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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
268/334

第247話 理想

長いし、戦闘シーンがない上に単調な話が続いてすいませんすいません(ケロ○のラ○ーちゃん風)


国家間で戦争するのに何の話し合いもせず、国際法すら決めないというのは細かくて下らない部分が気になってしょうがない葉月的にどうしても許せなかったんですっ、すいませんすいませんっ( >Д<;)


 三ヵ国サミットが終わって早数日。漸く腰を落ち着かせてリュウ達と話すことが出来た。


「そう……撫子さんが……」

「戦争やってんすから死ぬのだって普通っすよ……し、死ぬの……だってっ……」

「き、きっとあの人にも事情があったんだよっ。シキさんは悪く、ないよっ」


 元々話は聞いてた筈だが、いざ俺の口から直接伝えられるのは堪えたらしく、三人の声は酷く震えていた。


 他ならない俺が手を下した。


 手違いだった。


 あいつが前に出てきた。


 そんなのは言い訳にもならない。


 目無しの俺の葛藤と苦悩をほんの少しでも嗅ぎ取ったのか、リュウ、レド、アニータの三人は俺を責めるでもなく、慰めてくれた。


 思えば三人は俺と同じくらい奴と接している時間が長い。


 知己の死はやはり辛いのだろう。


 それが普通の反応……の筈だが、まるで意に介してないのが俺達の横に一人。


「なーんだっ、なっちゃん死んじゃったんだっ? 呆気ないねー?」


 俺達よりよっぽど深く関わっていて、殴られる覚悟で告げたというに、赤髪幼女の元聖騎士スカーレットはあっけらかんとした様子で言った。


「何か……ないのか?」


 思わずそう返すと、「何かしてほしいの?」と平然とした声が戻ってくる。


「人は死ぬんだよ?」


 先日齢十に届いたばかりの子供の口から出たものとは到底思えない重みがそこにはあった。


「っ……」


 言葉に詰まる。


 リュウ達もが黙ってこちらの動向を見守っている。涙は引っ込んだらしい。


「んー……スーちゃん頭悪いからこーいうの苦手なんだけどなー……」


 何て言えば良いのかわからずに硬直しているのがわかったようで、困ったような声を上げながら近付いてきた。


 殺気がなかったからだろう。


 何の気無しに腹パンを決められ、その場に沈む。


 ドゴォンッと我が腹ながら凄い音がした。


「ぐはぁっ!?」

「ちょっ、何してんの!?」

「スーちゃんも止めるっすよ!」

「し、シキさん大丈夫っ!? スカーレットちゃんも何で急にっ……!?」

「……これで満足?」


 リュウ達は再び口を閉ざし、俺は腹を押さえての膝立ちで返す。


「う、うっ……ぐぅっ……こ、殺そうとは……?」

「え? しないよ、何で?」


 相変わらず訳がわからない。


 じゃあ何で殴った? それも結構本気で殴ったろ、肋骨が二本は折れてるぞこれ。


「ねー『黒夜叉』。レベルは上がった?」

「……は?」


 唐突な問い。


 更に硬直する。


「なっちゃんを殺した時、レベルは上がったの? 変わらなかったの?」

「…………」


 俺は暫く沈黙した後、静かに「あ、上がったけど……」と答えた。


 撫子ほどの強者だ。他種族の殺害に補正が掛かると思われるシステムのお陰か、今の俺の強さで数レベルも上がったのは魔力の残量確認時に目にしている。


「なら良かったね」


 良かった?


 何が? 何で?


 今度こそ何て言えば良いのか。


 俺はますます混乱し、「それは……どう、いう……?」と首を傾げることしか出来ない。


「だってレベルが上がったんでしょ? じゃあなっちゃんは『黒夜叉』の中で生きてるってことじゃん」


 …………。


 その考えは……なかった。


 放心してしまった。


 そうか、そういう考え方もあるのか……と。


 記憶として、経験として、生き血に等しいレベルとして、撫子は俺の中で確かに生きている。


 撫子だけじゃない。


 今まで殺してきた魔物や人間達の顔がぶわっと走馬灯のように駆け巡った。


 全部、そうだ。


 皆、俺の血肉となって……


 そこまで強い納得を得られたところではたと気付いた。


 いや、思い出した、の方が正しいか。


 リュウが聞き出したスカーレットの過去。


 聖軍の暗部……強力な上級騎士や間諜の機密育成機関出身。


 その過程で実の親殺しと兄弟同然に育った仲間との殺し合いを強要され、魔物の蔓延るダンジョンに放り込まれ、水すらない過酷な環境で死んだ仲間と殺した魔物の血肉で何とか生き延び……そのうちに気が触れてしまい、帝国人のような戦闘狂っぷりと残虐性をその身に宿しながらも今この瞬間まで生きてきた幼女。


