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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
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第260話 介入


 新世界創造軍(ニュー・オーダー)の最大の脅威は数である。


 東西南北陸海空全ての場所からありとあらゆる種、大きさ、特徴を持った不死身の軍隊が群体となって攻めてくる。


 魔導戦艦の搭乗員もMMM乗りも全てアンデッド。


 魔物になってしまえば生物的に変質するのか、『天空の民』()()()者達の魔力は現代の一般兵と然程変わらず。その上で知能はそのまま。


 基本的に腐乱しているが故に病原菌も持っており、例え相対して逃れられても病で倒れる可能性大。中には放射能を帯びている者まで存在するという数段構えになっている。


 そうして死者が増えれば再びアンデッドとなって甦り、【死者蘇生】を持つゼーアロットの手足となって動き出すという寸法だ。


 不幸中の幸いか、能力の発動条件はゼーアロット本人が死者に触れること。隣で死亡した友人が猛然と襲い掛かってくることはない。


 そして、聖軍が全体の四割ほどを締めるターイズ連合には必滅待った無しの対アンデッド最強の対処法……『聖』魔法や《光魔法》がある。


 ゼーアロット本人も空中戦には不慣れで、他勢力の特級戦力のような専用のスラスター装備もなければステータスや戦闘法も物理特化。


 以上のことが圧倒的な数を誇るニュー・オーダーが先に仕掛けたにも拘わらずターイズ連合との戦況が均衡するに至った要因であった。


 少なくとも。


 最前線にて聖剣を振るい、白い翼から《光魔法》の粒で構成された羽根を飛ばし、連合製のMFAで高速飛行していたライはそんな印象を抱いていた。


 (だとしても数が多すぎるっ……! 何処か戦線が瓦解すれば一気に傾くこの状況っ……やはり俺が前に出るべきじゃないのか……!?)


 内心の焦りなど噯にも出さず全速力で空を駆け、通り抜き様に斬って落とし、最早手足にも等しい翼で払い、あるいは魔力の塊を放って消滅させ……


 残像すら生み出すその飛行速度は既に神速。


 ジルや撫子の域に達している。


 辺り一面を覆い尽くすような亡者の群れの中を縦横無尽に加減速を付けての飛翔波状攻撃は必然的に味方を置き去りにし、最前線を一人で請け負う形になっていた。


「このっ……しつこいっ! 来たら今度こそ死ぬんだぞっ!?」

「●◇#◇○@▽#§!!!」

「じゃあ殺してくれ! 頼むから!」

「身体が言うことを聞かないんだよぉっ!」

「……っ!」


 口が腐り落ちて何を言っているかわからない者から悲痛な面持ちで来る者、最早意識までゼーアロットの支配下にあるのか、感情すら感じさせずに迫る者と多種多様な()人間達を纏めて叩き斬る。


 《光魔法》の魔力を宿した聖剣はその空間には何もなかったかのように彼の者らを斬り裂き、そして光の粒へと変えていく。


 ライは手に残りすらしなかった人斬りの感触に顔を歪め、それでも止まらずに両翼を広げると、弾丸さながらに光の羽根を撒き散らした。


「「「「「ぎゃああああああっ!?」」」」」


 前方で待ち構えていた群れが尽く消滅し、光となって消える中を潜り抜け、必滅の雨を降らしながら回転する。


 十、二十、三十……どれほどの数を減らせたか判別出来ないほどには視界がクリアになったものの、ゾンビ兵達はものの数秒もしない内にワッと群がってくる。


「でえぇいっ……!」


 顔や四肢、それらのパーツが欠損している者、首すらない者、胴体に穴が空いて内臓が飛び出ている者、向こうの光景が見える者。


 無惨に殺されても尚、魔物として使役され、したくもない戦争行為に加担する。


 そんな兵らの無念を思って苦渋の声を漏らしながら、ライは戦い続けていた。


『よ、漸く追い付いたっ! 何てスピードだっ!』

『加勢しますぞっ、勇者殿!』

『ちぃっ……対同盟軍用の新装備をこうも使わせるかっ……!』


 最初に合流し、かなりの数の敵を受け持ってくれたのはその発言権や影響力を縮小させた筈のMMM部隊。


 新造、量産された拡散バズーカ砲を手に大量の『フルーゲル』が駆け付け、展開したのちに上下左右に斜めと各方面に撃ち放てば一見巨大な砲弾が飛んでいき、やがて爆散。中に込められていた無数の礫が更に拡散して広がり、周囲に居た魔物達は瞬く間に肉片や血の霧となって墜ちていった。


