第257話 簒奪と崩壊
すいません、ちょっち遅れました(汗)
ちょいと後半駆け足気味かも……?
「でもまあ戦闘描写の増加、ストーリー展開を早める為には仕方ない……大体、そこを細かく出しても意味ないし……」と言い訳しておきますですはい(´・ω・`; )
「ゆ、ユウ兄っ!? 何してるのっ!!?」
「何てことをっ……ユー君っ……!」
『ヒューッ、情け容赦ないねぇっ、流石は大将だ! はっ、はははっ!』
こちらの状況に気付き、絶叫とゴーレム越しの笑い声が上がる中、俺は大切な仲間からの声掛けを無視してムクロの唇を奪う。
ムクロの身体からは既に力が抜けきりつつあった。
狙いが外れてなければ心臓を貫いた。
幾ら死の概念が存在しない不死身の身体と言っても、本質は人間と変わらない。
喋るのにも動くにも酸素が必要。
だから心臓か肺、あるいは喉や頭部のような急所を治らないようにこうして剣か何かで刺してやれば生命活動は停止する。
そしてそれは逆に……抜きさえすれば直ぐ様傷が塞がり、息を吹き返すことを意味する。
「戦争は……俺が終わらせる。戦争の起きない世界も作る。だからその間は……その間だけでも、お前はゆっくり眠っててくれ」
恐らく最後になるであろうキスを終えた俺は声を震わせながらそう誓い、意識を失ったムクロから離れた。
ムクロ本人の意思を確認せずに行動したこと……ムクロから子を奪い、子からは母親を奪ってしまったことだけが悔やまれる。
しかし、そんなことを気にしていては世界は変えられない。
俺にとってこれは必要な行為。
何より、俺はムクロにこれ以上戦争に関わってほしくなかった。
これが最善だ。俺は正しいことをした。間違ってない。
後悔と恐怖で身体までもが震えてくるのを自己暗示気味に抑え込み、辺りを見渡す。
見れば既にチェリーは事切れていた。
「はっ……!? ここは玉座の間、かっ? うっ……わ、私は一体……?」
《魅了》が解け、正気を取り戻しているリヴェインの姿も確認出来る。他の連中もだ。
俺の仲間はフェイとトカゲ以外が唖然としていて、その他は未だ状況把握すら出来ていない。
「フェイ、閃光音響弾発射。メイはこの場に居る全員を気絶させろ、今すぐにだ」
『あいよ!』
「で、でもっ……~っ、わかったよ! 後で説明してよ……ねっ!」
フェイは即答。メイは混乱しながらも従ってくれた。
シヴァトの胸部装甲の一部がカパッと口を開き、中から飛び出たミサイルのような形状の物体が床に着弾した次の瞬間、広間全体を凄まじいまでの光と音が襲い、同時にメイの固有スキルによる電撃が床を流れていく。
エナさんとトカゲはその指示を聞いて飛び跳ね、両目と両耳を塞いでおり、それぞれブーツのスラスターで浮遊している。斯く言う俺もだ。
「「「「「あばばばばばばっ!!?」」」」」
「ぐううぅっ!? 何がっ……!? いっ……ぎぎぎぎっ! こ、これしきのことぉっ……! へ、陛下は何処かっ……!? 陛下っ、陛下ぁっ!」
光が止み、音の代わりに静寂が訪れ、大半の者がバタバタと倒れていく中、たった一人リヴェインだけは我が身すら省みず……恐らくは目を瞑ってムクロを探していた。
そうして俺と俺の前で串刺しになっているムクロを見つけたらしい。
「この気配……婿殿か! っ!? へ、陛下っ!!? 何だこれはっ! 何だこの状況はっ!? おのれ動け我が身体っ! 陛下っ、陛下っ、陛下ああああぁぁっ!!!」
それは正しく咆哮。
忠義に生きる男が放つ地震を彷彿させるようなとんでもないプレッシャーは広間を支配していた俺の殺気を完全にかき消した。
奴が胸に抱く信念や覚悟、怒気がビリビリと伝わってくる。
「う、くっ……!?」
「ひきゅっ!? あだだだだっ、し、痺れる痺れりゅぅっ」
「い、いてぇっ、足がっ、ケツがっ……!」
戦闘経験の浅いメイやそもそもが大して強くないエナさん達はその『圧』にやられて腰を抜かしており、そこに残留していた電気が流れて硬直している。
『うわっ、うわあああっ、た、大将ぉっ!?』
フェイは機体制御に支障が出て城の外に落ちてしまった。
「っ、ち、忠誠心だけでっ……」
俺もまたその勢いと凄味に飲まれて床に義足を突きそうになるところを歯を食いしばって何とか堪え、逆にふわりと上昇する。
「悪いなリヴェインっ、これも全て魔国とムクロの為だっ……!」
一度跳ね返してしまえば結局はただの『圧』。
