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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
287/334

第267話 急襲

すいません、また遅れました。


そろそろ更新頻度を戻したいと思っているのに脳がそれを拒絶する……(((((゜゜;)


 シキが前、メイが下と戦場を変えている頃、リュウは空域を維持したまま無機質に操縦桿を握っていた。


 狭いコックピット内に響くのは定期的に自分が引くトリガーの音と銃火器類の発砲、発射音。


「やっぱり数が相手ってなるとバーシスの方が良かったな……反応速度と汎用性は高いんだけど、弾切れした時がなー」


 甲高い忠告音と共に赤いゲージがモニター上に現れ、溜め息交じりに弾倉を入れ換える。


 汎用性特殊換装機アカツキ。


 同盟各国の協力によって続々と使える機体が発掘されている量産型アンダーゴーレム『バーシス』や『シエレン』とは違い、未だ一機しか見つかっていない特別な機体。


 全体像は西洋甲冑。色は紅を中心に各関節や装甲の一部が金色であることが最近判明した。光沢のある装甲は太陽の光を反射させており、背面にはシエレンの縦型スラスター。時折マナコンデンサーから供給された魔力が噴射されている。


 フェイの愛機『シヴァト』の特徴が可変機構であるなら、アカツキの特徴はその汎用性。


 何せ大抵の機体の装備を運用することが出来る。


 今までジャンプするだけだったアカツキが飛行出来ているのもシエレンの背面スラスターあってのこと。


 膨大な数の規格データとそれに合うアタッチメントが内包されているらしく、武装に合わせて機体側が内部機構を変える。


 奪った敵の武装をそのまま転用することも可能と太鼓判を押していたルゥネのことを思い出し、密かに「うーん」と唸る。


「んー? でもその赤いのじゃないとお空飛べないんでしょー?」

『まあ、ね……』


 厳密に言えばシエレンも飛べるけど、あれはあれで共通規格の兵器が装備出来ないからね……という説明をぐっと飲み込み、拡声器を使って返す。


 モニター上では真横の位置に、その幼女は居た。


 彼女の足場を担う為に肩部装甲から態々撤去したミサイルポッドを恋しく思いながら幼女を見やる。


 斧型の紅白魔剣を肩に乗せ、全体重をこちらに。鮮やかな赤髪と修道服を靡かせて辺りを見渡している。


 シキらの元クラスメートは既に下した。


 男女の内、男はスカーレットの見た目や歳に惑わされて瞬殺。女はそれを見て逃亡している。


 現在は迎撃の為に出てきた『フルーゲル』部隊と連合兵の航空部隊と接触、回戦しており、三波目を撃墜し終えて一息ついたところだった。


『こっちは後二回くらいで完全に弾切れになるけど、まだ大丈夫?』

「ん! よゆー! この()も調子良いよ! 使えば使うほど馴染んでくような気がする!」

『そう、良かったね。……~っ、バーシスならオートなのにっ……』


 久方振りの狩りにスカーレットはご機嫌なようでニコニコしながら獲物から滴る血を振り払っている。


 リュウはリュウで、アカツキの唯一の欠点と言える点に苛立っている。


 基本的に全て手動。つまり……強い弱い、上手いも下手もパイロット次第。


 余程自信のある者なら寧ろ好まれる傾向だが、リュウのように元来気の弱い者には少々過ぎた機体。少なくとも、搭乗しているリュウ本人はそう感じていた。


「いっそ君みたいに白兵戦が出来ればな……」


 敢えて拡声器を切り、呟く。


 スカーレットが口にした鎧とはシキのMFAを量産すべく、全体的にスペック&コストダウンさせた試作品である。


 ブーツやガントレットも魔力を魔粒子に変えて放出する機構を取り入れており、魔力の消費量を考えなければ彼女もまたアカツキのように単独飛行と単独戦闘が可能になっていた。


