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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
第5章 魔国編
260/334

第239話 終結

グロ注意&最後雑かも。


 再びぶつかり合う二人の戦士の心情を表すかのような暗雲の中、黄金に輝く稲妻のような何かが空を走る。


 その横を本物の稲妻が貫き、黄金の光は即座に回避運動をとった。


『ここまでやるとはっ……』


 思わずといった様子で称賛にも似た独り言を呟いた瞬間、その光……ロベリア機の背面装甲を迫ってきた雷撃が貫く。


『ぐうぅっ!? ご、誤算でしたっ……!』


 確実に当たっている。


 中の人間が感電死するほどの電流を流している。


 だというのに、ロベリア機は僅かにスピードを落とすだけで飛び続けていた。


「どうなってるの……!? 頭も胸もお腹も撃ち抜いたっ、コックピットに当たらなくたって即死出来る威力なのにっ!」


 遥か後方、自然発生した稲妻の前でそう叫ぶのはメイ。


 専用の新装備のお陰で、ロベリア機に何度も固有スキルによる雷撃を直撃させることが出来た。


 装甲は熱で変色し、塗料に至っては所々剥げている。例の魔銃を暴発させたことでバーニアと背面スラスターにもダメージを負わせた。


 しかし、墜ちる気配はない。


 かの女王は『目的は達しました。退かせてもらいます』と静かに宣言し、後退した。


 女王の後退。


 それはつまり、シキとライの元に戻るということに他ならない。


 ともなればメイには追う以外の選択肢はなく。


 急速後退を続ける帝国艦隊を背に、シキの最高速度並みのスピードで逃走している黄金の機体を追うメイもまた改造スラスター、エアクラフト、《限界超越》を駆使して超速度を実現していた。


「当たれっ!」


 両手を振り下ろし、四つの雷光を走らせる。


 空であれば覇者と化せる『最強』の(いかづち)創造能力はこの悪天候でも健在。


 新装備による包囲網は無理やり突破されたが、やはりわかり辛いだけでダメージはあるのだろう。


 追撃戦に移ってからというもの、回避運動の動きまで鈍くなっており、直撃が増えている。


 事実、たった今放たれた四つの稲妻は別方向から真っ直ぐ飛来。その全てがロベリア機に降り注ぎ、苦痛の声が上がる。


『きゃあああっ!?』


 相も変わらず悲鳴を上げるだけで飛び続けているロベリアの機体そのものに致命的なダメージは見られない。


 内部の人間か、内部機構に蓄積したものが機体の反応速度や移動速度を鈍らせ、MFAの無いメイでも当てられ、追える速度に留まらせているように見えた。


「っ……?」


 妙なのはその仕草。


 雷を受ける度に痛がるロベリア機は生きた人間のように悶絶し、四肢を痙攣させていた。


 新装備による全方位からの電撃は確かにコックピットがあると推定出来る位置を何度も貫いている。


 にも拘わらず、速度を落とすだけ。


 ダメージはあるが、中の人間は無事。機体は人間らしい動きをする。


 メイは目を細めて狙いを定めた。


『はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……! ら、ライ様っ、私っ……んぎゃぁっ!? はぁ……はーっ……うぅっ……わ、私はっ……ひぐぅっ!? い、意識がっ……〔絶機〕であるこの私がこう……もああぁっ!?』


 同時攻撃から両手を交互に突き出してのピストン攻撃へと変える。


 左手を振り下ろした瞬間に二つの稲妻が。


 反対に右手を振り下ろした瞬間にまた二つの稲妻が。


 固有スキルの使用に限界はない。


 スキル頭痛はそもそも存在せず、メイの能力には代償もない。


 ただ念じるだけで創造と放出が可能。


 本物の稲妻と同等前後の威力、速度で放てる。


 敵の残存艦隊が居る空域を抜け、やがてシキ達が戦っている空域に入る。


 その頃にはロベリア機のスラスターから白煙が上がっていた。


 直撃した数は十や二十ではまるで足りない。


 しかし、それでも尚機体を止めることなく飛行を維持している。


『は、ぁ……はぁ……はぁ……!』

「そろそろ墜ちなって!」

『ぐあぁっ……!?』


 最早、荒い息と悲鳴しか出せなくなっているらしい。


 メイは数々の状況証拠からロベリア機の頑丈さの謎に気付きつつあった。


「女王が特別硬いとか強いんじゃないっ……コックピットには当たってる……感電しないのはそもそも中に人間が居ないからっ。精神体(アストラルボディ)って言ったっけっ? ねぇそうでしょっ、側室女っ! あんたの思念そのものが機体に入ってるから何処を傷付けられても痛がるし、墜ちないっ! 違うっ!?」


