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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
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第240話 戦後

説明回を面白おかしく書ける作家さんはマジで天才だと思うんですよ、ええ……( ´・_ゝ・)


 第二次帝連戦役の()()後。


 『ターイズ連合』は壊滅的被害を出して撤退。帝国は兵を大幅に失いつつも辛勝という形で一戦が終わり、両軍は引き下がった。


 緊急で帝都に運び込まれた俺はというと回復薬と回復魔法、本場の医者による治療のお陰で命に別状はない。


 両目の完全失明、左足は膝から下、右足は太腿の半ばから下が失くなった程度で済んでいる。


 女帝であるルゥネは戦後処理に追われており、被害や犠牲者についての把握、それが終われば遺族への弔慰金の支払い手続き、魔導戦艦や兵器の改修、更には墜落した魔導戦艦を敵艦含め運搬したりとまあ忙しない様子。


 どんな内容でも一度は目を通しておきたいタチらしく、部下を引き連れて走り回る毎日のようだ。


 しかし、その合間合間に顔を見せてくれる。


 残念ながらその顔を拝むことは叶わないが、話すことは出来る。


「ですからっ、神経を接続している訳ではなくてですね旦那様っ」

「動けば何でも良いっつったろ」

「武器として使用出来てかつ円滑に、という前提があったではありませんか! 体内の魔力回路と魔導機械の回路を繋げることは可能でも、旦那様の義手のようなものは特殊過ぎてダメなんですのっ!」

「造ったのはお前だ。俺もあんなのを造れとは言ってない」

「そのあんなのではなく代わりを用意すると言ってるんですわ!」

「だから俺はあれで良いと言っている。良いからやれ。改修案に目は通したか? 義眼はアンダーゴーレムの生命エネルギーのレーダー、義足の方は要望通り、アンカークロー式で頼む。この際、重量と大きさは構わん」

「ぐぬぬぬっ、わ、わからない人ですわねぇっ……!」


 毎度口論になってしまうので、時には【以心伝心】を使って意識を共有したりもする。


 するんだが……逆に話し合いが進まない。


 ルゥネからは「まあ可能っちゃ可能だけど……」みたいな感じの思考が伝わってくるし、俺は俺で「いや出来るんならしてくれよ」と投げやり感満載の思考で話すしで喧嘩になっていた。


「だからだからっ、問題がいっぱいあるから簡単に頷けないと言ってるんですっ、はいあーんっ」

「むぐっ……俺側の問題は自分で何とかするし、技術的には可能なんだろう? 時間だって一ヶ月くらいなら待てる。手紙が出せればもっと長居出来るだろうさ」


 口の中に突っ込まれた料理をもぐもぐごっくんしてから話す。


「当初の目的だった証拠映像は手に入り、連合軍の壊滅で連合そのものの事実上の解体は確定した。後は奴等のタカ派がまた戦力を整えるまで、こちらは攻められるだけの戦力増強を図れるまで膠着状態になるんだぞ。戦う術は持つべきだろ」


 お見舞いと称してルゥネはいつもお手製の飯を持ってくるんだが、これがまた美味いのなんの。今回のは炒飯みたいな料理だな。転生者が騒ぐから帝国では態々米を仕入れているらしい。


 左手はあるし、エナさんも居るしで自分で食えるのに「私が食べさせたいんですわ!」と無理やりスプーンとかで突っ込んでくるのも許せるくらい美味い。


 唸りながらもまたあーんされたので咀嚼しながら、ついでに俺が居るベッドの横に居るらしいメイやエナさん、フェイから「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」、「あ~私の仕事がぁ……」、「あ、アタイも練習しとこうかな、料理……」と呪詛やら文句やら何やらを言われながらルゥネの主張を聞く。