 シキやルゥネは本人が戦いたがっているのなら好きにさせてやれと半ばテストを兼ねて装備を支給していたが、本来それはリュウに配られるものであったとも伝え聞いている。


「せめて僕に直接戦える勇気があれば、君のような子供にっ……」

「っ、リュウ兄ちゃん! 来たよ!」


 恐怖と葛藤に挟まれ、思わず時と場所を忘れた次の瞬間、走り回って遊ぶか母親の手伝いでもしてるであろう年頃の幼女は友人達のような獰猛な笑みを浮かべて飛び出す。


 その先を見れば敵の第四波、第五波の姿がある。


『こうもチマチマ来るってことは……こっちがたった一機と一人だから油断してる、のか? 標的が小さ過ぎて艦砲射撃も無し……見た感じ、艦の護衛を回してるっぽいけど……っ、スーちゃんっ、あんまり前に出ないで! 誤射しちゃうよ!』


 幸いなことに一斉に来ることもなければゾンビ集団も戦艦の方に躍起になっている。


「ふっふーん! そこは兄ちゃんが何とかするのー!」

『そんな無茶苦茶なっ……!』


 孤軍奮闘気味な戦場とはいえ、そこは最も安全な空域であった。





 ◇ ◇ ◇


「撃て撃てぇっ! これ以上連合の犬共に乗り込ませるなぁっ!」

「ひゃはぁっ、良いねぇ良いねぇ! やっぱ戦争は白兵よぉっ!」

「弾ぁ寄越せ弾ぁ!」

「ぐぬぅっ、ひ、怯むなっ! 突き進めぃっ!」

「隊長っ!? ええいっ、よくもっ!」

「聖騎士部隊はそのまま転移魔法で弾丸を逸らしてください! 我等が道を切り開く故っ!」


 ヴォルケニス元中央廊下、現第三格納庫内にて弾丸と怒号、剣戟に悲鳴、詠唱や愉しげな声が響く。


 機体を含めたアーティファクト全般の整備用に改築されたその場所は全長百メートル、横幅六十メートルと無駄に広く、整備中だった迎撃用バーシスや吹き抜け廊下を盾に、乗り込んできた連合兵、それを迎え撃つ帝国兵で激しい戦闘が行われていた。


「空間を拡張したのは失敗ですわね。一度入り込まれれば数には弱い、か……それにしても噂の勇者がこの程度っ!? な訳っ、ないでしょうッ!」

「くっ……この手数はっ……!?」


 何処ぞの魔帝の如き切り替えの早さ、武装の豊富さ。


 雑兵がそれぞれに銃撃、近接戦を繰り広げる中、更にその中央ではルゥネとライが互いを撃ち合い、斬り合い、血で血を洗う超接近戦を続けている。


 具体的には両手にアサルトライフルを構えたルゥネがトリガーを引きながら近付き、《縮地》で真横にすっ飛んだライは床に滑り込むようにしながら左手のライフルを発砲。両者、首や耳元、脇を掠める弾丸にうすら寒いものを覚えつつ尚も肉薄し、ルゥネは両足のぺたんこヒールの踵部分から突出させた隠しナイフで、ライは右手の聖剣でガキンガキンと火花を散らしている。


「アハハハハハッ! 楽しいいいいいぃっ、ですわねぇっ!?」

「何がっ! くぁっ!?」


 弾切れになったような素振りを見せながら片手のライフルを投げつけると同時、その背面側に括り付けた手榴弾が爆発。凄まじい衝撃波と大量の破片がライを襲う。


 連合製のMFAが思い切り火を噴き、逆噴射と咄嗟のジャンプで直撃は避けたものの、聖剣で庇い切れなかった四肢や端正な顔から流血している。


 後退しながらも回復魔法の光が彼の身体を包み、傷を塞いでいく様を見て、ルゥネはまた笑った。


「立ち込める硝煙と血の匂い……死にゆく戦士達の心の咆哮、大の大人が泣き叫ぶ声……あぁっ、全てです! 全てが心地よくっ、堪らないっ!」


 戦場(いくさば)の匂いに当てられて迎撃班に回ったうら若き女帝は自らが誇る圧倒的な種類の銃火器で以て、連合兵と共に侵入してきたライの足止めに成功。それどころか日に使用限度のある回復魔法や回復薬を使わせすらしていた。