 今までは遠くから一方的に蜂の巣に出来た。安全を考え、敢えて距離をとっていたメイはその答えを聞く為にロベリア機に近付き、十メートルも離れてない至近距離で電撃を放つ。


『いっ、ぎいぃっ……!? はぁっ……はぁっ……少し違い、ます……ねぇっ!』


 悲鳴と共に痺れたように首を上げたロベリア機が腕や脚部をしならせた直後、反転。


 片方の大型背面スラスターと各部位のバーニアで逆噴射を掛けて上昇し、機体の向きを変えたロベリアはオーバーヘッドの要領で右足を突き出してきた。


 急遽飛んできた巨大な鋼鉄の塊による蹴り。


 メイは加速することでそれを躱すと、二メートルほどの距離で両手を翳した。


「おっとっ……どうしたのっ? ははっ、遅いよっ!?」


 今出せる最大火力。


 八つの雷を同時に生み出し、その全てで以て本来コックピットがあるであろう胸部装甲を撃ち抜く。


『あああぁっ!?』


 とうとう他のスラスターや装甲の隙間、頭部やメインカメラからも煙が出始め、硬直。一気に飛行速度が墜ちた。


 それでも反撃は止めず。


『超、高熱っ……フォトン……ソードっ!』


 魔障壁すらも斬れるビームの剣が二つ。ロベリア機の腰から瞬時に発生し、クロスを描くようにメイを襲う。


「うわっ!? ちょっ、あっ……ぶなぁっ!?」


 ブォン、ブォンッと振られるそれは本人が言うように超高熱らしく、雨粒を次々と蒸発させ、辺りの気温を急上昇させている。


 最初のX字の振り下ろしは上昇で。その後は降下し、真横に避け、半身になり、減速を掛けて乱雑に迫る光の剣を躱したメイは「急に殺しに来たねっ……!? 私はバカ兄の妹だよっ?」と言いながら距離をとった。


『ふーっ……ふーっ……関係、ありません……ね……死者は言葉を発しま、せんっ……!!』


 それが狙いだったのか、ロベリア機が一気に加速を掛けた。


 既にメイの視界にも眩い光を放って飛び回る白い何かとシキの黒紫の光が映っている。


『ライ様っ、ライ様ぁっ! 今っ、貴方の元にっ!』

「ちぃっ、ユウ兄の邪魔だけはっ……させない!」


 超高速で飛翔する黄金の機体とその先に見えるものとよく似た光を発する少女は小競り合いを続けながらシキ達の元に向かっていた。






 ◇ ◇ ◇


 バケツをひっくり返したような土砂降りの雨と雷鳴が轟く戦場にて。


「ぐあああああああっ!!」


 悲鳴にも似た絶叫が響いていた。


 巨大な翼を羽ばたかせて空を舞うライの目に意思は感じられず、瞳の不気味な輝きに照らされた涙や雨粒すらも光っているように見える。


 羽ばたきに合わせて翼から放たれる光の雨。羽根を飛ばすようなその攻撃には《光魔法》の聖気がありありと乗せられている。


 シキにとって一発一発が致命傷になり得るもの。


「クソっ! 撫子っ、な、撫子がっ……う、くっ……~~っ……! ひ、()()()()()()っ……!」


 《直感》が死を予感するが故に友人を手に掛けてしまったことへの後悔や罪悪感が薄れ、生存本能が働く。身体が勝手に最適解の動きをしてくれる。


 が、聖気に当てられると引き起こす体調不良を防ぐべく、《闇魔法》の邪気で全身を覆っているのが悪いのか、ゼーアロットに止められた時のように意図せずして〝闇〟が強まっていく。