「っ……助かりましたっ!」


 一息吐いて感謝を述べた直後、アンダーゴーレム用にだけでなく、人間サイズにまで落とし込んだ同型の武器を両肩に乗せた連合兵も続々と到着し、殲滅に加わり出す。


「我らもおりますっ!」

「各員、生身で戦えないアンダーゴーレム(腰抜け)部隊になぞ遅れをとるな! 撃て撃て撃てぃっ!」

「勇者様! こちらは『聖歌』の用意がありますっ、もうこの空域は問題ありませぬ!」


 各国軍の兵と聖騎士らの大部隊。


 嘗てシキを大いに追い込んだ祝福の儀式……魔族や魔物の能力を著しく低下させ、あるいは低級の者なら消滅までさせる『聖歌』が始まったことで戦況は連合側へと傾いた。


 しかし、それは極一部のこと。


 魔力回復薬を飲みながら辺りを見渡せば、応援が必要な戦闘空域も幾つか見受けられる。


 何なら味方艦の船体やブリッジが黒く蠢く何か……大量のゾンビ達に覆い尽くされ、やがて墜ちていく光景もあった。


 逸る気持ちを抑えつつも、ライは叫んでいた。


「やはり俺が()()を使いますっ! そうすればっ……!」


 言うや否や、金白に光り輝き出した聖剣を掲げて振りかぶるが、連合兵達が前面に浮き塞がり、邪魔をする。


『いけません!!』

「そうですっ、貴方様は我々の要っ!」

「憎き同盟軍の通信を聞いた筈ですぞ! 堪えるのです!」

『これしきのことで余計な力を使わせる訳にはいかないのですよっ!』


 帝国軍進撃の情報は既にライの元にも届いている。


 その艦隊の中にシキが居ることも予想していた。


「け、けどっ……だとしてもこの戦況じゃっ……!」


 戦闘開始から既に半日が経過している。毒を帯びた疲れ知らずのゾンビ兵と事を構えるとなれば押されもする。ここは多少足が出たとしても一石を投じる必要があるだろう。


 そんな考えの元の発言は被るようにして入ってきたインカムへの通信で中断させられた。


『緊急報告っ! こ、こちら北西戦線七番艦! 来ましたっ! 同盟っ……いえ、情報通りなら帝国軍の襲撃です!』


 通信妨害の技術は相手を選ばない。味方の通信をも阻害してしまう。


 帝国がやって見せたように出力を高めれば声明文を送ることも出来るが、傍受のリスクは連合とて消せない。


 その上での通信は相応の脅威を示している。


 つまり……


『総勢五十を越える大艦隊が真っ直ぐ向かってきています! 我々は――』


 ――ズガアアアァンッ!!


 戦線の最端からの通信は耳をつんざくような爆発音を最後に沈黙した。


「うくっ……き、来たかっ……!」


 思わず耳を押さえて悶絶したライが苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


 同時に、視界の遥か先で沈みゆく味方艦の姿を視認。地平線の彼方には帝国や魔国の国旗を掛け合わせた黒と紫、あるいは黒と赤の魔導戦艦が列を成していた。


 どうやら側面から一方的に艦砲射撃を受けたようだった。通信を送ってきていたであろう味方艦の他にも勢力関係なく墜落し始めている船体が幾つか確認出来る。


「五十以上って帝国の全艦隊じゃない……か……っ!? ちょっと待て北西っ……? 北西だって!?」


 数のインパクトに気を取られ、言ってから違和感に気付いて【明鏡止水】で強制的に感情をリセット。努めて冷静に事態を見つめ直す。


 (()()()()()()……どういうことだ……? あの艦隊は間違いなく帝国の主力艦隊……密偵は帝都から飛び立ったって……)


 間諜として優秀であることがイコールで古代技術の造詣が深いとは限らない。


 ライの脳裏には立体映像技術やその他アーティファクトのことが過っていた。


「帝国艦隊は最初から帝都に駐留していなかった……? 帝都にあった、あるように見せ掛けられた……いや、他の国から借りた艦隊で擬装した……?」


 どの推測が当たっているかなどは最早どうでも良い。


 問題は敵艦隊が現れた空域。


 (不味いっ……あっちには母艦がっ……マリーやノア達が危ないっ……! まさかアイツっ、これを狙ってっ……!?)