「何も旦那様が前に出る必要はないでしょう? ハッキリ言って再起不能です。補助具があったところで、果たして戦えるかどうか……」


 ルゥネの根底にあるのは俺の安否だ。だからこそ相容れない。


 戦闘狂のルゥネをしても、俺はもう退役すべきだという。


 まあまともに残ってるの左腕だけだしな。そんな奴が前線用の装備が欲しいってのは傲慢に近い。


 しかし……


「魔力を可視化するこの義眼とさっき言ったアンダーゴーレムの機能が再現出来れば擬似的にだが、視界は復活する。そこまでくりゃあ後は俺の方で何とかするさ」


 眼球の代わりに入っているルゥネ特製の球体状の石を指差しながらそう返すと、ルゥネは溜め息とあーんで返事をし、メイ達が口を開いた。


「うーん……せめて回復系の固有スキル所持者が居てくれれば……」

「そう言えば帝国は昔っからそういう能力者は居ないねー。どちらかというと私やルゥネ様みたいな変わり種多め?」

「あのマナミとかいう女を拐うのはどうだい? あの女なら治せるんだろ?」


 欠損級の怪我を治すのならフェイの案が現実的だが、その他の問題がそれを理想論にする。


「……勇者を刺激したくありませんわ。仮にも旦那様をこんな目に合わせた人間……人間? ですのよ」


 ルゥネが憎々しげに呟き、腰辺りに触れてくるのを手で払い除けながら「マナミに関わることなら全力で攻撃してきそうだしなー、あいつ」と頷く。


 あの天使みたいな翼とその能力も未知数。女王の金ピカ機体もメイが本気を出して漸く退かせられたと聞いた。ライには既に負けたに等しい戦果だし、メイとテキオで下せないんなら女王だってどうにもならない。


 今の俺や帝国軍じゃ瞬殺されるのがオチだろう。


「大将と同じ鎧……MFAって言ったっけ? も装備してたらしいしねぇ」


 フェイは提案しておきながら自分で反論して頷いているようだ。


 俺の真っ暗な視界には義眼から得られる魔力反応だけが映っている。


 魔力を持たない物体は何も見えず、フェイのように魔力の少ない人間は輪郭がうっすら見える程度。


 逆にメイなんかは異常なくらい眩しい。全身に隈無く異世界人+勇者特有の濃い魔力が循環しているからか、くっきりハッキリ映っている。


 存在感が鬱陶しいし、胸や尻といった凹凸はおろか、アレがないことまで綺麗に見えていてちょっと気まずい。まあ全身がピカピカ光ってるからエロさは感じないけど。人の形をした光にしか見えないっていうか何て言うか……


 ……右目を失った時の視力低下でも思ったが、片方だけでもあるだけ大分マシだったんだとつくづく痛感する。


 あの時、どうして片足を斬り落としたくらいで集中を切らしたんだと自己嫌悪に陥ってくる始末だ。


「おほんっ……兎に角っ。良いですか旦那様? 体内の魔力を自由自在に動かせますか? 接続してないあの義手を思った通りに動かせましたか? 魔力回路の接続というのは謂わば血管と機械の管を無理やり繋げるようなものなんですの。もし仮に血流……魔力を操れたとして何処に通せばどう動き、何処を引けばどう動くとか複雑過ぎてまともに動きませんわ」


 これまで聞き流していた専門的な話に失くなった目を瞑るようにしてうんざりしつつ、軽く言い返す。


「じゃあ何でお前の義手は動かせるんだよ」

「私のは内部機構も合わせて()()()の腕ですもの。魔物の素材で造られている上、アンダーゴーレムに近い構造である旦那様のものとは使っている技術やレベルが違います。そもそも人間と機械では造りが違うでしょう?」


 ……成る程、一理ある。


 ルゥネが義手にさせる行動は元来の腕と同じ。


 だが、俺がルゥネに要求したのは『武器としても使える義手』だ。武器を持つ為の義手じゃない。


 用途が違えば造りや硬度の調整が必要になるか。


 で、武器と聞いて興奮したせいで、あんなじゃじゃ馬が生まれたと。


「練習でどうにかならんのか?」

「なるかもですが、その練習に持っていくまでの時間が足りませんわ。指摘された点や接続用に一度構造自体を見直す必要がありますし、既に一日二時間くらいしかない私の睡眠時間を削っても一ヶ月や二ヶ月で改造出来るかどうか……」


