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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
280/334

第259話 続・第二次帝連戦役

また話の進まない回になってしまった……へ(×_×;)へ

じ、次回……次回こそバトル回なので……!


 遥か後世の時代まで四ヶ国同盟、ターイズ連合間の戦争が()()()ではなく、第二次帝連戦役という名で呼ばれ続けた所以は開戦時の両陣営の軍構成が理由とされている。


 前期に勃発した際、並びに休戦協定が解除された二年後の後期。前期はそもそもが同盟発足前、後期は同盟側が派遣した戦力の大半が帝国軍だった。


 そのことから正確には同盟、連合間の戦争とも言い難い。


 第二次帝連戦役後期には第三、第四の勢力までもが介入していたという眉唾な噂もある。


 帝国以外の同盟国はそれらの勢力の侵攻を恐れて自国の防衛に回っていた。あるいは軍事的、政治的理由で別々に行動していたとも。


 しかし、その詳細や当時の世界事情を事細かに知る者は存在せず。


 戦争終結後に伝わっていた事実は三つ。


 人族代表にして、大陸随一の歴史と影響力を持っていた大国イクシアを焼失させた地獄の業火、天変地異、神の雷が幾度となく戦闘空域に降り注いだこと。


 人類史上最大の戦争にして被害も死者もまともに計測出来ない『悲劇の日』。


 そんな惨劇の序章は若き女帝ルゥネ率いる帝国軍がターイズ連合艦隊に奇襲を掛けたことで始まったと云われていること。


 その影には常に魔帝シキの存在がちらついていたこと。


 女帝の伴侶でありながら魔王でもあるという稀有な立場にあった彼の男の影響力は計り知れない。学者の中には存在そのものを疑う者も居るという。


 だが、長らく、そして根強く彼の理想を是とし続けた信奉者達は口を揃えて言う。


 『悲劇の日』ではなく、『始まりの日』だと。


 世界は変革の時を迎えつつあった。


 




 ◇ ◇ ◇


「全く……この土壇場で日和見主義とは。ここまで来れば裏切りですわ。ねぇ旦那様?」


 パヴォール帝国旗艦ヴォルケニス、その艦長席で脚を組んで座っていたルゥネが呆れたように言い放つ。


「まあそう言ってやるな。それだけ『核』と新世界創造軍(ニュー・オーダー)が怖いんだろうさ。魔国から出せたのもディルフィン一隻と一個大隊程度……俺だってデカい顔は出来んよ」

「あら? 旦那様は前線に出られるおつもりなのではなくて?」


 珍しく嫌味ったらしい言い方に思わず口を噤んでしまった。


 休戦協定の期間が終了し、再び戦争の時代がやってきた。


 守るだけでは面白くないと侵攻作戦を練っていたルゥネに対し、リヴェインやナール、ちょびヒゲらは表向き賛同していたにも拘わらず、出立する帝国軍に寄越したのは艦隊や兵器。一番欲しかった人材は殆どゼロに等しい。


 同盟の四ヶ国全ての国が無駄に広大で自給自足も儘ならない領地にある。その上でイクシア消滅、『核』の脅威を聞けば誰でもビビるだろう。


 それでも、予め【以心伝心】で腹積もりを知っておきながらこいつは……と思わなくもない。


「皇帝でも魔王でもなく、魔帝を名乗り、同盟の要……何なら束ねる立場にあるお方が失明し、四肢を捥がれ、それでも尚最前線で戦おうとしているのにこの仕打ち……あんまりですっ」