 何十キロと離れた位置からでも全体像が視認可能な自慢の巨大天空要塞に視線を向けるものの、視界は直ぐ様不気味なまでに変色した死体の群れによって埋め尽くされていく。


 合流した味方のお陰で拓けていた空はあっという間に黒く染まった。


 全てが死人や魔物の死骸。ただの物理攻撃では死なず、疲れず、しかし、数の暴力で味方を潰してでも突撃してくる。漂ってくる腐臭も酷ければ心なしか空気も淀んでおり、常に回復魔法を使うか、『風』の属性魔法で結界を作っていなければ毒を吸い込んでしまう。


 如何な現ターイズ連合『最強』の勇者でもそんな肉壁包囲網は容易に抜けない。


 加えて言えば無理やり撤退するも悪手。


 連合兵の部隊は既にニュー・オーダーに押されつつある。ライには自分が抜けた穴を埋められる人間は居ないという自負、自覚もあった。


「くっ……!」


 一体何百何千のゾンビ兵を消滅させたのか、数えるのも億劫になるほど戦っているが、全体数は減っているように見えず、物量なら増えているとすら感じる。


 (マナミの存在の有無がこうも大きいとはっ……)


 たった一人の軍隊(ワンマンアーミー)として優秀過ぎた男は今更ながらに逃した魚の大きさに気付き、尚も自身に出せる全力で以て殲滅を続けていた。


 



 ◇ ◇ ◇


 ルゥネ率いる帝国艦隊から離れ、突出していた一隻の改造巡洋艦に連合の迎撃部隊が放つ対空砲火が集中する。


 高速飛行を目的にレストアされたその船……ディルフィンのブリッジ内と甲板上はパニックに陥っていた。


「ぶひぃ!? 散弾バズーカっ、ですぞっ!?」

「せ、船体っ、退げます!」

『新兵器っ……!? このっ……か、各員後退っ! 距離を取って!』

『わわわっ、ちょっと! 急に遅くしないでよっ、飛べないでしょ!!』


 艦長のジョン、操舵手、アカツキに乗っていたリュウ、今にも飛び出そうとしていたスカーレット。


 だけに留まらず、船内中から悲鳴や怒号、爆発音まで聞こえてくる。


 減速からの急転換でも間に合わず、被弾し……と、激しい揺れに見舞われる中、シキは仲間達の体たらくに怒りの声を上げる。

 

「何をしてるっ!? 何で後退するんだっ、前に出るんだよ!」


 彼の義眼は熱源探知も可能。飛来途中に拡散し、玉を広範囲にぶち撒けてくる厄介な新兵器の弱点は早々に見抜いていた。


「ぶひひぃっ、む、むむむっ、無理を言わないでほしいですぞぉっ!?」

「チィッ、ド素人がっ……! 前だ前っ! 突っ込め! 敵はたかだかエアクラフト部隊とフルーゲルだぞ! 何の為に加速したんだっ、どうせなら船体をぶつけてやれ!」

「そ、その前に直撃しますぞっ! あんたバカぁ!? なんですぞっ!!」


 真っ向から意見がぶつかり、ジョンと怒鳴り合う。


 シキは呆れきって首を振って言った。


「ったくビビりのくせに余裕ある返しするじゃねぇかっ……えぇっ、おいっ? オペレーターっ、フェイ達に手本を見せてやるよう言え!」


 通信担当の者が被弾による振動と付近で起きる爆発染みた光に震えながら指示通りに動く。


 逆に、予め付近を飛行していたフェイと六機の黒いフルーゲルで構成されたヴァルキリー隊は通信の前に動いていた。


『煩いねぇっ、こっちにも聞こえてきたよ大将っ! わぁってるさね!』


 銀灰色の()()()がブリッジの真横を通り過ぎ、そこからフェイの声が届く。


 帝国で発掘された特機シヴァト。


 全長はフルーゲルの約1.5倍。武装は両腕部に内蔵してあるマシンガンと背面装甲にマウントしている複製魔銃。近接格闘武器として専用に改造されたシエレンの二刀振動長剣を腰部に帯剣。脚部にはシキと同様の暗器赤熱剣が隠されている。


