第269話 混戦
すいません、遅れました&長くなって変な部分で切っちゃいましたm(;∇;)m
「や、やべぇなっ……全員集合だっ、ガチで面倒臭ぇことになってきやがった!」
「煩い、なぁっ! 戦闘に集中してよっ!」
それぞれ量産型MFA、形状改良型MFAを纏ったテキオとココが叫ぶ。
前者は斬り掛かってきた連合兵三人を同時に真っ二つにし、背後から迫るゾンビ兵を蹴り潰しとパワフルに。後者は自前の翼、羽根の隙間に装着した小型スラスターからも魔粒子を放出して颯爽と飛び回り、鳥足の爪で付近の敵を引き裂いて回っている。
直ぐ近くの空域で対空砲火を撒き散らしている大量の戦艦の周辺では連合、帝国、ニュー・オーダー、メサイア、総勢四勢力の末端兵らが前進と後退を繰り返しながら交戦しており、弾丸や爆発物、魔法、四肢に肉片、怒号と悲鳴が飛び交っていた。
「ええいっ、何だ先程の砲撃はっ!?」
「わ、わかりません! 恐らく四勢力目の攻撃かと!」
「我々は一体何度襲撃されるのだっ!」
エアクラフトや魔法で飛行していることもあって連合兵も疲弊してきているが、如何せん数が多い。
全体の割合としては連合3:帝国2:ニュー・オーダー3:メサイア2といった具合。メサイア艦隊の初撃でゾンビ兵は大幅に減らせたものの、連合と帝国にも少なくない被害が出ている。
目の前の敵を何とか排除したら後ろから撃たれ、それを上から撃たれ、それがまた下から撃たれと完全な乱戦状態で、戦況を正しく理解出来ているのはテキオとココの二人のみ。
「っしゃおらああああっ!」
「殺せ殺せぇっ!」
「敵が増えたってこたぁっ、楽しみが増えたってこった! はははははっ! 戦争最っ高ーっ!!」
同じく疲弊している筈の帝国兵は士気が高すぎて逆に周りが見えていなかった。
「お前らっ! あんま前に出んなっつったろっ、流れ弾に当たっちまうぞっ!」
「へへっ、大丈夫っすよ隊長! こんな適当な弾なんか当たるわけっ……へがぁっ!?」
航空戦力だけに留まらず、敵味方の艦隊の砲撃まで飛び交う戦場である。危険度で言えば圧倒的No.1。テキオの制止も聞かずに好き勝手動いていた兵の一人は言っている側から上半身を血の霧に変えて墜ちた。
「うぎゃあっ!? 最っ悪! グロいなぁもうっ……ぺっ、ぺっ! 言わんこっちゃない……!」
運悪くそこへ下がってきていたココが頭からその残骸を被り、悲鳴を上げる。
無論、他の勢力も同様の条件ではあるが、目の前の敵だけでなく艦隊の位置や動きを見ていれば対処は出来る。
しかし……
「ヒューッ! 今の見たかよっ! ばっかでぇっ!」
「ひゃははははっ! 俺ぁあんな死に方だけ……ばがっ!?」
「おっほっ! こっちにも来やがったぜ!」
「戦艦狙えってんだっ、アホ艦手共っ!」
根っからの戦闘狂である帝国兵は仲間の死すらも笑って済ましてしまう。
流石に隣の者が散った直後はバラける傾向にあるものの、敵の数が多いせいで一塊になっての全方位注意は欠かせない。
その点、襲われ続きで持久戦に持ち込もうとする連合兵は優秀の一言に尽きる。
「固まるな! 散れっ、散れぇっ!」
「役割を分けるのだっ! 亡者は我々聖騎士隊が引き受けるッ!」
「無理に攻撃しようとするなっ、続けていれば数で勝てる!」
『フルーゲル隊は対空砲火に注意しつつ突撃ぃっ! 恐れるなっ! 他の兵は生身で戦ってるんだぞっ!』
戦える者は互いの死角を守るように展開して位置と距離を維持、銃持ちは銃持ちを狙い、魔力に余裕のある者は時間稼ぎや衛生兵に徹してサポート、空飛ぶ銀スカートの群れは装甲を盾代わりに斬り込み隊を担っている。
適材適所を地で行く動き。
「「「ぎしゃああああっ!!」」」
「狙いはゾンビ兵だ! 他はゾンビを駆除した後っ!」
「高度は奴等の上を維持っ! 言われた通り上から撃ち落とせ!」
「こっちの目的は戦争じゃない! 無理はするなっ!」
数の減ったゾンビや最初から数のないメサイア軍もまた消極的になっていった。
が。