 だから達観している。


 というより、そう思い込み、割り切らなきゃ生きてこれなかったんだろう。


 俺達なんかとは生まれも育ちも次元が違う。


 だから、リュウは憐れに思っている。


「……? なーにお兄ちゃん?」

「い、いや……何となくこうしたいな……って」


 頭を撫でたのか、肩に触れたのか。


 リュウの総魔力量が魔族の平均並みということもあって少し見え辛かった。


「えーっ? お兄ちゃんってホントろりこんだよねー」

「おおぅ……や、止めて? とんだ風評被害だよ? 今、ロン○ヌスの槍飛んできたよ? それもエ○ァのやつ」

「……いや、事実だろ」

「事実……っすよね?」

「事実でしょ気持ち悪い……」

「ジーザスッ! まさかの味方ナッシングっ!」


 よよよっ……と泣き真似を始めたリュウのお陰で重苦しい空気は途端に軽くなり、漸くまともに返せるようになった。


「この世界は弱肉強食……そのことを忘れていた。すまない……お前の大事な友人を……」


 改めて立ち上がって謝るものの、スカーレットは手を振って言う。


「んーん。『黒夜叉』は悪い人じゃないって……なっちゃん、言ってたよ。スーちゃんもね? 魔国に来てから知ったんだけど、魔族って笑うんだね? スーちゃん達みたいに泣いて笑って、お腹いっぱいになったら眠くなって……皆、おとーさんとおかーさんが居て……」


 それはある意味で言えば当然の内容。


 魔族という生物を魔物と同列に教わり、狂いながら穿った見方を植え付けられた者故の妙な台詞だった。


「昔、ね。いっぱい……いっぱい殺しちゃったんだ。人族の領内に魔族の村があるって言われて……」


 昔……何時(いつ)のことだろうか、


 何年前で、今よりどれくらい若い時の話だろうか。


 今だって十二分に若いというのに。


「魔族だけじゃないよ? 人だって大勢殺してきた。獣人族も奴隷も。きっと皆おんなじなのにね。……スーちゃんのお手々はいつだって赤いんだ。今もね、真っ赤っか。血の臭いが頭から離れないし、手からは肉と骨を潰す感触が離れない。何を見ても殺したくて殺したくてうずうずする……」


 所詮はこいつも俺と同じか。


 義眼越しに自分の手を見つめるように俯いている子供の姿を見て……今まで背けてきた何かを直視し、敢えて止めていた正常な思考を取り戻し始めて戸惑っているらしい子供の震えた声を聞いて悲しく思った。


 ならば。


 俺は憐れむんじゃなくて、一緒に進むとしよう。


「だったら、俺達が殺してきた奴に地獄で胸を張れるようにしないとな」

「……え?」


 目を丸くしたような反応。


 続け様に言う。


「生と死の意味を作ってやるんだよ。そいつらが生きてきた意味と俺達に殺された意味……何、難しく考えるこたぁない。俺達私達はこんな強い奴等に負けたんだ、でっかい戦争で活躍した奴等なんだ、最後の最後に世界に平和をもたらしたんだ、俺達は後世の礎として死んだんだ……ってな」


