第27話 ダンジョンと襲撃
ライ達との模擬戦にも飽きてきた一週間後。
「レベル上げと狭い場所での集団戦闘訓練を兼ねてダンジョンに行くぞっ!」
グレンさんから突如そう告げられた。
対象は召喚者全員。急遽決まったことなのか、グレンさん以外の兵達は忙しなく走り回っている。
「なっ、誰がこんな奴と!」
「そうだそうだっ、『闇魔法の使い手』ってのはやべぇ奴なんだろ!?」
全員と聞き、煩いのが早速キャンキャン吠え始めた。
朝から元気だなこいつら……
「いや、コクドーには商人のショー=アキナとパーティを組んでもらう予定だ」
あからさまに嫌がっていた俺を見てか、グレンさんは冷めた顔で言い放った。
二人は途端に目を丸くさせ、俺も似たような反応をしながら元サラリーマンの方を見る。
苦笑いしながら手を振っている。
リーマン服を着てないせいで何ともパッとしない。
へー……あのショウさんとねー。
商人がレベルを上げるメリットってなんだろうな。授業の内容的にステータスの伸びは良くなかった筈だけど……まあ一回くらい戦闘を経験してほしいとかレベルが1のままよりはマシだろうって判断か?
「ふんっ……」
「ペッ、それなら良いけどよ」
鼻で笑われ、唾を吐かれた。
失礼な奴等だ。
その後は移動方法やらダンジョンのある街についての説明やらダンジョンに行く経緯やらの説明を受け、ショウさんと自己紹介をし合う。
「えっと確か……黒堂君とジルさん……だったかな? よろしくっ」
勇者の支援の為にと専用の教育を受けていたというショウさんは顔や雰囲気が出す覇気の無さ故に、こっちの世界に順応しているように見えた。
失礼だけど、黒髪じゃなければその辺を歩いていても気付かなそうだ。
「……おう」
「こちらこそよろしくお願いします」
ジル様はぶっきらぼうに、俺は無難に挨拶を返す。
この人はこの人でこう見えて結構人見知りなんだよな……マジで黙ってりゃ可愛いのにぃあああああっ!? 止めて止めてそこだけはお願いします勘弁してくださいっ!
竜の尾が俺の全身に巻き付いて縛り上げ、その先端部分が俺の股間の前で力を溜めるように震え出したので涙目で許しを乞う。
心底からの焦りと謝罪の気持ちが伝わったようで、万力のような力で締め付けてきていた尻尾はシュルシュルと元の位置に戻っていった。
「チッ……」
後、舌打ちされた。
人生一のタマヒュンだった。
隣に居たライとリュウも股間を押さえて青くなっている。
「あー……ま、まあ何はともあれ、準備しよっか……?」
マナミの気まずそうな号令で解散。驚くべきことにその日中の出発となった。
聞けば貴族連中が俺達召喚者の成長が遅いと騒ぎ始めたのが事の発端だという。
そもそもの話、ダンジョンというのはゲームやフィクションのあれそのもの。
魔物が出て、罠があって、鉱石のような素材があって、宝箱があるあれだ。
別名、冒険者ホイホイ。
外より危険だけど、外より経験が積め、外より割りの良い場所。
マリー王女とグレンさんで話し合った結果、煩い政敵連中を黙らせる苦肉の策として俺達を向かわせることになったそう。
政治が絡むのであれば俺もライ達も文句は言えず、ジル様も良い経験になるだろうと快諾した。
しかし、今回ばかりは政策絡み。
馬車で大々的に王都の大通りを通る必要があるとのことで、俺とジル様二人での先行は阻止された。
前回もドラゴンが人間掴んで城から飛び去ったと王都中で騒ぎになったようで、その辺の関係でお偉方がジル様の元に土下座でお願いしに来ていた。
とまあそんな背景は兎も角として。
ライ達パーティ(+アカリ)とイケメン(笑)パーティ、そして俺とジル様とショウさんの馬車に護衛の兵、総勢百以上が一斉に動き出した。
勇者二人とマナミはアピールしなきゃいけないとかで手を振ってたっぽいが、あんまり人前に出ては不味い俺や他は荷台で待機だ。
暫くワーワー騒がしかったものの、外壁さえ抜ければ静かなもの。
とはいえ、舗装されてない道では揺れが凄い。特に平原や岩石地帯ともなればそのガタガタ具合は相当。その上、暇潰しのゲームなんかもないときた。
早々に飽きた俺は筋トレなら体幹トレーニングにもなるかと自主的にスクワットや逆立ち腕立てを始め……半日ほど経った頃だろうか。
馬車が止まった。
護衛達が騒いでいる内容を聞くに、野盗か何かに囲まれたらしい。
一瞬だが、腕を組んで寝ていたジル様と目が合った。
それだけでわかる。
『戦闘に介入する気はない、自分で何とかしろ』