それと同時に、テキオとココ、その他一部の冷静な者は戦場の異変に気が付き始めていた。
「クッソっ、面倒臭ぇっ……いきなりだなっ……!」
「押されてるっ!? こ、ここに来てっ……何でさ!?」
ギリギリのところで均衡していた筈の航空戦力が徐々にだが、よろしくない方向へ舵を切っている。
帝国だけが一方的に数を減らしているとは言い難いのに、何故か後退しながら稀に攻撃し返す程度のことしか出来なくなり出した。
見れば帝国の艦隊も少しずつ後方に下がっている。
「おいおいおいっ……姫さんの抜けた穴は何とかしたろっ!?」
「戦艦だって損害率は見た感じ同じくらいだしっ……っ!? ま、まさか他の戦闘空域で負けた人が居るのっ!?」
高いステータスに身を任せた物理タンク兼近接アタッカー、速度特化で敵の注意を引き付ける避けタンク。
その戦場空域にて突出していたテキオとココですら防御と回避、指示出しに手一杯になった。
二人には知る由もないが、それはシキ、メイ、リュウ&スカーレットが身を引いた、あるいは地上に降下してしまった弊害だった。
墜ちかけていた敵母艦も今では態勢を立て直し、フェイらヴァルキリー隊の接近を許していない。
そうなれば母艦からの援護射撃や出撃も増え、物量で押され出す。
シキやルゥネらの懸念通り、少しずつではあったが、兵数の差がそのような結果を生み始めていた。
「どうせ退くんなら一気に退く訳にはいかねぇのかよっ! 俺らで戦艦を墜としちまえば良いじゃんかっ!」
「それで背中見せたら狙い撃ちにゃ!」
「そんなこともわからないなんて隊長はアホわんっ!?」
威勢良く二人の前に飛び込んできたのは獣人族の国が寄越した獣戦士団。
「っ、アリスかっ!? ははっ、飛べないのによくやるなぁお前らっ! どうやっ……はがっ!? い、いでぇっ!?」
「スキルと〝気〟の力に決まってんでしょっ」
総勢十人も居ない彼女らは虎、猫、犬、その他の陸上動物が持つ桁違いの脚力で敵を足場に跳ね回り、その弾みで敵を減らし……と上空で戦うには随分と野性味の強い戦闘法で貢献していた。
アリスの他は人間より動物の要素が多いからか、見た目も少し大きくなって二足歩行で歩くようになった動物と遜色なく、それらしく手足の爪や尻尾を使って敵を八つ裂きにしている者も居る。
本来なら戦艦内での白兵戦や対アンダーゴーレムに向いている筈が本人達の希望で前線に居るとはいえ、軽やかかつ恐れを知らない動きにテキオが思わず笑い、飛んでいたココが擦れ違い様にその頭部を蹴った。
「いってぇなコラっ、今爪当たったぞ!?」
「アリス達が来たってことは余裕が出来る! このまま艦隊まで退くよっ!」
「マジ!? んじゃ俺達ゃ前に出るわ!」
「お馬鹿っ! あちきらも後退するんだにゃ!」
「行くなら隊長一人で行ってほしいわーん!」
そうして集まった彼等の頭上をシキが結成させた新生魔帝軍の航空戦力が通る。
ハーピィやセイレーンといった、ココのように自力で飛行出来る部隊。
小型スラスターを装着して戦場上空空域を飛ぶかの部隊の役割は敵艦隊への爆撃である。
そんな彼等が戦場から離れていくということは……
「弾切れ、か……? あんま見てなかったけど、あいつらがエースだろ」
「……だね。ボク達が前に出てたからって言っても、十隻以上墜としてたし」
「ユウちゃんもえげつねぇこと思い付くよな。確かに酸素ボンベとかマジックバッグがあれば飛んでられるけどよ……」
目立ちこそしなかったが、巡洋艦艦隊を次々と撃沈していく光景を遠目で確認していたテキオらはそのような印象を受けていた。
結果からして、向けられる先が街や都であれば学生時代に教科書で見た景色を再現することは想像に難くない。
何よりも記憶に残ったのは音だ。
何かが落ちてくる音。
花火が上がる最中のような音。
幾ら殺し合いの最中であり、持っている知識に幅があるとて、爆発の光と戦果は無視出来ない。
不信感とまでは言えないにしても、戦争やその被害を拡大、助長させるようなシキの発想とルゥネの実現力は末恐ろしいと思ってしまったらしい。
