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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
275/334

第254話 動き出す世界と誕生

変なタイミングですが書けたので(ヾ(´・ω・`)


 半年が経った。


 漸くと言うべきか、とうとうと言うべきか……連合が動き出した。


 条約の内容はありとあらゆる戦闘、侵略、略奪行為の禁止。


 だからだろう。彼等はシャムザ、帝国、『海の国』、魔国の四ヶ国同盟と繋がりのある国に対し、圧力を掛け始めた。


 要は交易の妨害。領土は広大でも殆どが砂漠で、あるいは荒れ果てており、物資、食糧共に自給自足が不可能なシャムザと帝国は勿論として、残り二国も自国分しか賄えないと踏んでの行動。


 実際はもっと早い時期から動き出していたという情報はシキ達も得ていた。


 時期やタイミングを窺い、同時に全ての国の取引を中止させる。


 成る程、効果的だろう。条約違反ではないのだからその方面からは抗議のしようもなく、大量の国を取り込んでいる連合故に出来る策。


 しかし、本来なら慌てふためく事態をシキ達は毅然とした態度で受け止めた。


 連合の最大の誤算とシキ達の余裕の源はショウの存在。


 【等価交換】の本領は召喚者でもシキとリュウしか知り得ないものである。


 ナール、ルゥネ、リヴェイン、ケレンといった政治に強い者達は挙ってこのことを予見していた。


 嘗てショウがシャムザに残ったのはそれが最大の理由だ。


 シャムザには帝国の技術提供の一環で冷蔵庫のような魔道具を大量に配給済み。物資も食糧もショウが一年以上掛けて蓄えた。帝国の方にもそれらのやり取りの最中に同様の支援を続けていた。


 そうして彼が次にやってきたのは魔国。


 同価値の交換対象があれば帝国が生み出すアーティファクトすら創造出来てしまう為、同盟全国において生きた最高機密かつ最高秘匿情報。シキ達は影武者やらダミーの戦艦やらを用意し、猿芝居に指示書の偽造、時には部下達を騙してまで数多の移動行路を確保した後、本人には地上からゆっくり来てもらうという手をとった。


 無論、移動中もマジックバッグに物資を詰め込ませている。


 『海の国』には他と違って連合側に侵略の利点がない為、後回しである。


 魔国に到着した当初、「いやはや……ただの商人だった俺がまさかこんなことになるとはねー」等と笑っていたが、声音から疲労がありありと伝わってきたことをシキはよく覚えていた。


 冷戦状態とはいえ、戦時は戦時。今後とも無理させない範囲で頑張ってもらうことになる。


 そう申し訳なく思う一方で、いざ一国の将軍クラスの地位を得た今となっては彼の有用性が天地をひっくり返すような、それこそ過去に感じていたものとは比べ物にならないことを知り、一人震えもした。


 次に。


 所謂、兵糧攻めを物ともしない様子に焦った連合が乗り出したのは領土の拡大……引いては戦力の増強だった。


 半ば武力で支配してくる聖神教には今までのような求心力が失われている。


 その為か、前回の会合で『天空の民』の女王ロベリアが広めた思想を前面に押し出しての布教は強気に中立国を気取っていた小国達をも傾かせた。


 『海の国』は連邦制かつ少し変わった領土なので除外するとして、大陸の勢力図としてはシキ達の国は大陸の北、東、南と逆『く』の字型に治めており、反対に連合側はそれ以外の大半という形。


 勢力が強大なのは中央のイクシア&『天空の民』、西の聖都テュフォスのみ。しかし、両陣営の国数差はざっと四倍以上。国土だけで言えば帝国が一番大きいものの、人族代表を謳っているイクシアと世界を牛耳っている宗教国家はやはり膨大な人口を持つ。自ずと戦力や継戦能力の差も見えてくるというもの。


 それでも全てが全て連合に流れた訳でもないというのが複雑なもので、残りの中立国家群は手を組めば猫を噛む窮鼠くらいの戦力にはなる。なるのだが、そんな彼等が中立の立場を崩さない最大の理由は両陣営の実績だった。


