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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第1章 召喚編
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第28話 人を殺す覚悟


 ぶつくさぶつくさ。


 あーだこーだあーだこーだ。


 ワンワンキャンキャン。


 まあ色々と吠えられたが、割愛する。


 気絶させた方が邪魔にならなくて良いんじゃないかとは思った。


「二人共静かにっ。今、説明するからっ」


 そう必死に宥めても煩くしていたからか、結局ライがぶちギレて漸く黙った。


「煩いっつったろ! 良いから黙って聞けッ!」


 と、顔を真っ赤にし、目を吊り上げ、わなわなと震え……今にも殴り掛かりそうな勢いだった。


 あまりの剣幕に、俺やリュウ達も密かにビクッとする。


「怖ぇよ」

「ら、ライ君、落ち着いて……?」

「皆、口悪過ぎワロタ」


 ダ○ス・○イダーみたいな力強い息遣いのライをどうどうと落ち着かせ、作戦会議。


 意外にも、二人は直ぐに承諾してくれた。


「イナミ君が決めたことなら仕方ないね。行こうかシュン、ミサキ達にも伝えないと」

「チッ……良いかお前ら、俺達はテメェらの下に付くわけじゃねぇ。指図だけはすんなよ」


 はいはいわかったわかったと全員でしっしっしてその背中を見送る。


 ジル様への了解をとってライの馬車で待つこと数分。

 

 護衛隊長から許可が下りた為、俺達の馬車は隊列を組んで進み始めた。


「なあライ。お前、人を殺せるか?」


 唐突な俺の質問に、ライは目を丸くして驚く。


「は? 何だよ急に」

「……キナ臭いと思わないか?」


 思うところがあったのか、今度は口ごもった。


「ジル様が居るから滅多なことはないとはいえ……今回の遠征は政治的なものに帰来してる。大体、あれだけ派手にアピールしてこれだ」

「……何が言いたいんだ?」

「俺達はイクシアの外のことを何も知らない。ただ聞いただけだ。見もしないで知った気でいるってのはどうもな……」


 イクシアは人族代表の国と言われているらしい。


 だが、それはイクシアの人間から聞いたこと。


 実際のところはどうだろうなとそういう話だ。


「皆は魔族の襲撃があるって……」

「それもこっちの目線だ。はぐれか、あるいは盗賊の類いかもしれん」

「……人族が纏まりきれてないと?」

「だからこそ今襲われてる。少なくとも、今回の奴等は人間なんだろ?」


 感知系スキルが種族の判定まで出来るかどうかは兎に角、国内に奴隷以外の他種族が居るとは思えない。


「…………」


 少し話が逸れたな。


 修正しつつ、会話を続ける。


「で? 殺せるのか、殺せないのか。……言っておくが、躊躇、油断、甘さなんか見せたら死ぬからな。魔物との戦いでも知ったろ。死に物狂いで襲ってくる敵ってのは怖いぞ」

「そ、そうかもしれないけど……」


 どうにもピンと来ていないようだ。


 心の何処かで性善説に近しい思想がある証拠だ。知らないから楽観的で居られる。


 俺はその逆。知らないから怖い。


「……お前はどうするんだよ」


 ライは僅かに考えた後、顔を上げて言った。


「俺か? あー……まあ、何だ……気合いと根性?」

「はっ、お前こそ笑わせんなよ。それで何とかなるなら誰も悩まな――」

「――悪いなライ、俺は殺す。躊躇はしても確実にな。ここは日本じゃないんだ。郷に入ったんだから郷に従うさ」


 ライとマナミが息を飲んで黙り込む。


 リュウは難しい表情で、アカリは何の話をしているのかと疑問顔でこちらを見ていた。


「魔王討伐をする奴が人一人殺せないで何になる。討伐ってのはつまりぶっ殺すってことだろうが。そして、王を殺す=国盗り、侵略戦争……あるいは国家の滅亡、あるいは魔族という種の絶滅、あるいは植民地化。それも知らなかった、気付かない振りをしてたってんなら……お前は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ」


 ライはショックを受けたように後退り、途端に青い顔で俯いた。


 他も同様、深く考えてなかった。考えようとしていなかった。だからいざ真実を知って恐れる。


 これだけ脅せばわかってくれると信じたい。


 それが無理なら、せめて俺だけでも……


 ……いや、この世界ならいずれ誰しもが通る道だ。


 覚悟しておかないとな、俺も。












 それから少し進み。


 左右の崖に挟まれた細道が見えてきた。


 近くに小川が通っており、落石か、所々大きな岩がゴロゴロしているので少々見通しが悪い。


 手筈通り、その直前で馬車を止め、俺、リュウ、アカリの三人の姿が見えるよう堂々と下りる。


 俺は長剣を、二人は盾を構える中、右の崖の上から声が降ってきた。


「待ち伏せはわかっていた筈。その上での強行かな?」


 男の声だ。


 見上げた先……崖上には眼鏡を掛けた神経質そうな男がこちらを覗いていた。


 目算で百メートルくらいだろうか。


 『風』の属性魔法による音の伝達……


 成る程、そういう使い方もあるのか。


 一瞬だけ感心し、直ぐにそりゃそうかと納得する。


 よく考えればライが見せた魔法も音に関するものだった。


 となれば……俺にも出来る筈。


「そちらの目的は何だ?」


 同じように、生み出した風に声を乗せて飛ばす。


 神経質そうな男は「ふむ……」と口に手を当て、「質問に質問で返すのは良くない。……だが、私は寛容だからね。答えてあげよう」と、返してきた。


 成功したらしい。……どっかの町の殺人鬼かな?