 鼻息荒くぷんすか怒っているルゥネも他国の事情は理解している筈だ。


 ある程度結束させたとて、魔国には未だ前魔王(ムクロ)を求める声が蔓延っている。


 リヴェインら四天王と軍は理解し合えてもムクロを愛し、愛されていた民は違う。ルゥネの力を持ってしても純度100%の信頼は得られていない。


 その為、俺がこうして帝国軍と共に行動するのは魔国の上層部からすればある種の厄介払い……俺に対する怒りの鎮火を図る意図もあった。


「前に出るのは俺の意思だ。魔帝を名乗っておきながら戦場に出向かないってのはどうにも落ち着かないんだよ」

「落ち着かない? はっ、謙遜が過ぎます、血が滾るの間違いでしょう。そこまでの傷を負えば流石の私でも後方支援に回りますわ」


 チクチクチクチク。


 犬に甘噛みされるような妙な感じでウザいんだか可愛いんだかよくわからん。


 ていうかお前も参加はするんかい。誰がお前の片目、片胸、片腕を斬ったと思ってんだ。


 まあ以前レナに「王は後ろでふんぞり返ってりゃあ良い」みたいなこと言っといて……とは自分でも思うけども。


「くひっ……ルゥちゃん、あんまりイジメちゃうとシキ君の子供もらえないよ?」


 唐突に割り込んできた、唯一の親友にして腹心でもあるフクロウ少女ココにルゥネはうんざりしたような動きで顔を向けた。


「貴女こそ良い人は居ないんですの? その歳で?」

「えっ、あっ……だ、だって……いや待ってボクまだ十代だよ!?」

「立場を考えなさいな、子供が居てもおかしくないのですよ」

「うぐっ……」


 何とも生々しい会話に今度は俺の方がうんざりする。


 最近は何処もこればっかりだ。


 リヴェインやナールまで子は成せ子は成せと煩い。俺達くらいの子供が居るリヴェインは良いとしても、独身のナールにだけは言われたくない。


 そんな感じに黙りこくっていると、会話の内容が何だか不味い方向に舵を切り始める。


「あっ、では旦那様に抱いてもらいましょう!」

「は?」

「へ……?」

「……何でやねん」


 真っ先に反応したのが今の今まで外の艦隊を眺めていたメイなのはまだ良いとして、ついツッコミを入れてしまった。


 何をさも良い案を思い付いた風に言ってんだこいつは。


「旦那様にもレナやリヴェイン卿のご息女との婚姻話が持ち上がっていますし、悪くない話だと思いますが?」


 嫌な現実を突き付けられた。


 日本でも古来からそういったきらいがあったとはいえ、態々知り合いや友人の娘をもらおうとは到底思えない。


 ルゥネ的にはライバル的存在だとか抜かしてたからその延長線上なんだろうが……


 リヴェインに至っては娘が居たのもそうだけど、「お前結構歳上なんかい」と驚いたものだ。あの美丈夫悪魔はあれで二百歳近いらしい。まさかのジル様と同年代で言葉も出ない。


「ちょっと待ってユウ兄私その話知らないルゥネさんも詳しく教えて早く」

「こ、怖いよメイちゃん、ボクにその気はないから安心して大丈夫だから」

「何で告ってもないのに振られにゃならんのだ……」


 食い気味で言っていたメイがぐりんっと首を曲げてココの方に振り向き、「え何それ私のユウ兄に魅力がないってそう言いたいのココさん死にたい死にたいの殺すよ?」と恐らくはいつもの死人みたいな目で詰め寄っているのを横目に、ルゥネがボソッと呟く。