 第一次、第二次と連合側は既に帝国軍単体に事実上の敗北に喫している。


 かといって、帝国は攻めに転じない。そうするほどの余裕もなく、そも持久戦に持ち込まれれば勝てる見込みがないが故に。


 その結果は中立国の大半は戦力増強、技術革新に努めているのは連合だけではないと静観を決め込んだ。両陣営どちらが勝つかわからないと公的に認めた。


 対外的、政治的、宗教的な理由や要素を抜きにしても下手なことをすれば何かと理由を付けて襲ってくる集団である。簡単に自国を差し出すのも面白くないのだろうとシキは考えていた。


 そんな彼が過ごした日々は今までに経験のない規模での軍事、政治行動で埋められている。


 魔王軍の練度を高め、帝国ら同盟国軍との連携を密にし、自身の鍛練も怠らない。


 更には同盟各国を積極的に訪問しての対外的アピール、対談、軍人への稽古等々。


 移動法は帝国の遺跡から発見され、解析完了後は正式に譲渡されたフェイの愛機『シヴァト』。当機はとある特性と核エネルギーを使ったエンジンシステムから国と国を最速で飛び回ることが出来る為、戦力としては勿論のこと、便利な足としても重宝していた。


 そうして各国の様子を見て回った結果思ったのは何とも言えない不気味さである。


 (嵐の前の静けさと言えば聞こえは良いがな。連中のその辺の賊並みの節操の無さを思えばこそ、律儀に条約を守っているのが信じられん。腹ん中で何考えてることやら……)


 とある知らせを受けて急遽魔国に舞い戻ったシキは逸る気持ちを何とか堪えながらツカツカと歩を進めていた。


 (全く……俺にとっちゃ人生レベルの大事だってぇのに立場が落ち着かせてくれやがらねぇ……これも王の苦労や責務の一部と思えば少しはマシだが……)


 ただでさえ重かったものが日を追うごとにズンッとのし掛かってくる感覚はどうにも慣れないな、と小さく嘆息する。


 動き的に見ても、連合はほぼ確実に身内のゴタゴタを片付けている。密偵の情報では魔導戦艦の総数も今まで以上にまで膨れ上がり、その上アンダーゴーレムも新型が幾つか見受けられるという。


 いよいよ戦争が始まる……


 そんな重々しい雰囲気が重鎮から民、民から民へと渡っていき、やがて大陸中の国を包み始めていたことを、シキを含めた聡い人間は敏感に察知していた。


 今の今まで姿を眩ませていたゼーアロットが『新世界創造軍(ニュー・オーダー)』を名乗って台頭し出したのも不穏かつ不安な要素の一つだろう。


 彼の大男は『天空の民』の軍の一部を持ち前の力で我が物とし、新勢力として現環境に現れた。


 その思想は神を排除し、世界に新たな秩序をもたらすというもの。


 意外にも大元の目的はロベリアや聖神教、シキと大差ない。


 世界を思い通りにしたい。


 結局はそこに収束する。


 違いは神の排除という点。


 (神殺しこそがゼーアロットの本願。しかし、表向きだけでも思想を語らなければ付いてくる者も付いてこない。『ニュー・オーダー』はその為の宗教であり、軍隊であり、国……)


 出迎えの兵や従僕達を手で制し、ただ言われた通りの部屋を一直線に目指す。


 (艦隊はたったの五隻ほどだが、【死者蘇生】で人、他種族、魔物と無差別にゾンビ軍団を生み出している為、戦力未知数……か)


 そんな頭の痛い報告を帝国で受けた時、怒りや疑問を飛び越えてルゥネらと共に呆れきったことを思い出した。


 墓やその辺から幾らでも兵を集められる能力だとすれば現勢力の中で最も()()()()集団。


 神殺しの方法はおろか、神と会う方法すら皆目検討も付かないのでは二手三手を読む以前の話である。これについてはジルやムクロ、その他エルフといった長寿種に聞いても知る者が居なかった。