 上下左右に斜め、急加速、急減速、急停止とMFAが妙な駆動音を出すほどの挙動と骨が軋むような動きでそれらを躱したシキは仮面の奥の顔を盛大に歪ませた。


「ええいっ、忌々しいッ! 幼女邪神っ、聞こえていたらこれを何とかしろっ! まともに戦えねぇっ!」


 遂には装備すらも同等になったことで、あっという間に追い付かれてしまった。


 獣のような咆哮と一緒に振られる乱雑な聖剣を紅く輝く絶剣で弾き、ちゃんばらのようにぶつけ合う。


 反動で後退してもライには翼がある。スラスターがある。MFAがある。


 連合製とて、その性能はシキのものと同等かそれ以上に見えた。


 故に逃げることは敵わず、仕方なく防御と回避に転じるが、思考をじわじわと汚染していく負の感情が冷静さを奪ってくる。


「あああああっ! ああぁっ! うわあああああっ!!」


 不幸中の幸いなのはライが完全な暴走状態にあること。


 光の羽根飛ばし以外の攻撃、そのどれもが感情的過ぎて軌道が読みやすい。経験とスキルの補助ありきの予測で対応出来る。


「ちぃっ……!」


 両手で振り下ろされた聖剣を絶剣で防いだ瞬間、白く発光する翼がバサァッと大きく羽ばたかれ、剣と剣をぶつけられる距離で再び光の羽根が飛んできた。


 舌打ち一つ。両肩から魔粒子の傘を発生させて急降下し、それを躱すとそのまま降下を続けて敵母艦に近付く。


 母艦の甲板上や側には護衛として聖騎士やフルーゲル部隊の生き残りが居り、こちらの動向を窺っていた。


「俺の時より圧倒的な強化じゃないかっ、神様連中よぉっ……! ただの才能差かっ? だがこれはっ……何かしらの不正を疑うっ、ぞっ……!」


 MFAと背面スラスターに〝闇〟の魔力が独りでに乗り、更なる加速が掛かる。


「があ゛あ゛あ゛ああああぁっ!!」


 上空で吠えているライの気配は着実に追ってきている。距離も狭まってきている。


 『火』と『風』による属性魔法で手元に作り出した爆風で自分の身体を吹き飛ばすことで、降り注ぐ光の羽根を緊急回避。接近してきたライ本人にはマジックバッグマントから取り出したシン砂漠の砂と魔物の毒粉が入った袋を投げつけるが、顔面に受けてもものともしない。


 それどころか、シキ同様に翼、MFA、背面スラスターから〝光〟の魔力を放出させて加速してくる始末。


「ぎいいぃっ!」


 鬼のような形相だった。


 顔中に張り付いた雨の粒と涙を散らしながら肉薄し、聖剣を振り下ろしてくる。


 まともに躱せない。


 シキの脳が弾き出した思考は咄嗟に彼の身体を動かし、全ての滞空運動を止めさせた。


 代わりに左腕と左肩の装甲型スラスターが怪しく光り、パージ。


「ぐっ……おおぉっ!」


 敢えて剣を受けることで吹き飛ばされた直後、ライの横に浮いていた二つの装甲が爆発し、『臨界爆発』による破片がライを襲う。


「ぐぎゃああああっ!?」


 少なくともダメージはあったのか、一瞬加速が止まった。


 シキはそのうちに距離をとろうとするのだが、聖騎士達が立ち塞がり、こちらも一瞬だけ停止する。


「逃げるなっ、『黒夜叉』っ!」

「総員っ、勇者様をお助けしろ!」

「足止めくらいなら我々にもっ……!」

「邪魔をっ……するなああああぁぁっ!!」


 《咆哮》。


 近付いてきた聖騎士全員がビクンッと硬直した。


 その隙に再加速した黒い鬼は黒紫の光を残留させながら飛び回り、聖騎士達を瞬く間に寸断。悲鳴や断末魔すら上げさせることなく五人ほどを殺すと、「()ってろッ!」と付近に居たフルーゲルのコックピット目掛けて絶剣を投擲する。


『うわっ!?』


 パイロットにはギリギリのところで届かなかったらしく、胸元に突き刺さった衝撃で僅かに後退するだけで済み、その間に取り出した義手を右肩のアタッチメントに填めて上を見れば、シキを探して辺りを見渡していたライと目が合う。


 離れても尚伝わってくる怒りと悲しみの感情と殺意。


「あぁっ……? ぁっ……がっ、ぎ、がっ……ぐがっ……ア…………がああああああっ!!」


 血が滲んでいる点を見るに翼で防いだらしい。


 目眩ましにはなったようだった。


 しかし、それも僅かな時間稼ぎにしかならず、弾丸のような速度で迫ってくる。


「捕捉されたっ……ならっ!」


 ただでさえ巨大な鋼鉄の腕の関節が如意棒のように急伸し、指の代わりに鋭利な爪が取り付けられた手が先程のフルーゲルを襲う。


『ぎゃっ!?』


 貫手のように差し込まれたそれは絶剣の真上を貫通。今度こそコックピット内部まで深々と突き刺さった。


 一瞬で絶命したパイロットの短い断末魔に遅れて腕が縮み、シキの身体がフルーゲルの方へと引き寄せられる。


 ライの突撃は寸でのところで空を切った。


 そうしてメインカメラの光が失われ、力無く俯いたフルーゲルの頭部前に立ったシキは絶剣を回収して魔法鞘に納めると、それを引っ張り上げるように上昇を開始。振り子の要領で義手を揺らし、遠心力を付けていく。