「失礼ですわよ旦那様、忌み嫌われるハーフにも穴はありますし、繁殖能力だって証明されています。ココも欲はあるようですしね」


 お陰でチラッとだけ俺が思ってたことが周囲にバレてしまった。


「っ……!? ちょっとっ……る、ルゥちゃんっ!?」

「ユウ兄……?」

「最っ低ね……」


 ココはバッと股を押さえて怒ってるし、メイはこてんと首を横に倒してるし、黙って索敵に集中していたアイにはシンプルに罵倒された。


「「「「「…………」」」」」

「がごー……がごー……んがっ……ふひっ、ふへへへっ、め、めんどくせーなおい……」


 さしもの帝国兵達も気まずそうに無言。横のオペレーター席で寝ているテキオが寝言を言いながら何かを揉むような仕草をしているのが何ともシュールだ。


 これから戦争をしようという連中とはとても思えない。


「しまったな……フェイかエナさんとこにでも引っ込んでりゃ良かった……」


 俺はそう返すしかなく……


 しかし、そんな空気を良くも悪くもぶち壊す出来事が起きる。


『こちら帝国諜報機関対連合部! 連合に動きあり! ヴォルケニス、聞こえるかっ!?』


 本来は通信オペレーターの担当モニターだけに映るものが何らかの設定ミスでブリッジ中央のモニターに出たらしく、俺以外の全員がバッとそちらの方に顔を向けた。


 その内容に今までの雰囲気は一気に霧散し、緊迫した空気が室内に広がる。


「っ、し、失礼しましたっ、今戻します!」

「……構いません、そのまま流しなさい」

「はっ!」


 それらしいやり取りののちに告げられたのは僥倖とも言える事実。


『只今、天空城周辺にて滞空していた連合艦隊に近付く艦影を確認! その数、約五十! ニュー・オーダーと思われる! また地上には末端兵と思われるゾンビ兵が多数出現! 現在、我々地上班は急ぎ撤退中! 連合艦隊も防衛行動に移りつつあります!』


 焦りと恐怖、緊張のせいか、声のトーンは上下が激しく、敬語も若干怪しかった。


 早ければ一時間もしない内に両軍は正面衝突するという。


 俺達が飛んでいる空域は既に旧イクシア領。こちらも早ければ一日……いや……


「急げば半日も掛かりませんわ」


 俺の疑問を感じ取ったルゥネがそう言った直後、通信してきた奴は襲撃を受けたらしく、暫くノイズと剣戟、発砲音に属性魔法による爆発、怒号がブリッジ中に響いた。


『ぐおっ!? き、貴様らっ、いつの間に……!?』

『ノロマのアンデッドなんかがっ!』

『くひゃ――ゃ……! 俺様――……ゾン……ンビでも――能……! ……! 秀な……!』

『その――……僕の能――半永……不死……る……僕達は不死身だ』


 途切れ途切れだったが、最後の会話はハッキリと聞き取れた。


 やがて静かになったことで諜報部が殺られたことを知り、ルゥネは暫し顎に手をやって黙考する。


 通信には襲撃者の声が入っていた。


 聞き間違えじゃなければ……


「またあのずっこけコンビか……ったく、何回ぶっ殺されりゃあ気が済むんだあいつらは」


 目を覚ましたテキオが面倒臭そうに俺に続く。


「……にゃろう、やっぱり逃げてやがったか」


 白仮面野郎とゾンビ早瀬の声だった。


 少し声質が違っていたが、そこそこの付き合いだ。半ば確信に近い。


 恐らくゾンビ化の影響……


 奴はゼーアロットの元に付いたらしい。


「これは好機ですわ……」


 喜色に満ちたルゥネの呟きに俺とその他慣れた連中までもが大きく頷く。


 言ってしまえば敵同士の潰し合いを待つのが最善だろう。


 しかし、艦隊を構成、指揮しているのは戦争民族で戦闘マニア戦闘狂の帝国人。仕掛けない方がおかしい。


「全艦に通達。これより全速力で戦闘空域に突入。両軍に奇襲を掛けます」

『全艦に通達! 全速前進!』

『野郎共聞いたかっ、戦争の時間だとよっ!』

『移動中に全武装の再チェックを行う! どうせ略奪するんだっ、飯と酒もありったけ出せ!』


 静かな指示とは対称的に、オペレーター達は各々嬉しそうに通信を始めた。


 連合軍……というより、『天空の民』達は通信妨害技術を持っている。


 その為、先程の遠方通信は傍受前提で強行突破的に飛ばしたもの。


 帝国の技術力ではまだ出来ないらしいが、妨害が出来るなら傍受そのものだって可能の筈。技術力で飯を食ってる連中が普段からそちら方面に力を入れてないとも思えない。奇襲は確実に悟られただろう。


 だが、それでもこの動き……


 まさに帝国に相応しく、何より()()()