 (今はまだ幾つかの中立国を襲撃してゾンビ兵(手駒)を増やす程度……既に可愛いとは言えない。アンデッド系の魔物は『聖』の属性に関する武器や魔法以外に対抗策がない。それらを独占している聖神教が動かない限り、被害は拡大し、ニュー・オーダーの戦力は増えていく一方だ。その牙がいつ俺達四ヶ国同盟に向くか……)


 シキを認識した使用人達が扉を開けてくれたので礼を言い、階段を数段飛ばしで上がり、廊下を早歩きで進む。


 (連合も味方じゃない国を襲われているから静観してるだけで傘下の国に手を出されれば黙っちゃいない。魔国や獣人族の国を滅ぼすという悲願の為に結成された組織だ。敵対=攻撃対象なり得る。……あるいは敵同士でぶつかり合ってくれれば楽なものを……)


 シキが彼等を明確な敵……いずれ殺さねばならない相手と認識しているように、ゼーアロットもロベリアら連合軍もシキの脅威を知っている。


 加減に油断、その時その時の状況と数々の要因はあれ、全員が敗北を知っているのである。


 シキはそれが何より恐ろしかった。


「負けを知った獣共が牙や爪を研いでやってくる……クハッ、面白くねぇな」


 連合軍もニュー・オーダーも芯に根差す宗教が真っ向から対立しているので共闘はあり得ない。それだけが唯一の救いだろうと思わず独り言を呟きながら笑う。 


 (最悪は同盟国への同時多発攻撃……そして、主戦場での三つ巴。さて……俺達も一枚岩じゃないしな。そろそろ()が動いてくれると事が進めやすいんだが、どうにも度し難いねぇ……)


 最愛が待つ部屋の前まで辿り着いたシキは身の内から涌き出てくる野心や黒い欲望を払うべく深呼吸すると、気持ちを切り替えるように仮面を外し、扉を開いた。











 ◇ ◇ ◇


「遅いよユウ兄! 何やってたの!?」

「シキぃ……ムクロさんを褒めてやってよぉ……僕はもうダメっ……涙が止まらないぃ……!」

「お、お兄ちゃん? 何で泣いてるの気持ち悪いよ?」


 幼馴染みの叱責とこの世界に来てからの同郷の友人の泣き言、そのお守り相手のドン引き発言等々。


 部屋に入った瞬間の出迎えにしては少々情報過多で一瞬固まる。


 つぅかこういうのは俺が最初だろうが……。


 驚き半分、怒り半分の半分、呆れがその残りと複雑な思いを抱きつつ、しかし、赤ん坊特有の煩いような癒されるような不思議な泣き声を耳にした途端、自然と足が動いた。


「人族と微妙に違う身体構造と周期でビビったけど、何とかやりきったんだし……寧ろあーしを褒めてほしいしぃ……」


 なんてほざいてる元医者の卵の派遣転生者もまるっと無視。


 メイとリュウ、スカーレット、転生者、その助手達の前を素早く横切り、ベッドに座っているムクロの元に駆け寄る。


 魔力こそ減っていない。


 が、生命エネルギーは僅かに減少していて、声は疲労困憊で弱々しい。


 何より、少し前まであれほど膨らんでいた腹がすっかり元通り近い体型に戻っていた。


「えへ……し、シキ……私、頑張ったよ……」


 あまりの苦痛に叫び続けたせいか、喉が掠れて聞き取り辛い。


 しかし、その顔が台詞通りの心情を表していることはわかる。


 ムクロの腕には俺と彼女の子が抱かれていた。


 おぎゃあおぎゃあと泣き喚く赤ん坊。


 造形しか見えないその子はとても小さく、とても儚い生命の波動を放っている。


「っ……っ……」


 言葉が出なかった。


 ここ最近、ムクロの腹を見る度にざわざわそわそわする変な感覚に襲われていたが、いざ我が子と対面するとなると何を言ってやれば良いのかわからない。


 そ、そうだ……取り敢えず労いの言葉を……!