 爪を無理やり広げることで内部に引っ掛けたらしい。


「おっ……もいっ……なぁっ……!」


 轟っ! とシキの背中や内腿、膝裏から脹ら脛、足裏から黒紫色の輝きが噴出する。縮んだ義手は再び伸び始め、彼の身体と機体はゆっくりと持ち上がった。


 やがて、先程通り過ぎたライがまた近付いてくるが、今度は最大限に生み出した遠心力を使ってフルーゲルの機体を投げ付ける。


 反対にシキはそれまでに蓄えることが出来た最大加速で飛び出し、伸びきった義手を収納。急速に上空に上がっていた。


「っ!」


 対するライも吠えることなく動く。


 翼の先端を丸めるように広げて減速を掛け、機体を回避、からの連続羽ばたきと〝光〟の放出により急加速。


 カクンカクンと、軌道を急激に変えて追撃を図る。


暴走(あの)状態で直角にっ……!? くっ!」


 その背後で投げたフルーゲルが敵母艦のブリッジに突っ込んでいる光景を見て目を細めたシキは視線を僅かにずらし……


 ライの目に理性の光が宿ったことを確認した。


「撫子さんっ……! 撫子さんのっ……仇っ……かかっ、かたっ……きいいいぃぃいぃッ!!!」

「わざとじゃないと言ったッ!」


 反転し、速度を落とさぬままライと打ち合う。


「ああぁっ! 撫子さんっ、撫子さんがっ……! 何で殺したっ! 何でっ……何でええぇっ!?」

「あいつが勇者を守るからだっ! 守ろうとしたからだっ! だから死んだっ、俺が殺したぁッ!」


 手甲で、爪で、義手で執念染みた剣を放ってくるライの猛攻を防ぎ、合間合間に熱した風をぶつける。が、効かない。情念だけで耐えているのかとも思ったが、シキの目はライの全身を覆う透明なバリアのようなものを捉えた。


「魔障壁だとっ!?」


 そう驚いた次の瞬間、バッと翼が展開され、羽根の一本一本に光が集まっていく。


 同時に全属性魔法を用いたありとあらゆる球、壁、矢、槍が迫る。


「ぐううぅっ……!?」


 自動(オート)で発動したシキの魔障壁が彼の魔力を凄まじい勢いで持っていき、回避運動の初動を鈍らせた。


 更には属性魔法と魔障壁の衝突で発生した爆煙がシキの視界を奪う。


 《直感》による死の予感が全身を駆け巡った。


 どう来るのかがわからなければ魔粒子や属性魔法による回避も間に合わない距離。


 せめて義手がもう少し軽ければ。


 そうは思いつつ、シキは手甲と義手で急所だけでも守ろうと行動し――


 ――バチバチバチィッ! と何処からか飛んできた稲妻が爆煙を吹き飛ばし、光の羽根を受け止めて消えていった。


「ユウ兄いぃっ!」


 遅れて聞こえてきた声で何が起こったかを察し、「っ、メイかっ! 助かったっ!」と感謝を伝えながら身を捻ると、久方ぶりに妹の声を聞いて隙を晒していたライの腹部に《狂化》を乗せた回し蹴りを叩き込む。


「ごふぅっ!?」


 赤黒いオーラに包まれた足はMFAの装甲を容易に凹ませ、ライは盛大に吐血。十メートルほど下がらせられた後、翼を展開させて停止。バサバサと羽ばたいて上昇した。


『な、何て美しく雄々しいお姿っ! あぁっ、ああああぁっ、私の勇者様っ、ライ様ぁっ!』

「ぐぅっ……また殺し切れなかったっ……! 重心が変わってっ……!?」


 靭帯が破け、肉が裂け、骨が砕ける激痛とそれほどの犠牲を払ってもトドメにならなかった結果に毒づいたシキが聞き慣れない声の主の方を見る。


 前線側に向けられた視界は黄金の人型アンダーゴーレムとそれを追っているメイの姿を捉えた。


 二つあった筈の大型背面スラスターは左側が半ばから失くなっており、光沢のあった金の塗装は一部剥げて灰色に変色している。


 姿勢制御用のバーニアすら推進力に回すことで異常な速度を維持し、接近してくる姿……人間のように両手を広げているその姿からは歓喜や崇拝にも似た感情がありありと伝わってきた。