 その最大の特徴は何と言っても類を見ない可変機構である。


 熱核、魔導エンジンに挟まれている菱形胸部コックピットは下半分を前面に出し、両腕と両脚は畳まれて飛翔翼兼銃火器、背面スラスターとドッキング。合わせて二つの巨大ジェネレーターへと早変わり。代わりに各部装甲の間から小型のバーニアが露出し、制御性はそのままに魔銃と振動長剣が両エンジンを保護する。


 人型時点で凄まじい推進力を発揮する特殊な機体は戦闘機形態に変形後、ロベリアの最大加速時と同等の速度を叩き出す。


 事実、敵迎撃部隊の前に颯爽と飛び出た彼女はバズーカの砲弾が散る前に急接近して銃撃するか、砲弾自体を撃ち落として無力化の後に撃墜を重ねていた。


 それどころか翼となった両腕から鉛の雨を降らしながら突っ込み、浮遊していた連合兵を蹴散らしている。


「ぐぎゃあっ!?」

「うわあああっ!?」

「この大きさでこの速っ……ひぎゅっ!?」


 ロベリアですら自画自賛する次元の速度で迫るアンダーゴーレムの体当たりだ。弾丸は躱せても、機体に当たってしまえば掠めただけでも即死は免れない。


 首が、四肢が、上半身が、下半身が血飛沫と共に舞う。


 爆発してしまう為、エアクラフトへの直撃もアウト。


 連合のフルーゲル部隊も同じことで当たった瞬間に爆散することこそないが、エンジン部やコックピット付近に飛弾した者は悲惨なもので近くの味方をも巻き込む巨大手榴弾と化すか、動力源がミンチになったことで静かに墜ちていくのみ。


 そうして彼女が通った後ろに続くはそんな彼女用にチューンされたフルーゲルを譲り受け、新生ヴァルキリー隊として組み込んだ女パイロット達。


『あっ、た、隊長っ、早いですってっ! わ、私達も行くわよ!』

『いけいけごーごー!』

『隊長が抜けて昇進したからって調子に乗るネペッタ可愛い』

『偉そうにしないでよね副隊長~』

『あれ、敬語辞めた?』

『……声震えてるのウケる。緊張してる?』


 黒く染められた黒銀スカート六機は強化スラスターの増設がされており、全体的な速度が増していた。


『バカにしてっ……フォーメーションはΙ(イオタ)っ! ハンナとシオンは前よっ!』

『『『『『了解っ!』』』』』


 好き勝手に言い合いながらも連携飛行は健在。それぞれの好み、戦法に合わせてカスタムされているにも拘わらず、敵部隊に対して一糸乱れる機動で槍を象るように整列し、突撃。


「はははっ、愚かっ!」

「死ねぃっ!」

『裏切り者の女共がっ! 味方を盾にするのかっ!』

『き、気を付けろっ、こいつら()()ヴァルキリー隊だぞ!?』


 何処かの誰かを模倣した黒い角は伊達ではないと先鋒、次鋒の機体が各方向から放たれた弾丸や砲弾を受け止める。


 両機体は特別分厚い装甲で覆われているのだろう、味方を狙った飛来物を受けに受け、それでも特段ダメージを負った様子はなかった。


『うひぃっ、大丈夫だとわかってても彼ピッピとシキ様の顔がちらつくぅっ!』

『ひゃ~っ……さ、流石にっ……怖い、ね~っ』


 弾丸が弾かれ、火花が散り、着弾した砲弾が爆発し、猛威を奮っていた新兵器がその真価を見せ……加速が止まり、装甲が歪みと多少の効果はあれど、盾になった二機は変わらず動き回っている。


