれば――」


 そこまで話した直後。


 その説を裏付けるような現象……〝声〟が戦場に、戦闘空域一帯に、大陸に、世界に響いた。






 ――▲◆▼■▲▲◆■ーーーッ……!?!!?






 男とも女とも。


 人とも獣とも。


 言語とも鳴き声とも。


 何の区別すら付かない〝声〟。


 否。


 生きとし生けるものに共通して理解出来た概念が一つ。


 それは悲鳴だった。


 ありとあらゆる感情を凝縮し、怨嗟と断末魔を重ねたような絶叫。


 次の瞬間。


 シキ、ライ、マナミ、ゼーアロット……意識のあるものは世界の震撼を、明滅を、叫喚を感じ取った。


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