「君は……っ、ユウ……いや、シキのっ……!」

「はいっ、妻です! そう言う貴方は旦那様の()ご友人様じゃあありませんかっ!?」


 件の男そっくりの狂戦士の笑みから恋する乙女のような微笑に変えて答え、ドレスの袖から取り出した銃から散弾を振り撒く。


 対するライは前面に《アイテムボックス》を展開し、瞬時に専用盾を召喚。その衝撃に備えた。


「ぐうぅっ……!? そ、そのドレスっ、布地の隙間やポケットが全部マジックバッグっ……なのか……!?」


 シキもまた全身に大量の武装を隠し持っている。


「な、何から何までっ……」

「くっ……ふふっ! 似た者夫婦ですって!? まあ嬉しいっ!」


 絞り出したような声を嘲笑いつつ、ルゥネはドレススカートから魔粒子を放ちながら飛び上がった。


(視界を遮るなんてグレネードで撃ってくれと言われているようなものでしょうに!)

「っ!? 何っ!?」


 【以心伝心】で敢えて次の行動を読ませ、隙を誘う。


「はっはぁっ! 戦場で自ら体勢を崩すなんてお馬鹿さんっ! 嘘ですわッ!」


 まさかといった顔を盾から覗かせたライの太腿、膝関節にランチャー代わりに取った強化ライフルの弾丸が吸い込まれていく。


 反動は無い。発砲と同時に極小の魔粒子が瞬時に逆噴射する仕組み故に。


「ぐあああっ!?」


 MFAや膝当て等の装甲の隙間。


 それも関節とあってはどんな男でも悶絶し、膝を突く。


「我が固有スキルは心を通わせる能力っ! 嘘を嘘だと思う心を切り離して相手に伝えることが出来ないとでもぉっ!?」


 得意気に教えてやりながらライフルと別に取り出したアサルトライフルで鉛の雨をプレゼントしたルゥネだったが、思い出したかのように目の前の男を包み込んだ純白の翼に阻まれ、舌打ちする。


「ぐっ、いっ……がぁっ……!?」

「ちっ……あら、私としたことがはしたないっ……旦那様のが移ってしまいましまわぁ……!」


 いやんいやん身をくねらせて内心の冷静さとにこやかな笑みを取り戻した。


「翼を出す為に態々装甲の隙間を開けているのも笑えますが、痛覚のある部位で身を守るとは愚の骨頂。その血濡れた翼でまだ空を飛べると?」


 ライの白かった翼はルゥネの指摘通り、血に染まって所々赤黒く変色している。


 勇者故に防御力が高く、故に弾丸が貫通せず、故に体内に残る。


 そのせいで回復魔法も効かない。


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! な、何だ……? こ、の……異様な……痛みと……寒気、は……? 熱……い……!」


 聖軍『最強』の勇者は息も絶え絶えで、意識は朦朧としているのか、目も虚ろ。


 圧倒的だった。


 ルゥネは「それだけ血を流せば当たり前でしょう。……思いの外、早く終わってしまいましたわ。旦那様、褒めてくださるかしら……?」と不安そうに吐き捨てると、再び弾切れとなった銃を捨て、新たに同様のものを手に取った。