「ま、今はそんなことよりっ……!」
「ん。……さあ皆っ、後退だよ後退っ! 少しずつ下がるのっ! 艦に連絡が出来る人は信号弾を発射するよう言って!」
「……簡単に言うけど、敵を近寄らせないように撤退とか難しくね? こっちが引けば向こうも前に出てくるじゃん」
アリスがポツリと漏らした言葉に、部下達が「にゃあっ!? だから背中を見せずに少しずつって言ったにゃ!」、「隊長~、勘弁してくださいわん~」と湧いた直後だった。
『あーっ……あーっ……聞こえてるかしらぁっ? こちら、砂漠の海賊団~っ。至って個人的な感情で帝国軍に助太刀するわよぉーっ。……ていうか坊やは? ちゃんとヴォルケニス内でルゥネさん助けたのよね?』
頼もしいような、気の抜けるような声が拡声されて響いたのは。
◇ ◇ ◇
ヴォルケニス格納庫内は静寂に包まれていた。
全陣営の誰もがその場から動かない。
それは一重にシキら特級戦力が互いを見合っているが故。
この場では圧倒的『最強』に君臨しているゼーアロットの存在も大きい。
シキもルゥネもライもマナミも。
一丸になって立ち向かわないと歯が立たない相手だと頭では理解していても動けない。
「……来ないのですか? ほうほうっ、イクシア他大量虐殺を続ける私が憎くないとっ? これは予想外ですねぇ!」
対するゼーアロットはつまらなそうに肩を竦めて煽るが、ライは黙って聖剣を構えるだけ。
「「「「…………」」」」
視界のないシキをしても、全員が互いの出方を窺っているのがわかった。
恐らく視線やちょっとした仕草で下らないやり取りが続いている、と。
(三竦みならぬ四竦みだな……他と違って目がない分、緊張はないが……)
気付けば周囲で戦っていた筈の兵達、果てはゾンビ兵の残党すら彼等の行く末を見守っていた。
「ふむ……第一目的は果たせたので私は構いませんが……それではいつものように貴方様方同士で殺し合われては? 共倒れになってくれれば手を下す手間が省けるのでオススメですよっ?」
如何にも余裕ありげな態度も強さを思えば黙る他ない。
普段は喧しいスカーレットですら息を飲み、冷や汗を流し、いつになく真剣な顔をしている。
「……もしもーしっ? 聞こえていますかーっ? 変ですねぇ、誰も動いてくれません……」
言いながら、ゼーアロットから放たれる『圧』が強まっていく。
来る。
その場の全員が獲物を構え直した次の瞬間。
晴れてゾンビ軍団の一員になったイサムと早瀬が真っ先に駆けた。
「ゼーアロットさんっ、『黒夜叉』は僕が殺るッ!」
「俺もだ! 奴は誰にも渡さねぇッ!」
《縮地》であっという間に距離を詰められ、シキは咄嗟にルゥネをマナミの方に突き飛ばすと、爪長剣と巨大義手で二つの刃を受け止める。
「あいたぁっ!? だ、旦那様っ、折れてます! 私、お手々折れてます! もっと労ってっ!」
「言ってる場合かっ!」
コントのようなやり取りをしつつも思い切り弾き返し、両者の身体を浮かせる。
が。
「「殺すッ!!」」
長い付き合いをしているだけあって二人の息はぴったりで、異世界人らしく魔粒子を出して背中を押し、同じタイミングで獲物を振り返してきた。
ご丁寧に刀身まで加速させている。
剣術も何もない乱暴な剣。
お陰で魔力を見る義眼が本領を発揮してくれるものの、ガキンガキンと叩き付けられては直ぐ様ぶつけられ、反撃の暇もない。
その上、義手やMFAで総重量が増えているシキはどうしても対応が遅れ出す。
「しつっ……こいッ!」
吠えると同時、強化手榴弾を投げ付けるが、「そんなものっ!」とイサムが発動させた『風』の属性魔法で吹き飛ばされ、天井付近で爆発。その間にも早瀬が肉薄してくる。
「目障りなんだよお前ぇっ! 死ねっ! 今すぐ死ねっ! 殺してやるからよぉっ!!」
叩き斬る武器であるサーベルで突くというあまりに感情的な攻撃も異世界人のステータスは何段階も上のものへと昇華させてしまう。
(ちぃっ、やはり異世界人相手の近接戦で義手はっ……!)
