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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
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第266話 渇望

新年明けましておめでとうございます。


インフルかコロナか、先日から寝込んでいる葉月です。

短いのでもう少し文を足したかったんですが、予想以上に頭が働かないので投稿します。


相変わらず駄文長文誤字脱字に矛盾と拙いにも程がある出来の拙作ですが、今年も宜しくお願い致しますm(__)m


「私はっ……!」


 内部構造ごとか、単に外部だけ変化しているのか。MMM並みの大きさを誇る義手がカシュンカシュンと音を立てて伸縮し、メイを殴り飛ばす。


「ぐっ、いぃっ……ったいんだからっ、もうっ!」


 『風』のクッションは魔法を弾く特性でぶち抜かれた。


 ならばと《縮地》で空を蹴り、自分から飛ぶことで多少のダメージ軽減を図るが、ニセモノとてシキが現在進行形で使う腕。帝国の技術と『世界最強』の素材を掛け合わせた特級品。それを受けたメイのガントレットは簡単に歪み、右腕は鈍い音と共に変な方向に曲がった。


「私は人気者になりたかった! 皆の注目を浴びたかったっ、貴女のお兄さんに認められてっ……あんな地味女じゃなく私を選んで欲しかったっ!」


 吹き飛ばされたメイの身体が湖の水面を跳ねていく最中、【変幻自在】の主の本音が吐露される。


 対するメイは逆噴射で緊急制動を掛けて停止。『火』と『風』の属性魔法を融合させて小爆発を起こした。


 スキルを使わない文字通りの爆発的加速。


 多少の荒さとダメージこそあれ、勇者らしく神懸かった魔力操作により、メイの身体は一瞬にして前面に出る。


「それってマナミさんのことっ……!? だから別の存在になれば見てもらえるっ……承認欲求が満たされるって!? はっ、小さい女だねっ!」


 心底下らないというトーンで吐き捨てながらの回転回し蹴り。


 それ単体はシキの義手で軽く受け止められたものの、コンマ数秒遅れで付随するようにして発生した『雷』の稲妻は見事【変幻自在】の主の顔面と左腕に命中し、仰け反らせた。


「ぐっ……ぎいぃっ!?」

「【先見之明】があったって……使いこなせなきゃ宝の持ち腐れでしょうがっ!」


 出来た隙を見逃さず、畳み掛けるようにして再度回転蹴りを食らわせる。


 が、シキが最初に殺して見せた両盾持ちのクラスメート……防御特化の人物に変身することで相殺された。


「くっ……!」


 例えダメージを受けても他の人物に変身し直せば()()()()ことになるらしい。


「物質的に変換されてるのよっ!? 痛みや傷が残る訳ないでしょう!?」


 ライの顔で痛がり、ライの声で悲鳴を上げた直後の変身。


 先程からまるで堪えた様子のないことに疑問を覚えていたメイは再び絶望し、しかし、回復魔法を掛けながら右肘、前腕から魔粒子を放出。骨の位置を無理やり戻し、修復し、尚且つ目の前の敵に向けられた右手はその先端から固有スキル製の電撃を生んだ。


 バチバチバチバチィッ!


 即死レベルの放電は下半身を撫子に変身させての神速上昇で回避され、湖に流れていく。


「ほらねっ!? 本当の私には不可能な事象でも他の人に変身すれば可能になる! 貴女もクラスメートの皆みたいに偽物だって笑うっ!? お前の力じゃないっ、狡い能力だって! そう言って死んでいった馬鹿な連中と同じようにッ!?」


 それこそが事実だと叫びつつ、ミサキになって踵落とし。


 他は兎も角、その女ならと、メイは再度『風』のクッションを創造。スラスターブーツを全開にしながら受け止める。


「別にっ……凄い能力だとは思うよ! その人達はユウ兄ほど適応出来なかった! この世界を舐めて掛かった! それが死因でしょっ! それに比べればアンタは強いっ! それは認めるとも!」