「我々の目的は一つ。再生者と勇者の確保だ。直ちに引き渡してくれれば危害は加えない」

「抵抗した場合は?」

「目標以外の始末。そして、もし両者とも抵抗するようなら……その三人も殺すまでだ」


 この口振り……組織的なものだな。


 目を細め、成る程成る程と頷きながら返してやる。


「ほう。……んじゃ、最後に。喧嘩を売るってことは買われる覚悟があるってことで良いんだよな?」

「ふむ……勿論だとも。しかし、君達はまだ未熟。我々に勝てるとは到底思えないな」


 圧倒的自信。


 いや、というよりは……傲慢か。


 俺達みたいな素人に負ける筈がない、そう確信しているように感じた。


 しかし。


「それはどうっ……かなっ!?」


 ライのそんな台詞が自分の足元から聞こえた。


 奴からすればそう感じただろう。


 その足元から急に現れたライは神経質そうな男に斬り掛かり……


 やはり殺す覚悟はなかったのか、寸前で剣を止めた。


 神経質そうな男は無言でライを見つめるばかり。抵抗という抵抗はない。


「……な、何故反撃しないっ?」

「止めるとわかっていたからね」

「な、何でっ……!?」

「君達の世界では殺人という行動は滅多にないことなのだろう? ならば止めるのが当然と言える。報告では経験もないようだし?」


 ……やっぱり今のライじゃ無理みたいだな。


 ライが奇襲したタイミングで岩陰に移動していた俺はそう判断すると、ステータスに物言わせて足場になりそうな部分にジャンプし、どんどん上に上がっていく。


 たまに足場が崩れたり、無かったり場合は魔粒子のジェット噴射で補った。


 結果、十秒も掛からない時間で崖上に辿り着き、未だに固まっていたライの首を後ろから掴んで後ろに放り投げる。


「うわあぁぁぁっ!?」


 あいつなら問題ないと思っての行動。


 事実、ライは空中を地面のように踏めるスキル《空歩》と《縮地》を併用することで体勢を整え、地面に着地した。


 対する俺はというと、ライを放り投げたそのままの勢いで剣を振り抜いた。


 殺してしまったのならそれはそれで()()後悔すれば良い。


 今は敵を殺す。


 そう自分に言い聞かせての攻撃。


 男は俺がライと同類だと思ったらしく、鼻で笑って剣を受けようとし……


「ふっ、どうせ君も……っ!?」


 驚愕に染まった顔で目の前で散った火花に目を見開いた。


 ガキィンッ……!


「へぇ……? 素人にしちゃあ……やるねぇ……!」


 言いながら俺の剣を大剣で受け止めたのは女だった。


 褐色肌、茶短髪。全体としては軽装備……胸当てに籠手、ブーツと俺と同じような出で立ち。


 代わりに武器は俺が持っているものとよく似た『斬る』のではなく、『叩き斬る』ことを主体に造られた無骨な大剣。


 何ともちぐはぐな格好だ。


 歳は……二十後半といったところか。


 勝ち気そうな顔、全身の至るところに見え隠れする大量の傷痕から自分の戦闘技術に自信を持っていること、戦闘経験の多さ、気迫が伝わってくる。


 床を蹴るようにして距離を取り、剣を仕舞う。


「ハッ、あんたこそ、そこそこやるみたいじゃないか」

「あっはっはっは! まあ、そこそこさね」


 ……そう簡単には乗ってくれないか。


 けらけらと、女はさも楽しそうに笑って言った。


「ふーん……? 召喚者特有の黒髪……にしては随分手慣れてるねぇ。あんた、この数ヶ月で一体どんな経験を積んだんだい?」


 奇襲の失敗。


 つまり……作戦その2の開始。


「その余裕っ、直ぐに剥がしてやるっ!」


 地面を蹴って砂埃を起こすと同時、左手で解体用のナイフを取り出し、偉そうに観察者を気取っていた神経質そうな男に投げ付ける。


「っ、やらせないよっ!」


 そんな返答が聞こえた直後。


 ブォンッ! と凄まじい風圧と音が辺りに響き、砂埃が一瞬で晴れた。


 カキンッ! という甲高い音と「ヒッ!」という男の悲鳴も聞こえた。


 砂埃と一緒にナイフを払いやがった。


 簡単に防いでくれるっ……


 少しショックを受けながらももう一つの策をひっそりと始める。


 見る限り、男は後衛、女は前衛。


 作戦上はライ達が男を相手取り、俺が女を担当する役割になっている。


 俺と女の違いは魔法が使えるか否か。


 イクシアで習った知識では異世界人でもなければ前衛をこなしながら魔法を使える奴は極少数。


 この女は……使えないタイプだ。


「良いね良いねぇっ、そのルーキーとは思えない動き!」


 叫びながら大剣を()()()軽々と振り回し、襲い掛かってくる。


 俺の方もマジックバッグから大剣を取り出し、一閃。


 ガキイィンッ……!