電流の影響で筋肉が収縮し、動けずにいるリヴェインの前に《空歩》と《縮地》で移動した俺は有無を言わせずにその顎を蹴り抜いた。
「ぬごぅっ!?」
顎が、頭部が跳ね上がり、確実に脳が揺れた。
揺らした。
その筈なのに。
リヴェインはやはりその場で耐えて見せた。
「き、きっ……効かっ……ぬうぅっ!! 婿殿っ、謀ったなあああぁっ!? 王位の簒奪が目的かっ! 認められぬっ! 認めぬっ! 私が否定するぞっ、婿ど――」
威勢の良い御託は並べられてもやはり動けないんだろう、相変わらず反撃はなかった。
俺は自分も持つ生物故の弱点を憐れに思いながら、スラスターを全開にして回し蹴りを見舞った。
「――それを押し通せる力があるんならチェリーみたいな奴は出てこないんだよ……まして俺のような卑怯者なんかはな……」
「がっ……あ、が……へ、陛っ……下っ…………」
二度の脳震盪により、リヴェインは今度こそ昏倒してくれた。
義眼で見る限り、生命力に変化はない。多少の流血沙汰や痣程度にはなっているだろうが、怪我という怪我は無さそうだった。
義足とはいえ、メイや俺の渾身の攻撃をものともしないタフネスは見事。
その忠義、力、プライドも。
だが、悲しいかな。どんな場面でも我を通せるような、ジル様達の頂までは至っていなかった。
ムクロは……強さは身に付けていても中身が伴ってない。
「志は立派でも反発者は出る。そして、中途半端な態度は下の者を迷わせる……だから俺は……」
「だ、だからって……」
小さく呟く俺にそう反論してきたのはメイ。
「産まれたばかりでっ……可愛い盛りの赤ちゃんと親を引き裂くのっ……?」
似た感受性……いや、女だからか。
エナさんまで続いてくる。
「そ、そうだよっ、こんなやり方っ……酷いよユー君っ」
「……犠牲無くして理想の実現は不可能だ。こうする他なかった」
漸く痺れが取れたらしいトカゲの手を引っ張って立ち上がらせ、次に二人の方に義手を伸ばしたところ、メイに裏拳で打ち払われてしまった。
「じ、じゃあっ……ムクロさんの気持ちはどうなるのっ……? これはっ……これがあの人が本当に望んだことなの!? 私、ムクロさんがユウ兄のこと本当に好きだってこと知ってるよっ! じゃなきゃ私だってっ……!」
「細事さ、そんなこと」
「っ……い、一番大切な人の気持ちが細かいっ!? そんなことっ!? ユウ兄はそれが下らないことだって言うの!?」
「ハッ、過程を重視するところは兄そっくりだな。反吐が出る」
再会して初めてメイと意見が分かれた。
玉座で眠りについたムクロを必死に指差し、今にも泣き出しそうな声で言ってくる様子を鼻で笑ってエナさんに義手の先を向ければこっちにも「いやっ、止めて!」と両手で拒絶され、流石にムッとしてしまう。
「チッ……小煩い奴等だ。共犯者が今更何をイラつくことがある?」
ランダムに撒き散らすことで殺気を当て、エナさんの身体全体を義手でがっしり掴んで覆ってやる。
「エナ……エナ・リジム。お前は俺の何だ?」
強引なまでな俺の質問に、エナさんは震えながら答えた。
「ぁっ……あ、うっ……で、でもっ……ムクロさんはお母さん……なんだよ……? 子供を愛するのに理由や理屈が必要なの……? ユー君は……二人のこと好きなんじゃないのっ……?」
心底縮み上がりながらでもそんなことが言えるのは自分の固有スキルに自信があるからだろう。
事実、俺はこのまま握り潰すことが出来ない。
思ってもないが、隠し武器で殺すことも。
傷一つ付けることも不可能だ。
「……知れたことよ。なあフェイ?」
いつの間にか戻ってきていた特機に向かって問い掛けると、ケラケラした笑い声と拳と手をぶつける音、彼女らしい返答が降ってくる。
『ははっ、アタイらこれから戦争やるんだよ!? 大事なものは遠ざけておかないとねぇっ!』
多分、根本的な感じ方が違うんだろう。
俺やルゥネ、フェイ、アリスは多少強引でも……あるいは傷付けてでも守りたい。
メイ、エナさん、後は恐らくリュウやジョン達なんかは誰も傷付けない他の方法を探したい。
合わないことには言っていてもしょうがない。
「どう喚こうが、俺の〝粘纏〟を除去出来るのは《光魔法》かそれ系の固有スキルだけだ。メイ、聡いお前ならわかってくれるよな?」
ムクロの気持ちを思って涙していたエナさんを無理やり引き寄せて頭を撫でてやりながら言う。
「っ……酷いっ……可哀想だよぉっ……」