「が、頑張っ……た、な? 一緒に居てやれなくて悪かった。出来るだけ急いだんだけど……ま、マジか……俺達、親になったんだ……まだ実感が湧かないよ……」


 酷いな……と我が事ながら思った。


 噛み噛みで、震えていて、矢継ぎ早に告げるものだから言いたいこともわからない。


 けど、ムクロは涙ぐんだような声を上げながらうんうんと頷いてくれた。


 いっそあどけなさすら覚える俺達のやり取りを「うおおおぉんっ……!」と男泣きで邪魔してくれたのはリュウ。


 涙脆い奴だとは思ってたが、まさかここまでとは。


「う、煩いぞっ……大体っ、何でお前が泣くんだよっ?」

「君が泣かないからだろっ……!? 見なよっ、君の子なんだよっ? ムクロさんが辛い思いをして必死に産んだ君の子供なんだよっ……!? 女の人って凄いなぁって思わないの……!? 見えないからわからないっ? すっごく可愛い赤ちゃんじゃないか!」


 いざそう強く返されると、声だけじゃなく身の内から震えてくる。


 生命の誕生。


 【不老不死】が無ければ死ぬ可能性だってある危険な行為……それが出産だ。


 現代日本ですら100%安全安心確実な出産は無し得ない。


 この世界の女には人によっては前線で戦えて、政治や統治能力を鍛えていて子孫をも残せる力がある。


 これは本当にとんでもないことだ。


 無論、大変なのは向こうの人間だって同じこと。現代では男同様に働き、稼ぎ、人によっては家事も洗濯も親戚付き合いも何もかも全部している奴だって居る。


 それに比べて男はどうだと情けなくなるようだった。


 悪阻もそう。ありとあらゆる行動が阻害されるのもそう。


 下手をすれば股が裂けてしまう痛みと苦しみに耐え、男には生物的に不可能な生命の創造をムクロがしていた時、俺は何をしていた?


 戦争、政治、世界情勢のことを考え、行動していた筈だ。


 一番辛い時に居てくれたムクロの為に動いておきながら、真に一緒に居てほしい時に俗事ごときに気を取られるなんて。


 情けない。


 情けない情けない情けない。


 その対比や自らの愚かしさを自覚したからだろうか。


 リュウと同じように大粒の涙が出てきた。


「ごめんっ……ごめんなっ、ムクロっ……ありがとうなっ……凄いよっ、よく頑張ったっ!」


 後悔と共に母子を抱き、謝り、褒める。


 義手を背中に回し、左手で頭をわしゃわしゃと撫で回す。


「わっ……!? も、も~っ……大袈裟だよ……私は……よ、余は……アタシ……は……? シキさんの子供なら……な、何人……で、もっ…………」


 最初こそ嬉し恥ずかしそうに笑っていたムクロは一人称がわからなくなり、それでも尚自身の思いを伝えようと心情を紡いでいたが、やがて意識を失ってしまった。


 ガクンッ……と、スイッチが切れたように崩れる身体を支えてやりながら、子供を持ち上げていた腕の下に左手を挟み込んで高さと体勢を維持させる。


「ああもうっ、体力を使いきった人に無理させんなし!! 赤ちゃんの抱き方も雑っ!」


 凄まじい怒号と恐らくは剣幕で怒られた上に赤ん坊まで取り上げられた。


「よーしよしよしっ、全くダメなパパでちゅね~っ……煩いからさっさと泣き止むんだし~っ……」

「……おい、そのあやし方は果たして正しいのか?」


 思わずツッコんでしまったが、まあ仕方ない。


 どんなに理不尽に思えても相手は医者。それも助産師をしてくれたことを思えば文句はあまり言えない。


 そんな背景もあってか、俺は現在進行形でギャン泣きしている我が子の重みが残る片手を見つめた。


 目玉はとうの昔にないというのに、何故か手を広げてまでまじまじと見てしまう。


「……? ど、どうしたのさ……?」


 完全に慣れた義手でムクロをそっと横にしてやっていると、スカーレット(十は離れている幼女)にハンカチで涙を拭ってもらっていたリュウが鼻声で訊いてくる。

 