 俺達の中で生きてるってのはそういうことだ。


 あいつらの死を食って消化し、血肉とし、命を背負って糧とする。


「皆、確かに生きていた。だが、ここで俺達が歩みを止めたらそいつは何の為に死んだんだ? そいつが生きた証は? そいつが生き、周囲に与えた影響は?」


 スカーレットだけでなく、リュウ達も静かに俯き、頷いていた。


「生き残った奴は進み続けなくちゃいけない。立ち止まったらそいつの死は無意味なものになる。存在意義も生まれた理由も全て」


 それこそ真の弱肉強食。


 格好良く言えば、屍を踏み越えて行く。


 だから……


 だから、俺は……。


 善行とは決して言えない……否、寧ろ悪行と断言出来るルゥネとの企みを思い出して一瞬折れそうになり、今悟った弱肉強食論が俺の背中を押して耐えさせた。


 俺達のやろうとしていることがどれだけムクロを傷付かせ、悲しませるか……


 だが……それでも。


 俺は一つ長い息を吐いて心を落ち着かせ、話題を変えた。


「殺したくて……か。戦いたくてうずうずするな、俺はっ」


 無理に声を張り上げたからか、自分でもわかるくらいトーンが上がっていた。


「……そっか。スーちゃん達、似た者同士なんだねっ」


 俺の動揺と内心を察してか知らずか、スカーレットも乗ってくれる。


「戦い方も属性も、な」

「っ……ん!」


 悲しくない訳がないよな。


 恨んでない訳がないよな。


 だというのにこのガキは……


 スカーレットは顔を軽く擦ると、元気良く頷いて見せた。


 こんな子供に気ぃ遣わせて……こんな子供にここまで辛くて苦しい思いをさせて……


 本当の強さを目の当たりにしたような気分だった。





















 それから少し経ち、連合との条約交渉の場。


 場所はイクシアの王城。


 視界がないから懐かしさはないが、実に三年振りの登城である。


 さて、本題の交渉はというと……


 当然、俺達有利に事を進められていた。


「では幾つか細かい規定を追加、ないし変更点を確認しつつ、基本は書面通りということで……何か異議のある方はいらっしゃいますかな?」

「いえ」

「ありませんわ」

「では、これにて締結……と」


 そんなやり取りを終え、特に武力を見せることなく締結と相成った。


 司会を務めるは連合、同盟のどちらにも属さない中立国の代表。


 一応、それなりの悶着はありつつも、やはりルゥネという生きる対話システムは強い。


 こちらが必ず先手先手を打ち、後手に回ることなく矛盾点や不利な条件等を追及。向こうの煽りや毒すらも跳ね返し、あるいはその悪意を周囲にばらして見せる始末。


 ま、それはぶっちゃけどうでも良いか。それより、幾つかのことが知れた。


 ライの天使化は信者達の信心深さ(笑)とやらで良い様に説明、解釈させたようで魔族化との接点を突かれることがなかったこと。


 しかし、度重なる敗北による疑心は抑えられなかったのか、連合内では暴動やテロが勃発。果ては幾つかの小国が相次いで徒党を組み、過去最大の抵抗運動を試みたこと。


 俺達が同盟を結ぶべく動いていた半年ほどを掛け、粛清という名の恐怖政治……反抗的な国の王族を浄化する等の鎮圧を終えた頃、お偉方は『再生者』マナミという人間がどれだけ連合を支えていたかを知ることになる。


 これまでの積み重ねだな。最近はライにも不信感を抱いてたようだし……


 先の戦役以来、マナミは自分に付いてくると表明したかなりの数の仲間達を連れて連合から姿を消したという。


 先述のドタバタでそちらに回す余力がなかったのか、制止が遅れ、まんまと籠の中から飛び去った訳だ。


 その結果、何が起こったかというと。


「では今後の我々の戦争について。誠に勝手ながら今より二年間……絶対の不可侵条約を締結させていただきます」


 と、連合にしては大人しめなそれまでの態度をまるで服を脱ぎ捨てるかのように一変させ、決定事項が如く身勝手なことを抜かしてきた。


 戦役から半年が余裕で過ぎており、それから二年と数えれば約三年間の休戦である。


 当初、ムクロやその他平和主義者達は「じゃあ戦争自体止めようよ、こっちは同盟組むんだよ? 先日は『海の国』も正式に加盟したんだよ?」と下から下から慎重に伝えたのだが、返答は冷たいものだった。


『ありえませんね』

「一大国としての面子というものが……あ、ありまして……」

「ただの休戦です。我等が教義を知らないとは言わせません」


 一人は傲慢に、一人はオドオドと、一人は強気。これで全員がライの女だと言うんだから笑える話だ。


 条約を結ぶに当たり、連合側は『天空の民』の女王ロベリアと連合党首兼イクシアの女王マリー、聖神教を代表して聖騎士ノア、聖軍を代表して名前も知らない上級騎士が出席している。