「わかってる、よ……けど……けどこんなっ……これじゃムクロさんと赤ちゃんがっ……まだ名前だって決めてないのにっ……」
何となくだが……嘗て俺とライが魔法スキルに引っ張られたように、メイにも同じ現象が起きている気がする。
無論、使うなとは厳命してるし、使った形跡はない。
ないが、最近のこいつはやたら俺に反抗的でライに感じるような嫌な感じがほんの少しだけする。
俺達の戦闘や魔法スキルの気配に当てられて……って感じか。気になるのはそれが徐々に徐々に、誤差レベルで少しずつ強くなってきている点。
「……俺が目指すのはムクロが傷付かない平和な世界だ。俺達の子に限らず、どんな種族の子供でも笑って過ごせる国だ。俺が魔王の座につくのは必要不可欠な要素。理想を語るだけの力無き……野心無き王に世界の破壊と創造なんて出来ないさ」
無視出来ない変化ではあるが、ルゥネの力があればまだ間に合う。
リヴェインも国民達も俺の真意を知れば理解してくれる。【以心伝心】とは本来そういう能力なのだから。
「ってことでフェイ、帝国に連絡をとれ。チェックは掛けた、今すぐ来い、とな」
『あいあい~』
フェイの機体が城から少し離れた位置の塔にある通信機の方に向かっていき……俺達の会話はそれで終わった。
事が起きたのは覚えている限りの罪人の頭部を踏み潰して回っていた時だ。
メイもエナさんも涙を堪えながらムクロの血を拭いてやったり、死体を片付けたり、トカゲとその部下達はリヴェイン含めた忠誠心の厚い連中を拘束していた。
『大将大将大将っ、てぇへんだてぇへんだぁっ!』
「江戸っ子かお前は」
『大変だよ!』
「今更言い直すな、何処で覚えたんだそのフレーズ」
呆れながら返していたが、告げられた内容に耳を疑った。
『新世界創造軍がっ……ゼーアロットとかいう奴の軍隊が動き出したってさ!』
「……何だと?」
聞けばターイズ連合の艦隊が集結していたイクシアに奇襲を掛けたという。
結果はニュー・オーダーの大勝利。
ライ達特級戦力が居ないところを狙ったのか、奮戦虚しくその結果かは不明。
しかし……
「イクシアの王都が消滅した? 何だその報告はっ!?」
これだけは確かめなければならない。
『消滅ってんだから消滅さね! 消えちまったんだとっ!』
ぐらりと来た。
数歩よろめき、死体に躓いて尻餅をつく。
『ちょっ……大将っ、どうしたんだいらしくもないっ』
「ゆ、ユー君っ? 大丈夫だよ落ち着いて? あれだけ大きな街が失くなるなんてことあり得ないよ。きっと何かの誤報とかでしょっ」
フェイとエナさんが心配そうに話し掛けてきても現実感がないというか耳に入らない。
それはメイも同じようだった。
その場にぺたんと座り込み、呆然としている。
他、事情を知っている異世界人や転生者でも似たような反応をする筈。
俺達には街一つ、山や森、最悪国一つをも消すことが出来る方法に心当たりがあった。
「『核』だ……核を使いやがったんだ……め、メイっ、お前核爆弾について何処までっ……!?」
「し、知らないっ……わかんないよそんなことっ……! 日本に落とされたものなら爆心地から半径三キロくらいが殆ど全部吹き飛んだって習ったけどっ……あれは確か空中で爆発したから被害は少ない方だったとか放射能が殆ど流れたとか聞いたような……」
俺が半ば聞き流していた授業を、メイは律儀に記憶していたらしい。
いや、律儀というより、日本人なら覚えておかないといけないことだ。俺みたいなふざけた奴の方が異端か。
兎に角……ゼーアロットが地球で手に入れたものがそれらと同じ威力かどうかもわからない。
ただ……
「落ち着いて聞くのはお前らだ……俺達の予測が正しければその情報は事実……。それどころか毒を撒き散らす代物なんだ。何年、数十年……下手したら百年規模で土地が死ぬ。これは世界を揺るがす一大事だぞ……」
わなわなと震えながら伝えたが、フェイとエナさんにはピンと来ないようだった。
『そういや何かこのシヴァトにも核エンジン? があるとかって聞いたねぇ』
「あはは……それこそあり得ないことだよ。そんな兵器があるなら戦争なんて……」
と、苦笑気味に返ってくる。
俺はそんな二人を無視して立ち上がると、直ぐ様声を張り上げた。
「フェイっ、さっきの通信は取り消しだ! 帝国だけじゃないっ、全同盟国の主要メンバーを集めさせろっ、今すぐにだっ! エナっ、お前はトカゲらとここの後処理! 全力かつ全速力で取り掛かれっ! メイは来いっ!」