 ルゥネの言う通りだ。


 血がざわついて来やがった。


 果たして何度目だろうか。


 全身が沸騰するようなこの感覚に浸るのは。


「緊急で作戦会議を開きます。旦那様はメイン戦力を集結して下さいまし」

「クハッ、正式な魔王軍大隊なら兎も角、俺達独立遊撃部隊はゴーレム乗りを入れてもたかだか数人……何処がメインだ、笑わせるっ」


 見えないが、わかる。


 ルゥネは今、俺と同じ笑みを浮かべている。


 口が裂けんばかりだ。


 嬉しいような、心踊るような……高揚感で落ち着かず、それでいて燃え滾る闘志みたいなものが溢れてくる。


 ディルフィンにはフェイらヴァルキリー隊とリュウ、スカーレット、更にはアリスとその他獣人部隊が乗っていた。


 連れてきた魔王軍の大隊からはそうだな……隊全体と中、小隊を任せられる人間を呼ぶか。


 軽く思考を巡らせた俺は笑いながらブリッジを飛び出した。


 背後からはメイが付いてきており、悲痛なトーンで話し掛けてくる。


「ユウ……兄……? お、落ち着いて? 戦争なんだよ? 殺し合いなんだよ? へ、変だよ……私の知るユウ兄はこんなことっ……」

「黙れ。下らんことを言ってないで、お前もさっさと戦闘準備に入るんだな」


 辛辣なまでに吐き捨て、返ってきた「戦争を喜んでっ、楽しんでっ……それでムクロさんにどんな顔で会おうって言うの……? 赤ちゃんにはっ……? またいっぱい人を殺すんでしょっ? 胸を張って会えるのっ……!? 何か別の方法を探そうよっ、話し合いもしないでさ!」という戯れ言を無視する。


 一時の感情で動く。


 それが人間だ。


 メイの意見は正しいが、それと同時に愚かさも含んでいる。


 突き詰めれば戦争反対派の連中の言っていること……その根本的なところは今の俺やルゥネと何ら変わらないのだ。


 求めているものも同じ。


 違うのはその方向性。


 ライ、ノア、ロベリアもそう。


 ゼーアロットも、死に損ないのクズ共もそう。


 離反したというマナミも恐らくはそう。


 俺が殺した撫子も眠っているムクロも全員同じだ。


「それでぶつかるってんなら殺すしかない。全員ぶっ殺して住み処を焼いて回れば戦争は終わるぞ、素早くな。誰もに平等で真に相応しい社会の構成……弱肉強食の理の上に正しき統治者が立つ……素晴らしい世界じゃないか……! クハッ、クハハハハハハッ!」


 あぁ……どうしようもないくらい昂る。


 身体が熱い。


 地に足が付かない。


 溶けそうで、心臓の鼓動が激しくて、笑みが止まらない。


「っ……」


 俺の返答を聞いたメイがその場に立ち尽くし、俯いた。


 これが俺の選んだ道だメイ。


 ライ達がぶっ壊し、ジル様が熱し、アリスやムクロ、レナ達が冷まし、ルゥネやフェイ、リヴェインらが固めた俺の姿だ。


 何人殺したと思ってやがる。


 今まで俺の為に散っていった奴等の為にも……


 俺が殺した撫子の為にも……


 眠りに付いたムクロやまだ立つことも出来ない子供の為にも、俺は止まれない。


 今更待ったなんて出来ないんだよ。


「クハッ……何をショックを受けているかは知らんが、最初にこの結果を望んだ奴が誰かってことくらい……妹のお前にわからないとは言わせないぞ?」


 続く言葉にメイは今度こそ膝を突き、泣き出してしまった。


 それすら無視し、俺は前に進む。


 端から見ればただの醜い八つ当たりかもしれない。


 だが、実際は違う。


 何故なら俺には責める気持ちがない。


 寧ろ有難味すら覚えているくらいだ。


 辛いことも悲しいこともあったが、それと同時に楽しいこと、嬉しいこと、生きてて良かったと思えることも沢山あった。


 人生には山と谷が必要ということを学んだ。


 俺は生きているのだという実感が今確かにある。


 何の為に生まれ、何の為に生き、何の為に召喚されたか。


 そうだ。


 俺はムクロと会う為に……ムクロとあの子を守る為に生き残ったんだ。


 全てはこの差別と争いに溢れる混沌の世界を安寧の地へと変える為に。


 だから。


 次に会ったらライとあの忌々しい女共には是非、この熱い感謝の気持ちを伝えんとな。


「クハハハッ……クハハハハハッ……!」


 皆にジル様そっくりだと言われる高笑いをしながら、俺はその時を待ち望んでいた。


頑張れば間に合うような、チェックで遅れるような……

兎に角、やっぱり年内中は更新時期が不安定になりますですはい……(;>_<;)

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