「ロベリアっ……!? メイっ、何をしてるっ! その人は女王様だぞっ!」

「だから殺そうとしてるんでしょっ、バカ兄ッ!」


 実に数年振りの再開となる兄妹は苛立ったように叫びながら聖剣を構え、雷撃を飛ばす。


『うぐうぅっ……!? ああライ様っ、貴方の敵は私の敵っ! 例え〝文明を滅ぼした大厄災〟の姿をした者であろうとっ、私っ……私はぁっ!』


 メイの攻撃を聖剣で弾いているライの眼下では直撃を受けても直進を止めないロベリア機が。


 一直線に迫る巨大な人型機械から離れようとしたシキは右足の膝から下を掴まれてしまった。


「ぐあぁっ!? 何だっ、こいつはっ!?」


 皮膚も筋肉も筋も骨もズタボロの右足を握られて悲鳴を上げ、しかし、もう片方の腕でトドメを刺されるかと身を守ろうとした直後、『あはははっ! このまま握り潰してっ……っ!? 左腕がっ……こ、こんな時にっ……!』と何らかの故障で動かなくなったらしいことを窺わせる驚愕の声が響いた。


 それに反応したのはやはり勇者の兄妹。


「ユウ兄っ! このっ……! 今行くからっ、耐えてっ!」

「っ、よくやったロベリアっ! シキっ、これで終わらせるッ! 撫子さんの仇だっ、ここで死ねえぇっ!」


 ライの背後で走った本物の稲妻が後光のように白く輝き広がる翼を照らし、聖剣とMFAがその光を反射。一瞬、姿を消した連合の勇者は聖剣を両手で持って突っ込んできた。


 それを邪魔すべく、帝国の女勇者が擬似稲妻を幾つも飛ばすが、ライには躱され、ロベリアに当たったものはシキをも痺れさせ、どうにもならない。


「ぐぅっ……!?」

『うぎいぃっ!? ふ、ふふっ……! 防いでる訳じゃないんですよっ、痛いんですっ、確かに痺れるんですっ! 感電くらいしますよっ! あはははっ!』

「ゆ、ユウ兄っ、ユウ兄がっ……! ば、バカ兄っ、止めてっ、止めてよっ! ユウ兄が死んじゃうっ!!」


 シキの方も魔粒子の出力を強めたり、自分の足を潰していく金属製の指を抜いた絶剣で攻撃したりして抵抗しているのだが、ロベリア機の握力は凄まじく、まるで放してくれない。


 刻一刻とライが降下してくる。


 その姿は流星か彗星か。


 白と金と銀が混ざった一筋の光がシキ目掛けて降りてくる。


 今日だけで何度過去最大を変えたのか、《直感》が喧しいほどに警鐘を慣らし、変な汗や悪寒が止まらない。


「シキいいぃっ!!」

「~~~っ……!!? は、離せっ、離せ離せ離せぇっ!! 止めろっ、俺はこんなところで死ぬ訳にはっ……! ムクロっ、ルゥネっ……俺はっ……俺はああああぁっ……!」


 《咆哮》も効かない。


 《闇魔法》の〝粘纏〟や属性魔法もこの状況では意味がない。


 人に当たれば即死間違いなしの雷撃を受けても平然としている機体に閃光弾や手榴弾、対艦用のグレネードランチャーの類いが効くかどうかも怪しい。


 《狂化》で敢えて防御力を0にし、《闇魔法》の邪気を乗せた加速で離れようとしても、こんな時に限って中々千切れない。装甲型スラスターと脚甲が食い込み、逆に阻害しているようだった。