使えない。
あるいは酷く使い辛い。
シキは身を以て再認識した。
一先ず顔を狙った二突きは首を捻って躱し、ならばと腹部に向かってきた剣は義足から出した隠しブレードで蹴り返す。
「お前らっ……こそっ……! クハッ、死んで尚も付き纏ってるじゃねぇかっ!」
「ぐおっ!?」
吹き飛ぶゾンビ早瀬とは裏腹に、イサムがワンテンポ遅れで迫る。
「くひゃぁっ、そこぉっ!」
「テメっ、勇者の風上にも置けねぇなッ……!」
最初から反撃の為に身体を浮かせた瞬間を狙っていたのだろうと当たりを付けたシキはそのまま膝を曲げ、鉛の弾をくれてやった。
「くっ……!? サイボーグかっ、薄気味の悪いっ!」
シキやライが魔粒子を使って緊急回避出来るように、イサムもまた同じことが出来る。
シキの擬似的な視界には真横に急加速して避けた魔力の塊の姿が映っていた。
「腐り掛けの口でっ……ほざくなぁっ!?」
「誰のっ、せいだとっ!」
そして、同様の方法で加速し、戻ってくるもう一人の姿も。
「「思ってるッ!!」」
「っ……!」
ガキイィンッ!
感情が乗っているのも相まって、二人の同時攻撃は義手だけでは抑え切れず、シキの身体を後ろへ下がらせた。
それを好機と捉えたのか、両者共に腰を落とし、ゾンビらしからぬフィジカルで追撃を図ってくる。
そんな中、シキは一瞬だけ意識をルゥネの元へ向けた。
予想通り、こちらの意図を組んだマナミが既に彼女の身体を治している。
(マナミとルゥネさえ居ればっ……!)
勝てる。
実際にルゥネと戦ったライも同じ結論に至ったのだろう。
「シキっ! 時間稼ぎはするっ! 早く終わらせてっ……来いっ!」
敵ながら何とも勇ましい声を上げ、ゼーアロットの方に向かっている。
「クハッ……簡単に言ってくれる!」
ニヤリと歯を見せた直後、ドパァンッ……! と乾いた音が響いた。
しかし、撃たれる前から跳び跳ねていたシキに弾丸は当たらない。
「くっ、でええぃっ……!」
イサムは盛大に悔しがると野球選手さながら滑り込み、床とライフルから火花を散らしながら二発目を発砲。早瀬の方はシキよりも高く飛び上がり、周囲に生み出した大量の真空の刃と共に降ってきていた。
「魔法が効かねぇってもよぉっ、魔力は使うよなぁっ!?」
ただ強力なだけで《光魔法》の気配すら感じられない弾丸を、半身になるだけで見向きもせずに対処して見せたシキは威勢良く振られる獲物に対し、手甲で真正面から殴り付けた。
否。
衝突の瞬間、爪を射出し、《空歩》と《縮地》、MFAの推進力で無理やり前に出た。
異世界人と魔物をミックスさせた早瀬のステータスはシキをも凌駕している。
嫌らしい魔法攻撃に魔障壁が自動発生しているのも鬱陶しい。
(だとしてもっ……!)
