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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第6章 世界崩壊編
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第258話 第四勢力

すいません、遅れました!


「にしても魔帝たぁ大きく出たなユウちゃんよぉっ!」


 ワイワイガヤガヤざわざわと会議室全体に響くような騒がしさの中、アリスのよく通る声が俺の耳に届く。


「魔王の座を簒奪、そんでうちのルゥちゃんを正式な側室に迎え入れて皇帝の位も授与。魔国と帝国ごと合わせて魔帝……か。ボク達に秘密でそんな計画があったとはねぇ……?」

「……ココ、そんな目で見ないでくださいまし。旦那様が魔王になるのはかなり以前から決めていたことですわ。あれほど興味ない等と仰っていた皇帝の座を、まさか踏み台にして別の王を名乗るとは思いませんでしたが」


 そう続くのはフクロウ少女のココとその親友兼主兼俺の第二后妃ルゥネ。


 俺は肩を竦めるだけに留めておいた。


 場所は強襲用巨大魔導戦艦ヴォルケニスの艦内会議室。


 晴れてパヴォール帝国の象徴旗艦として登録されたこの艦には現在、全同盟国の主要メンバーが集結している。


 シャムザからは新王ナールと王妹レナ、護衛としてヘルト&アカリが。


 『海の国』からはちょびハゲとその他数名の代表達、その護衛でジル様が。


 俺達の魔国はリヴェインとケレン爺、トモヨといった四天王にショウさん。護衛はリュウとジョン、シズカ。


 帝国は先の二人以外に転生者組が何人か。


 目的は第二次帝連戦役の続行……ひいては再戦にあたっての事前情報共有及び再確認。


 基本的には既に文書や小さな会談等で何度も交わしていた内容だが、『核』の脅威については各国に所属する召喚者や転生者達がそれぞれに伝えている程度。かつ『海の国』に至っては実情のみ。要はその認識の擦り合わせが主な議題だった。


「全員が揃ったようだな。……改めて魔国、並びにパヴォール帝国代表のシキだ。魔帝を名乗らせてもらっている」


 俺が一歩前に出て軽く自己紹介をすると、それまでの喧騒は一気に鳴りを潜める。


 騒々しかったのも各国代表が挨拶やら情報交換やらに忙しかったが故。その実、アリスやレナ、ジル様からは色々とからかわれたり、小言を言われたり、文句を付けられたりと気まずかったが、一応は真面目に聞くつもりのようだった。


「今回、同盟諸国の皆に集まってもらったのは他でもない、核兵器や放射能に対する知見を深める為だ。既に異世界の知識を持つ者から多少は聞いていよう。先ずはそうだな……実際に使用が確認されたイクシアの現状について手元に資料がある筈だ。再確認ということで目を通してほしい」


 何処で何があるかわからないとはいえ、映像や写真といった生の情報は必要。その為にフェイらヴァルキリー隊に足を運んでもらい、現地の状況を事細かに纏めている。


 ルゥネが居れば俺でも視覚情報は得られる。資料の内容は頭に叩き込んであった。


「被害規模は爆心地から推定十キロ。これが元々の威力なのか、空中に含まれる魔素の影響、もしくはその他何らかの影響故かは俺達にもわからない。が、少なくともイクシアの王都は完全消滅。資料の通り、嘗て人族代表を掲げていたかの大国は巨大なクレーターに成り果てている。生存者は絶望的だろう」


 また。


 俺は続けて言った。


「以前から伝えていたように核爆弾には毒がある。一度被曝すれば回復魔法でも容易には取り除けず、ほぼ確実に死に至る毒だ。解決法は被曝直後の除染。少しでも遅れれば……資料の中に王都付近の村や街の様子についてのものもある。見てみてほしい」


 その内容は悲惨の一言に尽きる。


 昔、日本で習った通りの人々の様子。即死出来た者はまだ救いがあるとすら思える。


 川や湖は毒と灼熱の水辺となり、そこに水を求め……


 俺が資料について深掘りしなかった為か、室内は暫しの静寂に包まれた。


 そこに一つの石を投げ入れたのはシャムザの王ナール。


「一つ訊きたい。こちらの……日別の様子と書かれた方は一体どういう……? 一見被害が無さそうに見えていても実はその毒を受けている可能性がある、ということだろうか?」


 俺は大きく頷いて返答した。


「そうだ。そこに載っている村の連中はここ一ヶ月以内に苦しみながら死亡する。ほぼ確実にな」

「……正しくは史実によれば、ね」

「空気中に拡散した放射能……毒が風に乗って一帯を覆い、爆発の直接的な影響は無くても……って感じかな」

 

 トモヨ、メイが補足し、そこにココやアイ、テキオも追随する。


「原子爆弾とも言うね。ボク達が居た世界では抑止力以外に使っちゃいけない絶対兵器だよ」

「文字通り戦争にならないものね」

「その上、帝国みてぇに不毛の地になるよな確か。面倒臭ぇ以上に笑えねぇ。いつだかの悪魔の兵器(デビルウェポン)の方が可愛いくらいだぜ。何せ焼くだけだ。毒地になる訳じゃない」