 受け止めた腕が向けられるは頭上。そこには嘗てロベリアを追い詰めた球体兵器の姿があった。


 魔法の行使と一緒にしれっと投げていたらしい。


 「けど……」と続いた閃光は球体に突き進み、カクンッと角度を直角に曲げて敵に迫る。


「っ!? こ、このっ……あぎゃあああっ!?」


 固有スキル製の稲妻は二連続で放たれ、一つは直撃、一つはまた湖に落ちる。


 が、墜ちない。


 変身元の防御力が異常なのか、精神力が成す事象か。


 身を焼き、心臓を停止させるほどの威力の電力を流されても尚、主は白目を剥きながら耐え切った。


「私も同じ能力頼りだしっ、実際に生き残ってるし! でもね! それと同時に可哀想な人だなぁとも思っちゃう……ねッ!」


 メイは自身に出せる最大火力の近接武装を顕現させて特攻する。


 即ち……短杖から魔力状の剣を発生させた擬似フォトンソード。


 奇しくもロベリアが使った兵装とよく似たそれは全く同じもので防がれた。


「な、に……がぁっ!」


 こうまで翻弄されるならいっそのこと相手そのものになれば良いとでも考えたのか、主はメイの姿をしていた。


「でえぇいっ……!」

「はああぁっ……!」


 水面上で同じ姿の少女同士がそれぞれを殺傷するべく腕に力を込める。


 鍔迫り合いの形に持っていかれたものの、後は純粋な我慢比べだと思っていたメイはやがて違いに気付く。


 姿、やっていることは同じ。されど、少しずつ押され出した。


 ライの時と同様、外見はメイのまま中身を別人に変えることで総魔力量と技術力を上乗せしたようだった。


 仕方なしに体勢を崩し、片手に持ち直してもう一度鍔迫り合う。


 同時に反対の手で雷を放ったが、鏡合わせのように全く同じ手法で相殺され、轟音と共に両者の身体を弾き飛ばした。


「はーっ……はーっ……」

「ふっ……ふふっ……あはははっ……疲れた? 疲れたよねぇっ!? けど私は違う! さっきも言ったけど、人体構造そのものが変換される能力だからねぇ……! 疲れないし、ダメージは失くせるし、何でも出来るよぉ……?」