 焦燥感に駆られ、じたばたと暴れても意味がなく。


 メイの決死の攻撃も両者には効かない。


 ライとの距離も十メートルを切り、九、八、七……とコンマ数秒で近付いてくる。


 殺られる。


 そう思った次の瞬間、シキは赤熱化させていた絶剣で自らの右足を斬り落とすことで絶体絶命の危機を脱した。


「な、にっ……!?」

『嘘っ!?』


 ライがほんの数瞬まで居た空間を貫き、ロベリアが軽くなった腕と光景に驚く。


「ぐううぅっ……がああああああっ!!」


 痛みがやってくるよりも前に、返す刃で通過していく白い翼の軌跡の先に構えるように置き。


 ライは自らの速度で自ら自分の翼を斬り落とすことになった。


「い゛っ゛……ぎいいぃっ!!」


 シキよりもダメージを負ってなく、完全に理性を取り戻しつつあったが故だろう。


 四肢を失うに等しい究極の痛みに絶叫する。


 その上で。


 その衝撃で弾かれたように吹き飛ばされたシキに向かって、身体だけを捻って反転させたライが《アイテムボックス》から取り出したライフルの照準を合わせ、発砲。


 何のエネルギーも感じられない、咄嗟に放たれた弾丸は彼のセンスだけで狙い通り突き進み。


 シキの仮面に、顔面に直撃した。


「がああっ!?」


 頑丈な仮面のお陰である程度は弾けた。


 しかし、その破片か弾かれた弾丸が左目部分に入り込んだ。


 シキの唯一残っていた左側の視界は完全に閉ざされてしまった。


「ユウ兄いぃっ! このバカっ、死ねッ! 死んでユウ兄に詫びろっ!」


 右目、右手に続き、今度は両足。最後は左目をも失うことになったシキの姿に身体が悲鳴を上げる速度で迫ったメイが兄に向けて即死級の雷光を走らせる。


 片翼を捥がれた『最強』の勇者は飛ぶことも儘ならないのか、防ぐ余力もないのか、動かない。


 しかし、そんなライの前にロベリア機が盾になるべく飛び出た。


『きゃああああっ!? うっ……うぐうぅっ! ら、ライ様っ、ご無事ですかっ……!? 何とお痛わしいっ!』


 身を挺してまでの行動は意味があったようだった。


 最後の抵抗を終えたライの瞳からは不気味な光が失われていた。


 【明鏡止水】でも抑えきれない感情と激痛が思考を阻害しているらしく、自分を守ってくれたロベリア機の背面が爆発し、片腕が墜ちていくことにも気が付いていない。


「ぐっ……ああぁっ……! 目がっ……あ、足がぁっ……!?」

「~~っ……! よくもユウ兄をっ……!」


 メイが随分と小さくなったシキの身体をキャッチし、憎々しげに睨んだ頃にはロベリア機がライを抱き抱えて撤退している。


『はぁっ……はぁっ……あ、敢えて言わせてもらいますっ、覚えておきなさいっ! 対空艦手っ、フルーゲル部隊っ、何をしているのですっ!? 早く撃ち落としなさいっ!』


 三流のような捨て台詞と怒号を皮切りに、メイ達を狙った砲撃の雨がやってくる。


「うぅっ……め、メイっ、撤退だっ……ここは退けっ……!」


 健在の飛行能力と勇者らしい反射神経でそれらを躱す中、メイが悔しげに返す。


「で、でもユウ兄っ!」

「死んだらどうにもならんっ! お、俺も……はーっ……はーっ……さ、再起……不、能……だっ……」

「ユウ兄っ!?」


 緊張の糸が抜けたか、はたまた出血多量による失神か。


 シキは話している最中に意識を飛ばしてしまった。


 黒い仮面は血で濡れ、雨がそれを洗い落としていくが、左の眼球部分から漏れてくる赤黒い血が傷口を見せない。


 斬り落とした右膝からもボタボタと血が垂れている。


 他の部位もよく見れば傷だらけで、手甲やMFAの装甲も所々凹んでいた。


 撤退。


 再起不能。


 焦りが正常な思考能力を奪っていくものの、シキの判断が間違っているとも思えなかったメイは敵母艦の砲撃元に雷撃の雨を降らせると、後退を始めた。


 反撃と回避運動の為に敵母艦の方に向きながらの撤退。


 上昇すれば雷雲がどんな悪さをするかわからないので降下しつつ。


 メイは少しずつ熱を失っていくシキの身体に泣きそうになりながら敵母艦を睨んだ。


 正確に狙い落としているのに、他からの砲撃が止まない。


 だが、母艦もメイも後退しているからか、次第に射程距離から抜け、静かに雨に打たれるのみとなる。


 前線の方に目を向ける寸前、メイは敵母艦のブリッジ辺りからトカゲやエナといった暗殺部隊が次々とエアクラフトで脱出する光景を見ていた。


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