言外にそう言われたのだと。
人との殺し合いはちょっと……という悩みや葛藤はたちまち消え失せ、胡座をかいて寝続けるジル様と怯えるショウさんの横で素早く装備を身に付けていく。
顔だけ外に出して周りの様子を確認する。
場所は巨蟲大森林を見た後だと森とは到底言えなさそうな程度に木々が生い茂った林道。
木々の至るところからこちらの出方を窺っている気配がする。
感知系スキルのない俺にわかるくらいだ。素人だろう。
「……コクドー殿、如何致しましょう?」
「剣聖殿は何と?」
数人の兵が俺に気付き、小声で話し掛けてきた。
グレンさんとその他役職持ちは後からの合流予定。この場で最も偉い護衛隊長も流石にジル様の意見を聞かないのは恐ろしいのだろう。兵達の顔はかなり強張っていた。
「様子見っす。ジル様は手は出さないと。ただ……俺達に舵を取らせたいようで」
軽く説明し、伝令を頼むと俺は馬車から飛び降り、ライ達の馬車に入る。
中ではアカリを含め、全員が俺と同じように武装している最中だった。
「なあライ、向こうの音を探知出来るような……音を一ヶ所に集めるような魔法は使えるか?」
いきなりの質問にライは少し考えて首を振った。
「代わりにこんなのなら」
そう言って、『風』の属性魔法を発動させ、荷台の中心に魔力の塊を浮かび上がらせる。
魔力の塊に向かって風が発生している。
どうやら魔法で空気を集めながら圧縮し続けることで音をこの場所に留めているようだった。
「遮音か」
「それと、多少なら周囲の音を拾うことも出来ると思う。声とか息遣いとかそういうのは無理だけどな」
スキル並みに便利な魔法だなと感心するのも束の間、更なる質問を飛ばす。
「じゃあ次だ。この距離……相手の強さはわかるか?」
こんな大所帯を狙うってのはつまり、よっぽどのバカかかなりの大物。
しかも簡単に気配を悟らせた素人共だ。
バカなら良いが、罠の可能性を思えば慎重過ぎて悪いことはない。
「そう……だな。《気配感知》の方はスキルのレベルが低いから何となくいっぱい居るってことくらいしかわからないけど……《魔力感知》は……うん、ヤバいのが一人居る」
「この感じ……多分、魔力量が尋常じゃないね」
「恐らくですが、シルヴィア様以外の者はライ様やご主人様、護衛を含め劣っているかと……」
《魔力感知》を持っているマナミとアカリからもそう返ってきた。
「方向は?」
「直進方向。距離は二百メートルくらいかな」
出発前の説明で見た地図を思い出す。
この先は確か……谷底だった筈。
馬車が二台並べるかどうかくらいの幅……待ち伏せか。崖の上からなら簡単に狙い撃ち出来る。
だが……それなら今俺達を囲ってる奴等は何だ?
牽制……いや、逃げ場を失くす為の手……?
どうにも合理的じゃない。
斥候にしては数が多すぎるし、呼び込みたいのなら囲む意味がない。
ライに詳しく聞けば本当に素人……雑魚ばかりだという。
本格的に敵の狙いが読めない。
「どうするユウ。僕とアカリで先行しようか?」
どう対処すべきか悩んでいると、リュウからそんな提案がくる。
未知の攻撃手段があるかもしれないから自分達が盾になって突っ込む、その後、加勢してくれないか? ということだろう。
「……ちょっと待ってくれ、考えを纏める」
周囲のが雑魚なら敢えて飛び込み、向こうの手を探るのもまた手。護衛達の強さは殆どがライ以下。存在意義は民衆や貴族への政治的アピールだ。
対して、このまま直進すれば俺達と同等かそれ以上の奴が居るという。
グレンさんや他に経験豊富な人間が居れば指示に従うが……護衛隊長ですら俺より弱いとなると、正直信用出来ない。それなら勝手に動いた方が幾分か気分がマシ。重ねて言えば護衛達でも周囲の素人相手なら余裕で制圧出来る筈だ。
となると……やっぱり俺達は強い方を相手にする必要があるか。
俺は溜め息のような息を吐くと、静かに瞑目した。
今度の敵は人間。
魔物とはまた違う壁がある。
アカリは感覚が麻痺していそうなのと、こちらの世界の住人だからまだマシかもしれないが……俺達は日本人。好き好んで人と殺しあいをしたくないのは当然としても、人を殺すことが出来るか言えば十中八九無理だろう。
かといって人生初の対人戦闘で手抜きして勝てるかと言われれば自信もなく、だからと逃げる訳にもいかない。
少なくとも召喚者の中で一番レベルが高く、戦闘経験も豊富な俺くらいは……
いや、俺が最初に殺れば皆も付いてこれる……か……?