 国のトップでありながら最も高い技術力を持っているのはルゥネらしい。


 転生者の技術者なら何となく凄そうなイメージだったんだが。


「後、繰り返しになりますけど、魔力を操れない時点で余程の努力が必要ですよ?」


 チクリと言われた。


 見えないけど、ジト目で言われてる気がする。


 とはいえ、それには強気に出られる。


「いや、さっきから思ってたけどさ、魔力は操れるだろ。じゃなきゃ魔法だって使えな――」

「――はい?」

「えっ?」


 強気に被された。ついでに何故かエナさんも驚いてた。


「い、今、何て言いましたっ?」

「えっ、いや……魔力は操れるって……」


 俺に対しては常に媚びへつらっているルゥネらしからぬ反応。


 まるで「何を言ってるんだこいつは」と言外に言われているような声音である。


「…………」

「おい、無言で熱を疑うな。正気だわ」


 皿が机か何かに置かれた音が聞こえた後、ルゥネの手が俺の額に伸びてきたのでちょっとイラッとして続ける。


「逆に訊くが、魔粒子……正式名称は魔素だったか? を使うスラスターはどうやって使ってるんだ? 操れなきゃ使えないだろ」

「……スラスターやエアクラフト、アンダーゴーレムのコックピットには触れた対象から魔力を吸収する機能があります。その繋がりを意識して送り込んでいますわね」

「そーだね。後は勝手に変換されるから向きを変えて使うっていうか」

「アタイもそんな感じだよ」


 ルゥネの説明に、エナさんとフェイまでもが肯定した。


 これに声を上げたのは俺とメイ。


「は? そんなの意識しなくても、魔力や魔粒子をどう出したいとかどう使いたかをイメージすりゃ使えるが……?」

「同じく。スラスター云々はわかったけど、じゃあ魔法は? 見てる感じ、皆普通に魔力を手に集めたりしてるよね?」


 フェイは人種が違うが、意見の図としてはイクス人と異世界人に分かれている。


 この噛み合わなさ……ルゥネも疑問を覚えたらしく、「えっと……私はあまり魔法は使えないのですが……」と言いながら詠唱し、実演して見せた。


「――顕現せよ。……このように詠唱すると自動で魔力が集められて消費する感じですわ」


 俺の視界には義手を示す光が生来の腕の方を指差し、詠唱が終わったのを機に胴体の方から魔力が移動してきて腕が光り、そのまま手のひらに放出される光景が映っている。


 恐らくは『火』の属性魔法であろうその光は直ぐに消えた。


 何となく挙動というか魔力の移動の仕方が妙に感じたので、同じことを無詠唱でやってみる。


 全身に循環している魔力を左腕に集め、それをどのように使いたいか想像しながら放出。


 結果、俺の左の手のひらからは野球ボールほどの『火』の球が生成された。


「「…………」」


 同じ義眼を持つルゥネと俺はハッと見つめ合った。


 いや、実際に見つめ合えてるかどうかはわからないけど、気分的にそんな感じがした。


「魔力の伝達速度が全然違いましたわね。それに……頭の方にも僅かながら魔力が向かっていました」


 ……それは知らなかった。


 だが、ルゥネにそう見えたのなら……


「そういうことか……異世界人(俺達)や転生者は自らの意思で魔力を操れるから無詠唱で……」


 あんまりじっくりと見ることがなかったから全く気が付かなかった。


 多分、あれだ。身体の造り……構造が違うんだ。


 よくよく考えればそうだ。


 今、ルゥネは胴体の方から魔力を引っ張っていった。俺達は全身から魔力を集めるのに。


 先ずこの時点で違いがあった。


「なあルゥネ、もしかしてなんだが……こっちの人間の体内には魔核か魔力を生成する器官……内臓みたいのがあるのか?」

「……えぇ、医学には詳しくありませんので断言は出来ませんが、帝国の学問ではそう習いましたわ」


 それじゃねぇか。


 メイも全く同じ感想を抱いたらしく、「それじゃんっ!」と叫んでいる。


「いやいやいやっ、私達はないよっ? だって魔力とか魔法がない世界から来たんだもんっ」

「……そう訊くと、今度は転生者が謎だな。イクス人とイクス人(転生者)、異世界人で身体構造が別々……別の生物ってことか?」


 エナさんとフェイは付いていけず、ルゥネは何やら考え込んでしまったので人体に関する考察はここまで。以降の話題は元の位置に戻った。


「旦那様、少し解剖させてもらっても?」


 と、かなり物騒な発言で。


「……普通に嫌だが?」


 俺は若干引きながら答えた。


「ココの【応急措置】なら傷口の時間を止めることが出来ます。腕か足の丸まった部分をもう一回斬り落として血管や魔力回路の確認……出来れば胴体や頭の方も解剖したいですわね」

「いやいやいや何決まったことみたいに話してんだお前っ。怖ぇよっ、つぅか死ぬよっ。時間が止まってても皮膚と肉を切り開いて内臓や脳を見られるとか地獄かっ。何の拷問だよっ」