「はぁ……はぁ……また、う、嘘……だな……この感じ……毒だ……!」

「…………」


 ガチャリと無言で照準を合わせ、さあ撃ち殺すといったところで見破られ、密かに嘆息する。


 先ず何処からともなく弾丸が床に散らばった。


 ライの体内に埋め込まれた弾の数々だ。


「『時』……転移魔法の応用で除去を……? 器用ですわね」


 次に翼ごと全身が光った。


 シキが『闇』の魔力と『火』や『風』の属性魔法を合成させて使えるように、どうやらライもまた全く同じことが出来るらしい。


 ライの《光魔法》の性質は〝蓄放〟。


 『光』の魔力に反応する体内の不純物や毒を満遍なく薄く体表に蓄え、『聖』の魔法による回復&浄化と合わせて放出する。


 汚れも消せるのか、眼下の男が服や装甲の傷以外全て今日初めて会ったの状態を再現したことで、ルゥネの顔は僅かに曇った。


 仮に今撃ったところで翼に遮られるのはわかっていた。


 そして悟った。


 早々に決着を付け、定位置に戻らないと不味いことを。


 光が消えるかどうかといった次の瞬間。


 ライの翼がバサッと広げられ、『光』の魔力を纏った羽根の雨がルゥネを……否、ルゥネの背後と頭上に飛来する。


「ぐがああああああっ!?」

「ぎゃあああっ!? 熱イっ……熱イィッ!?」

「身体ガ消エていクぅっ!?」


 その悲鳴は新世界創造軍(ニュー・オーダー)の尖兵、ゾンビのものだった。


 ハッとした顔で振り向いていたルゥネは連合が開け、兵が入ってきた穴から屍の群れが大量に涌き出た虫のように侵入を試みている光景を目撃した。


 再度ライが放った光の羽根がルゥネに飛び掛かってきていた何体かを消滅させ、構えと幾つかの弾を無駄にさせる。


「はっ、舐められたものですわね! 敵の前で別の敵を攻撃するなんて……!」

「……俺達の目的は君の捕縛だ。殺すことじゃない。そうすればシキだってきっと……!」


 戦艦の中の戦場はゾンビ兵の襲撃により、泥沼化の一途を辿っていった。




 ◇ ◇ ◇


 一人の人間()()()()()が文字通りの散り散りになって墜ちていく。


 一部は髪の付いた頭部、一部は歯、一部は乳房、一部は何処かの骨、一部は何処かの内臓……エトセトラエトセトラ。


 生物が持つ生命エネルギーは死の直後から霧散するものではないらしく、少々歪だったが、目玉や脳ミソっぽいものの欠片も確認出来た。


 間違いなく、ミサキは死んだ。


「これで二人……さあ、在庫処分の時間だっ! お前とロベリアもあの世に送ってやるッ!」


 そう叫び、爪と義手を構えた直後、戦場の異変に気付く。


「父代わりだったレーセンに引き続きマリー女王、ミサキまでっ……あの人に何て報告すればっ……!」


 珍しく怒りを露にしていた聖騎士ノアも視界がある分、気付いて以降は身体をそちらに向けてまで驚いていた。


「っ!? あれは我が方の……いえ、あの色……まさか……!?」

 

 色というのは俺にはわからないが、他の面……索敵能力ならノアよりも優れている。それが魔力のあるものなら殊更に。


「何だ……? 戦艦の数が……やたら多いぞ? どういう、こった……?」


 まさか、という思いが過る。


 マナミは連合を脱退する際、結成した第四勢力と共に艦隊の一部を強奪したと聞く。


 奴等が来た?


 この状況、このタイミングで?