 同じ日本人だからだろう。その脅威と被害、歴史を知っている連中の声はどれも真剣味を帯びていた。


 あのテキオですら苛々した様子で頭を掻きむしりながら吐き捨てている。


 そこに思わぬ指摘を入れてきたアリスもそうだ。


「そこまでの量は持ち込んでないって話だけどよ。これでもしゼーアロットの野郎……ないし、奴の勢力の人間が物をコピーして増産する系統の固有スキルを持ってたらお手上げだぜ? そこんとこはどうなん?」


 真に恐れる事態を知り、ルゥネ、ナール、リヴェインらは唸って黙り込んだ。


「仮に持ってたと仮定して……多分、向こうもその威力に驚いた筈。そうポンポン使えないんじゃない?」

「だね。誤爆でもしようものなら自軍が壊滅するし」

「それこそ相手は末端がゾンビ兵。あまり恐れ過ぎるのもどうかと思いますぞ」

「ぎ、逆に楽観的じゃないですぅ……? マジックバッグの存在を忘れちゃダメですよぉ……」


 ショウさん、リュウ、ジョンの意見にシズカが反論したことで室内の様相は瞬く間に議論一色になってしまった。


 再びワイワイガヤガヤざわざわと。


 異世界人は意味のない見解や予想を好き勝手に上げ連ねているのに対し、ルゥネら国のトップはその対応策を語っているのだから流石、視点が違う。


「そこまで威力があるのなら船が何隻か犠牲になるのを覚悟して上空からの投下……むむ、それでは空中で爆発してしまった時が怖いですわね」

「投下方法が空からとは限らないのでは? ゾンビ兵に持たせて地上から潜り込ませることは可能かと」

「……聖神教が秘匿している転移の魔法やそういった系統の固有スキルもある。問題はそれらをどう対処するか、だろう。我がシャムザはお手上げだぞ、兵器はあっても兵が少な過ぎる」

「でも被害を考えれば兵や民には結構な情報開示が必要よね? 怪しいものを見つけたからって槍でつついてたらボンッ……なんて目も当てられないわ」

「で、あるか。しかし、下の者の士気を下げる訳にも……かといって説明しない訳にもいかないとは。……如何ともし難いな」

「クハッ、なーにアホ言ってんだテメェらは。次も街の中心たぁ限らねぇだろ。威力が威力だ、末端兵の監視がねぇ街の外れ辺りで爆発させりゃあそれだけで御陀仏よ。ったく……品も面白味のありゃあしねぇ。戦争っつったら白兵戦だろうによ。なあ二番目?」


 流石というか何というか……


 特にちょびやレナ、ジル様のような発想はなかった。いずれ気付いたにしろ、この差は大きい。


 つぅかジル様の後半の絡みは何なんだ。ルゥネも煽るな、何が「あら? 何番にもなれてないお方と気が合ってしまいましたわ。おほほほっ」だ。


「あ゛ぁ゛?」

「戦りますか?」


 二人の間で火花が散っている。


 俺は溜め息混じりに待ったを掛けた。


「止せルゥネ、お前じゃ役不足だ」

自分(テメェ)の妾くらいちゃんと躾けとけやバカ弟子」

「妾ではなく第二后妃ですっ、貴女と違っていずれ子も授かる身ですわ! 貴女と違って!」


 はぁ……女って怖い。後、面倒臭い。


「「幾ら (お前)(旦那様)でもぶち殺 (すぞ)(しますわよ)?」」

「……すんませんした」


 閑話休題。


 お陰で皆に笑われてしまった。


「コホン。……ではある程度個人個人の考えが纏まったところでルゥネの力を使わせてもらう。【以心伝心】による意識の共有だ。総員、反対意見や面白くない案があってもカッカしないように」


 俺はそう切り込むと、ルゥネに目配せをし、長丁場が予想される会議の席に改めて身を引き締めた。










 ◇ ◇ ◇


 同時刻。


 大量の魔導戦艦がどこの勢力にも属していない中立国群の遥か上空に集結していた。


 その数、凡そ一個艦隊。


 大小、艦種は様々でどれもが連合製。


 しかし、船体の紋章にはまるでターイズ連合を否定するかのような✕マークが付いている。


 最も目を引くのは艦の色。


 本来は白銀に輝いている筈の艦隊は全て淡い空色に染められていた。


「お嬢、粗方集まりきったようだぜ」


 旗艦とおぼしき飛行船型の航空母艦内……そのブリッジにて、艦長席に座る少女の後ろでそう声を上げたのは副長席に着いていた緑髪の大男。


「……聞いてた数より大分多いようですが?」

「そりゃ、それだけアンタに恩義を感じてる連中が居るってこったろうさ。後、その堅苦しい口調は演説の時くらいにしときな。上に立つ人間は偉そうじゃなきゃいけねぇ」

「既に繋がっています、いつでもどうぞ」


 黒髪お下げの少女マナミは考え込むように俯いた。


 彼等は【起死回生】の力によって救われた者達の集まりである。


 四肢、内臓、喉や眼球といった器官を失い、職や故郷を追われていた者らとその家族、友人、知人……更には最強の修復&回復能力を持つマナミを『再生者』ではなく、神の使徒である『聖女』として崇め出した大衆で構成された集団。