「…………大丈夫ですわ」

「何がっ!? そして今の間は何だっ!?」


 目玉が飛び出るかと思った。いや、ないんだけど。


「……まあ脳は半分冗談にしても他は確かめる必要があるかと」

「半分本気かよ……」


 まさかのガチトーンに震える。


 またシャムザの時みたいに身体の中を弄くり回されるのか……


「THE・絶望みたいな顔しないでくださいまし。麻薬から麻酔の生成が可能ですから」

「いや安心出来ないがっ!? 麻酔あっても肉は裂かれるんだがっ!? 転生者の死体とかあるだろっ、それで何とかっ……」

「人体解剖の研究だけなら構いませんが、旦那様に合わせた専用……唯一無二の装備を造るんですのよ? 他人や死者のもので研究するより確実ですわ」


 ぐうの音も出ない正論にガックリと項垂れる。


「マジかっ……マジかよ……マジかー……」

「「「うわぁ……」」」


 心なしかメイ達から憐れみの視線を感じた。


 ルゥネからは「もしこの仮説が事実ならあの義手との接続は可能……それどころか自在に動かすことも……となると要望にあった義足も何とか……あ、そうなれば足の方も切って中を見てみないと両足で違いがあった時困りますわね……」と恐ろしいことが聞こえてきた。


 その瞬間を想像して身震いしつつ、現実逃避紛れに話題を変える。


「そ、そう言えばこの義眼なんだけど、もう少し精度を落としたりは出来ないかっ?」


 戦争中はどうにも眩しくて直ぐに外していた背景がある。


「多分、魔力や魔粒子が散乱し過ぎて余計な情報まで拾ってたんだと思う。ルゥネは眩しくなか――」

「――あああああっ、そそそっ、それですわあぁっ!?」

 

 耳をつんざく甲高い声にキーンと来た。押さえたくても片方しか手がないせいで悶絶しながら聞き返す。

 

「な、何がそれなんだ?」

「魔力の散乱! いえっ、散布っ! あの通信障害はそういうっ……えぇ、えぇっ、そうですわそうですわっ、魔力で通信してるんだからその間に……戦闘領域に細かい魔素を散布すれば……!」


 それはもう納得がいってスッキリしたみたい反応だったが、フェイが「あれ、説明してなかったっけかい?」とボソリ。


「詳しくッ!」

「わっ!? ちょっ、わ、わかったってっ、揺らすなっ!」


 そうして始まったのは長らく謎だった戦争中の通信障害の種明かし。専門的過ぎて俺とメイはちんぷんかんぷんだったものの、ルゥネはわかるようでカルチャーショックでも受けたように震えているのが何となく見える。


「じ、じゃあ出力を上げるような改造をすれば通信自体は可能に……?」

「多分ね。でも、あんな戦争だよ? 基本が高速戦闘なんだから対処法があったところで……」

「手は幾らあっても良いんですっ! 旦那様もそう思うでしょうっ!?」

「うんっ? え、お、おう……そうだな?」


 ふんすっと鼻息荒く同意を求められたので頷いておいた。


「はー成る程……ということは報告にあった気温や気流、天候の変化にも関係があるかもしれませんわね……」


 何やら筆を走らせているような音が聞こえる。


 実際、気温に関しては俺も同じ報告をしていた。


 時期はまさに冬。帝国ではもうすぐで雪が降り始めるというのに、戦闘空域は寒くなかった。


 遥か上空。風は相変わらず強かったし、あの嵐のような雨は流石に冷たかったが、気温自体はそれほどでもなく、俺だけに限らず、他の奴等も早々に防寒具を脱いでいたと聞いてルゥネは驚いていた。


「前線に居た旦那様が義眼を外すくらいですし、妨害用の魔素散布もあって充満していた……? ……そう言えば、空気中の魔素と気温には関係があるという研究論文を何処かで読んだような……」


 ぶつぶつぶつぶつ。


 ついていけない俺達の話題は更に移り、ルゥネも時折思い出したように報告してくる。


 研究や戦力増強の為に魔国に持ち帰りたい戦艦やアンダーゴーレム、人員の取り決め。捕虜となった連合軍の残党の処分、帝国の被害、果てはシャムザとの連携に姐さん達『砂漠の海賊団』の現在にまで発展。