 先程見せた、幾人もの人間が混ざった異形の笑み。


 その姿は酷く不気味で、顔が実兄ともなれば気色悪さは増す一方。


 肉体的な疲労やダメージは無効化出来、その上多種多様な人間の力を行使出来る能力。


 成る程、無敵だとメイは思った。


 一方で、でもやっぱり……とも思った。


 少し煽るだけでも熱くなる性格だということは既に知れている。


 精神的に酷く未熟で、戦闘そのものに慣れてない。


 シキやルゥネ、あるいは自分がその能力を授かったのなら絶対にもっと上手く扱っていた、扱えるという自負があった。


 故に、息を整えて話し掛ける。


「フーッ……ふーっ……ねぇ、あんたってさ。徹底的なまでに自分の姿を隠すよね? それは何で?」


 異形は途端に狼狽え、何一つ左右対称じゃない身体と目を揺らした。


「な、んで……って……」

「認めてほしいんでしょ? なら何で普段から別人に成り済ましてるの? 矛盾してない?」


 その指摘は恐らくこちらの世界に順応した人間なら鼻で笑うもの。


 何故なら聞くだけ無駄だから。


 力さえあれば大抵の行動はほぼ正当化出来るこの世界では意味のないもの。


 しかし、まだ慣れきってない異世界の人間……特に異形のように精神が成熟してない人間にとっては何事にも耐え難く、思わず反応してしまう。


「それはっ……本当の私が弱いからっ!」

「ふーん……自分で自分を弱いと認めちゃうんだ? 他人には強さや存在を認めてほしいのに。折角強い能力を得られても、当の本人がそんな卑屈な性格じゃあねぇ?」


 シキ譲りとすら思える、嘲笑い、見下すような視線。


 異形の身体はわなわなと震え、その顔は怒りに満ちていく。


「ど、どういう意味よ……!?」

「え、まだわからないの? アンタがその力をどんなに使いこなして活躍したところで凄いのは変身元の人って言ってんの」

「はぁ!? ち、違っ……!」

「違わないよ。何より自分自身で自分の姿形、性格にステータス、能力……親にもらった顔や身体、足先から頭の天辺まで存在そのものを全否定してるんだもん」


 会話しながら、両者共に攻撃準備に入った。


 メイは両手からバチバチと放電する稲妻を生み出し、異形はシキの義手と撫子の左腕、刀を構える。


「ヒーローになりたいだとか英雄になりたいだとか人気者になりたいだとか……そんな()()を言ってる時点でなれてなくない? 失格とまでは言わないけどさ。自分で壁作って自分でハードルを上げて……なりたいから絶対になってやる、見てろよって思うんだよ普通は」


 続いた、〝肝心の本人が弱いままじゃん、所詮はニセモノだね〟というセリフは異形のプライドを強く刺激し。 


「うっ……うわああああああっ!!」


 と、絶叫突撃を強いた。


 初撃。


 二発の稲妻が異形に迫り、巨大義手でガードされた。


 二撃目。


 四発の稲妻が湖に放たれ、軽い水蒸気爆発を起こした。


「うくっ!? め、目眩ましなんて……!」


 足元から噴水のように舞い上がった水の柱を前に異形が突撃を止め、撫子の刀を振るう。


 が、上昇していたメイには当たらない。


「ほらね、ユウ兄の腕を使いこなせてない。自分で自分の視界を遮ってる。咄嗟に左手を使っちゃったから撫子さんの能力も今の水飛沫を斬って使いきったよ」

「だ、黙れ黙れぇっ!」


 三撃目。


 激昂して義手を振りかぶった異形の元に閃光弾と手榴弾を投げ、二発の稲妻で貫き爆ぜさせる。


「ぎゃっ!?」


 二段階の目潰しと突然の爆風はダメージを生まずとも怯ませ、水面に叩き付けるには十分。


 そして次の瞬間、異形はビクンッと大きく全身を震わせて硬直した。


「戦闘中、何回この湖に雷を落としたと思う? 一瞬で分散するって言っても電気は流れてる。流れさえすれば後は……」


 その説明を聞き、驚愕の表情のまま水中に目をやる。


 一見何の変哲もない、無色透明で綺麗な水原。


 しかし、良く見ると違いに気付ける。


 メイが先程見せた球体兵器。


 それが大量に沈んでいた。


 目に見えずとも水中では定期的に電気が行き来しているのだろう。


「さっき落とされた時……ちょっとね? 変身で無効化は出来ても効いてはいるようだったし」


 全ては図られていた。


 策に嵌まり、見事痺れさせられた。


 そんな事実は【変幻自在】の主を更に焦らせ、視野を奪っていく。


「何度やられてもっ……今更っ……!」


 主が取った行動はやはり変身。


 今度は絶縁体の何か……絶縁体の皮膚や膜を纏った何者かになるべく光り始めた。


 メイは直ぐ様そこに降り立つと、冷酷なまでに言い放つ。


「チェック。言ったでしょ、能力頼りで生きてるから土壇場でも頼る……自分の身体を分子レベルで分解して再構築する能力ってことは一瞬だけ五感が無くなる瞬間があるんじゃない? それでなくとも変身してる間は無防備になる。……見せ過ぎたね」

「っ……っ……!? っ………………」


 その仮説通り、変身の最中に頭部を擬似フォトンソードで刺し貫かれた異形は何か言い返すことなく痙攣し、やがて沈黙。


 身体が弛緩していき、水面が赤く染まり……異形は完全に元の日本人の少女へと戻った。


「……確かに地味系の顔立ちしてるけど、普通にしてれば皆何も言わないでしょ。変にコンプレックス持って爆発するから誰しもに距離取られるんだよ」


 同郷の人間の死。


 その様、自分が成した殺人行為に顔を歪めたメイはそう静かに呟いた。


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