 唯一の宗教組織である聖神教とは全く別の新宗教組織と化していた彼等の存在は当然の如く、聖神教の顰蹙を買っていた。


 だからだろう。


 彼等はマナミの連合脱退の情報、そのマナミの召集要請を知り、こうして集結した。


 してしまった。


 土産代わりにターイズ連合から一個艦隊を強奪して。


 (まさかここまでの人達が動いてたなんて……しかも幾つかの集団に声を掛けただけでこんなに……)


 マナミ自身、自分の影響力を過小評価していた。


 相応の犠牲者も出た筈。


 それなりの数の人間が連合に捕まった筈。


 にも関わらず、この艦隊である。


 マナミは僅かに深呼吸をして心を鎮めると、部下から渡されたマイクの前で口を開いた。


『これほどの数の艦を鹵獲し、戦力として持ってきてくれたこと……強く感謝します。改めまして、『再生者』のマナミです』


 暫く感謝と謝罪の意を語った後、本題に入る。


『魔国、帝国、『砂漠の国』、『海の国』の四ヶ国同盟……今は亡きイクシアと聖軍、その他小国群、『天空の民』によって結成されたターイズ連合……そして、聖神教から離反し、新たな軍事勢力として台頭したゼーアロット率いる新世界創造軍(ニュー・オーダー)……現在、世界にはこの三つの勢力が睨み合っています』


 それぞれの掲げる思想が別の方向を向いているが故に、三竦みにもならない。


 どうあっても大陸全土を戦火に晒す大戦争が始まる。


 自分はそれを止める為に立ち上がった。


 これ以上、誰も傷付いてほしくない。


 戦争、差別、怪我、病気、餓え……もう沢山だ。


 争わない道を探そう。


 マナミは静かに、されど確かな力強さと自信を感じさせる声音でそう告げた。


『私の身勝手な願いを聞き入れ、集まってくれた皆さん……今再び身勝手な願いを重ねることを許してください。私は……第四の勢力を欲しています。他のどの勢力にも味方せず、全ての人類を慈しむ精神と戦争を忌む心で以て困窮する人々を救済する組織を、軍を、国を』


 〝お願いです……私に力を貸してください〟


 続く言葉に、全艦から歓声が湧く。


「「「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」」」


 マイク越しに、装甲越しに、大気越しに声が響く。


 その様子はまさに熱狂。


 新国家の誕生に人々は酔っていた。


 見方を変えれば、『【起死回生】の加護がある限り、我等は不滅の軍隊だ』と思い込んでいる憐れな集団だが、殆どの者にその自覚は無い。


 (私の力は万能じゃない……ブリッジや頭部を破壊された時点で死人が出る。その事実から目を逸らして……いや、逸らさせて私は……)


 マナミが顔を歪めていることに気付いたのは緑髪の大男リーフのみ。


 シキの嘗ての冒険者仲間である彼は彼女の罪悪感と義憤、その葛藤や重責を感じ取ったらしい。


 元気付けるように、あるいは沸き始めた人々に便乗するように声を張り上げた。


「名前は何て言うんですかいっ、マナミ様っ!」


 気を遣ったつもりなのだろうが、敬語にすらなっていない雑な口調……そして尤もな疑問に、マナミはキョトンとする。


「あっ……組織の名前っ……? と、特に考えてなかったですけど……」


 世界を救う者。


 人々を導く者。


 『メサイア』。


 人間一人を指し示す言葉ではあるものの、事実、その力はマナミのものということで反論する間もなく決まってしまった。


「安直だけど……ま、まあ良いか」

「おうおうっ、気にすんな! ……勇者様とシキの野郎を止めるんだろ?」


 リーフはニカッと笑って見せ……直後に真剣な表情で続けた。


「アンタの甘っちょろい理想……俺ぁ嫌いじゃない。勇者様は知らねぇけどな。アイツならきっとわかってくれるさ。世界……いや、アンタらからすりゃ『異界大戦』か。そんな馬鹿げた大戦争なんざしてどうなるってんだ」

「そうで……だね」


 口調を改めて頷き、よしっと立ち上がる。


『私達の理念を知れば残った中立国だって手を貸してくれますっ、戦争の撲滅……ひいては世界を一つにする為に……! 皆で力を合わせて頑張っていきましょうっ!』


 マナミの宣誓により、その空域には再び歓声が木霊した。


土台は出来たし、これでバリバリのバトル展開に持っていける!

けど、ちょっと作者のリアルが忙しいのと初期の痛過ぎる分の修正に時間が掛かってるんで今年いっぱい遅れ続けるかもです(汗)

頑張って遅延だけに留められるよう頑張りますので何卒お許しを……( ノ;_ _)ノ

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