「へー……まあ以前も言ってたけど、『海の国』で遺跡発掘ねー……」


 今一ピンと来ないものの、一応の成果はあるようで新型の弩級魔導戦艦やアンダーゴーレムの入手に成功したらしい。


 勿論、『海の国』の領土のものなので一悶着はあったようだが、他のアーティファクトを献上したり、遺跡攻略の補助したりして何とか収めたとか。


 レナやシャムザの為とはいえ、姐さんもよくやる。……ナール達や帝国との外交以外に『砂漠の海賊団』との交流も視野に入れた方が良いかもしれないな。表向きは何処の国にも属さない空賊な訳だし、何かと自由に面倒事を頼めそうだ。


「今後は国力が安定次第、『海の国』との同盟話が浮かぶと思われますわ。既にそれを示唆する内容の封書も届いていますし……証拠映像があれば魔国は確実にこちら陣営に引っ張れるんでしょう?」

「もしダメだと言われたら強行するさ。その為の策も……ない訳じゃない」

「ふふっ、あら怖い。良いのですか? 『最愛』なのに?」


 【以心伝心】で俺の思考と覚悟を読み取ったルゥネが如何にも楽しげな声で言う。


「一番大事だからこそだ。それに……本当に不死ならやりようはある。他の連中だって今の世界情勢やその後の動きを知れば黙るだろう。だから悪いが……」

「えぇ、暫く夜伽や世継ぎの件は諦めます」

「世継ぎって……帝国は世襲制じゃないだろ、えらく自信家だな?」

「旦那様と私の子なのですから当然ですわっ!」


 まるで二人っきりのような会話に水を差すのは勿論メイ達。


「ちょっとちょっと? 今、聞き捨てならないことが聞こえたんだけど?」

「はいっ、はーいっ、私はお妾さんに立候補しまーす! ……やったっ、本格的に玉の輿に乗れそうっ。いやー……あの時の子がこんなに出世するなんてね~っ」

「物騒な話もしてたね。何さ大将、今度は国盗りかい?」


 他は兎も角、エナさんは相変わらず腹黒いな。


「何処から漏れるかわかりませんもの。口が裂けても言えませんわね。これは旦那様と私だけの秘密ですっ」


 視界の端に映る魔力の光人間が×マークを作り、周囲から残念そうな声が上がる。


 そうだ。連合の解体は俺とルゥネの予想に過ぎない。


 戦力が残ってないから向こう一年はタカ派とハト派で内乱状態になるだろうが……中心にはライが居る。『天空の民』の女王ロベリアが居る。聖騎士ノアもマナミも健在だ。


 ライが戦争を望む奴等を黙らせない限り、また戦争は起きる。


 戦争を起こさせない。そういった確固たる覚悟と意思が必要なんだ。


 しかし、ライやマナミ達にその気概は恐らくない。というより、剣を抜いてでも民衆や国に抗うという考えがない。


 そして、ロベリアやノアはその逆。侵略戦争を起こす気でいる。


 そもそもが世界征服と己が宗教観に生きている女達だ。追随する奴等も同様。


 ともなれば……今の甘さの抜けきれていない魔族達も国にとっては毒、か。


 他人事じゃないってことをわからせる為の証拠映像を見せたとして、それでも「関係ない、自分達は戦いたくない」と言うのなら……それがムクロの意思であろうと踏みにじる。


 全てはムクロを守る為……最後の最後に、ムクロに笑っていてもらう為に。


 ライ達に覚悟が必要なように、俺も相応の覚悟を持たないとな。


「フェイの話じゃ素材さえありゃあ生産プラントが何とかするんだろ? それも一年以内という驚異的なスピードで」


 何やら姦しく騒いでいる女連中に割り込む形で訊く。


「え? あ、あぁうん……それも多分だよ? アタイだって専門的な知識はないしね。けどまあ……ざっと一年もあれば戦艦もMMMもある程度揃えられるんじゃないかねぇ……地上と違って設計も技術もあるんだからさ」


 理想を言えば今のうちに攻め込んで滅亡させたいが、それは不可能に近い。その一年の間に反連合運動を掲げる国を一纏まりにし、戦力を整えることが出来れば御の字くらいだろう。


 となると……覚悟だけじゃないな。他にも色々考えておかないと……後悔してもしきれない思いというのはもう懲り懲りだ。


 どんなに遅くても三ヶ月には魔国に帰ろう。証拠映像ややり取りは他の人間に任せて同盟の話を進めつつ……俺はひたすらリハビリと自己研鑽か。


「はぁ……ムクロに会いたい……」


 俺の独り言は誰が一番に子供を作るとかどうとか恥ずかしい話題で盛り上がっているルゥネ達の喧騒に搔き消された。


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