「まだ力の入ってない剣じゃあなぁっ!」
シキの目測通り。
振りかけのサーベルは爪の間に挟まれて停止。
それどころか突きと化したパンチを受け止め切れず、逆に三つの刀身がゾンビ早瀬の胸に深々と突き刺さることになった。
「ぐぎいいぃっ!?」
痛がっている風ではなかった。
鋭い異物が自分の身体を通って背中から飛び出た感触に驚いているような、そんな反応。
「が、はぁっ……! な、何でっ……何でだあぁっ!? 何で勝てねぇっ!! このっ! このぉっ!」
流石に串刺しされてしまっては身動き出来ず、かといって獲物は体勢のせいで振れない。
子供のように足をバタつかせて蹴ることくらいしか出来ない。
それも、目の前にある世界最硬度を誇る義手しか。
「し、シュンっ! よくもぉっ!」
焦燥感に満ちた様子でライフルを投げ捨てたイサムが《縮地》で迫るが、義手はとうの昔に伸縮を終えており、手首も反ってそちらに向いている。
「ホントに仲良いんだなお前ら。良いフォーメーション攻撃だったよ。だが……一瞬でも離れたのが仇になったな」
小型魔導砲を放つ瞬間、トドメを刺す瞬間。
シキは確かに「ヒュッ……」という恐怖の声を聞いた。
心底縮み上がったような、か細い声だった。
自身を貫く刀身にシキの魔力が通ったのがわかったのだろう。
「ハッ……!」
無言で嘲笑い、両手の武器に殺意を乗せる。
直後、義手から飛び出た高濃度の魔力エネルギーはイサムを容易く飲み込み。
反対に早瀬は一瞬の内に上半身が膨らみ、爆ぜた。
「へびゅがっ!?」
飛び散っていく肉片と力無く崩れ落ちる下半身を前に、シキは言った。
「『風』の刃を飛ばせるんだ。刃先の点じゃなく、刀身全体から面で放出すればそれなりの空気量にはなる」
瞬間的に送り込まれた空気は腐肉と化して柔らかくなっていた肉体を体内から全方位を圧迫し……
その結果は見るまでもない。
とは言っても、ただの風圧。攻撃力も技としての実用性も無い。
「それでも……ゾンビの肉体には効くなぁ?」
一緒に吹っ飛んでいたサーベルを伸ばした義手で回収しながらの台詞は魔障壁を使って無傷で済ませ、しかし、勢いを殺しきれず、滑るように下がっていたイサムの恐怖を駆り立てたようだった。
「し、シュンがっ……あっ……あがっ……死、んっ……? だ、だってっ、死なないんじゃっ……!? 僕達は不死の存在として甦ったんだぞっ!?」
声が震えている。
錯乱しているのか、訳のわからないことを喚き、剣を向けてくる。
魔力と『圧』が昂ったせいで、周囲に落ちている塵や肉片が僅かに動く。
「あぁ……魔物としてな。だから《光魔法》も【唯我独尊】も使えない。……だろ?」
国や組織を代表する勇者の一人だった男には歯牙にも掛けない返答が許せない。
シキの態度も、行動も、存在も、全て。
「誰のっ……誰のせいでこんな目にっ……!」
「【死者蘇生】は対象をアンデッドに変える能力。お前らはもう全くの別生物になったんだよ。外見も中身も人を害する怪物にな」
「だからっ、それが誰のせいだと言っているッ!」
「ま、どうせ最初から相容れなかったんだ。喜べよ、漸くこの奇妙な因縁を終わらせる時が来たってことなんだから」
激昂と冷静。
当然、会話は噛み合わない。
「お前がっ……! お前がっ、お前がぁっ! お前が居たから全部っ……全て滅茶苦茶になったんだっ!!」
地団駄を踏むように怒り、聖剣ではない剣を向けてくる。
「あの召喚は僕とイナミ君の伝説の始まりの筈でっ……漸く人生が変わると思ったのにっ! あんな上辺だけの国から抜け出してっ……あぐっ……ぐっ……うぅっ……ど、どうやって責任取るんだよっ!? 僕はっ……僕はもう人間じゃないんだぞっ……!」
感情的になり過ぎて涙すら出てきたのか、イサムの声は嗚咽が混じっていた。
元を辿れば《光魔法》や本人の気質、育った環境もあるだろう。