 鋭い剣戟と衝撃に揃って後退り、互いにニヤリと笑う。


 見れば男の方は崖下のライ達と話し始めている。


 よし、分断出来た。


 後はこのまま早瀬にもやったあの魔法の併用技を垂れ流しにして……


「ほらほらどうしたぁっ! 今更チビったのかいっ!?」


 ガキンガキンとちゃんばらのように獲物をぶつけていると、大剣女は楽しそうに煽ってきた。


 俺の術中にハマっているとも知らずに。


 しかし、良いことばかりでもない。


 防御力の低い俺は相手の剣を受け止めるだけでダメージを受けてしまう。


 今はまだ手首や腕への痺れ程度で済んでいるが、向こうは明らかに本気じゃない。


 にも拘わらず、鋭く、力強く、重い。


 ジル様と修行の日々を思い出しながら集中。


 攻撃一つ一つの軌道を読み、避け、受け流し、返す。


 袈裟斬り、横薙ぎ、振り上げからの振り下ろし。


 目を見張るような剣速に思わずニヤニヤしてしまう。


 全部、ジル様ほどじゃない。


 あれもこれも……これもこれもこれもっ……全部だ!


 受けきれる。


 その確信があった。


 油断を突き、斬り殺せる自信もあった。


 だが、これは対人戦闘。


 経験で言えば向こうに軍配が上がる。


 だから油断しない。


 この女とは違い、確実に仕留める。


 俺は全身の魔力を属性魔法へと昇華させつつも少しずつ攻撃を受けきれなくなってきたように見せかけた。


 演技系スキルを駆使して顔を曇らせ、焦らせ、苦悶や恐怖に満ちたものへと変え。


 完璧に避けきれる軌道のものを敢えて剣で受け、足元の石にさも体勢を崩したようにして薄皮を一枚くれてやったり。


 そうして少し経つと、俺は満身創痍と言えるような風貌となった。


 全身に切り傷や打ち身等の怪我があり、至る部位から血が流れている。


 が、直撃はない。


 流石にこれ以上怪我が増えると戦闘に支障をきたすので、「もう限界だっ!」という雰囲気を醸しながら距離をとる。


「っ……はぁ……はぁ……はぁ……!」


 実際のところ、大して疲れはない。


 しかし、これも必要なことだ。


 立っているのもギリギリかのように足元をおぼつかせ、息を荒げてやる。


「ふーっ……ふーっ……はっ、ははっ……どうしたんだいっ? 初手は良かったのにその後は逃げてばかりじゃないかっ」


 俺に比べ、圧倒的に息が上がっている大剣女がつまらなそうに話し掛けてきた。


「はぁ……はぁ……な、ならっ……また脅かせてやるさ!」


 吠えるように返して地面を蹴り、魔粒子で急加速。


「はあああぁっ!」


 と、気合いを叫びながら一撃を食らわせる。


 大剣女は()()()持った大剣で防ぎ、あろうことか弾いて見せた。


 再び日本では先ず聞かないであろう金属と金属がぶつかる音が木霊し、俺はその衝撃と反動で吹き飛ばされる。


「お? さっきから何か隠してると思ってたけど、漸く出してくれたね! ならアタイももう一つギアを上げていこうじゃないか!」


 くるりと空中一回転で着地した次の瞬間、宣言通り、大剣女の速度が一段階変わった。


 ブォンブォンという遅いが確実な重さの連撃からビュンビュンという素早く重い連撃へ。


 足の動きや癖、立ち回りを予め見ていた為、全力で対応し、捌く。


「くっ、くぅっ……こ、い、つぅっ……!?」

「あはははっ! 耐えるねぇっ、何処まで持ってくれるか見物だよっ!」


 勝ちを確信した笑みを浮かべ、楽しげな声を上げて猛攻を繰り広げる大剣女。


 馬鹿が。


 今も尚、俺の策に溺れているとも知らずに……!


 まあ……?


 そのまま勝ったと思い込んでてくれ。


 俺の策……その初動に気付かなかった時点で俺の勝利は確実なのだから。


「「ははははっ! さあっ、第二ラウンドの始まり(だ!)(さね!)」」


 俺と大剣女は高笑いしながら獲物をぶつけ合った。


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