 対する俺達はいつもの主要メンバーであり、ここ数百年か数千年の歴史において初めて魔王が表舞台に出てきたことで後に世間は騒ぎに騒いだ。


 俺は護衛として参加した為、またライと会う羽目になるのかと思ったが、忙しいとかで来てなかったのが幸いし、問題という問題は起きず。


 とはいえ、内に秘めるべきものを隠すことのない態度は少々鼻に付いた。


 そのせいだろう。ルゥネは密かに青筋を浮かべ……というかリンク内で「カッチーン。はい私怒りましたー!」と言って自慢の手腕を発揮し始めた。


「二年あれば我々を下せると?」

「黙秘します」

「ほう……戦力の増加というよりは身内のいざこざの解決に時間が……そうですかそうですか」

「っ……」


 かつて氷や機械を思わせたノアの顔はライの影響で感情豊かなものになっていると背後のリュウから小声で教えてもらった。


 ルゥネの探りを受けた時等は目を見開いて驚き、遅れて憎々しげに睨んでいたとか。


 戦時国際法にはメリットもある。その為、この場には会話に参加してないだけで大陸全土の国の代表達が集まっている。


 事実、司会は俺達が休戦協定について話し合っている間、「お立会の皆々様! これは世界規模の決め事でありますっ。今後、この大陸で戦争や紛争が起きた場合は只今を以て締結された戦時国際条約に則っていただきます! 皆々様から異議や申し立てはありますかっ?」等と意見を求めていた。


 大陸中が注目している公式の場だ。両陣営が掲げる戦争理由を思えばこそ、俺達は勿論、向こう側も下手なことは出来ない。


 が、ルゥネだけはその能力故にとてつもない精度と速度で情報収集が可能。その上、言葉遊びによって情報を引き出し、感情を誘導し、話の流れすらも掌握した底意地の悪い女帝は適度に煽って出させた向こうの感情を周囲に伝播させて萎縮と孤立化を招き……とまあいやらしい術を見せた。


 具体的には俺達への敵意に混じる他種族への嫌悪感や蔑視、その他悪感情。更には「そうやって人を怯えさせて言うことを聞かせる……立派なお家芸ですねー」、「逆らった国は? ……あぁ、逆らう方が悪いと。今この場に居る方々も何かあれば死んでいただくと……成る程成る程?」と、連合内の小国に今まで以上の不信感を与えさせた。


 何がいやらしいって、ルゥネは一回も口を開いてないこと。


 【以心伝心】を使い、さも漏れてしまったかのように誘導質問を重ね、悪気はないよと周囲に伝える。


 司会を差し置いての意識共有空間の創造。


 当然のように様々な視線と心に晒され、これにはノアどころか他の人間までもが唸った。


 何なら「余計な悪感情を我々に抱かせる行為は止めていただきたい」という言葉を引き出したくらいだ。


「あら? 行為とは何のことでしょう? 私は一歩も動いてませんし、極自然な会話しかしてませんが……それより一つ訊きたかったのですけど、今この場に居る方は主を……神をどう思っていらっしゃるのでしょうか?」


 あまりに無理矢理な話題転換。


 普通なら突っぱねられるが、ここまで人間が集まればそりゃあ信心深くない者も出てくる。


 ノアやその他信者を除き、ロベリアを含めた『天空の民』、王族数十名に護衛の兵、騎士等々。


 人族の世界を牛耳っていると言っても過言ではない聖神教の前での不信だ。


 彼等は彼等がかつてしてきた行いや教えから見逃すことは出来ず、かといってこの場で糾弾する訳にもいかず、そも糾弾したくてもその殆どが味方か中立の立場の者ばかり。


 会談の会場は一瞬で大陸中のお偉方が集まっているとは思えないほどの喧騒に包まれた。


 狂信者共の信心深さも周囲に距離を取らせる要因。


 何故なら奴等は自分達の教えが絶対的に正しいと信じ込んでいるから。


 それまで同じ教えに生きていると思っていた味方から「いや、実はそうでもなかったり……」なんて心情が伝わってくれば怒りも湧く。


 そこから「不信か? ギロチン? 火炙り? 奴隷堕ち? どうする?」と僅かにでも殺意のようなものが漏れればもう遅い。


 聖神教の連中は少しでも自分達の意にそぐわない者は粛清するつもりなのだと、その意思を示したことになる。


 実際に恐怖政治を敷いていたことも助長し、連合への疑心から聖神教への疑心に変わり、連合内部からも似たような悪感情を向けられ始めた。


 ルゥネはそこに新たな火種を投下。


 それはロベリアの真意。


 フェイ達から傲慢気質な性格は聞いていたが……ロベリアはこんな時ですら地上人達を見下していたらしい。


 (劣等種はこれだからっ……)


 (力で従わせるのなら、より確実かつ効率的にしなさいと言った筈……猿には言葉もわかりませんか)


 (あぁ醜い醜い醜い。やはりこの世界には正しき統治者による正しき統治が必要……)