殺人への忌避感は半端じゃない。
俺でも嫌だ。
だとしても誰かがやらなきゃいけないことだ。
一番槍さえ俺が務めれば……
そこまで考え、覚悟したところで、重苦しい口を開く。
「何かしれっと俺がリーダーみたいになってるが、方針は決まった。護衛は雑魚担当。俺達はリュウとアカリを盾に正面突破。これでいく。ライとマナミは遊撃。二人で固まって行動してくれ。俺はリュウとアカリの後に続いて突っ込む」
アカリ以外の全員が息を飲む中、反対意見や他の案がないかを訊き、意識を共有していく。
この世界の人間の平均レベルは20程度。
ステータスの数値はレベル1の状態で大体オール100で、職業にもよるが、レベルが1上がるごとにそれぞれ20程度上がるか上がらないか。
あくまで相手のレベルが平均だと仮定するならば、ステータスの殆どの数値が500前後ということになる。
多く見積もってレベル40の奴が居たとて、1000前後だ。
そこに職業やスキルの補正が掛かれば……高くても1500に届くか届かないか、くらいである。
そして、参考までに俺の現在のステータスはこんな感じだ。
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レベル:28→52
HP:843/843→1583
MP:640/640→1390
攻撃力:1699→3601
防御力:364→821
魔攻力:631→1359
魔防力:629→1358
敏捷:1524→3247
耐性:572→1235
固有スキル:【抜苦与楽】Lv2
スキル
《言語翻訳》LvEX
《身体強化》Lv4→Lv5
《感覚強化》Lv4→Lv5
《成長速度up》Lv2→Lv3
《鑑定(全)》Lv4→Lv5
《闇魔法》Lv1→lv2
《狂化》lv1→lv2
《負荷軽減》Lv6→lv7
《詐欺》Lv3→Lv5
《演技》Lv4→Lv5
《仮面》Lv5
《人心誘導》Lv3→Lv4
《並列思考》Lv3→lv4
《高速思考》Lv3→Lv4
《記憶補助》Lv2→Lv3
《集中》Lv4→Lv5
《武の心得》Lv3→Lv5
《怪力》Lv2→Lv4
《金剛》Lv2→Lv4
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ライ達はこの半分くらい。俺で不安なのは防御力程度。
何かしらのイレギュラーさえなければ余裕な筈。
「……ご主人様、私は攻撃も行って良いのでしょうか?」
リュウとライ、マナミが最終確認をする横でアカリが聞いてくる。
「どちらでも構わないが、深追いはするな。あくまで盾役、壁役がメインだ。生きてさえいれば、そして、マナミさえ生きていれば何度でも立て直しが出来る」
精神的に持つかどうかは兎も角として、な。
魔物からの殺意ですら怖いんだ。生の感情や言葉が通じん分、本気で殺しにくる人間の方が俺は怖い。
「それと……変な話だけど、怪我も出来るだけしないように。防御が間に合わないと判断すれば直ぐに盾を捨てて回避に集中するか逃げるかしろ。これは命令な。最悪、俺達は見捨てて良い」
「っ!? で、ですがっ!」
「口論をするつもりはない。主人としての命令だ、良いな?」
「っ……承知致しました」
基本的に奴隷紋の力は使いたくない。が、本当に最悪の場合は命ずる必要があるだろう。
無表情ながら不満げにしているアカリの頭をポンポンすると、近くに居た兵にこちらの行動予定を告げ、更なる伝令を走らせた。
……さて。
準備も整ったことだし、出陣……と、いきたいところだが、面倒なのが二人残っている。
あっちのパーティが戦闘に加わってくれるかはわからない。
しかし、俺達が敵と直接対決をすると聞けば大騒ぎするのも確実。
いっそのこと、何も言わずに行きたいなー……
なんて思った直後、少しずつ聞きたくもなければ話したくもない奴等の怒号が近付いてきた。
「全くっ……何でさっさと迎撃しないんだっ、僕は勇者だぞっ」
「それより稲光共だろっ、何が突撃するだっ、何様のつもりだあいつらっ!」
どうやら向こうから来てくれたらしい。
「……はぁ」
深々と溜め息を吐き、「今度はお前も手伝えよな」とライに声を掛ける。
ライは「うへぇ」と口に出してまで嫌がっていた。
だが、それも数秒のこと。
「まあしょうがないな、こんな時だし」
真面目な顔で言うなよ……てか大して話したことないのに嫌われてるとかどんだけだよあいつら。
俺はもう一度溜め息を吐いた。