 拡声されたパイロットの声にも大分余裕があった。


「何だとっ!?」

「た、ただの一機もっ……!?」

『兵に持たせているものでもMMMの装甲をぶち抜ける代物だというのに何て硬さだっ!』

『良いから撃ち続けろっ! 油断するな!』


 驚愕で攻撃の手が緩まったほんの一瞬。


 コンマ数秒という銃火器の速度。


 弾幕が僅かに薄くなった程度の隙。


 二機の黒いフルーゲルが同時に横移動し、背後から現れた残りの四機が真っ直ぐ飛び出す。


 一機は全身の装甲の隙間から大量の銃口を出し。


 一機は銃口の代わりに計十本にも及ぶサブアームと振動赤熱剣を構え。


 一機は特別長い狙撃銃を敵の指揮官らしい機体に向け。


 一機はどの機体よりも素早く前に出て注意を引き、更には両腕のマシンガンの火を吹かせ、新たな盾兼牽制を担当。


 どちらの兵も殲滅力や武装には然程違いはない。


 しかし、練度が違う、加速力が違う、機動性が違う。


 『あははははっ! 楽しいねぇっ!』とフェイが高笑いしながら二十人と十機を落とせば、ヴァルキリー隊も減速を掛けることなく動き回り、銃火器を撃ち続ける。


『次っ、フォーメーションΔ(デルタ)で波状攻撃っ! ミンとベロニカは前に出過ぎよ! ラニももっと連射出来ないのっ!?』

『うわやばっ、銃身がイカれたっ!?』

『ネペッタ指示が細かい!』

『ま、まだ来るっ……!?』

『キャハハハハハハ! 私達が仕掛けてきた意味をわかりなさいなぁっ!』

『……スナイパーが連射とか無茶っ……後、皆興奮するのはわかるけど、トリガーハッピーも程々にしてほしいっ……』


 ターイズ連合の巨大母艦を守っていた航空部隊は一気にその数を減らしていった。


 そんな戦場をブリッジ越し、義眼越しに見ていた四ヶ国同盟の長、魔帝、同盟軍独立遊撃部隊総隊長シキもまた黒い仮面の下で露になった口元に裂けんばかりの笑みを張り付け、満足そうに頷いている。


「殺られる前に殺るのが殺し合いだ。……わかったな?」

「ぶ、ぶひぃ……」

『……あのねぇ』

『ねー黒夜叉ー? スーちゃんつまんなーい! 早く戦いたいんだけどーっ?』


 ジョンは気圧されたように押し黙り、リュウからは溜め息混じりの通信。スカーレットは一人我が儘を言っていた。


「で、だ……可愛い可愛い所有物(女共)が活躍したからにゃ俺も出ないとなァ……?」


 これは辛抱堪らん……と。


 シキはブリッジ横のドアを開かせ、飛び下りた。


 重力のままに落ち、MFAが独特の駆動音と紫色の魔粒子を放ち始めればその速度は極端なまでに低下。やがて滞空し、真下を見下ろす。


 そこにあるのは一言で表せば白銀の苺だった。


 全長は約五百メートル、横幅は最大三百、最小五十。あまりの巨大さ故に何十キロと離れた位置からでも確認出来るだろう。


 ターイズ連合が誇る『最強』の魔導戦艦にして天空要塞。


 苺の果実部分を思わせる配列で備え付けられた百や二百じゃ利かない数の銃口が一斉にこちらを捉えたのがわかった。


「このバカデカい船体に数メートルおきの対空機関砲……? 弾も艦手もかなり必要だってぇのに豪華なことだ……!」


 そも敵を近付かせない鉄壁の武装。


 装甲も恐らく特別仕様。


 この巨体だ。並みのエンジンではない。一体、どれほどのエネルギーを必要とし、どれほどの数積んでいるのか。


 一国の全艦隊で囲んだとしても容易には墜とせまい。


 その証拠に、敵母艦周辺にゾンビ兵の姿はない。尽くが撃ち落とされている。


「クハッ」


 自身を投下後、そそくさと距離を取り始めるディルフィンを背に。


 深紫の粒を放ちながら飛ぶ黒き鬼は身の丈ほどもある黒銀の義手を広げて嗤っていた。


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