「いや……細くてちっこくて……ものすんげぇ軽いのに……()()なぁって……」


 命の重さを感じた。


 他人のものなら軽く失くせるのに、家族のは失くし難いソレ。


 まだ会ったばかりだというのに、自分の子供だと思えば思うほど頑張らなきゃな……というやる気に満ち溢れてくる。


 それと同時に、俺は今まで一体幾つのこの子と同じ魂を喰ってきたんだろうかと虚しく、悲しくも思う。


 きっと……人にも魔物にもそいつらを大切に思っている奴が居た筈だ。


 俺が直接的に奪った殆どが防衛や成長の為と言えど、間接的なものまで入れれば如何程か。


 見て見ぬ振りをしてきて、どれくらいの命を散らしてきた?


 他にもっとやりようがあったんじゃないか?


 俺がもう少し利口で実力があれば。


 今より更に努力出来ていれば。


 心が強ければ。


 こういった思考は本来嫌いな部類。


 にも拘わらず、嬉しさやら悲しさやらで胸がいっぱいになる。


「ふええぇんっ……悔しいけど嬉しいいぃっ……ユウ兄っ、お゛め゛でどう゛~っ……!」


 普段はその距離感のせいで鬱陶しく感じる幼馴染みの声や抱擁も何故か泣けてくる。


 もう一生会えないであろう父さんや母さんのことを思えば更に涙が止まらない。


「ムクロの顔も孫の顔も……二人に……会わせてっ……や、やりたかった、なっ……」


 本当……


 何でこんなことになっちまったんだろう。


 本音を言えばライにもマナミにも会わせたかった。


 きっと、二人にも今頃子供が居て……一緒に子育て頑張ろうなって言えた年齢なのに。


 もしかしたらリュウやショウさんとも会えていて、仲良くなっていたかもしれない。


 この手を血に染めず、幸せにやっていけたかもしれない。


 だけど、今この瞬間は全て今まで俺が数多の業を背負ってきた結果だ。


 ジル様と会えたのも、こうしてムクロという掛け替えのないパートナーと愛を育み、子を得られたのも……親友の二人や親とも決別し、この世界に順応した結末だ。


 愛する人と子を血と業に染まったこの手で抱かなきゃいけないことが何より悲しい。


 撫子やそれ以前に奪ってきた命の重みを思えばこそ、歩みを止められないのが辛い。


「ぐううぅっ……ずじゅうぅっ……よ、良かったねぇっ……シキも頑張ったよっ……おめでとうっ……!!」


 リュウが盛大に鼻を啜って抱き付いてきた。


 メイも含め、感極まったらしい。


 この様子じゃ、リヴェインや他の仲間達も似たようなことになりそうだ。


 【不老不死】の絶対の魔王が子を産んだとなれば世界の動きだって加速する。


 現況最大の懸念事項である()も事を早める可能性がある。


 けど、今は……今だけはこの喜びを仲間と……家族と分かち合いたかった。


 姐さんやナール、レナにも教えてやりたい。


 ルゥネもきっと一緒に喜んでくれる。ココ達だって表面上は複雑そうな顔をしても内心は祝福してくれるだろう。


 ジル様だってぶつくさ文句を垂れながら優しい親戚のおばちゃんみたいな態度で顔を見せに来る。


 幸せだった。


 一生こういう温かいところに居たいと思った。


 だからこそ。


 世界は冷たく残酷で、時の流れは止まることを知らないと無情なまでに、無慈悲なまでに突き付けてくるんだろう。


 魔王軍四天王が一人トーレア=チェリーの反乱。


 『ターイズ連合』とゼーアロット率いる新勢力『ニュー・オーダー』の正面衝突。


 世界を揺るがすような大事件である抗争……


 その二つがこれから僅か数ヶ月の内に、更にはほぼ同時期に起きることを今の俺は知る由もなかった。


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