 と、まあ内容は聖神教とそう変わらない。


 強いて言えばより具体的な思想を持ち合わせていたことくらい。


 とはいえ、見下されていると知った連合各国や中立国は面白い訳がなく。


 ざわざわざわざわ。


 俺達側にはルゥネの楽しそうな感情が伝わり、半ば呆れながら「程々にしとけよ」と返すことしか出来ない。


 こうも一方的に掻き回せるなんてな。


 味方は一致団結させ、敵は瓦解させる……【以心伝心】の真価と言ったところか。


 それでも、一応はそれなりのデメリット……失敗もあった。


 ロベリアが自身の思考を周囲に漏らされていると知り、僅かに動揺した後、直ぐ様それを持論展開の演説に使い始めたこと。


 ついてはその内容。


 一つ。不老不死と同等の、永久不滅の身体を持つ自分について。


 驚くべきことにロベリアは例の金ピカアンダーゴーレムと同化にも近い状態で半融合しており、今の肉体(マテリアルボディ)は本当に仮初めのものでしかないということ。


 二つ。そのことから一生思想や政治を変えることはないという絶対の自信。


 三つ。『天空の民』が持つ先進的な新技術と統制による正しき統治及びその詳細や過去のデータ、今後の世界情勢の変化予想等々。


 それら以外にもあったが、思いの外考えられていた。


 たった数秒の間に状況を把握し、逆にこちらの力を利用。思想をばら撒いて見せたその閃きと判断は見事。ルゥネもまた感心しながらリンクを外した。


 しかし、向こうの初動が遅かったように、こちらもまた出遅れた。


 あまりに具体的な策と強い自信は強固な信憑性が付随する。


 即ち……聖神教への不信と自国の安否で揺れていた各国の天秤は一気にロベリアに傾いてしまった。


 政治に疎い俺やテキオ達ですら中立国の一部までそちらに流れたことに気が付いたほど。


「はぁ……調子に乗るからそうなる……」


 思わず溜め息を吐き、「てへぺろ☆ 私、やっちゃいましたっ」とおちゃらけたルゥネを内心で叱り付ける。


 ムクロとナール、その他こちら側の要人の殆どは痛そうにこめかみを抑えているのが義眼越しに見えた。


 まあ、だとしてもそこまで。


 俺は空に向けて炎弾を放ち、花火のように散らせることで注目を集めると、静かに口を開いた。


「失礼……条約は無事に締結され、休戦の申し出も受けると決めた。これ以上は両陣営にとって時間の無駄と知る。ロベリア女王並びにマリー・イクシア女王、聖騎士ノア殿……如何か」


 向こうも余計な混乱は避けたいのだろう、忌々しげな視線こそ感じたが、ロベリア以外の全員が素直に肯定し、引き下がっていく。


『良いパフォーマンスになると思いましたのに……』


 なんて残念がっているロベリアに背を向けてルゥネに近寄り、耳元で小さく囁く。


「ルゥネ、ロベリアと俺をリンクさせろ」

「はい? な、何をなさるおつもりで?」

「良いから。今あの女が語った思想と理想は俺が目指すものと通じる部分があった。得るものは多い」

「……私以外の方に一方的な傍受は出来ませんよ?」

「良いと言った」


 俺達の方も用は済んだ、帰ると言わんばかりに翻す中、渋々ながらロベリアの思考と繋がった感覚があった。


「…………」

『…………』


 互いの考えていることが交差し、混ざり合い、一瞬立ち止まって再び歩き出す。


 やっぱりだ。


 究極的な優生思想と極端なまでな統治論。


 敵ながら……いや、ライの女のくせに考えることが似ているとは何と皮肉な話か。


 そして、向こうも俺から俺の理想を感じ取ったらしい。


『ふっ……』


 僅かに笑われた気がした。


 伝わってくるのは驚愕に納得、同感の意。


 (その仮面の意味も知らない方とは思いませんでした。どうです? 今からでも私に仕えませんか?)


 ルゥネも聞いているのは承知しているだろうに、堂々たる態度。


 故に、見向きもせずに答える。


『またそれか。何だって長寿の連中は揃いも揃って同じことを……クハッ、それに仕えろだぁ? 逆だろ。特別なアンダーゴーレムと融合した機械生命体……人間の上位互換……新生物を自称する女王様よぉ、せめてテメェの勇者様を何とかしやがれ』


 やはり根本的にはわかり合えないらしい。


 最後は聞こえるよう鼻で笑われて俺達の密談は終わり……


 両陣営は各々複雑な思いを胸にそれぞれ自分達の領土を目指して艦を飛ばすのだった。


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