 マナミの奴……何を企んで……。


 相対しているノアに大した遠距離攻撃法はない。


 油断とは少し違うが、意識はそちらに持っていかれた。


「魔導砲を両艦隊に降らせ、魔障壁で拡散……ゾンビを払ったのか……?」


 俺達が最前線、その後ろにリュウら先遣隊、その更に後ろの帝国航空部隊、上にはディルフィンと魔族部隊、その下に敵味方の艦隊と戦域は完全に分散している。


 そんな中、気付いた時には増えていた新たな艦隊は現空域の遥か上空から降下してきていた。


 俺達が気付いたのは降下の最中に魔導砲を撃ったから。


 事実、奴等の放った強力なエネルギーは帝国、連合問わず艦隊の居る空域に降り注いでおり、艦の直前で弾かれたように散っている。


 ここからだと詳細までは確認出来ないものの、それがゾンビ達を狙ったものであることは明白。


 しかし、艦の護衛として出ていたテキオやココの部隊が巻き込まれた可能性はある。


 ルゥネ達のことを思い、少しだけ胸がざわついた。


 極め付きは『メサイア』艦隊から聞こえてきた放送。


『ターイズ連合、並びにパヴォール帝国……双方、直ちに矛を収めてください。こちらメサイア。この世界に再生と救済をもたらす私設組織です』


 マナミの声だった。


 当然それだけの宣言で戦争が終わる訳もなく、周囲はおろか、俺とノアの間でも斬撃や弾丸が飛び交うようになる。


「何考えてやがんだあいつはっ……!」

「あの者っ、裏切った上に奇襲……!? 如何な『再生者』と言えどっ!」


 拡声された友人の声は断続的に続き、そのせいで今一集中しきれないが、俺とノアは交差するように飛び回り、獲物と獲物をぶつけ合っていた。


『っ……聞いてください! 戦争なんてやってる場合じゃないんです! 核が持ち込まれているんですよ!?』


 まるで聞く耳を持たない兵や俺達に業を煮やしたのか、マナミの口調が荒くなる。


 目的は理解した。


 ニュー・オーダーからの核の排除。それ自体は両軍の……いや、両軍所属の異世界出身者の望むところ。


 しかし……


「クハッ! お前らのお陰で連合は三度目の襲撃を受けたことになるっ! ここまで来たら長期戦に持ち込んで殲滅するのが定石だろッ!」


 言いながらショーテルを抜き、盾を前に突撃してきたノアに振り下ろす。


「うっ、あぐぅっ!?」


 本来の役割通り、湾曲した刀身は不壊の盾に引っ掛かるようにしてノアの左手肩を斬り裂いた。


 が、浅い。


 互いに攻撃と同時に離脱を考えていた為に腕を斬り落とすことは叶わず、泣く泣く距離をとる。


『このっ……ユウ君っ! ライ君っ! 聞こえてるんでしょ皆を止めてッ! 既にイクシアは失くなっちゃったんだよっ!? 街をっ、国を消滅させる絶対兵器なんだよ!? 過去、あっちの世界で起きた悲劇が繰り返されてるのにっ、それをむざむざ見過ごせるのっ!?』


 名指しの呼び掛けを鼻で笑い、飛んできた弾丸を上昇して躱す。


 お返しに魔導砲をお見舞いしてやり、魔障壁と盾に弾かれた。


 だが。


「前に言ったよなァッ!? お前のその盾っ、衝撃までは消せないっ! それが弱点だとっ!」

「くあぁっ!?」


 撥ね飛ばされたように吹き飛ぶノアを追い、ショーテルと義手を構える。


「どうしたっ、仇を討つんじゃないのか白騎士ィッ!? それともっ、枕でしか立場を保てないってかっ!? クハハハッ!」

「ええいっ……言わせておけばっ……!」


 どちらにしろ防げない、それならば……


 そう考えたのだろう。


 ノアは回転しながら空を蹴り、《縮地》で降下した。


 その上、スラスターに魔力を一気に送り込み、速度を上げている。


『ユウ君! ライ君止まって! 何でこの状況で戦争なんか続けられるのっ! ここで手を取り合って戦えば世界は平和になるっ! 一度その実績があれば差別意識も失くなるでしょ!?』


 ビュービューと吹き荒れる風の中、身勝手かつ甘ったれた戯れ言が聞こえる。


 理想を見過ぎて現実が見えてないバカの声だ。


 俺はMFAの出すとてつもない推進力を糧に余裕でノアに追い付くと、再びショーテルをぶつけた。


「実績と言うのならっ……! 一度撃たれた弾は何処へ言ったって言うんだっ、あのアマッ!」

「っ、食らいなさいっ……!」


 やけに軽いと思ったら誘ったつもりだったらしく、ノアの新武器である銃剣が俺の顔面目掛けて覗いていた。


 ズガァンッ……! と、派手な発砲音が鳴り響き、刀身の根元から放たれた弾丸が迫り来る。


 《直感》が仕事しない。


 つまりは死なない攻撃。


 構造的に高い威力を出せない初見殺しの武器で、本命は隙を作っての斬り付けなんだろう。


 誘われただけあって《縮地》でも間に合うか怪しいタイミング。ほぼ躱せない。


 ルゥネみたいに魔物の特殊毒を塗られでもしていたら尚更堪らない。


 仕方ない。


 ここは……!


 実戦運用に勝るテストはないと割り切った俺はライと戦う為の新装備を使った。


 ズダアアァンッ!!