俺の叫び染みた声に、全員がビクっと肩を震わせる。
先程同様、普段はさん付けしている人間を呼び捨てにしてまで焦る俺を見て流石に「マジか……」みたいな空気になったようだ。
『わ、わかったよっ、場所はこの国かいっ?』
「そうだ! 続けて他の連中に演説の準備をさせる! 人員はっ!?」
『大丈夫だと思うっ、フルーゲルを使ってもっ?』
「何でも良い! 新政府の樹立と新王としての宣言くらいはしなけりゃならんっ、ルゥネには転生者共が居るからこの事実はわかるっ! 急げよっ!」
『は、はいっ!』
と、フェイは珍しく固い口調で飛び去り、エナさん達はそれまでの葛藤やとろとろした動きは何処へやらキビキビと動き出している。
一国を乗っ取るという大仕事を終えたところにこれだ。
最悪にも程があると文句を言いたくなるタイミング。
「~っ……!! ちぃっ、何でこんな時にっ……! 大切な人を刺し、仲間を蹴り倒してっ、反発してきた連中を諭してたらこれかっ!」
「に、ニュー・オーダーの主戦力がゾンビ集団なら放射能とかも関係ない……よね……? ってことは放射能を帯びたゾンビ集団が出来たってこと……? そして更に【死者蘇生】で戦力が増えて……それにそれにっ、無傷で済んだ艦があればそれも丸ごと吸収されたってことだし……や、ヤバいじゃんっ!? 五隻どころじゃないよユウ兄っ、大艦隊だよっ、全っ然可愛くないっ!!」
「だから焦ってんだろうがっ!」
何故か核について知っていたゼーアロットのことだから放射能避けくらいの対策はしている……
そう仮定すれば本当にメイの言った通りになるかもしれない。
同盟VS連合の均衡が崩れた。
世界のパワーバランス……イクシアが消滅したのなら情勢そのものも。
「目的や思想を考えればどうしたって同盟VS連合VSニュー・オーダーの構図になる……三竦みになっちまったっ……」
これは俺でも読めない。
今後の世界の動きも、連合の反応や行動、他の国々がどう動き出すのかすら。
こうして。
同盟諸国の要人達を呼び出した俺達はその日中に新政権、新王である俺の存在を発表。
力で全てを黙らせた上で俺の思想を語って時間を稼ぎ、ルゥネが来てからは【以心伝心】で俺の本意を伝えていった。
ムクロが深く広く愛されているが故に暴動が起きんばかりの反応はあれ、元は戦争反対国家。当初こそ危うい機運が高まっていたが、直ぐにその勢いは鎮火。俺のムクロへの想いや世界で起きている事実、『核』や他勢力の恐ろしさを俺の視点による考え方で理解したからこそ支持されていくのを肌で感じた。
リヴェインやケレン爺等には顔面をぶん殴られるという珍事はあったものの、二人を含めたその他の連中とも和解し、寧ろ以前よりも強い絆で結ばれたようだった。
その後、同盟国同士で何日にも及ぶ会議が開かれ、その内容、既決した方針も発信。魔国の軍事改革計画、帝国との合併、ルゥネとの正式な婚儀等々、多岐に渡った。
また、帝国、シャムザ、『海の国』等でも様々な動きがあった。
先ず帝国は元が蛮族の集まりであるが故に暴動やテロ、デモが何度も起き、何度もルゥネ自らによる虐殺と処刑が繰り返された。
シャムザでは民に住み処を捨てさせ、王都に集合命令を出しての大規模徴兵&王都防衛力の大幅強化。
『海の国』は更なる遺跡発掘注力と国としての方針の変更。具体的には「艦隊や出土したアーティファクトは貸すけど、実際に最前線で戦うのはそっちね?」みたいな動きにシフトした。
同盟諸国内でもそのようなドタバタはあったが、イクシアの現状やニュー・オーダーの動向が鮮明になっていくにつれて概ね一致団結の方向に落ち着いてくれた。
それまでに要した月日はおおよそ半年。休戦協定の期日は残り数日というところまで来ている。
急遽に急遽を重ねた対応の為、休まる時間は殆ど無かった。子供と会う時間すら無かったし、眠っているムクロの元に行くことも数回しか出来なかった。
しかしながら、最低限の準備は出来たと言って良いだろう。
先日、連合はニュー・オーダーによる被害を受けても尚、変わらず戦争継続の意思を表明した。
悲しいことだが、仕方がない。
よろしい、ならば戦争だ。
クリークだ。
受けて立つ。
と。
同盟の纏め役……そして、人類史上初の魔帝として名乗りを上げた俺はそう宣言して世界に喧嘩を吹っ掛けた。