しかし、悪人ではなかった。
無自覚の悪意、善意に見える悪意があっただけ。
後半の故郷批判には内心で同意しつつも、そこだけは譲れない。
拾ったサーベルをマジックバッグマントに仕舞い、代わりに義手を向けながらピシャリと言い返す。
「先に喧嘩を売ってきたのはどっちだ。連合もそうだ。そこに事情や感情なんて関係はない。事実として、お前達が事を起こした。お前が望んだんだ」
「そんな訳あるかっ! もうっ……どっちが先とかっ、関係がどうとかっ……それこそ関係ないことだ!」
間も置かずに返ってきた心の叫びに「はぁ……?」と心底呆れてしまった。
「じゃあ……俺達みたいに迫害される側はどうしろってんだ? 黙って受け入れろ、やられたまま我慢していろと?」
「そうだっ……! あっちでは白人至上主義があった! 蔑まれる人が居た! 容姿に生まれっ、才能っ、頭の良さっ! いつの世も人の良し悪しは優劣で決まるっ! 世界が変わってもそこは同じだ! 太古の時代から迫害されてきたと言うのならっ! 劣等種である亜人はただ慎ましく虫のように生きっ、必要とされた時に奴隷をしていれば良いッ!」
言葉を失う以前に、気付けばシキは笑っていた。
「ふはっ……クククッ……クハハハハッ! 何だそりゃっ! 弱肉強食の掟は認めておきながら弱い奴は食われてろってか! クハハハッ! 矛盾だな! その弱い奴に反逆されて今があるんだろうがっ!」
「黙れ黙れ黙れええぇっ!! 帝国やシャムザっ、『海の国』がこっちに付いていれば簡単だったものをっ! お前が勢力図を塗り替えた! お前が全ての元凶なんだ! お前が世界を乱したんだっ! お陰でどれだけの人間が死んだと思ってるっ!」
あまりの暴論に最早、返す言葉もない。
(あぁ、そうか……わかったぞ。根本的に考え方が違うんだ。戦争を仕掛けた側の連合にとって……いや、聖神教にとって他種族は人間じゃないんだ。そもそも虫とか動物とか……駆除すべき対象なんだ)
山や川を追われた動物が人間の作物に手を出すように、生きている以上どうしたって軋轢は生まれてしまう。
にも関わらず、共存という概念がないのだ。
何故ならこの世界の人族は最初からそういう宗教観で生まれ育っている。
(先に奪っておきながら奪い返されたら被害者面をする……そこに疑問すら抱かない。抱いても口を大にして言えない……いや、言わせない。そうやって染まってない連中を黙殺し、世代交代を重ね……結果、英才教育にどっぷり漬かった人族視点の世界が出来上がった)
無論、そこに至るまで幾度となく種族間戦争は起きている。
異世界出身のシキやライ、マナミですらイクシアから戦争の歴史について教わっている。人族視点の歴史を。
「穿った歴史と価値観を広めれば仕掛けた側の他種族は悪になる……他の種族は人族より長寿だから恨みを忘れないが、やられた側の人族からすれば一方的な……謂れのない攻撃な訳で……」
シキは今更ながらにリヴェインら魔族が人族を毛嫌いする真の理由……人族の業の深さを思い知った。
確かにある程度の正史は聞いていたが……と、何らかの媒体や経験者から見聞きすることと肌で実際に感じることの差に目を剥く。
想定から大きく外れた根深い問題だ。
世界を正す、正さない以前に歪み過ぎていて修正が利かないとすら思えてしまう。
「勝手に仕掛けてきて勝手に忘れてっ……こっちの怒りは知らんぷりかよっ……! お前そっくりだなっ……醜い生き物だっ!」
「まだ言うのかっ!」
絶対に相容れない。
その余地もない。
改めて理解した。
「来いよっ、亜人以下の魔物っ! 今度こそキッチリとあの世に送ってやるッ!」
「お前だって変わらないだろっ! この人殺しっ! 僕はこの世界を本来の正しいものに戻すんだッ!」
二人は床材が割れるほどに床を蹴って飛び出し、再びぶつかり出した。