 ない筈の視界が揺れ、歪み、過去最大級の反動が身を襲う。


「なっ!?」

『連合も帝国も止まってください! 核の威力を知っているでしょうっ!?』


 耳すら遠くなり、驚くノアや悲痛なマナミの声がただの音として通過した。


 その間、一秒か二秒か。


 俺の身体はノアの背後から頭上へと瞬間移動していた。


「《縮地》じゃっ……ないっ……!?」


 尚も驚愕しているノアの手には盾がない。


 当然だ、ショーテルを引っ掛けたまま離れたんだから。


 背面装甲の各所が空になった薬莢を吐き出すのが振動でわかった。


「お、おうっ……よっ……! はぁ……はぁ……! 対勇者、対ゼーアロットを想定した新装備はっ……どうだァッ!?」


 吹っ飛んでいく不壊の盾を横目に、俺はその距離のまま義手を振りかぶり、機械が出す万力のような力で振り抜いた。


 鎧だけの騎士なぞ……!


 予想通り。


 片腕と銃剣をガードに使ったようだったが、腕は潰れ、銃剣はへし折れ。


 ルゥネお手製の俺の拳は奴の顔面と胸に直撃。


 グチャァッ……と生々しい音と共にひしゃげた白騎士は悲鳴を上げることもなく墜ちていった。


「がはっ……ぐぶっ……し、しくっ……たっ……Gを甘く見てたっ……殺し、切れなかったか……?」


 あまりに無理やりかつ急激な移動法の為、思い切り吐血してしまった。


 手元が狂った感覚もあった。


 それを証明するように、ノアの生命反応は消えることなく義眼に映り続けている。


「っ!? 聖女様がやられたぞっ!」

「何としてもお救いしろっ!」

『我々は護衛に回らせてもらう!』


 ……しかもその辺を飛んでた雑兵共に拾われやがった。


 何て悪運の強い奴だ。


 ダメだな、フルーゲル相手じゃ魔導砲は弾かれる。


「チッ……まあマナミの奴が居ないなら再起不能には……」


 自らの呟きが聞こえたことで漸く耳鳴りが消えたこと、五感の回復に気付く。


「やはり反動ダメージが課題、か。重量があるからどうにも厳しいな」


 回復薬を飲み干し、一息吐いていると、再び名指しで呼ばれた。


『ユウ君っ、わかってないの!? 旗艦に乗り込まれてるよっ、連合の兵とゾンビ達に! ライ君も居たって! 聞こえてたら直ぐに戻ってッ! 兵を退かせて!』

「……ったくあの女は」


 思わず毒づき、加速を掛ける。


 目指すはヴォルケニスだ。


 マナミの性格からして情報は真実。


 どうやら核の排除を第一に、戦争行為そのものを止めさせるのが第二目標のようだ。


「矛盾してるぞマナミ……!」


 休戦協定以来、もうこんなことは止めようと投げ掛けたムクロの好意を踏みにじっておきながら……いや、踏みにじった側と踏みにじられた側に、言うに事欠いて実績だぁ……?


 それに……俺とクソッタレ勇者を引き合わせて今更何になると言うんだ。


 撫子は死んだ。


 ムクロも眠らせた。


 新革派の魔族を軍隊に引き摺り込み、様子見とて戦場に出した。


 マリーもミサキもぶっ殺し、ノアも二度とまともに立てないくらいの後遺症を与えてやった。


 一体……俺が幾つの罪を重ねたと思っていやがる。


「事は起きてるんだぞ……世界をこうも動かしたんだ、止まるものか……!」


 そう吐き捨てておきながら、焦燥感が拭えない。


 そうだ、俺が奴の女共を殺せたんなら……


「ルゥネ……お前は同盟の要だ、俺の武器で……宝だっ……」


 だからどうか。


 持ち堪えていてくれ。


 マナミの声など何のそのと広がり続ける戦場を高速横断しつつ。


 俺は柄にもなく祈っていた。


ルゥネ「いや普通に善戦してますわ。何をそんなに不安がっているんです?」

シキ「……戦ってるから何もわからないんだよ、戦況も魔力とか生命反応で前進と後退しか見えてないし。大体、全戦闘空域で何十キロあると思ってんだ。隣の空域で何してるか、どうなってるかすらわからんわ」


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